説明

畜舎用消毒剤

【課題】作業者が火傷を負うおそれが無く、動力噴霧も可能で、持続的な殺菌効果を有する畜舎用消毒剤を提供する。
【解決手段】水酸化カルシウムを60.00〜80.00wt%、水酸化マグネシウムを20.00〜40.00wt%含み、全体の99.8%以上が、粒径150μm以下のかつ65μm以上粒子で構成された畜舎用消毒剤。又は水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの合計が、全体の90.00wt%以上である前記の畜舎用消毒剤。若しくは全体の92.3%以上が、粒径90μm以下の粒子で構成された前記の畜舎用消毒剤とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、畜舎等の消毒に用いられる消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、口蹄疫や鳥インフルエンザなどの家畜の伝染病や疾病が問題になっている。これらの病気の発生を防止するためには、感染源を無くし、感染経路を断つことが必要である。感染源を無くし、感染経路を絶つ方法としては、畜舎の消毒が効果的である。
【0003】
従来、畜舎の消毒には、塩素系複合消毒薬や逆性石けん等の消毒薬が用いられてきた。しかしながら、これらの消毒剤は、持続的な消毒効果を有しないので、これらの消毒薬の散布の後、仕上げに生石灰を水と反応させた石灰乳を畜舎に塗布、散布することが推奨されていた。石灰乳の塗布により持続的な殺菌効果が期待できるからである。
【0004】
生石灰を含んだ消毒剤としては、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された衛生処理剤は、比表面積が、0.05〜0.5m2/gの範囲にある生石灰粉末を有効成分とし、これに生石灰の1〜5重量%の脂肪酸を混合してなることを特徴にしている。これにより、散布時に粉塵が飛散せず、火災に至るような局部的な高温を招くおそれが無いとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−69136
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された衛生処理剤のように、生石灰を主成分とする従来の消毒剤は、水と反応させて石灰乳を調製する際にかなりの熱が発生するので、作業が困難であり、作業者が火傷を負うおそれがあるという問題があった。
【0007】
また、石灰乳は、消毒薬のように動力噴霧をすることが困難なので、広い畜舎に散布するためには多大な労力が必要であった。これらの理由のため、推奨されながらも石灰乳の塗布は、あまり実施されていなかった。
【0008】
さらにまた、畜舎等においては強い臭いを生じることから、近隣の居住者との関係における生活上の問題が生ずる場合もある
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、作業者が火傷を負うおそれが無く、動力噴霧も可能で、持続的な殺菌効果を有し、また、粒径を特定の範囲内に限定することで、多孔性物質による吸着効果を利用して、畜舎等特有の問題である消臭効果にも資する畜舎用消毒剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は、以下の各発明により解決されるものである。
即ち、本発明の畜舎用消毒剤は、水酸化カルシウムを60.00〜80.00wt%、水酸化マグネシウムを20.00〜40.00wt%含み、全体の99.8%以上が、粒径150μm以下の粒子で構成されたことを主要な特徴にしている。
これにより、酸化カルシウムを含んでいないので、水との反応により大量の熱を発生することがないため、作業者がやけどを負う恐れがない。また、粒径が小さい粒子で構成されているので、動力噴霧が可能になり、作業性が極めて良いものになる。更にまた、散布後に固化してその場に滞留するので、殺菌力が持続する。
【0011】
また、本発明の畜舎用消毒剤は、水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの合計が、全体の90.00wt%以上であることを主要な特徴にしている。

これにより、発熱が更に少なくなり、殺菌力も高くなる。
【0012】
更に、本発明の畜舎用消毒剤は、全体の92.3%以上が、粒径90μm以下の粒子で構成されたことを主要な特徴にしている。

これにより、動力噴霧において噴霧器に目詰まりすることが更に少なくなり、動力噴霧が更に容易になる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の畜舎用消毒剤は、作業者が火傷を負うおそれが無く畜舎に散布可能である。
【0014】
また、本発明の本発明の畜舎用消毒剤は、粒径を特定の範囲内に限定したことにより、多孔性物質による吸着効果を利用して、畜舎等特有の消臭効果が高いという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の畜舎用消毒剤の製造方法の一実施形態を示したフロー図である。
【図2】本発明の畜舎用消毒剤の組成を示した表である。
【図3】従来消毒薬との評価検証結果を示す表である。
【図4】牛舎の各部分の消毒前後菌数を表した表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。ここで、“ 〜 ”を用いて数値範囲を示した場合は、その上限、下限とも範囲の中に含むものである。
【0017】
<畜舎用消毒剤の製造方法>

図1は、本発明の畜舎用消毒剤(以下、ドロマイト系消毒剤と称する場合もある。)の製造方法の一実施形態を示したフロー図である。図1に示すように、採鉱場からドロマイト鉱を採鉱し(ステップS1)、採鉱したドロマイト鉱を50〜90mmのサイズになるように破砕する(ステップS2)。
【0018】
次に、メルツ炉にて破砕したドロマイト鉱の焼成を行う(ステップS3)。焼成されたものと水を反応させる消化を行い(ステップS4)、時間をかけてステップS4の消化を完全に行わせる熟成(ステップS5)を実施する。

熟成が完了したものに対して、所定のサイズになるように調整を行う(ステップS6)。
【0019】
<畜舎用消毒剤の組成>

次に、図1で示される上述の製造方法で製造された本発明の畜舎用消毒剤の組成について図2を参照して説明する。図2は、本発明の畜舎用消毒剤の組成を示した表である。
【0020】
図2に示すように、本発明の畜舎用消毒剤は、その主成分であるCa(OH)2が60.00〜80.00wt%、Mg(OH)2が20.00〜40.00wt%含まれている。ここで、Ca(OH)2とMg(OH)2を合計すると全体の約90.00wt%以上になることが好ましい。
【0021】
本発明者は、鋭意研究により、本発明の畜舎用消毒剤は、Ca(OH)2とMg(OH)2とを上記組成で含むとき、持続生成のある強力な殺菌効果と、水と混合させたときに発熱を抑え作業性が向上する効果とを有することを見いだした。
【0022】
また、本発明の畜舎用消毒剤は、粒径が600μm以上の粒子を含まないことが好ましい。また、150μm以下の粒子を99.8%以上含むことが好ましく、90μm以下の粒子を92.3%以上含むことが更に好ましい。これにより、動力噴霧が可能になり、畜舎に散布する作業性が大幅に向上する。
【0023】
更に、本発明者は、本発明の畜舎用消毒剤の粒径が65μm未満であると、畜舎の悪臭、汚臭を吸着、消臭する能力が急激に低下するも発見した。よって、本発明の畜舎用消毒剤の粒径、65μm以上であることが好ましい。
【0024】
<試験>

次に殺菌効果についての試験およびその結果について説明する。この試験は、本発明のドロマイト系消毒剤および、本発明と比較するための塩素系複合消毒剤と、逆性石けんとを用いて、サルモネラ(Salmonella Eneritidis’以下SEと称する。)と黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus’以下SAと称する。)に対する消毒効果の比較検証を行ったものである。
【0025】
本発明の消毒剤であるドロマイト系消毒剤(実施例1)は1:2〜1:4、塩素系複合消毒剤(比較例1)および逆性石けん(比較例2)は1:500〜1:2,000に希釈して使用した。この希釈倍率は、通常の畜舎消毒に用いられる希釈倍率である。
【0026】
(1)供試細菌

供試細菌として以下のものを使用した。

SE:ハートインフュージョン液体培地18時間培養液(6.0×107CFU/ml)

SA:ハートインフュージョン液体培地18時間培養液(2.2×109CFU/ml)
【0027】
(2)試験方法

実施例1、比較例1、2の各希釈液5mlに菌液500mlを加え、24℃で30分感作させたあと、ハートインフュージョン液体培地5mlに一白金耳接種を行った。37℃で48時間培養後、菌増殖の有無で効果を判定した。
【0028】
(3)試験結果

図3に試験結果を示す。図3は、従来消毒薬との評価検証結果を示す表である。図3において、「−」は菌が増殖しなかったことを示し、「+」は菌が増殖したことを示す。
【0029】
図3に示すように、本発明のドロマイト系消毒剤は、従来使用されていた塩素系複合消毒剤や逆性石けんと比較して同等以上の殺菌効果を有することが分かった。
【0030】
<散布評価>

次に、本発明のドロマイト系消毒剤の散布評価を行った。水400リットルに本発明のドロマイト系消毒剤40kgを混合し、動力噴霧器を用いて噴霧を行った。

その結果、作業に支障をきたすほどの発熱は発生せず、動力噴霧も良好に行うことができた。
【0031】
<牛舎における殺菌効果評価>

ある牛舎において、本発明の畜舎用消毒剤を塗布することによる殺菌効果の評価を行った。牛舎のコンクリート床面、金属柱、木の壁における、消毒前後の一般細菌数を測定した。その結果を図4に示す。図4は、牛舎の各部分の消毒前後菌数を表した表である。
【0032】
この図4が示すように、本発明の畜舎用消毒剤が塗布されることにより、菌がほとんど0にまで減少した。また、本発明の畜舎用消毒剤は、消毒後乾燥すると白い個体になってその位置に継続存在するので、殺菌効果は、消毒剤が存在する限り継続すると考えられる。
【0033】
以上説明したように、本発明のドロマイト系消毒剤は、従来の消毒剤と同等以上の殺菌力を有し、かつ、水と混合時にもあまり発熱しないので作業者がやけどをする危険がなく、更に、動力噴霧可能なので作業性が極めて良いものである。
【産業上の利用可能性】
【0034】
近年においては、鳥及び豚インフルエンザや口蹄疫、抗生物質の効かない多剤耐性菌問題などについての危機感が高まっている。このような危機感は日本に限られているものではなく、世界的な規模で問題視されているものである。焼成ドロマイトは、微生物に対する抗菌性及び抗ウイルス性が認められていることから、本発明の畜舎用消毒剤は、畜舎等の消毒剤として使用する用途のみならず、例えば、湿式建築仕上げ資材等に含有させることで、健康建材やシックハウスシンドローム対策資材等にも利用できるなど、他分野でもその産業上利用可能性は高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
畜舎の消毒に用いられる畜舎用消毒剤であって、
水酸化カルシウムを60.00〜80.00wt%、水酸化マグネシウムを20.00〜40.00wt%含み、
全体の99.8%以上が、粒径150μm以下かつ65μm以上の粒子で構成されたことを特徴とする畜舎用消毒剤。
【請求項2】
水酸化カルシウムと水酸化マグネシウムの合計が、全体の90.00wt%以上であることを特徴とする請求項1に記載の畜舎用消毒剤。
【請求項3】
全体の92.3%以上が、粒径90μm以下の粒子で構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の畜舎用消毒剤。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−171898(P2012−171898A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34028(P2011−34028)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(501255815)田源石灰工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】