説明

畜糞処理方法

【課題】畜糞の有効利用と処理の両立が可能な畜糞処理方法の提供。
【解決手段】第1の工程S1において、畜糞である鶏糞10に濃硫酸12とウォラストナイト14を加え固化物16とし、第2の工程S2において、固化物16に水18と酵母菌20を加えて第1の液22となし、第1の液22中の発酵によりエタノール24をつくり、第1の液22をエタノール24を含む第2の液28と酵母菌20及び第1の残渣物26を含む第3の液30とに分け、第3の工程S3において、第3の液30からエタノールを蒸留する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜糞の有効利用を可能にする畜糞処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産農家においては、日々排出される畜糞の処理が大きな問題となっている。畜産農家は、畜糞を肥料化することにより、畜糞の処理と有効利用とを両立させることができる。
これまでに、畜糞の肥料化に関する数多くの技術が提唱されている。かかる技術の一例として、以下に説明する堆肥発酵処理装置がある(特許文献1を参照)。
【0003】
この堆肥発酵処理装置は、発酵槽、切り返し装置、粉砕機、悪臭吸収装置、汚水処理装置を備えている。発酵槽は、堆肥原料を投入する槽である。切り返し装置は、発酵槽の長手方向に沿って移動する架台に支持され、発酵槽の堆肥排出口側から堆肥原料投入口側に向けて移動しながら斜め上方に向けて回動するエンドレスの揚送手段によって堆肥原料を上方に揚送して落下させる。粉砕機は、切り返し装置の堆肥原料落下位置に取付けられ、落下してくる堆肥原料を破砕しながら飛散させる。悪臭吸収装置は、発酵槽の一部又は全部の上方を覆ったフードの内部から発酵槽の堆肥排出口側の所定範囲の床面間に配設され、フード内の悪臭空気を吸引して発酵の進んだ堆肥層に下方から長手方向の多数の排気孔群を介して吸収させる通気管路を備えている。汚水処理装置は、家畜等の汚水槽から圧送手段を介在させて発酵槽の堆肥排出口側床面の所定範囲に配設された汚水供給管と、この汚水供給管に所定間隔をもって形成された注出孔を有し、汚水供給管から送られる汚水を発酵の進んだ発酵槽の堆肥に下方床面から注入する。
【0004】
この堆肥発酵処理装置によって、畜糞の好気発酵が促進され、悪臭を発生することなく肥料が製造される。
【特許文献1】特許第3978293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
畜産農家から排出される畜糞の中には、セルロースやリグニンが含まれていることが多い。例えば、畜糞が鶏糞である場合、鶏糞に含まれているセルロースやリグニンは、鶏舎の床に敷かれているおが屑等に由来する。畜糞が牛糞である場合、牛糞に含まれているセルロースやリグニンは、牛舎の床に敷かれている敷藁に由来するものであり、また、牛が体内で消化できなかった穀物飼料に由来するものでもある。畜糞が豚糞である場合、豚糞に含まれているセルロースやリグニンは、豚舎の床に敷かれているおが屑に由来するものであり、また、豚が体内で消化できなかった穀物飼料に由来するものでもある。
【0006】
セルロースやリグニンはなかなか分解しないので、畜糞を発酵させても、畜糞の中のセルロースやリグニンは完全に分解せずに残りやすい。すなわち、セルロースやリグニンを含んでいる畜糞から製造した肥料の中には、セルロースやリグニンが残っているのである。
セルロースやリグニンが残っている肥料を畑などに施肥すると、セルロースやリグニンが土中で徐々に発酵し、その畑で生育する農作物に根腐れが発生する原因になってしまう。上記堆肥発酵処理装置を用いて畜糞から肥料を製造する場合においても、同様の問題が発生する。
このため、畜産農家は、畜糞を有効利用できないことが多く、畜糞の処理に困っている。
本発明は、上記問題を解決するものであり、その目的とするところは、畜糞の有効利用と処理の両立を可能にする畜糞処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、その課題を解決するために以下のような構成をとる。請求項1の発明に係る畜糞処理方法は、畜糞に濃硫酸を加え、畜糞が含有する炭水化物を加水分解によって糖にして、畜糞を糖化物にする第1の工程と、前記糖化物に水と酵母菌とを加えて第1の液をつくり、当該第1の液の中で、酵母菌の発酵によって前記糖化物からエタノールをつくり、当該第1の液の中にエタノールができたら、当該第1の液を、エタノールを含有する第2の液と、酵母菌及び発酵後に残る第1の残渣物を含有する第3の液と、に分ける第2の工程と、前記第2の液からエタノールを蒸留する第3の工程と、を有している。
【0008】
第1の工程において、畜糞に濃硫酸を加えると、畜糞の中の炭水化物が加水分解して糖になり、畜糞から糖化物ができる。
第2の工程において、糖化物に水と酵母菌とを加えて第1の液をつくると、この第1の液の中の糖化物が酵母菌によって発酵し、糖化物からエタノールがつくられる。第1の液の中にエタノールがつくられたら、この第1の液を、エタノールを含有する第2の液と、酵母菌及び発酵後に残る第1の残渣物を含有する第3の液と、に分ける。エタノールを含有する第2の液は、酵母菌及び第1の残渣物を含有する第3の液よりも比重が軽い。この比重差を利用すれば、第2の液と第3の液とを容易に分けることができる。
第3の工程において、第2の液からエタノールを蒸留する。エタノールの蒸留は常圧蒸留で行ってもよいし、減圧蒸留によって行ってもよい。
第1の工程、第2の工程及び第3の工程によって畜糞を処理することにより、畜糞からエタノールをつくることができ、畜糞の有効利用が可能になる。
【0009】
請求項2の発明に係る畜糞処理方法は、請求項1に記載の畜糞処理方法であって、前記畜糞にセルロース及びリグニンが含まれている。
第1の工程において、濃硫酸が、畜糞の中に含まれているセルロースを加水分解して糖化物にする。また、畜糞の中に含まれているリグニンは、第1の工程でつくられる糖化物の中に入る。
第2の工程において、糖化物の中に入っているリグニンは、第1の液の中に入る。第1の液を第2の液と第3の液とに分ける際、第1の液の中のリグニンは、第3の液よりも比重が軽いので第2の液の中に入る。
【0010】
請求項3の発明に係る畜糞処理方法は、請求項1又は請求項2に記載の畜糞処理方法であって、前記第1の工程において、前記畜糞にウォラストナイトを加えてから濃硫酸を加える。
第1の工程において、畜糞にウォラストナイト(Wallastonite:ケイ酸カルシウム:CaSiO)と濃硫酸とを加えると、ウォラストナイトと濃硫酸とが反応し、糖化物が固化する。固化した糖化物は、その取り扱いが容易である。例えば、第1の工程でつくられた糖化物を第2の工程に送る場合、その搬送が容易である。また、糖化物を貯蔵しておかなくてはならない場合、液体や流動体を扱う必要がないので、その貯蔵と管理が容易である。なお、ウォラストナイトは天然に産するものでもよいし、合成したものでもよい。
ウォラストナイトと濃硫酸との反応熱によって、固化した糖化物は殺菌され、固化した糖化物における雑菌の繁殖も防止される。
【0011】
請求項4の発明に係る畜糞処理方法は、請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の畜糞処理方法であって、前記第3の液から取り出した前記第1の残渣物に、亜鉛、マンガン、モリブデン、マグネシウム、銅、及び、鉄のうちの少なくともひとつをミネラル成分として加える第4の工程を有している。
第3の液は、酵母菌と発酵後の第1の残渣物とを含有している。例えば、第3の液を静置等すれば、発酵後の第1の残渣物が沈澱する。この沈澱した第1の残渣物を第3の液から取り出すことは容易である。
【0012】
第4の工程において、第3の液から取り出した第1の残渣物に、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、及び、鉄(Fe)のうちの少なくともひとつをミネラル成分として加える。亜鉛、マンガン、モリブデン、マグネシウム、銅、及び、鉄は、植物の生長に不可欠の元素であり、必須元素といわれている。すなわち、第4の工程でミネラル成分を加えた第1の残渣物は、必須元素を含有しており、肥料の原料として好ましい。
【0013】
第4の工程でミネラル成分を加えた第1の残渣物は、畜糞に由来する様々な成分を含有している。この点からもミネラル成分を加えた第1の残渣物は、肥料の原料として好ましい。
前述したように、畜糞の中にセルロースが含まれている場合、このセルロースは加水分解されて糖になってしまい、ミネラル成分を加えた第1の残渣物の中にセルロースは入らない。畜糞の中にリグニンが含まれている場合、このリグニンは第2の液の中に入ってしまうので、ミネラル成分を加えた第1の残渣物の中にリグニンは入らない。
【0014】
したがって、ミネラル成分を加えた第1の残渣物を肥料の原料にする場合、この原料から製造される肥料の中にセルロースやリグニンが入ることはない。
第1の工程で畜糞にウォラストナイトと濃硫酸を加える場合、第4の工程でミネラル成分を加えた第1の残渣物は、ウォラストナイトに由来するケイ素及びカルシウムと、濃硫酸に由来するイオウとを含有している。この点からもミネラル成分を加えた第1の残渣物は、肥料の原料として好ましい。
【0015】
請求項5の発明に係る畜糞処理方法は、請求項4に記載の畜糞処理方法であって、前記第2の液からエタノールを蒸留した後に残る第2の残渣物を焼却して焼却灰をつくる第5の工程を有し、前記第4の工程において、前記第1の残渣物に、前記ミネラル成分とともに前記焼却灰を加える。
第3の工程において、第2の液からのエタノールの蒸留が終わると、後に、第2の残渣物が残る。
畜糞の中にリグニンが含まれている場合、このリグニンは、まず、第1の工程で糖化物の中に入り、次いで、第2の工程で第1の液の中に入り、その後、第2の液の中に入り、第3の工程で第2の残渣物の中に入る。第5の工程において、第2の残渣物は焼却されて焼却灰になる。第2の残渣物の中のリグニンは、焼却によって分解されてしまい、焼却灰の中にリグニンは入っていない。この焼却灰は、第4の工程において、ミネラル成分とともに第1の残渣物に加えられる。
【0016】
焼却灰とミネラル成分とを加えた第1の残渣物の中にはリグニンが入っていない。したがって、焼却灰とミネラル成分とを加えた第1の残渣物は、肥料の原料として問題を有していない。
なお、第2の残渣物の含水率が高い場合、第2の残渣物を焼却する前に予め第2の残渣物の含水率を低くしておくことが好ましい。第2の残渣物の含水率を低くすることによって、第2の残渣物を焼却する際の燃料効率が向上し、また、第2の残渣物を焼却する設備にかかる負荷が小さくなる。例えば、遠心分離や加熱によって第2の残渣物の含水率を低下させることができる。
【0017】
請求項6の発明に係る畜糞処理方法は、請求項4又は請求項5に記載の畜糞処理方法であって、前記第3の液から前記第1の残渣物を取り出した後に残る第4の液に、硫化アンモニウムを加え、硫化アンモニウムを加えた当該第4の液を前記第2の工程に送る第6の工程を有しており、前記第2の工程において、前記第6の工程から送られてくる前記第4の液に前記糖化物を加えて前記第1の液をつくる。
【0018】
第2の工程で糖化物の発酵に用いられる酵母菌は、まず、第1の液の中に入り、それから第3の液の中に入る。そして、第3の液の中の酵母菌は、第3の液から第1の残渣物を取り出した後に残る第4の液の中に入る。この第4の液を第2の工程に送ることにより、第4の液の中の酵母菌を第2の工程における糖化物の発酵に再び用いることができる。
なお、糖化物の発酵を終えた酵母菌は、その活性度が低下することがある。発明者が試行錯誤して得た知見によれば、活性度が低下した酵母菌が入っている液の中に、硫化アンモニウムを加えると、液の中の酵母菌の活性度が向上する。したがって、第6の工程において、第4の液に硫化アンモニウムを加えると、第4の液の中の酵母菌の活性度が向上し、第4の液の中の酵母菌は糖化物の発酵を再び活発に行うことできる。
【0019】
請求項7の発明に係る畜糞処理方法は、請求項6に記載の畜糞処理方法であって、前記第6の工程において、前記第4の液に、硫化アンモニウムとともに酵母菌を加える。
第2の工程において酵母菌の一部が死ぬことがある。また、第1の液を第2の液と第3の液とに分離する際、酵母菌の一部が第2の液の中に入ってしまう。さらに、第3の液から第1の残渣物を取り出す際、酵母菌の一部が第1の残渣物の中に入ってしまう。したがって、第4の液の中に存在する生きた酵母菌の数は、既に終った第2の工程の糖化物の発酵に用いられた酵母菌の数よりも少なくなっている。
すなわち、第4の液を第2の工程に送ることを繰り返すだけでは、第1の液の中で糖化物の発酵を行う酵母菌の数が徐々に減少し、第2の工程の効率が低下することになってしまう。
第6の工程において、第4の液に硫化アンモニウムとともに酵母菌を加えれば、第1の液の中で糖化物の発酵を行う酵母菌の数の減少が防止され、第2の工程の効率の低下が防止される。
【発明の効果】
【0020】
上記のような畜糞処理方法であるので、畜糞の有効利用と処理の両立が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を図1を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係る畜糞処理方法の工程の流れ図である。
養鶏農家の鶏舎から、畜糞である鶏糞10が排出される。鶏糞10の中には、セルロース及びリグニンが含まれている。これらのセルロース及びリグニンは鶏舎の床に敷かれていたおが屑に由来するものである。
【0022】
セルロース及びリグニンを含む鶏糞10は、鶏糞処理場1に運ばれ、以下に説明する処理を施される。
鶏糞処理場1において鶏糞10に施される処理は、第1の工程S1、第2の工程S2、第3の工程S3、第4の工程S4、第5の工程S5、第6の工程S6を有している。
第1の工程S1において、まず、鶏糞処理場1に搬入された鶏糞10に、ウォラストナイト14が加えられ、鶏糞10とウォラストナイト14とがよく撹拌される。そして、ウォラストナイト14と撹拌された鶏糞10に、濃硫酸12が加えられる。
【0023】
鶏糞10の中に含まれている炭水化物やセルロースは、濃硫酸12によって加水分解されて糖になり、鶏糞10から糖化物がつくられる。また、濃硫酸12とウォラストナイト14とが反応し、糖化物が固化して固化物16になる。鶏糞10の中に含まれているリグニンは、固化物16の中に入る。第1の工程S1でつくられた固化物16は第2の工程S2に送られる。
【0024】
第1の工程S1において加えられるウォラストナイト14及び濃硫酸12の量は、後述する第1の液22のpH値が酵母菌の活動可能な範囲(pH4〜5)内に納まるように調整する。
第2の工程S2において、第1の工程S1から送られてきた固化物16に、水18と酵母菌20とが加えられ、第1の液22がつくられる。第1の液22の中で、酵母菌20による発酵が始まり、固化物16の中の糖からエタノール24がつくられる。酵母菌20による発酵が終ると、第1の液22の中には、発酵を終えた酵母菌20、発酵後に残る第1の残渣物26、エタノール24、リグニンが存在している。
【0025】
第2の工程S2において、固化物16、水18、酵母菌20が所定の容器(図示せず)内に入れられて、第1の液22がつくられる。雑菌の存在は酵母菌20の活動を妨げるので、第1の液22をつくるために用いる前記容器は、適宜スチーム等によって殺菌しておくことが望ましい。例えば、第1の液22をつくる前に、前記容器の殺菌を行っておけばよい。
【0026】
第1の液22の中で酵母菌20による発酵が終わり、第1の液22の中にエタノール24がつくられたら、第1の液22を、エタノール24及びリグニンを含有する第2の液28と、酵母菌20及び第1の残渣物26を含有する第3の液30と、に分ける。
第2の液28は第3の液30よりも比重が軽い。例えば、第1の液22を静置すれば、第2の液28の層が第3の液30の層の上側に位置するので、第2の液28と第3の液30とを分けることは容易である。また、第2の液28の色が第3の液30の色と異なっている場合、液の色に注意することによって、第2の液28と第3の液30とをさらに容易に分けることができる。
リグニンは、第3の液30よりも軽いので第2の液28の中に入る。第2の液28の中において、リグニンは上のほうに浮いて存在している。
【0027】
第2の液28は、第2の工程S2から第3の工程S3に送られる。
第3の液30の中で第1の残渣物26が沈澱する。第3の液30の中から沈澱している第1の残渣物26を取り出す。第3の液30から取り出された第1の残渣物26は、第2の工程S2から第4の工程S4に送られる。
第3の液30から第1の残渣物26を取り出すと、第4の液32が後に残る。第4の液32の中には、第2の工程S2における発酵を終えた酵母菌20が入っている。第4の液32は、第2の工程S2から第6の工程S6に送られる。
【0028】
第3の工程S3において、エタノール24が第2の液28から蒸留によって取り出される。エタノール24の蒸留は、常圧蒸留であってもよいし、減圧蒸留であってもよい。エタノール24の蒸留が終ると、後に、第2の残渣物42が残る。第2の残渣物42の中には、リグニンが入っている。第2の残渣物42は、第3の工程S3から第5の工程S5に送られる。
第5の工程S5において、第3の工程S3から送られてくる第2の残渣物42が焼却される。第2の残渣物42は燃えて焼却灰44になる。第2の残渣物42に入っていたリグニンは焼却によって分解されるので、焼却灰44の中にリグニンは入っていない。焼却灰44は、第5の工程S5から第4の工程S4に送られる。
【0029】
なお、第3の工程S3から第5の工程S5に送られてくる第2の残渣物42の含水率が高い場合、第2の残渣物42を焼却する前に、予め第2の残渣物42から余分な水分を抜いておく。第2の残渣物42から水分を抜くにあたっては、例えば、第2の残渣物42を遠心分離機にかけて水分をきることができるし、第2の残渣物42を加熱して水分を蒸発させることもできる。また、第2の残渣物42を遠心分離機にかけて水分をきってから、さらに加熱して水分を蒸発させてもよい。
【0030】
第4の工程S4において、第2の工程S2から送られた第1の残渣物26に、ミネラル成分34と、第5の工程S5から送られた焼却灰44と、が加えられる。なお、ミネラル成分34は、亜鉛、マンガン、モリブデン、マグネシウム、銅、及び、鉄である。ミネラル成分34と焼却灰44とを加えられた第1の残渣物26は、肥料の原料36になる。肥料の原料36は、ミネラル成分34の他に、鶏糞10に由来する様々な成分、濃硫酸12に由来するイオウ、ウォラストナイト14に由来するケイ素とカルシウムを含有している。
【0031】
第2の工程S2から送られた第1の残渣物26の含水率が高い場合、ミネラル成分34と焼却灰44とを加える前に、予め第1の残渣物26から余分な水分を抜いておく。第1の残渣物26から水分を抜くにあたっては、例えば、第1の残渣物26を遠心分離機にかけて水分をきることができるし、第1の残渣物26を加熱して水分を蒸発させることもできる。また、第1の残渣物26を遠心分離機にかけて水分をきってから、さらに加熱して水分を蒸発させてもよい。
【0032】
第6の工程S6において、第2の工程S2から送られた第4の液32に、硫化アンモニウム38と酵母菌40とが加えられる。第4の液32の中に入っている酵母菌20は、第2の工程S2での発酵を終えており、その活性度が低下していることがある。第4の液32に加えた硫化アンモニウム38によって、第4の液32の中の酵母菌20の活性度が向上する。活性度が向上した酵母菌20は、再び発酵を活発に行うことができるようになる。
【0033】
第2の工程S2において、酵母菌20の一部が死んでしまう。また、第1の液22を第2の液28と第3の液30とに分ける際、酵母菌20の一部が第2の液28の中に入ってしまう。さらに、第3の液30から第1の残渣物26を取り出す際、酵母菌20の一部が第1の残渣物26の中に入ってしまう。
したがって、第4の液32中に入っている生きた酵母菌20の数は、先に第2の工程S2において発酵を行った酵母菌20の数よりも少ない。この酵母菌20の減少分は、第6の工程S6で第4の液32に加えられる酵母菌40によって補われる。
【0034】
第6の工程S6で硫化アンモニウム38と酵母菌40とを加えられた第4の液32は、第2の工程S2に送られる。
第2の工程S2において、第6の工程S6から送られた第4の液32に、第1の工程S1から送られる固化物16が加えられて、第1の液22がつくられる。この第1の液22の中において、酵母菌20、40による発酵が始まり、固化物16に含まれている糖からエタノール24がつくられる。第1の液22の中にエタノール24がつくられたら、前述と同様にして、第1の液22が第2の液28と第3の液30とに分けられる。そして、第2の液28は第3の工程S3に送られる。残りの第3の液30は第1の残渣物26と第4の液32とに分けられ、第1の残渣物26が第4の工程S4に送られ、第4の液32が第6の工程S6に送られる。
【0035】
第1の工程S1で製造される固化物16は、固体であるので、搬送時の取り扱いが容易である。また、固化物16の貯蔵も容易に行うことができる。
また、第1の工程S1において、固化物16は濃硫酸12によって殺菌されるとともに、ウォラストナイト14と濃硫酸12との反応熱によっても殺菌されている。したがって、固化物16における雑菌の繁殖が防止されている。また、固化物16を第1の工程S1から第2の工程S2に送る過程で、固化物16に雑菌が付着したり繁殖したりすることを防止しなければならない。このため、固化物16の保存や搬送に用いる機器等をスチーム等によって適宜殺菌することが好ましい。
【0036】
第2の工程S2における発酵を効率よく行うために、少なくとも、第1の液22、第3の液30、第4の液32を入れる容器をスチーム等によって適宜殺菌し、雑菌の付着や繁殖を未然に防止することが好ましい。
第4の工程S4で製造される肥料の原料36は、植物の生育に有用な様々な成分を含有しており、肥料の原料として好ましい。また、肥料の原料36には、鶏糞10の中に含まれていたセルロースやリグニンが入っていないので、肥料の原料36から製造した肥料の中にもセルロースやリグニンは入っていない。この点においても、肥料の原料36は、肥料の原料として好ましい。なお、この肥料の原料36を直接施肥することも可能である。
【0037】
第5の工程S5で第2の残渣物42を焼却する際に熱が発生する。第3の工程S3でエタノール24を蒸留する際の熱源として、この熱を用いることができる。また、第1の残渣物26や第2の残渣物42を加熱して水分を蒸発させる際に、この熱を熱源として用いることができる。
第6の工程S6において、一度第2の工程S2で発酵に使った酵母菌20の活性化を行い、第2の工程S2に戻しているので、酵母菌20を繰り返し使うことができる。
以上述べたように、第1の工程S1から第6の工程S6によって鶏糞10を処理することによって、利用価値の高いエタノール24や肥料の原料36が鶏糞10から製造され、鶏糞10の有効利用と処理の両立が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る畜糞処理方法の工程の流れ図である。
【符号の説明】
【0039】
1 鶏糞処理場
10 鶏糞
12 濃硫酸
14 ウォラストナイト
16 固化物
18 水
20 酵母菌
22 第1の液
24 エタノール
26 第1の残渣物
28 第2の液
30 第3の液
32 第4の液
34 ミネラル成分
36 肥料の原料
38 硫化アンモニウム
40 酵母菌
42 第2の残渣物
44 焼却灰
S1 第1の工程
S2 第2の工程
S3 第3の工程
S4 第4の工程
S5 第5の工程
S6 第6の工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜糞に濃硫酸を加え、畜糞が含有する炭水化物を加水分解によって糖にして、畜糞を糖化物にする第1の工程と、
前記糖化物に水と酵母菌とを加えて第1の液をつくり、当該第1の液の中で、酵母菌の発酵によって前記糖化物からエタノールをつくり、当該第1の液の中にエタノールができたら、当該第1の液を、エタノールを含有する第2の液と、酵母菌及び発酵後に残る第1の残渣物を含有する第3の液と、に分ける第2の工程と、
前記第2の液からエタノールを蒸留する第3の工程と、を有することを特徴とする畜糞処理方法。
【請求項2】
前記畜糞にセルロース及びリグニンが含まれていることを特徴とする請求項1に記載の畜糞処理方法。
【請求項3】
前記第1の工程において、前記畜糞にウォラストナイトを加えてから濃硫酸を加えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の畜糞処理方法。
【請求項4】
前記第3の液から取り出した前記第1の残渣物に、亜鉛、マンガン、モリブデン、マグネシウム、銅、及び、鉄のうちの少なくともひとつをミネラル成分として加える第4の工程を有することを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の畜糞処理方法。
【請求項5】
前記第2の液からエタノールを蒸留した後に残る第2の残渣物を焼却して焼却灰をつくる第5の工程を有し、
前記第4の工程において、前記第1の残渣物に、前記ミネラル成分とともに前記焼却灰を加えることを特徴とする請求項4に記載の畜糞処理方法。
【請求項6】
前記第3の液から前記第1の残渣物を取り出した後に残る第4の液に、硫化アンモニウムを加え、硫化アンモニウムを加えた当該第4の液を前記第2の工程に送る第6の工程を有し、
前記第2の工程において、前記第6の工程から送られてくる前記第4の液に前記糖化物を加えて前記第1の液をつくることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の畜糞処理方法。
【請求項7】
前記第6の工程において、前記第4の液に、硫化アンモニウムとともに酵母菌を加えることを特徴とする請求項6に記載の畜糞処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−87462(P2011−87462A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294(P2008−294)
【出願日】平成20年1月7日(2008.1.7)
【出願人】(503062378)
【Fターム(参考)】