説明

界面形成装置とその製造方法

【発明の詳細な説明】
〔概要〕
自由界面拡散法により正しい結晶配列をもつ生体高分子を成長させる装置とその製法に関し、 試料溶液を長期間保存しておいても結晶の変質を生じない装置構成を提供することを目的とし、 蛋白質溶液と結晶化剤溶液との界面を形成させ、該界面付近で結晶を成長させる装置が、一対のガラスブロック(22,23)の対向する面の中央に、溶液を収容する円筒状の液体収容室(24,25)と、該液体収容室(24,25)を中心としてその外側にOリング(30,31)の挿入が可能なリング状をした溝(28,29)があり、前記ガラスブロック(22,23)の側面には前記円筒状の液体収容室(24,25)に蛋白質溶液または結晶化剤溶液を充填する注入口(26,27)とガラス栓が備えられており、リング状をした溝にOリング(30,31)を挿入した一対のガラスブロック(22,23)をスライド板(34)を介して該Oリング(30,31)を対向せしめ、該ガラスブロック(22,23)にガラスブロックが嵌合する合成樹脂製の外容器(32,33)を当接して該ガラスブロックを被包すると共に、該一対の外容器(32,33)を相互に固定することにより蛋白質溶液と結晶化剤溶液を注入したガラスブロック(22,23)を移動可能なスライド板(34)を介して気密封止することにより界面形成装置を構成する。
〔産業上の利用分野〕
本発明は自由界面拡散法により正しい結晶配列をもつ生体高分子を育成するための界面形成装置とその製造方法に関する。
生体高分子はバイオテクノロジーの主役として注目を集めているが、特に酵素や抗体などの蛋白質はその高度な分子識別能力のためバイオセンサの形で応用研究が進められている。
こゝで、蛋白質の機能を解析するためには正しい結晶配列をした良質の蛋白質を得ることが必要であり、そのために液の対流や重力の影響を受けない宇宙空間などを用いて結晶の成長が行われている。
〔従来の技術〕
自由界面拡散法によって蛋白質の結晶を得るには、蛋白質溶液と硫酸アンモン〔(NH42SO4〕水溶液などの結晶化剤溶液とで界面を形成し、この界面付近で結晶の成長を行っている。
そして、蛋白質結晶作成装置としてはWalter Liteke等が提案した第4図に示すような装置が知られている。
この装置はホルダー1とこれに嵌挿するスライド板2とからなり、ホルダー1には内側に対向して上部に第1の液体収容室3と第2の液体収容室4が、また下部には第3の液体収容室5と第4の液体収容室6とが設けられており、一部に切削部7を備えたスライド板2により密封できるように構成されている。
そして、各々の液体収容室にはホルダ1の外側より注入口が設けられていて溶液を充填でき、栓8により封口できるようになっている。
そして同図(A)に示すようにスライド板2を下げて切削部7とホルダー1の第3の液体収容室5と第4の液体収容室7とを一致させた状態で栓8を開け、液体収容室5,6に緩衝液を充填しておく。
また、第1の液体収容室3には蛋白質溶液を、また第2の液体収容室4には結晶化剤溶液(硫安溶液)を充填しておく。
次に、同図(B)に示す位置にスライド板2ををスライドさせて切削部7を第1の液体収容室3および第2の液体収容室4と一致させると蛋白質溶液は緩衝液を介して結晶化剤溶液と接することになり、緩衝液中に拡散してくる蛋白質と結晶化剤とが接触することにより徐々に蛋白質の結晶が成長してゆく。
然し、この方法は界面形成時に緩衝液を挟み込む方法をとっているため結晶の成長条件が煩雑である。
そこで、発明者等はこれを改良した第3図に示すような蛋白質結晶成長装置を提案している。
(特開昭63-283760,昭和62年5月13日出願)
こゝで、同図(A)は斜視図で、同図(B)は断面図である。
この装置の特徴はアクリル樹脂からなる透明なブロック10,11を切削して液体収容室12,13と透明ブロック10,11の外部側面から液体収容室12,13に達する注入口14,15を設け、栓で封口する。
また、透明ブロック10,11に設けられている液体収容室12,13の外側にはOリング16,17が入る溝を切削してOリングを入れ、Oリングの厚さよりも薄いスペーサ18とを介し、二つの透明ブロック10,11をスライド板19を挟んだ状態で接合し、ネジ20,21で締め付けて固定する。
この状態で、スライド板19はスペーサ18の存在によりOリング16,17により液体収容室12,13の気密を保った状態で摺動が可能である。
そして、注入口14,15から液体収容室12,13に蛋白質溶液と結晶化剤溶液とを充填する。
この装置を使用すれば装置の材質が透明なために結晶成長中の様子を逐次観察することが可能である。
然し、使用してみると装置の材質としてアクリル樹脂を使用していることから装置内の液体収容室にそれぞれの液を注入した状態が数ヶ月に及ぶ場合は、アクリル樹脂の吸水により液体収容室の溶液に気泡が生じ、この気泡により気体と液体との界面で蛋白質の変性が起こり、結晶化の際に蛋白質自体の結合が崩れることが判った。
〔発明が解決しようとする課題〕
以上記したように界面形成装置の材質としてアクリル樹脂のような高分子有機化合物を使用すると、材料自体に吸湿性があるために、液を充填して長期間そのまゝにしておくと、水が浸透して体積が減るために減圧状態になり、液中に溶けているガスが気泡となり、この気泡の存在により気体と液体との界面で蛋白質の変性が起こり、良質の蛋白質結晶が得られないことが問題である。
そこで、気泡が発生しない界面形成装置を作ることが課題である。
〔課題を解決するための手段〕
上記の課題は一対のガラスブロックの対向する面の中央に、溶液を収容する円筒状の液体収容室と、この液体収容室を中心としてその外側にOリングの挿入が可能なリング状をした溝があり、 ガラスブロックの側面には前記円筒状の液体収容室に蛋白質溶液または結晶化剤溶液を充填する注入口とガラス栓が備えられており、 リング状をした溝にOリングを挿入した一対のガラスブロックをスライド板を介してOリングを対向せしめ、このガラスブロックにガラスブロックが嵌合する合成樹脂製の外容器を当接してガラスブロックを被包すると共に、この一対の外容器を相互に捻子止めして固定することにより蛋白質溶液と結晶化剤溶液を注入したガラスブロックを移動可能なスライド板を介して気密封止した界面形成装置の使用により解決することができる。
〔作用〕
本発明は蛋白質の結晶成長を行う容器をガラスで形成することにより水の浸透の問題をなくするものである。
また、ガラス製の場合は細工が難しく、また割れ易いことから、容器の接合には合成樹脂製の外容器を用い、これをネジを用いて締め付けるものである。
次に、蛋白質溶液あるいは結晶化剤溶液を収容する液体収容室とこれを取り囲んで設けられているOリングを装着するための溝の形成については、容器がガラスよりなるために、精度よく形成することは容易ではない。
そこで、本発明においてはOリング装着用の溝の形成には金属製の鋳型を加熱して押圧し、ガラスを溶解することにより形成し、また、液体収容室の形成と注入口の形成はそれぞれガラス切削用のドリルを用いて行い、液体収容室の底部の形成には、これと同形のガラス板を当接した後に加熱して融着させる方法をとることにより達成することができる。
〔実施例〕
実施例1:(装置構成)
第1図(A)は本発明に係る界面形成装置の斜視図、また同図(B)は断面図である。
こゝで、この界面形成装置はガラスからなり、同図(B)において右下がりの斜線で示したガラス容器部とこれが嵌合し、ネジ20,21によりこの容器部を締め付ける合成樹脂製の外容器から構成されている。
そして容器部には第3図で示した従来の装置と同様にガラスブロック22,23の中に液体収容室24,25があり、外側より注入口26,27が設けられている。
また、ガラスブロック22,23の対向する面にはそれぞれ溝28,29が設けられていてOリング30,31が挿入されている。
そして、蛋白質の結晶を成長させるにはガラスブロック22,23を合成樹脂製の外容器32,33に嵌合させ、スペーサ18とスライド板34を装着した状態でそれぞれの注入口26,27から蛋白質溶液と結晶化剤溶液を注入してガラス栓をする。
次に、外容器32,33をネジ20,21で締めることにより準備が完了する。
そして、界面形成による蛋白質結晶の成長は、従来のようにスライド板34を徐々に引き上げ、蛋白質溶液と結晶化剤溶液との界面を形成して行えばよい。
このようにすれば、容器がガラスブロック22,23からなっているために吸湿はなく、従って長期間に亙って放置しておいても気泡の発生は生じることはない。
実施例2:(ガラスブロックの形成)
第2図は本発明に係るガラスブロックの形成工程を示すもので、軟化温度が780℃の硼珪酸ガラスよりなり、大きさが70×30mmで厚さが10mmのガラス板36を二個用意した。(以上同図A)
以下、一個のガラス板について工程を図面により説明するが、他の一個のガラス板についても工程は同である。
ガラス板36の中央に内径が6.8mm,外径が10.6mmのリング状をした鋳型を1400℃に加熱して押圧し、深さが1mmの溝28を形成したが、この溝28のまわりにガラスの盛り上がり37を生じた。
(以上同図B)
次に、ガラス板36の盛り上がり37をグラインダーで除去した後、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨した。(以上同図C)
次に、ガラス用ドリルを用いて径5mmの穴38を開け、またガラス板の側面から径2mmの穴をあけて注入口26を形成した。(以上同図D)
次に、溝28形成面の裏側に同じ寸法のガラス板39を当接し、1400℃に加熱して熱融着することによりガラスブロック22が完成した。
第1表は本発明に係るガラスよりなる装置と従来のアクリル製の容器を用い、Oリングとしてはネオプレン製でテフロン被覆をしたものを用い、また、液体収容室に充填する液として、1%の抹香鯨ミオグロビン,50%飽和硫安,10mモル燐酸ナトリウムの混合液からなる緩衝液(pH=7.0)を入れ、4ヶ月に亙って放置した間に発生した気泡の量(μl)を示すものである。


こゝで、処理条件として“乾燥処理”は緩衝液の注入前に相対湿度20%以下で温度50℃に環境に2週間に亙って装置を構成するガラスブロックまたは透明ブロックを置いたもの、また“水浸漬”は50℃の純水中に2週間に亙って浸漬したものである。
第1表から、アクリル樹脂製の透明ブロックを用いたものは4ヶ月経過後12μlおよび4μlの気泡の混入があるのに対し、本発明に係る装置を使用したものについては発生は認められない。
〔発明の効果〕
以上記したように、本発明に係る装置の使用により気泡による蛋白質の変性を防ぐことができ、良質の蛋白質結晶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る蛋白質結晶成長装置の構成図、
第2図は本発明に係るガラスブロックの製造工程を示す断面図、
第3図は発明者等が先に提案した蛋白質結晶成長装置の構成図、
第4図はWalter Liteke等が提案している蛋白質結晶成長装置の構成図、
である。
図において、
10,11は透明ブロック,12,13,24,25は液体収容室、14,15,26,27は注入口、16,17,30,31はOリング、18はスペーサ、19,34はスライド板、20,21はネジ、22,23はガラスブロック、32,33は外容器、
である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】蛋白質溶液と結晶化剤溶液との界面を形成させ、該界面付近で結晶を成長させる装置が、一対のガラスブロック(22,23)の対向する面の中央に、溶液を収容する円筒状の液体収容室(24,25)と、該液体収容室(24,25)を中心としてその外側にOリング(30,31)の挿入が可能なリング状をした溝(28,29)があり、前記ガラスブロック(22,23)の側面には前記円筒状の液体収容室(24,25)に蛋白質溶液または結晶化剤溶液を充填する注入口(26,27)とガラス栓が備えられており、リング状をした溝にOリング(30,31)を挿入した一対のガラスブロック(22,23)をスライド板(34)を介して該Oリング(30,31)を対向せしめ、該ガラスブロック(22,23)にガラスブロックが嵌合する合成樹脂製の外容器(32,33)を当接して該ガラスブロックを被包すると共に、該一対の外容器(32,33)を相互に固定することにより蛋白質溶液と結晶化剤溶液を注入したガラスブロック(22,23)を移動可能なスライド板(34)を介して気密封止したことを特徴とする界面形成装置。
【請求項2】界面形成装置において、蛋白質溶液と結晶化剤溶液との界面を形成させ、該界面付近で結晶を成長させる装置が、一対のガラス板(36)の中央に金属製鋳型を熱して加圧し、該鋳型の当接位置のガラスを溶融してOリングを挿入する溝(28)を形成した後、ガラスの盛り上がり部(37)を研磨して平坦化し、鏡面仕上げをする工程と、該一対のガラス板(36)の中央を切削して蛋白質溶液または結晶化剤溶液を充填する円筒状の液体収容室(24)を設ける工程と、該一対のガラス板(36)の側面より液体収容室(24)に通ずる蛋白質溶液または結晶化剤溶液供給用の注入口(26)を切削した後、これに嵌合するガラス栓を設ける工程と、該一対のガラス板(36)の裏面に該ガラス板と等面積のガラス板(39)を当接して熱融着して一体化し、一対のガラスプロック(22)を形成する工程と、該一対のガラスブロック(22)を被包し、捻子止めによりスライド板(34)を介して一対のガラスブロック(22,23)を固定する合成樹脂製の外容器(32,33)を形成する工程を含むことを特徴とする界面形成装置の製造方法。

【第2図】
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【第1図】
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【第3図】
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【第4図】
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【特許番号】第2712543号
【登録日】平成9年(1997)10月31日
【発行日】平成10年(1998)2月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−116424
【出願日】平成1年(1989)5月10日
【公開番号】特開平2−296800
【公開日】平成2年(1990)12月7日
【出願人】(999999999)富士通株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭63−283760(JP,A)
【文献】特開 平2−44089(JP,A)