説明

異常診断装置

【課題】温度検出器自体の異常を容易に判断可能にすることにより、軸受の異常診断精度の向上を図った異常診断装置を提供する。
【解決手段】軸受の異常を診断する異常診断装置において、軸受の温度を検出するための複数の温度検出器を備え、かつ、該複数の温度検出器によって検出された温度の偏差に基づいて、複数の温度検出器のうち異常を生じている温度検出器があるか否かを判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両や自動車の車軸などを支持するために用いられる軸受の傷等の異常を、該軸受を分解することなく診断することが可能な異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両や自動車の車軸などの回転部品を支持するために用いられる軸受では、損傷や摩耗等の異常の有無を定期的に検査する必要があった。この検査は、軸受を分解することにより行われ、損傷や摩耗の有無は、担当者が目視によって確認していた。
【0003】
ところが、近年、このような定期的な検査の手間を軽減するために、軸受を分解することなく、実稼動状態で異常診断を行うようにした異常診断技術が、例えば特許文献1に開示されている。同文献の異常診断技術では、回転部品である車軸の温度を軸受部に設けられた温度検出器で検出し、該温度検出器からの検出信号に基づいて、車軸温度が予め設定しておいた規定値以上に上昇したか否かで異常の有無を判定している。そして、判定の結果、異常があった場合には、異常警報を出力して乗員等に報知することにより、車軸が折れるのを未然に防ぐようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−125244号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の異常診断技術では、温度検出器自体に異常が生じた場合に、その異常を判断する手段が備えられていなかった。したがって、軸受の異常ではなく温度検出器の異常により軸受の検出温度が上昇している場合に、軸受の剥離等による発熱と区別することができず、誤った判断をしてしまう虞があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、温度検出器自体の異常を容易に判断可能にすることにより、軸受の異常診断精度の向上を図った異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、軸受の異常を診断する異常診断装置に関するものであり、本発明の上記目的は、前記軸受の温度を検出するための複数の温度検出器を備え、かつ、前記複数の温度検出器によって検出された温度の偏差に基づいて、前記複数の温度検出器のうち異常を生じている温度検出器があるか否かを判断することにより、達成される。
【0008】
また、本発明の上記目的は、前記複数の温度検出器から出力される温度信号をA/D変換するA/D変換機と、該A/D変換機の出力に基づいて、前記軸受の異常診断を行う演算処理部とを備え、かつ、前記演算処理部によって、前記異常を生じている温度検出器の有無を判断することにより、効果的に達成される。
【0009】
また、本発明の上記目的は、前記複数の温度検出器から出力される温度信号をA/D変換する第1A/D変換機と、前記軸受の振動を検出するための振動検出器と、該振動検出器から出力される振動信号をA/D変換する第2A/D変換機と、前記第1A/D変換機の出力および前記第2A/D変換機の出力に基づいて、前記軸受の異常診断を行う演算処理部とを備え、かつ、前記演算処理部によって、前記異常を生じている温度検出器の有無を判断することにより、効果的に達成される。
【0010】
また、本発明の上記目的は、前記異常を生じている温度検出器の有無が、前記複数の温度検出器によって検出された温度と前記軸受の回転前の温度とを比較することにより判断されることにより、効果的に達成される。
【0011】
さらに、前記軸受が鉄道車両の車軸を支持するための車両用軸受であることにより、効果的に達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る異常診断装置によれば、軸受の温度や振動に基づいて軸受の異常診断を行うとともに、軸受の温度を検出するために設けられた複数の温度検出器自体の異常診断を行うようにした。これにより、複数の温度検出器のうちの何れかに異常が生じた場合に、その温度検出器を即座に修理または交換することによって、軸受の異常診断の精度を常に高精度に維持することができる。
【0013】
また、回転前の軸受の温度はほぼ一定であることを利用して、各温度検出器によって検出された温度を回転前の軸受の温度と比較することにより、異常を生じている温度検出器の有無を判断するようにした。これにより、温度検出器による故障モードが検出された場合に、該故障モードが軸受の剥離による発熱か、あるいは温度検出器自体の故障による温度変化かを、明確に区別することができる。その結果、起動直後に温度検出器の故障をチェックすることができるので、異常診断精度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照にしながら、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明に係る異常診断装置の第1実施形態を示すブロック図である。本実施形態において異常診断の対象となる軸受は、例えば鉄道車両の車軸を支持する車両用軸受装置内に配される複数の転がり軸受である。同図において、各軸受1は、車体側ハウジング等に内嵌された外輪1aと、車軸に外嵌されて該車軸とともに回転する内輪1bと、外輪1aと内輪1bとの間に転動自在に配設された複数の転動体(ボールまたはころ)1cとを備えている。
【0016】
本発明に係る異常診断装置2は、このような鉄道車両等に使用される転がり軸受1を診断対象として、軸受の傷や剥離等による異常の発生およびその予兆を検知するものである。図1において、異常診断装置2は、軸受1から発生する温度を検出するための検出部10と、該検出部10からの出力に基づいて、各軸受1の異常を診断する演算処理部20とを備えている。
【0017】
検出部10は、各軸受1から発生する温度を、電気信号である温度信号に変換する温度検出手段としての温度検出器11aと、該温度検出器11aから出力される温度信号をA/D変換するA/D変換器12aとを備えている。
【0018】
また、演算処理部20は、各検出部10のA/D変換器12aからの出力に基づいて、軸受1の異常を診断する機能を有しており、本実施形態では鉄道の制御系と接続され、軸受1の異常診断結果に応じた制御信号を制御系に出力するようにしている。鉄道車両の制御系では、車両走行中、演算処理部20からフィードバックされる診断結果を常時監視し、軸受1の異常あるいはその予兆が検知された際には、速やかにしかるべき対処動作を実施する。
【0019】
図2は、本実施形態における軸受の異常診断処理の例を示すフローチャートである。
【0020】
異常診断装置2内の演算処理部20は、軸受1の異常診断を行う際、まず温度データ取得回数の値Mを初期値(M=0)にセットするとともに(ステップS11)、軸受1の温度異常を判定するための閾値の設定を行う。この閾値は、実測または理論計算に基づいて選定され、例えばオペレータによってあらかじめ設定される(ステップS12)。続いて、温度検出器11aで検出した軸受1の温度データをA/D変換器12aを介して取得する(ステップS13)。そして、取得した温度データを移動平均処理することにより、A/D変換時に重畳したノイズの影響を低減させ、移動平均処理した温度データをメモリー等に記憶しておく(ステップS14)。その後、温度データ取得回数の値Mをインクリメント(M=M+1)して(ステップS15)、この温度データ取得回数の値Mが規定回数(本例では、M=10回)に達したか否かを判別する(ステップS16)。ステップS16において、温度データ取得回数の値Mが規定回数に達していない場合には、ステップS13に戻ってステップS15までの処理を繰り返す。一方、ステップS16において、温度データ取得回数の値Mが規定回数に達した場合には、移動平均処理後の温度データの値と温度異常の閾値とを比較する(ステップS17)。
【0021】
そして、ステップS17において、温度データの値が閾値未満であれば、軸受1に異常なしと判定する(ステップS18)。一方、温度データの値が閾値未満であれば、軸受1に温度異常ありと判定し、その診断結果に応じて制御信号を鉄道車両の制御系に出力するとともに、例えばその旨を示す情報をモニタ等に表示する(ステップS19)。
【0022】
また、本実施形態に係る異常診断装置2では、演算処理部20は、各温度検出器11aによって検出された温度の偏差に基づいて、複数の温度検出器11aのうち異常を生じている温度検出器があるか否かを判断する機能をさらに有している。一般に、軸受1が回転すれば熱が発生するが、各軸受1の種類やその使用環境が同等であれば、それぞれ同等な熱が発生する。しかし、複数の温度検出器11aのうちの何れかに異常が発生すると、その温度検出器による検出温度と、その他の正常な温度検出器との間で温度差が生じる。本実施形態に係る演算処理部20は、この温度差に基づいて、閾値による比較を行うことで温度検出器11aの異常を判断するようになっている。
【0023】
図3は、本実施形態に係る異常診断装置による温度検出器の異常診断処理の例を示すフローチャートである。
【0024】
異常診断装置2内の演算処理部20は、温度検出器11aの異常診断を行う際、温度データ取得回数の値Nを初期値(N=0)にセットするとともに(ステップS21)、温度検出器11aの異常診断を判定するための閾値の設定を行う。この閾値は、実測または理論計算に基づいて選定され、例えばオペレータによってあらかじめ設定される(ステップS22)。
【0025】
続いて、温度検出器11aで検出した軸受1の温度データをA/D変換器12aを介してデジタル信号に変化して取得し(ステップS23)、突発的なノイズを除去して所定の温度帯域のみを抽出するためのフィルタ処理を行う(ステップS24)。なお、この温度データの検出は、以前に軸受の異常診断用に検出したデータがある場合には、そのデータを共用しても良い。
【0026】
その後、温度データ取得回数の値Nをインクリメント(N=N+1)して(ステップS25)、この温度データ取得回数の値Nが規定回数(本例では、N=10回)に達したか否かを判別する(ステップS26)。ステップS26において、温度データ取得回数の値Nが規定回数に達していない場合には、ステップS23に戻ってステップS25までの処理を繰り返す。一方、ステップS26において、温度データ取得回数の値Nが規定回数に達した場合には、当該温度検出器の検出温度とその他の温度検出器の検出温度との間の温度差Δtを算出し(ステップS27)、この温度差ΔtとステップS22で設定した閾値とを比較する(ステップS28)。
【0027】
ステップS28において、温度差Δtの値が閾値未満であれば、当該温度検出器に異常なしと判断し、ステップS23まで戻ってステップS28までの処理を繰り返す。一方、温度差Δtの値が閾値以上であれば、当該温度検出器に異常ありと判断し、その診断結果に応じて制御信号を鉄道車両の制御系に出力するとともに、例えばその旨を示す情報をモニタ等に表示して乗務員に報知する(ステップS29)。
【0028】
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置2によれば、軸受1の温度を検出する温度検出器11aの異常診断を行いつつ、軸受1の温度データに基づく軸受異常判定を行うことができるので、信頼性の高い軸受1の異常診断を行うことができる。
【0029】
また、この種の異常診断では、温度検出器11aの故障モードによって、軸受1の剥離による発熱か、あるいは温度検出器11aによる温度変化か区別がつかない場合がある。このような場合、何れの軸受1も回転前の温度はほぼ同一であることを利用して、回転前の軸受1の温度を検出して、それぞれ比較することにより、軸受1の剥離による発熱と温度検出器11aによる温度変化とを区別可能である。これにより、故障モードに因らずに温度検出器11aの異常を検出することができ、かつ、起動直後に温度検出器11aの故障をチェックすることができるので、軸受1の異常診断の精度を向上することができる。
【0030】
なお、軸受から発生する温度は、軸受の回転速度に応じて異なるので、回転検出器等によって検出された回転速度に応じて閾値の設定を変更する、あるいは所定の回転数以上から温度検出器11aの異常診断を行うようにしてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、図1に示すように、それぞれの温度検出器11aに対してA/D変換器12aを用いてA/D変換するようになっているが、これに限定されず、例えば切り替え器等によって、複数の温度検出器11aからの温度信号を切り替えて1つのA/D変換器へ入力するようにして共用することも可能である。
【0032】
さらに、本実施形態では、1つの演算処理部20によって異常診断処理を実行しているが、これに限定されず、複数の演算処理部20を設けて異常診断処理を実行するようにしてもよい。
【0033】
[第2実施形態]
図4は、本発明に係る異常診断装置の第2実施形態を示すブロック図である。なお、同図において、第1実施形態と同一の構成部には同一の符号を付して、その説明を簡略化または省略する。
【0034】
同図において、本実施形態に係る異常診断装置2Aは、軸受1から発生する温度、振動および軸受1の回転状態を検出するための検出部10Aと、該検出部10Aからの出力に基づいて、各軸受1の異常を診断する演算処理部20Aとを備えている。すなわち、上述した第1実施形態では、軸受1の異常診断を判定するパラメータとして温度データのみを用いていたが、本実施形態においては、温度データと振動データに基づいて、軸受1の異常診断を判定するようになっている。
【0035】
検出部10Aは、温度検出器11a、および該温度検出器11aから出力される温度信号をA/D変換するA/D変換器12aの他に、軸受1の振動状態を電気信号である振動信号に変換する振動検出手段としての振動検出器11bと、振動信号の振幅増幅度を軸受の回転状態に応じて変化させるための増幅度切替回路13と、振動検出器11bから出力される振動信号をA/D変換するA/D変換器12bと、軸受1の回転状態を電気信号である回転信号に変換する回転検出手段としての回転検出器11cと、該回転検出器11cから出力される回転信号をA/D変換するA/D変換器12cとを備えている。
【0036】
また、演算処理部20Aは、上記構成からなる各検出部10AのA/D変換器12a,12b,12cから出力される量子化データに基づいて、軸受1の異常を診断する機能を有している。なお、本実施形態における演算処理部20Aは、上述した第1実施形態と同様、鉄道の制御系と接続され、軸受1の異常診断結果に応じた制御信号を制御系に出力するようにしている。
【0037】
各検出部10A内の増幅度切替回路13は、回転検出器11cから発生する軸受1の回転信号を入力し、その回転信号に応じて、現時点の回転速度に対する最適な振幅増幅度、例えば、振動信号の振幅値が軸受1の回転速度によらずに一定となるような振幅増幅度を求める。この振幅増幅度は、例えば、回転速度または速度範囲毎の振幅増幅度の設定値(基準値)と現時点の回転速度とを比較回路で比較し、現時点の回転速度に対応する振幅増幅度の設定値を選択することで求める。あるいは、現時点の回転速度を関数式に設定し、関数演算によって振幅増幅度を求める。そして、その振幅増幅度に切替えるための増幅度切替信号を生成し、その増幅度切替信号によって振動検出器11bからの振動信号を変化させ、振動検出器11bで検出された振動信号の振幅が軸受1の回転速度によらずに一定となるように調整する。そして、調整後の振動信号をA/D変換器12bに送出する。
【0038】
図5は、本実施形態における振動による軸受の異常診断処理の例を示すフローチャートである。
【0039】
異常診断装置2A内の演算処理部20Aは、検出部10AのA/D変換器12bから振幅補正後の振動データを取得し(ステップS31)、該振動データを高速フーリエ変換(FFT)して周波数解析し、得られたパワースペクトルに含まれるピークとなる周波数と、軸受諸元(転動体1cの数や直径等)及び軸受1の回転速度から得られる特徴周波数とを比較し、軸受1の剥離等の異常を検出する。
【0040】
詳しくは、ステップS32〜ステップS40に示すように、先ず、演算処理部20Aは、上記ステップS31で取得した振動データから不要な周波数帯域の信号を取り除くフィルタ処理をした後(ステップS32)、抽出された所定の周波数帯域の信号のエンべロープ(包絡線波形)を検波するエンべロープ処理を実施する(ステップS33)。そして、エンべロープ処理により得られたエンべロープの周波数解析を実施する(ステップS34)。
【0041】
そして、周波数解析によって得られたパワースペクトルから、異常と見なす各傷成分の周波数帯域において、ピークとなる周波数(スペクトル強度)を抽出する(ステップS35)。
【0042】
そして、その他の周波数帯域のスペクトル強度の平均値を計算し(ステップS36)、その平均値に基づいて基準値を設定し(ステップS37)、この基準値と、異常と見なす特徴周波数とを比較する(ステップS38)。
【0043】
ここで、異常と見なす特徴周波数について説明する。
【0044】
軸受1に傷等の欠陥が生じた場合の振動周波数は、軸受1の構成要素(各部材)によって異なるが、異常と見なす各構成要素の周波数帯域は、車軸とともに回転する内輪1bの回転周波数frを基に求めることが可能である。
【0045】
下記の表1は、軸受1の構成要素となる各部材の欠陥、具体的には、傷と、各部材(図1中の内輪1b、外輪1a及び転動体1c、及び図示されない保持器)で発生する異常振動周波数(エンべロープ処理後の周波数)との関係を示している。
【0046】
【表1】

そして、前記ステップS38においては、ステップS7で設定した基準値と各傷成分の特徴周波数(Zfi,Zfc,2fb,fc)とを比較する。
【0047】
そして、各特徴周波数(Zfi,Zfc,2fb,fc)が全て基準値以下であれば、軸受1に異常なしと判定する(ステップS39)。一方、各特徴周波数(Zfi,Zfc,2fb,fc)の何れかが基準値を超えている場合には、軸受1に異常ありと判断し、当該特徴周波数を基に異常部位を特定し(ステップS40)、その診断結果に応じた制御信号を鉄道車両の制御系に出力すると共に、例えばその旨を示す情報をモニター等に表示する(ステップS140)。
【0048】
図6は、振動データと温度データとに基づいて、軸受1を異常診断する処理例を示すフローチャートである。本実施形態に係る演算処理部20Aは、図5に示した振動解析処理に加えて、温度の状態も診断することにより、軸受の各種の異常を一層高精度に検出できるようになっている。
【0049】
演算処理部20Aは、まず温度データ取得回数の値Mを初期値(M=0)にセットするとともに(ステップS41)、温度異常を判定するための閾値の設定を行う。この閾値は、実測または理論計算に基づいて選定され、例えばオペレータによって予め設定されている(ステップS42)。続いて、図5のフローにしたがって軸受1の振動による異常診断処理を実施した後(ステップS43)、温度検出器11aで検出した軸受1の温度データをA/D変換器11bを介して取得する(ステップS44)。そして、取得した温度データを移動平均処理することにより、A/D変換時に重畳したノイズの影響を低減させる。移動平均処理した温度データはメモリ等に保存しておく(ステップS45)。その後、温度データ取得回数の値Mをインクリメント(M=M+1)し(ステップS46)、ステップS44に戻って、ステップS46までの処理を繰り返す。そして、ステップS47において、規定回数(本例ではM=10回)繰り返したと判定した場合は、移動平均処理後の温度データの値と温度異常の閾値とを比較する(ステップS48)。
【0050】
そして、温度データの値が閾値未満であれば、軸受1に異常なしと判定する(ステップS49)。一方、温度データの値が閾値以上であれば、軸受1に温度異常ありと判断し、その診断結果に応じた制御信号を鉄道車両の制御系に出力するとともに、例えばその旨を示す情報をモニター等に表示する(ステップS50)。したがって、軸受1の振動もしくは温度の異常が検出された場合には、当該制御信号が鉄道車両の制御系に出力されるとともに、診断結果が表示される。
【0051】
図7は、本実施形態における温度検出器11aの異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。本実施形態に係る演算処理部20Aは、図6の軸受1の異常診断処理において取得された温度データ(ステップS44)を用いて、各温度検出器11aの異常診断を行うようになっている。
【0052】
演算処理部20Aは、まず、温度検出器11aの異常診断を判定するための閾値の設定を行う。この閾値は、実測または理論計算に基づいて選定され、例えばオペレータによってあらかじめ設定される(ステップS51)。続いて、図6のフローにしたがって軸受1の異常診断処理を実施する(ステップS52)。
【0053】
その後、ステップS52で得られた温度データを用いて、当該温度検出器の検出温度とその他の温度検出器の検出温度との間の温度差Δtを算出し(ステップS53)、この温度差ΔtとステップS51で設定した閾値とを比較する(ステップS54)。
【0054】
ステップS43において、温度差Δtの値が閾値未満であれば、当該温度検出器に異常なしと判断し、ステップS52まで戻ってステップS53までの処理を繰り返す。一方、温度差Δtの値が閾値以上であれば、当該温度検出器に異常ありと判断し、その診断結果に応じて制御信号を鉄道車両の制御系に出力するとともに、例えばその旨を示す情報をモニタ等に表示して乗務員に報知する(ステップS55)。
【0055】
以上のように、本実施形態に係る異常診断装置2Aによれば、軸受1の温度を検出する温度検出器11aの異常診断を行いつつ、軸受の温度データおよび振動データに基づく軸受異常判定を行うことができるので、より信頼性の高い軸受1の異常判定を行うことができる。
【0056】
なお、上述した実施の形態においては、鉄道車両用の軸受を診断対象とした場合を例として説明したが、鉄道車両用の軸受に限らず、自動車や船舶など、乗物全般に使用される軸受を診断対象とすることができる。
【0057】
また、上述した実施の形態においては、検出部をハードウェアで構成した場合を例として説明したが、一部をソフトウェアで構成する場合も本発明に含まれる。
【0058】
さらに、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、実施形態の組み合わせ等が可能である。その他、上述した各実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1実施形態に係る異常診断装置を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態における軸受の異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。
【図3】第1実施形態における異常診断装置の温度検出器の異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の第2実施形態に係る異常診断装置を示すブロック図である。
【図5】第2実施形態における振動による軸受の異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。
【図6】第2実施形態における振動および温度による軸受の異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。
【図7】第2実施形態における温度検出器の異常診断処理の例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0060】
1 軸受
2,2A 異常診断装置
10,10A 検出部
11a 温度検出手段(振動検出器)
11b 振動検出手段(振動検出器)
11c 回転検出手段(回転検出器)
12a,12b,12c A/D変換器
13 増幅度切替手段(増幅度切替回路)
20,20A 演算処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受の異常を診断する異常診断装置であって、
前記軸受の温度を検出するための複数の温度検出器を備え、かつ、
前記複数の温度検出器によって検出された温度の偏差に基づいて、前記複数の温度検出器のうち異常を生じている温度検出器があるか否かを判断することを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
前記複数の温度検出器から出力される温度信号をA/D変換するA/D変換機と、
該A/D変換機の出力に基づいて、前記軸受の異常診断を行う演算処理部とを備え、かつ、
前記演算処理部によって、前記異常を生じている温度検出器の有無を判断する請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記複数の温度検出器から出力される温度信号をA/D変換する第1A/D変換機と、
前記軸受の振動を検出するための振動検出器と、
該振動検出器から出力される振動信号をA/D変換する第2A/D変換機と、
前記第1A/D変換機の出力および前記第2A/D変換機の出力に基づいて、前記軸受の異常診断を行う演算処理部とを備え、かつ、
前記演算処理部によって、前記異常を生じている温度検出器の有無を判断する請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記異常を生じている温度検出器の有無は、前記複数の温度検出器によって検出された温度と前記軸受の回転前の温度とを比較することにより判断される請求項1ないし3の何れかに記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記軸受は、鉄道車両の車軸を支持するための車両用軸受である請求項1ないし4の何れかに記載の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−20327(P2008−20327A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192441(P2006−192441)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】