説明

界面活性剤および表面張力低下方法

【課題】少量の添加でも液体の表面張力の低下能に優れ、しかも各種溶媒への溶解性に優れ、動的表面張力の低下能が高い界面活性剤、および該界面活性剤を用いた表面張力低下方法を提供する。
【解決手段】CH2 =C(R1 )−Z−Rf (ただしR1 は水素原子、メチル基等、Zは単結合または2価の連結基、Rf は炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表す。)に由来する単位を含む分子鎖からなるセグメント(a1)と、他の分子鎖からなるセグメント(a2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する界面活性剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素系界面活性剤および表面張力低下方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素アルキル基を疎水基として有するフッ素系界面活性剤は、表面張力の低下能が高いことから、コーティング組成物等に浸透性、濡れ性、レベリング性等を付与するレベリング剤として用いられている。
フッ素系界面活性剤として用いることができる共重合体としては、たとえば、以下の共重合体が知られている。
(1)含フッ素モノマーと、親媒基を有するモノマーとのランダム共重合体(特許文献1、2)。
(2)含フッ素モノマーに由来する単位を含む分子鎖からなるセグメントと、他の分子鎖からなるセグメントとを有するブロック共重合体(特許文献3、4)。
【0003】
しかし、(1)のランダム共重合体は、フッ素の含有量、または、コーティング組成物等への添加量を増やさないと、レベリング剤としての機能を発揮しない。一方、レベリング剤としての機能を発揮させるために、フッ素の含有量を増やすと、ランダム共重合体の各種溶媒への溶解性が低下する。また、レベリング剤としての機能を発揮させるために、コーティング組成物への添加量を増やすと、経済的ではないばかりか、得られる塗膜に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0004】
(2)のブロック共重合体としては、具体的には、特許文献3、4の実施例に、炭素数が8以上のパーフルオロアルキル基を有するモノマーに由来する単位を含むブロック共重合体が記載されている。しかし、該ブロック共重合体は、各種溶媒への溶解性が低い。また、該ブロック共重合体は、動的表面張力の低下能が低い。動的表面張力は、レベリング性の指標となり、低い方が好ましい。
【特許文献1】特開2003−251166号公報
【特許文献2】国際公開第2004/018535号パンフレット
【特許文献3】特開平10−130348号公報
【特許文献4】特開平01−245007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、少量の添加でも液体の表面張力の低下能に優れ、しかも各種溶媒への溶解性に優れ、動的表面張力の低下能が高い界面活性剤、および該界面活性剤を用いた表面張力低下方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の界面活性剤は、下式(1)で表されるモノマーに由来する単位を含む分子鎖からなるセグメント(a1)と、他の分子鎖からなるセグメント(a2)とを有するブロック共重合体(A)を含有することを特徴とする。
【0007】
【化1】

【0008】
ただし、R1 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子を表し、Zは単結合または2価の連結基を表し、Rf は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表す。
【0009】
セグメント(a2)は、高分子重合開始剤に由来する分子鎖を含むことが好ましい。
セグメント(a2)は、−(CH2 CH2 O)m −(ただし、mは5〜300の整数である。)または−(O−Si(CH32m −(ただし、mは5〜300の整数である。)を含むことが好ましい。
【0010】
式(1)で表されるモノマーに由来する単位は、ブロック共重合体(A)(100質量%)中10〜45質量%であることが好ましい。
式(1)で表されるモノマーに由来する単位は、セグメント(a1)(100質量%)中90質量%以上であることが好ましい。
【0011】
本発明の界面活性剤は、レベリング剤として用いることが好ましい。
本発明の表面張力低下方法は、本発明の界面活性剤を液体に添加して液体の表面張力を低下させることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の界面活性剤は、少量の添加でも液体の表面張力の低下能に優れ、しかも各種溶媒への溶解性に優れ、動的表面張力の低下能が高い。
本発明の表面張力低下方法によれば、液体の溶媒組成に制限されずに液体の表面張力を下げることができ、その表面張力の低下能により、液体にレベリング性、浸透性、濡れ性等の機能を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書においては、式(1)で表されるモノマーをモノマー(1)と記し、式(2)で表される構造を構造(2)と記し、式(4)で表される化合物を化合物(4)と記す。他の式で表されるものも同様に記す。
【0014】
<ブロック共重合体(A)>
ブロック共重合体(A)は、モノマー(1)に由来する単位を含む分子鎖からなるセグメント(a1)と、他の分子鎖からなるセグメント(a2)とを有するブロック共重合体である。
【0015】
(セグメント(a1))
セグメント(a1)は、モノマー(1)に由来する単位を含む分子鎖からなるセグメントである。
【0016】
【化2】

【0017】
1 は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子を表し、入手の容易さから、水素原子またはメチル基が好ましい。
【0018】
Zは、単結合または2価の連結基を表し、合成の容易さ、ブロック共重合体(A)の物性等から、2価の連結基が好ましい。
2価の連結基としては、−O−、−S−、−NH−、−SO2 −、−PO2 −、−CH=CH−、−CH=N−、−N=N−、−N(O)=N−、−OCO−、−COO−、−COS−、−CONH−、−COCH2 −、−CH2 CH2 −、−CH2 −、−CH2 NH−、−CH2 −、−CO−、−CH=CH−COO−、−CH=CH−CO−、直鎖状または分岐状のアルキレン基、アルケニレン基、アルキレンオキシ基、2価の4〜7員環の置換基、2価の6員環の芳香族炭化水素基、2価の4〜6員環の脂環式炭化水素基、2価の5または6員環の複素環基、これらの縮合環、2価の連結基の組み合わせから構成される基等が挙げられる。
【0019】
2価の連結基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、水酸基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素。)、シアノ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、ブトシキ基、オクチルオキシ基、メトキシエトキシ基等。)、アリーロキシ基(フェノキシ基等)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基等。)、アシル基(アセチル基、プロピオニル基、ベンゾイル基等。)、スルホニル基(メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等。)、アシルオキシ基(アセトキシ基、ベンゾイルオキシ基等。)、スルホニルオキシ基(メタンスルホニルオキシ基、トルエンスルホニルオキシ基等。)、ホスホニル基(ジエチルホスホニル基等。)、アミド基(アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等。)、カルバモイル基(N,N−ジメチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基等。)、アルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2−カルボキシエチル基、ベンジル基等。)、アリール基(フェニル基、トルイル基等。)、複素環基(ピリジル基、イミダゾリル基、フラニル基等。)、アルケニル基(ビニル基、1−プロペニル基等。)、アルコシアシルオキシ基(アセチルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等。)、アルコシキカルボニル基(メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等。)、重合性基(ビニル基、アクリロイル基、メタクロイル基、スリリル基、桂皮酸残基等。)が挙げられる。
【0020】
Zとしては、単結合、−O−、−(CH2 CH2 O)k −(ただし、kは1〜10の整数である。)、−COO−、6員環芳香族炭化水素基、直鎖状または分岐状のアルキレン基、水素原子の一部が水酸基に置換された直鎖状または分岐状のアルキレン基、これら2価の連結基の組み合わせから構成される基が好ましく、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、−COOY−がより好ましい。Yとしては、−(CH2p −、−(CH2p −CH(OH)−(CH2q −、−(CH2p −NR2 −SO2 −が挙げられ、−(CH2p −が特に好ましい。ただし、pは1〜5の整数であり、qは1〜5の整数であり、R2 は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基である。
【0021】
f は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表し、炭素数3〜6のパーフルオロアルキル基が好ましく、炭素数4または6のパーフルオロアルキル基がより好ましい。炭素数を上記範囲とすることにより、各種溶媒への溶解性に優れるとともに、静的表面張力および動的表面張力の低下能に優れる。Rf は分岐状のパーフルオロアルキル基であってもよい。
【0022】
モノマー(1)としては、たとえば、以下のモノマーが挙げられる。
CH2=CH−COO−(CH22−(CF24−F、
CH2=CH−COO−(CH22−(CF26−F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−(CF24−F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−(CF26−F、
CH2=CH−COO−(CH23−(CF24−F、
CH2=CH−COO−(CH23−(CF26−F、
CH2=CH−COO−CH2CH(OH)CH2−(CF24−F、
CH2=CH−COO−CH2CH(OH)CH2−(CF26−F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH23−(CF24−F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH23−(CF26−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH(OH)CH2−(CF24−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH(OH)CH2−(CF26−F、
CH2=CH−C64−(CF24−F、
CH2=CH−C64−(CF26−F、
CH2=CH−COO−CH2CH2N(CH3)−SO2−(CF24−F、
CH2=CH−COO−CH2CH2N(CH3)−SO2−(CF26−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH2N(CH3)−SO2−(CF24−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH2N(CH3)−SO2−(CF26−F、
CH2=CH−COO−CH2CH2N(C25)−SO2−(CF24−F、
CH2=CH−COO−CH2CH2N(C25)−SO2−(CF26−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH2N(C25)−SO2−(CF24−F、
CH2=C(CH3)−COO−CH2CH2N(C25)−SO2−(CF26−F、
CH2=CH−COO−(CH22−N(CH2CH2CH3)−SO2−(CF24F、
CH2=CH−COO−(CH22−N(CH2CH2CH3)−SO2−(CF26F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−N(CH2CH2CH3)−SO2−(CF24F、
CH2=C(CH3)−COO−(CH22−N(CH2CH2CH3)−SO2−(CF26F、
CH2=CH−CO−NH−CH2−C49
CH2=CH−CO−NH−CH2−C511
CH2=CH−CO−NH−CH2−C613
CH2=CH−CO−NH−CH2CH2O−CO−C49
CH2=CH−CO−NH−CH2CH2O−CO−C511
CH2=CH−CO−NH−CH2CH2O−CO−C613
【0023】
モノマー(1)に由来する単位は、ブロック共重合体(A)(100質量%)中10〜45質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。ブロック共重合体(A)中のモノマー(1)に由来する単位を10質量%以上とすることにより、表面張力の低下能が充分に発揮される。ブロック共重合体(A)中のモノマー(1)に由来する単位を45質量%以下とすることにより、高価なモノマー(1)の使用量が抑えられ、経済的であり、また、各種溶媒への溶解性に優れる。
【0024】
モノマー(1)に由来する単位は、セグメント(a1)(100質量%)中90〜100質量%が好ましい。セグメント(a1)中のモノマー(1)に由来する単位を90質量%以上とすることにより、セグメント(a1)を構成するモノマーが重合しやすくなり、また、表面張力の低下能を充分に発揮できる。
モノマー(1)に由来する単位の含有量は、ブロック共重合体(A)を製造する際のモノマー、高分子重合開始剤等の、分子鎖を構成しうる原料の仕込み比から求める。
【0025】
(セグメント(a2))
セグメント(a2)は、モノマー(1)に由来する単位を含まない分子鎖からなるセグメントである。
セグメント(a2)は、ブロック共重合体(A)の製造のしやすさの点で、後述の高分子重合開始剤に由来する分子鎖を含むことが好ましい。
【0026】
セグメント(a2)は、各種溶媒への溶解性を向上させる点で、−(CH2 CH2 O)m −(ただし、mは5〜300の整数である。)または−(O−Si(CH32m −(ただし、mは5〜300の整数である。)を含むことが好ましい。
−(CH2 CH2 O)m −または−(O−Si(CH32m −は、セグメント(a2)の主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。各種溶媒への溶解性の点で、主鎖に含まれていていることが好ましい。−(CH2 CH2 O)m −または−(O−Si(CH32m −を側鎖に導入する場合、−(CH2 CH2 O)m −または−(O−Si(CH32m −を含むアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを共重合させる。
【0027】
(ブロック共重合体(A)の製造)
ブロック共重合体(A)の製造方法としては、たとえば、高分子重合開始剤を用いる方法、TEMPO法等の、含ニトロシル基化合物を用いる方法、イニファータを用いる方法、チオ酢酸等の含硫黄化合物をもとにポリマー連鎖移動剤を用いる方法等の公知の方法が挙げられ、重合の容易さの点で、高分子重合開始剤を用いる方法が好ましい。
モノマーの重合法としては、ラジカル重合法、アニオン重合法、カチオン重合法等が挙げられる。
【0028】
ブロック共重合体(A)の製造は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、原料が溶解するものであればよく、アセトン、メタノール、エタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
溶媒の存在下で行った場合、ブロック共重合体(A)は溶液の状態で得られる。本発明のように界面活性剤を液体に添加する場合は、反応溶媒を適切に選ぶことで、溶媒留去を行わずに、ブロック共重合体(A)溶液をそのまま界面活性剤として用いることができる。
【0029】
重合温度は、制御の容易さの点で、0〜150℃が好ましい。高分子重合開始剤を用いる場合、高分子重合開始剤中のジアゾ基の分解の活性化エネルギーとの相関により、30〜90℃が好ましい。
重合圧力は、簡便であるという点から、常圧、または、閉鎖系の場合、重合開始剤の分解によって生じるガス程度の圧力が好ましい。
重合時の雰囲気は、空気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、ヘリウム雰囲気等が挙げられ、重合時のラジカルを消費しないために不活性ガスの雰囲気下が好ましい。
【0030】
高分子重合開始剤としては、取扱性(安全性)の点から、高分子アゾ開始剤が好ましい。高分子アゾ開始剤としては、構造(2)または構造(3)を有する化合物が好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
ただし、mは5〜300の整数を表し、nは1〜20の整数を表す。
構造(2)を有する化合物としては、たとえば、和光純薬工業社製のVPEシリーズ(VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601)等が挙げられる。
構造(3)を有する化合物としては、たとえば、和光純薬工業社製のVPSシリーズ(VPS−0501、VPS−1001)等が挙げられる。
高分子重合開始剤は、多官能開始剤を用いて合成できる。
【0033】
<界面活性剤>
本発明の界面活性剤は、ブロック共重合体(A)を含有する。ブロック共重合体(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ブロック共重合体(A)の含有量は、界面活性剤(100質量%)中0.001〜100質量%が好ましい。ブロック共重合体(A)の含有量がこの範囲内であると、表面張力の低下能に優れる、粘度が改善されて扱いやすくなる、等の効果を奏する。
【0034】
本発明の界面活性剤は、溶媒、他の界面活性剤、溶媒に対して親和性を持つ有機物、各種塩等の無機物を含んでいてもよい。
【0035】
溶媒としては、水、有機溶媒、フッ素系溶媒が好ましく、有機溶媒が特に好ましい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−ブタノール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N−メチルピロリドン等の極性溶媒;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ピリジン、ピペラジン等の含窒素系溶媒;ヘキサン、オクタン、デカン、イソヘキサン等のパラフィン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
他の界面活性剤としては、市販の界面活性剤、たとえば、本発明の界面活性剤を除くフッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
本発明の界面活性剤は、各種液体に添加することにより、液体の溶媒組成に制限されずに液体の表面張力を下げることができ、その表面張力低下能により、液体にレベリング性、浸透性、起泡性、洗浄性、乳化性等の機能を付与できる。
【0038】
以上説明した本発明の界面活性剤にあっては、ブロック共重合体(A)が、モノマー(1)に由来する単位を含む分子鎖からなるセグメント(a1)と、他の分子鎖からなるセグメント(a2)とを有しているため、少量の添加でも液体の表面張力の低下能に優れている。さらに、セグメント(a1)を構成するモノマー(1)が炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を有するため、各種溶媒への溶解性に優れるとともに、動的表面張力の低下能が高い。
すなわち、表面張力の低下を目的とする場合、通常では、炭素数の多いパーフルオロアルキル基を有する化合物を用いるが、本発明では、表面張力の低下能に劣ると思われる炭素数の少ないパーフルオロアルキル基を有する化合物を用いたところ、静的表面張力および動的表面張力の低下能に優れるという予想外の効果を奏することがわかった。
【0039】
<レベリング剤>
本発明の界面活性剤は、少量の添加でも充分な表面張力の低下能を発揮できることから、各種用途に用いることができる。たとえば、浸透剤、濡れ性改良剤、レベリング剤、塗料・顔料添加剤、乳化剤、消火薬剤、床ワックス、洗浄剤、起泡剤、消泡剤等が挙げられ、レベリング剤として好適である。
レベリング剤は、ブロック共重合体(A)を含有するものであり、必要に応じて、溶媒、他の成分を含有していてもよい。
溶媒としては、水、有機溶媒、フッ素系溶媒等が挙げられる。
【0040】
他の成分としては、溶質、添加剤等が挙げられる。
溶質としては、各種樹脂等が挙げられる。
添加剤としては、本発明の界面活性剤を除く各種界面活性剤、カップリング剤、金属酸化物、酸化防止剤、帯電防止剤、防錆剤、防曇剤、紫外線防止剤、感光剤等が挙げられる。
【0041】
レベリング剤は、印刷材料、感光性材料、塗料、光学材料、床ワックス等のコーティング材料、レジスト、水ガラス、洗浄剤、エッチング液、めっき液、接着剤、防錆剤、農薬等の各種組成物に容易に溶解するため、組成物中の他の成分の影響を受けることなく、組成物にレベリング性を付与できる。
【0042】
<表面張力低下方法>
本発明の表面張力低下方法は、本発明の界面活性剤を液体に添加して液体の表面張力を低下させる方法である。
【0043】
液体としては、水、有機溶媒、フッ素系溶媒が好ましく、有機溶媒が特に好ましい。
有機溶媒としては、上述の界面活性剤の溶媒と同様のものが挙げられる。
なお、界面活性剤の溶媒と、表面張力低下方法において界面活性剤を添加される液体とは、溶解性に問題がない限り、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0044】
本発明の界面活性剤の添加量は、液体(100質量%)におけるブロック共重合体(A)の含有量が0.001〜10質量%となる量が好ましく、0.005〜5質量%となる量が特に好ましい。添加量がこの範囲であれば、他の添加剤の性質を阻害せず、かつ液体の粘度への悪影響を与えずに、表面張力の低下能を充分に発揮できる。
【0045】
液体には、溶質、添加剤等が添加されてもよい。
溶質としては、各種樹脂が挙げられる。樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、含フッ素樹脂等が挙げられる。溶質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
添加剤としては、炭化水素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、本発明の界面活性剤を除くフッ素系界面活性剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、金属酸化物、酸化防止剤、帯電防止剤、防錆剤、防曇剤、紫外線防止剤、感光剤等が挙げられる。
【0046】
本発明の表面張力低下方法によれば、ブロック共重合体(A)が各種溶媒への溶解性を持つため、液体の溶媒組成に制限されずに液体の表面張力を下げることができ、その表面張力の低下能により、液体に、レベリング性、浸透性、起泡性、洗浄性、乳化性等の機能を付与できる。
【実施例】
【0047】
〔実施例1〕
100mlガラス瓶に、2−(パーフルオロヘキシル)−エチルアクリレート(ダイキン化成品販売社製)2.04g、VPE−0201(和光純薬工業社製)8.12g 酢酸エチル30.0gを仕込み、密閉させた後70℃で16時間加熱振動させた。その後、ガラス瓶を冷却し、重合を停止させブロック共重合体の酢酸エチル溶液を得た。得られたブロック共重合体の分子量をゲルパーミッションクロマトグラフィ(昭和電工社製、GPC−101、以下GPCと記す。)により測定したところ、Mn=13,230、Mw=32,221であった。
【0048】
〔実施例2〕
VPE−0201をVPS−0501(和光純薬工業社製)に変更した以外は、実施例1と同様にしてブロック共重合体の酢酸エチル溶液を得た。得られたブロック共重合体の分子量をGPCにより測定したところ、Mn=28,760、Mw=58,458であった。
【0049】
〔比較例1〕
100mlガラス瓶に、2−(パーフルオロヘキシル)−エチルメタクリレート(ダイキン化成品販売社製)3.30g、CH2 =C(CH3 )−COO−(C24 O)n H(ただしnは平均2である。)(日本油脂社製、PE−90)13.29g、オクタンチオール(和光純薬工業社製)0.20g、イソプロパノール33.04g、化合物(4)(和光純薬工業社製、V−601)0.24gを仕込み、密閉させた後70℃で16時間加熱振動させた。その後、ガラス瓶を冷却し、重合を停止させ、ランダム共重合体のイソプロパノール溶液を得た。得られたランダム共重合体の分子量をGPCにより測定したところ、Mn=12,608、Mw=42,361であった。
【0050】
【化4】

【0051】
〔比較例2〕
PE−90を、CH2 =C(CH3 )−COO−(C24 O)10(C36 O)20(C24 O)10Hに変更した以外は、比較例1と同様にしてランダム共重合体のイソプロパノール溶液を得た。
【0052】
〔比較例3〕
100mlガラス瓶に、2−(パーフルオロオクチル)−エチルメタクリレート(ダイキン化成品販売社製)2.00g、VPE−0401(和光純薬工業社製)8.00g、酢酸エチル30.01gを仕込み、密閉させた後70℃で16時間振動させた。その後、ガラス瓶を冷却し、重合を停止させ、ランダム共重合体の酢酸エチル溶液を得た。得られたランダム共重合体の分子量をGPCにより測定したところ、Mn=16,137、Mw=37,537であった。
【0053】
〔評価〕
実施例1、2および比較例1〜3の各共重合体の、各溶媒に対する溶解性を評価した。各共重合体の濃度は1質量%とした。25℃において観察を行い、透明な溶液となったものを「○」、透明な溶液とならずに沈殿したものを「×」と評価した。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
実施例1、2および比較例2、3の各共重合体の、酢酸エチル溶液における静的表面張力(mN/m)を測定した。測定は、自動表面張力計CBVP−A3型(協和界面化学社製)を用いて行った。溶液中の各ポリマーの濃度は1質量%または0.1質量%とした。結果を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
実施例1、2および比較例1、2、3の各共重合体の、エチルセロソルブ溶液における静的表面張力(mN/m)を測定した。測定は、自動表面張力計CBVP−A3型(協和界面化学社製)を用いて行った。溶液中の各ポリマーの濃度は1質量%または0.1質量%とした。結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
実施例1、2および比較例1、2、3の各共重合体の、エチルセロソルブ溶液における動的表面張力(mN/m)を測定した。測定は、BP−D2型装置(協和界面化学社製)を用い、バブルプレッシャー法にて行った。溶液中の各ポリマーの濃度は1質量%とし、バブリング頻度は5Hzとした。結果を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
表1〜4の結果から、本発明の界面活性剤は各種溶媒に溶解し、低濃度でも優れた表面張力低下能を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の界面活性剤は、従来のフッ素系界面活性剤と比較して、共重合体中のフッ素の含有量および液体への添加量が少なくても、液体の表面張力の低下能に優れる。特に、動的表面張力の低下能に優れ、かつ各種溶媒への溶解性に優れることから、レベリング剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表されるモノマーに由来する単位を含む分子鎖からなるセグメント(a1)と、他の分子鎖からなるセグメント(a2)とを有するブロック共重合体(A)を含有する、界面活性剤。
【化1】

ただし、R1 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、またはハロゲン原子を表し、Zは単結合または2価の連結基を表し、Rf は炭素原子と炭素原子の間にエーテル性酸素原子を有していてもよい炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を表す。
【請求項2】
セグメント(a2)が、高分子重合開始剤に由来する分子鎖を含む、請求項1に記載の界面活性剤。
【請求項3】
セグメント(a2)が、−(CH2 CH2 O)m −(ただし、mは5〜300の整数である。)または−(O−Si(CH32m −(ただし、mは5〜300の整数である。)を含む、請求項1または2に記載の界面活性剤。
【請求項4】
式(1)で表されるモノマーに由来する単位が、ブロック共重合体(A)(100質量%)中10〜45質量%である、請求項1〜3のいずれかに記載の界面活性剤。
【請求項5】
式(1)で表されるモノマーに由来する単位が、セグメント(a1)(100質量%)中90質量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の界面活性剤。
【請求項6】
レベリング剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の界面活性剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の界面活性剤を液体に添加して液体の表面張力を低下させる表面張力低下方法。

【公開番号】特開2007−186671(P2007−186671A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−246892(P2006−246892)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000108030)AGCセイミケミカル株式会社 (130)
【Fターム(参考)】