異常な細胞膜生理学およびウイルス膜生理学における活性な生物学的物質の使用

【課題】ヒトおよび哺乳動物生物における異常な細胞膜生理学およびウイルス膜生理学におけるポリペプチドの使用。
【解決手段】診断および/または治療での様々な特性を有し、血管を介した固形腫瘍への供給を停止させるための作用因としての、また、ウイルスが感染した細胞を殺すための作用因としての、また、乱れた脂質非対称性を有する腫瘍細胞を殺すための作用因としての、ヒストン、共有結合により修飾されたヒストン、ヒストン様ポリペプチド、生物学的活性ヒストン配列およびヒストン様ポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常な細胞膜生理学およびウイルス膜生理学における医療目的のための活性な生物学的物質の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
真核細胞膜は、タンパク質、炭水化物、および、特に、脂質(主にコレステロール、また同様に、リン脂質およびスフィンゴ糖脂質)からなることが知られている。
【0003】
そのようなリン脂質は、スフィンゴミエリン(SM)からなり、また、リン脂質のホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)およびホスファチジルセリン(PS)からなることが知られている。少量の他のリン脂質もまた存在する。
【0004】
これらの細胞膜構成単位の量的比率はヒトにおいて異なり、また、様々な哺乳動物種において異なる。
【0005】
細胞膜は外層および内層からなる。細胞の調節プロセスは、それぞれのリン脂質組成をそれぞれの層において維持することを保証する。外層および内層におけるリン脂質組成は異なる。リン脂質のPEおよびPSは主に内層に存在し、一方、リン脂質のPCおよびSMは細胞膜の両方の層に存在する。外側および内側の細胞膜層におけるこのような垂直方向の脂質非対称性は、どの真核細胞でも、厳密に調節される。しかしながら、それぞれの細胞における細胞膜の調節は、外層および内層における個々の脂質成分の所定の割合が永続的に維持されることを保証し、また、正常な細胞について所定の垂直方向の脂質非対称性が乱されずに持続することを保証する種々の酵素および輸送タンパク質によって行われる。
【0006】
特に注目されるのが、正常な細胞では、リン脂質のPEおよびPSが内層において所定の割合で維持されることを永続的に保証することが可能であるような、アミノリン脂質トランスロカーゼ(APLT)による細胞膜の外層から内層へのアミノリン脂質のPEおよびPSのATP駆動輸送である。
【0007】
このことはまた、正常な血管の内皮細胞にも当てはまり、この場合、その外層により、血管壁の内側面が定められる。
【0008】
正常な細胞の環境が、病理学的に変化したものになるならば、細胞膜の二重層における所定の脂質非対称性を維持するための正常な細胞の調節システムが損なわれるかもしれない。正常な細胞(例えば、血管の正常な内皮細胞)が腫瘍細胞の近傍に位置するならば、リン脂質のPEおよびPSの細胞膜の外層から内層への絶え間ないATP駆動輸送がもはや保証されない。固形腫瘍の大きい成長速度は腫瘍における異常な代謝状況をもたらすが、この場合、そのような状況は、とりわけ、酸素不足および酸素遊離基によって引き起こされる。いくつかの要因が腫瘍細胞膜における脂質非対称性の調節異常をもたらす。この調節異常はまた、実証研究によって確認されているように、腫瘍細胞に隣接する内皮細胞にも及ぶ。
【0009】
細胞膜の層における脂質対称性の乱れを場合によりもたらすことがあるかもしれない病理学的に乱れた細胞環境に加えて、そのような乱れはまた、細胞に侵入しているウイルス(例えば、レトロウイルス)によっても引き起こされることがある。
【0010】
細胞膜の層における乱れた脂質対称性が、アニオン性の脂質成分が細胞の細胞膜の外層において相当な数で存在するときに見出される(それらは、下記では病原性であるとして示され、また、悪性の可能性を有するかもしれない)。そのようなアニオン性脂質成分は特に、ホスファチジルセリン(PS)を伴う。
【0011】
細胞膜層における病理学的に乱れた垂直方向の脂質非対称性を有するこの種の異常な細胞が、重篤な疾患において見出され得る。このような疾患の1つは、固形腫瘍を伴う疾患である。
【0012】
乱れた脂質非対称性をその細胞膜の二重層に有する病理学的な細胞は、早期診断法がないために、適切な時期に検出されないことが多く、そのために、外科的介入、その後の化学療法および/または放射線療法が、例えば、固形腫瘍に関しては、疾患が明白になった後で必要となる。そのような施術の後、患者は多くの場合、疾患の再発の危険性にさらされる。これは、必ずしもすべての病理学的な細胞を除去することができていないか、または、全別させることができていないからである。従って、冒された患者は、そのうち、ガン細胞が、残存する病原性細胞から再び発達し得る可能性があり、そのような場合、疾患の再発はもはや処置することができないことが多い。これは、疾患の最初の発生の処置に使用された種類の従来の化学療法手法および放射線手法が、疾患の再発の処置に使用されたときには失敗することが多い、または、患者の衰弱した状態のために、患者がもはや耐えることができないからである。
【0013】
しかしながら、疾患の再発は、病理学的な細胞が外見的にガン性疾患として現れ得る前に、その病理学的細胞を診断し、かつ、それらを殺すことができる活性物質により回避可能であると考えられる。
【0014】
実証研究ではまた、ウイルスが感染した真核細胞は、例えば、AIDSおよびC型肝炎では、細胞膜における病理学的に乱れた垂直方向の脂質非対称性を有することが示されている。
【0015】
細胞に感染するウイルスにはまた、ウイルスのエンベロープがその宿主細胞膜由来である、エンベロープを持つウイルスが含まれる。
【0016】
ウイルスは、様々な主要な基準(ゲノムの性質および形状、カプシドの対称性の形態、ならびに、膜外皮の存在)に従って様々なウイルス科に分類することができる。膜外皮(ウイルスエンベロープ)を伴うウイルスには、下記のウイルス科が含まれる:
フラビウイルス科
トガウイルス科
コロナウイルス科
アルテリウイルス科
ラブドウイルス科
パラミクソウイルス科
フィロウイルス科
ボルナウイルス科
オルトミクソウイルス科
ブニヤウイルス科
アレナウイルス科
レトロウイルス科
ヘパドナウイルス科
ヘルペスウイルス科
ポックスウイルス科
アスファウイルス科
【0017】
ウイルスの形態形成において、エンベロープを持つウイルスのその宿主細胞での複製プロセスの後、宿主細胞の細胞膜系の一部が、細胞膜の一部の乱れた脂質非対称性がウイルスエンベロープの中に持ち込まれるようにウイルスのウイルスエンベロープに組み込まれる。表現「異常なウイルス膜生理学」もまた、この場合に理解され得るのはこの意味においてである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
この段落以下、段落0022まで、特許文献1〜7を挙示する。
【特許文献1】欧州特許第0149486号では、診断および免疫療法のための、また、内分泌学的障害の処置のための、また、ガン治療のための、少なくとも1つのヒストンおよび/または少なくとも1つの活性ヒストン部分の使用が開示されている。
【0019】
【特許文献2】欧州特許第0392315号では、上記の先行技術が、具体的にはヒストンH1、または、その活性な部分がガン治療のために好適であることを開示することによって補足されている。
【0020】
【特許文献3】欧州特許第0438756号、および、
【特許文献4】米国特許第5780432号ではさらに、第1活性物質としての細胞増殖抑制剤と、第2活性物質としてのヒストンまたはその活性部分とからなり、これらの活性物質が一緒になって、相乗的な効果をガン治療および自己免疫疾患の処置において発揮する医薬品が開示されている。
【0021】
【特許文献5】ドイツ国特許出願公開DE19715149A1、および、
【特許文献6】国際特許出願公開WO98/46252として公開されたPCT出願では、ガン細胞(具体的には、造血系のガン細胞)の処置のための、ヒストンH1またはヒストン様タンパク質またはその活性部分に基づく治療剤であって、細胞膜抵抗性のコアヒストンまたはコアヒストン様ポリペプチドを受容体として有する治療剤が開示される。治療のためのヒストンH1活性物質はまた、組換えH1サブタイプが可能である。
【0022】
【特許文献7】欧州特許出願04011015.7(2004年5月7日)において、本発明による活性な物質を、特に、ウイルスに感染した生細胞の早期診断および/または予防的処置のために使用することが本発明者らによって既に提案されており、この場合、その効力は、細胞膜に対して、具体的には、ウイルス感染細胞のリン脂質膜(これは、ウイルス攻撃の識別子として作用するためにウイルス攻撃後に変化し、また、ウイルスが感染していない正常な細胞では、これまでは核で特定可能であったにすぎないヒストンを細胞膜に有する)に対して選択的に向けられている。
【非特許文献】
【0023】
この段落以下、段落0024まで、非特許文献1〜3を挙示する。
【非特許文献1】J.J.Killianら著、雑誌「Emerging Therapeutic Targets(1999)、3(3)、454頁〜468頁、“Cell Membrane Lipids as Experimental Therapeutic Targets”」から、また、
【非特許文献2】S.Ranら著、雑誌「Clin.Cancer Dis.2005、February 15、11(4):1551〜62、“Antitumor Effects of a Monoclonal Antibody that binds Anionic Phospholipids on the Surface of Tumor Blood Vessels in Mice”」から、アニオン性リン脂質(具体的には、ホスファチジルセリン)が、血液の供給を抑制することによって腫瘍を破壊することを目的として、マウスにおける腫瘍血管の内皮細胞においてモノクローナル抗体のための標的として役立つことが知られている。
【0024】
【非特許文献3】H.Zhao、K.J.Kinnunenら著、雑誌「Biochemistry、2004、43:10192〜1022、“Interactions of Histone H1 with Phospholipids and Comparison of its Binding to Giant Liposomes and Human Leukemic T−cells”」から、ウシのヒストンH1がリポソームおよび白血病T細胞のホスファチジルセリンに結合し、その後、これらを破壊することが知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、固形腫瘍を伴う疾患に関して、ならびに/または、ヒトおよび哺乳動物におけるウイルス疾患に関して、または、この種の潜在的疾患に関してもまた、識別子機能を有するだけでなく、同時に、ウイルスが感染した細胞について特徴的であるような、また、腫瘍細胞、および、同様に、腫瘍に供給する血管の内皮細胞の両方について、固形腫瘍において特徴的であるような乱れた脂質非対称性を有する病原性細胞を破壊するための可能性を有する細胞増殖抑制作用またはウイルス抑制作用もまた有する医学的な活性物質を利用可能にすることである。
【0026】
本発明は、病原性細胞(具体的には、固形腫瘍の細胞および/またはウイルスに感染した細胞)の膜が、膜の外層におけるアニオン性リン脂質(具体的には、ホスファチジルセリン)の増大した存在によって特徴づけられる、膜二重層における脂質成分の乱れた非対称性を有するという認識から出発する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、上記目的を達成するために提供されたものであり、
[請求項1]記載の発明は、
ヒトおよび哺乳動物生物における異常な細胞膜生理およびウイルス膜生理における活性な生物学的物質の使用であって、前記活性物質が診断および/または治療での特性を有し、かつ、
前記活性な生物学的物質の固形腫瘍への供給をその血管の内皮細胞のアポトーシスおよび膜損傷によって停止させること、または、
ウイルスが感染した細胞をアポトーシスおよび膜損傷によって全て殺すこと、
または、乱れた脂質非対称性を有する腫瘍細胞を全て殺すこと、
のための作用因として、使用される、
ヒストン、
共有結合により修飾されたポリペプチド、
ヒストンおよびヒストン様ポリペプチドの生物的活性配列
を含む物質群から選択される少なくとも1つの成分を含有するか、または、そのような少なくとも1つの成分からなる活性な生物学的物質。
および、[請求項2]記載の発明は、
固形腫瘍内の血管形成、または、固形腫瘍と接触している血管形成を阻害または抑制するための作用因としての、請求項1に記載される活性な生物学的物質、
および、[請求項3]記載の発明は、
診断目的のためのマーカー分子である蛍光基と併用される、請求項1に記載される活性な生物学的物質を提供する。
【0028】
本発明の好都合な展開が、従属請求項において、また、好都合な使用例の下記の説明において示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
固形腫瘍の細胞膜、だが、同様に、特にその増大した酸素要求を満たすために固形腫瘍に供給する血管の内皮細胞の細胞膜は、腫瘍と同様に、不完全な調節、外膜層におけるアニオン性リン脂質(具体的には、ホスファチジルセリン)の抑制に起因し得ると考えられる病理学的に乱れた膜生理学を有する。
【0030】
従って、本発明による活性物質は、固形腫瘍に供給する血管の内皮細胞に損傷を与えるために使用することができる。例えば、組換えヒトヒストンrH1.3が、本発明による活性物質として使用される。本発明はこれに限定されず、従って、他のH1サブタイプ(H1.0、H1.1、H1.2、H1.4、H1.6、H1.tおよびH1.x)およびそれらの生物学的活性部分、ならびに、コアヒストンが、活性物質として本発明に従って使用されることもまた可能である。
【0031】
活性物質としてのヒストンは、生物およびその免疫系に対する副作用を実質的に伴うことなく、例えば、10−1μM〜10−2μMの治療的用量で使用することができる。
【0032】
診断用物質としての、また、同時に、治療用物質としてのヒストンrH1.3は、固形腫瘍に罹患している患者において血流によって腫瘍の血管に運ばれる。血管において、この活性物質は、固形腫瘍内または固形腫瘍上における病理学的血管の内壁を形成する内皮細胞膜の外側を攻撃する。
【0033】
活性な物質として使用されたヒストン(H1)がホスファチジルセリン(PS)および/または内皮細の胞膜ヒストンに結合するので、H1の実質的に無秩序な構造が、α−らせん成分(両親媒性らせん)を伴う秩序のある構造H1αに変化する(これは下記に例示され得る):
H1+nPS −> H1α[PS]n
【0034】
これはH1aのm回の自己会合を生じさせ、これは下記の関係によってさらに特徴づけられ得る:
mH1α[PS]n −> {H1α[PS]n}m
【0035】
腫瘍血管の内皮細胞膜におけるヒストン(この場合、H1)の自己会合は、内皮細胞膜におけるアポトーシスおよび細孔形成をもたらし、これにより、内皮細胞の破壊がもたらされる。非常に多数の内皮細胞に対するこの継続する破壊プロセスは、最終的には、甚だしい血管損傷をもたらし、従って、固形腫瘍への酸素および栄養分の供給を減少させる。
【0036】
本発明による活性物質は、腫瘍の内部表面または内部における血管の内皮細胞膜に結合するだけでなく、ウイルス攻撃のために、その二重層に乱れた脂質非対称性を有するウイルス感染細胞膜にも結合する。
【0037】
最後に、本発明による活性物質は、ウイルスが感染する細胞で、活性物質が、もっぱらではないが、特に、体液を介して到達することができる細胞に関して新しい診断的可能性および治療的可能性を開拓する。ウイルス感染細胞の溶解は、たとえ、ウイルスがその宿主細胞から放出される前でさえ、ウイルス感染細胞が、単独あるいは細胞増殖抑制剤および/またはウイルス抑制剤との組合せで、ウイルス感染の宿主細胞を殺し、従って、ウイルスの複製を防止する本発明による活性物質について、宿主細胞の脂質二重膜の異常な脂質非対称によって特定され得ることを意味する。
【0038】
多くの場合において、10−1μM〜102μMの活性物質(例えば、rH1.3)の濃度は十分である。
【0039】
本発明による活性物質は、それだけで、また、同様に、細胞増殖抑制剤およびウイルス抑制剤のためのビヒクルとして血液/脳関門を越えるので、このこともまた、脳における疾患の処置のための、特に、脂質二重膜における異常な脂質非対称性を有する脳細胞の早期診断のための新しい診断的可能性または治療的可能性を開拓する。










【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトおよび哺乳動物生物における異常な細胞膜生理およびウイルス膜生理における活性な生物学的物質の使用であって、前記活性物質が診断および/または治療での特性を有し、かつ、
前記活性な生物学的物質の固形腫瘍への供給をその血管の内皮細胞のアポトーシスおよび膜損傷によって停止させること、または、
ウイルスが感染した細胞をアポトーシスおよび膜損傷によって全て殺すこと、
または、乱れた脂質非対称性を有する腫瘍細胞を全て殺すこと、
のための作用因として、使用される、
ヒストン、
共有結合により修飾されたポリペプチド、
ヒストンおよびヒストン様ポリペプチドの生物的活性配列
を含む物質群から選択される少なくとも1つの成分を含有するか、または、そのような少なくとも1つの成分からなる活性な生物学的物質。
【請求項2】
固形腫瘍内の血管形成、または、固形腫瘍と接触している血管形成を阻害または抑制するための作用因としての、請求項1に記載される活性な生物学的物質。
【請求項3】
診断目的のためのマーカー分子である蛍光基と併用される、請求項1に記載される活性な生物学的物質。














【公開番号】特開2013−67620(P2013−67620A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230532(P2012−230532)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2008−527335(P2008−527335)の分割
【原出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(508063842)シムビオテック ゲスエルシャフト ズアー フォースチョング ウンド エントウィックリング アウフ デム ゲビート デル ビオテクノロジー エムビーエイチ (2)
【Fターム(参考)】