説明

異常タンパク質除去用組成物

【課題】反応性が高く、生体の様々な成分を破壊する活性酸素が増加すると、生体内に酸化タンパク質、いわゆる異常タンパク質が蓄積するが、紫外線暴露などにより生体組織、特に皮膚に生じた異常タンパク質を効率的に除去する組成物を提供する。
【解決手段】シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物から選ばれる1種又は2種以上を含有する異常タンパク質除去用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常タンパク質除去用組成物およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、活性酸素による生体内の細胞や組織で見られる様々な酸化傷害が問題になっている。活性酸素は非常に反応性が高く、生体の様々な成分を破壊し、アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症、脳卒中、心筋梗塞、リウマチ、癌、胃潰瘍、皮膚におけるしわ、たるみ、くすみ、しみなどの様々な疾患に関与することが明らかになっている(非特許文献1)。活性酸素を増加させる要因として、加齢、過度の運動、紫外線暴露、精神的ストレスなどが知られている。活性酸素が増加すると、生体内に酸化タンパク質、いわゆる異常タンパク質が蓄積し、前述したような様々な疾患を引き起こす(非特許文献2)。皮膚においては、特に紫外線暴露による酸化傷害の影響が大きく、紫外線暴露により、表皮角化細胞や皮膚線維芽細胞のDNA損傷、皮膚の弾性成分であるエラスチンやコラーゲンの分解などが起こり、しわやしみの形成を促進することが知られている(非特許文献3)。
これまで、活性酸素による酸化傷害を防ぐために、抗酸化物質の摂取、適用により生体内の活性酸素を消去し、タンパク質の酸化を抑制するという試みがなされてきた。代表的な抗酸化物質として、トコフェロール類、カロテノイド類及びフラボノイド類などが知られており、これらのいくつかは食品や化粧品に配合されて利用されている。
【0003】
しかしながら、抗酸化物質の摂取、適用は、生体内で発生する活性酸素の消去には関与するが、既に蓄積している異常タンパク質の除去には全く関与しない。したがって、生体内に蓄積した異常タンパク質が関与する種々の疾病の改善をするには蓄積している異常タンパク質の除去が必須となる。
生体内の異常タンパク質を除去する酵素として、プロテアソームが知られている。プロテアソームは複雑な分子構成をした巨大な多成分複合体であり、近年その生体内における生理機能の研究が注目されている。プロテアソームは、タンパク質が立体構造を形成する過程で正常な折り畳みや分子集合に支障をきたした異常タンパク質の除去を行い、タンパク質の品質管理の役割を担うとともに、紫外線や酸化ストレスなどにより、変性や傷害を受けたタンパク質を除去することにより、ストレス応答にも密接に関係している(非特許文献4)。皮膚においては加齢とともにプロテアソーム活性が低下し、酸化コラーゲンが増加することが知られている(非特許文献5)。このように、プロテアソームは異常タンパク質を除去することにより、細胞の恒常性を維持、監視する中心的役割を担う物質である。
皮膚においては加齢とともにプロテアソーム活性が低下し、酸化コラーゲンが増加することが知られている。
【0004】
以上のようなことから、生体内のプロテアソーム活性を促進し、種々の疾病を予防および改善する組成物が開発されている。例えば、マンネンタケの抽出物を含むプロテアソーム活性促進剤(特許文献1)、特定のペプチド化合物を含むプロテアソーム作用増強剤(特許文献2)、プロテアソーム活性促進作用をもつ大豆由来サポニンを含む異常タンパク質除去用組成物(特許文献3)およびケールおよび/またはその抽出物を含むプロテアソーム活性促進用組成物(特許文献4)が開発されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−29996号公報
【特許文献2】国際公開00/04042号パンフレット
【特許文献3】特開2002−179592号公報
【特許文献4】特開2004−91398号公報
【特許文献5】特開平5−286864号公報
【特許文献6】特許第2948818号
【特許文献7】特開2000−169328号公報
【特許文献8】特開2000−169332号公報
【特許文献9】特願2002−255448号
【特許文献10】特公平5−9406号公報
【特許文献11】国際公開番号WO2004/085429
【特許文献12】特公昭63−41396号公報
【特許文献13】特開2004−115438号公報
【特許文献14】特開2004−131431号公報
【非特許文献1】老化のメカニズムと制御、藤本大三郎編著、株式会社アイピーシー、平成5年6月30日
【非特許文献2】BIO Clinica、11巻、第5号、1996年
【非特許文献3】化粧品の有用性・評価技術の進歩と将来展望、日本化粧品技術者会編、薬事日報社、2001年、共立出版社
【非特許文献4】蛋白質 核酸 酵素、第44巻、第6号、766〜775頁、1999、共立出版社
【非特許文献5】Journal of Gerontology 2000 , Vol.55 ( 5 ) , p220−227
【非特許文献6】天然薬物事典、奥田拓男編、廣川書店、昭和61年3月3日 発行
【非特許文献7】Wagner,H.,et al.,Arznein.Forsch,18,696,1968.
【非特許文献8】Wagner,H.,et al.,Arznein.Forsch,24,466,1974.
【非特許文献9】Tittel,G.,et al.,J.Chromatogr.,135,499,1977.
【非特許文献10】Tittel,G.,et al.,J.Chromatogr.,153,227,1978.
【非特許文献11】Quercia,V.,et al.,Chromatography in Biochemistry,Medicine and Enviromental Research,Frigerio A.(Ed).,Elsevier Scientific Publishing Company,Amsterdam,1983,p1.
【非特許文献12】Nam−Cheol,Kim.,et al.,Complete isolation and characterization of silybins and isosilybins from milk thistle (Silybum marianum),Org.Biomol.Chem.,2003,1,1684−1689.
【非特許文献13】Agric Biol Chem,55 315−322,1991
【非特許文献14】Agric Biol Chem,57 546−550,1993
【非特許文献15】基礎と臨床 Vol.15 No.5 1981
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、紫外線暴露などにより生体組織、特に皮膚に生じた異常タンパク質を効率的に除去する組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の目的を達成するために、種々の植物由来化合物および植物抽出物を用いて、プロテアソーム活性を促進し、生体内の酸化タンパク質、特に紫外線暴露により増加した酸化タンパク質の蓄積を抑制する成分を探索した。その結果、植物由来化合物としてマリアアザミエキス由来成分であるシリビンに、植物抽出物としてシラン抽出物、アヤメ抽出物に求める効果を見出した。さらにシリビンとシラン抽出物または大豆サポニンを併用すると相乗的にプロテアソーム活性を促進し、酸化タンパク質を除去することを見出し、本発明を完成するに至った。対象異常タンパク質のひとつとして、異常コラーゲンを確認した。
【0008】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物から選ばれる1種又は2種以上を含有する異常タンパク質除去用組成物。
(2)異常タンパク質が異常コラーゲンであることを特徴とする(1)記載の異常タンパク質除去用組成物。
(3)シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物から選ばれる1種又は2種以上を含有するプロテアソーム活性促進用組成物。
(4)シリビンおよびシラン抽出物を含有することを特徴とする(1)又は(2)記載の異常タンパク質除去用組成物又は(3)記載のプロテアソーム活性促進用組成物。
(5)シリビンおよび大豆サポニンを含有することを特徴とする(1)又は(2)記載の異常タンパク質除去用組成物又は(3)記載のプロテアソーム活性促進用組成物。
(6) (1)〜(5)いずれかに記載の組成物を含有するしわ、たるみ、くすみ、しみの予防および/または改善用組成物。
(7)外用剤の形態である(1)〜(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)シリビンとシラン抽出物および/又は大豆サポニンを含有することを特徴とする化粧料。
(9) シリビンとシラン抽出物および/又は大豆サポニンを含有することを特徴とする食品。
(10)動物用である(7)又は(9)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物を用いることにより、異常タンパク質を除去あるいは抑制することができる。異常タンパク質として、加齢とともに増加する異常コラーゲン(酸化コラーゲン等)を効率的に除去できるので、しわ、たるみ、くすみなどの皮膚老化の改善に有効である。また、本発明の組成物を用いることにより、プロテアソーム活性を促進することができる。
従って、本発明の組成物は、タンパク質分解異常による疾患または障害(アルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症、皮膚の光老化、皮膚におけるしわ、たるみ、くすみ、しみ)等タンパク質分解異常による疾病の予防または治療において有効である。さらに、抗老化用の化粧料や食品としても有用である。
具体的には、抗老化効果、しわ抑制効果、たるみ抑制効果、くすみ抑制効果、しみ抑制効果、紫外線傷害抑制効果について期待できる。
具体的な利用形態として化粧料および食品などに利用できる。ペットなどの動物用としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、異常タンパク質とは、一般に加齢に伴い、酸化又は糖化又はアルデヒド修飾を受けたタンパク質あるいはミスフォールドタンパク質を言う。
【0011】
シリマリン(Silymarin;CAS No.65666−07−1)は、キク科マリアアザミ(学名シリバム・マリアナムSilibum marianum Gaertn、別名オオアザミ、オオヒレアザミ、ミルクアザミ;CAS No.84604−20−6)から抽出されるフラボノリグナンの総称であり、分子式C252210で表される、シリビン(Silybin;CAS No.22888−70−6)、シリジアニン(Silydianin;CAS No.29782−68−1)、シリクリスチン(Silychristin;CAS No.33889−69−9)、イソシリビン(Isosilybin;CAS No.72581−71−6)などを含有している組成物である(非特許文献6)。本発明においては、マリアアザミ抽出物に含有されるこれらのフラボノリグナンを含有している組成物を従来技術と同様、シリマリンと呼ぶ。またシリマリンは前記の通りフラボノリグナンの混合物であり、シリマリンとしての植物抽出物や植物中の含有量は、分光光度計による測定に基づいた方法(非特許文献7)、薄層クロマトグラフィーによる方法(非特許文献8)、高速液体クロマトグラフィーによる方法(非特許文献9〜11)により測定可能である。これらの測定法の中でも、分光光度計による測定に基づいた方法の一つである2,4−ジニトロヒドラジン分析は、ドイツ薬局方(Silybum marianumの果実に関するモノグラフ)に報告されており、広く用いられている。本発明においても、上記成分の混合組成物の定量にあたっては2,4−ジニトロヒドラジン分析法を用いてシリマリンに換算した質量%で表記する。
【0012】
シリマリンは古くからヨーロッパで肝臓疾患の予防及び治療を目的として使用されている。また、酸化防止剤として広く知られている。皮膚に対して有用な組成物として、乾癬及びアトピー性皮膚炎治療製剤(特許文献5)、フラボノリグナンとリン脂質との錯体を活性成分として含み、紅斑、火傷、皮膚または粘膜のジストロフィー状態、皮膚炎等の治療、皮膚の老化防止及び放射線、風、太陽などの外部環境からの刺激保護に有用な組成物(特許文献6)、表皮透過バリア強化剤(特許文献7)、皮脂分泌抑制剤(特許文献8)、表皮の偏平化を予防、防止、改善する皮膚老化防止用組成物(特許文献9)、抗酸化能に起因する皮膚老化防止用の化粧料(特許文献10)、I型コラーゲン産生促進作用およびエラスチン産生促進作用(特許文献11)などが知られている。
しかし、プロテアソーム活性促進作用に起因する異常タンパク質蓄積抑制作用は知られていなかった。本発明において、シリマリン特にシリビンとシラン抽出物または大豆サポニンを併用することにより、それぞれ単独よりも相乗的に異常タンパク質の蓄積を抑制し、除去することを明らかにした。
【0013】
シリマリンをマリアアザミの果実から高純度で単離する方法として、70〜80%の純度で単離する方法や90〜96%の純度で単離する方法(特許文献12)が既に報告されている。シリマリンは通常マリアアザミの種実からエタノール、酢酸エチル、アセトンなどにより抽出し、スプレードライにより乾燥粉末として得られる抽出物原料として市販されている。本発明に使用するシリビンはこのようにして調製されて、市販されているシリビンをそのまま用いることができる。また、従来の方法を用いてマリアアザミからシリビンを濃縮した抽出物及びそれらを単離、精製して化合物として用いることができる(非特許文献12)。また、シリビンを含有するマリアアザミエキス等の植物抽出エキス、あるいはシリマリンをシリビンとして用いることができる。
【0014】
大豆由来のサポニンは、大豆種子中の種皮、子葉、胚軸又は大豆植物体の葉、茎、根等に広く分布する。構造的にはグリチルリチンと類似の構造であるが、トリテルペノイド骨格に2個〜5個の糖から成る糖鎖を持つ。大豆サポニンはアグリコン(非糖部)の構造によって4つのグループ(A、B、EおよびDDMPグループ)に分類され、すべてのグループのサポニンが多種多様な糖鎖構造を有する。現在までにSoyasapogenol A 、B、 EおよびDDMPをそれぞれアグリコンとする8種類のAグループ、2種類のEグループ、5種類のBグループ、6種類のDDMPグループが同定されている(非特許文献13、14)。
これまでに、本発明者等は、大豆サポニンの薬理作用について着目して継続して探求し、異常蛋白質除去機能(特許文献3および特許文献13)、紫外線傷害予防または改善機能があること(特許文献14)などを明らかにしている。本発明では、更に研究を続け、シリマリン特にシリビンと大豆サポニンを併用することにより、それぞれ単独よりも相乗的に異常タンパク質の蓄積を抑制することを明らかした。
【0015】
本発明に用いる大豆由来のサポニンは前述したすべての大豆由来のサポニンを含み、さらに、大豆由来のサポニンのある特定の種類を高含有したようなものでも良い。本発明に用いる大豆由来のサポニンは、乾燥粉末及びエタノール、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒を用いて溶解した溶解物などの形状で用いることができる。
一般に、サポニンは溶血性を示すものが多い。しかし、大豆サポニンは溶血性をほとんど有しないという報告がなされている(非特許文献15)。また、本発明者が大豆から得られた大豆サポニン類の家兎2%血液浮遊液に対する溶血指数を測定したところ、人参サポニンと同様100以下であり、他の報告同様溶血性を有しないことが判明した。また、本発明者が、大豆サポニンBグループの安全性を調べる為、変異原性および急性毒性について別途試験したところ、いずれも異常なく、その安全性が高いことが確認された。
【0016】
シラン(Bletilla striata)は、ラン科の植物で、湿地や崖上などに自生する多年草である。ラン科植物の中では例外的に栽培が容易で、繁殖力も強い。シランの根茎を一度蒸すか湯通ししてから乾燥したものが漢方薬の白及で、止血、排膿、粘滑、緩和薬として、喀血、吐血、鼻血、切傷、火傷、腫物に内外用する(非特許文献;天然薬物事典、奥田拓男編、廣川書店、p355)。抗酸化作用(特開2002−205933)、メーラード反応阻害剤(特開平11−106336)、美白作用(特許第3233776号)が知られている。しかし、プロテアソーム活性促進作用に起因する異常タンパク質蓄積抑制作用は知られていなかった。本発明において、シリビンとシラン抽出物を併用することにより、それぞれ単独よりも相乗的に異常タンパク質の蓄積を抑制することを明らかにした。
【0017】
アヤメ(Iris sanguinea)は日本(北海道〜九州)を含む東アジアに分布している多年草で、自生地の多くは日当たりの良い乾燥した山野の草地である。根茎にはフラボアヤメニンが含まれることから、皮膚真菌に用いられる他、消炎、腹痛、胃痛にも用いられる。過酸化水素消去作用(特開2001−131046)が知られている。しかし、プロテアソーム活性促進作用に起因する異常タンパク質蓄積抑制作用は知られていなかった。本発明において、アヤメ抽出物がプロテアソーム活性促進作用に起因する異常タンパク質蓄積抑制作用をもつことを明らかした。
本発明におけるシリビンを含む植物体、シランおよびアヤメは、葉、茎、芽、花、木質部、木皮部(樹皮)などの地上部、根、塊茎などの地下部、種子、樹脂などのすべての部位が使用可能である。
【0018】
本発明におけるシリビンおよびそれを含む植物体、シラン、アヤメおよび大豆サポニンは、それら自体を乾燥させた乾燥物およびそれらを各種溶媒により溶解した溶解物として使用できる。例えば、水、またはエタノール、メタノールなどのアルコール類、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール、エーテル、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒を用いて溶解した溶解物として使用できる。
本発明におけるシリビンを含む植物体、シランおよびアヤメは、天然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥させたり、醗酵させたりしたものをそのまま使用することができる。また植物抽出物を調製する場合は常法に従って、抽出、濃縮、粉末化などの処理を行って得られたものを使用することができる。
【0019】
現在、蓄積した異常タンパク質がアルツハイマー病、パーキンソン病、レビー小体病、トリプレットリピート病、筋萎縮性側索硬化症、白内障、動脈硬化、糖尿病性腎症、脳卒中、心筋梗塞、リウマチ、癌、胃潰瘍などの疾病や皮膚の老化症状であるしわ、たるみ、くすみ、しみなどに関与することが知られている。従って、本発明の異常タンパク質除去用組成物を摂取することにより上記疾患を予防または治療することが可能になると考えられる。特に、皮膚の老化症状であるしわ、たるみ、くすみ、しみに関しては予防および改善効果が期待でき、肌を若々しく保つことができると考えられる。
【0020】
本発明の組成物は、老化予防および老化防止用化粧料または健康食品、アンチエイジング化粧料または美容食品、サビ予防およびサビ防止化粧料または健康食品として有用である。本発明の異常タンパク質除去用組成物は、哺乳動物に対して、優れた作用を示し、且つ安全性が高い。
本発明の組成物は、紫外線暴露により発生した活性酸素により産生された細胞内の変性タンパク質(異常タンパク質)を効率良く分解する。したがって、紫外線暴露による細胞傷害を抑制する。紫外線に暴露されるあるいは暴露された生体組織、特に皮膚に対して、紫外線による傷害を予防又は改善することのできる紫外線傷害予防又は改善用組成物として有用である。
シリビンあるいはシリマリン、シラン抽出物、アヤメ抽出物および/または大豆サポニンを主要成分として含む本発明組成物は、化粧料などの皮膚外用剤、経口用の食品として製造することができる。
【0021】
化粧料としては、シリビンシリマリン、シリビンを含む植物体または植物抽出物を直接または小麦胚芽油あるいはオリーブ油などに添加して、化粧料成分として使用し、化粧料を製造することができる。
食品としては、シリビンシリマリン、またはシリビンを含む植物体または抽出物を直接、または種々の栄養成分を添加して食品として使用できるし、所望の食品に配合しても良い。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して健康補助食品、保健機能食品などとすることができる。また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加してもよく、水、果汁、牛乳、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。
【0022】
シリビンあるいはシリマリン、シラン抽出物、アヤメ抽出物および/または大豆サポニンの組成物への有効配合量は、各々の成分の調製法、製剤の形態などにより、適宜選択、決定され、特に限定されないが、シリビンおよび/または大豆サポニンを皮膚外用剤として用いる場合は0.01〜2重量%を含有させることが好ましい。一方、シラン抽出物および/またはアヤメ抽出物を皮膚外用剤として用いる場合は0.1〜5重量%を含有させることが好ましい。
シリビンおよび/または大豆サポニンを錠剤やドリンクなどとして食品として用いる場合は0.1〜10重量%を含有させることが好ましい。一方、シラン抽出物および/またはアヤメ抽出物を錠剤やドリンクなどとして食品として用いる場合は1〜20重量%を含有させることが好ましい。
本発明におけるシリビンあるいはシリマリン、シラン抽出物、アヤメ抽出物および/または大豆サポニンを主要成分として含む組成物の有効適用量は、適用経路、適用スケジュール、製剤形態などにより、適宜決定することができる。例えば、シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物および/または大豆サポニンを主要成分として含む組成物を1日当り0.01g〜10gの範囲で適宜調節して、1回または数回に分けて適用できる。
【0023】
食品としては、直接、又は種々の栄養成分を添加して使用できる。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して健康補助食品、保健機能食品などとして、食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用してもよく、水、果汁、牛乳、清涼飲料などの飲料に添加して使用してもよい。そのような剤、食品は、通常採用されている製剤化技術により製造することができる。
化粧料としては、直接又は小麦胚芽油あるいはオリーブ油などに添加して、化粧料成分として使用し、これらを用いて化粧料を製造することができる。
【0024】
非経口適用の組成物は、例えば水溶液、油剤、乳液、懸濁液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤、粉末、顆粒、カプセル、マイクロカプセル、固形等の固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、ローション剤、乳剤、ゲル剤、クリーム剤、軟膏、硬膏、ハップ剤、エアゾール剤、坐剤、注射剤、粉末剤等の種々の剤型とすることができる。これらを身体に塗布、貼付、噴霧等により適用することができる。特にこれら剤型の中で、ローション剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾール剤等が皮膚外用剤に適している。化粧料としては、化粧水、乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップクリーム、乳液状又はクリーム状あるいは軟膏型のファンデーション、口紅、アイカラー、チークカラーといったメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション等の身体用化粧料等とすることができる。
増量剤と混合した組成物の状態としておくと便利に使用できる。増量剤としては、グルコース、ラクトース、マルトース、ショ糖等の糖類、ソルビトール等の糖アルコール、デキストリン、サイクロデキストリン等の加工澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ等の澱粉類、カゼイン、大豆タンパク質等のタンパク質、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カゼインナトリウム、ゼラチン、ペクチン、粉末セルロース、カルボキシメチルセルロース等の高分子安定剤、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤、カルシウム粉末等が使用できる。
【0025】
本発明の異常タンパク質除去用組成物は、上記シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出部および/または大豆サポニンの他に抗酸化作用を有する化合物を含有させることができる。抗酸化作用を示す化合物は、特に限定されるものではないが、例えば各種ビタミン類、シリマリン等の各種ポリフェノール類、トコトリエノール、補酵素Q10およびそれらを含有する天然成分などが挙げられる。
本発明の異常タンパク質除去用組成物は、上記シリビン、シラン抽出物および大豆サポニンの他に生体コラーゲン合成促進剤を有する化合物を含有させることができる。生体コラーゲン合成促進作用を示す化合物は、特に限定されるものではないが、例えばコラーゲンおよびゼラチンの分解物、N末端にグリシンを含むトリペプチドを含有するペプチド混合物などが挙げられる。
【0026】
コラーゲンは、牛や豚や魚などの動物の皮膚、骨及び腱などの結合組織から抽出したもの、もしくはコラーゲンを熱変性したゼラチンなど全てのものが使用可能である。コラーゲンおよび/またはゼラチンの分解物として、分子量が400以下のものを含有するポリペプチドを用いることが好ましい。より好ましくは、平均分子量が200〜300付近のものを高含有するポリペプチドが好ましい。分子量が400以下のもの、より好ましくは、平均分子量が200〜300付近のものを高含有するポリペプチドは、アミノ酸の分子量が100前後であることから、トリペプチドを高含有するポリペプチドに相当する。分子量が400以下のコラーゲンおよび/またはゼラチンの分解物は精製したものでもよいが、精製しなくても差し支えない。例えば他のコラーゲンおよび/またはゼラチンの分解物等の混合物でもよい。
これに対してコラーゲンおよび/またはゼラチンの分解物は、特定の有効成分として分子量で約400以下のペプチドを含むことにより、その加水分解処理により、生体内でのコラーゲン合成促進活性を向上させることに寄与できる。
【0027】
本発明の異常タンパク質除去用組成物は、抗老化用、抗紫外線傷害用として使用することができる。さらに、異常タンパク質除去作用を示す化合物と抗酸化作用を有する化合物または生体コラーゲン合成促進作用を有する化合物とともに含有する組成物は、抗老化作用を有し、異常タンパク質の蓄積防御および異常タンパク質除去機能を持つ抗老化用組成物を提供することができる。さらに、異常蛋白質の1種である異常コラーゲンについて、蓄積防御および除去機能を持つ抗老化用組成物を提供することができることを確認した。
異常タンパク質除去作用を有する化合物は、化粧料として使用することができる。その化粧料は、抗しわ用、抗たるみ用、抗くすみ用、抗しみ用、保湿用の用途を有する。本発明の組成物は、経口または溶血性のないものは注射剤として投与する等、非経口で投与することができる。経口で投与する場合、健康食品、美容食品のような食品の形態で投与してもよい。
本発明の組成物は、例えば水溶液、油剤、乳液、懸濁液等の液剤、ゲル、クリーム等の半固形剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形剤の形態で適用可能である。従来から公知の方法でこれらの形態に調製し、種々の剤型とすることができる。ローション剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、ハップ剤、エアゾル剤等は、皮膚外用剤として適している。
本発明の化粧料には、植物油のような油脂類、高級脂肪酸、高級アルコール、シリコーン、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤、防腐剤、糖類、金属イオン封鎖剤、水溶性高分子のような高分子、増粘剤、粉体成分、紫外線吸収剤、紫外線遮断剤、ヒアルロン酸のような保湿剤、香料、pH調整剤等を含有させることができる。ビタミン類、皮膚賦活剤、血行促進剤、常在菌コントロール剤、活性酸素消去剤、抗炎症剤、抗癌剤、美白剤、殺菌剤等の他の薬効成分、生理活性成分を含有させることもできる。
【0028】
化粧料としては、化粧水、乳液、クリーム、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップクリーム、乳液状又はクリーム状あるいは軟膏型のファンデーション、ハンドクリーム、レッグクリーム、ボディローション等の身体用化粧料等、入浴剤、毛髪化粧料とすることができる。通常、化粧料において使用される製剤化方法にしたがって、これらの剤型として製造することができる。口紅、アイカラー、チークカラーといったメイクアップ化粧料とすることができる。
【0029】
その他、用途や剤型に応じて次のようなものを添加することができる。
油脂類としては、例えば、ツバキ油、月見草油、マカデミアナッツ油、オリーブ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、ホホバ油、胚芽油、小麦胚芽油、トリオクタン酸グリセリン、等の液体油脂、カカオ脂、ヤシ油、硬化ヤシ油、パーム油、パーム核油、モクロウ、モクロウ核油、硬化油、硬化ヒマシ油等の固体油脂、ミツロウ、キャンデリラロウ、綿ロウ、ヌカロウ、ラノリン、酢酸ラノリン、液状ラノリン、サトウキビロウ等のロウ類が挙げられる。
炭化水素類としては、例えば、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。
高級脂肪酸として、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)等が挙げられる。
高級アルコールとして、例えば、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、セトステアリルアルコール等の直鎖アルコール、モノステアリルグリセリンエーテル、ラノリンアルコール、コレステロール、フィトステロール、オクチルドデカノール等の分枝鎖アルコール等が挙げられる。
シリコーンとして、例えば、鎖状ポリシロキサンのジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等、環状ポリシロキサンのデカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
アニオン界面活性剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸トリエタノールアミン等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−アシルサルコシン酸、スルホコハク酸塩、N−アシルアミノ酸塩等が挙げられる。
カチオン界面活性剤として、例えば、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム等のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
両性界面活性剤として、例えば、アルキルベタイン、アミドベタイン等のベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
非イオン界面活性剤として、例えば、ソルビタンモノオレエート等のソルビタン脂肪酸エステル類、硬化ヒマシ油誘導体が挙げられる。
【0030】
防腐剤として、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等を挙げることができる。
金属イオン封鎖剤として、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エデト酸、エデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩を挙げることができる。
高分子として、例えば、アラビアゴム、トラガカントガム、ガラクタン、グアーガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード、デキストラン、プルラン、カルボキシメチルデンプン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー(CARBOPOL等)等のビニル系高分子、等を挙げることができる。
【0031】
増粘剤として、例えば、カラギーナン、トラガカントガム、クインスシード、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシビニルポリマー、グアーガム、キサンタンガム、ベントナイト等を挙げることができる。
粉末成分としては、例えば、タルク、カオリン、雲母、シリカ、ゼオライト、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、セルロース粉末、無機白色顔料、無機赤色系顔料、酸化チタンコーテッドマイカ、酸化チタンコーテッドタルク、着色酸化チタンコーテッドマイカ等のパール顔料、赤色201号、赤色202号等の有機顔料を挙げることができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸、サリチル酸フェニル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、等を挙げることができる。
紫外線遮断剤として、例えば、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等を挙げることができる。
【0032】
保湿剤として、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、キシリトール、マルチトール、マルトース、ソルビトール、ブドウ糖、果糖、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸、シクロデキストリン等が挙げられる。
薬効成分としては、例えば、ビタミンA油、レチノール等のビタミンA類、リボフラビン等のビタミンB類、ピリドキシン塩酸塩等のB類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸モノパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド等のビタミンC類、パントテン酸カルシウム等のパントテン酸類、ビタミンD、コレカルシフェロール等のビタミンD類;α−トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸DL−α−トコフェロール等のビタミンE類等のビタミン類を挙げることができる。
【0033】
プラセンタエキス、グルタチオン、ユキノシタ抽出物等の美白剤、ローヤルゼリー、ブナノキエキス等の皮膚賦活剤、カプサイシン、ジンゲロン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、γ−オリザノール等の血行促進剤、グリチルリチン酸誘導体、グリチルレチン酸誘導体、アズレン等の消炎剤、アルギニン、セリン、ロイシン、トリプトファン等のアミノ酸類、常在菌コントロール剤のマルトースショ糖縮合物、塩化リゾチーム等を挙げることができる。
さらに、カミツレエキス、パセリエキス、ブナノキエキス、ワイン酵母エキス、グレープフルーツエキス、スイカズラエキス、コメエキス、ブドウエキス、ホップエキス、コメヌカエキス、ビワエキス、オウバクエキス、ヨクイニンエキス、センブリエキス、メリロートエキス、バーチエキス、カンゾウエキス、シャクヤクエキス、サボンソウエキス、ヘチマエキス、トウガラシエキス、レモンエキス、ゲンチアナエキス、シソエキス、アロエエキス、ローズマリーエキス、セージエキス、タイムエキス、茶エキス、海藻エキス、キューカンバーエキス、チョウジエキス、ニンジンエキス、マロニエエキス、ハマメリスエキス、クワエキス等の各種抽出物を挙げることができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0034】
<薬剤の調製および試験方法>
[評価試験用化合物溶液の調製]
大豆サポニン(和光純薬)、レチノイン酸(all−trans−レチノイン酸;和光純薬)、レチノール(all−trans−レチノール;和光純薬)およびシリビン(Silibin;シグマ−アルドリッチ)を生化学用試薬グレードのジメチルスルホキシド(DMSO;和光純薬)により溶解した溶液を、培養液に適当量添加し、皮膚線維芽細胞および三次元皮膚モデルに処理した。
シラン(Bletilla striata)の根の部分を細切し、その100gを用いて高速溶媒抽出装置(ASE−200,日本ダイオネクス株式会社)により熱水抽出した。これを凍結乾燥して濃縮し、5.2gの抽出物を得た。抽出物含有量が1%になるように水を加え、溶解した。これをシラン抽出液と呼ぶ。
アヤメ(Iris sanguinea)の葉の部分およびリュウガン(Euphoria longan)の仮種皮の部分(リュウガンニク)を細切し、その各100gを用いて高速溶媒抽出装置(ASE−200,日本ダイオネクス株式会社)によりエタノール(99.5%)抽出した。これを濃縮し、それぞれ10.5gおよび11.3gの抽出物を得た。それぞれを抽出物含有量が1%になるように50%の1,3ブチレングリコールで溶解した。これらをアヤメ抽出液、リュウガン抽出液と呼ぶ。
【0035】
[正常ヒト皮膚線維芽細胞の培養]
正常ヒト皮膚線維芽細胞(以下NFB);CCD1059(大日本製薬より購入)を皮膚線維芽細胞用培地;FGM(三光純薬)で37℃−5%COインキュベーターにて培養した。FGMは、線維芽細胞基礎培地にヒト線維芽細胞増殖因子(1μg/ml)、インシュリン(5mg/ml)、ゲンタマイシン(50μg/ml)、アンフォテリシンB(50μg/ml)を添加したものである。本試験には継代数が3〜7代の細胞を使用した。
【0036】
[各薬剤を処理したNFB培養上清液およびNFB抽出物の調製]
Φ90mmの細胞培養用ディシュにNFBを播種し、90%コンフルエントになるまで培養した。各種薬剤を添加したFGMに培地を交換して24時間培養した。培養液を捨て、NFBを1×PBS(−)(カルシウムおよびマグネシウム不含リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄後、FGMを添加し、UVAを10J/cmで照射した。UVAはFL20S・BL/DMR(クリニカル・サプライ(株))を用いて5.55W/cmの紫外線強度で30分間照射して、積算量10J/cmを照射した。紫外線強度はUV MONITOR MS−211−I(英弘精機(株)製)で測定した。
再度、各種薬剤を添加したFGMに培地を交換して24時間培養した。対照としてUVAを照射しない群のNFBも作製した。
各薬剤を処理したNFBの培養上清サンプルは以下の通りに調整した。各薬剤を処理したNFBの培養上清液を回収し、1、200×G、5分遠心して浮遊細胞を除去した後、15、000×G、15分間遠心して細胞片を除去した。水中で透析後、凍結乾燥し、20mM Tris−HCl(pH7.5)で溶解して50倍濃縮液とした。これを培養上清サンプルとして使用した。
各薬剤を処理したNFBの細胞抽出サンプルは以下の通りに調整した。培養上清液を回収後、細胞をPBS(−)で洗浄し、細胞抽出用溶液{0.4% Nonidet P−40含有20mM Tris−HCl(pH7.5)}を添加して、4℃で30分撹拌した。細胞抽出液を回収し、水中で透析後、凍結乾燥し、細胞抽出用溶液で溶解して20倍濃縮液とした。これを線維芽細胞抽出サンプルとして使用した。
【0037】
[ヒト皮膚三次元モデルの培養]
ヒト皮膚三次元モデルはヒトの皮膚の疑似モデルとして、安全性評価や有効性評価に広く用いられている。ヒト皮膚三次元モデルは、TESTSKIN(LSE−high)(東洋紡績)を用いた。
【0038】
[各薬剤を処理したヒト皮膚三次元モデル抽出物の調製]
TESTSKIN(LSE−high)の外側のウェルに培地を添加し、24時間培養した。UVAおよびUVBをそれぞれ10J/cmおよび100mJ/cmで処理した。UVBはFL20S・E−30/DMR(クリニカル・サプライ(株))を用いて0.83W/cmの紫外線強度で2分間照射して、積算量100mJ/cmを照射した。紫外線強度はUV MONITOR MS−211−I(英弘精機(株)製)で測定した。
対照としてUVAおよびUVBを照射しない群のヒト皮膚三次元モデルも作製した。
その後、培養液を交換するとともに、各薬剤。をアッセイリング内の組織上に100μl添加し、36時間培養した。組織を回収し、組織抽出用溶液{50mM Tris−HCl(pH7.5)、0.5%(Octylphenoxy)polyethoxyethanol(Sigma−Aldrich)}を加え、テフロン(登録商標)ホモジナイザーでホモジナイズした。10,000×G、30分間遠心して組織片を除去した後、蒸留水中で4℃、一晩透析した。その後、凍結乾燥により水分を除いた。20倍濃縮になるように組織抽出用溶液を加え、三次元皮膚モデル抽出サンプルとして用いた。
【0039】
[カルボニル化タンパク質の測定]
カルボニル化タンパク質は酸化タンパク質の一種で、生体内における老化の指標の一つとして知られている。薬剤を処理した時の生体内のカルボニル化タンパク質を測定することにより、その薬剤の老化抑制作用を試験することができる(治療学、第32巻、第4号、58〜61頁、1998年)。例えば、薬剤を処理したNFBに紫外線を照射し、細胞内のカルボニル化タンパク質を公知の方法(Nakamura, et al.,Journal of biochemistry,Vol.199,p768−774,1996)で測定することにより、その薬剤の老化抑制作用を試験することができる。
本試験では、酸化障害により生じたタンパク質のカルボニル基に特異的に結合する2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を用いてカルボニル化タンパク質を標識後、DNPHに特異的に結合する抗DNPH抗体を用いて検出した。
具体的な方法は以下の通りである。サンプル中のタンパク質をDNPH化キット(OxiBlotTM Protein Oxidation Detection Kit, Chemicon international)を用いて、DNPH化タンパク質をウェスタンブロッティングにより検出した。検出は、蛍光検出キット(ECL PLUS、アマシャム)を用いてPVDF膜を感光し、自動現像装置(FPM100、富士メディカルフィルム)にて画像を転写した。デンシトメ−ター(モレキュラーダイナミクス)を用いて画像解析し、黒化度を数値化した。尚、サンプル中のタンパク質は適宜、還元して測定した。その場合は、還元剤として2メルカプトエタノールを添加し、100℃、5分間加熱してジスルフィド結合を切断した。
【0040】
[I型コラーゲンの免疫沈降]
各薬剤を処理したヒト皮膚三次元モデル抽出物由来のタンパク質を用いて公知の方法(Mizushima, et al.,Jpn.J.Cancer Res.Vol.93,p652−659,2002)によりI型コラーゲンを免疫沈降させた。各薬剤を処理したヒト皮膚三次元モデル抽出物由来のタンパク質20μgにSTEN緩衝液{50mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.2%Nonidet P−40}を全量で500μlになるように加え、さらにI型コラーゲンの免疫沈降用のポリクローナル抗体(ロックランド)を最終濃度1μg/mlになるように加えた。4℃で一昼夜撹拌しながら反応させた後、抗ウサギイムノグロブリンGを結合させたセファロース4B(ICN Pharmaceuticals.,Inc.)を20μg加え、4℃で2時間撹拌しながら反応させた。免疫沈降物をSTEN緩衝液で3回洗浄後、タンパク質還元剤を含まない50μlのSDS−PAGE用サンプル緩衝液を加え、ウェスタンブロッティングによりカルボニル化タンパク質の量およびI型コラーゲンの量を測定した。
【0041】
[プロテアソーム活性の測定]
公知の方法(Hayashi,et al.,Mechanisms of aging and development,Vol.102,p55−66,1998)により細胞抽出サンプルを用いてプロテアソーム活性を測定した。
具体的な方法は以下の通りである。トリプシン様プロテアソーム活性を測定するための基質として、t−ブチルオキシカルボニル−L−ロイシル−L−アルギニル−L−アルギニル−L−4―メチル−クマリル−7−アミド(ペプチド研究所)を用いた。100mM Tris−HCl(pH8.0)で調製した100μMの基質溶液10.5μlに、10μg相当のタンパク質を含む細胞抽出サンプルを加え、さらに細胞抽出用溶液を加えて全量を50μlにした。37℃、30分間処理後、遊離した7−アミノ−4−メチルクマリンの蛍光強度を励起波長(Ex)380nm、吸収波長(Em)440nmで測定した。結果は各薬剤を処理したサンプルごとに、3サンプルの測定値から、平均±標準誤差を計算した。
【実施例1】
【0042】
[カルボニル化タンパク質蓄積抑制作用の評価]
20種類の植物抽出物のカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を評価した結果、シラン抽出物、アヤメ抽出物に顕著な効果が認められた。効果が認められたシラン抽出物、アヤメ抽出物の結果とともに、効果が認められなかった植物抽出物の例としてリュウガン抽出物の結果を示す。各種植物抽出液(抽出物含有量1%)を1%(抽出物最終濃度0.01%)で皮膚線維芽細胞に処理して、UVAを照射または非照射の場合のカルボニル化タンパク質の量をウェスタンブロッティングにより測定した。
UVA照射により細胞内および培養上清液中のタンパク質のカルボニル化が促進した。シラン抽出液およびアヤメ抽出液を処理することにより、UVA照射の有無に関わらず、細胞内のカルボニル化タンパク質(図1および表1;還元タンパク質の結果〔タンパク質に2メルカプトエタノールを加え、100℃、5分間熱してジスルフィド結合を切断した。〕)および培養上清液中のカルボニル化タンパク質(図2および表2;非還元タンパク質の結果〔還元処理なし〕)の蓄積を抑制した。尚、表1、2中の黒化度相対値はUV非照射において水を処理したサンプルの黒化度(カルボニル化タンパク質量)を100%としたときの相対値を示す。なお、表1は図1の結果を画像解析処理により数値化した値を示すものであり、表2〜表8も同様に図2〜図8を数値化したものである。
【0043】
【表1】

【0044】
図1及び表1の細胞内のカルボニル化タンパク質(還元処理を施した)の結果において、UV非照射では、無処理(水処理)と比べて、シラン抽出液を処理することによりカルボニル化タンパク質量が5%に減少した。また、無処理(BG処理)と比べてアヤメ抽出物を処理することにより、カルボニル化タンパク質量が8%に減少した。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質が生成し、UV非照射と比べて、無処理(水処理)において9倍、無処理(BG処理)において11倍に蓄積量が増大した。ここでシラン抽出液を処理することにより無処理(水処理)に比べて22%に、アヤメ抽出液を処理することにより無処理(BG処理)に比べて13%に減少した。
【0045】
【表2】

【0046】
図2及び表2の培養上清液中のカルボニル化タンパク質(還元処理なし)の結果において、UV非照射では、無処理(水処理)と比べて、シラン抽出液を処理することによりカルボニル化タンパク質量が5%に減少した。また、無処理(BG処理)と比べてアヤメ抽出物を処理することにより、カルボニル化タンパク質量が10%に減少した。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質が生成し、UV非照射と比べて、無処理(水処理)において12倍、無処理(BG処理)において12倍に蓄積量が増大した。ここでシラン抽出液を処理することによりUV照射無処理(水処理)に比べて21%に、アヤメ抽出液を処理することによりUV照射無処理(BG処理)に比べて27%に減少した。
【0047】
UV照射によってカルボニル化タンパク質が生成するが、その後にシラン抽出液、アヤメ抽出液を添加して培養することにより細胞内、細胞上清液中いずれにおいても、カルボニル化タンパク質が減少した。従って、シラン抽出物、アヤメ抽出物には、生成した異常タンパク質を除去する効果があると考えられる。一方、リュウガン抽出物には異常タンパク質の蓄積抑制効果が認められなかった。UV照射、非照射どちらについても、シラン抽出物、アヤメ抽出物を作用させることにより、無処理と比べてカルボニル化タンパク質が約1/10〜1/4に減少することが確認され、生成の抑制のみならず分解あるいは除去作用を認めることができる。これらの状況は以下の各試験結果においても同様の傾向を示している。
【0048】
また、ヒト三次元皮膚モデルにおいて、シラン抽出液(抽出物含有量1%)を0.1、0.5および1%(抽出物最終濃度としてそれぞれ0.001、0.005および0.01%)で処理すると、濃度依存的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制した(図3および表3;還元タンパク質の結果、図4および表4;非還元タンパク質の結果)。尚、表3,4中の黒化度相対値はUV非照射においてシラン抽出液を処理しない(処理濃度0%)サンプルの黒化度(カルボニル化タンパク質量)を100%としたときの相対値を示す。
【0049】
【表3】

【0050】
図3および表3の還元タンパク質の結果において、UV非照射でのカルボニル化タンパク質の蓄積量はシラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することにより、無処理と比較して、それぞれ45%、25%、10%に減少した。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質量は増大し、非照射と比べて5.6倍(無処理)になったが、シラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することにより、UV照射無処理と比べて56%、15%、3%に減少した。
【0051】
【表4】

【0052】
図4および表4の非還元タンパク質の結果において、UV非照射でのカルボニル化タンパク質の蓄積量はシラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することにより、無処理と比較して、それぞれ63%、37%、9%に減少した。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質量は増大し、非照射と比べて6.2倍(無処理)になったが、シラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することにより、UV照射無処理と比べて62%、14%、2%に減少した。
【0053】
次に、シリビンおよびビタミンA類のカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用の評価を行った。シリビンは表皮角化細胞の分化抑制、I型コラーゲン産生促進などにおいて、レチノイン酸、レチノールなどのビタミンA類と同様の作用を持つことから、レチノイン酸およびレチノールを対照として用いた。ヒト三次元皮膚モデルにおいて、シリビンを細胞毒性が生じない濃度である3および10μMで処理すると、濃度依存的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制した(図5および表5;還元タンパク質の結果、図6および表6;非還元タンパク質の結果)。一方、レチノイン酸およびレチノールを細胞毒性が生じない濃度である3および10μMで処理した場合は、無処理と同様にカルボニル化タンパク質の蓄積に影響を与えなかった。尚、表5、6中の黒化度相対値はUV非照射において薬剤を処理しないサンプルの黒化度(カルボニル化タンパク質量)を100%としたときの相対値を示す。
【0054】
【表5】

【0055】
具体的には図5および表5の還元タンパク質の結果において、UV非照射でのカルボニル化タンパク質の蓄積量はシリビンを3μM、10μM処理することにより、無処理と比較して、それぞれ50%、10%に減少した。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、カルボニル化タンパク質量は無処理と殆ど変わらなかった。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質量は増大し、非照射と比べて3.4倍(無処理)になったが、シリビンを3μM、10μM処理することにより、UV照射無処理と比較して、それぞれ25%、10%に減少した。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、カルボニル化タンパク質量は無処理と殆ど変わらなかった。
【0056】
【表6】

【0057】
図6および表6の非還元タンパク質の結果においては、UV非照射でのカルボニル化タンパク質の蓄積量はシリビンを3μM、10μM処理することにより、無処理と比較して、それぞれ55%、8%に減少した。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、カルボニル化タンパク質量は無処理と殆ど変わらなかった。また、UV照射によりカルボニル化タンパク質量は増大し、非照射と比べて3.2倍(無処理)になったが、シリビンを3μM、10μM処理することにより、UV照射無処理と比較して、それぞれ30%、9%に減少した。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、カルボニル化タンパク質量は無処理と殆ど変わらなかった。
【0058】
これまでの結果から、三次元皮膚モデルにおいてシラン抽出物およびシリビンが濃度依存的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制することが明らかになった。そこでシラン抽出物とシリビンを併用した場合に、相乗的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制するかどうかについて評価した。また、既にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制する作用が知られている大豆サポニンについても、シリビンと併用することで相乗的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制するかどうかについて評価した。その結果、三次元皮膚モデルのカルボニル化タンパク質の蓄積において、UV照射の有無に関わらず、シリビン(3μM)、シラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)、大豆サポニン(0.0005%)をそれぞれ単独で処理した場合よりも、シリビン(3μM)とシラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)を併用またはシリビン(3μM)と大豆サポニン(0.0005%)を併用した場合の方が、相乗的にカルボニル化タンパク質の蓄積を抑制した(図7および表7;非還元タンパク質の結果)。尚、表7中の黒化度相対値はUV非照射において薬剤を処理しないサンプルの黒化度(カルボニル化タンパク質量)を100%としたときの相対値を示す。また、図7中の各薬剤の分量は表7と同じである。
【0059】
【表7】

【0060】
具体的には、図7および表7の非還元タンパク質の結果において、UV非照射でのカルボニル化タンパク質の蓄積量はシリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%処理することにより、無処理と比較して、それぞれ60%、75%、72%に減少した。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量は10%に減少した。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量は11%に減少した。これらは、相乗的な効果である。
【0061】
UV照射によりカルボニル化タンパク質量は増大し、非照射と比べて5倍(無処理)になり、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%処理することにより、UV照射無処理と比較して、それぞれ60%、70%、73%に減少した。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量はUV照射無処理と比較して10%に減少した。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量はUV照射無処理と比較して11%に減少した。これらは、相乗的な効果である。
【0062】
図7および表7の結果から、シリビンおよびシラン抽出物またはシリビンおよび大豆サポニンを併用することにより、相乗的にカルボニル化タンパク質を抑制することが明らかになった。さらに、加齢とともに蓄積され、しわ、たるみ、くすみなどの皮膚老化の原因となる酸化コラーゲンを除去することが可能か確認するために、シリビンおよびシラン抽出物またはシリビンおよび大豆サポニンを併用することにより、I型コラーゲンのカルボニル化が抑制されるかどうかを調べた。三次元皮膚モデル抽出物に含まれるタンパク質をI型コラーゲンの抗体を用いて免疫沈降し、ウェスタンブロッティングによりカルボニル化コラーゲンを検出した。
【0063】
図8の上図は、I型コラーゲンの抗体による免疫沈降(IP)後に、DNPの抗体を用いたウェスタンブロッティング(WB)によりカルボニル化コラーゲンを検出した結果である。図8の下図は、I型コラーゲンの抗体による免疫沈降(IP)後に、I型コラーゲンの抗体を用いたウェスタンブロッティング(WB)により免疫沈降されたI型コラーゲンを検出した結果である。免疫沈降されたI型コラーゲン量は各薬剤処理および紫外線照射で違いはなく、同一であった。よって、図8の上図で検出されたカルボニル化コラーゲン量はコラーゲン量に依存せず、コラーゲンのカルボニル化度に依存する。
三次元皮膚モデルのカルボニル化コラーゲンの蓄積において、UV照射の有無に関わらず、シリビン(3μM)、シラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)、大豆サポニン(0.0005%)をそれぞれ単独で処理した場合よりも、シリビン(3μM)とシラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)を併用またはシリビン(3μM)と大豆サポニン(0.0005%)を併用した場合の方が、相乗的にカルボニル化コラーゲンの蓄積を抑制した(図8および表8;非還元タンパク質の結果)。尚、表8中の黒化度相対値はUV非照射において薬剤を処理しないサンプルの黒化度(カルボニル化コラーゲン量)を100%としたときの相対値を示す。また、図8中の各薬剤の分量は表8と同じである。
【0064】
【表8】

【0065】
具体的には、図8および表8の非還元タンパク質の結果において、UV非照射でのカルボニル化コラーゲンの蓄積量はシリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%処理することにより、無処理と比較して、それぞれ72%、83%、78%に減少した。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を併用することにより、カルボニル化コラーゲン量は12%に減少した。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を併用することにより、カルボニル化コラーゲン量は15%に減少した。これらは、相乗的な効果であるUV照射によりカルボニル化コラーゲン量は増大し、非照射と比べて6倍(無処理)になり、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%処理することにより、UV照射無処理と比較して、それぞれ72%、80%、75%に減少した。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量はUV照射無処理と比較して13%に減少した。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を併用することにより、カルボニル化タンパク質量はUV照射無処理と比較して15%に減少した。これらは、相乗的な効果である。
【実施例2】
【0066】
[プロテアソーム活性促進作用の評価]
シラン抽出物、アヤメ抽出物、リュウガン抽出物のプロテアソーム活性促進作用について評価した。各種植物抽出液(抽出物含有量1%)を1%(抽出物最終濃度0.01%)で皮膚線維芽細胞に処理して、UVAを照射または非照射の場合のプロテアソーム活性を前述の方法に従って測定した。UVA照射により非照射に比べて約20%プロテアソーム活性が低下した。シラン抽出液およびアヤメ抽出液を処理することにより、UVA照射の有無に関わらず、プロテアソーム活性の促進が見られた(図9)。
【0067】
具体的には、プロテアソーム活性は、UVA非照射において、無処理(水処理)と比較してシラン抽出液を処理することにより163%に増大した。また、無処理(BG処理)、アヤメ抽出液処理のプロテアソーム活性相対値はそれぞれ127%、185%であり、無処理(BG処理)と比較して、アヤメ抽出物処理のプロテアソーム活性は146%に増大した。一方、リュウガン抽出液を処理した場合(プロテアソーム活性相対値104%)、無処理(BG処理)と比べてプロテアソーム活性が82%に低下した。
【0068】
UVAを照射するとプロテアソーム活性が低下する。無処理(水)においては80%、無処理(BG)においては97%に低下する。UVA照射において、シラン抽出液を処理することによりプロテアソーム活性の相対値は129%に増大した。これは、UVA照射無処理(水処理)(80%)と比較すると161%の増大である。また、UVA照射においてアヤメ抽出液を処理することによりプロテアソーム活性の相対値は167%に増大した。これは、UVA照射無処理(BG処理)(97%)と比較すると172%の増大である。一方、リュウガン抽出液を処理しても、プロテアソーム活性は殆ど増大しなかった。
また、ヒト三次元皮膚モデルにおいて、シラン抽出液(抽出物含有量1%)を0.1、0.5および1%(抽出物最終濃度としてそれぞれ0.001、0.005および0.01%)で処理すると、濃度依存的にプロテアソーム活性を促進した(図10)。
具体的には、プロテアソーム活性がUVA非照射において、無処理(水処理)と比較してシラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することによりそれぞれ115%、145%、185%に増大した。
UVAを照射するとプロテアソーム活性が低下する。無処理(水)において75%に低下した。UVA照射において、シラン抽出液を0.1%、0.5%、1.0%処理することによりそれぞれ95%、112%、135%にとなる。しかし、これは、UVA照射において、75%に低下した無処理(水処理)と比較すると、それぞれ127%、149%、180%の増大に相当する。
【0069】
次に、シリビンおよびビタミンA類のプロテアソーム活性促進作用の評価を行った。シリビンは表皮角化細胞の分化抑制、I型コラーゲン産生促進などにおいて、レチノイン酸、レチノールなどのビタミンA類と同様の作用を持つことから、レチノイン酸およびレチノールを対照として用いた。ヒト三次元皮膚モデルにおいて、シリビンを細胞毒性が生じない濃度である3および10μMで処理すると、濃度依存的にプロテアソーム活性を促進した(図11)。一方、レチノイン酸およびレチノールを細胞毒性が生じない濃度である3および10μMで処理した場合は、無処理と同様にプロテアソーム活性に影響を与えなかった。
【0070】
具体的には、UV非照射でのプロテアソーム活性はシリビンを3μM、10μM処理することにより、無処理と比較して、それぞれ145%、178%に増大した。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、プロテアソーム活性は無処理と殆ど変わらなかった。また、UV照射によりプロテアソーム活性は減少し、非照射と比べて75%に低下したが、UV照射をしてもシリビンを3μM、10μM処理することにより、プロテアソーム活性の相対値は105%、128%に増大した。UV照射無処理(75%)と比較すると、それぞれ140%、170%の増大に相当する。一方、レチノイン酸3μM、レチノール10μMを処理しても、プロテアソーム活性は無処理と殆ど変わらなかった。
【0071】
これまでの結果から、三次元皮膚モデルにおいてシラン抽出物およびシリビンが濃度依存的にプロテアソーム活性を促進することが明らかになった。そこでシラン抽出物とシリビンを併用した場合に、相乗的にプロテアソーム活性を促進するかどうかについて評価した。また、既にプロテアソーム活性を促進する作用が知られている大豆サポニンについても、シリビンと併用することで相乗的にプロテアソーム活性を促進するかどうかについて評価した。その結果、三次元皮膚モデルのプロテアソーム活性を促進において、UV照射の有無に関わらず、シリビン(3μM)、シラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)、大豆サポニン(0.0005%)をそれぞれ単独で処理した場合よりも、シリビン(3μM)とシラン抽出液(0.1%;抽出物最終濃度として0.001%)を併用またはシリビン(3μM)と大豆サポニン(0.0005%)を併用した場合の方が、相乗的にプロテアソーム活性を促進した(図12)。
【0072】
具体的には、UV非照射でのプロテアソーム活性はシリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%処理することにより、無処理と比較して、それぞれ125%、121%、123%に増大した。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を合わせて処理することにより、プロテアソーム活性は198%に増大した。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を合わせて処理することにより、プロテアソーム活性は205%に増大した。これらは、相乗的な効果である。
UV照射によりプロテアソーム活性は低下し、非照射と比べて73%(無処理)になる。シリビン3μM、シラン抽出液0.1%、大豆サポニン0.0005%を処理することにより、プロテアソーム活性の相対値は88%、85%、86%となるが、これはUV照射無処理(73%)と比較して、それぞれ121%、116%、118%の増大に相当する。さらに、シリビン3μM、シラン抽出液0.1%を合わせて処理することによりプロテアソーム活性の相対値は132%となった。これはUV照射無処理(73%)と比較して181%の増大に相当する。また、シリビン3μM、大豆サポニン0.0005%を合わせて処理することにより、プロテアソーム活性の相対値は136%となった。これはUV照射無処理(73%)と比較して186%の増大に相当する。これらは、相乗的な効果である。
【0073】
処方例1[カプセル剤]
(組成) (配合;mg)
大豆サポニン 25
マリアアザミ抽出物(シリビン35%含有) 25
トコトリエノール 30
ミツロウ 10
ぶどう種子オイル 110
上記成分を混合し、ゼラチンおよびグリセリンを混合したカプセル基剤中に充填し、軟カプセルを得た。
【0074】
処方例2[カプセル剤]
(組成) (配合;mg)
シラン抽出物 25
マリアアザミ抽出物(シリビン35%含有) 25
トコトリエノール 30
ミツロウ 10
ぶどう種子オイル 110
上記成分を混合し、ゼラチンおよびグリセリンを混合したカプセル基剤中に充填し、軟カプセルを得た。
【0075】
処方例3
[錠剤]
(組成) (配合;mg)
大豆サポニン 25
マリアアザミ抽出物(シリビン35%含有) 20
コラーゲン加水分解物 50
セルロース 40
デンプン 20
ショ糖脂肪酸エステル 2
上記成分を混合、打錠し、錠剤を得た。
【0076】
処方例4
〔ジュース〕
(組 成) (配合;質量%)
果糖ブトウ糖液糖 5.00
クエン酸 10.4
L−アスコルビン酸 0.20
香料 0.02
色素 0.10
ゼラチン分解物(平均分子量300) 1.00
大豆サポニン 1.00
マリアアザミ抽出物(シリビン35%含有) 1.00
水 81.28
【0077】
処方例5
〔クリーム〕
(組 成) (配合;質量%)
(1)ステアリルアルコール 6.0
(2)ステアリン酸 2.0
(3)水添ラノリン 4.0
(4)スクワラン 9.0
(5)オクチルドデカノール 10.0
(6)POE(25)セチルアルコールエーテル 3.0
(7)モノステアリン酸グリセリン 2.0
(8)ゼラチン分解物(平均分子量300) 1.0
(9)シリビン 1.0
(10)シラン抽出物 0.1
(11)防腐剤 適量
(12)香料 適量
(13)1,3ブチレングリコール 6.0
(14)PEG 1500 4.0
(15)精製水 残余
上記成分(1)〜(12)を80℃に加熱溶解し油相とする。成分(13)〜(15)を70℃に加熱溶解し水相とする。油相に水相を徐々に加え乳化し、攪拌しながら40℃まで冷却し、さらに30℃まで攪拌冷却してクリームを得た。
【0078】
処方例6
〔クリーム〕
(組 成) (配合;質量%)
(1)ステアリルアルコール 6.0
(2)ステアリン酸 2.0
(3)水添ラノリン 4.0
(4)スクワラン 9.0
(5)オクチルドデカノール 10.0
(6)POE(25)セチルアルコールエーテル 3.0
(7)モノステアリン酸グリセリン 2.0
(8)ゼラチン分解物(平均分子量300) 1.0
(9)シリビン 1.0
(10)大豆サポニン 1.0
(11)防腐剤 適量
(12)香料 適量
(13)1,3ブチレングリコール 6.0
(14)PEG 1500 4.0
(15)精製水 残余
上記成分(1)〜(12)を80℃に加熱溶解し油相とする。成分(13)〜(15)を70℃に加熱溶解し水相とする。油相に水相を徐々に加え乳化し、攪拌しながら40℃まで冷却し、さらに30℃まで攪拌冷却してクリームを得た。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】各種植物抽出物のUV照射あるいは非照射時の皮膚線維芽細胞におけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図2】各種植物抽出物のUV照射あるいは非照射時の皮膚線維芽細胞におけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を非還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図3】シラン抽出物のUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図4】シラン抽出物のUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を非還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図5】シリビン、レチノイン酸およびレチノールのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図6】シリビン、レチノイン酸およびレチノールのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を非還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図7】シリビン、シラン抽出物および大豆サポニンのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化タンパク質蓄積抑制作用を非還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図8】シリビン、シラン抽出物および大豆サポニンのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるカルボニル化コラーゲン蓄積抑制作用を非還元条件下でウェスタンブロッティングにより検出した図である。
【図9】各種植物抽出物のUV照射あるいは非照射時の皮膚線維芽細胞におけるプロテアソーム活性促進作用を示した図である。
【図10】シラン抽出物のUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるプロテアソーム活性促進作用を示した図である。
【図11】シリビン、レチノイン酸およびレチノールのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるプロテアソーム活性促進作用を示した図である。
【図12】シリビン、シラン抽出物および大豆サポニンのUV照射あるいは非照射時のヒト三次元皮膚モデルにおけるプロテアソーム活性促進作用を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物から選ばれる1種又は2種以上を含有する異常タンパク質除去用組成物。
【請求項2】
異常タンパク質が異常コラーゲンであることを特徴とする請求項1記載の異常タンパク質除去用組成物。
【請求項3】
シリビン、シラン抽出物、アヤメ抽出物から選ばれる1種又は2種以上を含有するプロテアソーム活性促進用組成物。
【請求項4】
シリビンおよびシラン抽出物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の異常タンパク質除去用組成物又は請求項3記載のプロテアソーム活性促進用組成物。
【請求項5】
シリビンおよび大豆サポニンを含有することを特徴とする請求項1又は2記載の異常タンパク質除去用組成物又は請求項3記載のプロテアソーム活性促進用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5いずれかに記載の組成物を含有するしわ、たるみ、くすみ、しみの予防および/または改善用組成物。
【請求項7】
外用剤の形態である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
シリビンとシラン抽出物および/又は大豆サポニンを含有することを特徴とする化粧料。
【請求項9】
シリビンとシラン抽出物および/又は大豆サポニンを含有することを特徴とする食品。
【請求項10】
動物用である請求項7又は9に記載の組成物。

【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−99650(P2007−99650A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289491(P2005−289491)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】