説明

画像表示体及び情報媒体

【課題】従来からある回折格子パターンとは異なる視覚効果を有し、且つより高い偽造防止効果を実現する画像表示体及び情報媒体を提供すること。
【解決手段】光透過性の基材11の一方の面に複数の光散乱領域12aを、X軸方向及びY軸方向にマトリクス状に配置し、その周囲に非光散乱領域12bを配置して画像表示体10を構成する。各光散乱領域12aに、Y軸方向に向きを揃えた複数の直線状の光散乱パターンを配置する。各光散乱領域12aの少なくとも一部を光反射層で覆い、各光散乱領域12aへの入射光からフラウンホーファー回折による回折光を発生させる。これにより、光散乱領域12aのマトリクス状配置に応じた部分を白色表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉眼での真偽判定が容易であるセキュリティ性の高い偽造防止機能を備えた画像表示体及び情報媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポートやクレジットカード、IDカード、商品券や小切手等の有価証券類は、偽造が困難であることが望まれる。そのため、そのような物品は、物品自体が偽造または模造が困難であるとともに、偽造を抑制するために、偽造品や模造品と容易に区別できるようなラベルが貼り付けられている。
【0003】
また、近年では、前記物品以外にもブランド品などにおいて偽造品が流通する点が問題となっているため、上記した偽造防止技術の需要は増えている。
【0004】
偽造防止技術として、回折格子パターンが知られている。回折格子パターンは、光を回折させる方向や角度、明るさ等を制御することで、観察する角度に応じて絵柄を変化させることや、立体像を表示することが可能である(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
回折格子パターンの原版を作製する方法としては、電子ビーム露光装置を用い、かつコンピュータ制御により、電子線用レジストが塗布された平面状の基板が載置されたX−Yステージを移動させて、基板の表面に回折格子パターンを形成する方法がある(例えば特許文献3参照)。
ここで、回折格子のパラメータとしては、
(1)回折格子の空間周波数(格子線のピッチ)
(2)回折格子の方向(格子線の方向)
(3)回折格子の描画領域(回折格子パターンの配置)
の3つがある。
そして、
(1)に応じて、定点に対してその回折格子パターンが光って見える色が変化し、
(2)に応じて、その回折格子パターンが光って見える方向が変化し、
(3)に応じて、表示パターン(絵柄や文字等)が決定される。
そこで、基板の表面を数十乃至数百μm程度の微小領域に分割し、各領域にこれらのパラメータを様々に変化させた回折格子を形成することで、絵柄や文字等を表現することができる。
【0006】
上記のような方法により作製された、凹凸形状からなるパターンの原版から、電鋳等の方法により金属製のスタンパーを作製し、この金属製スタンパーを母型として透明基材上に熱可塑性樹脂や光硬化性樹脂を塗布し、金属製スタンパーを密着させ、熱や光を与えることで樹脂を軟化又は硬化させパターンを複製する。
複製されたパターンは通常透明であるので、アルミニウム等の金属や誘電体の薄膜層を蒸着する等の方法により、光反射層を設けた後、紙やプラスチックフィルム等の基材上に接着層を介してステッカー又は転写箔として貼付され、さらに必要に応じて印刷層やパターン層の汚れや傷を防止するための保護層が設けられ、有価証券類やカード類が作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2508387号公報
【特許文献2】特許第2745902号公報
【特許文献3】特開2000−39508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年では、偽造防止技術としての回折格子パターンの普及に伴い、従来からある回折格子パターンでは、それ自体の偽造、模造が増加しつつある。
本発明では、従来からある回折格子パターンとは異なる視覚効果を有し、且つより高い偽造防止効果を実現する画像表示体及び情報媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の問題を解決するために、以下のような手段を講じる。
即ち、第1の発明は、光透過性の基材の少なくとも一方の面に、凹部及び凸部のうち少なくとも一方で構成された直線状の光散乱パターンを方向を揃えて複数配置した光散乱領域を備えており、前記基材の前記一方の面上に、前記光散乱領域の少なくとも一部を被覆する光反射層を備えており、前記基材の前記一方の面上に前記光散乱領域を、前記各光散乱パターンの延在方向及び前記光散乱パターンどうしの間隔方向に沿ってマトリクス状に複数配置してあることで画像を表示する画像表示体において、前記一方の面上での前記光散乱パターンの間隔方向における前記光散乱領域の長さは69μm以上であることを特徴とする画像表示体である。
【0010】
第2の発明は、前記間隔方向における前記光散乱領域の長さは87μm以上であることを特徴とする画像表示体である。
【0011】
第3の発明は、前記各光散乱領域はそれぞれ前記光散乱パターンを同一の配置パターンで有していることを特徴とする画像表示体である。
【0012】
第4の発明は、前記延在方向及び前記間隔方向において、隣接する2つの前記光散乱領域の前記光散乱パターンが連続し、該連続する光散乱パターンの任意の部分によって、射出光の強度分布が同じ配置パターンが得られることを特徴とする画像表示体である。
【0013】
第5の発明は、前記間隔方向における前記光散乱領域の長さは145μm以下であることを特徴とする画像表示体である。
【0014】
第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明による画像表示体と、前記画像表示体を支持した物品とを具備してあることを特徴とする情報媒体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来からある回折格子とは異なる視覚効果を有するので、偽造又は模造を困難とし、より高い偽造防止効果を実現できる画像表示体及び情報媒体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像表示体を概略的に示す平面図である。
【図2】図1に示す画像表示体のA−A線に沿った断面図である。
【図3】(a),(c)は本発明の光散乱領域に採用可能な構造パターン、(b),(d)はそれをフーリエ変換して得られる画像のパターンをそれぞれ示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る画像表示体を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る画像表示体を説明するための概略図である。
【図6】マトリクス状に配置してある複数の光散乱領域に入射光を入射したときの射出光の強度分布を説明するための概略図である。
【図7】単一の光散乱領域からの回折光の強度分布をフーリエ変換した状態を示すグラフである。
【図8】(a),(b)は、光散乱領域がマトリクス状に複数配置してあることによる光散乱領域からの回折光の強度分布をフーリエ変換の前後で示すグラフである。
【図9】図7の強度分布S(θ)と図8(b)の強度分布G(θ)とを合成した光散乱領域からの回折光の強度分布を図6のスクリーンの位置で示すグラフである。
【図10】(a),(b)は隣接する2つの光散乱領域の光散乱パターンが連続しない場合を示す説明図である。
【図11】(a),(b)は隣接する2つの光散乱領域の光散乱パターンが連続する場合を示す説明図である。
【図12】(a),(b)は光散乱パターンとそのフーリエ変換により得られる周波数スペクトルとを示す説明図である。
【図13】(a),(b)は図12(a)の光散乱パターンから抽出拡大した光散乱パターンとそのフーリエ変換により得られる周波数スペクトルとを示す説明図である。
【図14】(a),(b)は図12(a)の光散乱パターンから抽出拡大した光散乱パターンとそのフーリエ変換により得られる周波数スペクトルとを示す説明図である。
【図15】本発明の実施の形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態に係る画像表示体を概略的に示す平面図である。図2は、図1に示す画像表示体のA―A線に沿った断面図である。
【0019】
図1に示す本実施形態の画像表示体10は、図2に示すように、光透過性の基材11と光反射層13とを有している。図1、図2に示す例では、基材11は、その一方の面に、凹凸形状の2つの光散乱領域12aと、各光散乱領域12aの周囲に配置された平面状の非光散乱領域12bとを備えている。
更に、光散乱領域12aを備える面上に、光散乱領域12aの少なくとも一部を被覆するように光反射層13を形成している。なお、図2に示すように本実施形態の光散乱領域12aは、光散乱パターン12cを複数有している。図2の光散乱パターン12cは、基材11の一方の面に対する凹部のみから成るが、実際には凸部から成ってもよく、凸部と凹部の両方から成ってもよい。
【0020】
図1、図2に示す例では、光散乱領域12aは方向の揃った複数の直線状の光散乱パターン12cを備えている。図1に示すように、2つの光散乱領域12a,12aはX軸方向(請求項中の間隔方向に相当)に間隔をおいて配置されている。各光散乱領域12aの光散乱パターン12cは、基材11の一方の面上で、X軸方向と直交するY軸方向(請求項中の延在方向に相当)にそれぞれ延在している。光散乱パターン12cを構成する凹部の深さ方向は、X軸方向及びY軸方向の双方と直交するZ軸方向に延在している。なお、光散乱領域12aに備えてある直線状の光散乱パターン12c(凹部又は凸部又はその両方)は必ずしも完全に平行である必要はない。
【0021】
光透過性の基材11としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)などの光透過性を有する樹脂からなるフィルム又はシートを用いることができる。基材11は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。基材11の表面には、反射防止処理、低反射防止処理、ハードコート処理、帯電防止処理及び防汚処理などの処理を施してもよい。
【0022】
光反射層13としては、例えば、アルミニウム、銀、及びそれらの合金などの金属材料からなる金属層を使用することができる。或いは、光反射層13として、光散乱領域12aとは屈折率が異なる誘電体層を使用してもよい。或いは、光反射層13として、隣り同士の屈折率が異なる誘電体層の積層体、即ち誘電体多層膜を使用してもよい。但し、誘電体多層膜が含む誘電体層のうち光散乱領域12aと接触しているものの屈折率は、光散乱領域12aの屈折率とは異なっているものが好ましい。
【0023】
図3は、本発明の光散乱領域に採用可能な構造パターンとそれをフーリエ変換して得られる画像のパターンとをそれぞれ示す説明図である。
【0024】
図3(a)に示す光散乱領域12aには、Y方向に延在する複数の直線状の光散乱パターン12c(凹部)が平行に配置されている。
【0025】
図3(b)は、図3(a)の光散乱領域12aに設けられた複数の光散乱パターン12cの配置パターンをフーリエ変換して得られる画像のパターンを示す説明図である。
フーリエ変換して得られる図3(b)の画像20のパターンは、変換前の光散乱パターン12cの配置パターンからのフラウンホーファー回折による回折光分布を示している。ゆえに、図3(b)のパターンより、図3(a)の光散乱領域12aは、X軸方向に指向性を持った回折光を射出していることがわかる。また、図3(b)のパターンがX軸方向の全体に亘って延在していることから、図3(a)の光散乱領域12aからの回折光は、空間周波数の分布が広いことがわかる。
ゆえに、図3(a)に示す光散乱領域12aにX軸に平行な方向から入射光を入射すると、Y軸に垂直かつX軸を含む面内において、広い範囲で指向性のある散乱光、すなわち白色を観察できる。
【0026】
図3(c)に示す光散乱領域12aは、図3(a)に示す光散乱領域12aと比較すると、各光散乱パターン12cの配向性は低い(光散乱パターン12cのY軸方向への延在長さは短い)ものの、構造は概ねY軸に平行な直線状の光散乱パターン12cを複数配置した構造と捉えることができる。
【0027】
図3(d)は、図3(c)の光散乱領域12aに設けられた複数の光散乱パターン12cの配置パターンをフーリエ変換して得られる画像のパターンを示す説明図である。
図3(b)の場合と同様に図3(d)の画像20のパターンを解釈すると、図3(c)の光散乱領域12aから射出する回折光はX軸方向に指向性を持っており、かつ空間周波数が一定の範囲を持って分布していることがわかる。
ゆえに、図3(c)に示す光散乱領域12aにX軸に平行な方向から入射光を入射すると、Y軸に垂直かつX軸を含む面内において、広い範囲で指向性のある散乱光、すなわち白色を観察できる。
【0028】
図4は、本発明の実施の形態に係る画像表示体を概略的に示す平面図である。
【0029】
図4に示す画像表示体10は、光散乱領域12aと非光散乱領域12bとを備えてある。また、光散乱領域12aはXY平面(基材11の一方の面上)においてマトリクス状に複数配置されており、その周囲に非光散乱領域12bが配置されている。なお、図4に示す画像表示体10では、光散乱領域12aがX軸、Y軸と平行な方向へマトリクス状に配置されてあるが、配置の方向はそれに限らず、X軸、Y軸以外の方向(X軸方向及びY軸方向の合成方向)へ並んでいてもよい。なお、各光散乱領域12aは、同じ配置パターンの光散乱パターン12cをそれぞれ有している。
観察者が画像表示体10を観察すると、光散乱領域12aから射出する指向性散乱光が観察できる角度において光散乱領域12aは白色に観察される。一方で、非光散乱領域12bは、光反射層13(図2参照)がある場合は光反射層13の色、又は入射光の0次回折光が観察でき、光反射層13が無い場合は入射光は光透過層13を透過するため、画像表示体10の表面には何も観察されないか、又は光透過層13自体の光学特性(基材11の色、屈折率、表面の細かな傷等による拡散性等)が観察される。非光散乱領域12bが光反射層13を備えているかに関わらず、観察者は光散乱領域12aと非光散乱領域12bとを色や質感等が異なるものとして観察できる。
つまり、光散乱領域12aがマトリクス状に配置され光散乱領域12aと非光散乱領域12bが同一面上に並置されることにより、画像表示体10は画像を表示することができ、その配置パターンにより様々な画像を表示することが可能となる。即ち、光散乱領域12aは画像の画素に相当していると言える。
例えば、図4に示す画像表示体10の場合、観察者はアルファベットの「P」として観察することが出来る。この画像表示体10の場合は光散乱領域12aが大きいために表示してある画像「P」の構成単位である画素を観察できてしまうが、光散乱領域12aの大きさを小さくすればより高解像度の画像を表示でき、その大きさを人間の眼の分解能以下の大きさとすればより滑らかで自然な画像を表示できる。
【0030】
図5は、本発明の実施の形態に係る画像表示体を説明するための概略図である。
【0031】
図5は、入射光31を光散乱領域12aに入射させ、観察者14が光散乱領域12aからの射出光32を観察している場面を図示している。
図5(a)、図5(b)は同じ場面のものであり、XYZ空間において異なる方向から図示したものである。
【0032】
図6は、マトリクス状に配置してある複数の光散乱領域に入射光を入射したときの射出光の強度分布を説明するための概略図である。
【0033】
図6は、X方向の長さがDxの光散乱領域12aがマトリクス状に配置している範囲に入射光31を入射し、その範囲から距離Rの位置にあるスクリーン22に射出光32を投影している。なお、光散乱領域12aのX方向の長さDxに対して、光散乱領域12aとスクリーン22との距離Rは充分大きく、スクリーン22に投影される射出光32はフラウンホーファー回折であるとする。また、入射光31は光散乱領域12aの面に垂直に入射するコヒーレントな平行光であるものとする。XZ平面において入射光31と光散乱領域12aを透過した射出光32とが成す角度をθとする。
本図では透過光を射出光32としてスクリーン22に投影しているが、本図は画像表示体10へ入射光31を入射し、画像表示体10から射出する回折光(射出光32)を観察者14が観察する様を模式的に表したものであり、スクリーン22に投影される回折光は、観察者14が観察する回折光に相当する。また、本図では光散乱領域12aが4つ配置してあるが、本図は概略図であり、本発明はこれに限らない。
前記したように、光散乱領域12aの大きさは人間の眼の分解能以下とされてあることにより滑らかな画像を表示できる。ゆえに、画像表示体10を観察者14が観察する場合、画像表示体10と観察者14の距離に対して光散乱領域12aの大きさは充分小さく、観察者14が観察する回折光はフラウンホーファー回折となる。
【0034】
図7は、単一の光散乱領域12aからの射出光32の強度分布を概略的に示すグラフである。
図示されてある射出角度θは、光散乱領域12aを設けた基材11の一方の面に垂直な入射光31を入射したときに得られる射出光32の射出角度を示しており、0次回折光と成す角度をθとしてある。回折光強度は相対的な値で示しており、0次回折光の強度を1としてある。なお、図示するグラフは説明のために用いる概略的なものであり、本発明の画像表示体の光散乱領域から射出する回折光の強度分布はこれに限らない。
【0035】
射出光32の強度は0次回折光の方向においてピークを示すが、前記してあるように光散乱領域12aは指向性を持った散乱光を射出するため、射出角度θの値の広い範囲において、光散乱領域12aから射出する射出光32(回折光)の強度分布がなだらかに広がっている。
【0036】
しかし、観察者14が実際に観察する回折光は、光散乱領域12aが備える構造に因るもののみではない。本実施形態において光散乱領域12aはマトリクス状に配置されており、それに起因する回折も寄与することとなる。
【0037】
単一の光散乱領域12aによる回折光の強度分布への寄与を、図6におけるZ軸座標値z=0の箇所においてs(θ)と表し、s(θ)をフーリエ変換したものをS(θ)と表すとする。このとき、図7に示す強度分布はS(θ)と表せる。
また、光散乱領域12aがマトリクス状に複数配置してあることによる回折光の強度分布への寄与を、図6におけるZ軸座標値z=0においてg(θ)と表し、g(θ)をフーリエ変換したものをG(θ)と表すとする。なお、g(θ)、G(θ)は図8(a),(b)に概略を図示してある。
【0038】
光散乱領域12aがマトリクス状に配置されているとき、z=0における強度分布への寄与は上記式を用いて、s(θ)*g(θ)と表せる。z=R(スクリ−ン22の位置)における射出光32(回折光)の強度分布はそれをフーリエ変換したものとなるので、S(θ)・G(θ)となる。
【0039】
図8(a)、図8(b)はそれぞれ、g(θ)、G(θ)を表すグラフである。g(θ)は櫛形関数であるので、それをフーリエ変換したG(θ)も櫛形関数となる。なお、図8(a),(b)ではg(θ)よりもG(θ)の方が周期が大きくなっているが、実際にはそれぞれの単位の取り方次第で大小関係は変わるため、g(θ)、G(θ)の周期の大小関係は図8に示す限りではない。
【0040】
図9は、S(θ)・G(θ)を概略的に示すグラフである。
【0041】
図9に示す破線は、図7に示すS(θ)を表しており、実線はS(θ)・G(θ)を表している。
図より、S(θ)・G(θ)は一定周期毎に強度を持っていることがわかる。つまり、マトリクス状に配列されてある複数の光散乱領域12aから射出する射出光32を観察者14が観察した場合、明暗や色の変化が周期的に現れる様子を観察できることとなる。
【0042】
しかし、周期的に現れる明暗や色の変化は、従来からある回折格子パターンの視覚効果と類似しており、光散乱領域12aによる白色を観察者14が観察し難くなる要因となる。
【0043】
ところで、G(θ)の周期は、下記式(1)のDの値より算出することができる。
D = λ/sinθ … (1)
【0044】
上式(1)において、Dは光散乱領域12aの第1方向(X軸方向)における長さ、λは入射光31の波長、sinθは図6に示す射出角度θの正弦である。
【0045】
前記したように、図9のグラフに示してある周期的な強度分布が、観察者が観察した場合の明暗や色の変化の原因となっている。しかし、周期的な強度分布は存在しつつも、観察者14の眼がそれを知覚できなければ明暗や色の変化は観察されない。
ゆえに、G(θ)の周期が人間の瞳孔径以下であれば、明暗や色の変化が観察されることなく、指向性散乱による白色を安定して観察することが可能となる。
【0046】
ところで、人間の眼の瞳孔径は一般的に2乃至8mmであるとし、可視光の波長範囲は400乃至700nmであるとする。また、画像表示体10の表示面(一方の面)と観察者14の眼との距離は500mmであるとする。
このとき、左右の眼の各々の見込み角は0.23乃至0.92°である。
【0047】
本実施形態による画像表示体10及びそれを用いた後述の情報媒体200を観察者14が観察するとき、極端に明るい場所や極端に暗い場所で観察することは少なく、一般的に室内照明下であることが多い。ゆえに、人間の眼の瞳孔径は2乃至8mmであると前記してあるが、本実施形態の画像表示体10乃至情報媒体200を観察する場合の人間の眼の瞳孔径は概ね4乃至5mmとなる。このとき、左右の眼の各々の見込み各は0.46乃至0.57°である。
また、可視光の波長範囲は400乃至700nmと前記してあるが、ここでは分光感度の最も高い555nmを代表値として考える。
【0048】
(1)式において=λ=555nm、θ=0.46°を代入すると、D=69μmとなる。ゆえに、光散乱領域12aの第1方向における長さが69μm以上であれば、明暗や色の変化が観察されることなく安定して白色を表示する画像表示体10及び情報媒体200を提供することが可能となる。
【0049】
(1)式より、入射光31の波長λの値が大きくなる程、光散乱領域12aの第1方向(X軸方向)における長さDの値も大きくなることがわかる。ゆえに、例えばλ=700nmの場合は、光散乱領域12aの第1方向における長さが69μm以上であったとしても、明暗や色の変化が観察されてしまうことになる。
しかし、本実施形態による画像表示体10及び情報媒体200を観察者14が観察するのは、前記したように一般的に室内照明下であり、波長の長さが700nmのコヒーレント光を入射して観察することはない。また、室内照明は通常、白色光であり、また、単一の点光源ということは少なく、複数の点光源、線光源、面光源から成るのが一般的である。
ゆえに、前記したような室内照明環境から鑑みると、分光感度の最も高い555nmを代表値として求めた69μm以上であれば、通常の室内照明環境下において、安定して白色を表示する画像表示体を提供することが可能となる。
【0050】
(1)式においてλ=700nm、θ=0.46°を代入すると、D=87μmとなる。ゆえに光散乱領域12aの第1方向における長さが87μm以上であれば、単一の点光源から成る照明環境下においても明暗や色の変化が観察されることなく安定して白色を表示する画像表示体10及び情報媒体200を提供することが可能となる。
【0051】
ところで、指向性散乱による安定した白色を表示させるならば、撮影等で作製したような完全なランダムパターンを用いればよく、複数の光散乱領域12aを配置する必要はない。しかし、高精細、高解像な画像を作製するためには、撮影よりも前記した電子ビーム露光装置を用いる方法が一般的である。
完全なランダムパターンを電子ビーム露光装置で作製するためには、その構造パターンのデータを作成する必要がある。しかし、それを用いて画像を作成するためには画像の大きさ相当の構造パターンのデータを作成する必要があり、そのデータ量は莫大なものとなってしまうため非常に扱い難い。
そこで、本実施形態にあるように光散乱領域12aをマトリクス状に複数配置する方法が有効となる。その方法の場合、必要となるデータのデータ量は完全なランダムパターンを作成するよりも遙かに少なく、それを繰り返し配置することによって高精細、高解像な画像を作成することが可能となる。
【0052】
更に、光散乱領域12aの構造パターンが全て同一で有る場合、必要となるデータは光散乱領域12aの面積分のみとなり、データ作成の労力を大きく軽減することができる。また、この場合、同一の構造パターンが配置されることにより、画像全体のデータは高い圧縮率で圧縮可能となり、データ量が莫大となることによる運用上の悪影響を軽減することが可能となる。
【0053】
隣接する光散乱領域12a間で光散乱パターン12cの配置パターンが連続的に繋がる場合、前記した光散乱領域12aがマトリクス状に複数配置してあることによる強度分布への寄与を軽減できる。ゆえに、隣接する光散乱領域12a間で構造パターンが連続的に繋がっていることにより、より安定した白色を表示することが可能となる。
ここで、隣接する光散乱領域12a間で光散乱パターン12cの配置パターンが連続的に繋がるとは、図1のX軸方向やY軸方向において隣接する2つの光散乱領域12a,12aの境界部分において継ぎ目が目立たないように、各光散乱領域12aの光散乱パターン12cが繋がることを言う。
光散乱領域12aの光散乱パターン12cが、例えば図10(a)に示すようなものである場合、図1のX軸方向に光散乱領域12aを2つ並べると、図10(b)に示すように、2つの光散乱領域12a,12aの境界部分において光散乱パターン12cが連続せず、継ぎ目が目立ってしまう。このような継ぎ目の部分では、射出光の分布が各光散乱領域12a内の射出光分布とは異なるものとなる。
したがって、図10(a)の光散乱パターン12cを有する光散乱領域12aでは、図1のX軸方向やY軸方向にマトリクス状に配置した場合に、マトリクス全体での射出光の強度分布を均一化することができない。
一方、光散乱領域12aの光散乱パターン12cが、例えば図11(a)に示すようなものである場合、図1のX軸方向に光散乱領域12aを2つ並べると、図11(b)に示すように、2つの光散乱領域12a,12aの境界部分において光散乱パターン12cが連続し、継ぎ目が目立たなくなる。
このように、隣接する光散乱領域12a,12aの境界部分において、両領域12a,12aの光散乱パターン12cが連続すれば、図1のX軸方向やY軸方向に複数の光散乱領域12aをマトリクス状に配置することで、一つの大きな光散乱領域を構成することができるようになる。
ところで、図12(a)に示す光散乱パターンは、フーリエ変換すると図12(b)の周波数スペクトルを示すような射出光の強度分布を有している。そして、図12(a)の光散乱パターンからそれぞれ異なる部分領域を抽出して拡大したのが、図13(a)及び図14(a)にそれぞれ示す光散乱パターンである。これらの光散乱パターンをそれぞれフーリエ変換すると、図13(b)及び図14(b)にそれぞれ示すように、図12(b)に示すのと同じ周波数スペクトルが得られる。即ち、図13(a)及び図14(a)の光散乱パターンは、図12(a)の光散乱パターンと同じ射出光の強度分布を有している。
このため、図11(a)の光散乱領域12aのように、図1のX軸方向やY軸方向に光散乱パターン12cが連続的に繋がる配置パターンを有している場合は、その光散乱領域12aをマトリクス配列することで、図12(a)に示すような、どの領域を部分的に切り取っても射出光の強度分布が同じである光散乱パターンを構成することができる。
即ち、図11(a)の光散乱パターン12cを有する光散乱領域12aならば、光散乱パターン12cの内容を図13(a)や図14(a)の光散乱パターンのようにすることで、図1のX軸方向やY軸方向にマトリクス状に配置した場合に、マトリクス全体での射出光の強度分布を均一化することができる。
これにより、光散乱領域12aがX軸方向やY軸方向に並べて配置してあることによる回折光の強度分布への寄与を、低減することができる。
【0054】
ところで、観察者14が画像表示体10を眼から500mm離した位置で観察すると、一般的に、視力が1.0の人間の眼の分解能は1分(1/1.0=60秒)であるため、眼の分解能の限界により、145μm以下の構造は分解できない。よって、光散乱領域12aの一辺の長さを145μm以下とすると光散乱領域12a同士を分解することはできない。ゆえに、光散乱領域12aの一辺の長さを145μm以下とすることによって、より高品位な画像を表示する画像表示体10を提供することが可能となる。
このように、本実施形態の画像表示体10では、従来からある回折格子パターンとは異なる白色表示という視覚効果を有するので、偽造又は模造が困難であり、これにより、より高い偽造防止効果を実現することができる。
【0055】
図15は、本発明の一実施形態に係る情報媒体を概略的に示す平面図である。
図15に示す本実施形態の情報媒体200は、磁気カードであって、基材51を含んでいる。基材51には、印刷層52と帯状の磁気記録層53とが形成されている。更に、基材51には、画像表示体10が偽造防止用又は個人識別用ラベルとして貼り付けられている。
【0056】
この情報媒体200は、画像表示体10を含んでいる。ゆえに、この情報媒体200の偽造又は模造は困難である。
【0057】
なお、基材51の材質は、天然の紙及び合成紙などの紙でなくてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂(熱可塑性PET)、ポリ塩化ビニル樹脂、熱硬化性ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル樹脂及びポリスチレン樹脂などの合成樹脂、ガラス、陶器及び磁器などのセラミックス、又は、単体金属及び合金などの金属材料であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
10…画像表示体
11…光透過層
12a…光散乱領域
12b…非光散乱領域
12c…光散乱パターン
13…光反射層
14…観察者
20…フーリエ変換画像
22…スクリーン
31…入射光
32…射出光
32a…0次回折光
32b…回折光
51…基材
52…印刷層
53…磁気記録層
200…情報媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性の基材の少なくとも一方の面に、凹部及び凸部のうち少なくとも一方で構成された直線状の光散乱パターンを方向を揃えて複数配置した光散乱領域を備えており、
前記基材の前記一方の面上に、前記光散乱領域の少なくとも一部を被覆する光反射層を備えており、
前記基材の前記一方の面上に前記光散乱領域を、前記各光散乱パターンの延在方向及び前記光散乱パターンどうしの間隔方向に沿ってマトリクス状に複数配置してあることで画像を表示する画像表示体において、
前記一方の面上での前記光散乱パターンの間隔方向における前記光散乱領域の長さは69μm以上であることを特徴とする画像表示体。
【請求項2】
前記間隔方向における前記光散乱領域の長さは87μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体。
【請求項3】
前記各光散乱領域はそれぞれ前記光散乱パターンを同一の配置パターンで有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の画像表示体。
【請求項4】
前記延在方向及び前記間隔方向において、隣接する2つの前記光散乱領域の前記光散乱パターンが連続し、該連続する光散乱パターンの任意の部分によって、射出光の強度分布が同じ配置パターンが得られることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の画像表示体。
【請求項5】
前記間隔方向における前記光散乱領域の長さは145μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の画像表示体。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の画像表示体と、前記画像表示体を支持した物品とを具備してあることを特徴とする情報媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−208149(P2012−208149A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71479(P2011−71479)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】