画像表示体及び情報媒体
【課題】 広視域な画像、チェンジング、立体画像を、より再現性良く階調表現のある画像として表示できる高画質の画像表示体を提供する。
【解決手段】 表示基材の一方面部に複数の画素22がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体20であって、前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子21が備えられ、前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子21の面積を設定する。
【解決手段】 表示基材の一方面部に複数の画素22がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体20であって、前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子21が備えられ、前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子21の面積を設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉眼で真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた画像表示体及び情報媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、クレジットカード、IDカード、商品券及び小切手等のカード・有価証券類は、紛失等によって他人の手に渡ると悪意に使用される可能性があることから、偽造が困難であることが望まれる。そのため、この種のカード・有価証券類は、それ自体が偽造ないし模造し難い状態に作製するとともに、偽造を抑制するために、偽造品や模造品と容易に区別できるようなラベルが貼り付けられている。
【0003】
特に近年は、前述したカード・有価証券類だけでなく、ブランド品などでも偽造品が流通する点が問題となり、有価証券類等で使用されている偽造防止技術の需要が増えている。
【0004】
従来、偽造防止技術としては、回折格子パターンが知られている。回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することにより、観察する角度に応じて絵柄を変化させたり、立体像を表示させることが可能となっている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
この回折格子パターンの原版を作製する方法としては、電子ビーム露光装置を用い、かつコンピュータの制御により、電子線用レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に回折格子パターンを形成する方法がある(例えば特許文献3参照)。
【0006】
ここで、回折格子を形成するパラメータとしては、
(1) 回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2) 回折格子の方向(格子線の方向)
(3) 回折格子の描画領域(回折格子パターンの配置)等の3つが挙げられる。
【0007】
そして、前記(1)のパラメータに応じて、定点に対してその回折格子パターンが光って見える色が変化し、前記(2)のパラメータに応じて、その回折格子パターンが光って見える方向が変化し、さらに前記(3)のパラメータに応じて、表示パターン(絵柄や文字等)や明るさが決定される(例えば特許文献4参照)。
【0008】
そこで、回折格子パターンを形成する基板の表面を数十乃至数百μm程度の微小領域に分割し、各分割領域に前述した各パラメータを様々に変化させることで、絵柄や文字等を表現することができる。
【0009】
以上のようにして作製された凹凸形状からなるパターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製する。そして、作製された金属製スタンパーを母型として透明基材上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を軟化又は硬化させてパターンを複製する。
【0010】
複製されたパターンは、通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法で光反射層を設けた後、紙やプラスチックフイルム等の基材上に接着層を介してステッカー又は転写箔として貼付され、さらに必要に応じて印刷層やパターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられ、カード類や有価証券類が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2508387号明細書
【特許文献2】特許第2745902号明細書
【特許文献3】特開2000−39508号公報
【特許文献4】特許第2137065号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、以上のような回折格子パターンを用いた画像表示体において、視域の広い画像やチェンジング(観察角度に応じて変化する画像)、立体画像を表示する方法としては、格子角度の異なる回折格子を並置する方法や回折格子として同一形状の曲線を一定の間隔で並べた複数の線の集まりで構成する方法などがあるが、このような回折格子の構造パターンを用いて階調表現を場合、トリミング位置によっては希望通りの画像が得られない場合がある。
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、広視域な画像、チェンジング、立体画像を、より再現性良く階調表現のある画像として表示し、肉眼で真偽判定が可能なセキュリティ性の高い偽造防止機能を有する画像表示体及び情報媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る画像表示体は、表示基材の一方面部に複数の画素がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体であって、
前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子が備えられ、前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子の面積を設定することにより階調表現のある画像を表示することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る情報媒体は、所定の情報が表示されるシート状物品と、このシート状物品の面部の所要個所に付加される前記画像表示体とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広視域な画像、チェンジング、立体画像を、より再現性良く階調表現のある画像として表示できる高画質の画像表示体を提供できる。
【0017】
また、本発明によれば、肉眼で真偽判定が可能なセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた画像表示体を備えた情報媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【図2】本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図4】回折格子のパターンと回折光射出方向との関係を説明するための平面図。
【図5】回折光学素子の一例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図6】回折光学素子の他の例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図7】回折光学素子の更に他の例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図8】本発明の回折光学素子に採用可能な構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図9】回折光学素子の開口の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図10】回折光学素子の開口の別の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図11】回折光学素子の開口の更に別の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図12】観察者の瞳内に入射する光強度の積分値と光強度のピーク値との関係を示す図。
【図13】回折光学素子が射出する回折光の射出角度と回折光の強度分布との関係を説明する図。
【図14】本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図15】本発明の他の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【図16】本発明のさらに他の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、全ての図において、同様またはほぼ等価な機能を有する構成要素には同一の参照符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
この情報媒体100は、例えばパスポートなどの冊子体から成る個人認証媒体であって、開いた状態の冊子体を描いている。
【0021】
情報媒体100は、折り丁1と表紙2とを含んでいる。折り丁1は、例えば1枚の紙片11又は複数枚の紙片11の束を二つ折りとなるように形成されている。紙片11上には、同一人物を含む顔画像11a,11b、文字列,符号,マークなどの画像12及び地紋などの画像13が施されている。この紙片11には、前記各画像だけでなく、個人情報が記録されるIC(Integrated Circuit)チップや当該ICチップとの間で非接触で読み書きデータの通信を可能とするアンテナなどを内蔵していてもよい。
【0022】
表紙2は、折り丁1と同様に二つ折りにされる。折り丁1と表紙2は、ともに2つ折りにし、それらの折り目の位置で綴じ合わせなどによって一体化されている。
【0023】
その結果、表紙2は、冊子体を折りたたんで閉じた状態としたとき、その折りたたんだ折り丁1を挟み込んだ状態となり、折半したポケットサイズの個人認証媒体となる。
【0024】
表紙2は、図示されていないが、例えば個人情報を含んだ画像が表示される。この個人情報は、個人の認証に利用する個人認証情報を含んでいる。この個人情報は、例えば、生体情報と非生体個人情報とに分類することができる。
【0025】
生体情報は、生体の特徴のうち、その固体に特有のものである。典型的には、生体情報は、光学的手法によって識別可能な情報である。例えば、生体情報は、顔,指紋,静脈及び虹彩の少なくとも1つの画像又はパターンである。
【0026】
非生体個人情報は、生体情報以外の個人情報である。非生体個人情報は、例えば、氏名,生年月日,年齢,血液型,性別,国籍,住所,本籍地,電話番号,所属及び身分の少なくとも一つである。非生体個人情報は、タイプ打ちによって入力された文字を含んでいてもよく、署名などの手書きを機械読み取によって入力された文字を含んでいてもよく、それら双方を含んでいてもよい。
【0027】
図1において、表紙2に表示された画像11a,12及び13は、光の吸収を利用して表示される画像である。具体的には、画像11a,12及び13は、白色光で照明し、肉眼で観察した場合に視認可能な画像である。これら画像11a,12及び13の少なくとも1つを有すれば、他の1つ以上を省略してもよい。
【0028】
画像11a,12及び13は、例えば、染料や顔料で構成することができる。この場合、画像11a,12及び13の形成手段としては、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法又はそれらの2つ以上の組合せを利用することができる。また、画像11a,12及び13は、感熱発色剤を含んだ層を形成し、この層に対してレーザビームで描画することにより形成することができる。さらに、以上の2つの画像形成方法の組合せを利用してもよい。
【0029】
画像12及び13の少なくとも一部は、ホットスタンプを用いた熱転写記録法によって形成してもよく、印刷法によって形成してもよく、それらの組合せを利用して形成してもよい。
【0030】
一方、画像11bは、ホログラム及び/又は回折格子が表示する画像である。画像11bは、例えば、サーマルヘッドを用いた熱転写記録とホットスタンプ又は熱ロールを用いた熱転写記録とを順に行って形成することができる。
【0031】
画像11a及び画像11bは、同一人物の顔画像を含んでいる。画像11aが含んでいる顔画像と画像11bが含んでいる顔画像とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。画像11aが含んでいる顔画像と画像11bが含んでいる顔画像とは、寸法が等しくてもよく、異なっていてもよい。また、画像11a及び画像11bの各々は、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでしてもよく、顔画像に加えて顔画像以外の生体情報を更に含んでいてもよい。
【0032】
画像11bは、生体情報の代わりに非生体個人情報を含んでいてもよく、生体情報に加えて非生体個人情報を更に含んでいてもよい。また、画像11bは、個人情報の代わりに非個人情報を含んでいてもよく、個人情報に加えて非個人情を更に含んでいてもよい。
【0033】
画像12は、非生体個人情報と非個人情報とを含んでいる。画像12は、例えば,文字,記号,符号及び標章の1つ以上で構成される。
【0034】
画像13は、地紋である。例えば、画像13と画像11a及び11bの少なくとも一方とを組合せると、情報媒体100の改竄をより困難にすることができる。
【0035】
図2は本発明の実施形態に係る画像表示体20を概略的に説明するための平面図である。なお、以下、図2乃至図8及び図14で説明する画像表示体20は、何れも情報媒体の所要個所に例えば偽造防止用や個人識別用ラベルとして付加することを想定して説明するものである。
【0036】
図2に示す回折光学素子21a,21bは一般的な直線状の格子から成る回折格子であり、予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得るための簡略な説明のために用いている。
【0037】
図2(a)に示す画像表示体20は、画素22と非画素領域23とを備えている。画素22には回折光学素子21aを備えている。この回折光学素子21aは複数の溝又は筋(回折格子)を備えている。図2において、31は照明(蛍光灯、太陽光、白熱灯などの白色光源による照明を含む)、32a,32bは例えば観察者の観察角度を示す。
【0038】
なお、回折格子の角度、観察方向の角度はX軸方向から反時計回りを正方向とし、その角度は0°乃至180°で表すものとする。これは以降の説明においても同様とする。また、XY平面に垂直な方向をZ軸とし、紙面裏面から表面に向う方向をZ軸の正方向とする。
【0039】
図に示す回折光学素子21aの回折格子の角度は0°である。ゆえに、観察者の観察角度32aは、YZ平面に平行な方向を向いているため、回折光学素子21aからの回折光を観察できる。
【0040】
図2(b)に示す画像表示体20は、同じく画素22と非画素領域23とを備えている。画素22には回折光学素子21bを備えている。この回折光学素子21bは回折格子を備えており、その角度は0°である。
【0041】
観察者による観察角度32bは、YZ平面に平行な方向を向いているため、回折光学素子21bからの回折光を観察できる。
【0042】
ところで、回折光学素子21aの面積を100%としたとき、回折光学素子21bの面積は50%であるとする。この条件下において、例えば照明31から回折光学素子21a,21bへの単位面積当りの入射光量が同一であるとすると、回折光学素子21bが射出する回折光の量は回折光学素子21aが射出する回折光の量の50%となる。ゆえに、観察者による観察角度32bにおいて観察できる回折光学素子21bは観察角度32aにおいて観察できる回折光学素子21aよりも暗く知覚することができる。つまり、回折光学素子の面積を変えることによって観察できる画像の明るさを変えることができる。
【0043】
従って、同一の画像表示体20内に、例えば、回折光学素子21aを備える画素22と回折光学素子21bを備える画素22と回折光学素子を備えていない画素22との3種類の画素を配置すれば、少なくとも画素の明るさを三段階に設定することが可能となる。このことは、表示したい画像の情報に合わせて、画像表示体20が備える画素各々が備えている回折光学素子の面積を設定することによって、階調表現のある画像を表示でき、より高画質な画像表現を実現できる。
【0044】
なお、回折光学素子の構造の一例としては、凹凸構造形成層と反射層と保護層とを順番に積層した構造により作製できる。凹凸構造形成層は、一方の主面に、回折格子としては複数の溝が形成された透明層である。透明層の材料としては、熱可塑性樹脂などの樹脂を使用することができる。
【0045】
凹凸構造形成層の材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリオールアクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、トリアジンアクリレート及びトリアジンメタアクリレートなどの熱硬化性樹脂、これらの混合物、又はラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料を使用することができる。凹凸構造形成層は、光硬化性を有している樹脂を使用して形成してもよい。
【0046】
反射層は、凹凸構造形成層上に形成される。反射層は、凹凸構造形成層の複数の溝が設けられた面の少なくとも一部を被覆している。反射層は省略することができるが、反射層を設けると、回折格子が表示する画像の視認性が向上する。
【0047】
反射層としては、透明反射層又は不透明な金属反射層を使用することができる。反射層は、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することができる。反射層が樹脂を含んでいる場合、反射層は、塗布又は印刷を利用して形成してもよい。
【0048】
反射層として透明反射層を使用すると、反射層の背面側に絵柄及び文字等のパターンを配置した場合であっても、これを後述する画像表示体の前面側から視認することができる。他方、反射層として不透明な金属反射層を使用すると、輝度が高く視認性に優れた画像の表示が可能となる。
【0049】
透明反射層としては、例えば、凹凸構造形成層とは屈折率が異なる透明材料からなる層を使用することができる。透明材料からなる透明反射層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。後者の場合、透明反射層は、繰り返し反射干渉を生じるように設計されていてもよい。この透明材料としては、例えば、硫化亜鉛及び二酸化チタンなどの透明誘電体を使用することができる。
【0050】
或いは、透明反射層としては、厚さが20nm未満の金属層を使用してもよい。金属層の材料としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金及び銅などの単体金属又はそれらの合金を使用することができる。
【0051】
不透明な金属反射層としては、より厚いこと以外は透明反射層について上述したのと同様の金属層を使用することができる。不透明な金属反射層は、連続膜であってもよい。或いは、不透明な金属反射層は、パターニングされていてもよい。例えば、不透明な金属反射層の少なくとも一部をパターニングして、画像表示体に網点、万線、他の図形、又はそれらの組み合わせを表示させてもよい。このようなパターンは、例えば、情報媒体100の真偽判定に利用することができる。
【0052】
透明反射層又は不透明な反射層として、透明樹脂とこの中で分散した粒子とを含んだ層を使用してもよい。粒子としては、例えば、単体金属及び合金などの金属材料からなる粒子、又は、透明金属酸化物及び透明樹脂などの透明誘電体からなる粒子を使用することができる。透明樹脂中には、粒子を分散させる代わりに、薄片を分散させてもよい。
【0053】
保護層としては、凹凸構造形成層を間に挟んで反射層と向き合っている。保護層は、例えば樹脂からなり、光透過性を有し、典型的には透明である。この樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂を使用することができる。なお、保護層は省略することができる。
【0054】
図3は本発明の他の実施形態に係る画像表示体20を概略的に説明するための平面図である。
【0055】
図3(a)、(b)、(c)に示す画像表示体20は、何れも画素22と非画素領域23とを備えており、各画素22にはそれぞれ回折光学素子21c、21d、21eを備えている。これら回折光学素子21c、21d、21eは、一般的な直線状の格子から成る回折格子であるが、後述する予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得るために簡略な説明のために用いている。
【0056】
一般に、画素の大きさ、すなわち画素に備える回折光学素子の大きさを観察者の眼の分解能以下の大きさにすれば、回折光学素子自体の形状は視認できなくなる。ゆえに、回折光学素子21c、21d、21eが同じ明るさで観察できるとすると、図3(a)、(b)、(c)に示す画像表示体20は何れも同一の画像として観察することができる。つまり、回折光学素子自体の形状は、図2に示す正方形のみならず、図3に示す長方形、円形、その他,三角形、台形、星形等でも良く、その形状は任意である。
【0057】
回折光学素子自体の形状が任意で良いということは、その形状に特徴を持たせるようにすれば、偽造防止効果を高めることが可能である。すなわち、通常観察時には一般的な回折光として観察できる一方、顕微鏡観察時のみ回折光射出領域の形状を視認できるようにすれば、偽造品、模造品との差別化が可能となる。
【0058】
図4は回折格子のパターンと回折光射出方向の関係を説明するための平面図である。
【0059】
図4(a)に示す回折光学素子21fの格子は、同一の方向(本図ではX軸)に平行な向きの直線であり、Y軸方向へ一定の間隔で並んでいる。この場合には、回折光射出方向24fはY軸と平行となる。
【0060】
一方、図4(b)に示す回折光学素子21gの格子は、曲線状であって、Y軸方向へ一定の間隔で並んでいる。このとき、回折光射出方向24gは、格子が曲線状であることにより、当該曲線の形状に応じたある一定の範囲を持っている。このことは、曲線の形状を制御すれば、回折光の射出範囲を所望の範囲に可変設定することが可能となる。
【0061】
なお、図4(b)では、回折光学素子21gから図示矢印のごとく回折光射出方向24gを図示しているが、この回折光射出方向24gの範囲は模式的なものである。従って、図示した回折光学素子21gの構造から図示するような回折光射出方向24gが得られる訳ではない。
【0062】
図5は回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21gの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21gの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25gを示す図である。なお、光学におけるフーリエ変換とはフラウンホーファー回折による回折光の分布を示している。
【0063】
図5(b)のフーリエ変換画像25gに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0064】
図6は図5と異なる回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21hの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21hの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25hを示す図である。フーリエ変換画像25hに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0065】
図6(a)示す回折光学素子21hは、図5(a)に示す回折光学素子21gの一部分をトリミングした構造パターンとなっている。
【0066】
そこで、図5(b)のフーリエ変換画像25gと図6(b)のフーリエ変換画像25hとを比較すると、回折光学素子21gと21hとによる回折光の射出範囲が異なっている。
【0067】
前述したように、回折光学素子の面積を変えることで画像の階調表現を行うことができるが、回折光学素子21gの場合、面積を変える際のトリミング位置によって回折光の射出範囲が異なってしまう。つまり、回折光学素子21gに示すような構造パターンを用いて階調表現を行う場合、トリミング位置によっては希望通りの画像を得られないことがある。
【0068】
図7は図5及び図6と異なる回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21iの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21iの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25iを示す図である。フーリエ変換画像25iに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0069】
図7(a)に示す回折光学素子21iは、図5(a)の回折光学素子21gをトリミングした画像であり、図6(a)の回折光学素子21hとはトリミング位置が異なっている。
【0070】
図7(b)に示すフーリエ変換画像25iと図5(b)に示すフーリエ変換画像25gを比較すると、回折光を射出する範囲は変化していないことがわかる。つまり、図7(b)に示すトリミングの場合は、視域に異常を来すことなく階調表現のある画像の表示に用いることが可能となる。
【0071】
しかし、一方では、回折光学素子21iを備えている画素を配置して画像を表示する場合、Y軸方向には回折光学素子の有る箇所、無い箇所の疎密が生じてしまう。このとき、回折光学素子の有無がストライプ状になってしまうため、規則的なストライプによって回折光強度の分布ムラ等が発生し、意図しない視覚効果が観察される場合があり得る。
【0072】
なお、図5乃至図7において図示した回折光学素子21g、21h、21iは回折光を射出する機能が画素内において一様ではないため、本発明の形態にはよらない。
【0073】
従って、図5乃至図7で説明したように、広視域な画像表示や立体画像表示を目的として一般的に用いられる曲線形状の構造パターンの場合、単純に面積を変えるのみでは階調表現が困難であることがわかる。
【0074】
図8は本発明の回折光学素子に採用可能な構造パターンとその構造パターンのフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21jの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21jの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25jを示す図である。
【0075】
このフーリエ変換画像25jに示すように、回折光の射出方向はX軸方向へ一定の範囲を有している。
【0076】
また、回折光学素子21jの場合、トリミング位置の取り方によって回折光の射出範囲や射出範囲における回折光の強度分布が大きく異なることは無く、回折光を射出する機能は画素内において一様である。
【0077】
ところで、観察者の左右の眼の各々の入射瞳径は一般的に2乃至8mmであり、画像表示体の表示面と第1面との距離が500mmであるとする。この場合、左右の眼の各々の見込み角は0.2乃至0.9°である。ゆえに、回折光の第1面内における射出の範囲を2°以上とすると、この見込み角の2倍以上の視域を確保することが可能となり、安定した画像表示を行うことが出来る。
【0078】
しかし、射出の範囲が例えば1°以下であれば、射出光の散乱成分が弱くなるため、回折光学素子内における回折光射出機能の均一性が充分に得られず、回折光学素子の面積を変えたときの射出光の射出方向や強度分布を制御することが困難となる。
【0079】
従って、回折光の射出の範囲を2°以上とすると、回折光学素子内における回折光射出機能の均一性を充分に得ることができ、回折光学素子の面積を変えたときに自然な階調表現を観察できることが実験により確認されている。
【0080】
ここで、射出の範囲の上限としては、より広い程視認できる範囲が広がり、視覚効果を知覚し易いという特徴を有する。一方において、射出の範囲が狭い程、射出光が狭い範囲に集中するため、より明るく見えるという特徴があり、角度範囲が例えば10°以下であれば、充分な明るさを得られることが実験で確認されている。
【0081】
すなわち、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示や立体画像表示において、制約無く階調表現を行うことが出来るため、より高画質な画像表示体を提供することが可能となる。
【0082】
ところで、図2において、回折光学素子21aの面積を100%としたとき、回折光学素子21bの面積は50%であるとする。
【0083】
このとき、照明31からの単位面積当たりの入射光量が同一であるとすると、回折光学素子21bが射出する回折光の量は回折光学素子21aが射出する回折光の量の50%となることは前述した通りである。
【0084】
しかし、実際に観察者の眼に入射する回折光についても回折光の量、すなわち回折光学素子の面積に比例して変化しているとは言えない。なぜならば、回折光学素子より射出する回折光には、回折光学素子の構造パターンによる回折のみでなく、回折光学素子の大きさを開口としたときの回折も作用しているからである。
【0085】
ゆえに、回折光学素子の面積が大きいほど回折光の拡がりはより狭く、回折光学素子の面積が小さいほど回折光の拡がりはより広くなる。つまり、回折光学素子の面積が小さいほど単純に入射光量が低下するのみでなく、入射する回折光強度のピークの大きさも低下している。
【0086】
ここで、例えば、回折光学素子の形状を矩形とした例について考えてみる。
【0087】
矩形形状の開口からのフラウンホーファー回折の強度分布は下記式(1)で表される。分かり易くするため、単波長のコヒーレント光による回折とする。
【0088】
I(x,y)=A2dx2dy2sinc2{(dx/λR)x}
sinc2{(dy/λR)y}……(1)
上式(1)において、Iは観測面(x,y)における光強度分布、dx,dyは開口のそれぞれ横、縦の辺の長さ、λは光の波長、Rは観測面との距離であり、sinc関数はsinc(x)=sin(πx)/πxである。Aは光の振幅に関する変数であるが、ここでは定数と考えて良い。
【0089】
なお、ここでの単波長のコヒーレント光による議論は、通常の照明下(蛍光灯や太陽光、白熱灯などの白色光源による照明)において、波長や光源の大きさ等を考慮して、光強度分布I(x,y)を波長や光源の大きさに応じてそれぞれ積分すれば良い。
【0090】
すなわち、基本的な傾向は、上式(1)に示す単波長のコヒーレント光の場合の光強度分布から推測できる。
【0091】
具体的には、開口の大きさが5×5μm、3×3μm、1×1μmであって、400nm及び600nmの光が入射されたときの開口での回折における光強度分布について試算した結果について、図9乃至図11に示している。射出角度は正反射光の角度を0°としている。図9乃至図11はx軸上の断面を示してある。
【0092】
なお、相対光強度の大きさは1×1μmの開口の場合のピークを1としてあり、いずれの場合も入射光の単位面積当たりの強度は均一であるとしてある。
【0093】
すなわち、上式(1)から矩形開口の場合、光強度のピークは開口の面積の二乗に比例することがわかる。よって、回折光学素子が矩形形状である場合には、回折光強度のピークは上式(1)から回折光学素子の面積の二乗に比例することがわかるため、例えば、明るさを四倍にする為には回折光学素子の面積を2倍にすればよい、ということがわかる。
【0094】
ところで、前述したように、観察者の左右の眼の各々の入射瞳径は一般的に2乃至8mmであることから、画像表示体の表示面と第1面との距離が500mmであるとすると、左右の眼の各々の見込み角は0.2乃至0.9°である。後記するように、回折光学素子の大きさは観察者の眼の分解能以下であれば回折光学素子それぞれを見分けることはできない。ゆえに、回折光学素子は極端に小さくある必要はなく、一般的には一辺が数十μm程度の矩形形状を用いる。
【0095】
上式(1)及び図9乃至図11から明らかなように、開口の大きさが大きくなるほど、ピークからの光強度分布は狭く、回折光の強度はピークに集中していることが分かる。ゆえに、観察者は見込み角0.2乃至0.9°と非常に狭い範囲を知覚しているため、知覚する光強度は回折光のピークに比例していると近似することができると考えられる。
【0096】
上式(1)より、観察者の瞳に入射する光強度の積分値として下記式(2)を導出することができる。
【0097】
Iint=∬A2dx2dy2sinc2{(dx/λR)x}
sinc2{(dy/λR)y}……(2)
上式(2)において、観察者の瞳径をrとすると、Iintはx2+y2≦(r/2)2における光強度の積分値である。
【0098】
ここで、Iintと光強度のピーク値、すなわち上式(1)におけるI(0,0)の関係を図12に示す。なお、λ=500nm、R=500mm、r=5mmとしてある。
【0099】
図12のプロットは、回折光学素子が矩形形状であり、その大きさが、2×2μm、4×4μm、6×6μm、8×8μm、10×10μm、20×20μm、30×30μm、40×40μmにおけるものであり、相対値はいずれも10×10μmの値を1としてある。
【0100】
図12から明らかなように、IintとI(0,0)は比例関係にあることがわかる。すなわち、観察者が知覚する入射光の強度は光強度分布のピークの値と比例していると言える。
【0101】
ゆえに、表示する画像の階調値と回折光強度のピークとが比例するように回折光学素子の面積を決定すれば、例えば、回折光学素子の形状が矩形であれば上式(1)を用いることによって、画像情報の階調値を精度良く再現した画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0102】
図13は回折光の強度分布を概略的に示す図である。すなわち、図13は、図5(a)に示す回折光学素子21gが射出する回折光の強度分布C1と、図8(a)に示す回折光学素子21jが射出する回折光の強度分布C2とを描いている。図示する射出角度は、第1面内の観察者の左右の眼を結ぶ直線上の点と画像表示体とが成す角度を示している。
【0103】
なお、図13は回折光の射出角度と強度分布との関係を概略的に説明する図であり、回折光学素子21g、21jが射出する回折光の強度分布がC1、C2に描いた通りになるとは限らない。また、C1、C2はそれぞれの最大値を100%として図示しており、絶対値の差として比較することはできない。
【0104】
ここで、C1とC2とを比較すると、C1は強度が大きい角度範囲が狭く、回折光射出角度の角度範囲の中央から外れるに従って強度が大きく低下する傾向にある。一方、C2は強度が大きい角度範囲が広く、また、回折光射出角度範囲内において強度が小さい角度範囲は狭くなっている。
【0105】
この差異は構造パターンの違いから生じている。
【0106】
回折光学素子21jは面内において回折光を射出する機能が一様である。なお、このような構造は例えば計算機ホログラムの手法で設計することができる。計算機ホログラムは、ランダムな位相を有した回折構造を有している。このような構造を採用すると回折光を射出する機能が一様である構造を簡易かつ精度良く作製することが可能となるため、より高品位な画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0107】
ところで、観察者が自分の眼から500mm離してある位置の画像表示体の状態を観察すると、一般的に、視力が1.0の人間の眼の分解能は1分であるため、眼の分解能の限界により、145μm以下の構造は分解できない。よって、画素の長辺の長さを145μm以下とすると画素同士を分解することはできない。ゆえに、画素の長辺の長さを145μm以下とすることによって、より高品位な画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0108】
図14は本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図である。
【0109】
図14(a)、(b)に示す画像表示体20は、何れも画素22と非画素領域23とを備えている。画素22は、回折光学素子21kを備えたものと回折光学素子21lを備えたものとがある。なお、回折光学素子21k、21lの構造パターンは何れも直線形状であるが、これは予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得る観点から簡略的に説明するために用いたものである。
【0110】
図14(a)では回折光学素子21k、21lを備えた画素22が市松状に配置されているが、図14(b)ではストライプ状に交互に配置されている。
【0111】
図14に示すように、回折光射出方向の異なる多数の画素を同一平面上に配置することによって、複数の画像を表示することが可能となる。なお、図14では回折光射出方向の異なる画素配置方法として市松状やストライプ状を示してあるが、配置方法は必ずしも規則的である必要は無く、ランダムでも良い。
【0112】
ところで、例えば、単一の画像を表示する場合と2つの画像をチェンジングで表示する場合とを比較すると、2つの画像をチェンジングで表示する場合は、1つの画像を表示するのに割り当てられる面積が単一の画像を表示する場合の1/2となる。しかし、同時に残りの1/2の面積は異なる方向へ射出光を射出する画素が配置されているため、単一の画像を表示する場合と比較すると、観察者は画素の大きさが2倍であるように観察する。
【0113】
つまり、2つ以上の画像を表示する場合、見た目における画素数が低下するため、画質が低下してしまう。
【0114】
見た目の画素数が低下する点に関しては、画素の大きさをより小さくすることで画素数を向上させることが可能である。しかし、例えば図5(a)に示す回折光学素子21gのような構造パターンで画像を表示する場合、前述したように本発明による回折光学素子(例えば図8(a)に示す回折光学素子21j)よりも回折光の強度分布のムラが大きく、画素の大きさを小さくするほどその傾向は顕著となる。
【0115】
その点、本発明に係る構造パターンの場合、画素の大きさを小さくすることによって回折光の強度分布のムラが大きくなることは無いか、又は大きくなる傾向は小さいと言える。
【0116】
ゆえに、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示、特に2つ以上の画像を表示する場合において、制約無く階調表現を用いることが可能であり、回折光の強度分布のムラを小さくできるため、より高画質な画像表示体を提供することが可能となる。
【0117】
特に、少なくとも2つの画像を同時に視覚することで立体画像として視覚する場合、回折光の強度分布のムラが大きい場合は左右の眼で異なる明るさの画像を視覚する視域が広くなってしまう。ゆえに、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示、特に2つ以上の画像を表示して観察者が立体画像として視覚する場合において、制約無く階調表現を用いることが可能であり、回折光の強度分布のムラを小さくできるため、より高画質な画像表示体及び情報媒体を提供することが可能となる。
【0118】
ここで、観察者の左右の眼を結ぶ線分の長さが65mmであり、画像表示体と第1面(観察者の左右の眼を含む面)との距離が500mmであるとする。この場合、観察者の左右の眼の視線が成す角度は7.4°である。ゆえに、回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲が7.4°以下であれば、左右の眼に同一の画像が同時に入射することはない。よって、一方の眼によって視認させるべき視差画像が他方の眼によって視認させるべき視差画像のノイズとなるのを防止できる。
【0119】
ゆえに、回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲を7.4°以下にすることによって、より高品位な立体画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0120】
以上の説明は、パスポートとしての情報媒体100(図1参照)を例に挙げて説明したが、パスホート以外の他の情報媒体に適用することも可能である。例えば、以上述べた技術は、査証及びIDカードなどの各種カードに適用することも可能である。
【0121】
図15は本発明の他の実施態様に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
【0122】
この情報媒体200は、磁気カードであって、例えば、プラスチック等からなる基材51に印刷層52と帯状の磁気記録層53とが形成されている。さらに、基材51には、画像表示体20が偽造防止用又は個人識別用ラベルとして貼り付けられている。
【0123】
従って、この情報媒体200は、画像表示体20を含んでいる。ゆえに、情報媒体200の偽造又は模造は困難となる。
【0124】
図16は本発明のさらに他の実施態様に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
【0125】
この情報媒体300は、基材51の面部に人物像からなる印刷層54が形成されている。更に、基材51には、画像表示体20が偽造防止用又は識別用ラベルとして貼り付けられており、画像表示体20の画像も印刷層54と同様に人物像となっている。
【0126】
この情報媒体300の場合、印刷層54の印刷画像と表示体10の画像は同一となっている。この場合、印刷層54の印刷画像と画像表示体20の画像が同一であることが本物(実物)であるとすると、仮に印刷層54の印刷画像の情報を改竄したとしても、印刷層54と画像表示体20の情報は同一でなければならないため、画像表示体20も同一の絵柄に改竄する必要があり、偽造又は模造は図15に示す情報媒体200よりもより困難となる。
【0127】
また、印刷層54の印刷画像と画像表示体20の画像を見比べることで真贋判定が可能であるため、個人識別を行う審査官に対してより精度のよい認証が可能となる。また、真贋判定の方法は画像を見比べることであり、比較的簡便な方法であるため、審査官に限らず、誰もが真贋判定を簡易に行うことができる。
【0128】
図16に示す情報媒体300に含まれる画像表示体20は人物像からなる画像で構成されている。この場合、個人認証媒体の偽造又は模造をより困難とすることができるが、個人認証媒体以外の情報媒体に適用することも可能である。
【0129】
情報媒体100乃至300に貼り付ける画像表示体20の基材51の材質は、天然の紙及び合成紙などの紙でなくてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(熱可塑性PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂及びポリスチレン樹脂などの合成樹脂、ガラス、陶器及び磁器などのセラミックス、又は、単体金属及び合金などの金属材料であってもよい。
【0130】
なお、上記実施の形態では、情報媒体としてパスポート及びIDカードなどの個人認証媒体について例示したが、情報媒体100ないし300に関する技術は、個人認証媒体以外の情報媒体にも容易に適用することが可能である。即ち、上述した技術は、個別認証等、個人認証以外の目的で利用しても可能であることは言うまでもない。
【0131】
その他、本発明は、以上のような各実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0132】
1…折り丁、2…表紙、11…紙片、11a,11b…顔画像、12,13…画像、20…画像表示体、21a〜21l…回折光学素子、22…画素、23…非画素領域、24f,24g…回折光射出方向、25g〜25j…フーリエ変換画像、31…照明、32a〜32e…観察者の観察角度、51…基材、52…印刷層、53…磁気記録層、54…印刷層、100,200,300…情報媒体。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉眼で真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた画像表示体及び情報媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、クレジットカード、IDカード、商品券及び小切手等のカード・有価証券類は、紛失等によって他人の手に渡ると悪意に使用される可能性があることから、偽造が困難であることが望まれる。そのため、この種のカード・有価証券類は、それ自体が偽造ないし模造し難い状態に作製するとともに、偽造を抑制するために、偽造品や模造品と容易に区別できるようなラベルが貼り付けられている。
【0003】
特に近年は、前述したカード・有価証券類だけでなく、ブランド品などでも偽造品が流通する点が問題となり、有価証券類等で使用されている偽造防止技術の需要が増えている。
【0004】
従来、偽造防止技術としては、回折格子パターンが知られている。回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することにより、観察する角度に応じて絵柄を変化させたり、立体像を表示させることが可能となっている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
この回折格子パターンの原版を作製する方法としては、電子ビーム露光装置を用い、かつコンピュータの制御により、電子線用レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に回折格子パターンを形成する方法がある(例えば特許文献3参照)。
【0006】
ここで、回折格子を形成するパラメータとしては、
(1) 回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2) 回折格子の方向(格子線の方向)
(3) 回折格子の描画領域(回折格子パターンの配置)等の3つが挙げられる。
【0007】
そして、前記(1)のパラメータに応じて、定点に対してその回折格子パターンが光って見える色が変化し、前記(2)のパラメータに応じて、その回折格子パターンが光って見える方向が変化し、さらに前記(3)のパラメータに応じて、表示パターン(絵柄や文字等)や明るさが決定される(例えば特許文献4参照)。
【0008】
そこで、回折格子パターンを形成する基板の表面を数十乃至数百μm程度の微小領域に分割し、各分割領域に前述した各パラメータを様々に変化させることで、絵柄や文字等を表現することができる。
【0009】
以上のようにして作製された凹凸形状からなるパターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製する。そして、作製された金属製スタンパーを母型として透明基材上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を軟化又は硬化させてパターンを複製する。
【0010】
複製されたパターンは、通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法で光反射層を設けた後、紙やプラスチックフイルム等の基材上に接着層を介してステッカー又は転写箔として貼付され、さらに必要に応じて印刷層やパターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられ、カード類や有価証券類が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2508387号明細書
【特許文献2】特許第2745902号明細書
【特許文献3】特開2000−39508号公報
【特許文献4】特許第2137065号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、以上のような回折格子パターンを用いた画像表示体において、視域の広い画像やチェンジング(観察角度に応じて変化する画像)、立体画像を表示する方法としては、格子角度の異なる回折格子を並置する方法や回折格子として同一形状の曲線を一定の間隔で並べた複数の線の集まりで構成する方法などがあるが、このような回折格子の構造パターンを用いて階調表現を場合、トリミング位置によっては希望通りの画像が得られない場合がある。
【0013】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、広視域な画像、チェンジング、立体画像を、より再現性良く階調表現のある画像として表示し、肉眼で真偽判定が可能なセキュリティ性の高い偽造防止機能を有する画像表示体及び情報媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る画像表示体は、表示基材の一方面部に複数の画素がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体であって、
前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子が備えられ、前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子の面積を設定することにより階調表現のある画像を表示することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る情報媒体は、所定の情報が表示されるシート状物品と、このシート状物品の面部の所要個所に付加される前記画像表示体とで構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、広視域な画像、チェンジング、立体画像を、より再現性良く階調表現のある画像として表示できる高画質の画像表示体を提供できる。
【0017】
また、本発明によれば、肉眼で真偽判定が可能なセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた画像表示体を備えた情報媒体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【図2】本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図3】本発明の他の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図4】回折格子のパターンと回折光射出方向との関係を説明するための平面図。
【図5】回折光学素子の一例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図6】回折光学素子の他の例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図7】回折光学素子の更に他の例としての構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図8】本発明の回折光学素子に採用可能な構造パターンと当該構造パターンをフーリエ変換して得られる画像を示す図。
【図9】回折光学素子の開口の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図10】回折光学素子の開口の別の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図11】回折光学素子の開口の更に別の大きさ・入射光の波長と光強度分布との関係を示す図。
【図12】観察者の瞳内に入射する光強度の積分値と光強度のピーク値との関係を示す図。
【図13】回折光学素子が射出する回折光の射出角度と回折光の強度分布との関係を説明する図。
【図14】本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図。
【図15】本発明の他の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【図16】本発明のさらに他の実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、全ての図において、同様またはほぼ等価な機能を有する構成要素には同一の参照符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
この情報媒体100は、例えばパスポートなどの冊子体から成る個人認証媒体であって、開いた状態の冊子体を描いている。
【0021】
情報媒体100は、折り丁1と表紙2とを含んでいる。折り丁1は、例えば1枚の紙片11又は複数枚の紙片11の束を二つ折りとなるように形成されている。紙片11上には、同一人物を含む顔画像11a,11b、文字列,符号,マークなどの画像12及び地紋などの画像13が施されている。この紙片11には、前記各画像だけでなく、個人情報が記録されるIC(Integrated Circuit)チップや当該ICチップとの間で非接触で読み書きデータの通信を可能とするアンテナなどを内蔵していてもよい。
【0022】
表紙2は、折り丁1と同様に二つ折りにされる。折り丁1と表紙2は、ともに2つ折りにし、それらの折り目の位置で綴じ合わせなどによって一体化されている。
【0023】
その結果、表紙2は、冊子体を折りたたんで閉じた状態としたとき、その折りたたんだ折り丁1を挟み込んだ状態となり、折半したポケットサイズの個人認証媒体となる。
【0024】
表紙2は、図示されていないが、例えば個人情報を含んだ画像が表示される。この個人情報は、個人の認証に利用する個人認証情報を含んでいる。この個人情報は、例えば、生体情報と非生体個人情報とに分類することができる。
【0025】
生体情報は、生体の特徴のうち、その固体に特有のものである。典型的には、生体情報は、光学的手法によって識別可能な情報である。例えば、生体情報は、顔,指紋,静脈及び虹彩の少なくとも1つの画像又はパターンである。
【0026】
非生体個人情報は、生体情報以外の個人情報である。非生体個人情報は、例えば、氏名,生年月日,年齢,血液型,性別,国籍,住所,本籍地,電話番号,所属及び身分の少なくとも一つである。非生体個人情報は、タイプ打ちによって入力された文字を含んでいてもよく、署名などの手書きを機械読み取によって入力された文字を含んでいてもよく、それら双方を含んでいてもよい。
【0027】
図1において、表紙2に表示された画像11a,12及び13は、光の吸収を利用して表示される画像である。具体的には、画像11a,12及び13は、白色光で照明し、肉眼で観察した場合に視認可能な画像である。これら画像11a,12及び13の少なくとも1つを有すれば、他の1つ以上を省略してもよい。
【0028】
画像11a,12及び13は、例えば、染料や顔料で構成することができる。この場合、画像11a,12及び13の形成手段としては、サーマルヘッドを用いた熱転写記録法、インクジェット記録法、電子写真法又はそれらの2つ以上の組合せを利用することができる。また、画像11a,12及び13は、感熱発色剤を含んだ層を形成し、この層に対してレーザビームで描画することにより形成することができる。さらに、以上の2つの画像形成方法の組合せを利用してもよい。
【0029】
画像12及び13の少なくとも一部は、ホットスタンプを用いた熱転写記録法によって形成してもよく、印刷法によって形成してもよく、それらの組合せを利用して形成してもよい。
【0030】
一方、画像11bは、ホログラム及び/又は回折格子が表示する画像である。画像11bは、例えば、サーマルヘッドを用いた熱転写記録とホットスタンプ又は熱ロールを用いた熱転写記録とを順に行って形成することができる。
【0031】
画像11a及び画像11bは、同一人物の顔画像を含んでいる。画像11aが含んでいる顔画像と画像11bが含んでいる顔画像とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。画像11aが含んでいる顔画像と画像11bが含んでいる顔画像とは、寸法が等しくてもよく、異なっていてもよい。また、画像11a及び画像11bの各々は、顔画像の代わりに他の生体情報を含んでしてもよく、顔画像に加えて顔画像以外の生体情報を更に含んでいてもよい。
【0032】
画像11bは、生体情報の代わりに非生体個人情報を含んでいてもよく、生体情報に加えて非生体個人情報を更に含んでいてもよい。また、画像11bは、個人情報の代わりに非個人情報を含んでいてもよく、個人情報に加えて非個人情を更に含んでいてもよい。
【0033】
画像12は、非生体個人情報と非個人情報とを含んでいる。画像12は、例えば,文字,記号,符号及び標章の1つ以上で構成される。
【0034】
画像13は、地紋である。例えば、画像13と画像11a及び11bの少なくとも一方とを組合せると、情報媒体100の改竄をより困難にすることができる。
【0035】
図2は本発明の実施形態に係る画像表示体20を概略的に説明するための平面図である。なお、以下、図2乃至図8及び図14で説明する画像表示体20は、何れも情報媒体の所要個所に例えば偽造防止用や個人識別用ラベルとして付加することを想定して説明するものである。
【0036】
図2に示す回折光学素子21a,21bは一般的な直線状の格子から成る回折格子であり、予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得るための簡略な説明のために用いている。
【0037】
図2(a)に示す画像表示体20は、画素22と非画素領域23とを備えている。画素22には回折光学素子21aを備えている。この回折光学素子21aは複数の溝又は筋(回折格子)を備えている。図2において、31は照明(蛍光灯、太陽光、白熱灯などの白色光源による照明を含む)、32a,32bは例えば観察者の観察角度を示す。
【0038】
なお、回折格子の角度、観察方向の角度はX軸方向から反時計回りを正方向とし、その角度は0°乃至180°で表すものとする。これは以降の説明においても同様とする。また、XY平面に垂直な方向をZ軸とし、紙面裏面から表面に向う方向をZ軸の正方向とする。
【0039】
図に示す回折光学素子21aの回折格子の角度は0°である。ゆえに、観察者の観察角度32aは、YZ平面に平行な方向を向いているため、回折光学素子21aからの回折光を観察できる。
【0040】
図2(b)に示す画像表示体20は、同じく画素22と非画素領域23とを備えている。画素22には回折光学素子21bを備えている。この回折光学素子21bは回折格子を備えており、その角度は0°である。
【0041】
観察者による観察角度32bは、YZ平面に平行な方向を向いているため、回折光学素子21bからの回折光を観察できる。
【0042】
ところで、回折光学素子21aの面積を100%としたとき、回折光学素子21bの面積は50%であるとする。この条件下において、例えば照明31から回折光学素子21a,21bへの単位面積当りの入射光量が同一であるとすると、回折光学素子21bが射出する回折光の量は回折光学素子21aが射出する回折光の量の50%となる。ゆえに、観察者による観察角度32bにおいて観察できる回折光学素子21bは観察角度32aにおいて観察できる回折光学素子21aよりも暗く知覚することができる。つまり、回折光学素子の面積を変えることによって観察できる画像の明るさを変えることができる。
【0043】
従って、同一の画像表示体20内に、例えば、回折光学素子21aを備える画素22と回折光学素子21bを備える画素22と回折光学素子を備えていない画素22との3種類の画素を配置すれば、少なくとも画素の明るさを三段階に設定することが可能となる。このことは、表示したい画像の情報に合わせて、画像表示体20が備える画素各々が備えている回折光学素子の面積を設定することによって、階調表現のある画像を表示でき、より高画質な画像表現を実現できる。
【0044】
なお、回折光学素子の構造の一例としては、凹凸構造形成層と反射層と保護層とを順番に積層した構造により作製できる。凹凸構造形成層は、一方の主面に、回折格子としては複数の溝が形成された透明層である。透明層の材料としては、熱可塑性樹脂などの樹脂を使用することができる。
【0045】
凹凸構造形成層の材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂及びポリ塩化ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート、ポリオールアクリレート、ポリオールメタクリレート、メラミンアクリレート、メラミンメタクリレート、トリアジンアクリレート及びトリアジンメタアクリレートなどの熱硬化性樹脂、これらの混合物、又はラジカル重合性不飽和基を有する熱成形性材料を使用することができる。凹凸構造形成層は、光硬化性を有している樹脂を使用して形成してもよい。
【0046】
反射層は、凹凸構造形成層上に形成される。反射層は、凹凸構造形成層の複数の溝が設けられた面の少なくとも一部を被覆している。反射層は省略することができるが、反射層を設けると、回折格子が表示する画像の視認性が向上する。
【0047】
反射層としては、透明反射層又は不透明な金属反射層を使用することができる。反射層は、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することができる。反射層が樹脂を含んでいる場合、反射層は、塗布又は印刷を利用して形成してもよい。
【0048】
反射層として透明反射層を使用すると、反射層の背面側に絵柄及び文字等のパターンを配置した場合であっても、これを後述する画像表示体の前面側から視認することができる。他方、反射層として不透明な金属反射層を使用すると、輝度が高く視認性に優れた画像の表示が可能となる。
【0049】
透明反射層としては、例えば、凹凸構造形成層とは屈折率が異なる透明材料からなる層を使用することができる。透明材料からなる透明反射層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。後者の場合、透明反射層は、繰り返し反射干渉を生じるように設計されていてもよい。この透明材料としては、例えば、硫化亜鉛及び二酸化チタンなどの透明誘電体を使用することができる。
【0050】
或いは、透明反射層としては、厚さが20nm未満の金属層を使用してもよい。金属層の材料としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金及び銅などの単体金属又はそれらの合金を使用することができる。
【0051】
不透明な金属反射層としては、より厚いこと以外は透明反射層について上述したのと同様の金属層を使用することができる。不透明な金属反射層は、連続膜であってもよい。或いは、不透明な金属反射層は、パターニングされていてもよい。例えば、不透明な金属反射層の少なくとも一部をパターニングして、画像表示体に網点、万線、他の図形、又はそれらの組み合わせを表示させてもよい。このようなパターンは、例えば、情報媒体100の真偽判定に利用することができる。
【0052】
透明反射層又は不透明な反射層として、透明樹脂とこの中で分散した粒子とを含んだ層を使用してもよい。粒子としては、例えば、単体金属及び合金などの金属材料からなる粒子、又は、透明金属酸化物及び透明樹脂などの透明誘電体からなる粒子を使用することができる。透明樹脂中には、粒子を分散させる代わりに、薄片を分散させてもよい。
【0053】
保護層としては、凹凸構造形成層を間に挟んで反射層と向き合っている。保護層は、例えば樹脂からなり、光透過性を有し、典型的には透明である。この樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂又はエポキシ樹脂を使用することができる。なお、保護層は省略することができる。
【0054】
図3は本発明の他の実施形態に係る画像表示体20を概略的に説明するための平面図である。
【0055】
図3(a)、(b)、(c)に示す画像表示体20は、何れも画素22と非画素領域23とを備えており、各画素22にはそれぞれ回折光学素子21c、21d、21eを備えている。これら回折光学素子21c、21d、21eは、一般的な直線状の格子から成る回折格子であるが、後述する予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得るために簡略な説明のために用いている。
【0056】
一般に、画素の大きさ、すなわち画素に備える回折光学素子の大きさを観察者の眼の分解能以下の大きさにすれば、回折光学素子自体の形状は視認できなくなる。ゆえに、回折光学素子21c、21d、21eが同じ明るさで観察できるとすると、図3(a)、(b)、(c)に示す画像表示体20は何れも同一の画像として観察することができる。つまり、回折光学素子自体の形状は、図2に示す正方形のみならず、図3に示す長方形、円形、その他,三角形、台形、星形等でも良く、その形状は任意である。
【0057】
回折光学素子自体の形状が任意で良いということは、その形状に特徴を持たせるようにすれば、偽造防止効果を高めることが可能である。すなわち、通常観察時には一般的な回折光として観察できる一方、顕微鏡観察時のみ回折光射出領域の形状を視認できるようにすれば、偽造品、模造品との差別化が可能となる。
【0058】
図4は回折格子のパターンと回折光射出方向の関係を説明するための平面図である。
【0059】
図4(a)に示す回折光学素子21fの格子は、同一の方向(本図ではX軸)に平行な向きの直線であり、Y軸方向へ一定の間隔で並んでいる。この場合には、回折光射出方向24fはY軸と平行となる。
【0060】
一方、図4(b)に示す回折光学素子21gの格子は、曲線状であって、Y軸方向へ一定の間隔で並んでいる。このとき、回折光射出方向24gは、格子が曲線状であることにより、当該曲線の形状に応じたある一定の範囲を持っている。このことは、曲線の形状を制御すれば、回折光の射出範囲を所望の範囲に可変設定することが可能となる。
【0061】
なお、図4(b)では、回折光学素子21gから図示矢印のごとく回折光射出方向24gを図示しているが、この回折光射出方向24gの範囲は模式的なものである。従って、図示した回折光学素子21gの構造から図示するような回折光射出方向24gが得られる訳ではない。
【0062】
図5は回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21gの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21gの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25gを示す図である。なお、光学におけるフーリエ変換とはフラウンホーファー回折による回折光の分布を示している。
【0063】
図5(b)のフーリエ変換画像25gに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0064】
図6は図5と異なる回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21hの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21hの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25hを示す図である。フーリエ変換画像25hに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0065】
図6(a)示す回折光学素子21hは、図5(a)に示す回折光学素子21gの一部分をトリミングした構造パターンとなっている。
【0066】
そこで、図5(b)のフーリエ変換画像25gと図6(b)のフーリエ変換画像25hとを比較すると、回折光学素子21gと21hとによる回折光の射出範囲が異なっている。
【0067】
前述したように、回折光学素子の面積を変えることで画像の階調表現を行うことができるが、回折光学素子21gの場合、面積を変える際のトリミング位置によって回折光の射出範囲が異なってしまう。つまり、回折光学素子21gに示すような構造パターンを用いて階調表現を行う場合、トリミング位置によっては希望通りの画像を得られないことがある。
【0068】
図7は図5及び図6と異なる回折光学素子の構造パターンとフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21iの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21iの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25iを示す図である。フーリエ変換画像25iに示すように、回折光の射出方向は、X軸方向へ一定の範囲を有している。
【0069】
図7(a)に示す回折光学素子21iは、図5(a)の回折光学素子21gをトリミングした画像であり、図6(a)の回折光学素子21hとはトリミング位置が異なっている。
【0070】
図7(b)に示すフーリエ変換画像25iと図5(b)に示すフーリエ変換画像25gを比較すると、回折光を射出する範囲は変化していないことがわかる。つまり、図7(b)に示すトリミングの場合は、視域に異常を来すことなく階調表現のある画像の表示に用いることが可能となる。
【0071】
しかし、一方では、回折光学素子21iを備えている画素を配置して画像を表示する場合、Y軸方向には回折光学素子の有る箇所、無い箇所の疎密が生じてしまう。このとき、回折光学素子の有無がストライプ状になってしまうため、規則的なストライプによって回折光強度の分布ムラ等が発生し、意図しない視覚効果が観察される場合があり得る。
【0072】
なお、図5乃至図7において図示した回折光学素子21g、21h、21iは回折光を射出する機能が画素内において一様ではないため、本発明の形態にはよらない。
【0073】
従って、図5乃至図7で説明したように、広視域な画像表示や立体画像表示を目的として一般的に用いられる曲線形状の構造パターンの場合、単純に面積を変えるのみでは階調表現が困難であることがわかる。
【0074】
図8は本発明の回折光学素子に採用可能な構造パターンとその構造パターンのフーリエ変換画像を示す図である。同図(a)は回折光学素子21jの構造パターンを示す図、同図(b)は同図(a)に示す回折光学素子21jの構造パターンをフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像25jを示す図である。
【0075】
このフーリエ変換画像25jに示すように、回折光の射出方向はX軸方向へ一定の範囲を有している。
【0076】
また、回折光学素子21jの場合、トリミング位置の取り方によって回折光の射出範囲や射出範囲における回折光の強度分布が大きく異なることは無く、回折光を射出する機能は画素内において一様である。
【0077】
ところで、観察者の左右の眼の各々の入射瞳径は一般的に2乃至8mmであり、画像表示体の表示面と第1面との距離が500mmであるとする。この場合、左右の眼の各々の見込み角は0.2乃至0.9°である。ゆえに、回折光の第1面内における射出の範囲を2°以上とすると、この見込み角の2倍以上の視域を確保することが可能となり、安定した画像表示を行うことが出来る。
【0078】
しかし、射出の範囲が例えば1°以下であれば、射出光の散乱成分が弱くなるため、回折光学素子内における回折光射出機能の均一性が充分に得られず、回折光学素子の面積を変えたときの射出光の射出方向や強度分布を制御することが困難となる。
【0079】
従って、回折光の射出の範囲を2°以上とすると、回折光学素子内における回折光射出機能の均一性を充分に得ることができ、回折光学素子の面積を変えたときに自然な階調表現を観察できることが実験により確認されている。
【0080】
ここで、射出の範囲の上限としては、より広い程視認できる範囲が広がり、視覚効果を知覚し易いという特徴を有する。一方において、射出の範囲が狭い程、射出光が狭い範囲に集中するため、より明るく見えるという特徴があり、角度範囲が例えば10°以下であれば、充分な明るさを得られることが実験で確認されている。
【0081】
すなわち、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示や立体画像表示において、制約無く階調表現を行うことが出来るため、より高画質な画像表示体を提供することが可能となる。
【0082】
ところで、図2において、回折光学素子21aの面積を100%としたとき、回折光学素子21bの面積は50%であるとする。
【0083】
このとき、照明31からの単位面積当たりの入射光量が同一であるとすると、回折光学素子21bが射出する回折光の量は回折光学素子21aが射出する回折光の量の50%となることは前述した通りである。
【0084】
しかし、実際に観察者の眼に入射する回折光についても回折光の量、すなわち回折光学素子の面積に比例して変化しているとは言えない。なぜならば、回折光学素子より射出する回折光には、回折光学素子の構造パターンによる回折のみでなく、回折光学素子の大きさを開口としたときの回折も作用しているからである。
【0085】
ゆえに、回折光学素子の面積が大きいほど回折光の拡がりはより狭く、回折光学素子の面積が小さいほど回折光の拡がりはより広くなる。つまり、回折光学素子の面積が小さいほど単純に入射光量が低下するのみでなく、入射する回折光強度のピークの大きさも低下している。
【0086】
ここで、例えば、回折光学素子の形状を矩形とした例について考えてみる。
【0087】
矩形形状の開口からのフラウンホーファー回折の強度分布は下記式(1)で表される。分かり易くするため、単波長のコヒーレント光による回折とする。
【0088】
I(x,y)=A2dx2dy2sinc2{(dx/λR)x}
sinc2{(dy/λR)y}……(1)
上式(1)において、Iは観測面(x,y)における光強度分布、dx,dyは開口のそれぞれ横、縦の辺の長さ、λは光の波長、Rは観測面との距離であり、sinc関数はsinc(x)=sin(πx)/πxである。Aは光の振幅に関する変数であるが、ここでは定数と考えて良い。
【0089】
なお、ここでの単波長のコヒーレント光による議論は、通常の照明下(蛍光灯や太陽光、白熱灯などの白色光源による照明)において、波長や光源の大きさ等を考慮して、光強度分布I(x,y)を波長や光源の大きさに応じてそれぞれ積分すれば良い。
【0090】
すなわち、基本的な傾向は、上式(1)に示す単波長のコヒーレント光の場合の光強度分布から推測できる。
【0091】
具体的には、開口の大きさが5×5μm、3×3μm、1×1μmであって、400nm及び600nmの光が入射されたときの開口での回折における光強度分布について試算した結果について、図9乃至図11に示している。射出角度は正反射光の角度を0°としている。図9乃至図11はx軸上の断面を示してある。
【0092】
なお、相対光強度の大きさは1×1μmの開口の場合のピークを1としてあり、いずれの場合も入射光の単位面積当たりの強度は均一であるとしてある。
【0093】
すなわち、上式(1)から矩形開口の場合、光強度のピークは開口の面積の二乗に比例することがわかる。よって、回折光学素子が矩形形状である場合には、回折光強度のピークは上式(1)から回折光学素子の面積の二乗に比例することがわかるため、例えば、明るさを四倍にする為には回折光学素子の面積を2倍にすればよい、ということがわかる。
【0094】
ところで、前述したように、観察者の左右の眼の各々の入射瞳径は一般的に2乃至8mmであることから、画像表示体の表示面と第1面との距離が500mmであるとすると、左右の眼の各々の見込み角は0.2乃至0.9°である。後記するように、回折光学素子の大きさは観察者の眼の分解能以下であれば回折光学素子それぞれを見分けることはできない。ゆえに、回折光学素子は極端に小さくある必要はなく、一般的には一辺が数十μm程度の矩形形状を用いる。
【0095】
上式(1)及び図9乃至図11から明らかなように、開口の大きさが大きくなるほど、ピークからの光強度分布は狭く、回折光の強度はピークに集中していることが分かる。ゆえに、観察者は見込み角0.2乃至0.9°と非常に狭い範囲を知覚しているため、知覚する光強度は回折光のピークに比例していると近似することができると考えられる。
【0096】
上式(1)より、観察者の瞳に入射する光強度の積分値として下記式(2)を導出することができる。
【0097】
Iint=∬A2dx2dy2sinc2{(dx/λR)x}
sinc2{(dy/λR)y}……(2)
上式(2)において、観察者の瞳径をrとすると、Iintはx2+y2≦(r/2)2における光強度の積分値である。
【0098】
ここで、Iintと光強度のピーク値、すなわち上式(1)におけるI(0,0)の関係を図12に示す。なお、λ=500nm、R=500mm、r=5mmとしてある。
【0099】
図12のプロットは、回折光学素子が矩形形状であり、その大きさが、2×2μm、4×4μm、6×6μm、8×8μm、10×10μm、20×20μm、30×30μm、40×40μmにおけるものであり、相対値はいずれも10×10μmの値を1としてある。
【0100】
図12から明らかなように、IintとI(0,0)は比例関係にあることがわかる。すなわち、観察者が知覚する入射光の強度は光強度分布のピークの値と比例していると言える。
【0101】
ゆえに、表示する画像の階調値と回折光強度のピークとが比例するように回折光学素子の面積を決定すれば、例えば、回折光学素子の形状が矩形であれば上式(1)を用いることによって、画像情報の階調値を精度良く再現した画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0102】
図13は回折光の強度分布を概略的に示す図である。すなわち、図13は、図5(a)に示す回折光学素子21gが射出する回折光の強度分布C1と、図8(a)に示す回折光学素子21jが射出する回折光の強度分布C2とを描いている。図示する射出角度は、第1面内の観察者の左右の眼を結ぶ直線上の点と画像表示体とが成す角度を示している。
【0103】
なお、図13は回折光の射出角度と強度分布との関係を概略的に説明する図であり、回折光学素子21g、21jが射出する回折光の強度分布がC1、C2に描いた通りになるとは限らない。また、C1、C2はそれぞれの最大値を100%として図示しており、絶対値の差として比較することはできない。
【0104】
ここで、C1とC2とを比較すると、C1は強度が大きい角度範囲が狭く、回折光射出角度の角度範囲の中央から外れるに従って強度が大きく低下する傾向にある。一方、C2は強度が大きい角度範囲が広く、また、回折光射出角度範囲内において強度が小さい角度範囲は狭くなっている。
【0105】
この差異は構造パターンの違いから生じている。
【0106】
回折光学素子21jは面内において回折光を射出する機能が一様である。なお、このような構造は例えば計算機ホログラムの手法で設計することができる。計算機ホログラムは、ランダムな位相を有した回折構造を有している。このような構造を採用すると回折光を射出する機能が一様である構造を簡易かつ精度良く作製することが可能となるため、より高品位な画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0107】
ところで、観察者が自分の眼から500mm離してある位置の画像表示体の状態を観察すると、一般的に、視力が1.0の人間の眼の分解能は1分であるため、眼の分解能の限界により、145μm以下の構造は分解できない。よって、画素の長辺の長さを145μm以下とすると画素同士を分解することはできない。ゆえに、画素の長辺の長さを145μm以下とすることによって、より高品位な画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0108】
図14は本発明の実施形態に係る画像表示体を概略的に説明するための平面図である。
【0109】
図14(a)、(b)に示す画像表示体20は、何れも画素22と非画素領域23とを備えている。画素22は、回折光学素子21kを備えたものと回折光学素子21lを備えたものとがある。なお、回折光学素子21k、21lの構造パターンは何れも直線形状であるが、これは予め決められた範囲に回折光を射出する機能を持っていないため、理解を得る観点から簡略的に説明するために用いたものである。
【0110】
図14(a)では回折光学素子21k、21lを備えた画素22が市松状に配置されているが、図14(b)ではストライプ状に交互に配置されている。
【0111】
図14に示すように、回折光射出方向の異なる多数の画素を同一平面上に配置することによって、複数の画像を表示することが可能となる。なお、図14では回折光射出方向の異なる画素配置方法として市松状やストライプ状を示してあるが、配置方法は必ずしも規則的である必要は無く、ランダムでも良い。
【0112】
ところで、例えば、単一の画像を表示する場合と2つの画像をチェンジングで表示する場合とを比較すると、2つの画像をチェンジングで表示する場合は、1つの画像を表示するのに割り当てられる面積が単一の画像を表示する場合の1/2となる。しかし、同時に残りの1/2の面積は異なる方向へ射出光を射出する画素が配置されているため、単一の画像を表示する場合と比較すると、観察者は画素の大きさが2倍であるように観察する。
【0113】
つまり、2つ以上の画像を表示する場合、見た目における画素数が低下するため、画質が低下してしまう。
【0114】
見た目の画素数が低下する点に関しては、画素の大きさをより小さくすることで画素数を向上させることが可能である。しかし、例えば図5(a)に示す回折光学素子21gのような構造パターンで画像を表示する場合、前述したように本発明による回折光学素子(例えば図8(a)に示す回折光学素子21j)よりも回折光の強度分布のムラが大きく、画素の大きさを小さくするほどその傾向は顕著となる。
【0115】
その点、本発明に係る構造パターンの場合、画素の大きさを小さくすることによって回折光の強度分布のムラが大きくなることは無いか、又は大きくなる傾向は小さいと言える。
【0116】
ゆえに、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示、特に2つ以上の画像を表示する場合において、制約無く階調表現を用いることが可能であり、回折光の強度分布のムラを小さくできるため、より高画質な画像表示体を提供することが可能となる。
【0117】
特に、少なくとも2つの画像を同時に視覚することで立体画像として視覚する場合、回折光の強度分布のムラが大きい場合は左右の眼で異なる明るさの画像を視覚する視域が広くなってしまう。ゆえに、本発明によれば、回折光を用いた広視域な画像表示、特に2つ以上の画像を表示して観察者が立体画像として視覚する場合において、制約無く階調表現を用いることが可能であり、回折光の強度分布のムラを小さくできるため、より高画質な画像表示体及び情報媒体を提供することが可能となる。
【0118】
ここで、観察者の左右の眼を結ぶ線分の長さが65mmであり、画像表示体と第1面(観察者の左右の眼を含む面)との距離が500mmであるとする。この場合、観察者の左右の眼の視線が成す角度は7.4°である。ゆえに、回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲が7.4°以下であれば、左右の眼に同一の画像が同時に入射することはない。よって、一方の眼によって視認させるべき視差画像が他方の眼によって視認させるべき視差画像のノイズとなるのを防止できる。
【0119】
ゆえに、回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲を7.4°以下にすることによって、より高品位な立体画像を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0120】
以上の説明は、パスポートとしての情報媒体100(図1参照)を例に挙げて説明したが、パスホート以外の他の情報媒体に適用することも可能である。例えば、以上述べた技術は、査証及びIDカードなどの各種カードに適用することも可能である。
【0121】
図15は本発明の他の実施態様に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
【0122】
この情報媒体200は、磁気カードであって、例えば、プラスチック等からなる基材51に印刷層52と帯状の磁気記録層53とが形成されている。さらに、基材51には、画像表示体20が偽造防止用又は個人識別用ラベルとして貼り付けられている。
【0123】
従って、この情報媒体200は、画像表示体20を含んでいる。ゆえに、情報媒体200の偽造又は模造は困難となる。
【0124】
図16は本発明のさらに他の実施態様に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
【0125】
この情報媒体300は、基材51の面部に人物像からなる印刷層54が形成されている。更に、基材51には、画像表示体20が偽造防止用又は識別用ラベルとして貼り付けられており、画像表示体20の画像も印刷層54と同様に人物像となっている。
【0126】
この情報媒体300の場合、印刷層54の印刷画像と表示体10の画像は同一となっている。この場合、印刷層54の印刷画像と画像表示体20の画像が同一であることが本物(実物)であるとすると、仮に印刷層54の印刷画像の情報を改竄したとしても、印刷層54と画像表示体20の情報は同一でなければならないため、画像表示体20も同一の絵柄に改竄する必要があり、偽造又は模造は図15に示す情報媒体200よりもより困難となる。
【0127】
また、印刷層54の印刷画像と画像表示体20の画像を見比べることで真贋判定が可能であるため、個人識別を行う審査官に対してより精度のよい認証が可能となる。また、真贋判定の方法は画像を見比べることであり、比較的簡便な方法であるため、審査官に限らず、誰もが真贋判定を簡易に行うことができる。
【0128】
図16に示す情報媒体300に含まれる画像表示体20は人物像からなる画像で構成されている。この場合、個人認証媒体の偽造又は模造をより困難とすることができるが、個人認証媒体以外の情報媒体に適用することも可能である。
【0129】
情報媒体100乃至300に貼り付ける画像表示体20の基材51の材質は、天然の紙及び合成紙などの紙でなくてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(熱可塑性PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂及びポリスチレン樹脂などの合成樹脂、ガラス、陶器及び磁器などのセラミックス、又は、単体金属及び合金などの金属材料であってもよい。
【0130】
なお、上記実施の形態では、情報媒体としてパスポート及びIDカードなどの個人認証媒体について例示したが、情報媒体100ないし300に関する技術は、個人認証媒体以外の情報媒体にも容易に適用することが可能である。即ち、上述した技術は、個別認証等、個人認証以外の目的で利用しても可能であることは言うまでもない。
【0131】
その他、本発明は、以上のような各実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0132】
1…折り丁、2…表紙、11…紙片、11a,11b…顔画像、12,13…画像、20…画像表示体、21a〜21l…回折光学素子、22…画素、23…非画素領域、24f,24g…回折光射出方向、25g〜25j…フーリエ変換画像、31…照明、32a〜32e…観察者の観察角度、51…基材、52…印刷層、53…磁気記録層、54…印刷層、100,200,300…情報媒体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示基材の一方面部に複数の画素がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体であって、
前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子が備えられ、
前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子の面積を設定することにより階調表現のある画像を表示することを特徴とする画像表示体。
【請求項2】
前記予め決められた範囲は、前記画像を知覚する観察者の左右の眼を結ぶ直線に平行な第1面内における角度範囲が2°以上であることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体。
【請求項3】
回折光強度のピークの大きさと前記表示する画像の階調値とが比例するように前記回折光学素子の面積を設定する際、当該回折光学素子の大きさを開口としたときの開口による回折光の拡がりを補償するように前記回折光学素子の面積を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像表示体。
【請求項4】
前記回折光学素子は、凹凸構造を有し、これら複数の凹部及び/又は凸部は計算機ホログラムで作製される複数の溝又は筋であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項5】
前記画素の長辺の長さを145μm以下とすることにより、観察者の眼によって各画素同士を分解不能とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項6】
前記複数の画素を配置して複数の画像を表示する場合、
前記個々の画像は、回折光の射出範囲が同一である前記回折光学素子を備える前記複数の画素で構成されており、
異なる画像同士では、回折光の射出範囲が異なっていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項7】
前記複数の画像のうち、少なくとも2つの画像を同時に視覚することで立体画像として視覚できることを特徴とする請求項6に記載の画像表示体。
【請求項8】
前記回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲が7.4°以下とすることを特徴とする請求項7に記載の画像表示体。
【請求項9】
所定の情報が表示されるシート状物品と、このシート状物品の面部の所要個所に付加される前記請求項1乃至請求項8の何れか1つの画像表示体とで構成されていることを特徴とする情報媒体。
【請求項10】
前記シート状物品に表示される所定の情報は個人情報を含んだ画像が印刷、印字又は有色印字されており、前記画像表示体に表示される画像が前記シート状物品に表示される画像と同一であることを特徴とする請求項9に記載の情報媒体。
【請求項11】
前記個人情報を含んだ画像は顔画像であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報媒体。
【請求項1】
表示基材の一方面部に複数の画素がマトリクス状に配置され、これら複数の画素から画像を表示する画像表示体であって、
前記各画素には予め決められた範囲に回折光を射出する機能が当該画素内で一様である回折光学素子が備えられ、
前記表示する画像情報に応じて前記各画素における前記回折光学素子の面積を設定することにより階調表現のある画像を表示することを特徴とする画像表示体。
【請求項2】
前記予め決められた範囲は、前記画像を知覚する観察者の左右の眼を結ぶ直線に平行な第1面内における角度範囲が2°以上であることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体。
【請求項3】
回折光強度のピークの大きさと前記表示する画像の階調値とが比例するように前記回折光学素子の面積を設定する際、当該回折光学素子の大きさを開口としたときの開口による回折光の拡がりを補償するように前記回折光学素子の面積を設定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の画像表示体。
【請求項4】
前記回折光学素子は、凹凸構造を有し、これら複数の凹部及び/又は凸部は計算機ホログラムで作製される複数の溝又は筋であることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項5】
前記画素の長辺の長さを145μm以下とすることにより、観察者の眼によって各画素同士を分解不能とすることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項6】
前記複数の画素を配置して複数の画像を表示する場合、
前記個々の画像は、回折光の射出範囲が同一である前記回折光学素子を備える前記複数の画素で構成されており、
異なる画像同士では、回折光の射出範囲が異なっていることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載の画像表示体。
【請求項7】
前記複数の画像のうち、少なくとも2つの画像を同時に視覚することで立体画像として視覚できることを特徴とする請求項6に記載の画像表示体。
【請求項8】
前記回折光学素子が射出する回折光の第1面における角度範囲が7.4°以下とすることを特徴とする請求項7に記載の画像表示体。
【請求項9】
所定の情報が表示されるシート状物品と、このシート状物品の面部の所要個所に付加される前記請求項1乃至請求項8の何れか1つの画像表示体とで構成されていることを特徴とする情報媒体。
【請求項10】
前記シート状物品に表示される所定の情報は個人情報を含んだ画像が印刷、印字又は有色印字されており、前記画像表示体に表示される画像が前記シート状物品に表示される画像と同一であることを特徴とする請求項9に記載の情報媒体。
【請求項11】
前記個人情報を含んだ画像は顔画像であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の情報媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−118216(P2012−118216A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266813(P2010−266813)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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