説明

畜肉タンパク質由来の血圧降下ペプチド

【課題】 食品の中で重要な位置づけをされている食肉から血圧降下作用あるいはアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有する新規なペプチド類及びこれらペプチド類を有効成分として含む医薬用組成物を提供すること。
【解決手段】食肉タンパク質あるいは食肉の主要タンパク質であるミオシン又はアクチンをアマノS(商品名)等のプロテアーゼの作用により加水分解し、Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、 Ile-Lys-Ileの構造をもつペンタペプチド、およびトリペプチドを含むペプチド組成物を得る。これらのペプチドはアンジオテンシンI変換酵素阻害活性および血圧降下作用を有し、アンジオテンシンI変換酵素阻害剤として用いることができ、また、安全性が高く、高血圧症の予防や症状改善用の食品に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食肉(畜肉)タンパク質をプロテアーゼで分解することにより生成する、アンジオテンシンI変換酵素の活性を阻害するペプチド、及びそれらペプチド又はその塩を有効成分として含有する、アンジオテンシンI変換酵素に起因する高血圧等の疾患の予防及び/又は症状改善用などの医薬用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症の発症に深く関わっている生体内の系としてレニン−アンジオテンシン系が知られており、この系の重要な構成要素であるアンジオテンシンI変換酵素はアンジオテンシンIに作用し、血圧上昇作用をもつアンジオテンシンIIを生成し、また、アンジオテンシンI変換酵素は降圧作用を有するペプチドであるブラジキニンを分解する作用をも有する。すなわち、アンジオテンシンI変換酵素は昇圧性ペプチドの生成と、降圧性ペプチドの分解という二つの作用により血圧上昇をもたらす。したがって、アンジオテンシンI変換酵素のこのような作用により高血圧症が発症している場合、アンジオテンシンI変換酵素の活性を阻害することにより、血圧上昇を抑制することができる。さらに、近年、アンジオテンシンI変換酵素阻害物質は、心不全の治療薬など、血圧降下剤以外の用途でも注目されている。
【0003】
アンジオテンシンI変換酵素の阻害物質として、天然物では毒蛇由来のペプチド、化学合成物質ではカプトプリルなどが見い出されている。また近年、医薬品に対する安全性や食品に対する機能性への関心の高まりなどを背景として、食品や食品原料由来のアンジオテンシンI変換酵素阻害物質が注目されている。特に食品タンパク質の分解により生成するペプチド性のアンジオテンシンI変換酵素阻害物質の検索が数多く行われている。このようなものの例として、牛乳カゼイン、大豆タンパク質、トウモロコシタンパク質、鰯肉タンパク質などのプロテアーゼ分解により生成するペプチドを挙げることができる(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。また、豚肉や牛肉といった畜肉あるいは畜肉に含まれるタンパク質からこのようなペプチドを得た例も知られている(例えば、特許文献6、特許文献7参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−283173号公報
【特許文献2】特開平8−269087号公報
【特許文献3】特開平8−99994号公報
【特許文献4】特開平6−87886号公報
【特許文献5】特開平7−188282号公報
【特許文献6】特許第3651878号公報
【特許文献7】特開2004−217588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、食品の中で重要な位置づけをされている食肉から血圧降下作用あるいはアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有する新規なペプチド類及びこれらペプチド類を有効成分として含む医薬用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、食肉タンパク質であるミオシン又はアクチンから、プロテアーゼの作用により生成するペンタペプチドである配列番号1で示される(Ile-Arg-Val-Val-Glu)やトリペプチドである配列番号2で示される(Val-Trp-Ile)、配列番号3で示される(Val-Gly-Arg)、配列番号4で示される(Ile-Lys-Ile)が、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性や血圧降下作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、(1)Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ileのいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩や、(2)ミオシン又はアクチンあるいはミオシン又はアクチンを含む原料をプロテアーゼ処理することを特徴とする、Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ileのいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの製造方法や、(3)ミオシン又はアクチンを含む原料が、畜肉の筋原繊維構成タンパク質であることを特徴とする前記(2)記載のペプチドの製造方法や、(4)プロテアーゼが、プロテアーゼS「アマノ」G(商品名)、プロテアーゼN「アマノ」G(商品名)、ブロメラインF(商品名)、パパインW−40(商品名)、ニューラーゼF3G(商品名)、プロレザーFG−F(商品名)、パンクレアチンF(商品名)、ペプチダーゼR(商品名)、プロテアーゼP「アマノ」3G(商品名)、プロテアーゼA「アマノ」G(商品名)、プロテアーゼM「アマノ」G(商品名)及びウマミザイムG(商品名)から選ばれる1種又は2種以上のプロテアーゼであることを特徴とする前記(2)又は(3)記載のペプチドの製造方法に関する。
【0008】
また本発明は、(5)Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ileのいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドまたはその塩を有効成分とする医薬用組成物や、(6)アンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善剤であることを特徴とする前記(5)記載の医薬用組成物や、(7)Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ileのいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドまたはその塩からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害剤や、(8)Ile-Arg-Val-Val-Glu、Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ileのいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドまたはその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善用食品に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、食肉を原料とすることにより、血圧降下作用等の機能性を有するペプチドを低コストで得ることができる。また本発明のペプチドは、食肉由来のペプチドであることから、安全性が高く、医薬用組成物として利用しうるばかりでなく、血圧降下作用等を有する付加価値の高い機能性食品を作る素材としても有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドとしては、配列表の配列番号1(Ile-Arg-Val-Val-Glu)、配列番号2(Val-Trp-Ile)、配列番号3(Val-Gly-Arg)、配列番号4(Ile-Lys-Ile)に示されるアミノ酸配列からなり、かつアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有する、常温において白色等の粉末であるペプチドを具体的に例示することができる。
【0011】
本発明においてペプチドの塩としては、薬理学上許容される塩であれば特に制限されるものではなく、本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、クエン酸塩などの塩類を例示することができる。また、かかる本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの製法としては、食肉あるいは食肉タンパク質のプロテアーゼ分解物から分離・精製する方法と、アミノ酸の配列情報に基づき、化学的に合成する方法を挙げることができる。
【0012】
プロテアーゼを用いるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの製法における原料としては、本発明の配列番号1〜4で示される1種のペンタペプチド及び3種のトリペプチドが筋原線維を構成するタンパク質であるミオシン又はアクチンのアミノ酸配列の一部であることからして、ミオシン又はアクチンあるいはミオシン又はアクチンを含む原料が用いられる。かかるミオシン又はアクチンとしては、精製品の他、未精製のミオシンやアクチン、アクトミオシンを例示することができ、また、かかるミオシン又はアクチンを含む原料としては、肉塊、挽肉、残肉、屑肉、筋肉等のミオシンを4〜5%、アクチンを1〜2%含む食肉(畜肉)や、かかる食肉から得られる筋肉由来の水不溶性タンパク質等のミオシンを45〜60%、アクチンを15〜22%含む筋原繊維構成タンパク質などを例示することができ、これらミオシンやアクチン、食肉の種類・由来等は特に制限されるものではない。また、プロテアーゼとしては、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の強いペプチド溶液を得ることができるものであれば特に制限されるものではないが、プロテアーゼS「アマノ」G(天野エンザイム社製)やプロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム社製)、ブロメラインF(天野エンザイム社製)、パパインW−40(天野エンザイム社製)、ニューラーゼF3G(天野エンザイム社製)、プロレザーFG−F(天野エンザイム社製)、パンクレアチンF、ペプチダーゼR(天野エンザイム社製)、プロテアーゼP「アマノ」3G(天野エンザイム社製)、プロテアーゼA「アマノ」G(天野エンザイム社製)、プロテアーゼM「アマノ」G(天野エンザイム社製)、ウマミザイムG(天野エンザイム社製)として例示することができる。
【0013】
プロテアーゼによるミオシン又はアクチンを含むタンパク質の分解は、例えば、ミオシン又はアクチンあるいはミオシン又はアクチンを含む原料を水あるいは適当な緩衝液(例えばリン酸緩衝液)に、ミオシン又はアクチン濃度が0.01〜10%、好ましくは0.1〜3.0%程度の濃度になるよう懸濁し、この溶液にプロテアーゼを0.01〜10g/L、好ましくは0.05〜2g/L程度の濃度で添加することにより行われ、酵素反応条件としてはプロテアーゼが作用しうる条件であれば特に制限されないが、例えば用いるプロテアーゼの至適pH付近で、37℃で12〜18時間程度の酵素処理条件を例示することができる。また、プロテアーゼによる分解反応は、加熱、無機酸や有機酸の添加、限外濾過によるプロテアーゼ除去など、一般によく知られている方法のいずれかにより停止することができる。反応停止後の分解液は、濾過あるいは遠心分離により不溶物を除去し、得られた濾液(タンパク質分解溶液)は、ミオシン又はアクチンの分解により生成したペプチドを含み、この溶液から目的とするペプチドを逆相高速液体クロマトグラフィー等により精製することができる。また、濾液は必要に応じて、凍結乾燥や減圧乾燥により濃縮することができる。
【0014】
他方、化学的合成法によるペプチドの製法は液相法と固相法に大別され、最近のペプチドシンセサイザーの普及により固相法による合成が一般化しつつあるものの、いずれの方法においても常法により本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドを調製することができる。固相法によるペプチドの製造は、例えばアプライドバイオシステムズ社製ペプチド合成装置モデル430A装置を用い、ポリマー性の固相支持体へ合成しようとするペプチドのカルボキシル末端側からL体アミノ酸を順次ペプチド結合により延長させて目的とするペプチド鎖を合成した後、トリフルオロメタンスルホン酸などを用いて固相支持体から切り出し、次いで、アミノ酸側鎖の保護基を取り除き、逆相高速クロマトグラフィーなどの方法で精製し、目的とするペプチドを得ることにより行うことができる。
【0015】
本発明の医薬用組成物としては、上記本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩を有効成分として含有するものであれば特に制限されるものではなく、本発明のペプチド又はその塩の有する薬理作用の対象となる疾病、例えば高血圧症、心不全等のアンジオテンシンI変換酵素に起因する疾病に対する予防及び/又は症状改善剤を例示することができる。かかる本発明のペプチド及び/又はその塩と他の成分又は素材との混合物からなる薬理用組成物として、より具体的には、本発明のペプチド又はその塩に賦形剤を配合した高血圧症治療薬を例示することができる。
【0016】
本発明のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩は、アンジオテンシンI変換酵素阻害剤として用いることができるほか、アンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善用食品として用いることができる。ここで、「アンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善用食品」とは、アンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患、例えば高血圧症の予防及び/又は症状改善に用いることができる旨の表示等の特定用途が明らかにされている食品や食品素材をいう。
【0017】
このような本発明のペプチド又はその塩を含有する食品(素材)は、肉塊や残肉・屑肉を原料として安価かつ大量に調製することができる。例えば、肉塊を原料とする場合、肉塊より脂肪組織及び結合組織を除去したものをグラインドし、得られた挽肉にほぼ4倍量の水と適量のプロテアーゼを添加し、サイレントカッター等で攪拌し、50℃で24時間反応させて本発明のペプチドを生成せしめた後、98℃で10分間加熱して、プロテアーゼを失活させ、次いで必要に応じて濾過・精製することにより、本発明のペプチドを含有する食品素材を調製することができる。また、残肉・屑肉を原料とする場合、まずこれら残肉・屑肉をグラインドし、得られた挽肉に塩溶液(例えば0.5M NaCl溶液)を加え、サイレントカッター等で攪拌して、ミオシン、アクチン等の塩溶性タンパク質を抽出した後、遠心分離あるいは濾過により不溶物を除去し、抽出溶液に4〜5倍量の水を加えて塩濃度を低下せしめることにより、ミオシン、アクチン等の塩溶性タンパク質を析出させ、遠心分離あるいは濾過により不溶物として回収した不溶性のタンパク質に対して、以下上記肉塊の場合と同様に、プロテアーゼ処理等を行うことにより、本発明のペプチドを含有する食品素材を調製することができる。
【0018】
このように調製した食品素材を直接食品として食してもよいが、他の食品に添加混合することもできる。かかる食品としては、コーヒー、紅茶、煎茶、ヨーグルト、ジュース、牛乳、豆乳、スポーツ飲料等の各種飲料や、パン、ケーキ、ゼリー、饅頭、チューインガム等のパン・菓子類や、うどん、そば等の麺類や、かまぼこ、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品や、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味類や、豆腐、こんにゃく、その他の各種総菜を例示することができる。
【0019】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、特に断らない限り、実施例中に示された“%”は重量%を表す。
【実施例1】
【0020】
[アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの単離]
(豚骨格筋からのペプチドの生成)
豚骨格筋(大腿二頭筋)を細切し、脂肪や結合組織をできるだけ取り除いたもの100gに蒸留水400mLを加え、ほぼ均一になるまでホモジナイズした。プロテアーゼとしては12種類(天野エンザイム社製)、すなわちプロテアーゼS「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、ブロメラインF、パパインW−40、ニューラーゼF3G、プロレザーFG−F、パンクレアチンF、ペプチダーゼR、プロテアーゼP「アマノ」3G、プロテアーゼA「アマノ」G、プロテアーゼM「アマノ」G及びウマミザイムGをそれぞれ単独に用いた。上記豚骨格筋ホモジネートに上記プロテアーゼの1種を1g添加して溶解させた後、50℃で24時間反応させ、ペプチドを生成させた。反応終了後、溶液を98℃で10分間加熱して、プロテアーゼを失活させた。遠心分離により大部分の不溶物を取り除き、さらにメンブランフィルターを通し、微細な粒子を除去し、12種類のペプチド溶液を得た。アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定には、かかるペプチド溶液を蒸留水で10倍希釈した12種類の試料溶液を用いた。
【0021】
(アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定方法)
アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定は、合成基質である馬尿酸−L−ヒスチジル−ロイシン(SIGMA社製)を用いてアンジオテンシンI変換酵素が基質の末端ジペプチドのL−ヒスチジル−L−ロイシンを選択的に切断することを利用して、遊離する馬尿酸を抽出し、比色する方法で実施した。試験管に測定しようとする試料溶液(ペプチド溶液)を0.015mL入れ、これに0.125mLの基質溶液(608mM食塩を含む0.1Mホウ酸緩衝液pH8.3を用いて7.6mMになるように馬尿酸−L−ヒスチジル−ロイシンを溶解させたもの)を添加し、37℃で5分間保温した。その後、0.05mLの酵素溶液(SIGMA社製アンジオテンシンI変換酵素を蒸留水に50単位/mLになるように溶解させたもの)を添加し、37℃で30分間反応させた。1N塩酸0.125mLを添加して反応を停止させた後、酢酸エチル0.75mLを加え、酢酸エチル中に抽出された馬尿酸を228nmの吸光度を測定することにより定量した。かかる試料溶液の吸光度を“S”、試料溶液に代えて同量の蒸留水を用いた対照の吸光度を“B”、反応開始前の吸光度を“C”とし、アンジオテンシンI変換酵素阻害率を次式により算出した。
阻害率(%)=(B−S)÷(B−C)×100
【0022】
(アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定結果)
豚骨格筋を各種プロテアーゼで分解して調製した前記12種類の試料溶液のアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を表1に示す。豚骨格筋にプロテアーゼS「アマノ」G、プロテアーゼN「アマノ」G、ブロメラインF、パパインW−40を作用させた試料溶液が70%以上の阻害活性を有していた。
【0023】
【表1】

【0024】
(アンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの精製)
上記豚骨格筋のプロテアーゼS「アマノ」G分解物50gに80%エタノール1Lを加えて撹拌し、ろ過により得られたろ液を減圧濃縮後、凍結乾燥した。凍結乾燥物を蒸留水100mLに溶解し、Wakosil40C18樹脂(和光純薬工業社製)200mLを加えて撹拌した。ろ過により樹脂を回収し、50%メタノールを用いて樹脂に吸着しているペプチドを溶出した。この時、得られたペプチドは3.59gだった。このペプチドからのアンジオテンシンI変換酵素阻害ペプチドの精製はカラムに資生堂製CAPCELL PAK C18 UG120 4.6×150mmを用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより行った。
【0025】
(ペプチドの構造決定)
精製したペプチドのアミノ酸配列は、自動エドマン分解法(気相法)によるN末端アミノ酸分析により決定した。自動分析装置としてアブライドバイオシステムズ社製プロテインシークエンサーモデル470Aを利用した。操作は製品マニュアルの記載に従って行い、試薬類はすべてアブライドバイオシステムズ社指定のものを用いた。豚骨格筋のプロテアーゼS「アマノ」G分解物を試料として溶出液A(0.1%トリフルオロ酢酸を含む蒸留水)から溶出液B(0.1%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系による酸性溶出液を用いた逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際に得られたクロマトグラムを図1に示す。溶出液を10分間隔で採取し、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を測定した結果、20〜30分の画分に最も高い活性が認められた。
【0026】
次に、この画分を溶出液C(0.015%アンモニアを含む蒸留水)から溶出液D(0.015%アンモニアを含むアセトニトリル)への直線濃度勾配系によるアルカリ性溶出液を用いた逆相高速クロマトグラフィーにより分画した。溶出液を4分間隔で採取し、アンジオテンシンI変換酵素阻害活性を測定した結果、12〜16分の画分に最も高い活性が認められた。この画分を再度、同条件で高速液体クロマトグラフィーに供した際のクロマトグラムを図2に示す。20分付近(A)及び35分付近(B)の矢印をつけた2本のピークの部分に高いアンジオテンシンI変換酵素阻害活性が検出された。それぞれの画分を再び酸性条件で高速液体クロマトグラフィーに供したところ、矢印を付けた4本の単一のピーク (1)〜(4)が得られた(図3及び4)。上記酸性及びアルカリ性溶出液を用いた逆相高速液体クロマトグラフィーにより、それぞれのペプチドは単一成分に精製された。
【0027】
精製した4種のペプチドの構造解析を行ったところ、1種のペンタペプチド及び3種のトリペプチドであった。これらの構造は以下のとおりである。
(1) Val-Trp-Ile (図3のピーク(1)由来)
(2) Ile-Arg-Val-Val-Glu (図4のピーク(2)由来)
(3) Val-Gly-Arg (図4のピーク(3)由来)
(4) Ile-Lys-Ile (図4のピーク(4)由来)
これらのアミノ酸配列をデータベース(UniProt)を利用して検索したところ、いずれも筋肉の速筋型ミオシン重鎖又はα−アクチン内に存在する配列に一致するものであった。Val-Trp-Ileは豚α−アクチン(341〜343残基目)、Ile-Arg-Val-Val-Gluは豚ミオシン重鎖(1593〜1597残基目)、Val-Gly-Argは豚α−アクチン(37〜39残基目)、Ile-Lys-Ileは豚α−アクチン(329〜331残基目)にそれぞれ一致した。なお、アミノ酸残基の数字はいずれもN末端側からのものである。
【実施例2】
【0028】
[ペンタペプチド等の化学合成]
(化学合成法)
1種のペンタペプチド(Ile-Arg-Val-Val-Glu)及び3種のトリペプチド(Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg、Ile-Lys-Ile)の化学合成はアブライドバイオシステムズ社製ペプチド合成装置モデル430Aを用い、製品マニュアルの記載に従って行った。試薬類はすべてアブライドバイオシステムズ社指定のものを使用した。ペプチド鎖を合成した後、トリフルオロメタンスルホン酸により、固相支持体から切り出した。次いで、アミノ酸側鎖の保護基を取り除き、逆相高速クロマトグラフィーにより、目的とする1種のペンタペプチドと3種のトリペプチドを精製した。なお、高速液体クロマトグラフィーは、前記実施例1の酸性溶出液を利用した条件で行った。
【0029】
(化学合成ペプチドのアンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定)
アンジオテンシンI変換酵素阻害活性の測定は、前記実施例1記載の方法と同様にして行った。また、阻害率50%のときのペプチド濃度をIC50値とした。化学合成により調製した1種のペンタペプチドと3種のトリペプチドの分子量とアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を表2に示す。合成したペプチドの質量分析計(FAB−MAS)により測定した分子量の値は、化学構造から算出した値にほぼ一致しており、目的ペプチドの合成が問題なく行われたものと判断した。アンジオテンシンI変換酵素阻害活性は、トリペプチドVal-Trp-Ileで最も高かった。
【0030】
【表2】

【0031】
(化学合成ペプチド等の血圧降下作用)
上記1種のペンタペプチド及び3種のトリペプチドの血圧降下作用について、自然発症高血圧ラットを用いて調べた。これら合成ペプチドをそれぞれ自然発症高血圧ラット(日本チャールズリバー社、1群6匹、9〜12週齢、雄)に胃ゾンデを用いて強制投与した。ペプチド投与量はラット体重1kgあたり1mgとし、投与容量は1匹あたり1mLとした。なお、蒸留水を経口投与したものを対照とした。胃ゾンデによる投与を行ってから6時間後の尾動脈における最高血圧値を測定し、投与直前の最高血圧値を減じた値を算出し、変動値(血圧降下値)とした。血圧測定は非観血式血圧測定装置(ソフトロン社製、BP−98A)を用い、テイル・カフ(tail-cuff)法により行った。結果を表3に示す。いずれの試料においても、投与6時間後に血圧降下が測定されたが、これらのうち、2種のトリペプチド(Val-Trp-Ile、Val-Gly-Arg)は有意(P<0.05、又はP<0.01)な血圧降下が認められた。また、同様に5匹の自然発症高血圧ラットに、豚骨格筋のプロテアーゼS「アマノ」G(天野エンザイム社製)分解物をラット体重1kgあたり8mg投与した。結果を表4に示す。表4に示すように、有意(P<0.05)な血圧降下が認められた。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】豚骨格筋のプロテアーゼS「アマノ」G分解物を試料として酸性溶出液を用いて逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図2】図1に示される活性画分をアルカリ性溶出液を用いて逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際のクロマトグラムを示す図である。
【図3】図2に示される活性画分(A)を酸性溶出液を用いて逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際のクロマトグラムを示す図である。
【図4】図2に示される活性画分(B)を酸性溶出液を用いて逆相高速液体クロマトグラフィーを行った際のクロマトグラムを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)〜(4)のいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩。
(1) Ile-Arg-Val-Val-Glu
(2) Val-Trp-Ile
(3) Val-Gly-Arg
(4) Ile-Lys-Ile
【請求項2】
ミオシン又はアクチンあるいはミオシン又はアクチンを含む原料をプロテアーゼ処理することを特徴とする、下記(1)〜(4)のいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチドの製造方法。
(1) Ile-Arg-Val-Val-Glu
(2) Val-Trp-Ile
(3) Val-Gly-Arg
(4) Ile-Lys-Ile
【請求項3】
ミオシン又はアクチンを含む原料が、畜肉の筋原繊維構成タンパク質であることを特徴とする請求項2記載のペプチドの製造方法。
【請求項4】
プロテアーゼが、プロテアーゼS「アマノ」G(商品名)、プロテアーゼN「アマノ」G(商品名)、ブロメラインF(商品名)、パパインW−40(商品名)、ニューラーゼF3G(商品名)、プロレザーFG−F(商品名)、パンクレアチンF(商品名)、ペプチダーゼR(商品名)、プロテアーゼP「アマノ」3G(商品名)、プロテアーゼA「アマノ」G(商品名)、プロテアーゼM「アマノ」G(商品名)及びウマミザイムG(商品名)から選ばれる1種又は2種以上のプロテアーゼであることを特徴とする請求項2又は3記載のペプチドの製造方法。
【請求項5】
下記(1)〜(4)のいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩を有効成分とする医薬用組成物。
(1) Ile-Arg-Val-Val-Glu
(2) Val-Trp-Ile
(3) Val-Gly-Arg
(4) Ile-Lys-Ile
【請求項6】
アンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善用剤であることを特徴とする請求項5記載の医薬用組成物。
【請求項7】
下記(1)〜(4)のいずれかで表されるI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩からなるアンジオテンシンI変換酵素阻害剤。
(1) Ile-Arg-Val-Val-Glu
(2) Val-Trp-Ile
(3) Val-Gly-Arg
(4) Ile-Lys-Ile
【請求項8】
下記(1)〜(4)のいずれかで表されるアンジオテンシンI変換酵素阻害活性を有するペプチド又はその塩を有効成分として含有するアンジオテンシンI変換酵素に起因する疾患の予防及び/又は症状改善用食品。
(1) Ile-Arg-Val-Val-Glu
(2) Val-Trp-Ile
(3) Val-Gly-Arg
(4) Ile-Lys-Ile

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−347937(P2006−347937A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175085(P2005−175085)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000113067)プリマハム株式会社 (72)
【Fターム(参考)】