説明

画像解析装置、画像解析方法、及び画像解析プログラム

【課題】ハイパースペクトル画像における画素内に混在する物体を特定する。
【解決手段】本発明による画像解析装置10は、エンドメンバ抽出部221と、対象物特定部224とを具備する。エンドメンバ抽出部221は、ハイパースペクトル画像100から複数のエンドメンバ101を抽出する。対象物特定部224は、ハイパースペクトル画像の各画素に記録されたスペクトルデータから、複数のエンドメンバのいずれかを除去する。又、対象物特定部224は、除去後の画素のスペクトルデータと、データベース22内のスペクトルデータとを照合することで、画素に記録された物体を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイパースペクトル画像を解析する画像解析装置、画像解析方法、及び画像解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
リモートセンシングによって、構造物の表面(例えば地表面)の構造を特定したり、その下層に位置する構造物(例えば金脈)を発見することができる。リモートセンシングでは、構造物の表面から反射又は放射される光、熱線、又は電磁波を測定することで、当該表面の構造を明らかにすることができる。
【0003】
可視光、赤外線、又は電磁波等を用いて衛星や航空機によって得られたハイパースペクトル画像は、画像内の各画素がx軸、y軸の他に、数十〜数百の波長情報を持つ3次元データである。このようなハイパースペクトル画像を解析することで、画像内に存在する物体の同定や、構造のクラスタリングを行う方法が提案されている。
【0004】
画像内の物体の同定やクラスタリングは、画素毎に行なわれるため、構成要素を特定するための空間分解能は、画素サイズに応じて決定する。例えば、衛星や航空機によって撮影されたハイパースペクトル画像を解析した場合、画素サイズに応じた分解能で道路や川、畑や都市部を区別することができる。しかし、画素サイズが撮影対象物よりも大きい場合や、画素内に複数の構成要素の境界がある場合等、1つの画素内に複数の構成要素が混在してしまう。このような複数の構成要素を含む画素を混合ピクセル(ミクセル:Mixed−Pixel)と称す。特に、画素サイズが大きく、空間分解能が低い場合、混合ピクセルが多く発生する。
【0005】
画素内に存在する構成要素が1つである場合、画素に記録されているスペクトルデータは、当該構成要素に対応したスペクトルを示す。この場合、画素に記録されたスペクトルデータを解析すれば、画素内の構成要素を特定することができる。通常、様々な構成要素に対応するスペクトルデータが記録されたスペクトルデータライブラリが用意されている。画素内の構成要素が単一の場合、あるいは、画素内において特定対象の構成要素の占める割合が大きい場合、画素に記録されたスペクトルデータと一致又は類似する構成要素をスペクトルデータライブラリから抽出することで、画素内の構成要素がどのような構造物であるか特定することができる。
【0006】
一方、ミクセルには、複数のエンドメンバのそれぞれのスペクトルデータが混合(合成)されたスペクトルデータが記録されている。このスペクトルデータは、対象物本来のスペクトルデータではない。このため、ミクセルに記録されたスペクトルデータを解析しても、画素内の構成要素を特定することができない。このような問題は、ミクセル問題と呼ばれている。この場合、上述のようなライブラリを用いてもミクセル内のスペクトルデータと一致又は類似する構成要素は見つからない。あるいは、見つかったとしても、実際の構成要素と異なる構成要素が抽出される場合がある。
【0007】
このような、ミクセル問題を解決する手法が、例えば、特開2004−184391(特許文献1参照)や、特表2002−520699(特許文献2参照)に記載されている。特許文献1に記載の画像解析方法では、周期的な空間分布を有する対象物の反射率と背景の反射率の混合信号を含む画像データから、対象物の占有率を算出する。特許文献2に記載の方法では、予め設定された閾値を超えるスペクトルデータとの相関に基づき、画素に含まれる構成要素の組み合せを決定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−184391
【特許文献2】特表2002−520699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1や特許文献2には、画素に含まれる構成要素の組み合せや、それらの占有率を求めるものであり、画素に含まれる物体がどのようなものかを特定するものではない。上述したように、画素内に記録されたスペクトルデータは複数の物体によるスペクトルデータの合成値であるため、画素に含まれる構成要素の組み合せを特定しても物体個別のスペクトルデータを特定することはできない。
【0010】
しかし、近年、画像分解能が小さい場合や、特定対象となる物体が小さい場合等、画素内に混在する物体を特定することが求められている。
【0011】
以上のことから、本発明の目的は、ハイパースペクトル画像における画素内に混在する物体を特定する画像解析装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下に述べられる手段を採用する。その手段を構成する技術的事項の記述には、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]の記載との対応関係を明らかにするために、[発明を実施するための形態]で使用される番号・符号が付加されている。ただし、付加された番号・符号は、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲を限定的に解釈するために用いてはならない。
【0013】
本発明による画像解析装置(10)は、エンドメンバ抽出部(221)と、対象物特定部(224)とを具備する。エンドメンバ抽出部(221)は、ハイパースペクトル画像(100)から複数のエンドメンバ(101)を抽出する。対象物特定部(224)は、ハイパースペクトル画像の各画素に記録されたスペクトルデータから、複数のエンドメンバのいずれかを除去する。又、対象物特定部(224)は、除去後の画素のスペクトルデータと、データベース(22)内のスペクトルデータとを照合することで、画素に記録された物体を特定する。
【0014】
又、本発明による画像解析方法は、ハイパースペクトル画像から複数のエンドメンバ(101)を抽出するステップと、ハイパースペクトル画像(100)の各画素に記録されたスペクトルデータから、複数のエンドメンバのいずれかを除去するステップと、除去後の画素のスペクトルデータと、データベース内のスペクトルデータとを照合するステップと、照合の結果に基づいて、画素に記録された物体を特定するステップとを具備する。
画像解析方法。
【0015】
更に、本発明による画像解析方法は、コンピュータによって実行される画像解析プログラムによって実現される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ハイパースペクトル画像における画素内に混在する物体を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明による画像解析装置の実施の形態における構成を示す図である。
【図2】図2は、本発明による画像解析部の実施の形態における構成を示す図である。
【図3】図3は、本発明による画像解析動作を示すフロー図である。
【図4A】図4Aは、本発明による画像解析処理時における解析対象画像の一例を示す概念図である。
【図4B】図4Bは、本発明による画像解析処理時における解析対象画像の一例を示す概念図である。
【図5A】図5Aは、本発明による画像解析処理時における解析対象画像の他の一例を示す概念図である。
【図5B】図5Bは、本発明による画像解析処理時における解析対象画像の他の一例を示す概念図である。
【図5C】図5Cは、本発明による画像解析処理時における解析対象画像の他の一例を示す概念図である。
【図6】図6は、複数の物質によるスペクトルが合成された合成スペクトルを示す図である。
【図7】図7は、除去対象スペクトル(背景)の一例を示す図である。
【図8】図8は、図6に示す合成スペクトルから図7に示す除去対象スペクトルを除算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図面において同一、又は類似の参照符号は、同一、類似、又は等価な構成要素を示している。本実施の形態では、衛星画像等に例示されるハイパースペクトル画像から検出対象物(例えば、海上に浮かぶ氷山や船舶等)の位置を特定する画像解析装置10について説明する。
【0019】
(概要)
本発明による画像解析装置10は、ミクセルに記録されたスペクトルデータから、背景に対応するスペクトルデータを除去し、画素内で背景と混在する物体(以下、検出対象物と称す)のスペクトルデータを抽出する。ここで、スペクトルデータとは、画像に記録された構成要素からの反射光又は放射光の波長毎の信号レベルを示す。画像解析装置10は、抽出したスペクトルデータとスペクトルデータライブラリ(スペクトルデータD/B22)とを照合することで、当該スペクトルデータに対応する物体を特定する。尚、除去対象となる構成要素(背景)を特定する際にも、スペクトルデータD/B22が利用される。このように、本発明によれば、ミクセル内に背景と混在する物体を特定することができる。
【0020】
(構成)
図1及び図2を参照して、本発明による画像解析装置10の構成を説明する。図2は、本発明による画像解析装置10の実施の形態における構成を示す図である。図2は、本発明による画像解析プログラム21によって実現される画像解析部220の実施の形態における構成を示す機能ブロック図である。
【0021】
図1を参照して、本発明による画像解析装置10は、それぞれがバスを介して接続されたCPU11、RAM12、記憶装置13、入力装置14、出力装置15を具備する。記憶装置13はハードディスクやメモリ等に例示される外部記憶装置である。又、入力装置14は、キーボードやマウス等のユーザによって操作されることで、各種データをCPU11や記憶装置13に出力する。出力装置15は、モニタやプリンタに例示され、CPU11から出力される画像解析結果(例えば、抽出されたスペクトルデータ)をユーザに対し視認可能に出力する。
【0022】
記憶装置13は、画像解析プログラム21、スペクトルデータD/B22を格納している。又、記憶装置13には、入力されたハイパースペクトル画像100を解析することで得られるアバンダンスマップ23が記録される。CPU11は、入力装置14からの入力に応答して、記憶装置13内の画像解析プログラム21を実行することで、ミクセル中に記録された物体を特定する画像解析部220の機能を実現する。この際、記憶装置13からの各種データやプログラムはRAM12に一時格納され、CPU11は、RAM12内のデータを用いて各種処理を実行する。
【0023】
スペクトルデータD/B22には、予めスペクトルデータが特定されている構成要素が、そのスペクトルデータに対応付けられて記録されている。例えば、森林、海面、畑、アスファルト等の地形・地物、あるいは物質毎の反射光や放射光のスペクトルデータは、予め蓄積されたデータによって特定され得る。このため、地形・地物や物質等の基準となるスペクトルデータが、スペクトルデータD/B22に記録される。又、地形・地物に対応するスペクトルデータは、撮影時の気候や時間によっても異なる。このため、気候や時間(昼夜、季節等)毎のスペクトルデータがスペクトルデータD/B22に格納することが好ましい。
【0024】
アバンダンスマップ23は、各画素に含まれるエンドメンバの割合を示す情報である。アバンダンスマップ23は、入力されたハイパースペクトル画像に基づいて、画像画像解析部220によって算出される。
【0025】
図2を参照して、画像解析プログラム21を実行することで実現される画像解析部220の構成を説明する。画像解析部220は、エンドメンバ抽出部221、背景判定部222、エンドメンバ除去部223、対象物特定部224を備える。
【0026】
エンドメンバ抽出部221は、入力されるハイパースペクトル画像100又は103を解析し、画像内の代表的なスペクトルデータをエンドメンバ101として抽出する。この際、画素毎のアバンダンスマップ23を作成する。エンドメンバ抽出部221は、例えば、既存手法であるN−FINDR(エンドメンバ抽出アルゴリズム)によって実現される。
【0027】
背景判定部222は、エンドメンバ101が、除去対象に設定された構成要素(例えば、背景となる地形・地物や物質)であるかどうかを判定する。詳細には、背景判定部222は、抽出されたエンドメンバ101とスペクトルデータD/B22内のスペクトルデータを、SAM(Spectral Angle Mapper)などの照合アルゴリズムを用いて、照合する。背景判定部222は、照合した結果、エンドメンバ101が、除去対象に設定された構成要素のスペクトルデータ(以下、背景情報と称す)と一致、又は所定の範囲内で類似する場合、エンドメンバ101を除去対象スペクトルに設定する。ここで、所定の範囲で類似するとは、スペクトルデータD/B22内のスペクトルデータとエンドメンバ101の所定の波長におけるレベルの差が、所定の範囲内であることを示す。背景情報には、例えば、海面、森林、あるいは田畑等のように、検出対象となる物体の背景となるような地形・地物のスペクトルデータが好適に選択される。具体的には、洋上を撮影した衛星画像に対して氷山等を検出対象とした場合、海面のスペクトルデータが背景情報として好適に設定される。
【0028】
背景判定部222は、エンドメンバ101が背景情報に一致(又は類似)しているか否かを判定結果としてエンドメンバ抽出部221、エンドメンバ除去部223、及び除去対象特定部224に通知する。
【0029】
エンドメンバ除去部223は、抽出されたエンドメンバ101に背景情報と一致又は類似するスペクトルデータが含まれていない場合、当該エンドメンバ101のみの画素、又は当該エンドメンバ101の割合が所定の値以上の画素をハイパースペクトル画像100から除去する。この際、エンドメンバ除去部223は、アバンダンスマップ23を参照して、各画素に記録されたエンドメンバの割合を確認する。画素が除去されたハイパースペクトル画像103は、記憶装置13に格納される。エンドメンバ除去部223は、判定結果によって再度スペクトルデータの除去を指示されると、記憶装置13内のハイパースペクトル画像103から新たに抽出されたエンドメンバ101を除去する。
【0030】
対象物特定部224は、ハイパースペクトル画像100又は103の各画素に記録されたスペクトルデータから、除去対象スペクトルに設定されたエンドメンバ101を除算する。この際、対象物特定部224は、アバンダンスマップ23に基づく割合の除去対象スペクトルを画素に記録されたスペクトルデータから除算する。これにより画素内で除去対象スペクトル(背景)と混在するスペクトルを特定することができる。対象物特定部224は、除算済みの画素のスペクトルデータとスペクトルライブラリデータD/B22内のスペクトルデータ(既知のスペクトル)とを照合し、両者が一致又は類似している構成要素(検出対象物)を特定する。特定結果は、出力装置15から視認可能に出力される。
【0031】
対象物特定部224は、背景判定部222と同様に、画素内のスペクトルデータとスペクトルライブラリデータD/B22内のスペクトルデータとを、SAMなどの照合アルゴリズムを用いて照合する。上述と同様に、所定の範囲で類似するとは、スペクトルデータD/B22内のスペクトルデータと画素内のスペクトルデータとの所定の波長におけるレベルの差が、所定の範囲内であることを示す。
【0032】
以上のような構成により、ミクセル内に背景とともに混在する検出対象物を特定することができる。又、対象物特定部224は、入力装置14によって指定された検出対象物のスペクトルデータと、除去対象スペクトルを除去済みの画素におけるスペクトルが一致又は類似するかどうかを判定しても良い。この場合、所望の検出対象物がミクセル内に存在するかどうかを判定することができる。
【0033】
背景判定部222や対象物特定部224の機能は、ユーザによって実施されても構わない。この場合、エンドメンバ抽出部221によって抽出されたエンドメンバ101や、スペクトルデータD/B22内のスペクトルデータ(例えば背景情報)は、出力装置15に視認可能に出力される。ユーザは、出力装置15に表示されたスペクトルデータを比較することで、エンドメンバ101が除去対象となる背景情報と一致又は類似するかの判定や、対象物体の特定等を行なうことができる。
【0034】
(動作)
次に、図3、図4A、図4B、及び図6〜図8を参照して、本発明による画像解析装置10の画像解析動作の一例を説明する。図3は、本発明による画像解析動作を示すフロー図である。以下では、図4Aに示すハイパースペクトル画像100中のミクセルから対象物体の特定を行なうことを一例に画像解析動作を説明する。
【0035】
先ず、ユーザは、入力装置14を操作することで除去対象とする背景を設定する(ステップS1)。この際スペクトルデータD/B22から選択されたスペクトルデータが除去対象スペクトルに設定される。例えば、図7に示すスペクトルデータが除去対象スペクトルに設定される。次に、図示しない外部記憶装置や、ネットワークを介した外部装置から、図4Aに示すハイパースペクトル画像100が画像解析装置10に入力される(ステップS2)。図4Aを参照して、ハイパースペクトル画像100は、複数の画素(ピクセル)を有し、それぞれ被写体の特性に応じた反射光又は放射光のスペクトルデータが記録されている。
【0036】
エンドメンバ抽出部221は、入力されたハイパースペクトル画像100からエンドメンバ101を抽出する(ステップS3)。ここでは、エンドメンバ101として、スペクトルデータA1、B1、C1が抽出される。この際、エンドメンバ抽出部221は、各画素のアバンダンスマップ23を生成し、記憶装置13に記録する。一例として、図4Aに示すハイパースペクトル画像100は画素201〜205によって構成され、それぞれのアバンダンスマップは、以下の通りとなる。画素201:A1(100%)、画素202:B1(100%)、画素203:C1(100%)、画素204:D1=A1(50%)+B1(25%)+C1(25%)、画素205:E1=A1(10%)+B1(10%)+C1(80%)
【0037】
背景判定部222は、抽出されたエンドメンバ101が除去対象スペクトル(背景)と一致又は類似しているかを判定する(ステップS4)。ここでは、エンドメンバ101が除去対象スペクトルと一致又は類似しない場合、エンドメンバ101が100%又は所定の割合以上(例えば98%以上)の画素をハイパースペクトル画像100から除去する(ステップS4No、S5)。そして、画素が除去されたハイパースペクトル画像103から再度エンドメンバの抽出処理が行なわれる。ステップS3からS5の処理は、除去対象スペクトル(背景)と一致又は類似するエンドメンバ101が抽出するまで繰り返される。
【0038】
ここでは、スペクトルデータA1と除去対象スペクトル(背景)が一致するものとする。背景判定部222は、エンドメンバ101(A1、B1、C1)のうち、背景と一致するスペクトルデータA1を検出し、スペクトルデータA1を除去対象スペクトルと指定する情報を判定結果とともに対象物特定部224に通知する(ステップS4Yes)。
【0039】
対象物特定部224は、判定結果に応じ、アバンダンスマップ23を用いて各画素から除去対象スペクトルを除去する(ステップS6)。詳細には、対象物特定部224は、アバンダンスマップ23に基づいて各画素における除去対象スペクトル(ここではスペクトルデータA1)の割合を考慮し、各画素から除去対象スペクトルを除去する。
【0040】
図6〜図8を参照して、スペクトルデータの除算処理を説明する。図6は、複数の物質によるスペクトルが合成された合成スペクトルを示す図である。図7は、除去対象スペクトル(背景)の一例を示す図である。図6に示す合成スペクトルから図7に示す除去対象スペクトルを除算すると、図8に示すスペクトルが算出される。
【0041】
図4Bは、除去対象スペクトルを除去した後のハイパースペクトル画像102の一例を示す図である。図4Bを参照して、スペクトルデータA1の除去後の各画素のスペクトルデータは以下の通りとなる。画素201:スペクトルデータなし、画素202:B1(100%)、画素203:C1(100%)、画素204:D2=B1(25%)+C1(25%)、画素205:E2=B1(10%)+C1(80%)
【0042】
対象物特定部224は、ハイパースペクトル画像102の各画素に記録されたスペクトルデータをスペクトルデータD/B22と照合して、対象物を特定する(ステップS7)。例えば、画素204のスペクトルデータD2と一致又は類似するスペクトルデータが、スペクトルデータD/B22に存在する場合、画素204に記録された物体を特定することができる。又、スペクトルデータE2と一致又は類似するスペクトルデータがスペクトルデータD/B22に存在しない場合、画素205には未知の物体が背景と混在している、あるいは背景以外の他の複数の物体が混在していると確認することができる。
【0043】
例えば、入力されるハイパースペクトル画像100が海上を撮影した衛星画像である場合、1つの画素内に海面と未知の物体が混在することがある。この場合、背景となる海面を除去対象スペクトルに指定し、合成スペクトルを含む画素から背景となる海面のスペクトルを除去することで、画素内に混在する物体を特定することができる。ここで、船や波、あるいは魚群等のスペクトルデータをデータベース化し、それを参照することで、画素内に混在する物体が既知の船であるか否かを特定することができる。
【0044】
図3及び図5A〜図5Cを参照して、入力された初期画面から、指定された背景がエンドメンバとして抽出されない場合の画像解析動作について説明する。以下の説明で、上述の画像解析動作と同様の動作については説明を省略する。
以下の例では、ステップS2において、図5Aに示すハイパースペクトル画像100が画像解析装置10に入力される。図5Aを参照して、ハイパースペクトル画像100は、複数の画素(ピクセル)を有し、それぞれ被写体の特性に応じた反射光又は放射光のスペクトルデータが記録されている。
【0045】
エンドメンバ抽出部221は、入力されたハイパースペクトル画像100からエンドメンバ101を抽出する(ステップS3)。ここでは、エンドメンバ101として、スペクトルデータB1、C1が抽出される。この際、エンドメンバ抽出部221は、各画素のアバンダンスマップ23を生成し、記憶装置13に記録する。一例として、図5Aに示すハイパースペクトル画像100は画素201〜204によって構成され、それぞれのアバンダンスマップは、以下の通りとなる。画素201:A1=B1(80%)+C1(20%)、画素202:B1(100%)、画素203:C1(100%)、画素204:D1=B1(60%)+C1(40%)
【0046】
背景判定部222は、抽出されたエンドメンバ101が除去対象スペクトル(背景)と一致又は類似しているかを判定する(ステップS4)。ここで、エンドメンバ101として抽出されたスペクトルデータB1、C1がともに除去対象スペクトルと一致しないものとする。この場合、図5Bに示すように、スペクトルデータB1、C1のそれぞれを所定の割合以上(ここでは100%)記録された画素202、203がハイパースペクトル画像から削除される(ステップS4No、S5)。
【0047】
そして、画素202、203が除去されたハイパースペクトル画像103から再度エンドメンバの抽出処理が行なわれる(ステップS3)。ここでは、エンドメンバ101として、スペクトルデータA2、D2が抽出される。この際、エンドメンバ抽出部221は、各画素のアバンダンスマップ23を生成し、記憶装置13に記録する。一例として、図5Bに示すように、ハイパースペクトル画像100は画素201、204によって構成され、それぞれのアバンダンスマップは、以下の通りとなる。画素201:A2(100%)、画素204:D2(100%)
【0048】
ここでは、スペクトルデータA2と除去対象スペクトル(背景)が一致するものとする。背景判定部222は、エンドメンバ101(A1、D2)のうち、背景と一致するスペクトルデータA1を検出し、スペクトルデータA2を除去対象スペクトルと指定する情報を判定結果とともに対象物特定部224に通知する(ステップS4Yes)。
【0049】
ステップS6において、対象物特定部224は、アバンダンスマップ23に基づいて各画素における除去対象スペクトル(ここではスペクトルデータA2)の割合を考慮し、各画素から除去対象スペクトルを除去する。
【0050】
図5Cは、除去対象スペクトルを除去した後のハイパースペクトル画像102の一例を示す図である。図5Cを参照して、スペクトルデータA2の除去後の各画素のスペクトルデータは以下の通りとなる。画素201:スペクトルデータなし、画素204:D2(100%)
【0051】
対象物特定部224は、ハイパースペクトル画像102の各画素に記録されたスペクトルデータをスペクトルデータD/B22と照合して、対象物を特定する(ステップS7)。ここでは、画素204内のスペクトルデータD2をスペクトルデータD/B22と照合する。画素204のスペクトルデータD2と一致又は類似するスペクトルデータが、スペクトルデータD/B22に存在する場合、画素204に記録された物体を特定することができる。一方、照合の結果、スペクトルデータD2と一致又は類似するスペクトルデータがスペクトルデータD/B22に存在しない場合、未知の物体として確認され得る。
【0052】
以上のように、初期画像から指定した背景がエンドメンバとして抽出されなくても、エンドメンバのみの画素を削除することで、背景のエンドメンバが抽出可能となる。このため、上述の方法と同様に、同一画素内で背景と混在する物体を特定することができる。例えば、森林や畑、道路等が混在する航空写真によって画素内に埋もれた車両を検出したい場合、検出対象となる車両は、画像内のエンドメンバとして抽出される構成要素(例えば畑や道路)に存在するとは限らない。例えば、画像の一部に写りこんだ森林内に車両が存在する場合がある。このような場合、森林を背景(除去対象スペクトル)に指定し、上述のような解析を行なうことで、画素内で森林と混在する車両を検出することができる。
本発明では、1画素に含まれている背景と対象物のスペクトルデータを分離することにより、背景のスペクトルデータと混ざっている状態ではデータベースと照合できなかった対象物を、照合することが可能となる。
【0053】
又、従来技術では、1画素以上の大きさの対象物しか物体の同定を行うことができなかったが、本発明では対象物が1画素未満で撮影されていても物体同定ができる。このため、同定可能距離や、同定分解能を向上させることができる。
【0054】
以上、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の変更があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
10:画像解析装置
11:CPU
12:RAM
13:記憶装置
14:入力装置
15:出力装置
21:画像解析プログラム
22:スペクトルデータD/B
23:アバンダンスマップ
221:エンドメンバ抽出部
222:背景判定部
223:エンドメンバ除去部
224:対象物特定部
100、102、103:ハイパースペクトル画像
101:エンドメンバ
201〜205:画素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイパースペクトル画像から複数のエンドメンバを抽出するエンドメンバ抽出部と、
前記ハイパースペクトル画像の各画素に記録されたスペクトルデータから、前記複数のエンドメンバのいずれかを除去し、除去後の画素のスペクトルデータと、データベース内のスペクトルデータとを照合することで、前記画素に記録された物体を特定する対象物特定部と、
を具備する
画像解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像解析装置において、
前記複数のエンドメンバのそれぞれが、予め指定された除去対象スペクトルデータであるか否かを判定する判定部を更に具備し、
前記対象物特定部は、前記各画素に記録されたスペクトルデータから、前記除去対象スペクトルデータと判定されたエンドメンバを除去する
画像解析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像解析装置において、
前記複数のエンドメンバの全てが、前記除去対象スペクトルデータと異なる場合、前記複数のエンドメンバのそれぞれを所定の割合以上含む画素を前記ハイパースペクトル画像から削除するエンドメンバ除去部を更に具備し、
前記エンドメンバ抽出部は、画素が削除されたハイパースペクトル画像からエンドメンバを抽出する
画像解析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の画像解析装置において、
前記エンドメンバ抽出部は前記ハイパースペクトル画像における画素毎のアバンダンスマップを算出し、
前記対象物特定部は、前記アバンダンスマップに応じた割合のエンドメンバを前記画素に記録されたスペクトルデータから除去する
画像解析装置。
【請求項5】
ハイパースペクトル画像から複数のエンドメンバを抽出するステップと、
前記ハイパースペクトル画像の各画素に記録されたスペクトルデータから、前記複数のエンドメンバのいずれかを除去するステップと、
前記除去後の画素のスペクトルデータと、データベース内のスペクトルデータとを照合するステップと、
前記照合の結果に基づいて、前記画素に記録された物体を特定するステップと、
を具備する
画像解析方法。
【請求項6】
請求項5に記載の画像解析方法において、
前記複数のエンドメンバのそれぞれが、予め指定された除去対象スペクトルデータであるか否かを判定するステップを更に具備し、
前記複数のエンドメンバのいずれかを除去するステップは、前記各画素に記録されたスペクトルデータから、前記除去対象スペクトルデータと判定されたエンドメンバを除去するステップを備える
画像解析方法。
【請求項7】
請求項6に記載の画像解析方法において、
前記複数のエンドメンバの全てが、前記除去対象スペクトルデータと異なる場合、前記複数のエンドメンバのそれぞれを所定の割合以上含む画素を前記ハイパースペクトル画像から削除するステップを更に具備し、
前記エンドメンバを抽出するステップは、画素が削除されたハイパースペクトル画像からエンドメンバを抽出するステップを備える
画像解析方法。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1項に記載の画像解析方法において、
前記ハイパースペクトル画像における画素毎のアバンダンスマップを算出するステップを更に具備し、
前記複数のエンドメンバのいずれかを除去するステップは、前記アバンダンスマップに応じた割合のエンドメンバを前記画素に記録されたスペクトルデータから除去するステップを備える
画像解析方法。
【請求項9】
請求項5から8のいずれか1項に記載の画像解析方法をコンピュータに実行させる画像解析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−237865(P2010−237865A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83526(P2009−83526)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】