説明

画像解析方法および画像解析装置

【課題】画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる画像解析方法等を提供する。
【解決手段】生物学的試料の画像の特徴量と、前記画像に対応する薬効の程度との組み合わせ組み合わせに基づいて、複数の前記特徴量を用いた演算により前記薬効を算出するためのアルゴリズムを取得、最適化する。前記アルゴリズムを用いて、特徴量が取得された画像が示す薬効を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的試料の画像の特徴量から薬効を判定するための解析を行う画像解析方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬スクリーニングの一分野として、HCA(ハイコンテンツアナリシス)またはHCS(ハイコンテンツスクリーニング)と呼ばれる手法がある。この手法では、細胞の顕微鏡画像を用いて薬効の判定を行う。一度に多数の実験条件を試すために、多数のウェルをもつマイクロタイタープレートが用いられ、個々のウェルに対して順次撮像を行う操作が自動的に行われる装置も開発されている。
【0003】
図5は、画像解析を用いる創薬スクリーニングの概念を示している。この手法では、例えば、多くの種類の薬剤の各々について異なる薬剤濃度で細胞に適用し、その反応を解析する。図5の例では、反応(薬効)の有無が「細胞の面積」という単純な特徴量で定量化できる場合を示しており、左側がネガティブ(薬効なし)の場合の顕微鏡画像に、右側がポジティブ(薬効あり)の場合の顕微鏡画像に、それぞれ相当する。図5に示すように、ポジティブの場合にネガティブの場合よりも細胞の面積が大きくなる。図6は、この場合の反応曲線を示しており、グラフの横軸に薬剤の量(濃度)を、縦軸に細胞の面積をプロットすると反応曲線が得られる。図6の例では、薬剤の濃度とともに薬効が大きくなりやがて飽和する様子が示されている。この反応曲線から、創薬スクリーニング分野で標準的に用いられているZ´−factor(最大薬効と最小薬効の差が誤差も考慮してどの程度有意かを示す評価量)やEC50(薬効が最大の半分になる薬剤濃度)、SN(薬効の最大と最小の比)等の評価係数を出力する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】横河技報 Vol.52 2008「培養細胞を用いた創薬テストにおける画像処理」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5の例のように、細胞の面積のような自明な特徴量で薬効が定量化できる場合は薬効を容易に判定できるが、一般には、薬効の有無は、画像の明るさに関するパラメタや画像の形状に関するパラメタの組み合わせなど、異なる特徴量の複雑な組み合わせになると考えられ、直感的に数式で表すことも困難である。画像の明るさとしては、細胞領域内の画素値の合計、平均、標準偏差、あるいはそれらと空間(2次元画像のXY方向、あるいは3次元画像のXYZ方向)の量を組み合わせた各種特徴量(統計量)が考えられる。形状に関するパラメタは、形状のモーメントやオイラー数等の幾何学的な特徴量や、Haralickのテクスチャの特徴量が考えられる。
【0006】
このように、創薬スクリーニングの画像解析では、薬効を表すパラメタ(特徴量)を抽出することが必要である。特徴量は自明でなく、また1種類とは限らない。一般には、複数の特徴量を最適に組み合わせることで、1種類の特徴量のみに依存するよりも高い信号対雑音比で薬効を定量できると考えられる。しかしこれまで、どのような特徴量をどう組み合わせるかは、研究者の経験や勘という主観に委ねられてきたのが実情であり、パラメタの最適化を自動的に系統立てて行う手法は存在しない。また、HCSやHCAは、薬学分野の研究者にとって馴染みが少ない画像処理の専門知識が必要であり、敷居が高い技術という印象が持たれている。
【0007】
本発明の目的は、画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる画像解析方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の画像解析方法は、生物学的試料の画像の特徴量から、その画像が示す薬効を判定するための解析を行う画像解析方法において、生物学的試料の画像の特徴量と、前記画像に対応する薬効の程度との組み合わせの入力を受け付ける受付ステップと、前記受付ステップにより入力された組み合わせに基づいて、複数の前記特徴量を用いた演算により前記薬効を算出するためのアルゴリズムを取得、最適化するアルゴリズム取得ステップと、生物学的試料の画像の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、前記アルゴリズム取得ステップにより算出された前記アルゴリズムを用いて、前記特徴量取得ステップにより特徴量が取得された画像が示す薬効を算出する薬効算出ステップと、をコンピュータが実行することを特徴とする。
この画像解析方法によれば、画像の特徴量と、画像に対応する薬効の程度との組み合わせに基づいて、複数の特徴量を用いた演算により薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するので、画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる。
【0009】
前記アルゴリズムはニューラルネットワークや、サポートベクターマシン(SVM)により定義されてもよい。
【0010】
前記特徴量を抽出する特徴量抽出ステップをコンピュータが実行し、前記アルゴリズムは前記特徴量抽出ステップにおける画像解析のパラメタの指定を含んでもよい。
【0011】
本発明の画像解析装置は、生物学的試料の画像の特徴量から、その画像が示す薬効を判定するための解析を行う画像解析装置において、生物学的試料の画像の特徴量と、前記画像に対応する薬効の程度との組み合わせの入力を受け付ける受付手段と、前記受付手段により入力された組み合わせに基づいて、複数の前記特徴量を用いた演算により前記薬効を算出するためのアルゴリズムを取得、最適化するアルゴリズム取得手段と、生物学的試料の画像の特徴量を取得する特徴量取得手段と、前記アルゴリズム取得手段により算出された前記アルゴリズムを用いて、前記特徴量取得手段により特徴量が取得された画像が示す薬効を算出する薬効算出手段と、を備えることを特徴とする。
この画像解析装置によれば、画像の特徴量と、画像に対応する薬効の程度との組み合わせに基づいて、複数の特徴量を用いた演算により薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するので、画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の画像解析方法によれば、画像の特徴量と、画像に対応する薬効の程度との組み合わせに基づいて、複数の特徴量を用いた演算により薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するので、画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる。
【0013】
本発明の画像解析装置によれば、画像の特徴量と、画像に対応する薬効の程度との組み合わせに基づいて、複数の特徴量を用いた演算により薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するので、画像処理の専門知識を要することなく、適切に薬効を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】画像解析装置の構成例を示すブロック図。
【図2】本発明による画像解析方法で利用するニューラルネットワークの例を示す図。
【図3】ニューラルネットワークを構築する際における組み合わせ最適化部の動作を示すフローチャート。
【図4】反応曲線出力部の動作を示すフローチャート。
【図5】画像解析を用いる創薬スクリーニングの概念を示す図。
【図6】薬効に応じて細胞の面積が大きくなる場合の反応曲線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による画像解析方法の一実施形態について説明する。
【0016】
図1は、本発明による画像解析方法を実行するための画像解析装置の構成例を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、画像解析装置は、顕微鏡やカメラにより得られた細胞の画像データを取得する画像データ取得部1と、画像解析を行う機能(ソフトウェア)が実装され、画像データ取得部1から取得した画像データから、個々の細胞について多数の特徴量を演算して演算結果を記録する特徴量抽出部2と、ニューラルネットワークを構築する組み合わせ最適化部3と、ニューラルネットワークを用いて反応曲線を算出する反応曲線出力部4と、を備える。
【0018】
図2は、本発明による画像解析方法で利用するニューラルネットワークの例を示している。図2の例では、層の数は3層である。しかし、本発明による画像解析方法に適用されるニューラルネットワークにおける出力数nの値および層の数はこれに限定されない。
【0019】
次に、画像解析装置の動作について説明する。
【0020】
画像データ取得部1には、種々の薬剤について、複数(多数)の異なる濃度における画像データが取り込まれ、特徴量抽出部2は、それぞれの画像についての特徴量を演算、記録する。特徴量抽出部2において演算、記録される特徴量は、例えば、画像の明るさに関するパラメタや画像の形状に関するパラメタなどである。画像の明るさとしては、細胞領域内の画素値の合計、平均、標準偏差、あるいはそれらと空間(2次元画像のXY方向、あるいは3次元画像のXYZ方向)の量を組み合わせた各種特徴量(統計量)が考えられる。形状に関するパラメタは、形状のモーメントやオイラー数等の幾何学的な特徴量や、テクスチャに関する特徴量が考えられる。
【0021】
図3は、ニューラルネットワークを構築する際における組み合わせ最適化部3の動作を示すフローチャートである。
【0022】
図3のステップS1では、組み合わせ最適化部3は、特定の薬剤についてのネガティブコントロールおよびポジティブコントロールについての画像の特徴量を特徴量抽出部2から取得する。ここで、ネガティブコントロールは最低濃度または薬剤を投与しない場合であり、ポジティブコントロールは最大濃度の場合である。
【0023】
次に、ステップS2では、組み合わせ最適化部3においてニューラルネットワークを構成する。
【0024】
ネガティブコントロールおよびポジティブコントロールのデータは各々、(1,0),(0,1)というベクトルで表し、出力が2ノードであるニューラルネットワークを構成する。各ノードの応答関数は、例えば、下記の(1)式で示すロジスティック関数等を用いることができるが、これと異なる関数でもよい。
【0025】
f(x)=a/[1+exp{−(x−T)}] ・・・(1)式
ただし、aは規格化定数、Tは閾値である。
【0026】
入力ノードは特徴量抽出部2から得られる各細胞の画像の特徴量であり、入力ノード数はこの特徴量の個数である。入力する特徴量は一般に異なる次元を持っており、また、数値の範囲も単位によって異なる。このため、ニューラルネットワークに入力する前段階で規格化を施す必要がある。規格化の方法としては、例えば、その特徴量の最大値と最小値を用いて値を0−1の範囲に規格化し、あるいは平均と標準偏差を用いて規格化してもよい。
【0027】
ステップS2では、複数(多数)の異なる濃度のうち、とくにネガティブコントロールとポジティブコントロールの2種類の特徴量の組に対して、それぞれ結果が(1,0),(0,1)となるよう、ニューラルネットワークの構成、学習を行う。学習の方法としては、当該分野で公知の誤差逆伝播法(Back propagation)を用い、学習係数の調整等を行う。入力する教師信号の数は、ネガティブコントロール、ポジティブコントロール各々のデータにおいて検出した細胞の数に該当するが、必要に応じて一部のデータのみを使用してもよい。
【0028】
ニューラルネットワークは特徴量を組み合わせて薬効を算出するアルゴリズムに対応しており、ニューラルネットワークの学習により、どの特徴量をどのような重みで関連付けるとネガティブコントロールとポジティブコントロールを明確に識別可能になるかが判明する。この学習過程が、熟練者が画像処理の知識に基づいて特徴量を組み合わせて薬効の定量化を試みる作業に対応している。
【0029】
ニューラルネットワークの中間層のノード数については何らかの経験則に従って決定してもよく、あるいは複数の異なる中間層のノード数のニューラルネットワークに対して繰り返し学習を試み、出力誤差が充分に小さくなるようなノード数を選択してもよい。
【0030】
図4は、反応曲線出力部4の動作を示すフローチャートである。
【0031】
反応曲線出力部4は、学習済みのニューラルネットワークを用いて、ネガティブコントロールおよびポジティブコントロール以外の濃度を含むすべての濃度での薬効を判定する処理を実行する。
【0032】
図4のステップS11では、判定の対象となる特定薬剤の特定濃度についての特徴量を特徴量抽出部2から取得する。
【0033】
次に、ステップS12では、特徴量抽出部2から取得された特徴量を学習済みのニューラルネットワークに入力し、出力ベクトルを取得する。
【0034】
次に、ステップS13では、ステップS12で得られた出力ベクトルをスカラー量に変換する。出力ベクトルは2次元のベクトル量であるため、反応曲線として表示しにくい。このため、ステップS13では、出力ベクトル(x、y)に対して(y−x+1)/2または{(y2−x2+1)/2}1/2など、(1,0)が0に、(0,1)が1になるような演算を行ってベクトル量をスカラー量に変換する。このスカラー量を用いて反応曲線を描き、創薬スクリーニング分野で標準的に用いられているZ´−factor(最大薬効と最小薬効の差が誤差も考慮してどの程度有意かを示す評価量)やEC50(薬効が最大の半分になる薬剤濃度)、SN(薬効の最大と最小の比)等の評価係数を出力することができる。しかし、スカラー量への変換を行わず、ベクトル量のまま評価を行ってもよい。
【0035】
なお、組み合わせ最適化部3によるニューラルネットワークの学習においては、反応曲線出力部4による算出結果をフィードバックして学習に反映させる処理を繰り返しており、この場合、反応曲線出力部4は学習中のニューラルネットワークを用いた演算を実行し、演算結果を組み合わせ最適化部3に向けて出力する。
【0036】
以上のように、本発明による画像解析方法を用いることにより、薬効が最小と考えられるネガティブコントロールと、薬効が最大と考えられるポジティブコントロールのデータを指定するだけで、自動的に薬効の判定を行うための特徴量の組み合わせが決定される。したがって、画像処理に関する専門知識を要することなく、適切な特徴量の組み合わせによる薬効の判定が可能となる。
【0037】
これにより、例えば、薬学の研究者がネガティブとポジティブの画像が定性的に異なることは認識できるが、定量化の手法が分からないような場合、本発明による画像解析方法を用いることにより、自動的に最適な解析方法を得ることができる。
【0038】
また、本発明による画像解析方法を用いて得られたニューラルネットワークの重み係数を分析することで、薬効による画像の変化に対して、経験等に頼った場合よりも深い知見を得ることができる。
【0039】
上記実施形態では、特徴量抽出部2における画像解析の内容については言及していないが、画像解析での結果得られる特徴量は一般的に画像解析を行う際のパラメタに依存する。このパラメタの単純な例としては、2値化を行うための閾値が挙げられる。滑らかな断面形状を持った細胞であれば、閾値を低くすれば細胞の面積が大きく見え、閾値を高くすれば細胞の面積が小さく見えることは自明である。このため特徴量は画像解析のパラメタの組み合わせに依存する。
【0040】
そこで、ニューラルネットワークの学習結果に基づいて結果をフィードバックし、薬効あるいは薬効を表すZ´−factorやSNが最大になるように、またはEC50が最小になるように、画像解析のパラメタの最適化を行ってもよい。この場合、特徴量抽出部2で用いられる画像解析のパラメタを変更しながら、組み合わせ最適化部3における演算を繰り返すことにより、最適なパラメタを求めることができる。画像解析パラメタの最適化は、例えば、Nelder-Meade の Down-hill simplex などの手法を用いて行ってもよい。
【0041】
上記実施形態では、細胞の顕微鏡画像を対象とする場合について説明したが、本発明は、細胞以外の生物学的試料(細胞の塊であるコロニー、プランクトン、藻類など)、および顕微鏡以外の光学系の画像に対しても適用できる。
【0042】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、生物学的試料の画像の特徴量から薬効を判定するための解析を行う画像解析方法等に対し、広く適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
3 組み合わせ最適化部(受付手段、アルゴリズム取得手段、特徴量取得手段)
4 反応曲線出力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的試料の画像の特徴量から、その画像が示す薬効を判定するための解析を行う画像解析方法において、
生物学的試料の画像の特徴量と、前記画像に対応する薬効の程度との組み合わせの入力を受け付ける受付ステップと、
前記受付ステップにより入力された組み合わせに基づいて、複数の前記特徴量を用いた演算により前記薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するアルゴリズム取得ステップと、
生物学的試料の画像の特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
前記アルゴリズム取得ステップにより算出された前記アルゴリズムを用いて、前記特徴量取得ステップにより特徴量が取得された画像が示す薬効を算出する薬効算出ステップと、
をコンピュータが実行することを特徴とする画像解析方法。
【請求項2】
前記アルゴリズムはニューラルネットワークまたはサポートベクターマシンにより定義されることを特徴とする請求項1に記載の画像解析方法。
【請求項3】
前記特徴量を抽出する特徴量抽出ステップをコンピュータが実行し、
前記アルゴリズムは前記特徴量抽出ステップにおける画像解析のパラメタの指定を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の画像解析方法。
【請求項4】
生物学的試料の画像の特徴量から、その画像が示す薬効を判定するための解析を行う画像解析装置において、
生物学的試料の画像の特徴量と、前記画像に対応する薬効の程度との組み合わせの入力を受け付ける受付手段と、
前記受付手段により入力された組み合わせに基づいて、複数の前記特徴量を用いた演算により前記薬効を算出するためのアルゴリズムを取得するアルゴリズム取得手段と、
生物学的試料の画像の特徴量を取得する特徴量取得手段と、
前記アルゴリズム取得手段により算出された前記アルゴリズムを用いて、前記特徴量取得手段により特徴量が取得された画像が示す薬効を算出する薬効算出手段と、
を備えることを特徴とする画像解析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−202743(P2012−202743A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65734(P2011−65734)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】