説明

画像復元装置、画像復元方法およびプログラム

【課題】劣化した画像を適切に復元することができる画像復元装置を提供すること。
【解決手段】入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する画像解析部と、所定の補正量を用いて入力画像を補正する画像更新部と、画像更新部によって補正された入力画像と算出された複雑度とに基づき、補正量を算出する補正量算出部とを具備することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像復元装置、画像復元方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ぼやけ、動きブレ、量子化、標本化などに起因して劣化した画像から、劣化前の画像を復元する技術として、畳み込み演算による手法がある。
例えば、劣化画像に対し、ラプラシアンなどの微分演算子によってエッジを抽出し、該エッジを(必要に応じて適当なゲインや振幅制限を課した後、)劣化画像に対して加算または減算することで鮮鋭化を図るエッジ強調による手法がある。
また、ぼやけや動きブレの点拡がり関数をモデル化(または計測)し、該点拡がり関数の逆畳み込み(デコンボリューション)を実行することによって画像を復元する逆畳み込みに基づく手法がある。例えば、点拡がり関数をフーリエ変換によって伝達関数に変換し、該伝達関数の逆数の伝達関数を有するフィルタを劣化画像に対して適用することで、画像復元を行う手法がある。
【0003】
このとき、点拡がり関数の伝達関数に零点や零に近い部分があると、その逆数は大きな絶対値をとるため雑音が過剰に強調されてしまうことがある。この雑音の強調を防ぐ方法として、雑音の周波数特性を考慮したウィーナフィルタを用いる手法がある。
しかし、例えば、劣化時に画像が再標本化されて画素数が減る場合など、劣化過程の逆問題が不良設定(条件式が未知変数よりも少なく解が不定となる状態)となる場合には、ウィーナフィルタなど逆畳み込みに基づく手法では、画像を復元することはできない。
そこで、動画像においては複数のフレームと、動き情報とを利用して拘束条件を増やし求解する複数枚超解像による手法が存在する。
【0004】
しかし、上述のエッジ強調による手法は、画像に対して一律の基準により高周波成分を強調するものであるから、復元画像がもともとの画像に近づく保証はないという問題がある。
また、上述の逆畳み込みに基づく手法では、「高周波域が減衰するが、完全に喪失する周波数成分が少ない劣化過程」に対しては有効であるものの、再標本化のように多くの周波数成分において周波数成分が完全に失われる場合には、解が不定となり復元を行うことができないという問題がある。
【0005】
さらに、上述の複数枚超解像による手法では、劣化過程においてナイキスト周波数を超える周波数成分が低域に折り返していることが必要で、さらに複数のフレーム間で被写体が非整数の動きを有することが必要であるという条件もある。
これらの問題を解決する方法として、画像は滑らかであるといった信号波形に対する拘束条件を導入し、該拘束条件によって劣化過程の逆問題を解けるようにする正則化に基づく復元法がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−299068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の正則化に基づく復元法にあっては、正則化の評価方法次第で復元結果が左右され、適切な復元ができないことがあるという問題がある。例えば、正則化項が画像の滑らかさを定量化するものであると、画像を過剰に平滑化してしまい精細感が得られない可能性があるという問題がある。また、正則化項がトータルバリエーションノルムのように比較的緩い拘束条件であると、精細感は向上するものの、本来存在しないはずのエッジが生じてしまう可能性もあるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、劣化した画像を適切に復元することができる画像復元装置、画像復元方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の一態様は、入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する画像解析部と、所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する画像更新部と、前記画像更新部によって補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する補正量算出部とを具備することを特徴とする画像復元装置である。
【0010】
(2)また、本発明の他の態様は、上述の画像復元装置であって、前記補正量算出部は、正則条件の項を含む損失値が減少するように前記補正量を決定し、前記正則条件は、前記複雑度が低いほど、より拘束の強い条件とすることを特徴とする。
【0011】
(3)また、本発明の他の態様は、上述の画像復元装置であって、前記正則条件の項は、前記更新画像に関する勾配ベクトルのLnノルムの項であり、前記複雑度が低いほど、前記Lnノルムにおける乗数の値nを大きくすることで、より拘束の強い条件とすることを特徴とする。
【0012】
(4)また、本発明の他の態様は、上述のいずれかの画像復元装置であって、前記更新画像に対して、劣化を模擬した過程を施して、模擬劣化画像を生成する劣化模擬部を具備し、前記補正量算出部は、前記入力画像と前記模擬劣化画像との近似度に基づいて前記損失値を算出し、前回算出した損失値と今回算出した損失値とを比較し、該比較結果に基づき、前記補正量を決定することを特徴とする。
【0013】
(5)また、本発明の他の態様は、上述のいずれかの画像復元装置であって、前記更新画像に対して、劣化を模擬した過程を施して、模擬劣化画像を生成する劣化模擬部を具備し、前記補正量算出部は、前記入力画像と前記模擬劣化画像との当該画素における差分と、当該画素を微小量変化させたときの正則条件の項の変化量とに基づき、当該画素の前記補正量を決定することを特徴とする。
【0014】
(6)また、本発明の他の態様は、入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する第1の過程と、所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する第2の過程と、前記第2の過程にて補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する第3の過程とを有することを特徴とする画像復元方法である。
【0015】
(7)また、本発明の他の態様は、コンピュータを、入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する画像解析部、所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する画像更新部、前記画像更新部によって補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する補正量算出部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、劣化した画像を適切に復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の第1の実施形態による画像復元装置100の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】同実施形態における補正情報生成部102の構成を示す概略ブロック図である。
【図3】同実施形態における画像復元装置100の動作を説明するフローチャートである。
【図4】この発明の第2の実施形態による画像復元装置100aの構成を示す概略ブロック図である。
【図5】同実施形態における補正情報生成部102aの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。図1は、この発明の第1の実施形態による画像復元装置100の構成を示す概略ブロック図である。本実施形態に係る画像復元装置100は、すでに劣化した入力画像Rに対し、画像劣化過程の逆問題を正則化により解くことによって、劣化する前の高画質な画像(復元画像D)を推定し、出力する。このとき、正則化に用いる条件(本実施形態では、後述するLnノルム)を入力画像Rの画像特徴に応じて可変とすることで、復元画像Dの高画質化を図る。
以下では、画像Iの画像座標(x,y)における画素値をI(x,y)のように表記する。また、入力画像R全体の領域をU、復元画像D全体の領域をVと表記する。なお、本実施形態では、復元画像Dは、入力画像Rよりも解像度が高い。
【0019】
画像復元装置100は、復元画像Dを繰り返し演算による最適化によって求める。このとき、繰り返しの第i回(iは自然数)における復元画像の途中結果を仮復元画像Qと表記する。また、繰り返し開始前に設定する仮復元画像の初期値を、初期画像Qと表記する。繰り返し演算の終端条件は、本実施形態では、所定の繰り返し回数Imax回(Imaxは自然数)に達したときの仮復元画像QImaxを以て復元画像Dとする。なお、終端条件を、後述する損失値が既定値以下となったときの仮復元画像Q(Kは非負の整数)を以て復元画像Dとするようにしてもよいし、繰り返し回数の増加に対する前記損失値の変化が既定の状態(例えば、変化分の絶対値が所定の閥値以下)になった場合の仮復元画像Qを以て復元画像Dとするようにしてもよい。また、前記の繰り返し回数、損失値、損失値の変化の値など複数の条件の1以上の条件を満たしたときの仮復元画像Q(例えば、L=min{M、K、A})を以て復元画像Dとするようにしてもよい。
【0020】
図1に示すように、画像復元装置100は、画像解析部101、補正情報生成部102、画像更新部103、記憶部104、劣化模擬部105、初期画像生成部106を含んで構成される。初期画像生成部106は、入力画像Rから初期画像Qを生成し、記憶部104に記憶させる。初期画像生成部106は、例えば、入力画像Rを復元画像Dの解像度に一致するよう補間内挿したものを、初期画像Qとする。
【0021】
記憶部104は、画像更新部103が生成した仮復元画像Qおよび初期画像生成部106が生成した初期画像Qを記憶する。記憶部104は、必要に応じて、仮復元画像を、補正情報生成部102、画像更新部103、劣化模擬部105に出力する。すなわち、記憶部104は、繰り返し演算の第i回目に、第(i−1)回の仮復元画像Qi−1(以下、前ステップ仮復元画像Qi−1という。また、i=1すなわちi−1=0のときにあっては、初期画像Q)を補正情報生成部102、劣化模擬部105に出力する。画像更新部103に対しては、後述するように、仮復元画像Q(j=i−1またはi−2)を出力する。
【0022】
劣化模擬部105は、記憶部104が記憶している前ステップ仮復元画像Qi−1に対して、画像劣化のモデルを適用し、劣化画像を模擬的に生成する。劣化模擬部105は、こうして得た模擬的な劣化画像を模擬劣化画像Si−1とし、補正情報生成部102に出力する。
画像劣化のモデルは、例えば、画像のぼやけ、画像のブレ、画像の動き、画像の解像度の変化(典型的には解像度の低下)などの、いずれであってもよい。以下では、画像のぼやけと、画像の解像度の変化とを有する画像劣化のモデルを用いて説明する。画像のぼやけは、例えば、撮像系の焦点外れなどに起因して、合焦したあるべき画像の高周波成分が低下して劣化画像となる過程を指す。例えば、画像のぼやけは、点拡がり関数Pの畳み込みとして表現することができる。画像の解像度の変化は、例えば、高解像度の画像から画素を間引くことで低解像度の劣化画像となる過程を指す。
ここでは、劣化模擬部105は、前ステップ仮復元画像Qi−1に点拡がり関数Pを畳み込んだのち、画素を間引いた結果を模擬劣化画像Si−1とする。
【0023】
画像解析部101は、入力画像Rの画像特徴を解析して、補正情報生成部102におけるノルム制御パラメータpを算出する。画像解析部101は、例えば、入力画像Rに対して画像の複雑度を表す特微量fを求め、該特徴量fに応じて入力画像Rのノルム制御パラメータpを算出する。複雑度を示す特微量fとしては、画素間の画素値の変化度合いを示す値、たとえば、式(1)に示す入力画像Rの卜−タルバリエーションノルムを用いる。
【0024】
【数1】

【0025】
特微量fに対するノルム制御パラメータp(f)の算出法としては、例えば、式(2)のような値域が非負であり、特微量fが大きいほど値が小さくなる関数を用いる。なお、式(2)に変えて、式(3)を用いてもよい。すなわち、ノルム制御パラメータpは、画像の複雑度を表す情報となっており、画像が複雑であるほど、その値は小さくなる。
【0026】
【数2】

【0027】
【数3】

【0028】
なお、F、κ、およびμはいずれも正の実定数である。また、画像解析部101が、ノルム制御パラメータpをfの値に応じてIF/THENルールに基づいて決定してもよい。
【0029】
補正情報生成部102(補正量算出部)は、記憶部104が記憶している前回ステップの更新画像Qi―1と、画像解析部101が算出したノルム制御パラメータpとに基づき、今回ステップにおける補正内容を示す補正情報dを生成する。本実施形態では、補正情報生成部102は、前ステップ仮復元画像Qi−1、入力画像R、模擬劣化画像Si−1、ノルム制御パラメータpに基づき、前ステップ仮復元画像Qi−1に関する勾配ノルムのn乗(以降、Lnノルムという)の項を正則条件として含む損失値を算出し、ステップが進むに従って該損失値が減少していくように、補正内容を決定する。Lnノルムは、nの値が大きいほど、より強い拘束の正則条件となる。Lnノルムの詳細については、後述する。また、補正情報dは、少なくとも仮復元画像を補正(更新)して、新しい更新画像を得る際の補正量を示す情報を含む。本実施形態では、補正情報dは、補正対象とする更新画像Q(j=i−1またはi−2)を示す情報と、補正量を示す係数とを含む。
【0030】
画像更新部103は、記憶部104が記憶する仮復元画像を、補正情報dに従い補正して、更新画像Qを生成し、記憶部104に記憶させる。なお、画像更新部103は、繰り返し演算の終端条件を満たしているときは、更新画像Qを復元画像Dとして出力する。補正情報dは、例えば、補正対象の画像を、更新画像Qi−1と更新画像Qi−2とのいずれにするかを示す情報と、ランダムノイズや所定パタ−ンの摂動を、補正対象の画像に加える際に乗じる係数を示す情報とを含む。画像更新部103は、補正情報diにて指定された補正対象の画像に対して、予め生成していたランダムノイズあるいは所定パタ−ン(以降、Rnという)に補正情報diにて指定された係数を乗じたものを加えることで、更新画像Qを生成する。例えば、補正対象の画像を、更新画像Qi−1とすることと、係数をα1とすることが補正情報diにて指定されているときは、更新画像Q=Qi−1+α1×Rnである。また、補正対象の画像を、更新画像Qi−2とすることと、係数をα2とすることが補正情報diにて指定されているときは、Q=Qi−2+α2×Rnである。
【0031】
図2は、補正情報生成部102の構成を示す概略ブロック図である。図2に示すように補正情報生成部102は、比較部121、勾配ノルム算出部122、損失値算出部123、補正情報決定部124、損失値記憶部125を含んで構成される。比較部121は、入力画像Rと模擬劣化画像Si−1との差異を求め、これらの画像の近似度を示す比較結果eとして出力する。例えば、比較部121は、式(4)を用いて、入力画像Rと模擬劣化画像Si−1との画素ごとの差分を求め、その画像内における自乗値の総和を以て比較結果eとする。
【0032】
【数4】

【0033】
勾配ノルム算出部122は、まず、式(5)を用いて、前ステップ仮復元画像Qi−1の画素ごとの勾配ベクトルの画像である勾配画像Gを算出する。なお、勾配画像Gの画像座標(x,y)における画素値G(x,y)は2次元ベクトル値たる勾配ベクトルである。なお、式(5)における微分演算を、差分演算に置き換えて、式(6)を用いてもよい。
【0034】
【数5】

【0035】
【数6】

【0036】
続いて、勾配ノルム算出部122は、勾配画像Gに対してノルム値cを求める。ここで、ノルムの種類は可変(連続的に可変であっても、離散的に可変であっても構わない)である。勾配ノルム算出部122は、このノルムの種類を、画像解析部101が生成したノルム制御パラメータpに応じて、適応的に制御する。例えば、勾配ノルム算出部122は、式(7)に示すように、勾配画像Gの画素ごとに勾配ベクトルのLnノルム(nは非負の実数)(勾配ノルムのn乗ともいう)を求め、該Lnノルムの画像全体領域Uにおける総和を以てノルム値cとする。このとき、式(7)におけるnの値を、ノルム制御パラメータpとする。すなわち、n=pとする。
【0037】
【数7】

【0038】
損失値算出部123は、比較部121で求められた比較結果eと、勾配ノルム算出部122で求められたノルム値cとを引数にとる損失関数θ(e、c)によって損失値θを算出する。損失値θを算出する損失関数θとしては、例えば、式(8)のように、eとcの線形結合を用いる。なお、λは実定数であり、好ましくはλ>0とである。
【0039】
【数8】

【0040】
損失値記憶部125は、損失値算出部123が算出した損失値θを記憶し、前回ステップの損失値θi−1を補正情報決定部124に出力する。補正情報決定部124は、損失値算出部123が算出した損失値θと、損失値記憶部125が記憶していた前回ステップの損失値θi−1とに基づき、画像更新部103における画像の補正内容を示す補正情報dを生成する。補正情報決定部124は、損失値θiが長期的には小さくなるよう補正内容を決定する。例えば、補正情報決定部124は、補正対象とする画像を、仮復元画像Qi−1と仮復元画像Qi−2とのいずれにするかを示す情報と、ランダムノイズや所定パタ−ンRnの摂動を、補正対象の画像に加える際に乗じる係数を示す情報とを含む補正情報dを生成する。
【0041】
具体的には、補正情報決定部124は、現ステップの損失値θと、前ステップの損失値θi―1とを比較し、損失値θの方が小さい、すなわち損失値が減少しているときには、補正対象の画像を前ステップ仮復元値Qi−1とし、上述の係数を前ステップと同様の符号を有し、絶対値を増加させたものとする。例えば、前ステップで用いた係数に、予め設定された値α(α>1)を乗じた値とする。
補正情報決定部124は、比較の結果、現ステップの損失値θが前ステップの損失値θi―1と同じか大きい、すなわち損失値が減少していないときには、補正対象の画像を前々ステップ仮復元画像Qi−2とし、上述の係数を前ステップと反転した符号を有し、絶対値を減少させたものとする。例えば、前ステップで用いた係数に、予め設定された値β(−1<β<0)を乗じた値とする。
【0042】
補正情報決定部124は、このように補正情報dを決定するので、短期的には損失値θは増減するものの、長期的には減少させることができる。
なお、補正情報決定部124は、損失値の変化に応じて、補正対象の画像と補正量とを決定する方法として、Levenberg−Marquardt法など公知の方法を用いるようにしてもよい。
また、処理を効率化するため、入力画像Rを複数の部分領域に分解し、画像復元装置100の各部における処理を、画像の部分領域ごとに行うようにしてもよい。また、繰り返し演算を該部分領域ごとに行い、終端条件を該部分領域ごとに判定するようにしてもよい。
【0043】
図3は、画像復元装置100の動作を説明するフローチャートである。まず、画像解析部101が、入力画像Rの特徴量fを算出する(Sa1)。次に、画像解析部101が、該特徴量fに応じたノルム制御パラメータpを算出する(Sa2)。次に、初期画像生成部106が、入力画像Rから初期画像Qを生成する(Sa3)。次に、繰り返し回数iがImaxとなるまで、ステップSa5からSa10を繰り返す(Sa4、Sa11)。
【0044】
ステップSa5では、劣化模擬部105が更新画像Qi−1に劣化モデルを適用して、模擬劣化画像Si−1を生成する。ステップSa6では、比較部121が、入力画像Rと模擬劣化画像Si−1との比較値eを算出する。ステップSa7では、勾配ノルム算出部122が、ノルム制御パラメータpに応じた更新画像Qi−1のLnノルムcを算出する。ステップSa8では、損失値算出部123が、比較値eとLnノルムcとから損失値θを算出する。ステップSa9では、補正情報決定部124が、損失値θ、θi−1に基づき、補正情報dを決定する。ステップSa10では、画像更新部103が、補正情報dに従い、更新画像Qを生成する。ステップSa5からSa10の繰り返しが終了すると、画像更新部103は、更新画像QImaxを復元画像Dとして出力する(Sa12)。
【0045】
上述のように、画像解析部101は、入力画像Rの複雑度が低いほど、ノルム制御パラメータpを大きな値とし、損失値を算出する際の正則条件として、より拘束の強い条件を用いるようにしている。拘束が強いほど、画像は強く平滑化されるので、入力画像Rの複雑度に応じて、適切に復元することができる。
【0046】
また、正則条件としてLnノルムを用い、nの値を変えることで、拘束の強さを変更している。このため、拘束の強さを変更しても、乗数が変わるのみで算出処理の多くが共通したものとなっているため、専用のハードウェアにて勾配ノルム算出部122を実現する場合には、回路規模を抑えることができる。また、CPUなどの汎用のプロセッサと、プログラムとで勾配ノルム算出部122を実現する場合には、プログラムの規模を抑えることができる。
【0047】
[第2の実施形態]
以下、図面を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、この発明の第2の実施形態による画像復元装置100aの構成を示す概略ブロック図である。画像復元装置100aは、前ステップ仮復元画像Qi−1全体に対する損失値を評価してその最小化を行うのではなく、前ステップ仮復元画像Qi−1の各画素の画素値を摂動したときの損失値の変化量に基づいて、損失値の最小化を行う。
【0048】
画像復元装置100aは、図1の画像復元装置100とは、補正情報生成部102に変えて補正情報生成部102aを備える点のみが異なる。その他の各部は、図1の画像復元装置100と同様であるので、説明を省略する。補正情報生成部102a(補正量算出部)は、入力画像R、模擬劣化画像Si−1、前ステップ仮復元画像Qi−1、ノルム制御パラメータpに基づき、補正情報dを生成する。補正情報生成部102aが、補正情報を生成する際に用いる情報は、図1の補正情報生成部102と同様であるが、前ステップ仮復元画像Qi−1の各画素の画素値を摂動したときの損失値の変化量に基づいて、損失値を減少させるように補正内容を決定する点が異なる。
【0049】
図5は、補正情報生成部102aの構成を示す概略ブロック図である。補正情報生成部102aは、比較部121a、勾配ノルム変化量算出部122a、補正情報決定部124aを含んで構成される。勾配ノルム変化量算出部122aは、前ステップ仮復元画像Qi−1の各画素値Qi−1(x,y)を微小量△Qだけ増減したときの、勾配ノルム変化量(またはその近似値)△c(x,y)を求める。△Qの値は、予め設定されており、例えば、△Q=1である。
【0050】
例えば、勾配ノルム変化量算出部122aは、注目画像座標(x,y)とその近傍画素N(x,y)(例えば、上下左右に隣接する4画素)とに基づいて、勾配ノルム変化量△c(x,y)を以下の式(9)または(9’)を用いて求める。すなわち、勾配ノルム変化量は、当該画素の値を△Qだけ増やしたときに、当該画素近傍の勾配ノルム(第1の実施形態におけるLnノルム)がどのように変化するかを示す値である。
【0051】
【数9】

【0052】
【数10】

【0053】
なお、N(x,y)は、上述のように画像座標(x,y)の画素の近傍画素位置の集合である。例えば4近傍画素の場合は、式(10)で示される画素の集合であり、8近傍画素であれば、式(11)で示される画素の集合である。
【0054】
【数11】

【0055】
【数12】

【0056】
また、式(9)または(9’)の代わりに,注目画素(x,y)と近傍画素(ξ,η)の位置関係を考慮した重みづけw(ξ,η; x,y)を適用した式(12)または(12’)により算出した値を、勾配ノルム変化量△c(x,y)としてもよい。
【0057】
【数13】

【0058】
【数14】

【0059】
重みづけw(ξ,η;x,y)は、例えば、注目画素(x,y)と近傍画素(ξ,η)との距離(ノルムは任意,例えばL2ノルム)に応じて設定する。例えば、距離dに対するスカラー関数ψ(d)により,重みづけw(ξ,η;x,y)を式(13)のようにして算出する。なお、関数ψ(d)には距離dに対して増加しないものを用いる。例えば、関数ψ(d)を、式(14)とする。
【0060】
【数15】

【0061】
【数16】

【0062】
なお、式(9)、(9’)、(12)および(12’)において、nは非負の実数値とし、第1の実施形態と同様に、画像解析部101が出力したノルム制御パラメータpである。なお、0=0と定義する(n=0の場合の例外値の定義)。
【0063】
比較部121aは、入力画像Rと模擬劣化画像Si−1との差異を画素ごとに求め、比較結果画像Eとして出力する。例えば、比較部121aは、式(15)を用いて、模擬劣化画像Si−1と劣化画像Rとの画素ごとの差分値を算出し、これを比較結果画像Eの画素値とする。
【0064】
【数17】

【0065】
補正情報決定部124aは、勾配ノルム変化量Δciと比較結果画像Eとに基づいて、式(16)を用いて画素ごとの画素値補正量を求め、その結果である補正量画像Hを、補正情報dとして出力する。このように補正量を決定しているので、本実施形態における正則条件も、第1の実施形態と同様にLnノルムとなっている。また、模擬劣化画像と劣化画像の画素値の差の項と、Lnノルムの項とを含む損失値が、繰り返し演算により減少するように、補正量を決定している。本実施形態では、画像更新部103における補正対象の画像は、常に前ステップ仮復元画像Qi−1であるので、補正情報dには、補正対象の画像を示す情報を含んでいなくてもよい。
【0066】
【数18】

【0067】
ここでλは、式(8)におけるλと同様の実定数で、好ましくはλ>0である。また、J[x]は、入力画像Rの解像度から復元画像Dの解像度への解像度変換を行う汎関数である。本実施形態では、入力画像Rよりも、復元画像Dの方が解像度が高いので、汎関数J[x]は、例えば補間内挿により解像度変換(アップサンプリング)を行う。なお、入力画像Rの解像度を水平X画素、垂直Y画素とし、復元画像の解像度を水平X画素、垂直Y画素として、例えば、汎関数J[x]を、式(17)の最近傍補間としてもよい。そのほか、汎関数Jに双1次補間や双3次補間を用いてもよいし、フィルタの畳み込みと標本化からなる補間手法を用いてもよい。
【0068】
【数19】

【0069】
なお、画像更新部103は、図1における画像更新部103と同様に補正情報dに従い、仮復元画像Qを生成するが、上述のように補正情報dは、補正量画像Hである。例えば、画像更新部103は、式(18)を用いて、仮復元画像Qを生成する。
【0070】
【数20】

【0071】
なお、γは正の実数とする。γは定数であっても、繰り返し演算のステップ数などに応じた変数であってもよい。γの値が大きいほど1ステップあたりの補正量が大きくなるため初期段階での収束速度が向上するが、収束時に振動的になることがある。一方、γの値が小さいと、収束速度は低下するが、収束時の安定性は向上する。そこで、繰り返し演算の初期には大きなγを設定し、ステップ数が増えるにつれてγを減少させるようにしてもよい。
【0072】
本実施形態では、繰り返し演算の終端条件としては、例えば、補正量画像Hの全画素の絶対値の合計が予め設定された閾値以下になったときとしてもよい。あるいは、該合計の前ステップからの変化量が予め設定された閾値以下になったときとしてもよいし、繰り返し回数が最大値に達したときとしてもよい。
【0073】
本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、画像解析部101は、入力画像Rの複雑度が低いほど、ノルム制御パラメータpを大きな値とし、正則条件として、より拘束の強い条件を用いるようにしている。拘束が強いほど、画像は強く平滑化されるので、入力画像Rの複雑度に応じた、適切な復元処理をすることができる。
【0074】
また、勾配ノルム変化量算出部122aにおいても、nの値を変えることで、拘束の強さを変更している。このため、拘束の強さを変更しても、乗数が変わるのみで算出処理の多くが共通したものとなっているため、専用のハードウェアにて勾配ノルム変化量算出部122aを実現する場合には、回路規模を抑えることができる。また、CPUなどの汎用のプロセッサと、プログラムとで勾配ノルム変化量算出部122aを実現する場合には、プログラムの規模を抑えることができる。
また、補正情報決定部124aは、画素値を摂動したときの損失値の変化量に基づいて、損失値が減少するように補正量を決定しているので、第1の実施形態に比べて、繰り返し演算を早く収束させることができる。
【0075】
また、図1における各部および図4における各部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部を実現してもよいし、半導体チップによるプロセッサなどの専用のハードウェアにより実現してもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0076】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【0077】
以上、この発明の実施形態を図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0078】
100、100a・・・画像復元装置
101…画像解析部
102、102a…補正情報生成部
103…画像更新部
104…記憶部
105…劣化模擬部
106…初期画像生成部
121、121a…比較部
122…勾配ノルム算出部
122a…勾配ノルム変化量算出部
123…損失値算出部
124、124a…補正情報決定部
125…損失値記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する画像解析部と、
所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する画像更新部と、
前記画像更新部によって補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する補正量算出部と
を具備することを特徴とする画像復元装置。
【請求項2】
前記補正量算出部は、正則条件の項を含む損失値が減少するように前記補正量を決定し、
前記正則条件は、前記複雑度が低いほど、より拘束の強い条件とすること
を特徴とする請求項1に記載の画像復元装置。
【請求項3】
前記正則条件の項は、前記更新画像に関する勾配ベクトルのLnノルムの項であり、
前記複雑度が低いほど、前記Lnノルムにおける乗数の値nを大きくすることで、より拘束の強い条件とすること
を特徴とする請求項2に記載の画像復元装置。
【請求項4】
前記更新画像に対して、劣化を模擬した過程を施して、模擬劣化画像を生成する劣化模擬部を具備し、
前記補正量算出部は、前記入力画像と前記模擬劣化画像との近似度に基づいて前記損失値を算出し、前回算出した損失値と今回算出した損失値とを比較し、該比較結果に基づき、前記補正量を決定すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の画像復元装置。
【請求項5】
前記更新画像に対して、劣化を模擬した過程を施して、模擬劣化画像を生成する劣化模擬部を具備し、
前記補正量算出部は、前記入力画像と前記模擬劣化画像との当該画素における差分と、当該画素を微小量変化させたときの正則条件の項の変化量とに基づき、当該画素の前記補正量を決定すること
を特徴とする請求項2または請求項3に記載の画像復元装置。
【請求項6】
入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する第1の過程と、
所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する第2の過程と、
前記第2の過程にて補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する第3の過程と
を有することを特徴とする画像復元方法。
【請求項7】
コンピュータを、
入力画像の画素間の画素値の変化度合を示す複雑度を算出する画像解析部、
所定の補正量を用いて前記入力画像を補正する画像更新部、
前記画像更新部によって補正された前記入力画像と算出された前記複雑度とに基づき、前記補正量を算出する補正量算出部
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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