説明

画像表示装置のための酔い防止装置

【課題】中心視野の視覚認識機能を妨げずに周辺視野を用いて酔いを防止した画像表示装置のための酔い防止装置を提供する。
【解決手段】画像表示装置のための酔い防止装置は、世界座標取得部10と視標生成部20と視標表示部30とからなる。世界座標取得部10は、加速度センサ及び/又はジャイロスコープ等を用いて世界座標情報を得るものである。視標表示部30は観察者の周辺視野の位置に配置されるものである。視標生成部20は、視標表示部30に表示する視標を生成するものであり、世界座標取得部10により得られる世界座標情報に応じて世界座標に位置が固定されているように見える視標を生成する。生成される視標を視標表示部30に表示することで、観察者の周辺視野に世界座標情報に対応した視標の刺激を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像表示装置のための酔い防止装置に関し、特に、ヘッドマウントディスプレイ着用時の酔いを防止するための酔い防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近来から眼鏡状の頭部に装着するディスプレイ装置であるヘッドマウントディスプレイは、ビデオやDVD等を用いた映画鑑賞や、バーチャルリアリティ画像やゲーム画像表示、ロボットの遠隔操作等、様々な分野で利用されている。ヘッドマウントディスプレイは、一般的に眼鏡状の装置の前部に設けられる表示装置と光学系とからなるものである。
【0003】
ヘッドマウントディスプレイを用いると、乗り物酔いと似た感じの酔いが生ずることが従来から知られており、これを解決するために様々な手法が開発されている。例えば、首を振ったときに画像がそのままついてこないように、首を振る方向と逆方向に画像が移動するようにして酔いを防止する装置が特許文献1等に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−279882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の酔い防止の手法は、いずれも中心視野に係る画像、すなわち眼鏡状装置の前部に設けられる表示装置に表示される画像の調整を重要視していた。したがって、頭部運動を補償するために中心視野の画像を移動するものであった。ところが、このような従来の手法ではなお酔いが生じることが知られており、更なる酔い防止が望まれていた。
【0006】
ここで、人間の平衡感覚について網膜の構造を中心に説明する。人間の網膜の中心部には黄斑部と呼ばれる部位がある。黄斑部の中心部には中心窩と呼ばれる部位があり、中心窩は最も視力が良い場所である。網膜の黄斑部とそれ以外の部分では、それぞれ画像認識や処理が異なっていると考えられる。網膜の光感受性容器として、錐体と杆体がある。錐体は明るい場所で機能し明所視を司るものである。また、杆体は暗い場所で機能し暗所視を司るものと考えられている。網膜においてこれらの錐体と杆体の分布は異なっており、錐体は中心窩を中心に多く存在し、杆体は中心窩を取り巻くように網膜の周辺に多く存在する。錐体と杆体の性質から、錐体が機能する中心視野が視覚認識の主要な役割を果たし、杆体が機能する周辺視野が環境の変化や危険の察知等を行う役割を果たしていると考えられる。周辺視野では錐体が非常に少ないため明所視と暗所視には大きな差がなく、杆体による視野であると考えられる。
【0007】
ここで、視細胞の内、錐体の数は約6百万個〜7百万個であるのに対し、杆体の数は1億2千万個以上もあると言われていることから、杆体、すなわち周辺視野は人間の視覚にとって非常に重要な役割を担っていると考えられる。本願の発明者の研究により、周辺視野を遮った場合、人間はバランスを保って直立し続けることが困難となることから、周辺視野は平衡感覚にとって重要であることが分かった。すなわち、中心視野よりも周辺視野が人間の酔いのメカニズムに深く関わっていることが分かった。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、中心視野の視覚認識機能を妨げずに周辺視野を用いて酔いを防止した画像表示装置のための酔い防止装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による画像表示装置のための酔い防止装置は、世界座標情報を得る世界座標取得部と、観察者の周辺視野の位置に配置される視標表示部と、視標表示部に表示する視標を生成する視標生成部であって、世界座標取得部により得られる世界座標情報に応じて世界座標に位置が固定されているように見える視標を生成する視標生成部と、を具備するものである。
【0010】
ここで、視標生成部は、画像表示装置に表示される画像の輝度に応じて視標の輝度を変化させても良い。
【0011】
また、視標生成部は、画像表示装置に表示される画像の一部を利用して視標を生成しても良い。
【0012】
また、世界座標取得部は、観察者に対して相対的に位置が固定される加速度センサ及び/又はジャイロスコープを具備し、該加速度センサ及び/又はジャイロスコープによる画像表示装置の移動量から世界座標情報を得るようにしても良い。
【0013】
さらに、世界座標取得部は、観察者に対して相対的に位置が固定される画像撮像装置を具備し、該画像撮像装置による撮像画像から世界座標情報を得るようにしても良い。
【0014】
またさらに、観察者の眼球の動きを計測する眼球運動計測部を具備していても良く、視標生成部は、眼球運動計測部により計測される眼球の動きに応じて視標を移動させても良い。
【0015】
なお、画像表示装置は、ヘッドマウントディスプレイであれば良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の画像表示装置のための酔い防止装置には、画像表示装置に表示する画像には何ら変更を加えることなく、周辺視野の位置に配置される視標表示部により視標を与えることで酔いを防止できるという利点がある。また、視標表示部の表示解像度は高くする必要もないため、安価な表示装置及び制御部で頭部の動きに対する追従性も高い装置が実現可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の画像表示装置のための酔い防止装置を説明するための概略斜視図である。なお、以下の図示例では画像表示装置としてヘッドマウントディスプレイを用いたものを説明するが、本発明はこれに限定されず、周辺視野に対して正しい情報が網膜に入らないことにより酔いが引き起こされる画像表示装置であれば、如何なるものであっても適用可能である。
【0018】
従来の装置では、周辺視野への情報は画像表示部の周辺や眼鏡周辺の構造物等、世界座標に固定されていない情報であったため酔いの原因となっていたと考えられる。しかしながら、本発明の酔い防止装置では、上述のように平衡感覚にとって重要である周辺視野に対して世界座標情報を与えることで、周辺視野に対して正しい情報が網膜に入り、観察者に対して前庭器の平衡感覚と同じ基準ができるので、酔いが防止できるものである。
【0019】
図示の通り、本発明の酔い防止装置は、世界座標情報を得るための世界座標取得部10と、視標を生成する視標生成部20と、周辺視野の位置に配置される視標表示部30とから主に構成されるものである。ヘッドマウントディスプレイ1は、通常のヘッドマウントディスプレイと同様に、画像表示部2を有しており、画像表示部2にビデオやDVD等の画像、ゲームやバーチャルリアリティ画像、ロボットのロボットの遠隔操作用の画像が映し出される。画像表示部2は、左右の中心視野用ディスプレイ2a,2bからなるものであり、画像を観察者の左右の眼球にそれぞれ提供する。左右の中心視野用ディスプレイ2a,2bには、同一の画像を表示するように構成されていても良いし、視差等を利用することで立体画像等を表示するように構成されていても良い。
【0020】
本発明の酔い防止装置の世界座標取得部10は、人間の前庭器の機能と同様な機能を担う部分であり、図示例では加速度センサ11とジャイロスコープ12とから構成されている。加速度センサ11とジャイロスコープ12は、ヘッドマウントディスプレイ1に固定されているため観察者に対して相対的に位置が固定されており、ヘッドマウントディスプレイ1の移動量、すなわちヘッドマウントディスプレイ装着者の頭部の動きを検出できるセンサである。加速度センサ11はより具体的には3軸加速度センサから構成されるものであり、頭部の並進運動を検出するために用いられる。また、ジャイロスコープ12は、頭部の回転運動を検出するために用いられる。なお、加速度センサを2つ以上用いれば、それぞれの相対加速度から回転運動を検出することも可能であるため、この場合はジャイロスコープを用いなくても構わない。世界座標取得部10では、このようなセンサを用いることでヘッドマウントディスプレイの移動量を検出し、これから世界座標情報を取得するものである。すなわち、頭部の動きを検出しそれをキャンセルする動き、すなわち反対方向の動きを利用することで、固定された世界座標情報を得ることが可能となる。なお、世界座標情報を取得することで前庭器の機能を実現できる装置であれば、世界座標取得部は他の構成、例えばモーションキャプチャ装置等であっても構わない。ここで、世界座標とは、現実世界の共通座標系を意味するものであり、世界座標情報とは、これに応じて表現する座標位置や移動量、傾き、奥行き等の情報である。
【0021】
ここで、加速度センサとジャイロスコープとから構成される世界座標取得部については、測定される世界座標には累積誤差が生じるため、時間の経過により現実の世界座標と異なる座標情報となることがある。しかしながら、本発明においては、この累積誤差は問題とならない。これは、人間の前庭器にも同様に累積誤差があり、例えば目隠しして回転すると方向が分からなくなるのと同じである。したがって、瞬時計測精度が高ければ、画像表示装置の酔いを防止するのには十分であり、安価な加速度センサとジャイロスコープとを利用することが可能である。
【0022】
上述のようにして世界座標取得部10で取得された世界座標情報は、視標生成部20に入力される。視標生成部20は、世界座標情報を用いてこれに対応して世界座標に位置が固定されているように見える視標を生成するものである。視標生成部20は、例えばコンピュータ等で実現可能なものであり、ヘッドマウントディスプレイ1のインタフェース3を介して世界座標情報をコンピュータに送信することで視標の生成が可能となる。なお、ヘッドマウントディスプレイ1上にDSP等のプロセッサから構成される視標生成部20を設けても構わない。
【0023】
さて、視標生成部20で生成される視標についてより詳細に説明する。視標生成部20で生成される視標は、後述の視標表示部30に表示されるものであり、世界座標情報を周辺視野に与えるための、所定のマークやテクスチャ、パターン等の画像である。より具体的には、視標は、例えば黒いバックグラウンド上で所定の間隔で配置される所定サイズ以上のエッジの鋭い模様、例えばシマウマ模様のようなものである。そして、視標生成部20は、このような視標を世界座標取得部10で取得された世界座標情報に対応して移動させている。具体的には、観察者、すなわちヘッドマウントディスプレイ1の装着者に対して、その周辺視野に常に世界座標に固定された視標を提供するように、世界座標情報に応じて視標の位置が世界座標に固定されているように見えるように移動させる。これは頭部の動きをキャンセルする方向への移動であり、視覚的には視標が世界座標に対して静止するように制御を行えば良い。したがって、視標は、現実世界の水平線のように頭部を動かしても変わらない世界座標に固定されたものである。このような視標を視標表示部30に表示することで、頭部が傾いたり前後したとしても常に固定された世界座標を周辺視野に与えることが可能となる。
【0024】
そして、視標生成部20で生成された視標を表示するのが視標表示部30である。図示の通り、視標表示部30は、世界座標情報に対応する視標35を観察者に与えるものであり、観察者の周辺視野の位置に配置されるものである。図示例ではヘッドマウントディスプレイに固定されているため観察者の頭部に対して相対的に位置が固定されている。また、視標表示部30は、観察者の両側の周辺視野に対して世界座標情報を与えるものであるため、左右の周辺視野に配置される一対の周辺視野用ディスプレイ30a,30bからなるものである。なお、ここでは網膜視野の中心から10度離れる部分を周辺視野とする。その周辺視野の一部に対して刺激を与えるのが視標表示部30であり、これがヘッドマウントディスプレイ1の所定の位置に配置される。図示例では、ヘッドマウントディスプレイ1のテンプル部(つる部)の両側、例えば、ヘッドマウントディスプレイ1の正面から左右20度の位置に周辺視野用ディスプレイ30a,30bがそれぞれ配置されている。周辺視野用ディスプレイ30a,30bは、液晶ディスプレイ等から構成されれば良い。なお、周辺視野のうち両眼視野が交差しない領域、例えば側方の外側の周辺視野に対して視標を与える場合には、交差しないので両眼立体視ができないため、左右の周辺視野用ディスプレイ30a,30bに表示される視標はそれぞれ立体視を行うための対応関係を作る必要はない。また、可能な限り頭部の動きに対応する表示速度を実現する必要があるため、周辺視野用ディスプレイは一般的な表示装置のフレームレートである30フレーム/秒よりも高いことが好ましい。なお、視標の解像度は高い必要はないため、低解像度の安価な表示装置を用いることが可能であり、また、低解像度であれば処理速度を高速化することが可能であるため、高フレームレートも安価に実現可能である。
【0025】
なお、視標表示部30は、図示例では側方の外側周辺視野の位置に設けられているものを示したが、本発明はこれに限定されず、側方の外側以外にも内側や上下の周辺視野の位置に視標表示部を配置しても良い。しかしながら、平衡感覚に対しては、側方の周辺視野のほうがより効果が大きい。側方の外側と内側の両方の周辺視野に視標表示部を設けることで、視標を立体的に提供することが可能となり、酔い防止効果がより向上する。
【0026】
また、画像表示装置のモニタの一部、すなわち、ヘッドマウントディスプレイ1の画像表示部2の一部を、視標表示部30として用いても良い。例えば幅の広い画像表示部の周辺視野に位置する部分を周辺視野用ディスプレイとして用いて、ここに視標を表示するようにしても上述の図示例と同様の効果が得られる。
【0027】
本発明の酔い防止装置では、上述のように、平衡感覚にとって重要である周辺視野に対して世界座標情報を与えることで、観察者に対して前庭器の平衡感覚と同じ基準ができるので、酔いを防止することが可能となる。
【0028】
なお、視標生成部20において生成される視標については、ヘッドマウントディスプレイ1に表示される画像の輝度に応じて視標の輝度を変化させることも可能である。人間の視細胞は順応性が高く、1000倍以上の輝度差にも対応している。但し、中心視野が明るいときには周辺視野も明るくないと視標が認識できなくなる場合もあるため、ある程度周辺視野の輝度を強くしても良い。また、中心視野が暗いときには周辺視野は暗いほうが好ましい。したがって、中心視野、すなわちヘッドマウントディスプレイ1に表示される画像の輝度をリアルタイムで測定し、これに応じて視標の輝度を変化させれば良い。
【0029】
また、視標生成部20においては、ヘッドマウントディスプレイ1に表示される画像の一部を利用して視標を生成することも可能である。すなわち、ヘッドマウントディスプレイ1に表示される画像の一部、例えば空間周波数の高い領域をリアルタイムで切り取り、これを利用して視標を生成すれば良い。例えばヘッドマウントディスプレイ1に表示される画像が風景画等の場合に、その風景画の一部を例えばテクスチャとして用いて視標の模様とする。これにより、観察者にとって視標が目障りとなることを低減することが可能となり、画像のより自然な視聴が可能となる。
【0030】
さらに、本発明の酔い防止装置は、観察者の眼球の動きを計測する眼球運動計測部を設けても良く、これを用いて視標の移動を変化させることも可能である。人間は眼球運動により視点までの距離をある程度測定可能である。すなわち、人間は物体までの距離に応じて物体の見え方が変わり、眼球運動による物体の移動の大きさにより遠近感を感じている。視標生成部20において、周辺視野に与える視標が十分に遠い位置にあるものとして視標を生成すれば眼球運動の影響は無視できる。しかしながら、視標が近い位置にあるものとして視標を生成した場合、眼球移動により奥行き距離の異なる物体は眼球に対して異なる移動となるので、眼球の動きに応じて周辺視野に与える視標を移動させる必要がある。このように奥行きに応じて視標を移動させることにより、眼球の動きと視標の仮想的な存在位置とを考慮して周辺視野に視標を与えることが可能であるため、視細胞に対してより自然な刺激となる。したがって、より酔いを防止することが可能となる。
【0031】
ここで、人間が眼球運動により視点までの距離がある程度測定可能なのは、眼球の水晶体の光学中心は眼球の回転中心と重ならないので、眼球が回転すると近い物体と遠い物体の網膜像の移動量が異なるためである。しかしながら、この現象は目の近くにディスプレイを設置するヘッドマウントディスプレイでは厄介な問題となり得る。すなわち、眼球運動により、視標の仮想的な位置ではなく、視標の実際の距離(視標表示部までの距離)が分かってしまう。したがって、そのままでは大脳では不自然さを感じてしまう可能性があり、これも酔いの原因であると考えられる。本発明では、上述のように眼球運動計測部を設けることで眼球運動を計測し、眼球運動により生じる視標のずれを補正することが可能となるため、より酔いを防止することが可能となる。補正方法としては、実際には近くにある視標を遠くの視標として見せるために、眼球運動があってもあまり移動していないように見える視標となるように制御すれば良い。なお、眼球運動計測部の測定結果を画像表示装置側に表示する中心視野の画像の補正に利用することも勿論可能である。
【0032】
また、本発明の酔い防止装置の世界座標取得部10は、加速度センサ11とジャイロスコープ12とから構成されている例を図示したが、本発明はこれに限定されず、以下に説明する通り、画像撮像装置を用いたものであっても良い。図2は、本発明の画像表示装置のための酔い防止装置の他の例を説明するための概略上面図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は同一物を表している。図1に示される酔い防止装置の世界座標取得部10の加速度センサ11とジャイロスコープ12の代わりに、図2に示される酔い防止装置の世界座標取得部50は、一対の画像撮像装置50a,50bで構成されている。画像撮像装置50a,50bを用いて周辺環境の画像を取り込み、その世界座標を取得するものである。画像撮像装置50a,50bは、具体的にはCCDカメラやCMOSカメラ等からなるものであり、ヘッドマウントディスプレイ1の観察者の周辺視野に位置する実世界の風景を撮像するものである。そして、画像撮像装置50a,50bにより撮像された画像はリアルタイムにそれぞれ視標表示部30である周辺視野用ディスプレイ30a,30bに視標として表示される。周辺視野用ディスプレイ30a,30bに表示される画像は、観測者が実世界と同じ大きさに見えるように調整される。すなわち、画像撮像装置50a,50bの視野角が周辺視野用ディスプレイ30a,30bの眼球への入射角と等しくなるように、画像撮像装置50a,50bの撮像面と周辺視野用ディスプレイ30a,30bの表示面とが平行になるように配置される。こうすることで、周辺環境の画像をそのまま、又は周辺環境画像と連動したものを視標として用いることが可能となる。なお、平行になるように配置されない場合には、表示する視標画像を幾何学計算等により補正すれば良い。
【0033】
図2に示される酔い防止装置では、画像撮像装置50a,50bにより実世界の画像を世界座標情報として取得し、これを視標として観察者の周辺視野に与えることで、図1に示した酔い防止装置と同様の効果が得られる。なお、撮像された実世界の画像をそのまま視標として視標表示部30に表示しても良いし、視標生成部20により輝度調整を行った画像や所定のパターン化を行って単純化した画像を表示しても良い。本発明の酔い防止装置では、撮像される画像と表示される画像が同じ速度で連動するものであれば、その画像の模様やパターンは如何なるものであっても良い。同じ速度で連動させることで、人間の前庭器の感覚と周辺視野に与えられた世界座標情報に対応する視標による影響とがマッチするので、酔いを防止することが可能となる。なお、画像撮像装置により撮像された画像に、世界座標に対して運動する物体が存在した場合等には、当該運動物体の影響を除去するために、画像撮像装置と共に加速度センサやジャイロスコープを併用して撮像された視標用の画像を補正することも可能である。
【0034】
なお、図2に示される酔い防止装置では、画像撮像装置により撮像される側方の外側周辺視野の画像を観察者に与えるものを図示したが、本発明はこれに限定されず、側方の外側以外にも内側や上下の周辺視野の画像を撮像し、これを内側や上下の周辺視野に設けられる視標生成部により観察者に与えるようにしても良い。これにより視標を立体的に提供することが可能となり、酔い防止効果がより向上する。
【0035】
このように、本発明の酔い防止装置によれば、中心視野の視覚認識機能を妨げずに周辺視野を用いて酔いを防止することが可能となる。
【0036】
なお、本発明の画像表示装置のための酔い防止装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0037】
画像表示装置としては、上述の図示例ではヘッドマウントディスプレイを中心に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、アミューズメント施設における大型スクリーンを用いたバーチャルリアリティ装置にも、本発明の酔い防止装置は適用可能である。すなわち、観察者の座っている椅子が大型スクリーンに表示される画像に連動して動くような装置の場合に、椅子に世界座標取得部を設け、観察者の周辺視野の位置に世界座標情報に対応する視標を与えることで、ヘッドマウントディスプレイの場合と同様の効果が得られる。また、映画館等において暗闇でスクリーン以外の物がまったく見えない状況でも、周辺視野に本発明による視標を与えることで酔いを防止することも可能である。さらに、大型ディスプレイ等、周辺視野の領域まで表示画面で覆われるような状況でも、周辺視野に視標を与えることで酔いを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の画像表示装置のための酔い防止装置を説明するための概略斜視図である。
【図2】図2は、本発明の画像表示装置のための酔い防止装置の他の例を説明するための概略上面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ヘッドマウントディスプレイ
2 画像表示部
2a,2b 中心視野用ディスプレイ
3 インタフェース
10 世界座標取得部
11 加速度センサ
12 ジャイロスコープ
20 視標生成部
30 視標表示部
30a,30b 周辺視野用ディスプレイ
35 視標
50 世界座標取得部
50a,50b 画像撮像装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像表示装置のための酔い防止装置であって、該酔い防止装置は、
世界座標情報を得る世界座標取得部と、
観察者の周辺視野の位置に配置される視標表示部と、
前記視標表示部に表示する視標を生成する視標生成部であって、前記世界座標取得部により得られる世界座標情報に応じて世界座標に位置が固定されているように見える視標を生成する視標生成部と、
を具備することを特徴とする酔い防止装置。
【請求項2】
請求項1に記載の酔い防止装置において、前記視標生成部は、画像表示装置に表示される画像の輝度に応じて視標の輝度を変化させることを特徴とする酔い防止装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の酔い防止装置において、前記視標生成部は、画像表示装置に表示される画像の一部を利用して視標を生成することを特徴とする酔い防止装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の酔い防止装置において、前記世界座標取得部は、観察者に対して相対的に位置が固定される加速度センサ及び/又はジャイロスコープを具備し、該加速度センサ及び/又はジャイロスコープによる画像表示装置の移動量から世界座標情報を得ることを特徴とする酔い防止装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の酔い防止装置において、前記世界座標取得部は、観察者に対して相対的に位置が固定される画像撮像装置を具備し、該画像撮像装置による撮像画像から世界座標情報を得ることを特徴とする酔い防止装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の酔い防止装置であって、さらに、観察者の眼球の動きを計測する眼球運動計測部を具備し、前記視標生成部は、前記眼球運動計測部により計測される眼球の動きに応じて視標を移動させることを特徴とする酔い防止装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れかに記載の酔い防止装置において、前記画像表示装置は、ヘッドマウントディスプレイであることを特徴とする酔い防止装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−256946(P2008−256946A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−98955(P2007−98955)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】