説明

画像証跡機能を有する自動取引装置

【課題】 自動取引装置内で行われる紙幣の画像を証跡として保存・提示する。
【解決手段】 自動取引装置の記憶装置や計算能力には限界があるため,計算量の軽い画像圧縮処理が必要となる。そこで、紙幣の識別装置に画像撮像機能を有し、紙幣の制御装置に画像圧縮・保存機能を有しており、前記画像撮像機能は個々の紙幣を判別する紙幣同定情報を使って撮像時の重複を省き、画像圧縮処理においては紙幣の見本画像の位置ずれを考慮した変動差分辞書として保持することで計算量を低減し、紙幣の識別装置から得られた紙幣の金種、表裏、向き、劣化度などの鑑別情報を元に圧縮処理に用いる圧縮辞書を切り替えることで圧縮効率を高めることで,この課題を解決する.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は金融向け自動取引装置の証跡管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ATMなどの金融向け自動取引装置において,入金/出金した紙幣の授受を正しく行ったことの証拠として、紙幣の画像を保存しておきたいというニーズがある。自動取引装置内で扱った紙幣の取引の証跡を画像で残し,取引の際にトラブルが発生した場合は当該紙幣画像を提示して,取引証拠とするということである。
【0003】
特許文献1には、磁性体を漉き込んで紙幣の真贋判定を行う方法が開示されている。特許文献2には、透過光をもちいた紙片判別法において、透過画像による紙片の特徴量以外に、キーボード等から入力した紙片のタグ情報を含めて紙片の登録を行う方法が開示されている。これらは紙幣の固有性を補償するための技術であり、画像による証跡管理を目指したものではない。特許文献3には、自動取引装置において画像を保存する処理が述べられている。これは画面インタフェースを構成するための処理であり、紙幣画像の証跡保存とは異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−164293号広報
【特許文献2】特開2006−18525号広報
【特許文献3】特開昭63−216169号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動取引装置内の記憶装置の容量や計算能力には限界があり、銀行側に画像を送る場合も帯域制限があるため、画像を保存/転送する際は圧縮処理が必要となる。そのため、自動取引装置内で行う画像撮像および圧縮については、個々の紙幣の固有の特徴である書込み、よごれ、キズなどを判別できるような画質で画像を残す必要があり、さらに、ATM装置内で圧縮を行うため、低計算量で、かつ高画質に画像を圧縮するアルゴリズムが必要である。
【0006】
本発明による画像証跡機能を有する自動取引装置における画像圧縮処置では、“紙幣の画像”という特徴を生かして圧縮効率の向上と処理速度の向上を図ることで、計算能力や記憶容量に制限のある自動取引装置上での機能実現を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紙幣取扱装置では、紙幣を入出金する入出金部と、紙幣を収納する収納部と、紙幣を鑑別する鑑別部と、紙幣が該鑑別部を通過する際に紙幣の画像を撮像する画像撮像部と、紙幣を搬送する搬送機構と、画像撮像部で撮像した紙幣画像の圧縮処理を行う圧縮処理部と、画像処理部によって画像圧縮処理された紙幣画像のデータを格納する格納部と、を有することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、鑑別部が紙幣ごとの固有の特徴を示す紙幣同定情報を取得し、紙幣同定情報を格納部に記憶し、格納部に記憶された紙幣同定情報に基づいて、画像撮像部が紙幣の画像を撮像するか否かを判定する。
【0009】
本発明のさらに別の観点では、圧縮処理部は、鑑別部によって取得される紙幣の金種、表裏、向き、及び紙幣の劣化度に関する情報のうち少なくとも一つ以上を含む鑑別情報に基づいて、紙幣画像の圧縮処理を行う。
【0010】
好ましくは、圧縮処理部は、鑑別情報に基づいて、紙幣画像のエッジ検出処理及び適応ぼかし処理を行い、さらに好ましくは、圧縮処理部は、格納部に格納される紙幣の見本画像から、鑑別情報に基づいて、前記紙幣画像と同一の金種の見本画像を選択し、選択された見本画像と紙幣画像との差分画像を取得し、差分画像の圧縮処理を行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、紙幣取引の証拠としての鑑別時の紙幣状況が的確に保存できる。また、本発明のさらに別の観点によれば、紙幣のよごれ、書き込み、きずなどの固有特徴を残しつつ、JPEG圧縮サイズよりも低容量で、ブロックノイズを低減した画像を実現することができ、計算量も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の自動取引装置システムの構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の自動取引装置の外観図である。
【図3】本発明のハードウェアブロック図である。
【図4】本発明のハードウェアおよび紙幣処理の遷移図である。
【図5】本発明における画像証跡を得るための処理ブロック図である。
【図6】本発明における画像圧縮を行うための処理ブロック図である。
【図7】本発明における紙幣処理のフロー図である。
【図8】本発明における見本辞書の構造や圧縮パラメータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明による画像証跡機能を有する自動取引装置における画像圧縮処置では、“紙幣の画像”という特徴を生かして圧縮効率の向上と処理速度の向上を図ることで、計算能力や記憶容量に制限のある自動取引装置上での機能実現を図り、画像証跡管理の課題を解消する。本発明のポイントとして以下の点が挙げられる。
【0014】
1)鑑別連携圧縮:紙幣の鑑別結果に応じて、圧縮辞書・アルゴリズムを切り替えて紙幣の圧縮処理を実行する。鑑別情報として、紙幣の金種、表/裏、向き、劣化度(鑑別時の距離)を画像圧縮部に渡して、それによって辞書圧縮プロセスと圧縮辞書を動的に変更する。ここで言う鑑別時の距離とは、紙幣鑑別の際に当該紙幣の受理/棄却の決定や種別を判定するにあたって用いる何らかの尺度を指すものとする。例えば、紙幣面上の特定位置をセンサでスキャンして取得した画素の濃さをベクトル量としてみなし、これと辞書とのユークリッド距離などを図ることによって得られる距離などがある。
【0015】
2)変動差分辞書:紙幣を画像化する際の変動量を差分辞書として登録する。可変ぼかし/部分差分を使った圧縮プロセスにおいて、計算量の掛かる演算を簡略にして高速化する。部分領域を擬似移動して、そのDCT変換データを辞書に保持することで、移動差分の計算処理の高速化と高精度照合を可能とする。
【0016】
3)画像処理連携:入力画像に対して一度作成したDCT変換データを後の画像圧縮の過程でも再利用することで、画像圧縮の計算量を減らす。
【0017】
4)取引紙幣の画像の証跡を確認できるATM装置:識別部で画像を取ること、識別部で得られた画像は制御部で画像圧縮などの処理をされること、同じ紙幣が複数回識別部を通るので2重の画像処理を防ぐため、記番号認識、順序カウンタ、紙紋判別などの紙幣の固有性(紙幣同定情報)を判定する機構による2重処理を防ぐ機能を有することを特徴とする。
【0018】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
まずは、本発明を適用する対象となる自動取引装置システム全体の外観について説明する。図1は複数台の現金自動取引装置0101が、ネットワーク0120を介してホストコンピュータ0100に接続された様子を示したものである。利用量が他と比較して少ない現金自動取引装置に設置された案内装置0102は、取引可能を示す表示内容0110を表示する。それ以外の案内装置0102は準備中等を示す表示内容0111を表示する。これにより、案内装置0102に取引可能を示す情報が表示された現金自動取引装置へ顧客を誘導することが可能である。これにより、金融機関にとっては、ATMにおける紙幣の利用量を均一化することで、内部に保管する現金量の管理が容易となるメリットがある。
【0020】
個々の自動取引装置0101の装置外観を図2に示す。0200は自動取引装置の筐体、0201は通帳入出口、0202はIDカード入出口、0203は入出金口、0204はタッチパネル式液晶ディスプレイなどの表示入力装置である。0210から0217は自動取引装置と人間との間のインタフェースを支援するためのセンサデバイスであり、例えば0210はカメラ、0211は虹彩センサ、0212はマイク、0213は網膜センサ、0214は指紋センサ、0215は掌紋センサ、0216は指静脈センサ、0217は掌静脈センサなどがある。
【0021】
自動取引装置0101を実現するハードウェア構成の概要図は図3のようになる。この本発明の実施形態は、図3に述べる装置で行われる。図3は、本発明である自動取引装置の内部のハードウェア構成を模式化した機能ブロック図である。本実施形態の自動取引装置0101は、操作端末装置0302、表示端末装置0303、外部記憶装置0305、メモリ0306、中央演算装置0307、通信装置0309及びこれらを相互に接続する通信線0308を備える。また、紙幣取引の証跡を得るための画像撮像装置0301、紙幣の搬送や鑑別などの周辺モジュールやセンサ群を制御する0304装置群を持つ。自動取引装置0101の中央演算装置やメモリ、外部記憶装置などの構成は組み込み型マイクロコンピュータであってもよい。操作端末装置0302は、例えばキーボード又はタッチパネル等であり、ユーザの指示又はデータ等を自動取引装置0101に入力するために使用される。表示端末装置0303は、例えば液晶表示装置のような、テキスト及び画像等を表示する装置である。紙幣取引の結果として取得された証跡画像などは、例えばこの表示装置を使ってユーザに提示することができる。外部記憶装置0305は、例えばハードディスク装置又はフラッシュメモリのような記憶装置であり、証跡画像や判別データ、取引情報などを格納する。証跡画像は、取引日時、取引利用者、紙幣の金種や真贋鑑別結果などの情報と組み合わせて記憶される。ATM内部に蓄積された、これらの情報は必要に応じてホスト側に通信装置0309を通して送信されるものとする。
【0022】
さらに、本実施形態を実現するために中央演算装置0307によって実行されるプログラム等が格納されてもよい。メモリ0306は、例えば半導体メモリであり、中央演算装置0307によって実行されるプログラム及び参照されるデータ等を格納する。外部記憶装置0305に格納されたプログラム及びデータ等の少なくとも一部が必要に応じてメモリ0306にコピーされてもよい。中央演算装置0307は、メモリ0306に格納されたプログラムを実行し、必要に応じて操作端末装置0302、表示端末装置0303、外部記憶装置0305、周辺装置0304、画像撮像装置0301及び通信装置0309を制御する。以下の説明において画像証跡機能を有する自動取引装置0101が実行する処理は、実際には中央演算装置0307によって実行される。通信装置0309は、ネットワークに接続され、そのネットワークに接続された他の装置と通信するインタフェースとなる。
【0023】
図3に示したハード構成の概念図を、ATM装置の一例に沿って詳細に示したものが図4である。例えば、中央演算装置0307、メモリ0306、および外部記憶装置0305などは、図4に示すところの識別装置0402または制御装置0403のいずれか、または双方に設けて良い。これは装置の設計事項に属する。
【0024】
現金自動取引装置0101のブロック図を図4に示す。入出金部0401、現金の金種・真偽・正損といった識別を行う識別装置0402、ネットワークと接続するための通信装置0404、例えば液晶ディスプレイなどの表示端末装置0405、例えばタッチパネルディスプレイなどの操作端末装置0406、現金を一次溜めておく一時スタッカ0410、搬送装置0411、 現金の自動格納および自動取出しが可能な還流ボックス0412〜0414、現金の自動格納のみが可能な非還流ボックス0415、上記各装置を制御する制御装置0403から、現金自動取引装置0101は構成される。ここで言う金種とは幾らの金額の紙幣であるか、また紙幣の表裏や正立・倒立などの投入状態を意味し、真贋とは当該紙幣が本物か偽物かを意味し、正損とは紙幣の状態が正常かあるいは大分劣化が進んでいるかを意味する言葉である。
【0025】
入金取引について説明する。自動取引装置のユーザが自動取引装置0101に投入口0203から入出金部0401に紙幣を投入すると、まず、制御装置0403は搬送装置0411を制御し、紙幣を入出金部0401から識別装置0402に搬送する。以降、制御装置0403が搬送装置0411を制御して紙幣を搬送することを、単に制御装置0403が紙幣を搬送すると記述する。識別装置0402では入力された紙幣の1枚1枚について、金種識別、真偽識別、正損識別を行う。制御装置0403は、紙幣一枚に対する各紙幣識別の識別結果を受け取る。
【0026】
識別装置0402にて実行される処理は大きく3つある。金種識別、真偽識別、正損識別である。これらはいずれも基本的には同じ手順で処理される。まずセンサ信号を取得する。続いて各識別に適した特徴抽出を行い、その結果得られた特徴ベクトルを識別器にかけ、識別結果を得る。ここで、識別器にはマハラノビス距離、サポートベクターマシン、ベクトル量子化、3層パーセプトロンなどの方式が利用される。最終的には閾値処理により、金種識別ならばどの金種だったか、もしくはどの金種にも当てはまらないという判定をおこなう。以降、どの金種だったか判定できた場合を金種が確定した、そうでない場合を金種が確定しなかったと表現する。金種が確定すると、入力された紙幣の裏表や向きも判別する。更に、真偽識別ならば真券かそうでないかという判定、正損識別ならば正券かそうでないかという判定結果を得る。さらに、上記識別器からは、一般に識別誤差の値を得ることができる。例えば、マハラノビス距離を用いて紙幣が1000円か否かを判定した場合、距離値が小さいほど、より1000円らしいことを意味する。この場合、距離値が識別誤差値に相当する。また、正損判定とは、流通に耐える程度の綺麗さを持つ紙幣か、それとも汚れや破損などで回収すべき紙幣なのかを識別する処理である。
【0027】
制御装置0403は、各紙幣に対する各紙幣識別の識別結果を受取り、搬送先を制御する。すなわち、金種識別処理で金種が確定していれば紙幣を一時スタッカ0410へ送り、そうでなければ紙幣を入出金部0401へ送る。真偽識別結果で、真券と判定されれば紙幣を一時スタッカ0410へ送り、そうでなければ入出金部0401へ送る。処理する紙幣がまだあるか否かの判定を行い、まだ紙幣があれば同じ処理を繰返し行う。以上の処理によって、受付を棄却された紙幣以外の紙幣は、一時スタッカ0410に蓄えられたことになる。
【0028】
このとき自動取引装置のユーザが取引リジェクトを入力した場合は、一時スタッカ0410に蓄えられた紙幣が入出金部0401に戻されることになる。取引を継続する場合は、更に一時スタッカから各ボックスに向けて紙幣の搬送が行われる。すなわち、制御装置0403は一時スタッカ0410に送られた紙幣に対して一枚ずつ処理を開始する。まず、一時スタッカ0410にある紙幣を一枚、識別装置0402に搬送する。識別装置0402では上述の処理で各識別を行い、制御装置0403はその識別結果を受信する。金種識別で、紙幣の金種が確定したか否かを判定し、金種が確定した場合は真偽識別の処理を実行し、そうでなければ紙幣を非還流ボックス0415に格納する。真偽識別結果に基づいて紙幣が真券か否か判定し、真券であれば正損識別の処理を実行し、そうでなければ紙幣を非還流ボックス0415に格納する。正損識別結果に基づいて紙幣が正券か否か判定し、正券ではないと判定された場合は紙幣を非還流ボックス0415に格納する。紙幣が正券であれば、制御装置0403は、金種識別の結果に従い、金種別に還流ボックス0412〜0414に紙幣を格納する。一時スタッカ0410に、処理する紙幣がまだあるか否かを判定し、まだあるならばこれらの処理を繰り返し行う。紙幣の画像の撮像と圧縮、保存は、ここの識別装置0402および制御装置0403において行われる。
【0029】
本発明における証跡画像の撮像と保存がどのように行われるのかを示すのが図5および図6である。図5は、識別装置0402、制御装置0403の連携による処理の機能ブロック図を表したものである。まず紙幣が識別装置0402を通過する際に、センシング部0501において、各種センサデータの取得や紙幣の画像が撮像される。センサデータにより磁気や光などより得られた紙幣の状態が分かるが、ここでは紙幣鑑別(金種判定、真贋判定、正損判定)を行うために十分なセンサデータを用いることとし、詳細は記述しない。その結果得られた紙幣画像とセンサ情報が、まず紙幣識別部0502に送られる。紙幣識別部0502では、上述した紙幣の識別(金種識別、真偽識別、正損識別)が行われる。紙幣の金種、表裏、向き、紙幣識別の際の距離値などを合わせた鑑別情報0504と、紙幣画像が、画像圧縮部0503に送られる。また、紙幣識別部では紙幣のユニークさを判別する情報(紙幣同定情報0505)を辞書として保存する。画像圧縮部0503では、送られてきた紙幣画像を圧縮する際に、鑑別情報0504を使って圧縮辞書0506の切り替えを行う。
【0030】
圧縮辞書には見本画像や圧縮パラメータが含まれており、例えば金種や表裏の情報を使って見本画像の切り替えが可能となる。また、紙幣の向きによって、紙幣の特定箇所(例えば右下の模様部分や、記番号部分)における適応ぼかしのぼかし度合を指定したりすることで、圧縮効率を高めることができる。鑑別情報によって金種や、スキャンした画像の表裏が分かるため、圧縮に用いる見本画像を切り替えることができる。また、正損判定によって紙幣の状態の劣化度が分かるため、例えば画像のぼかし処理のパラメータを調整して、高品質な紙幣に対しては圧縮容量を稼ぐためにぼかし処理を多めにし、低品質な紙幣に対しては固有特徴を明確に残すために圧縮容量を犠牲にしてぼかし処理を少なめにするなどの処理がある。また、真偽判定によって、偽紙幣の場合は特に証跡として重要であるため、高精細な画像を残すためにぼかし処理をほとんど行なわないなどの手段が考えられる。見本辞書や圧縮パラメータの詳細については後述する。
【0031】
また、同じ紙幣が何度か識別装置0402を通ることになるが、紙幣1枚1枚の固有さを確認できる紙幣同定情報を使えば、センシング部0501において画像撮像の際に同じ紙幣を2重に撮像する処理を避けることもできる。紙幣同定情報としては、例えば紙幣の枚数カウンタであったり、紙幣の紙の模様を記憶したデータであったり、紙幣の記番号を記憶したデータであったり、紙幣の固有さを簡易に判別するような情報を用いることができる。これにより画像撮像および処理の2重稼動を防ぐことが可能となり、計算量の削減につなげることが可能となる。例えば紙幣の固有さを意味するものとしては、紙幣のやぶれや、折れ曲がり跡、紙幣の摺れなどによるよごれや、ペンなどで書き込まれた落書きなどがある。
【0032】
図6は画像圧縮処理の概要を示した図である。
【0033】
入力された紙幣画像0601には、エッジ検出処理0602および適応ぼかし処理0603が施される。エッジ検出には例えば縦や横方向のエッジ抽出に用いられるソーベルフィルタなどを用いることができる。適応ぼかし処理は、薄い模様の部分を広くぼかし、シャープな画像を残すという処理である。適応ぼかし処理の詳細については後述する。適応ぼかし処理0603およびエッジ検出処理0602を行う際には、紙幣識別部0502で得られた鑑別情報0613を使ってパラメータを調整できる。次に色解像度圧縮処理0604によって、色の解像度を粗くする。色解像度圧縮処理とは、例えばRGB空間で各色256階調あったものを、128階調や64階調などに落とす処理を意味する。色空間としてはRGB空間、HSV空間、YCbCr空間などが利用できる。
【0034】
次に画像を8×8画素の小領域単位に分割して、小領域のそれぞれについて2次元離散コサイン変換および係数量子化(DCT変換0605)の処理を行う。これは8×8画素の小領域の模様を、空間周波数に変換して表現するためであり、JPEG圧縮などで一般的に用いられる手法である。これにより模様を表現するために必要となる情報量を大きく削減することが可能となる。
【0035】
次に、紙幣の見本となる画像と、入力画像との差分を得る。これを行うのが最適差分計算処理0606であり、鑑別情報0613を使って、当該入力画像に対応する金種/表裏の見本辞書を使う。但し、紙幣には撮像時の状況や紙幣の状態によって位置ずれが起こる。見本画像の位置ずれを考慮して、8×8画素の小領域単位をDCT変換した結果をベクトルデータの集合として記録したのが変動差分辞書0607である。変動差分辞書0607は、入力画像に対して行われるのとほぼ同じ処理0612によって、作成される。最適差分計算0606では、入力画像上の各8×8画素小領域について、当該小領域と一番良く適合する見本画像の小領域を求める。その結果として、辞書画像の部分移動量0608と、見本画像と入力画像の差分である移動差分画像0609が得られる。部分移動量とは、辞書画像を幾つかの小領域に分割し、各小領域を移動して、入力画像と最も良くマッチングする箇所を探して見つかった位置を意味する。これらのデータについてデータ圧縮処理が行われる。
【0036】
データ圧縮は、部分移動量0608については、移動位置のデータ列のハフマンコード化や算術符号化などによって圧縮処理を行え、移動差分画像0609についてはJPEGなどの画像圧縮処理を適用することができる。画像圧縮でJPEGベースの手法を用いる場合は、処理0605で作成したDCT変換のデータを0611のパスによって渡すことができる。
【0037】
このような圧縮処理を行うことの意味を述べる。紙券画像は、共通する模様、紙券固有の情報(記番号)や劣化等、という要素から成り立つと考えることができる。実際には、模様部分がスキャン・印刷位置ずれ・紙の伸縮によって若干変動するので、データ圧縮をHという関数で表すならば、H(紙券に共通する模様)+H(模様の変動情報)+H(紙券固有の情報)=H1+H2+H3と分解できて、このH2+H3分だけを圧縮対象とすれば容量低減が図れる。また共通する模様H1は見本の辞書画像として保存するため、個別の紙幣の圧縮容量としては無視できる。情報を分解する手段としては差分画像を用いる。
【0038】
すなわち、紙券に共通する模様H1を辞書に登録しておいて、模様の変動情報H2と、固有の画像情報H3分を残すというアプローチである。差分画像を利用することはMPEG等の動画圧縮でも用いられる技術で、動き補償(MC:Motion Conpensation)と称されている。一般に動画圧縮では16×16画素のマイクロブロックを単位として、前フレームから移動する物体(または部分領域)を検知し、移動量と差分量を保存する。16×16マイクロブロックの照合には、RGBの絶対値和を基準とするなど、比較的単純で計算量の少ない尺度を元に行っている。更にマイクロブロックのデータ圧縮を2次元離散コサイン変換と量子化(DCT)によって行っている。しかし、紙幣画像に動画像の圧縮処理をそのまま適用することは、処理時間的に好ましくない。また、紙幣には細かな模様が多く含まれるため、これをそのまま保存することは容量的にも望ましくない。
【0039】
細かな模様はぼかし、紙幣固有の汚れや書き込みなどを保存するための処理が適応ぼかし処理0603である。適応ぼかし処理について説明する。適応ぼかしでは、エッジ強度を元に、複数段階でガウス分布を変更する。ガウスフィルタは5×5固定サイズとして、分散パラメータσを段階的に調整して適用することで、エッジ部分を残しつつ、それ以外をぼかす。ただし、紙幣を構成する要素によっては、エッジ強度をそのまま使うだけでは十分なシャープさが維持できない模様も存在する。この場合は、辞書として、紙幣のある箇所は適応ぼかしでぼかす範囲を限定するなどの処理が必要となる。このためには鑑別情報を用いることが必須となる。
【0040】
また、紙幣の見本画像を使って、画像容量を削減するための処理が移動差分処理(最適差分計算処理0606)である。最適に照合する、すなわち模様が似ている小画像同士の計算はDCT最小化基準を用いると、RGBノルム距離と比べても安定しやすい傾向がある。また、 DCT最小化基準には後のデータ圧縮でも有利になるという理由もある。RGB基準(1ノルム距離)とDCT基準による2画像の差分計算結果では、両者の画像で差が無いところがグレーになる。グレー以外の色は推定誤差を表すことになる。グレーの領域が広いほど後の画像圧縮にとって有利となる。すなわち、グレーの領域とは見本画像=紙幣に共通する模様H1によって、画像情報が記述できることを意味するためである。DCT成分第1〜第N成分の間の差分を最小化するように移動量を計算し、範囲は±M画素の移動が可能なように照合するという問題は、見本となる画像を様々に移動させたデータを、事前にDCTベクトルの集合として展開しておいて、これらベクトル集合との最小距離計算を求める問題に置き換えることができる。これによって、組込みプロセッサなどでのパックド演算活用により、処理の高速化を図ることが可能となる。一般に動画等で使われる圧縮は、前フレームとのRGBノルムによる移動量検知が主になるが、紙幣画像の場合、見本画像を事前に辞書に登録して置けるため、見本画像のDCT変換辞書を事前に用意できるという利点が生じる。
次に、一時スタッカ0410または収納ボックス群0412〜0415に蓄えられた紙幣の処理フローについて、図7を用いて説明する。まず、一時スタッカまたは収納ボックス群にある紙幣を一枚、識別装置0402に搬送する(0701)。識別装置0402ではセンシング、画像撮像および各識別処理を行い、制御装置0403はその識別結果を受信する(0702)。金種識別で、金種が確定したか否かを判定し(0703)、確定ならば0704へ、そうでなければ紙幣を非還流ボックス0415(または入出金部0401)に格納する(0707)。0704では、真偽識別結果に基づいて、紙幣が真券か否か判定し、真券であれば0705へ進み、そうでなければ紙幣を非還流ボックス0415(または入出金部0401)に格納する(0707)。0705では、正損識別結果に基づいて、紙幣が正券か否か判定し、正券であれば0706へ進み、そうでなければ紙幣を非還流ボックス0415に格納する(0707)。制御装置0403は、0706の金種識別の結果に従い、金種別に還流ボックス0412〜0414に紙幣を格納する。一時スタッカ0410に、処理する紙幣がまだあるか否かを判定し(0708)、まだあるならば0701へ戻り、ないならば0709へ進む。0709では、識別装置0402から、取引した全紙幣における各紙幣画像と鑑別情報を受信し、当該画像の圧縮処理および保存処理を行う。
【0041】
受信する対象は識別装置0402自身、または制御装置0403のいずれか、または双方で良い。これはATM装置自身の設計指針による。例えば制御装置が保持するCPUが強力な作りであれば、ここで画像圧縮を行うことが有利である。一方、鑑別装置において画像処理用の特殊なCPUを持つ場合は、ここで画像圧縮を行うことが有利となる。ホストコンピュータまたは操作端末装置において証跡情報が求められれば、この圧縮した画像情報を送信する。また、識別装置0402で紙幣画像を二重に撮像しないためには、紙幣同定情報が使われる。画像情報の送信は、例えばATM装置の背後にあって金融取引処理を行う金融機関のホストコンピュータに対して行われる。画像情報の送信は通信装置0404を通して行われる。
【0042】
最後に、見本辞書の構造や圧縮パラメータの詳細について記す。辞書には大別すると見本画像のデータ0801および圧縮に関するパラメータ情報0802が記録されている。見本画像データには、各種金券の画像1つについて、辞書に記録された画像の金種・表裏・正立倒立などの情報0803、当該紙幣画像のサイズや小領域の分割数などの情報0804、および小領域毎の画像データであるDCTデータ0805が複数、記録されている。小領域のDCTデータには、当該小領域を一意に決める番号0806と、当該小領域を意図的にずらした際の移動量0807、およびその際のDCTデータがベクトル量0808として記録されている。したがって、入力画像が入力された場合、入力画像を小領域に分割してDCT変換を行い、見本辞書には移動を考慮した小領域の画像データがDCTベクトルデータとして記録されているので、この2つの間のベクトル照合を行うだけで紙幣画像のズレに対応した画像照合が比較的少ない計算量で行えることとなる。
【0043】
また、パラメータデータとしては、画像処理の手順や利用する色空間情報などを記した情報0810、低品質から高品質の紙幣画像に対して適したぼかしパラメータ0811、エッジ抽出パラメータ0812、移動差分パラメータ0813がある。例えば、ぼかしパラメータとは、ガウスぼかし関数の幅を画像品質毎に定義したリストである。また、エッジ抽出パラメータとは、エッジ情報を計算するウィンドウ幅と画像フィルタ値を画像品質毎に定義したリストである。また、移動差分パラメータとは最適な照合を計算する際に、重みづけユークリッド距離を計算する場合などに用いる重み係数などがある。また、紙幣上の特定位置に記番号があるといった部品パラメータ0814を用いると、部品ごとに圧縮の品質を制御できる。
【符号の説明】
【0044】
0101・・・現金自動取引装置
0120・・・ネットワーク
0100・・・ホストコンピュータ
0201・・・通帳入出口
0202・・・IDカード入出口
0203・・・入出金口
0204・・・表示入力装置
0210〜0217・・・センサデバイス
0302・・・操作端末装置
0303・・・表示端末装置
0305・・・外部記憶装置
0306・・・メモリ
0307・・・中央演算装置
0309・・・通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣を入出金する入出金部と、
紙幣を収納する収納部と、
紙幣を鑑別する鑑別部と、
紙幣が該鑑別部を通過する際に紙幣の画像を撮像する画像撮像部と、
紙幣を搬送する搬送機構と、
前記画像撮像部で撮像した紙幣画像の圧縮処理を行う圧縮処理部と、
該画像処理部によって画像圧縮処理された紙幣画像のデータを格納する格納部と、を有することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項2】
請求項1に記載の紙幣取扱装置であって、
前記鑑別部は、紙幣ごとの固有の特徴を示す紙幣同定情報を取得し、
前記格納部は、前記鑑別部によって取得された前記紙幣同定情報を格納することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項3】
請求項2に記載の紙幣取扱装置であって、
前記画像撮像部は、前記格納部に格納された前記紙幣同定情報に基づいて紙幣の画像を撮像することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項4】
請求項1に記載の紙幣取扱装置であって、
前記圧縮処理部は、前記鑑別部によって取得される紙幣の鑑別情報に基づいて、前記紙幣画像の圧縮処理を行うことを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項5】
請求項4に記載の紙幣取扱装置であって、
前記鑑別情報は、紙幣の金種、表裏、向き、及び紙幣の劣化度に関する情報のうち少なくとも一つ以上を含む情報であることを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項6】
請求項4に記載の紙幣取扱装置であって、
前記圧縮処理部は、前記鑑別情報に基づいて、前記紙幣画像のエッジ検出処理及び適応ぼかし処理を行うことを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項7】
請求項6に記載の紙幣取扱装置であって、
前記圧縮処理部は、前記鑑別情報に基づいて、前記紙幣画像の適応ぼかし処理を行う範囲を決定することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項8】
請求項4に記載の紙幣取扱装置であって、
前記圧縮処理部は、前記格納部に格納される紙幣の見本画像から、前記鑑別情報に基づいて、前記紙幣画像と同一の金種の見本画像を選択し、該選択された見本画像と前記紙幣画像との差分画像を取得し、該差分画像の圧縮処理を行うことを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項9】
請求項8に記載の紙幣取扱装置であって、
前記紙幣画像を複数の領域に分割し、ベクトル計算により領域毎に前記見本画像との照合を行い、前記差分画像を取得することを特徴とする紙幣取扱装置。
【請求項10】
紙幣を入出金する入出金部と、紙幣を収納する収納部と、紙幣を鑑別する鑑別部と、紙幣の画像を撮像する画像撮像部と、紙幣の画像を圧縮する圧縮処理部と、紙幣を搬送する搬送機構と、を備える紙幣取扱装置の制御を行うプログラムであって、
前記入出金部により入金された紙幣を前記搬送機構が搬送するステップと、
紙幣が前記鑑別部を通過する際に紙幣の画像を前記画像撮像部が撮像するステップと、
前記撮像された紙幣画像を前記圧縮処理部が圧縮処理を行うステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムであって、
前記鑑別部が紙幣ごとの固有の特徴を示す紙幣同定情報を取得するステップと、
前記紙幣同定情報を記憶部に記憶するステップと、
該記憶部に記憶された前記紙幣同定情報に基づいて、前記画像撮像部が紙幣の画像を撮像するか否かを判定するステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項12】
請求項10に記載のプログラムであって、
前記圧縮処理部が、前記鑑別部によって取得される紙幣の鑑別情報に基づいて前記紙幣画像の圧縮処理を行うステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のプログラムであって、
前記鑑別情報は、紙幣の金種、表裏、向き、及び紙幣の劣化度に関する情報のうち少なくとも一つ以上を含む情報であることを特徴とするプログラム。
【請求項14】
請求項12に記載のプログラムであって、
前記圧縮処理部が、前記鑑別情報に基づいて前記紙幣画像のエッジ検出処理及び適応ぼかし処理を行うステップと、を実行させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−8176(P2013−8176A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140090(P2011−140090)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】