説明

画像投影装置、画像処理装置、画像処理方法、画像処理プログラム、及び、画像データ

【課題】投影面に投影された物体の影を自然に表現することができる画像投影装置を提供する。
【解決手段】画像投影装置1は、影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力部31と、この画像入力部31に入力された物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理部32と、投影画像を投影面に投影する画像投影部2と、を備えており、背景画像は、物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロジェクタ等の画像投影装置、画像投影装置によって投影される画像の処理を行う画像処理装置、方法及びプログラム、並びに、画像投影装置によって投影される画像データに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、実環境に対する三次元立体像の情報提示に関する研究が盛んに行われている。このような三次元立体像の情報提示は、従来、立体ディスプレイを用いたり、偏光めがねやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いたりすることによって可能とされていたが、これらの手法の多くは、両目の視差を利用して立体像の奥行きを知覚させようとするものであるため眼精疲労を誘起させる場合がある。また、偏光めがねやHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を用いる場合は、ユーザがこれらを装着しなければならないため、身体的な負担やストレスを与えることがあった。
【0003】
このため、本出願の発明者は、プロジェクタを用いて実環境に物体の画像を投影することによって、あたかもその物体がその場に存在するかのように知覚させる手法を従前に提案している(非特許文献1参照)。この手法では、プロジェクタから投影された物体を立体的に見せるためには物体に付随して生じる影の存在が重要と考え、プロジェクタによって影付きの物体の画像を投影することで当該物体の立体感を増大させている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】李周浩ほか2名、「ユビキタスディスプレイ”UD−1”を用いたアナモルフォーズによる裸眼立体視の実現」、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会2008講演論文集、2008年6月5日発行、2P2−E22頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プロジェクタは、その特性上、投影面よりも明度の低い色を投影することは不可能である。そのため、投影された物体の影は、その背景となる投影面よりも暗くすることはできず、影と投影面との境界を明確に表すことが困難となる。
非特許文献1では、図7に示すように、投影画像中に、物体Oに対してスポットライトを当てたような明度の高い部分Pを設け、このスポットライトPの中に明度の低い影Sを設けることによって、当該影Sを明確に表すことを提案している。
しかしながら、上記のようなスポットライトは、昼間や通常照明下などの特定の条件下で実環境との調和を図ることができず、不自然になってしまう欠点があった。
【0006】
そこで、本発明は、投影面に投影された物体の影を自然に表現することができる画像投影装置、画像処理装置、画像処理方法、画像処理プログラム、及び、画像データを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の第1の観点に係る画像投影装置は、
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力部と、
前記画像入力部に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理部と、
前記投影画像を投影面に投影する画像投影部と、を備えており、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする。
【0008】
本発明の画像投影装置は、COC(Craik−O’Brien−Cornsweet;クレイク・オブライエン・コーンスウィート)錯視効果という目の錯覚の効果を用いて物体の影を投影面(背景)よりも暗く見せ、自然な影を表現しようとするものである。具体的には、画像投影装置によって、影付きの物体の画像をそのまま投影するのではなく、特定の背景画像上に合成して実環境(投影面)に投影する。この背景画像は、物体の影との境界部分の明度が影の明度よりも高く、その周囲の明度が影から離れるにしたがって徐々に低くなるような明度分布(明度勾配)を有する画像とされている。このような背景画像に物体の画像を合成すると、明度の低い黒色で表現される物体の影と、その周りの背景画像との間でコントラストが大きくなり、この合成画像(投影画像)を投影面に投影したときに物体の影と投影面との境界で輝度差が生じる。この輝度差により、投影面上で物体の影を明確に認識させることができる。また、背景画像は、物体の影から離れるにしたがって徐々に明度が低くなっていくが、COC錯視効果によって、その明度の変化はほとんど知覚されることはなく、投影面上の背景画像の輝度変化もほとんど知覚されない。そのため、物体の影と投影面との境界で生じる輝度差がほぼ投影面全体でも知覚され、物体の影が投影面全体よりも暗く感じられるようになる。これにより、物体の影を自然に表現することができる。なお、本発明において、背景画像における物体の影との「境界部分」とは、影の周りの或る程度の幅を持った領域(例えば、1〜数画素分の領域)をいう。
【0009】
(2)上記画像投影装置は、前記画像入力部に入力された前記物体の画像に応じて前記背景画像を生成する背景画像生成部をさらに備えていることが好ましい。
【0010】
(3)特に、前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の位置に合わせて前記背景画像の前記明度分布を調整する第1明度調整部を有していることが好ましい。
このように、物体の影の位置に応じて背景画像の明度分布を調整することで、投影面上で物体の影を適切に認識させることができる。
【0011】
(4)また、この場合、前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の位置を認識する位置認識部を有していることが好ましい。
【0012】
(5)前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の形状を認識する形状認識部を備えていることが好ましい。
【0013】
(6)そして、この場合には、前記第1明度調整部は、前記物体の影との境界に沿う部分の明度を一定とし、当該境界から離れるに従い一定の比率で徐々に明度を低くするように前記背景画像の前記明度分布を調整する機能を有していることが好ましい。
このような構成によって、投影面に投影された物体の影と投影面との境界に一定の輝度差をもたせることができ、物体の影をより明確に認識させることができる。
【0014】
(7)前記背景画像生成部は、前記背景画像の明度の勾配の緩急を調整するための第2明度調整部を有していることが好ましい。
投影面に投影された画像の大きさは、画像投影装置と投影面との距離に応じて変化する。例えば、画像投影装置と投影面との距離が大きい場合は、投影面に投影された投影画像が大きくなり、背景画像の明度の勾配は投影面上でより緩やかな輝度勾配となって表れる。一方、画像投影装置と投影面との距離が小さい場合は、投影面に投影された投影画像が小さくなり、背景画像の明度の勾配は投影面上でより急な輝度勾配となって表れることになる。本発明では、第2明度調整部によって背景画像の明度の勾配の緩急を調整することができるので、画像投影装置と投影面との距離に応じて、投影面に投影される背景画像の輝度勾配を適切なものとすることができる。
【0015】
(8)本発明の第2の観点に係る画像処理装置は、
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力部と、
前記画像入力部に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理部と、を備えており、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする。
このような構成の画像処理装置によって投影画像を作成し、この投影画像を画像投影装置で投影することによって、上述した本発明の画像投影装置と同様に、投影面上で物体の影を明確に認識させ、物体の影を自然に表現することができる。
【0016】
(9)本発明の第3の観点に係る画像処理方法は、
影付きの物体の画像の入力を受けるステップと、
入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成するステップと、を含み、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする。
このような構成の画像処理方法を用いて投影画像を作成し、この投影画像を画像投影装置で投影することによって、上述した本発明の画像投影装置と同様に、投影面上で物体の影を明確に認識させ、物体の影を自然に表現することができる。
【0017】
(10)本発明の第4の観点に係る画像処理プログラムは、
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力手段、及び当該画像入力手段に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理手段としてコンピュータを機能させるものであり、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする。
このような構成の画像処理プログラムを用いて投影画像を作成し、この投影画像を画像投影装置で投影することによって、上述した本発明の画像投影装置と同様に、投影面上で物体の影を明確に認識させ、物体の影を自然に表現することができる。
【0018】
(11)本発明の第5の観点に係る画像データは、
影付きの物体の画像に背景画像を合成した合成画像であり、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする投影用の画像データ。
本発明の画像データを、画像投影装置で投影することによって、上述した本発明の画像投影装置と同様に、投影面上で物体の影を明確に認識させ、物体の影を自然に表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像投影装置(プロジェクタ)のブロック図である。
【図2】同画像投影装置における背景画像生成部のブロック図である。
【図3】影付きの物体を含む入力画像を示す図である。
【図4】背景画像を示す図である。
【図5】影に対するCOC錯視効果の適用を説明するための図である。
【図6】本発明の実施の形態における投影画像を投影面に投写した状態を示す図である。
【図7】従来技術における投影画像を投影面に投写した状態を示す図である。
【図8】COC錯視効果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る画像投影装置(プロジェクタ)のブロック図である。
本実施の形態のプロジェクタ1は、画像投影部2と、制御部3とから主に構成されている。画像投影部2は、光源21と、光変調部22と、投写レンズ23と、光変調駆動部2(ドライバ)4とを備えており、入力された画像に応じて光源21から射出された光を光変調部22で変調し、投写レンズ23により拡大して投影面に投写するものである。光源21には、メタルハライドランプのような放電型ランプ等が用いられる。光変調部22は、液晶パネルやDMD(Digital Micromirror Device)等の光変調素子を備えており、光源からの光は、光変調素子を透過又は反射することによって変調される。また、光変調部22の光変調素子は、光変調駆動部24によって駆動される。
【0021】
制御部3は、CPU等の演算部や、RAM、ROM等の記憶部を備えたマイクロコンピュータ等からなり、記憶部に記憶されているプログラムを演算部が実行することによって各種の処理を行う。そして、制御部3は、画像投影部2における光源21や光変調駆動部24等の動作を制御するとともに、画像投影部2によって投影される画像の処理を行う画像処理部としても機能する。
【0022】
画像処理部3は、画像入力部31と、合成処理部32と、背景画像生成部33と、を備えている。画像入力部31は、図示しない入力端子を介してパーソナルコンピュータ、DVDプレーヤー等の画像再生機器、デジタルカメラ等から各種画像の入力を受ける。入力可能な画像信号としては、アナログ又はデジタルのRGB信号や、コンポーネント映像信号、コンポジット映像信号等があり、画像入力部31は、入力された画像信号を処理可能な形式の画像データに変換して合成処理部32に出力する。
【0023】
合成処理部32は、入力された画像を所定の背景画像上に合成し、画像投影部2によって投影する投影画像を生成する。この背景画像は、予め準備されたもの、あるいは、入力画像の信号に基づいて背景画像生成部33において生成されたものを用いることができる。合成処理部32によって合成された投影画像の信号は光変調駆動部24に出力され、光変調駆動部24は、入力された信号に従って光変調部22(光変調素子)を駆動する。
【0024】
次に、画像処理部3における合成処理部32の処理(入力画像(物体の画像)と背景画像との合成)について詳細に説明する。
本実施の形態では、プロジェクタ1から投影された物体の画像に立体感を与えるために、当該物体に対して影を付けた入力画像が画像入力部31へ入力される。この入力画像の一例を図3に示す。この入力画像Iは、物体Oとしてのサイコロに影Sが付随している画像を含む。また、サイコロO及び影Sは、アナモルフォーズ化によって歪みが生じたものとなっている。
【0025】
アナモルフォーズとは、一見何が描かれているか分からないが、ある一点から眺めたり反射円柱を置いたりすることで、正常な絵に見えるようにする描画手法である。本実施の形態では、プロジェクタ1によって床面等の水平面に対して投影された画像をある位置から眺めたときに、歪みのない正常な画像として認識することができるように、物体O及び影Sがアナモルフォーズ化されている。なお、このアナモルフォーズ化については、上記非特許文献1で詳しく説明されている。
【0026】
一般に、プロジェクタ1は、投影面よりも明度の低い色の画像を投影することができないという性質を有している。すなわち、プロジェクタ1によって投影できる最低の輝度は、明度0%の黒色の部分を投影したときの輝度であり、その値は投影面と同輝度が限界となる。そのため、図3に示す影S付きの物体Oだけをそのままプロジェクタから投影すると、物体の影Sが明度0%の黒色であったとしても、投影される影Sは投影面と同輝度となり、投影面と影との境界を認識することができなくなる。また、図7に示す従来技術のように、物体Oの画像にスポットライトPを加え、影Sの周りを局部的に明るくすれば投影面Aと影Sとの境界を明確に認識することが可能となるが、特に明るい環境下では不自然な印象を与え、実環境に物体が存在しているような感覚を与え難くなる。
【0027】
本実施の形態は、スポットライトのような演出を用いるのではなく、COC(Craik−O’Brien−Cornsweet;クレイク・オブライエン・コーンスウィート)錯視効果と呼ばれる「目の錯覚」を利用することによって、投影された物体Oの影Sを投影面A上で自然に認識できるようにし、当該物体Oの立体感を増大させて、あたかもその物体Oが実環境(床面等)に存在しているかのような感覚を人に与えようとするものである。
【0028】
ここで、COC錯視効果について簡単に説明する。本実施の形態で用いるCOC錯視効果は、隣接する面のそれぞれの知覚明度は、両面の境界のコントラストに依存して規定されるという特徴と、緩やかな明度(輝度)の傾斜はほとんど知覚されないという特徴とを有する。
図8は、COC錯視効果を説明するための図である。図8(a)には、灰色の帯10(以下、単に「灰色帯」という)が示されており、一見、その中央Cを境として左側領域Lの明度が低く、右側領域Rの明度が高いように知覚される。しかしながら、実際は、灰色帯10の中央C付近にコントラストと明度の傾斜とを持たせているだけで、中央C付近を除く灰色帯10の左右両側L,Rの明度は同一とされている。
【0029】
図8(b)は、灰色帯10の現実の輝度分布を示し、図8(c)は、人が知覚する灰色帯10の輝度分布を示している。図8(b)に示すように、現実の輝度分布は、灰色帯10の左側領域Lについては中央C付近で輝度が徐々に低くなっており、灰色帯10の右側領域Rについては中央C付近で輝度が徐々に高くなっている。そのため、灰色帯10の中央Cで最もコントラストが大きくなり、左側領域Lと右側領域Rとの境界をはっきりと知覚することができる。しかし、図8(c)に示すように、灰色帯10の中央C付近に生じている輝度の変化(勾配)は人によってほとんど知覚されず、その結果、左側領域Lと右側領域Rとの境界Cで知覚されたコントラストの相違が、左右各領域L,Rの全体に影響し、左側領域L全体の輝度が低く、右側領域R全体の輝度が高いように知覚されるのである。
【0030】
本実施の形態の場合、COC錯視効果を用いることによって、明度が0%の物体の影Sと、その周囲の投影面Aとに明度差があるように知覚させる。図8のような灰色帯10の場合、左側領域Lの中央C付近の明度を低くし、右側領域Rの中央C付近の明度を高くするといったように、双方の明度に傾斜を付けることができたが、本実施の形態では、物体Oの影Sは最も低い明度(0%)であるため、それ以上明度を下げることができない。そのため、図5に例示する黒帯11のように、左側領域(物体の影に相当)L全体の明度を0%とし、右側領域(投影面に相当)Rの左端(黒帯11の中央C)の明度を高くして中央Cから右側へ離れるに従って徐々に明度を低下させ、やがて0%にする。これにより、図5(b)に示すように、実際の輝度分布は、黒帯11の左側領域Lと右側領域Rとでは中央C付近を除いて同じ輝度であるが、図5(c)に示すように、人が知覚する輝度分布は、左側領域Lが低く、右側領域Rがこれよりも高くなっている。このようなCOC錯視効果を用いることによって、物体Oの影Sと投影面Aとの間に明度差があるように知覚させるのである。
【0031】
具体的には、プロジェクタによって投影される影付きの物体の画像に対してCOC錯視効果を適用するため、以下の手法を採っている。すなわち、本実施の形態のプロジェクタ1では、図3に示す影S付き物体Oの画像を、図4に示すような明度分布を有する背景画像B上に合成することによって投影画像を生成し、この投影画像を画像投影部2によって投影する。この背景画像Bは、中央の明度が影Sの明度(0%)よりも高く、その周囲の明度が徐々に低くなり、背景画像Bの外縁部で明度が0%になるように、一定の比率で明度に傾斜(勾配)をもたせたものである。そして、画像処理部3における合成処理部32は、背景画像Bにおける中央の明度の高い部分に対して影S付き物体Oの画像を重ね合わせて合成し、投影画像を生成する。したがって、投影画像における背景画像Bの明度は、物体Oの影Sとの境界部分(影Sの周囲の背景領域)において影Sの明度よりも高くなり、影Sから離れるに従って徐々に低くなるとともに、次第に影Sと同一の明度となっていく。
【0032】
図6は、影S付きの物体Oの画像を背景画像B上に合成した投影画像を投写面Aに投写した状態を示す図である。この図6から明らかなように、投影面Aには、物体Oに付随する影Sが明確に表れている。すなわち、COC錯視効果によって、影Sと投影面Aとの境界の輝度差を知覚することができ、しかも物体Oの周囲の投影面Aの輝度勾配(背景画像Bの明度勾配)はほとんど知覚されない状態となっている。これにより、投影面A上に自然なかたちで影Sが認識され、物体Oが実環境に存在する(床面に置かれている)かのような印象を与えることが可能となる。
【0033】
上記の例では、図3に示すように入力画像Iの中央に物体Oが存在しているため、合成される背景画像B(図4)は、中央の明度が高くその周囲の明度が徐々に低くなっている。しかしながら、入力画像Iにおいて物体Oは必ずしも中央にあるわけではないので、その物体Oの位置に合わせて背景画像Bの明度の分布を調整する必要がある。また、入力画像Iにおける物体Oの影Sと、背景画像Bとの境界に大きなコントラストをもたせるためには、影Sの形状や大きさに合わせて背景画像Bの明度分布を調整することが望まれる。
【0034】
そのため、本実施の形態の画像処理部3を構成する背景画像生成部33は、図2に示すように、入力画像Iにおける影S付きの物体Oの位置を認識する位置認識部331と、影S付きの物体Oの形状を認識する形状認識部332と、これら位置及び形状等に合わせて背景画像Bの明度を調整する明度調整部333と、を備えている。そして、画像入力部31に入力された入力画像Iの信号は背景画像生成部33にも出力され、背景画像生成部33が、入力画像I中に含まれる物体O及び影Sの位置及び形状等に応じて背景画像Bを生成することによって、適切な合成画像(投影画像)を取得することができるのである。背景画像Bは、例えば全体の明度が一定なベース画像に対して、影S付きの物体Oの位置及び形状に基づいて作成された明度分布設定用のフィルタをかけることによって生成することができる。
【0035】
位置認識部331や形状認識部332による物体の影の位置や形状の認識は、入力画像Iに対して従来公知の画像解析処理(エッジ検出処理や輪郭追跡処理等)を行うことによって可能となる。また、本実施の形態の明度調整部333は、背景画像B中の明度が最も高い部分の位置、大きさ、形状を調整する機能(本発明の第1明度調整部としての機能)や、全体の明度勾配を調整する機能(本発明の第2明度調整部としての機能)を有する。
【0036】
画像入力部31に入力される入力画像Iは、影S付きの物体Oに後ろに背景を含んでいるが(図3においては背景を白で示している)、背景画像Bと合成されるのは影S付きの物体Oの部分だけであるため、合成処理部32は、画像解析処理を行って入力画像Iから背景を除外し、影付き物体Oの画像を抜き出す。この処理を容易に行うため、入力画像Iにおける背景は、物体Oや影Sとは異なる予め定められた特定の色(例えば、赤色、青色)としておくのがよい。これにより、合成処理部32において当該色が付された部分を識別することによって、影S付きの物体Oのみを迅速に抜き出す処理を行うことが可能となる。
【0037】
なお、位置認識部331や形状認識部332は、影Sを含む物体O全体を認識対象としてもよいが、物体Oの影Sのみを認識対象とするのがより好ましい。投影面Aとの間で輝度差をもたせたいのは影Sの部分だからである。この場合、明度調整部333は、影Sとの境界部分の明度を一定とし、当該影Sから離れるに従って一定の比率で徐々に明度が低くなるように背景画像Bの明度分布を調整するのが好ましい。これによって影Sと投影面Aとの境界に一定の輝度差をもたせることができ、影Sをより明確に認識させることができるようになる。
【0038】
プロジェクタ1から投影される投影画像は、投影面Aまでの距離によって大きさが変化する。そのため、投影面Aに投影された背景画像Bの輝度勾配も、投影面Aまでの距離に応じて変化することになる。例えば、同じ背景画像Bを投影する場合であっても、プロジェクタ1から投影面Aまでの距離が長いと投影面A上の背景画像Bの輝度勾配はより緩やかとなり、投影面Aまでの距離が短いと、投影面A上の背景画像Bの輝度勾配はより急となる。このように、投影面A上の背景画像Bの輝度勾配にバラツキが生じると、影Sの見え方にもバラツキが生じ、好ましくない。
【0039】
そのため、本実施の形態の明度調整部333は、投影面A上で影Sが適切に認識されるように、背景画像Bの明度の勾配の緩急を、プロジェクタ1から投影面Aまでの距離、又は投影面Aに投影される投影画像の大きさに応じて調整する機能(第2明度調整部としての機能)をも有している。この機能は、例えばプロジェクタ1から投影面Aまでの距離や、投影された物体Oの寸法や拡大率等のパラメータをユーザがプロジェクタ1に入力することによって働かせることができる。
【0040】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において適宜変更可能である。例えば、図1における画像処理部(制御部)3は、プロジェクタ1とは別体のコンピュータ(例えば、パーソナルコンピュータ)から構成することもできる。この場合、画像処理部3を構成するコンピュータを用いて投影画像を生成し、その投影画像を一般的なプロジェクタに入力することによって実環境に投影することができる。また、本発明の画像投影装置、画像処理装置(方法、プログラム)で使用される画像は、静止画であってもよいし、動画であってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 プロジェクタ
2 画像投影部
3 制御部(画像処理部)
21 光源
22 光変調部
23 投写レンズ
24 光変調駆動部
31 画像入力部
32 合成処理部
33 背景画像生成部
331 位置認識部
332 形状認識部
333 明度調整部(第1,第2明度調整部)
B 背景画像
I 入力画像
O 物体
S 影

【特許請求の範囲】
【請求項1】
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力部と、
前記画像入力部に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理部と、
前記投影画像を投影面に投影する画像投影部と、を備えており、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする画像投影装置。
【請求項2】
前記画像入力部に入力された前記物体の画像に応じて前記背景画像を生成する背景画像生成部をさらに備えている請求項1に記載の画像投影装置。
【請求項3】
前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の位置に合わせて前記背景画像の前記明度分布を調整する第1明度調整部を有している請求項2に記載の画像投影装置。
【請求項4】
前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の位置を認識する位置認識部を有している請求項3に記載の画像投影装置。
【請求項5】
前記背景画像生成部は、前記物体の画像の少なくとも影の形状を認識する形状認識部を備えている請求項2〜4のいずれかに記載の画像投影装置。
【請求項6】
前記第1明度調整部は、前記物体の影との境界部分の明度を一定とし、当該影から離れるに従い一定の比率で徐々に明度を低くするように前記背景画像の前記明度分布を調整する機能を有している請求項5に記載の画像投影装置。
【請求項7】
前記背景画像生成部は、前記背景画像の明度の勾配の緩急を調整するための第2明度調整部を有している請求項2〜6のいずれか1つに記載の画像投影装置。
【請求項8】
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力部と、
前記画像入力部に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理部と、を備えており、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
影付きの物体の画像の入力を受けるステップと、
入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成するステップと、を含み、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
影付きの物体の画像の入力を受ける画像入力手段、及び当該画像入力手段に入力された前記物体の画像に背景画像を合成して投影画像を生成する合成処理手段としてコンピュータを機能させるものであり、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする画像処理プログラム。
【請求項11】
影付きの物体の画像を、所定の背景画像上に合成した合成画像であり、
前記背景画像は、前記物体の影との境界部分の明度が当該影の明度よりも高く、当該影から離れるに従って徐々に明度が低くなるような明度分布を有していることを特徴とする投影用の画像データ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−84001(P2012−84001A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230520(P2010−230520)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2010講演論文集 平成22年6月13日発行
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】