説明

画像形成装置

【課題】複数のローラの間に架設されて被記録媒体または記録材を搬送する無端ベルトを備えた画像形成装置において、前記無端ベルトに張力を与える方向に少なくとも1つの前記ローラを付勢する力を、片寄りすぎることなく適切に設定すること。
【解決手段】無端ベルト13の内周面には、左側に片寄った位置に、断面矩形の帯状のガイド18が連続的に突出するように貼着されている。また、従動ローラ12の外周面には、ガイド18が嵌合する溝部12Bが形成されている。更に、無端ベルト13の外周面の左端には補強テープ19が貼着されている。このため、無端ベルト13のガイド18が有る側(左半分)の0.1%伸び荷重はガイド18が無い側(右半分)の0.1%伸び荷重よりも大きくなる。そこで、その荷重の相違に応じて、従動ローラ12の左右両端に加わる付勢力を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に記録材による画像を形成する画像形成装置に関し、詳しくは、前記被記録媒体または前記記録材を搬送する無端ベルトを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、平行な軸を有する複数のローラの間に架設されて回転駆動されることにより、被記録媒体または記録材を搬送する無端ベルトを備えた画像形成装置が種々提案されている。例えば、各色のトナー像を個々に担持した複数の感光体ドラムに接触して回転駆動され、各感光体ドラムから前記トナー像を順次転写された後に、それらのトナー像を用紙等の被記録媒体に転写する中間転写ベルトとしての無端ベルトを備えた装置が知られている。また、各色のトナー像を個々に担持した複数の感光体ドラムに接触して回転駆動され、各感光体ドラムとのニップ部を順次通って用紙を搬送することで、その用紙に各色のトナー像を重ねて転写する転写搬送ベルトとしての無端ベルトを備えた装置も知られている。
【0003】
ところが、平行な軸を有する複数のローラの間に無端ベルトを架設して回転駆動すると、無端ベルトが前記軸方向の何れか一方に徐々に寄ったり、蛇行したりする場合がある。そこで、無端ベルトの内周面に、前記各ローラの軸方向の一端側に片寄って連続的に突出した帯状のガイドを設け、そのガイドを各ローラに形成された溝部に嵌合させることが提案されている。また、その場合、前記無端ベルトに張力を与える方向に少なくとも1つの前記ローラを付勢する力を、前記一端側を他端側より大きくすることで、無端ベルトに前記他端側に寄ろうとする力を作用させて無端ベルトの波打を抑制することも提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−255642号公報
【特許文献2】特開2003−255718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記各特許文献では、前記ローラを付勢する力(付勢力)を、前記一端側を他端側より大きくすればよい旨が記載されているのみで、どの程度大きくすれば十分であるかは検証されていない。前記付勢力の差を徒に大きくすれば、無端ベルトを前記他端側に寄せる力が強くなりすぎてガイドの摩耗がひどくなったり、溝部からガイドが外れたりする可能性もある。
【0006】
そこで、本発明は、複数のローラの間に架設されて被記録媒体または記録材を搬送する無端ベルトを備えた画像形成装置において、前記無端ベルトに張力を与える方向に少なくとも1つの前記ローラを付勢する力を、片寄りすぎることなく適切に設定することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達するためになされた本発明は、平行な軸を有する複数のローラの間に架設されて回転駆動されることにより、被記録媒体または記録材を搬送する無端ベルトを備え、前記被記録媒体に前記記録材による画像を形成する画像形成手段を、備えた画像形成装置であって、前記画像形成手段は、前記無端ベルトの内周面に、前記各ローラの軸方向の一端側に片寄って連続的に突出して設けられた帯状のガイドと、前記各ローラに形成され、前記ガイドが嵌合することにより前記無端ベルトの前記軸方向への寄りを規制する溝部と、少なくとも1つの前記ローラの軸方向両端にそれぞれ設けられ、当該ローラを前記無端ベルトに張力を与える方向に付勢する一対の付勢部材と、を備え、前記ローラが前記無端ベルトに接触して回転する部分の前記軸方向中心位置に対して作用する力のモーメントが、前記軸方向一端側の付勢部材から加わる力のモーメントと前記軸方向他端側の付勢部材から加わる力のモーメントとで異なることにより、予め想定された使用条件下における前記無端ベルトの伸び量が、前記一端側と他端側とで同一に設定されたことを特徴としている。
【0008】
このように、本発明の画像形成装置では、無端ベルトが架設される複数のローラの少なくとも1つには、そのローラの軸方向両端に、当該ローラを前記無端ベルトに張力を与える方向に付勢する一対の付勢部材がそれぞれ設けられている。そして、本発明では、前記ローラが前記無端ベルトに接触して回転する部分の前記軸方向中心位置に対して作用する力のモーメントが、前記軸方向一端側の付勢部材から加わる力のモーメントと前記軸方向他端側の付勢部材から加わる力のモーメントとで異なる。そして、本発明では、このように前記一端側と他端側とで力のモーメントを異ならせることにより、予め想定された使用条件下における前記無端ベルトの伸び量を、前記一端側と他端側とで同一にしている。
【0009】
すなわち、前述のように一端側に片寄って帯状のガイドを設けた無端ベルトでは、その一端側のヤング率が他端側に比べて大きくなる。そこで、本発明では、前記軸方向一端側の付勢部材から前記ローラに加わる力のモーメントと前記軸方向他端側の付勢部材から前記ローラに加わる力のモーメントとを異ならせることにより、予め想定された使用条件下における前記無端ベルトの伸び量が、前記一端側と他端側とで同一になるようにしているのである。このため、本発明では、無端ベルトの伸び量を前記軸方向全体に亘って均一にして、前記一端側の力のモーメントを大きくしすぎることなく無端ベルトの寄りや蛇行を抑制することができる。更に、このように無端ベルトの寄りや蛇行が抑制できることにより、無端ベルトに波打等が発生するのを抑制してその寿命を延ばすこともできる。
【0010】
なお、前記使用条件は、当該画像形成装置に対して予め設定された使用環境温度の上限の使用条件であってもよい。その場合、予め設定された使用環境温度の上限の環境下で当該画像形成装置が使用された場合にも、前記無端ベルトの伸び量を前記軸方向全体に亘って均一にして、無端ベルトの寄りや蛇行を抑制することができる。また、この場合、当該画像形成装置が前記使用環境温度の上限未満の環境下で使用された場合は、前記一端側の伸び量が大きくなるが、その場合、前記特許文献に示されたように、前記他端方向へ寄ろうとする力を無端ベルトに作用させて、その無端ベルトの寄りや蛇行を抑制することができる。
【0011】
また、前記使用条件は、当該画像形成装置に対して予め設定された使用環境温度の上限の環境下で使用されて前記無端ベルトにクリープ変形が生じた使用条件であってもよい。その場合、予め設定された使用環境温度の上限の環境下で当該画像形成装置が使用され、更に前記無端ベルトにクリープ変形が生じた場合にも、前記無端ベルトの伸び量を前記軸方向全体に亘って均一にして、無端ベルトの寄りや蛇行を抑制することができる。また、この場合、当該画像形成装置が前記使用環境温度の上限未満の環境下で使用された場合や、クリープ変形が生じていない場合は、前記一端側の伸び量が大きくなるが、その場合、前記特許文献に示されたように、前記他端方向へ寄ろうとする力を無端ベルトに作用させて、その無端ベルトの寄りや蛇行を抑制することができる。
【0012】
また、前記無端ベルトの周面の前記ガイド側に補強テープが貼着され、該補強テープの前記使用条件下におけるヤング率は前記無端ベルトの前記使用条件下におけるヤング率よりも大きく、該補強テープを含む前記無端ベルトの一端側の伸び量と他端側の伸び量とが同一に設定されていてもよい。この場合、無端ベルトの周面のガイド側に補強テープが貼着されたことにより、その部分の無端ベルトが損傷するのを抑制して、前記ガイドと前記ローラの溝部との嵌合を一層良好に維持することができる。また、前記補強テープの前記使用条件下におけるヤング率は前記無端ベルトの前記使用条件下におけるヤング率よりも大きいが、本発明では、前述のように、予め想定された使用条件下において、前記補強テープを含む無端ベルトの一端側の伸び量と他端側の伸び量とが同一になるようにしている。従って、この場合、無端ベルトの寄りや蛇行を一層良好に抑制することができる。
【0013】
また、前記一対の付勢部材は、互いに付勢力が等しく、前記ローラに対する付勢力の作用点から前記軸方向中心位置までの距離が異なってもよい。すなわち、前述のように一端側と他端側とで力のモーメントを異ならせるためには、一対の付勢部材の付勢力が異なってもよいが、この場合、前記一対の付勢部材は互いに付勢力が等しく、前記ローラに対する付勢力の作用点から前記軸方向中心位置までの距離が異なる。このため、付勢部材(バネやゴムなど)としては、前記一端側と他端側とで同一の部材を共通して使用することができ、装置の製造コストを一層良好に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の画像形成装置の内部構成を概略的に表す説明図である。
【図2】その画像形成装置の無端ベルト及び従動ローラの構成を表す説明図である。
【図3】その従動ローラに加わる力のモーメントを表す平面図である。
【図4】前記無端ベルトのクリープ変形を表すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態の内部構成を概略的に表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[画像形成装置の全体構成]
次に、本発明の実施形態を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された画像形成装置の内部構成を概略的に表す説明図である。なお、以下の説明では、図1における左方向を前方,手前側を右側として説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の画像形成装置1は、駆動ローラ11と従動ローラ12との間に転写搬送ベルトとしての無端ベルト13を架設してなるベルトユニット10の上に、ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C)の各色に対応した4つのプロセスユニット20を備えている。4つのプロセスユニット20は、画像形成装置1の前面側からブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの順で前後方向に並んで配置され、直接タンデム方式のカラー画像形成手段を構成している。
【0017】
各プロセスユニット20は、感光体ドラム21と、帯電器22と、現像カートリッジ24とを備えて構成されている。感光体ドラム21は、接地された金属製のドラム本体を備え、その表層をポリカーボネートなどからなる正帯電性の感光層で被覆することにより構成されている。
【0018】
帯電器22は、感光体ドラム21の後側斜め上方において、感光体ドラム21と接触しないように所定間隔を隔てて、感光体ドラム21と対向配置されている。この帯電器22は、タングステン等の帯電用ワイヤからコロナ放電を発生させるスコロトロン型帯電器であり、感光体ドラム21の表面を一様に正極性に帯電させる。現像カートリッジ24は、内部にトナー収容室25が設けられ、その中に収容されたブラック,シアン,マゼンタ,またはイエローの正帯電性非磁性1成分トナー(記録材の一例)を正極性に摩擦帯電させた上で現像ローラ26を介して感光体ドラム21に供給する周知のものである。
【0019】
更に、ベルトユニット10は、無端ベルト13を挟んで各感光体ドラム21と対向する位置にそれぞれ設けられた4つの転写ローラ14を備えている。無端ベルト13は、駆動ローラ11の図1における時計方向の回転によって、同方向に回転駆動される。無端ベルト13の表面には、本画像形成装置1の下部に挿入される給紙トレイ(図示省略)から、被記録媒体の一例としての用紙Pが給紙ローラ等の各種ローラ(図示省略)によって供給され、その用紙Pは各感光体ドラム21との対向部を通って画像形成装置1の後方へ搬送される。
【0020】
また、各プロセスユニット20の上方には、スキャナユニット30が設けられている。スキャナユニット30は、各色の画像データに対応するレーザ光Lk,Ly,Lm,Lcを発生する半導体レーザやそのレーザ光Lを偏向するポリゴンミラー(いずれも図示省略)を備え、各感光体ドラム21を走査露光する周知のものである。
【0021】
このため、各感光体ドラム21の表面は、その回転時、先ず帯電器22により一様に正帯電される。その後、スキャナユニット30からのレーザ光Lの高速走査により露光されて、用紙Pに形成すべき画像に対応した静電潜像が形成される。次いで、現像ローラ26の回転により、現像ローラ26上に担持され正帯電されているトナーが、感光体ドラム21に対向して接触するときに、感光体ドラム21の表面上に形成されている静電潜像に供給される。これにより、感光体ドラム21の静電潜像は可視像化され、感光体ドラム21の表面には、露光部分にのみトナーが付着したトナー像が担持される。
【0022】
その後、各感光体ドラム21の表面上に担持されたトナー像は、無端ベルト13によって搬送される用紙Pが感光体ドラム21と転写ローラ14との間を通るときに、転写ローラ14に定電流制御で印加される負極性の転写バイアスによって、用紙Pに順次転写される。こうしてトナー像が転写された用紙Pは、次いで、ベルトユニット10の後方に配設された定着器40に搬送される。すなわち、ベルトユニット10とプロセスユニット20とスキャナユニット30とが、画像形成手段に相当する。
【0023】
定着器40は、ハロゲンランプ等の熱源を備えて回転駆動される加熱ローラ41と、加熱ローラ41の下方において、加熱ローラ41を押圧するように対向配置され従動回転される加圧ローラ42とを備えている。この定着器40では、4色のトナー像を担持した用紙Pを、加熱ローラ41と加圧ローラ42とによって狭持搬送しながら加熱することにより、トナー像を用紙Pに熱定着させる。そして、トナー像が熱定着された用紙Pは、図示省略した各種ローラにより、画像形成装置1の上面に設けられた排紙トレイ(図示省略)に排出される。
【0024】
[ベルトユニットの構成]
次に、図2は、画像形成装置1の無端ベルト13が従動ローラ12に架設された部分の断面を模式的に表す説明図である。なお、後述の図3に示すように、従動ローラ12の回転軸12Aは、付勢部材の一例としてのバネ17によって駆動ローラ11から離れる方向(前方)に付勢されており、その付勢力によって、無端ベルト13の内周面が従動ローラ12の外周面に密着する。
【0025】
図2に示すように、無端ベルト13の内周面には、左側に片寄った位置に、断面矩形の帯状のガイド18が連続的に突出するように接着剤を用いて貼着されている。また、従動ローラ12の外周面には、ガイド18が嵌合することにより無端ベルト13の左右方向(駆動ローラ11,従動ローラ12の軸方向)への寄りを規制する溝部12Bが形成されている。なお、溝部12Bは従動ローラ12そのものの外周面に形成されていてもよいし、従動ローラ12の端面に隣接して当該従動ローラ12とは相対的に回転可能に支持されたガイド専用のローラに形成されていてもよい。また、従動ローラ12の他に、駆動ローラ11にも同様の溝部が形成されていてもよい。更に、無端ベルト13の外周面の左端には、その無端ベルト13を挟んでガイド18と対向する箇所を包含する幅の補強テープ19が接着剤を用いて貼着されている。なお、この補強テープ19は、無端ベルト13のガイド18が貼着された部分が損傷するのを抑制して、ガイド18と溝部12Bとの嵌合を一層良好に維持する。
【0026】
図3に示すように、従動ローラ12の両端から突出した一対の回転軸12Aには、引張コイルバネからなる一対のバネ17が接続され、前述のように、無端ベルト13に張力を与える方向に従動ローラ12を付勢している。なお、バネ17は回転軸12Aに対して、その回転軸12Aの回転を許容しつつ前記付勢が行えるように、図示省略したホルダを介して接続されているが、そのようなホルダは周知であるため、ここでは詳述しない。
【0027】
また、一対のバネ17は同一規格のコイルバネで、それらが回転軸12Aに与える付勢力は等しいが、各付勢力の従動ローラ12に対する作用点から、従動ローラ12に架設された無端ベルト13の左右方向中心位置(図3に一点鎖線で表示)までの距離は異なる。このため、前記中心位置に対して作用する力のモーメントが、右側のバネ17から加わる力のモーメントと左側のバネ17から加わる力のモーメントとで異なるが、本実施形態では、そのことによって、次のように無端ベルト13の伸び量を左右で同一にしている。
【0028】
[付勢力の作用点設定例(1)]
次に、前記各付勢力の作用点の設定例を説明する。先ず、常温で、かつ、無端ベルト13のクリープ変形を考慮しない設定例について説明する。なお、本実施形態の画像形成装置1は、無端ベルト13,ガイド18,補強テープ19の断面形状が、次の表1に示すように設計されている。
【0029】
【表1】

すなわち、前記中心位置に対する左右それぞれの無端ベルト13の断面積はいずれも14.4mm2 で、ガイド18の断面積は6mm2 で、補強テープ19の断面積は0.25mm2 である。また、次の表2には、無端ベルト13,ガイド18,補強テープ19を構成する各種素材の常温におけるヤング率と、前記断面積を用いて計算した各部を0.1%伸ばすために必要な荷重(0.1%伸び荷重)を示した。なお、無端ベルト13は、PET(ポリエチレンテレフタレート),ポリイミド,PC(ポリカーボネート),ナイロン(2種類あり)のうちの任意の素材で作成することができるので、表2には、各素材で構成した場合の0.1%伸び荷重をそれぞれ記載した。また、ガイド18も、ゴムまたはウレタンのうちの任意の素材で作成することができるので、表2には、各素材で構成した場合の0.1%伸び荷重をそれぞれ記載した。
【0030】
【表2】

このため、無端ベルト13をヤング率が120kgf/mm2 のナイロンで構成し、ガイド18をゴムで構成した場合、無端ベルト13のガイド18が無い側(右半分)を0.1%伸ばすために必要な荷重(0.1%伸び荷重)は1.73kgとなる。これに対して、無端ベルト13のガイド18が有る側(左半分)の0.1%伸び荷重は1.99kgとなり、ガイド18が無い側(右半分)の115%となる。
【0031】
この計算の詳細を、次の表3に示したので参照されたい。なお、補強テープ19は省略してもよいので、表3には、補強テープ19を省略した場合における無端ベルト13のガイド18が有る側(左半分)の0.1%伸び荷重も示したので参照されたい。
【0032】
【表3】

そこで、本設定例では、無端ベルト13の左端に加わる張力T−L(図3参照)が、無端ベルト13の右端に加わる張力T−R(図3参照)の115%となるように、前記作用点を設定した。
【0033】
すなわち、図3に示すように、左右一対のバネ17から加わる付勢力をF−L,F−R(前述のように同じ値)、前記中心位置から従動ローラ12の両端までの長さ(無端ベルト13の端縁部が従動ローラ12の端面よりも外側に飛び出ていない場合には、無端ベルト13の両端までの長さ)をL1、前記中心位置から左側のバネ17の作用点までの距離をL2、前記中心位置から右側のバネ17の作用点までの距離をL3とする。すると、左側についてはT−L×L1=F−L×L2なる式が、右側についてはT−R×L1=F−R×L3なる式が、それぞれ成り立つ。そこで、T−L:T−R=115:100となるように、L2:L3=115:100に設定すればよいのである。なお、表3から分かるように、補強テープ19を省略した場合は、L2:L3=103:100に設定すればよい。
【0034】
このように、一対のバネ17から加わる力のモーメントを異ならせることにより、常温で、かつ、無端ベルト13のクリープ変形を生じていない使用条件下における無端ベルト13の伸び量が、左右で同一になる。このため、無端ベルト13の伸び量を従動ローラ12の軸方向全体に亘って均一にして、無端ベルト13の寄りや蛇行を抑制することができる。更に、このように無端ベルト13の寄りや蛇行が抑制できることにより、無端ベルト13に波打等が発生するのを抑制してその寿命を延ばすこともできる。特に、ナイロンは柔らかいので、ナイロン製の無端ベルト13にガイド18を貼り付けると伸び量が不均一になりやすいが、本実施形態ではそのような事態を良好に回避することができる。
【0035】
なお、無端ベルト13のガイド18が設けられた側(左側)に加わる張力T−Lを張力T−Rに比べて大きくするとよいことは、前述の特許文献等でも指摘されているが、本実施形態では、前述の計算に基づいたことにより、張力T−Lを大きくしすぎることがない。従って、張力T−Lが大きすぎてガイド18の摩耗がひどくなったり溝部12Bからガイド18が外れたりするのも抑制することができる。
【0036】
[付勢力の作用点設定例(2)]
次に、画像形成装置1に対して予め設定された使用環境温度の上限としての60℃の環境で、かつ、無端ベルト13のクリープ変形を考慮しない設定例について説明する。この場合、前述の各種素材のうち、熱可塑性の素材のヤング率は、常温におけるヤング率よりも小さくなる。例えば、常温で120kgf/mm2 であったナイロンのヤング率は、60℃では常温におけるヤング率の0.75倍となるため、120kgf/mm2 ×0.75=90kgf/mm2 となる。一方、PETやゴム等の素材では、60℃の環境でもヤング率はあまり変化しない。このように、各種ヤング率を60℃におけるものに修正して前述の計算を行うと、無端ベルト13のガイド18が有る側(左半分)の0.1%伸び荷重は、ガイド18が無い側(右半分)の約120%となる。従って、その場合、L2:L3=120:100とすることによって、画像形成装置1を60℃の環境下で使用した場合にも前述の効果が得られる。
【0037】
なお、この場合、画像形成装置1が60℃未満の環境下で使用された場合は、無端ベルト13の左側の伸び量が大きくなるが、その場合でも、前記特許文献に示されたように、無端ベルト13に右側へ寄ろうとする力が作用し、その無端ベルト13の寄りや蛇行を抑制することができる。
【0038】
[付勢力の作用点設定例(3)]
次に、画像形成装置1に対して予め設定された使用環境温度の上限としての60℃の環境で、かつ、無端ベルト13のクリープ変形を考慮した設定例について説明する。表4及び図4は、無端ベルト13を前記中心位置で分割し、60℃の環境下で一定荷重(例えば、5kgf)を加えた場合のクリープ変形(%)の大きさを示している。
【0039】
【表4】

表4及び図4に示すように、クリープ変形は、ガイド18の無い側の変形量がガイド18の有る側の変形量よりも約15%大きくなる。従って、この場合、L2:L3=115:100とすることによって、画像形成装置1を60℃の環境下で使用し、無端ベルト13にクリープ変形が生じた場合にも前述の効果が得られる。
【0040】
なお、この場合、画像形成装置1が60℃未満の環境下で使用された場合や、無端ベルト13にクリープ変形が生じていない場合は、無端ベルト13の左側の伸び量が大きくなる場合があるが、その場合でも、前記特許文献に示されたように、無端ベルト13に右側へ寄ろうとする力が作用し、その無端ベルト13の寄りや蛇行を抑制することができる。
【0041】
[本発明の他の実施形態]
なお、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、前記実施形態では、一対のバネ17の作用点を左右で異ならせているが、一対のバネ17の規格を異ならせたり当初の変形量を異ならせることによって、各バネ17から作用する付勢力そのものを左右で異ならせてもよい。但し、前記実施形態では、付勢部材(前述のバネ17に限らず他のバネやゴム等であってもよい)として同一の部材を共通して使用することができ、装置の製造コストを一層良好に低減することができる。
【0042】
また、本発明に係る無端ベルトとしては、前述のようないわゆる転写搬送ベルトに限らず、感光体ベルト,中間転写ベルト等の各種無端ベルトを採用することができる。図5は、本発明に係る無端ベルトとしての感光体ベルト173,中間転写ベルト183を備えた画像形成装置100の内部構成を概略的に表す説明図である。図5に示すように、感光体ベルト173は、3つのローラ171,172,174の間に架設されてベルトユニット170を構成している。同様に、中間転写ベルト183は、3つのローラ181,182,184の間に架設されてベルトユニット180を構成している。また、感光体ベルト173は中間転写ベルト183と接触している。
【0043】
感光体ベルト173の周囲には、中間転写ベルト183との接触部から当該感光体ベルト173の回転方向に沿って、トナーを除去するクリーニング器191,帯電器22と同様の帯電器122,スキャナユニット130,各色毎の現像カートリッジ124c,124m,124y,124kが順次設けられている。なお、各現像カートリッジ124は、現像カートリッジ24と同様に、ブラック,シアン,マゼンタ,またはイエローのトナーを収容したトナー収容室125と現像ローラ126とを備えている。
【0044】
また、現像カートリッジ124c,124m,124y,124kは、感光体ベルト173に近接離間する方向(前後方向)に往復移動可能に配設されている。そして、各現像カートリッジ124は、該当する色の現像時に、感光体ベルト173に近接する現像位置(図5中の現像カートリッジ124cの位置)へ移動し、現像工程が終了すると感光体ベルト173から離間する退避位置(図5中の現像カートリッジ124m〜124kの位置)へ移動するように構成されている。
【0045】
このため、感光体ベルト173は、クリーニング器191によりトナーが除去された後に、帯電器122,スキャナユニット130によって何れか1色に対応した静電潜像が形成され、その色に応じたトナー像が現像カートリッジ124c〜124kの何れかによって形成される。そのトナー像は、中間転写ベルト183との接触部で当該中間転写ベルト183に転写され、この工程が各色に応じて4回繰り返されることにより、中間転写ベルト183の表面には各色のトナー像が重ね合わせられてカラー画像が形成される。
【0046】
中間転写ベルト183の周囲には、前記接触部から当該中間転写ベルト183の回転方向に沿って、転写ローラ193とクリーニング器192とが設けられている。用紙Pは、図示省略した各種ローラによって転写ローラ193と中間転写ベルト183との間に搬送されて前記カラー画像を転写された後、定着器40と同様に加熱ローラ141,加圧ローラ142を備えた定着器140によってトナー像が熱定着される。そして、トナー像が熱定着された用紙Pは、図示省略した各種ローラにより、画像形成装置100の上面に設けられた排紙トレイ(図示省略)に排出される。
【0047】
このように構成された画像形成装置100では、ベルトユニット170または180またはその両方に対して、前述のベルトユニット10と同様に付勢力を調整することにより、感光体ベルト173または中間転写ベルト183またはその両方の伸び量を左右で均一にすることができる。従って、感光体ベルト173または中間転写ベルト183またはその両方の寄りや蛇行を抑制すると共に、その寿命を延ばすこともでき、ガイドの摩耗やガイドが溝部から外れるのも抑制することができる。
【0048】
また更に、ベルトユニット10において、ガイド18と無端ベルト13との間に補強テープ19が設けられてもよい。また、中間転写ベルト183は、図1に示したような4つのプロセスユニット20の感光体ドラム21に接触して回転駆動されるタイプのものであってもよい。更に、本発明は、前述のような各種レーザプリンタに限らず、被記録媒体を無端ベルトによって搬送するインクジェット等、各種画像形成装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1,100…画像形成装置 10,170,180…ベルトユニット
11…駆動ローラ 12…従動ローラ
12A…回転軸 12B…溝部
13…無端ベルト 14,193…転写ローラ
17…バネ 18…ガイド
19…補強テープ 20…プロセスユニット
24,124…現像カートリッジ 30,130…スキャナユニット
171,172,174,181,182,184…ローラ 173…感光体ベルト
183…中間転写ベルト P…用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な軸を有する複数のローラの間に架設されて回転駆動されることにより、被記録媒体または記録材を搬送する無端ベルトを備え、前記被記録媒体に前記記録材による画像を形成する画像形成手段を、
備え、
前記画像形成手段は、
前記無端ベルトの内周面に、前記各ローラの軸方向の一端側に片寄って連続的に突出して設けられた帯状のガイドと、
前記各ローラに形成され、前記ガイドが嵌合することにより前記無端ベルトの前記軸方向への寄りを規制する溝部と、
少なくとも1つの前記ローラの軸方向両端にそれぞれ設けられ、当該ローラを前記無端ベルトに張力を与える方向に付勢する一対の付勢部材と、
を備え、
前記ローラが前記無端ベルトに接触して回転する部分の前記軸方向中心位置に対して作用する力のモーメントが、前記軸方向一端側の付勢部材から加わる力のモーメントと前記軸方向他端側の付勢部材から加わる力のモーメントとで異なることにより、予め想定された使用条件下における前記無端ベルトの伸び量が、前記一端側と他端側とで同一に設定されたことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記使用条件は、当該画像形成装置に対して予め設定された使用環境温度の上限の使用条件であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記使用条件は、当該画像形成装置に対して予め設定された使用環境温度の上限の環境下で使用されて前記無端ベルトにクリープ変形が生じた使用条件であることを特徴とする請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記無端ベルトの周面の前記ガイド側に補強テープが貼着され、
該補強テープの前記使用条件下におけるヤング率は前記無端ベルトの前記使用条件下におけるヤング率よりも大きく、該補強テープを含む前記無端ベルトの一端側の伸び量と他端側の伸び量とが同一に設定されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記一対の付勢部材は、互いに付勢力が等しく、前記ローラに対する付勢力の作用点から前記軸方向中心位置までの距離が異なることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57893(P2013−57893A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197399(P2011−197399)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】