説明

画像表示体、その製造方法、個人認証媒体及びブランク媒体

【課題】レーザビームを使用することなしに、回折格子アレイに画像をオンデマンドで記録することを可能とする。
【解決手段】本発明の画像表示体は、X及びY方向に配列した複数のセルC1乃至C3を備え、セルC1乃至C3の各々は、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を含んだブランク媒体を準備し、セルC1乃至C3の一部が含んでいる回折構造形成部の上記表面のうち回折格子からなる領域上に透明材料層PLを形成するか又は回折構造形成部を溶解する液を供給して、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば個人認証に利用可能な画像表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート及びID(identification)カードなどの個人認証媒体の多くは、目視による個人認証を可能とするために、顔画像を使用している。
【0003】
例えば、パスポートでは、従来、顔画像を焼き付けた印画紙を冊子体に貼り付けていた。しかしながら、そのようなパスポートには、写真印画の貼り替えによる改竄のおそれがある。
【0004】
このような理由で、近年では、顔画像の情報をデジタル化し、これを冊子体上に再現する傾向にある。この画像再現方法としては、例えば、転写リボンを用いた感熱転写記録法が検討されている。
【0005】
しかしながら、昨今、昇華性染料又は着色した熱可塑性樹脂を使用する感熱転写記録方式のプリンタは広く普及している。この状況を考慮すると、パスポートから顔画像を取り除き、そこに別の顔画像を記録することは、必ずしも困難ではない。
【0006】
特許文献1には、上述した方法で顔画像を記録し、その上に蛍光インキを用いて顔画像を記録することが記載されている。また、特許文献2には、無色又は淡色の蛍光染料と有色の顔料とを含有したインキを用いて顔画像を記録することが記載されている。更に、特許文献3には、通常の顔画像と、パール顔料を用いて形成した顔画像とを並べて配置することが記載されている。
【0007】
これら技術をパスポートに適用すると、その改竄がより困難になる。しかしながら、蛍光材料を用いて記録した顔画像は、紫外線ランプなどの特殊な光源を使用しない限り観察することはできない。また、パール顔料を用いて形成した顔画像は、肉眼で視認することはできるものの、パール顔料は粒径が大きいため、これを用いて高精細な画像を形成することは困難である。
【0008】
特許文献4には、回折格子から各々がなる複数のセルを配設し、それらセルの一部をレーザビーム照射によって破壊することが記載されている。破壊された部分は回折光を射出することができないため、これらセルからなる回折格子アレイは、非破壊部に対応した回折画像を表示する。
【0009】
通常、回折格子アレイが表示する画像は、肉眼で視認することができる。また、回折格子アレイによると、パール顔料を用いた場合と比較して、優れた画質を達成できる。そして、特許文献4に記載された技術は、画像をオンデマンドで記録するのに適しており、個人情報の記録への応用が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−141863号公報
【特許文献2】特開2002−226740号公報
【特許文献3】特開2003−170685号公報
【特許文献4】特開平8−29609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、レーザビーム照射を利用した場合、レーザビームの照射部で材料が炭化し、この照射部が黒色になる可能性がある。
【0012】
本発明の目的は、レーザビームを使用することなしに、回折格子アレイに画像をオンデマンドで記録することを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1側面は、互いに交差する第1及び第2方向に配列した複数のセルを備え、前記複数のセルの各々は、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を含んだブランク媒体を準備し、前記複数のセルの一部が含んでいる前記回折構造形成部の前記表面のうち前記回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は前記回折構造形成部を溶解する液を供給して、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することにより得られる画像表示体である。
【0014】
本発明の第2側面は、前記複数のセルは、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されており且つ前記領域に占める前記回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されている部分の割合が異なる2つ以上のセルを含んだ第1側面に係る画像表示体である。
【0015】
本発明の第3側面は、前記複数のセルは、前記領域のうち、少なくとも前記回折格子の回折効率が低減されていない部分を被覆した反射層を更に含んだ第1又は第2側面に係る画像表示体である。
【0016】
本発明の第4側面は、前記ブランク媒体において、前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったもの同士は、前記回折格子の格子定数及び/又は溝の長さ方向が互いに異なっている第1乃至第4側面の何れか1つに係る画像表示体である。
【0017】
本発明の第5側面は、前記ブランク媒体は、前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったものの間に配置され、頂部の位置が前記回折格子の溝の底部と比較してより高い複数の突起を更に備えた第4側面に係る画像表示体である。
【0018】
本発明の第6側面は、前記複数の突起は、前記第2方向に各々が延び、前記第1方向に配列した複数の隔壁である第5側面に係る画像表示体である。
【0019】
本発明の第7側面は、前記複数の突起は、前記第1及び第2方向に配列している第5側面に係る画像表示体である。
【0020】
本発明の第8側面は、前記第1及び第2方向は直交しており、前記複数のセルのうち前記第2方向に隣り合ったもの同士は、前記回折格子の格子定数及び溝の長さ方向が互いに等しい第5乃至第7側面の何れか1つに係る画像表示体である。
【0021】
本発明の第9側面は、個人情報を含んだ画像を表示する基材と、前記基材に支持された請求項1乃至8の何れか1項に記載の画像表示体とを具備した個人認証媒体である。
【0022】
本発明の第10側面は、前記画像表示体が表示する画像は第1個人情報を含み、前記基材が表示する画像は第2個人情報を含み、前記第1及び第2個人情報は同一人物の情報である第9側面に係る個人認証媒体である。
【0023】
本発明の第11側面は、前記第1及び第2個人情報の少なくとも一方は生体情報を含んだ第10側面に係る個人認証媒体である。
【0024】
本発明の第12側面は、回折格子を各々が含んだ複数の高効率セルと、各々において回折格子の少なくとも一部の回折効率がゼロにされるか又は低減された低効率セルとを備えた画像表示体の製造に使用するブランク媒体であって、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を各々が含み、互いに交差する第1及び第2方向に配列し、前記第1方向に隣り合ったもの同士は前記回折格子の格子定数及び/又は溝の長さ方向が互いに異なっている複数のセルと、前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったものの間に配置され、前記表面のうち前記回折格子からなる領域と比較して高さがより高い複数の突起とを備えたブランク媒体である。
【0025】
本発明の第13側面は、互いに交差する第1及び第2方向に配列した複数のセルを備え、前記複数のセルの各々は、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を含んだブランク媒体を準備し、前記複数のセルの一部が含んでいる前記回折構造形成部の前記表面のうち前記回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は前記回折構造形成部を溶解する液を供給して、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することを含んだ画像表示体の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、レーザビームを使用することなしに、回折格子アレイに画像をオンデマンドで記録することを可能となる。
【0027】
本発明の第1側面に係る画像表示体は、複数のセルの一部が含んでいる回折構造形成部の表面のうち回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は回折構造形成部を溶解する液を供給して、この領域の少なくとも一部において回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することにより得られるものである。このような画像表示体のセルでは、レーザビーム照射による炭化を生じていない。それ故、この炭化が画質に及ぼす影響を排除することができる。
【0028】
本発明の第2側面に係る画像表示体では、複数のセルは、上記領域の少なくとも一部において回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されており且つ上記領域に占める回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されている部分の割合が異なる2つ以上のセルを含んでいる。この構造を採用すると、これらセルに、上記割合に対応した階調を表示させることができる。
【0029】
本発明の第3側面に係る画像表示体では、複数のセルは、上記領域のうち、少なくとも回折格子の回折効率が低減されていない部分を被覆した反射層を更に含んでいる。この反射層を設けると、回折構造が表示する画像の視認性が向上する。
【0030】
本発明の第4側面に係る画像表示体は、第1方向に隣り合ったセル間で回折格子の格子定数及び/又は溝の長さ方向が異なっているブランク媒体を使用して得られる。このようなブランク媒体を使用すると、カラー画像及び/又は立体画像を表示する画像表示体が得られる。
【0031】
本発明の第5側面に係る画像表示体は、第1方向に隣り合ったセル間に、頂部の位置が回折格子の溝の底部と比較してより高い複数の突起を備えたブランク媒体を使用して得られる。このブランク媒体を使用すると、透明材料層を形成するためのインキ又は回折構造形成部を溶解させるための液を或るセル上に供給した場合に、このインキ又は液が、先のセルに対して第1方向に隣り合ったセルへと広がるのを防止できる。
【0032】
本発明の第5側面に係る画像表示体では、先の突起は、第2方向に各々が延び、第1方向に配列した複数の隔壁である。この構造は、透明材料層を形成するためのインキ又は回折構造形成部を溶解させるための液の粘度の高低に拘らず使用することができる。
【0033】
本発明の第7側面に係る画像表示体では、先の突起は、第1及び第2方向に配列している。この構造は、特に、透明材料層を形成するためのインキ又は回折構造形成部を溶解させるための液の粘度が高い場合に有利に使用される。
【0034】
本発明の第8側面に係る画像表示体では、第1及び第2方向は直交しており、複数のセルのうち第2方向に隣り合ったもの同士は、回折格子の格子定数及び溝の長さ方向が互いに等しい。この構造を採用した場合、透明材料層を形成するためのインキ又は回折構造形成部を溶解させるための液を供給する位置が第2方向に多少ずれたとしても、このずれが画質に及ぼす影響は小さい。
【0035】
本発明の第9側面に係る個人認証媒体は、第1乃至第8側面の何れか1つに係る画像表示体を具備している。それ故、この個人認証媒体は、優れた画質の画像を表示するのに加え、改竄が困難である。
【0036】
本発明の第10側面に係る個人認証媒体では、画像表示体が表示する画像は第1個人情報を含み、基材が表示する画像は第2個人情報を含み、第1及び第2個人情報は同一人物の情報である。このような個人認証媒体は、画像表示体及び基材の一方のみが個人情報を表示する個人認証媒体と比較して、改竄がより困難である。
【0037】
本発明の第11側面に係る個人認証媒体では、第1及び第2個人情報の少なくとも一方は生体情報を含んでいる。生体情報は、個体に特有なものであるので、個人認証に特に有用である。
【0038】
本発明の第12側面に係るブランク媒体は、第1方向に隣り合ったセル間に、回折格子からなる領域と比較して高さがより高い複数の突起を備えている。この構造を採用した場合、透明材料層を形成するためのインキ又は回折構造形成部を溶解させるための液を或るセル上に供給した場合に、このインキ又は液が、先のセルに対して第1方向に隣り合ったセルへと広がるのを防止できる。
【0039】
本発明の第13側面に係る画像表示体の製造方法では、複数のセルの一部が含んでいる回折構造形成部の表面のうち回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は回折構造形成部を溶解する液を供給して、この領域の少なくとも一部において回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減する。この方法では、レーザビーム照射による炭化を生じない。それ故、この炭化が画質に及ぼす影響を排除することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の第1態様に係る個人認証媒体を概略的に示す平面図。
【図2】図1に示す個人認証媒体の一部を拡大して示す平面図。
【図3】図1に示す個人認証媒体の一部を拡大して示す断面図。
【図4】図1に示す個人認証媒体の製造に使用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図。
【図5】図4に示すブランク媒体の断面図。
【図6】図1に示す個人認証媒体の製造に使用可能な製造装置の一例を概略的に示す斜視図。
【図7】図6に示す製造装置が含んでいるインクジェット印字ヘッドの一部を概略的に示す図。
【図8】ブランク媒体の一変形例を概略的に示す斜視図。
【図9】ブランク媒体の他の変形例を概略的に示す斜視図。
【図10】ブランク媒体の更に他の変形例を概略的に示す斜視図。
【図11】本発明の第2態様に係る個人認証媒体を概略的に示す断面図。
【図12】立体画像を表示する画像表示体の製造に利用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図。
【図13】立体画像を表示する画像表示体の製造に利用可能なブランク媒体の他の例を概略的に示す平面図。
【図14】立体画像の撮影方法の一例を概略的に示す図。
【図15】図14に示す方法によって撮影した画像の1つを画像処理することによって得られる要素画像を概略的に示す図。
【図16】図14に示す方法によって撮影した画像の他の1つを画像処理することによって得られる要素画像を概略的に示す図。
【図17】画像表示体が立体画像を表示している様子を概略的に示す斜視図。
【図18】立体画像と平面画像とを組み合わせを表示する画像表示体の製造に使用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図。
【図19】立体画像及び平面画像の撮影方法の一例を概略的に示す図。
【図20】図19に示す方法によって撮影した画像の1つを概略的に示す図。
【図21】図19に示す方法によって撮影した画像の他の1つを概略的に示す図。
【図22】図19に示す方法によって撮影した画像の更に他の1つを概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図1は、本発明の第1態様に係る個人認証媒体を概略的に示す平面図である。
図1に示す個人認証媒体100は、パスポートなどの冊子体である。図1には、開いた状態の冊子体を描いている。
【0043】
この個人認証媒体100は、折り丁1と表紙2とを含んでいる。
折り丁1は、1枚以上の紙片11からなる。典型的には、紙片11上には、文字列及び地紋などの印刷パターン12が設けられている。折り丁1は、1枚の紙片11を又は複数枚の紙片11の束を二つ折りにすることによって形成されている。紙片11は、個人情報が記録されるIC(integrated circuit)チップや、このICチップとの非接触での通信を可能とするアンテナなどを内蔵していてもよい。
【0044】
表紙2は、二つ折りされている。表紙2と折り丁1とは、冊子体を閉じた状態で折り丁1が表紙2によって挟まれるように重ね合わされており、それらの折り目の位置で綴じ合わせなどによって一体化されている。
【0045】
表紙2は、個人情報を含んだ画像を表示する。この個人情報は、個人の認証に利用する個人認証情報を含んでいる。この個人情報は、例えば、生体情報と非生体個人情報とに分類することができる。
【0046】
生体情報は、生体の特徴のうち、その個体に特有なものである。典型的には、生体情報は、光学的手法によって識別可能な特徴である。例えば、生体情報は、顔、指紋、静脈及び虹彩の少なくとも1つの画像又はパターンである。
【0047】
非生体個人情報は、生体情報以外の個人情報である。例えば、非生体個人情報は、氏名、生年月日、年齢、血液型、性別、国籍、住所、本籍地、電話番号、所属及び身分の少なくとも1つである。非生体個人情報は、タイプ打ちによって入力された文字を含んでいてもよく、署名などの手書きを機械読み取りすることによって入力された文字を含んでいてもよく、それらの双方を含んでいてもよい。
【0048】
図1において、表紙2は、画像I1a、I1b、I2及びI3を表示している。
画像I1a、I2及びI3は、光の吸収を利用して表示される画像である。具体的には、画像I1a、I2及びI3は、白色光で照明し、肉眼で観察した場合に視認可能な画像である。画像I1a、I2及びI3の1つ以上を省略してもよい。
【0049】
画像I1a、I2及びI3は、例えば、染料及び顔料で構成することができる。この場合、画像I1a、I2及びI3の形成には、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法、又はそれらの2つ以上の組み合わせを利用することができる。或いは、画像I1a、I2及びI3は、感熱発色剤を含んだ層を形成し、この層にレーザビームで描画することにより形成することができる。或いは、これら方法の組み合わせを利用することができる。画像I2及びI3の少なくとも一部は、ホットスタンプを用いた熱転写記録法によって形成してもよく、印刷法によって形成してもよく、それらの組み合わせを利用して形成してもよい。
【0050】
画像I1bは、ホログラム及び/又は回折格子が表示する画像である。画像I1bは、後で詳述するように、例えばインクジェット記録法によって形成する。
【0051】
画像I1a及びI1bは、同一人物の顔画像を含んでいる。画像I1aが含んでいる顔画像と、画像I1bが含んでいる顔画像とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。画像I1aが含んでいる顔画像と、画像I1bが含んでいる顔画像とは、寸法が等しくてもよく、異なっていてもよい。また、画像I1a及びI1bの各々は、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでいてもよく、顔画像に加えて顔画像以外の生体情報を更に含んでいてもよい。
【0052】
画像11bは、生体情報の代わりに非生体個人情報を含んでいてもよく、生体情報に加えて非生体個人情報を更に含んでいてもよい。また、画像11bは、個人情報の代わりに非個人情報を含んでいてもよく、個人情報に加えて非個人情報を更に含んでいてもよい。
【0053】
画像I2は、非生体個人情報と非個人情報とを含んでいる。画像I2は、例えば、文字、記号、符号及び標章の1つ以上を構成している。
【0054】
画像I3は、地紋である。例えば、画像I3と画像11a及び11bの少なくとも一方とを組み合わせると、個人認証媒体100の改竄をより困難にすることができる。
【0055】
次に、表紙2の構造について、図2及び図3を参照しながら説明する。
図2は、図1に示す個人認証媒体の一部を拡大して示す平面図である。図3は、図1に示す個人認証媒体の一部を拡大して示す断面図である。なお、図2及び図3に示す構造は、表紙2のうち画像I1bに対応した部分である。
【0056】
表紙2は、図3に示すように、表紙本体21と画像表示体22とを含んでいる。
表紙本体21は、個人認証媒体100の基材であって、典型的には紙片である。表紙本体21は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。表紙本体21は、個人認証媒体100を閉じた状態において、折り丁1を挟み込むように二つ折りされている。
【0057】
画像表示体22は、多層構造を有している層である。画像表示体22は、個人認証媒体100を閉じた状態において折り丁1と向き合う表紙本体21の主面に貼り付けられている。
【0058】
画像表示体22は、画像I1a、I2及びI3の少なくとも一部を表示する画像表示層(図示せず)を含んでいる。この画像表示層が表示する画像は、典型的には画像I1aを含んでいる。
【0059】
この画像表示層は、光の吸収を利用して画像I1a、I2及びI3の少なくとも一部を表示する。この画像表示層は、画像I1a、I2及びI3の少なくとも一部に対応したパターン形状を有している。この画像表示層は、染料及び顔料の少なくとも一方と任意の樹脂とで構成することができる。このような画像表示層は、例えば、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法、又はそれらの2つ以上の組み合わせを利用することにより得ることができる。また、この画像表示層の少なくとも一部は、ホットスタンプを用いた熱転写記録法によって形成してもよく、印刷法によって形成してもよく、それらの組み合わせを利用して形成してもよい。
【0060】
この画像表示層は、パターニングされていなくてもよい。即ち、この画像表示層は、連続膜であってもよい。この場合、画像表示層は、例えば、感熱発色剤を含んだ層を形成し、この層にレーザビームで描画することにより得ることができる。
【0061】
この画像表示層は、省略することができる。例えば、この画像表示層は、画像表示体22の構成要素とせずに、表紙本体21上に設けてもよい。
【0062】
画像表示体22は、図3に示すように、画像表示層220a及び保護層227を更に含んでいる。
画像表示層220aは、回折構造形成層223と透明材料層229と反射層224と接着層225とを含んでいる。
【0063】
回折構造形成層223は、一方の主面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明層である。回折構造形成層223は、特定の照明方向から白色光で照明して、特定の観察方向から観察した場合に異なる色を表示する第1乃至第3部分を含んでいる。第1乃至第3部分は、回折格子の格子定数及び溝の長さ方向の少なくとも一方が互いに異なっている。第1乃至第3部分は、例えば、青、緑及び赤色を表示する。
【0064】
なお、回折構造形成層223のうち、後述するセルC1乃至C3の各々に対応した部分は回折構造形成部である。また、図3では、理解を容易にするために、回折格子を構成している溝を、それらの長さ方向がY方向に対して平行であるが如く描いているが、溝の長さ方向はY方向に対して平行でなくてもよい。例えば、溝の長さ方向は、X方向に対して平行であってもよい。
【0065】
回折構造形成層223の材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリオールアクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、トリアジンアクリレート及びトリアジンメタアクリレートなどの熱硬化性樹脂、これらの混合物、又はラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料を使用することができる。回折構造形成層223は、光硬化性を有している樹脂を使用して形成してもよい。なお、このような透明樹脂を用いて得られる回折構造形成層223は、典型的には、波長が550nmの光に対する屈折率が1.3乃至1.7の範囲内にある。
【0066】
透明材料層229は、回折構造形成層223の回折格子が設けられた主面を部分的に被覆している。透明材料層229は、回折構造形成層223の回折格子が設けられた主面のうちこれが被覆している領域において、他の領域と比較して反射率をより小さくする。典型的には、透明材料層229の回折構造形成層223を被覆している面の裏面は、滑面であるか、又は、回折構造形成層223の透明材料層229によって被覆されている面と比較してピッチに対する深さがより小さな溝が設けられている。
【0067】
透明材料層229は、回折構造形成層223とほぼ等しい屈折率を有している。例えば、波長が550nmの光に対する透明材料層229の屈折率と、この波長の光に対する回折構造形成層223の屈折率との差の絶対値は、典型的には0.1以下である。また、反射層224が透明である場合、可視域の或る波長に対する透明材料層229の屈折率とこの波長に対する回折構造形成層223の屈折率との差の絶対値は、先の波長に対する反射層224の屈折率とこの波長に対する回折構造形成層223の屈折率との差の絶対値と比較してより小さい。
【0068】
透明材料層229は、例えば透明樹脂からなる。透明材料層229は、例えば、透明樹脂を含んだインキを、インクジェット法などの印刷法によって回折構造形成層223上に供給することによって形成する。
【0069】
このインキとしては、例えば、透明樹脂を有機溶剤に溶解してなるものを使用することができる。この透明樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリオールアクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、トリアジンアクリレート及びトリアジンメタクリレートなどの熱硬化性樹脂、又はこれらの混合物を使用することができる。また、有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、THF、エタノール系溶剤、グリコール系溶剤又はエーテル系溶剤を使用することができる。
【0070】
このインキとして、水を溶媒又は分散媒として含んだインキを使用してもよい。例えば、このインキとして、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性樹脂を水に溶解させてなるものを使用してもよい。或いは、このインキとして、ポリウレタン樹脂及びアクリル樹脂などの透明樹脂を分散粒子として含んだエマルジョン、又は、ブタジエン系ラテックスなどのラテックスを使用してもよい。
【0071】
このインキとして、紫外線硬化性インキを使用してもよい。紫外線硬化性インキとしては、重合性化合物と、光重合開始剤と、任意の添加剤とを含んだ混合物を使用することができる。重合性化合物としては、例えば、アクリレート系又はメタアクリレート系モノマーを使用することができる。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、アセトフェノン系又はチオキサントン系開始剤を使用することができる。任意の添加剤としては、例えば、溶媒及び分散剤を使用することができる。
【0072】
インクジェット法を利用する場合、先のインキは、インクジェット印字ヘッドの適性を考慮して粘度を調節する。例えば、インキの粘度は、1乃至100mPa・sの範囲内とする。
【0073】
反射層224は、回折構造形成層223及び透明材料層229の上に形成されている。反射層224は、回折構造形成層223のレリーフ構造が設けられた面の少なくとも一部と透明材料層229の少なくとも一部とを被覆している。反射層224は、透明材料層229を被覆していなくてもよい。反射層224は省略することができるが、反射層224を設けると、回折構造が表示する画像の視認性が向上する。
【0074】
反射層224としては、例えば、透明反射層又は不透明な反射層を使用することができる。そのような反射層224は、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することができる。反射層224が樹脂を含んでいる場合、反射層224は、塗布又は印刷を利用して形成してもよい。
【0075】
反射層224として透明反射層を使用すると、反射層224の背面側に絵柄及び文字等のパターンを配置した場合であっても、これを画像表示体22の前面側から視認することができる。
【0076】
透明反射層としては、例えば、その屈折率が透明材料層229について上述した関係を満足しているものを使用することができる。透明反射層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。後者の場合、透明反射層は、繰り返し反射干渉を生じるように設計されていてもよい。
【0077】
透明反射層の材料としては、例えば、硫化亜鉛及び二酸化チタンなどの透明誘電体を使用することができる。透明誘電体からなる単層構造の透明反射層は、典型的には、回折構造形成層223及び透明材料層229と比較して、上述した波長の光に対する屈折率がより大きい。透明誘電体からなる多層構造の透明反射層は、典型的には、回折構造形成層223の最も近い層の上述した波長の光に対する屈折率が、回折構造形成層223及び透明材料層229のこの波長の光に対する屈折率と比較してより大きい。
【0078】
或いは、透明反射層として金属層を使用してもよい。金属層の材料としては、例えば、アルミニウム、錫、銅、銀、金及び鉄などの単体金属又はそれらの合金を使用することができる。金属層は、厚い場合には遮光性であるが、薄くすると透明になる。例えば、厚さが20乃至40nmの範囲内にあるアルミニウム層の場合、或る観察条件のもとでは金属光沢を観察できるが、観察角度を変更するとその背景が透けて見える。
【0079】
透明反射層として、より厚い金属層を使用することも可能である。例えば、比較的厚い金属層を形成し、これに肉眼での識別が困難な径又は幅の開口を多数設ける。例えば、この金属層を、網点又は万線状にパターニングする。これにより、金属材料からなる透明反射層を得ることができる。
【0080】
不透明な金属反射層の材料としては、例えば、透明反射層としての金属層に関して上述した材料を使用することができる。不透明な金属反射層は、典型的には、肉眼での識別が困難な径又は幅の開口は設けられておらず、光を遮るのに十分な厚さを有している。
【0081】
透明反射層又は不透明な反射層として、透明樹脂とこの中で分散した粒子とを含んだ層を使用してもよい。この粒子としては、例えば、単体金属及び合金などの金属材料からなる粒子、又は、透明金属酸化物及び透明樹脂などの透明誘電体からなる粒子を使用することができる。透明樹脂中には、粒子を分散させる代わりに、薄片を分散させてもよい。
【0082】
接着層225は、反射層224と表紙本体21との間に介在している。接着層225は、例えば熱可塑性樹脂からなる。
【0083】
接着層225の材料としては、例えば、ウレタン樹脂、ブチラール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル及び塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などの塩化ビニル系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩素化ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリビニルベンゼン、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、スチレンとメタクリル酸アルキル(但し、アルキル基の炭素数は2乃至6)とから得られるポリビニル樹脂などのビニル樹脂、ゴム系材料、又は、これらの2種以上を含んだ混合物を使用することができる。
【0084】
接着層225には、ワックス、ステアリン酸などの高級脂肪酸、その金属塩及びエステル、可塑剤、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂及びポリアクリロニトリルなどの有機材料からなる有機フィラー、並びにシリカからなどの無機材料からなる無機フィラーの1つ以上を添加してもよい。
【0085】
接着層225は、画像表示体22の構成要素であってもよく、画像表示体22の構成要素でなくてもよい。また、接着層225は、省略することができる。
【0086】
保護層227は、画像表示層220aを被覆している。保護層227は、光透過性を有しており、典型的には透明である。保護層227は、省略することができる。
【0087】
保護層227は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び紫外線又は電子硬化樹脂などの樹脂からなる。転写箔を利用して画像表示体22を表紙本体21に貼り付ける場合は、柔軟性及び箔切れ性の観点で熱可塑性樹脂を使用することが好ましい。
【0088】
この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸エステル樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、セルロース系樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ニトロセルロース系樹脂、スリレンアクリレート系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、又はそれらの混合物を使用することができる。箔切れ性や耐摩性を考慮して、この樹脂に、石油系ワックス及び植物系ワックスなどのワックス、ステアリン酸などの高級脂肪酸、その金属塩、エステル及びシリコーンオイルなどの滑材、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂及びポリアクリロニトリルなどの有機材料からなる有機フィラー、並びにシリカからなどの無機材料からなる無機フィラーの1つ以上を添加してもよい。
【0089】
この画像表示体22は、複数のセルC1乃至C3を含んでいる。セルC1乃至C3は、互いに交差するX及びY方向に配列している。X方向に隣り合ったセルC1乃至C3は、互いに接している。
【0090】
図2及び図3に示す例では、X方向に配列した3つのセルC1乃至C3から各々がなるトリプレットがX及びY方向に配列している。これらセルC1乃至C3は、ストライプ配列を形成している。セルC1乃至C3は、ストライプ配列の代わりに、デルタ配列などの他の配列を形成していてもよい。
【0091】
なお、X及びY方向は、表紙本体21の主面に対して平行な方向である。X方向とY方向とが為す角度は任意である。ここでは、一例として、X及びY方向は直交していることとする。
【0092】
X方向に並んだセルC1乃至C3の境界は、回折構造形成層223について上述した第1乃至第3部分の境界に対応している。これら境界は、図2ではY方向に延びた実線で表している。Y方向に隣り合ったセル間の境界は、例えば図3に示す透明材料層229の配置に基づいて決定され、図2ではX方向に延びた破線で表している。
【0093】
セルC1は、典型的には、形状及び寸法が互いに等しい。また、セルC2も、典型的には、形状及び寸法が互いに等しい。セルC2は、セルC1と形状及び寸法が等しくてもよく、それらの少なくとも一方が異なっていてもよい。更に、セルC3も、典型的には、形状及び寸法が互いに等しい。セルC3は、セルC1又はC2と形状及び寸法が等しくてもよく、それらの少なくとも一方が異なっていてもよい。ここでは、一例として、セルC1乃至C3は、形状及び寸法が互いに等しいこととする。
【0094】
3つのセルC1乃至C3からなるトリプレットは小さな寸法を有しており、典型的には、肉眼で観察した場合にそれらセルC1乃至C3を互いから区別することはできない。
【0095】
セルC1乃至C3の各々は、高効率部PHからなるか、又は、高効率部PHと低効率部PLとからなる。
【0096】
高効率部PHは、画像表示体22のうち回折構造を含み且つ透明材料層229が設けられていない部分である。高効率部PHは、特定の照明方向から白色光で照明した場合に、特定の方向に回折光として可視光を射出する。
【0097】
他方、低効率部PLは、画像表示体22のうち透明材料層229に対応した部分である。低効率部PLは、例えば、あらゆる方向から白色光で照明しても、何れの方向にも回折光としての可視光を射出しない。或いは、低効率部PLは、特定の照明方向から白色光で照明した場合に、高効率部PHと比較して弱い強度で、特定の方向に回折光として可視光を射出する。
【0098】
次に、図4乃至図7を参照しながら、個人認証媒体100の製造方法を説明する。
図4は、図1に示す個人認証媒体の製造に使用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図である。図5は、図4に示すブランク媒体の断面図である。
【0099】
図4及び図5には、ブランク媒体を含んだ転写箔201を描いている。転写箔201は、図5に示すように、ブランク媒体としての転写材層220a’と、これを剥離可能に支持した支持体221とを含んでいる。
【0100】
支持体221は、例えば樹脂フィルム又はシートである。支持体221は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの耐熱性に優れた材料からなる。支持体221の転写材層220a’を支持している主面には、例えばフッ素樹脂又はシリコーン樹脂を含んだ離型層が設けられていてもよい。
【0101】
転写材層220a’は、保護層227と回折構造形成層223とを含んでいる。保護層227と回折構造形成層223とは、支持体221上にこの順に形成されている。
【0102】
転写材層220a’の全体又は一部は、画像表示層220aの製造に利用する。転写材層220a’又はその一部は、透明材料層229と反射層224と接着層225とを含んでいないこと以外は画像表示層220aと同様である。
【0103】
個人認証媒体100の製造においては、例えば、まず、撮像装置を用いて、人物の顔を撮影する。或いは、印画から顔画像を読み取る。これにより、画像情報を電子情報として得る。この顔画像は、必要に応じて画像処理する。
【0104】
次に、例えば図6に示す装置500を用いて、転写箔201上に透明材料層229及び反射層224をこの順に形成する。ここでは、一例として、転写箔201は転写リボンであるとする。
【0105】
図6は、図1に示す個人認証媒体の製造に使用可能な製造装置の一例を概略的に示す斜視図である。図7は、図6に示す製造装置が含んでいるインクジェット印字ヘッドの一部を概略的に示す図である。
【0106】
図6に示す装置500は、インクジェット印字装置510及び530と、乾燥器520及び540と、熱転写印字装置550と、熱転写装置560と、搬送機構570とを含んでいる。
【0107】
搬送機構570は、転写箔201を、その長さ方向に搬送する。インクジェット印字装置510、乾燥器520、インクジェット印字装置530、乾燥器540、熱転写印字装置550及び熱転写装置560は、転写箔201の流れの上流側から下流側に向けてこの順に配置されている。
【0108】
インクジェット印字装置510は、図7に示すように、複数のインクジェットノズル511を含んでいる。これらインクジェットノズル511は、セルC1乃至C3の列と向き合うように配置されている。
【0109】
インクジェットノズル511は、透明材料層229を形成するべく、転写箔201の回折構造形成層223に向けてインキ滴229Dを吐出する。これらインクジェットノズル511の吐出動作、例えばインクジェットインキを吐出するタイミングは、図示しないコントローラによって個別に制御される。
【0110】
回折構造形成層223上に吐出されたインキ滴229Dは、図7に示すインキ層229Lを形成する。図6に示す乾燥器520は、インキ層229Lを乾燥させる。例えば、インキが溶媒又は分散媒を含んでいる場合、乾燥器520は、例えば遠赤外線及び/又は温風を利用した蒸発乾燥方式によってインキ層229Lを乾燥させる。紫外線硬化インキを使用した場合、乾燥器520は、例えば、紫外線乾燥方式によってインキ層229Lを乾燥させる。これにより、図3に示す透明材料層229を得る。
【0111】
なお、図2に示すように、Z方向から観察した場合におけるセルに対する透明材料層229の面積比、即ちセルに対する低効率部PLの面積比を同一の色を表示するセル間で異ならしめると、階調画像を表示することができる。また、トリプレットを構成しているセルC1乃至C3の各々において低効率部PLとこのセルとの面積比を適宜設定することにより、このトリプレットに、青、緑、赤、白及び黒色に加えて、所望の中間色を表示させることも可能である。
【0112】
転写箔201は、乾燥器520による乾燥工程を経た後、図6に示すインクジェット印字装置530の正面へと移動する。インクジェット印字装置530は、反射層224を形成するべく、回折構造形成層223及び透明材料層229の上にインキ滴を吐出する。これらの上に吐出されたインキ滴は、インキ層を形成する。
【0113】
乾燥器540は、このインキ層を乾燥させる。例えば、インキが溶媒又は分散媒を含んでいる場合、乾燥器540は、例えば遠赤外線及び/又は温風を利用した蒸発乾燥方式によってこのインキ層を乾燥させる。或いは、紫外線硬化インキを使用した場合、乾燥器540は、例えば、紫外線乾燥方式によってこのインキ層を乾燥させる。これにより、図3に示す反射層224を得る。
【0114】
反射層224は、転写箔を利用して回折構造形成層223及び透明材料層229の上に設けてもよい。例えば、まず、支持体上に反射層及び接着層をこの順に形成してなる転写箔を準備する。この反射層としては、例えば、透明樹脂及びこの中で分散した金属薄片を含んだ反射層を形成する。次に、この支持体から、反射層と接着層との積層体を、回折構造形成層223及び透明材料層229の上に熱転写する。このようにして、回折構造形成層223及び透明材料層229の上に反射層224を設ける。
【0115】
反射層224は、真空蒸着及びスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することもできる。但し、上述したインクジェット記録法又は熱転写法を利用すると、例えば網点又は万線状にパターニングされた反射層224を容易に形成することができるのに加え、装置500の小型化が容易である。
【0116】
次いで、反射層224上に接着層225を形成する。接着層225は、例えば、熱可塑性樹脂を含んだ液を、図示しない塗布装置を用いて反射層224上に塗布し、この塗膜を図示しない乾燥器で乾燥させることにより得られる。
【0117】
続いて、接着層225が形成された転写箔201は、熱転写印字装置550の正面へと移動する。熱転写印字装置550は、サーマルヘッド551を含んでおり、転写リボン552のインキ層の一部を、その支持体から接着層225上へと熱転写する。これにより、接着層225上に、画像表示層として印刷パターンを形成する。なお、反射層224が不透明である場合、例えば、反射層224に開口を設けておき、この開口の位置に、印刷パターンとしての画像表示層を形成する。
【0118】
この画像表示層は、例えば、着色材料、蛍光材料及び赤外線吸収材料の少なくとも1つを含んだ層である。この画像表示層は、例えば、図1に示す画像I1a及びI2の少なくとも一方を表示する。この画像表示層は、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法によって形成する代わりに、例えば、インクジェット記録法、電子写真法、ホットスタンプを用いた熱転写記録法、印刷法、又はそれらの組み合わせを利用して形成することができる。印刷法としては、例えば、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法又は凸版印刷法を利用することができる。
【0119】
なお、この画像表示層は、接着層225上に形成する代わりに、回折構造形成層223と接着層225との間に位置させてもよい。例えば、この画像表示層は、反射層224が透明である場合、反射層224上に形成してもよい。
【0120】
その後、この転写箔201は、熱転写装置560の正面へと移動する。熱転写装置560は、転写材層220a’の一部を、その上に形成された層と共に、支持体221から冊子体100’の見返し上へと熱転写する。
【0121】
この熱転写には、例えばヒートロール又はホットスタンプを利用する。なお、ヒートロール又はホットスタンプを利用した熱転写の代わりに、サーマルヘッドを利用した熱転写を行ってもよい。以上のようにして、冊子体100’に画像表示体22を貼り付ける。
【0122】
冊子体100’の見返し上には、例えば画像I3を表示する画像表示層を形成しておいてもよい。また、見返し上には、接着強さを高めるために、接着アンカー層を形成しておいてもよい。
【0123】
このようにして画像表示体22を冊子体100’上に熱転写した後、必要な工程を適宜実施する。以上のようにして、図1乃至図3を参照しながら説明した個人認証媒体100を得る。
【0124】
この方法では、インクジェット記録法を利用して、セルC1乃至C3に低効率部PLを形成する。それ故、回折格子アレイに画像をオンデマンドで記録することが可能である。また、この方法では、レーザビーム照射を行う代わりに、透明材料層229を形成してセルC1乃至C3に低効率部PLを形成する。そのため、レーザビーム照射に伴う黒化を生じることがない。即ち、この方法によると、オンデマンドで回折格子アレイに画像を記録すると共に、優れた画質を達成することができる。
【0125】
また、この画像表示体22は、個人情報の一部を、ホログラム及び/又は回折格子を用いて表示する。ホログラム及び/又は回折格子が表示する個人情報、特には生体情報の改竄は極めて困難である。そして、上述した方法では、画像表示体22は、熱転写によって表紙本体21に支持させる。そのような画像表示体22は、表紙本体21から剥離しようとすると、容易に破壊される。それ故、この個人認証媒体100は、改竄が困難である。
【0126】
この個人認証媒体100の製造においては、図4及び図5を参照しながら説明したブランク媒体の代わりに、以下に説明するブランク媒体を使用してもよい。
【0127】
図8は、ブランク媒体の一変形例を概略的に示す斜視図である。図9は、ブランク媒体の他の変形例を概略的に示す斜視図である。図10は、ブランク媒体の更に他の変形例を概略的に示す斜視図である。
【0128】
図8乃至図10には、ブランク媒体を含んだ転写箔201を描いている。これら転写箔201は、図4及び図5を参照しながら説明した転写箔201と同様に、ブランク媒体としての転写材層220a’と、これを剥離可能に支持した支持体221とを含んでいる。
【0129】
図8乃至図10に示す転写箔201は、X方向に隣り合ったセルC1乃至C3間に突起PRが設けられていること以外は、図4及び図5を参照しながら説明した転写箔201とほぼ同様である。突起PRを設けると、図7に示すインキ層229Lの位置精度、即ち図2に示す低効率部PLの位置精度が向上する。具体的には、或るセル上に形成すべきインキ層229Lが、このセルに対してX方向に隣り合ったセルへと広がるのを防止できる。
【0130】
突起PRは、頂部の位置が、回折構造形成層223に設けられた回折格子DGの溝の底部と比較してより高い。突起PRは、回折格子DGの溝の底部を基準とした高さが、回折格子DGの溝の深さと比較してより低くてもよい。或いは、図9に示すように、突起PRは、回折格子DGの溝の底部を基準とした高さが、回折格子DGの溝の深さと等しくてもよい。或いは、図8及び図10に示すように、突起PRは、回折格子DGの溝の底部を基準とした高さが、回折格子DGの溝の深さと比較してより高くてもよい。図7に示すインキ層229Lの位置精度の観点では、突起PRの高さが高いことが有利である。
【0131】
突起PRは、図8及び図9に示すように、Y方向に各々が延び、X方向に配列した隔壁であってもよい。或いは、突起PRは、図10に示すように、Y方向に各々が延び、X方向に配列した隔壁部PR1と、各隔壁部PR1の上でY方向に配列した凸部PR2とを含んでいてもよい。なお、図7に示すインキ層229の形成に使用するインキの粘度が十分に高い場合は、図10に示す突起部PRから隔壁部PR1を省略することができる。
【0132】
次に、本発明の第2態様を説明する。
図11は、本発明の第2態様に係る個人認証媒体を概略的に示す断面図である。
【0133】
第2態様では、透明材料層229を形成するためのインキを回折構造形成層223上に供給する代わりに、回折構造形成層223が溶解する液をその上に供給する。こうすると、この液を供給した位置では、図11に参照符号DPで示しているように回折構造形成層223の表面構造が変化し、その結果、回折格子DGの回折効率をゼロになるか又は低減される。
【0134】
なお、図11に参照符号DPで示している部分は、図2の低効率部PLに対応している。また、図11に参照符号DGで示している部分は、図2の高効率部PHに対応している。
【0135】
回折構造形成層223を溶解させる液は、回折構造形成層223に使用する材料に応じて適宜選択する。この液は、回折構造形成層223を溶解させることができれば、水であってもよく、水以外の水性溶媒であってもよく、有機溶剤であってもよい。
【0136】
また、この液は、回折構造形成層223を溶解させることができれば、乾燥後に固形分として残留する成分を含んでいてもよい。例えば、この液は、樹脂を更に含有していてもよい。
【0137】
ここで使用するブランク媒体には、図4及び図5を参照しながら説明した構造を採用してもよく、図8乃至図10を参照しながら説明した構造の何れかを採用してもよい。一般に、回折構造形成層223を溶解させる液は、透明材料層229を形成するために使用するインキと比較して粘度が小さい。それ故、この液は、回折構造形成層223上で広がり易い。従って、図8乃至図10を参照しながら説明した構造、特に図8を参照しながら説明した構造は、図2に示す低効率部PLを高い位置精度で形成するのに極めて有効である。
【0138】
上述した技術は、カラー画像の表示に利用可能であるだけでなく、モノクロ画像の表示にも利用することができる。また、この技術は、平面画像の表示に利用可能であるだけでなく、立体画像の表示にも利用することができる。
【0139】
図12は、立体画像を表示する画像表示体の製造に利用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図である。図13は、立体画像を表示する画像表示体の製造に利用可能なブランク媒体の他の例を概略的に示す平面図である。
【0140】
図12及び図13において、参照符号C0R及びC0Lは、それぞれ、右眼用セル及び左眼用セルを表している。また、参照符号Gは、回折格子の溝を表している。
【0141】
図12及び図13に示すブランク媒体220a’は、セルC1乃至C3の代わりにセルC0R及びC0Lを含んでいること以外は、図4及び図5を参照しながら説明したブランク媒体220a’と同様である。セルC0R及びC0Lの各々は、例えば、回折格子の溝Gの向きが異なっているか、又は、回折格子の格子定数と溝Gの向きとが異なっていることを除いて、セルC1乃至C3の何れかとほぼ同様の構造を有している。
【0142】
セルC0R及びC0Lの各々では、溝Gは、同一の形状を有しており、一定のピッチで互いに平行に配列している。また、セルC0RとセルC0Lとでは、溝Gの形状及びピッチは同一である。図12及び図13に示す例では、溝Gは円弧状に湾曲しているが、これら溝は湾曲していなくてもよい。
【0143】
セルC0R及びC0Lの各々では、溝Gの長さ方向は、X方向及びY方向に対して傾いている。セルC0RとセルC0Lとでは、X方向及びY方向に対する溝Gの長さ方向の傾き角は同一であるが、これら長さ方向はX又はY方向に対して逆向きに傾いている。
【0144】
特定の拡散光照明条件のもとでは、回折格子は、その溝Gの長さ方向に対して垂直な方向に最大強度の回折光を射出する。従って、上記の構造を採用した場合、右眼用セルC0Rが最大強度の回折光を射出する方向と、左眼用セルC0Lが最大強度の回折光を射出する方向とを異ならしめることができる。図12及び図13に示すブランク媒体220a’から得られる画像表示体22では、これを利用して、右眼用セルC0Rからなるセル群に右眼用の画像を表示させ、左眼用セルC0Lからなるセル群に左眼用の画像を表示させる。
【0145】
なお、図12に示すブランク媒体220a’では、各右眼用セルC0Rに対してX方向に隣り合っている2つのセルの一方は右眼用セルC0Rであるが、他方は左眼用セルC0Lである。また、各右眼用セルC0Rに対してY方向に隣り合っている2つのセルは、何れも左眼用セルC0Lである。同様に、各左眼用セルC0Lに対してX方向に隣り合っている2つのセルの一方は左眼用セルC0Lであるが、他方は右眼用セルC0Rである。また、各左眼用セルC0Lに対してY方向に隣り合っている2つのセルは、何れも右眼用セルC0Rである。それ故、図12に示す構造を採用した場合、図2に示す低効率部PLには、X方向及びY方向の双方について高い位置精度が要求される。
【0146】
これに対し、図13に示すブランク媒体220a’では、各右眼用セルC0Rに対してX方向に隣り合っている2つは何れも左眼用セルC0Lであるが、各右眼用セルC0Rに対してY方向に隣り合っている2つのセルは何れも右眼用セルC0Rである。同様に、各左眼用セルC0Lに対してX方向に隣り合っている2つのセルは何れも右眼用セルC0Rであるが、各左眼用セルC0Lに対してY方向に隣り合っている2つのセルは何れも左眼用セルC0Lである。それ故、図13に示す構造を採用した場合、図2に示す低効率部PLには、図12に示す構造を採用した場合ほど、Y方向について高い位置精度が要求されることはない。
【0147】
また、図12及び図13には、説明を簡略化するために、単純な構造の回折格子アレイを描いているが、立体画像を表示するための回折格子アレイには他の構成を採用することも可能である。例えば、回折格子アレイは、溝Gの長さ方向が同一の傾き角を有し且つ逆向きに傾いた2種類のセルC0R及びC0Lに加え、溝Gの長さ方向が異なるセルを更に含んでいてもよい。また、立体画像を表示するための回折格子アレイには、カラー画像を表示可能な構成を採用してもよい。
【0148】
次に、図12及び図13を参照しながら説明したブランク媒体220a’への立体画像の記録方法について説明する。ここでは、一例として、図13に示すブランク媒体220a’を使用することとする。
【0149】
図14は、立体画像の撮影方法の一例を概略的に示す図である。図15は、図14に示す方法によって撮影した画像の1つを画像処理することによって得られる要素画像を概略的に示す図である。図16は、図14に示す方法によって撮影した画像の他の1つを画像処理することによって得られる要素画像を概略的に示す図である。
【0150】
立体画像の撮影に際しては、例えば、図14に示すように、複数のカメラCR、CC及びCLを同一の水平面上に配置し、これらカメラCR、CC及びCLで被写体Sを同時に撮影する。或いは、1台のカメラを水平面内で移動させ、複数の位置で被写体Sを撮影する。
【0151】
次に、この撮影によって得られた画像データを画像処理する。なお、図13に示すブランク媒体220a’では、2種類のセルC0R及びC0Lによって回折格子アレイを構成しているので、2つの撮影位置で得られた画像データのみを使用する。例えば、図14に示すカメラCR及びCLで被写体Sを撮影し、これによって得られる画像データを処理する。
【0152】
具体的には、カメラCRで撮影した画像から、図13に示すブランク媒体220a’の右眼用セルC0Rに対応した領域を選択し、図15に示す要素画像IERを得る。また、カメラCLで撮影した画像から、図13に示すブランク媒体220a’の左眼用セルC0Lに対応した領域を選択し、図16に示す要素画像IELを得る。そして、これら要素画像IER及びIELを重ね合わせることにより、図示しない合成画像を得る。
【0153】
次いで、この合成画像を、図13に示すブランク媒体220a’に記録する。即ち、この合成画像から、ブランク媒体220a’のセルC0R及びC0Lの各々に表示させるべき階調を得る。この階調は、図2に示す低効率部PLの各セルに占める面積比と相関している。従って、この階調に基づいて低効率部PLを形成することにより、合成画像をブランク媒体220a’に記録することができる。
【0154】
その後、必要に応じて、図3に示す反射層224及び接着層225を形成する。以上のようにして、立体画像を表示する画像表示体22を得る。
【0155】
図17は、画像表示体が立体画像を表示している様子を概略的に示す斜視図である。
上記の通り、図13に示すブランク媒体220a’を特定の条件で照明した場合、セルC0RとセルC0Lとは、異なる方向に最大強度の回折光を射出する。従って、上述した方法により得られた画像表示体22を、等方的に光を放射する光源LSで斜め上方から照明した場合、図17に示すように、画像表示体22は、セルC0Rからなるセル群に記録された要素画像IERを観察者が右眼で知覚するように表示し、セルC0Lからなるセル群に記録された要素画像IELを観察者が左眼で知覚するように表示する。
【0156】
要素画像IER及びIELは、それぞれ、図14に示すカメラCR及びCLで撮影することによって得られたデータを画像処理したものである。従って、要素画像IER及びIELをそれぞれ右眼及び左眼で知覚した観察者は、画像表示体22が表示している画像を立体画像として認識する。
【0157】
立体画像は、平面画像と比較して、個人認証に利用可能な情報の量が多い。それ故、画像表示体22が立体画像を表示する個人認証媒体100は、画像表示体22が平面画像を表示する個人認証媒体100と比較して、個人認証媒体100の所有者と個人認証媒体100に個人情報が記録された人物とが同一人物であるか否かの判別が容易である。加えて、画像表示体22が立体画像を表示する個人認証媒体100は、画像表示体22が平面画像を表示する個人認証媒体100と比較して偽造が困難である。
【0158】
但し、先の説明から明らかなように、回折格子アレイに立体画像を表示させる場合、回折格子アレイには少なくとも2つの要素画像を記録する必要がある。それ故、回折格子アレイに立体画像を表示させる場合、回折格子アレイに平面画像を表示させる場合と比較して、表示画像の明るさは半分以下となる。従って、画像表示体22が立体画像を表示する場合、十分に明るい環境下では問題なく上記の判別を行うことができるが、暗い環境下では判別が難しくなる。
【0159】
以下に説明するように、画像表示体22に立体画像と平面画像とを組み合わせを表示する構成を採用すると、暗い環境下での判別を困難とすることなしに、画像表示体22に平面画像のみを表示する構成を採用した場合と比較して、個人認証媒体100の偽造をより難しくすることができる。
【0160】
図18は、立体画像と平面画像とを組み合わせを表示する画像表示体の製造に使用可能なブランク媒体の一例を概略的に示す平面図である。
【0161】
図18に示すブランク媒体220a’は、領域A1及びA2を含んでいる。領域A1は、平面画像を表示する領域である。他方、領域A2は、立体画像を表示する領域である。例えば、領域A1では、回折格子の溝のピッチ及び長さ方向が互いに等しい複数のセルがX方向とY方向とに配列し、領域A2は、図13を参照しながら説明したのと同様の構造を有している。
【0162】
次に、図18を参照しながら説明したブランク媒体220a’への立体画像及び平面画像の記録方法について説明する。
【0163】
図19は、立体画像及び平面画像の撮影方法の一例を概略的に示す図である。図20は、図19に示す方法によって撮影した画像の1つを概略的に示す図である。図21は、図19に示す方法によって撮影した画像の他の1つを概略的に示す図である。図22は、図19に示す方法によって撮影した画像の更に他の1つを概略的に示す図である。具体的には、図20に示す画像ICは、図19に示すカメラCCで撮影した画像である。そして、図21に示す画像IL及び図22に示す画像IRは、それぞれ、図19に示すカメラCL及びCRで撮影した画像である。
【0164】
立体画像及び平面画像のブランク媒体220a’への記録に際しては、例えば、図19に示す方法によって撮影を行う。
【0165】
図19に示す撮影方法では、奥行きを知覚可能な背景BGを被写体Sの背後に設置している。図19に示す撮影方法は、これ以外は、図14を参照しながら説明した撮影方法と同様である。
【0166】
次に、この撮影によって得られた画像データを画像処理する。具体的には、図20に示す画像ICから、図18に示すブランク媒体220a’の領域A1に対応した部分を抽出する。この抽出した部分は、被写体Sの画像を含んでおり、平面画像に対応した要素画像である。また、図21に示す画像IL及び図22に示す画像IRから、図18に示すブランク媒体220a’の領域A2に対応した部分を抽出し、これら抽出した部分から、図16及び図15を参照しながら説明したのと同様の方法により、左眼用の要素画像と右眼用の要素画像とを得る。更に、平面画像に対応した要素画像と左眼用の要素画像と右眼用の要素画像とを重ね合わせて、合成画像を得る。
【0167】
なお、カメラCL及びCRで被写体Sと背景BGとを撮影する代わりに、カメラCL及びCRで背景BGのみを撮影し、これによって得られる画像から左眼用の要素画像と右眼用の要素画像とを生成してもよい。このようにして得られる左眼用及び右眼用の要素画像と先の平面画像に対応した要素画像とを重ね合わせることによっても、合成画像を得ることができる。
【0168】
次いで、この合成画像を、図18に示すブランク媒体220a’に記録する。その後、必要に応じて、図3に示す反射層224及び接着層225を形成する。以上のようにして、画像表示体22を得る。
【0169】
この画像表示体22は、被写体Sを平面画像として表示する。それ故、この画像表示体22を個人認証媒体100において使用した場合、暗い環境下であっても、個人認証媒体100の所有者と個人認証媒体100に個人情報が記録された人物とが同一人物であるか否かの判別が容易である。
【0170】
また、この画像表示体22は、背景BGを立体画像として表示する。それ故、この画像表示体22を含んだ個人認証媒体100は、画像表示体22が平面画像のみを表示する個人認証媒体100と比較して偽造が困難である。
【0171】
以上、パスポートとしての個人認証媒体100を例示したが、個人認証媒体100について上述した技術は、他の個人認証媒体に適用することも可能である。例えば、この技術は、査証やIDカードなどの各種カードに適用することも可能である。或いは、上述した技術は、個人認証以外の目的で利用してもよい。
【0172】
画像表示体22を貼り付ける基材の材質は、天然の紙及び合成紙などの紙でなくてもよい。例えば、画像表示体22を貼り付ける基材の材質は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(熱可塑性PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂及びポリスチレン樹脂などの合成樹脂、ガラス、陶器及び磁器などのセラミックス、又は、単体金属及び合金などの金属材料であってもよい。
【0173】
基材が炭素を含んだ材料からなる場合、図1に示す画像I1a、I2及びI3の少なくとも一部は、レーザエングレービング法を利用して基材に記録してもよい。レーザエングレービング法は、基材にレーザビームを照射して、照射部で炭化を生じさせる方法である。炭化は、基材の表面だけでなく、深部においても生じ得る。従って、画像I1a、I2及びI3の少なくとも一部を、は、レーザエングレービング法を利用して基材に記録すると、情報の改竄が困難となる。
【0174】
画像表示層220aに表示させる画像は、顔画像に加えて他の生体情報を含んでいてもよく、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでいてもよい。また、画像表示層220aに表示させる画像は、生体情報に加えて非生体個人情報及び非個人情報の少なくとも一方を含んでいてもよく、生体情報の代わりに非生体個人情報及び非個人情報の少なくとも一方を含んでいてもよい。
【実施例】
【0175】
以下、本発明の例を説明する。
まず、図5に示す転写箔201を製造した。具体的には、支持体221として、厚さが25μmの透明PETフィルムを準備した。この支持体221上に下記塗工液L1を塗布し、この塗膜を乾燥させることにより、厚さが1.5μmの保護層227を得た。次に、保護層227上に下記塗工液L2を塗布し、この塗膜を乾燥させて、厚さが1.0μmの透明樹脂層を得た。続いて、この透明樹脂層に、版面にレリーフ型の回折格子アレイが設けられた版を160℃の版面温度で熱プレスして、透明樹脂層の表面に回折格子アレイを転写した。これにより、回折構造形成層223を得た。
【0176】
次いで、この転写箔201上に、図3に示す透明材料層229、反射層224及び接着層225をこの順に形成した。具体的には、透明材料層229は、インクジェット法により紫外線硬化樹脂からなるインクジェットインキを回折構造形成層223上へと供給し、インキ層に紫外線を照射することにより形成した。透明材料層229は、回折格子アレイが顔画像を表示するように形成した。反射層224は、インクジェット法により下記インクジェットインキL3を回折構造形成層223及び透明材料層229上へと供給し、インキ層に紫外線を照射することにより形成した。反射層224の膜厚は1.0μmとした。接着層225は、反射層224上に下記塗工液L4を塗布し、塗膜を乾燥させることにより形成した。接着層225の膜厚は4.0μmとした。
【0177】
更に、サーマルヘッドを用いた熱転写により、接着層225上に、回折格子アレイに表示させるのと同一の顔画像と文字列とを表示する着色パターンを形成した。なお、ここで形成した着色パターンは、顔料と樹脂との混合物からなる層を含んでいる。
【0178】
その後、転写材層220a’の一部を、その上に形成した透明材料層229、反射層224、接着層225及び着色パターンと共に、支持体221から冊子体の見返し上へと熱転写した。この熱転写では、熱ロールを使用し、加熱温度を125℃とした。
以上のようにして、図1に示す個人認証媒体100を完成した。
【0179】
[塗工液L1の組成]
アクリル樹脂 30質量部
ポリエステル樹脂 5質量部
ポリエチレンパウダー 5質量部
トルエン 40質量部
メチルエチルケトン 40質量部
メチルイソブチルケトン 20質量部
[塗工液L2の組成]
ポリウレタン樹脂 30質量部
メチルエチルケトン 70質量部
トルエン 30質量部
[インクジェットインキL3の組成]
酸化チタン(ナノ粒子・ルチル型) 93質量部
光開始剤 7質量部
多官能モノマー(テトラエチレングリコールジアクリレート) 21質量部
単官能モノマー(ビニルピロリドン) 12質量部
界面活性剤 0.6質量部
共溶剤(2−ピロリドン) 20質量部
水 80質量部
[塗工液L4の組成]
ウレタン樹脂 20質量部
ブチラール樹脂 10質量部
メチルエチルケトン 60質量部
トルエン 60質量部
【符号の説明】
【0180】
1…折り丁、2…表紙、11…紙片、12…印刷パターン、21…表紙本体、22…画像表示体、100…個人認証媒体、100’…冊子体、201…転写箔、220a…画像表示層、220a’…転写材層、221…支持体、223…回折構造形成層、224…反射層、225…接着層、227…保護層、229…透明材料層、229D…インキ滴、229L…インキ層、500…製造装置、510…インクジェット印字装置、511…インクジェットノズル、520…乾燥器、530…インクジェット印字装置、540…乾燥器、550…熱転写印字装置、551…サーマルヘッド、552…転写リボン、560…熱転写装置、570…搬送機構、A1…領域、A2…領域、BG…背景、C0L…左眼用セル、C0R…右眼用セル、C1…セル、C2…セル、C3…セル、CC…カメラ、CL…カメラ、CR…カメラ、DG…回折格子、DP…低効率部における回折構造形成層の表面構造、G…溝、I1a…画像、I1b…画像、I2…画像、I3…画像、IEL…要素画像、IER…要素画像、PH…高効率部、PL…低効率部、PR…突起、PR1…隔壁部、PR2…凸部、S…被写体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに交差する第1及び第2方向に配列した複数のセルを備え、前記複数のセルの各々は、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を含んだブランク媒体を準備し、前記複数のセルの一部が含んでいる前記回折構造形成部の前記表面のうち前記回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は前記回折構造形成部を溶解する液を供給して、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することにより得られる画像表示体。
【請求項2】
前記複数のセルは、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されており且つ前記領域に占める前記回折格子の回折効率がゼロであるか又は低減されている部分の割合が異なる2つ以上のセルを含んだ請求項1に記載の画像表示体。
【請求項3】
前記複数のセルは、前記領域のうち、少なくとも前記回折格子の回折効率が低減されていない部分を被覆した反射層を更に含んだ請求項1又は2に記載の画像表示体。
【請求項4】
前記ブランク媒体において、前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったもの同士は、前記回折格子の格子定数及び/又は溝の長さ方向が互いに異なっている請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像表示体。
【請求項5】
前記ブランク媒体は、前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったものの間に配置され、頂部の位置が前記回折格子の溝の底部と比較してより高い複数の突起を更に備えた請求項4に記載の画像表示体。
【請求項6】
前記複数の突起は、前記第2方向に各々が延び、前記第1方向に配列した複数の隔壁である請求項5に記載の画像表示体。
【請求項7】
前記複数の突起は、前記第1及び第2方向に配列している請求項5に記載の画像表示体。
【請求項8】
前記第1及び第2方向は直交しており、前記複数のセルのうち前記第2方向に隣り合ったもの同士は、前記回折格子の格子定数及び溝の長さ方向が互いに等しい請求項5乃至7の何れか1項に記載の画像表示体。
【請求項9】
個人情報を含んだ画像を表示する基材と、
前記基材に支持された請求項1乃至8の何れか1項に記載の画像表示体と
を具備した個人認証媒体。
【請求項10】
前記画像表示体が表示する画像は第1個人情報を含み、前記基材が表示する画像は第2個人情報を含み、前記第1及び第2個人情報は同一人物の情報である請求項9に記載の個人認証媒体。
【請求項11】
前記第1及び第2個人情報の少なくとも一方は生体情報を含んだ請求項10に記載の個人認証媒体。
【請求項12】
回折格子を各々が含んだ複数の高効率セルと、各々において回折格子の少なくとも一部の回折効率がゼロにされるか又は低減された低効率セルとを備えた画像表示体の製造に使用するブランク媒体であって、
表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を各々が含み、互いに交差する第1及び第2方向に配列し、前記第1方向に隣り合ったもの同士は前記回折格子の格子定数及び/又は溝の長さ方向が互いに異なっている複数のセルと、
前記複数のセルのうち前記第1方向に隣り合ったものの間に配置され、前記表面のうち前記回折格子からなる領域と比較して高さがより高い複数の突起と
を備えたブランク媒体。
【請求項13】
互いに交差する第1及び第2方向に配列した複数のセルを備え、前記複数のセルの各々は、表面にレリーフ型の回折格子が設けられた透明な回折構造形成部を含んだブランク媒体を準備し、前記複数のセルの一部が含んでいる前記回折構造形成部の前記表面のうち前記回折格子からなる領域上に透明材料層を形成するか又は前記回折構造形成部を溶解する液を供給して、前記領域の少なくとも一部において前記回折格子の回折効率をゼロにするか又は低減することを含んだ画像表示体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2011−83998(P2011−83998A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239427(P2009−239427)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】