説明

異形断面モノフィラメントおよびラケット用ストリング

【課題】耐久性、衝撃吸収性に優れ、且つ、低コストでラケット用ストリングを得るのに好適な異型断面モノフィラメント及びラケット用ストリングを提供する。
【解決手段】繊維軸を含む中心成分と、この中心成分の周縁に形成された少なくとも4つ以上の突起部とからなる異型断面形状を有するモノフィラメントであって、前記中心成分と前記突起部との接触界面長(A)及び前記突起部の最大径(B)が、式A/B≦0.6の関係を満たすことを特徴とする異形断面モノフィラメント、及びこの異形断面モノフィラメントを少なくとも一部に用いたことを特徴とするラケット用ストリングス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異型断面モノフィラメント及びラケット用ストリングに関するものであり、更に詳しくは、耐久性、衝撃吸収性に優れ、且つ、低コストでラケット用ストリングを得るのに好適な異型断面モノフィラメント及びラケット用ストリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、テニス、スカッシュ、バドミントン等のラケットスポーツ分野では、動物由来ストリング(所謂ナチュラルガット)が主に使用されてきたが、近年、合成繊維製ストリング(所謂シンセティックガット)の使用量が増加しつつある。
【0003】
ラケット用ストリングには、高耐久であること、安価であること、高反発であること、打球音が良好であること、競技者の肘への負担が小さいこと、及び打感がソフトであること等々、様々な特性が求められており、合成繊維製ストリングについても、これら要求特性を満足させるための検討がなされている。
【0004】
このなかで、高反発、打球音等に関しては、フィラメント物性に着目した検討(例えば、特許文献1参照)により一定の効果が得られているものの、耐久性向上については、モノフィラメント単体で優れた耐久性を達成することが困難であり、皮糸及び/又は側糸と呼ばれるフィラメントをモノフィラメントの周囲に配して耐久性を向上させる方法が一般的に採用されている。しかし、皮糸及び/又は側糸による耐久性向上には製造工程や使用繊維種の追加が必要であり、結果として製造コストが上昇するという問題を有していた。
【0005】
前記皮糸及び/又は側糸の有する問題に対し、皮糸及び/又は側糸を使用することなく耐久性に優れたラケット用ストリングを得るための技術が特許文献2に開示されている。
すなわち、特許文献2の段落[0015]には、「・・変形度の大きい断面において・・中心部に空孔がない構造にするとともに外周部の溝は開口幅を狭く繊維比率を高める」ことで耐久性を向上させる技術が記載されており、さらに特許文献2の段落[0016]に記載されているとおり、「断面形状は複数のモノフィラメントを接着剤で巻き付け集束したストリングと近似した断面で、接着面に相当する部分は一体化しているので接着力が強い」ことが耐久性を向上させるポイントである。
【0006】
しかし、上記特許文献2記載の発明は、従来ストリングにおける芯糸と皮糸が強固に一体化しているが故に、打球時の衝撃が大きく、競技者の肘への負担が大きいものであった。また、芯糸と皮糸に相当する部分が強固に一体化している特許文献2記載のストリングは、構造破壊と言う観点での耐久性は向上しているものの、打球時に受ける衝撃をストリングが分散することができず、フィラメント自体の受ける負荷が大きい、即ちストリング物性が経時劣化して断糸に至るという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−029734号公報
【特許文献2】特開2002−239035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、耐久性、衝撃吸収性に優れ、且つ、低コストでラケット用ストリングを得るのに好適な異型断面モノフィラメント及びラケット用ストリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために本発明によれば、繊維軸を含む中心成分と、この中心成分の周縁に形成された少なくとも4つ以上の突起部とからなる異型断面形状を有するモノフィラメントであって、前記中心成分と前記突起部との接触界面長(A)及び前記突起部の最大径(B)が、式A/B≦0.6の関係を満たすことを特徴とする異形断面モノフィラメントが提供される。
【0011】
なお、本発明の異形断面モノフィラメントにおいては、
前記中心成分と突起部との少なくとも一部が剥離してなること、
前記突起部の最大径が、前記中心成分の最大径の0.05〜0.4倍であること、
前記突起部を形成する樹脂が、前記中心成分を形成する樹脂と異なること、及び
撚糸されていること
が、いずれも好ましい態様として挙げられる。
【0012】
また、本発明のラケット用ストリングは、上記の異形断面モノフィラメントを少なくとも一部に用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、以下に説明するとおり、耐久性、衝撃吸収性に優れ、且つ、低コストでラケット用ストリングを得るのに好適な異型断面モノフィラメント及びラケット用ストリングを得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】(a)〜(d)は本発明の異形断面モノフィラメントの実施態様の一例を示す断面模式図である。
【図2】中心成分と突起部の界面長(A)を説明する断面模式図である。
【図3】(a)〜(b)は突起部と中心成分の界面剥離形態の一例を示す断面模式図である。
【図4】本発明の異形断面モノフィラメントの製造設備の一例を示す説明図である。
【図5】(a)〜(b)は本発明の異形断面モノフィラメントを製造するために用いる口金孔の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
本発明の異形断面モノフィラメントは、その断面において、繊維軸を含む中心成分と、この中心成分の周縁に形成された少なくとも4つ以上、好ましくは10以上の突起部を有していることが必要である。ここで、突起部の数が3個以下、又は、突起部を有さない場合には、突起部による中心成分の保護効果が発現しないばかりか、後述する衝撃吸収性が不十分なものとなるため好ましくない。
【0017】
本発明モノフィラメントの代表的な断面形状は図1に例示する通り、本発明の効果を損なわない範囲であれば中心成分1及び突起部2の形状は限定されるものでは無く、例えば中心成分としては図1に示される円形(a、d)又は楕円形(b)又は多角形(c)を、突起部としては図1に示される円形(a、b、c)、又は多角形(d)を例示することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲であれば中心成分、突起部共に中空や団子型等の異型断面フィラメントであっても良い。
【0018】
なお、突起部2の数については中心成分1の保護および衝撃吸収の観点から、中心部1が突起部2によって取り囲まれていること、すなわち、突起部2の数が多いほど好ましい。突起部2の数は中心部1の径および突起部2の径に応じて設定すれば良く、例えば中心成分1が半径R1の円形、及び突起部2が半径R2の円形の場合、次式で得られる数値(小数点以下は切り捨て)が好ましい突起部2の上限となる。
{2×(R1+R2)×円周率}÷(2×R2)
【0019】
本発明の異形断面モノフィラメントは、前記中心成分1と前記突起部2の接触界面長(A)、及び前記突起部径(B)が式A/B≦0.6を満足することが必要である。この時、突起部径(B)とは図2、図3で示される様に突起部断面における最長部の径を示す。
【0020】
ここでA/Bとは、中心成分の外側に配された突起部の易動性を示す値であり、突起部の径(B)に対して突起部と中心成分の界面長(A)が小さい場合には、中心成分周辺で突起部が動き易いことを、一方、(A)が大きい場合には、中心成分と突起部が強固に結合されている状態を示す。
【0021】
すなわち、A/B≦0.6である本発明の異型断面モノフィラメントは、中心成分上で突起部が動き易い状態にあることを示しており、A/B≦0.6、好ましくはA/B≦0.55、より好ましくはA/B≦0.35という特徴が、従来のストリングの有するプレイヤーの肘への負担、及び経時的な物理特性の低下という2つの問題を一挙に解決するための重要なポイントである。
【0022】
本発明の異形断面モノフィラメントが前記2つの問題を同時に解決する詳細な機構は明らかではないものの、本発明の如きA/Bが0.6以下を満足する異型断面モノフィラメントは、中心成分上における突起部の運動性が高いことから、打球等による衝撃エネルギーを突起部の運動により分散するために競技者への肘への負担が軽減し、更に打球によってモノフィラメントが受ける衝撃が分散軽減されるため、経時での物理特性の低下を抑制することができると考えられる。
【0023】
一方、A/Bが0.6を越える異型断面モノフィラメントは、打球等の衝撃エネルギーを吸収分散することができないため、競技者の肘への負担が大きく、経時での物理特性低下に起因する耐久性低下を引き起こす。
【0024】
また、衝撃吸収の観点からA/Bは小さいほど好ましいが、繊維製造工程、及び、ストリング製造工程通過性の観点からは、中心成分と突起部は一定以上の結合力を保持することが好ましく、具体的なA/Bの範囲として0.01以上、より好ましい範囲として0.15以上を例示できる。
【0025】
本発明の異形断面モノフィラメントの突起部径は、中心成分の最大径の0.05〜0.4倍であることが好ましく、更に好ましい範囲として0.1〜0.3倍を例示できる。突起部径が前記範囲を満足する場合、製糸性と衝撃吸収効果を優れたレベルで両立することが可能となる。
【0026】
なお、本発明の異形断面モノフィラメントの中心成分の最大径は、バドミントン用、スカッシュ用、テニス用等の用途に応じて適宜変更すれば良く、0.05〜1.70mmの範囲を例示できる。
【0027】
本発明の異形断面モノフィラメントは、突起部と中心成分の少なくとも一部が剥離してなることが好ましい。本発明の如きA/Bが小さい、すなわち突起部が動き易い異型断面モノフィラメントは、モノフィラメントまたはストリング製造工程において突起部が製造装置に引っ掛かり工程通過性を悪化させる可能性がある。このためモノフィラメント製造工程においては、A/Bが0.2、好ましくは0.4、より好ましくは0.6を超える異型断面モノフィラメントを製造したのち、ストリング製造工程に供する前、又はストリング製造工程に供した後に、図3に示す様に中心成分と突起部の界面を剥離させ、所望のA/Bとすることが好ましい。剥離させる界面長に関しては、中心成分と前記突起部の界面の20%以上が剥離していることが好ましく、より好ましい範囲として20〜90%、更に好ましい範囲として50〜90%を例示できる。
【0028】
本発明の異形断面モノフィラメントは、撚糸されていることが好ましく、好ましい撚数として0.1〜20.0T/10cm、より好ましい範囲として0.5〜10.0T/10cmを例示することができる。前記撚数を満足するモノフィラメントは、撚糸により突起部が螺旋状に中心成分の周囲に配され、且つ、収束性が向上することから、打球等による潰れに強く、本発明の異形断面モノフィラメントの耐久性を更に向上させることが可能となる。撚糸はモノフィラメントの単線で実施しても良く、複数本のモノフィラメントを撚糸しても良い。
【0029】
本発明の異形断面モノフィラメントに用いる樹脂は特に限定されるものでは無く、本発明を満足する範囲であれば、中心成分および突起部共に脂肪族および/または芳香族ポリエステル、脂肪族および/または芳香族ナイロン、ポリオレフィン、フッ素樹脂等の通常知られた樹脂を使用することができ、更に本発明の効果を損ねない程度、具体的には5重量%以下であれば、異種樹脂をブレンドしても各種耐候剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤、顔料等の添加剤を含有することができる。
【0030】
前述の通り本発明の異形断面モノフィラメントで用いる樹脂に特に制限は無く、中心成分と突起部を同一樹脂で形成することもできるが、前記突起部を形成する樹脂が前記中心成分を形成する樹脂と異なる場合には、更に多機能な異型断面モノフィラメントおよびストリングを得ることが可能となる。
【0031】
例えば、「中心成分にポリエチレンテレフタレート等の初期弾性率の高い樹脂を用い、突起部にナイロン、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、エラストマー等の初期弾性率の低い樹脂を用いることで高反発とソフトな打球感を高度なレベルで両立したストリングを得ること」、「中心成分にポリエチレンテレフタレート、ナイロン等の破断強力の高い樹脂を用い、突起部にフッ素系樹脂等の低摩擦樹脂を用いた場合には細ゲージ、且つ、高スピンのストリングを得ること」、「中心成分にポリ乳酸樹脂等の植物由来樹脂を用い、突起部にナイロン、フッ素系樹脂等の耐摩耗性に優れた樹脂を用いた場合には耐久性に優れた環境対応ストリングを得ること」、「中心成分または突起部の両方又はいずれかにオレフィン樹脂を使用することで軽量なストリングを得ること」、「中心成分に金属酸化物等を含有する比重1.5以上の高比重樹脂を用い、突起部に中心成分と異なるポリアミド、又は、フッ素系樹脂、又は、ポリエステル樹脂を用いることで振り抜き易く耐摩耗性に優れたストリングを得ること」ができる。更に、突起部と中心成分に非相溶の樹脂を用いることで、突起部と中心成分の界面剥離を容易にすることも可能である。
【0032】
しかしながら、耐久性、加工性、経済性の観点から、中心成分にはナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリオレフィン系樹脂を使用することが、突起部にはナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリオレフィン、フッ素系樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
本発明の異形断面モノフィラメントは、強度が2.5〜8cN/dtexであることが好ましく、より好ましい範囲として3.2〜6.0cN/dtexの範囲を例示できる。強力が前記範囲を満足する場合にはストリングとして必要な強力を有するモノフィラメントを製糸性良く得ることが可能となる。
【0034】
本発明の異形断面モノフィラメントの破断伸度は16〜45%が好ましい。破断伸度が前記範囲を満足する場合にはストリングとした際の打球感、及び、張設性の良いモノフィラメントを得ることができる。一方、破断伸度が16%未満の場合には、本発明の異形断面モノフィラメントよりなるストリングをラケットに張設する際に遊び部分が小さく、張設時の目標張力と実張力が異なるという問題や、ラケットに張設する際に結び難いという問題が発生する。また、破断伸度が45%を超える場合には打球の際の振動が大きく、打感に劣る可能性がある。
【0035】
本発明のラケット用ストリングは、前述の本発明の異形断面モノフィラメントを少なくとも一部に用いることが必要であり、本発明の異形断面モノフィラメントを用いることで、前述の通り耐久性と衝撃吸収性を同時に満足するストリングを得ることができる。
【0036】
本発明の異形断面モノフィラメントを用いたラケット用ストリングは、耐久性向上効果が大きいことから、皮糸等の芯糸保護成分を使用する必要が無く、ストリング製造コストの大幅な削減や、ストリング製造工程の簡略化が可能となる特徴も有している。また、本発明のラケット用ストリングは、長寿命であるために環境に対する負荷も小さい。
【0037】
本発明のラケット用ストリングの構造は特に限定されるものではなく、更なる耐久性向上のために必要に応じて皮糸等の保護成分を巻回しても被覆層を設けても良い。皮糸等の保護成分を用いる場合、保護成分としてマルチフィラメント、モノフィラメント、紡績糸、フィルムヤーン等、従来知られた繊維を用いることができる。また、保護成分および被覆層に用いる素材には特に限定は無く、本発明の効果を損なわない範囲であれば、脂肪族及び/又は芳香族ポリエステル、脂肪族及び/又は芳香族ポリアミド、ポリオレフィン等の通常知られた樹脂を使用することができる。また、保護成分および被覆層に用いる素材には、本発明の効果を損ねない程度、具体的にはフィラメントと添加剤の合計量に対して5重量%以下であれば、異種樹脂や各種耐候剤、顔料、難燃剤、艶消剤、滑剤、顔料等の添加剤を含有しても良い。保護成分フィラメントの単糸断面は丸断面は勿論のこと、異型断面であっても良く、異形断面形状としては扁平型、三角型、C型、Y型、団子型、中空型、あるいはそれらの組合せ等を例示することができるがこれに限られるものではない。
【0038】
本発明のラケット用ストリングの強力は特に制限されるものではなく、目的とする競技により適宜変更すれば良いが、一般的には300〜800N/mmに設計される。
【0039】
本発明のラケット用ストリングのラケットへの張設張力は、使用する競技によって適宜最適値があるものの、前述の本発明のストリングの効果を最大限に得るため、70〜400N/mmの張力で張設することが好ましい。張力が70N/mm未満の場合には、張力が低すぎるために反発性、打球音に劣るラケットとなり、張設張力が400N/mmを超える場合には、張力が高すぎてストリングに含まれるモノフィラメント突起部の移動性が減少し、本発明の異形断面モノフィラメントの効果を最大限に得ることができない可能性がある。
【0040】
次に、テニス用ストリングを例に取り、本発明の異形断面モノフィラメント(以下、単にモノフィラメントと呼ぶこともある。)、及びラケット用ストリングの製造方法の一例を、図4にしたがって説明するが、製造方法はこれに限られるものではない。
【0041】
本発明のモノフィラメントは、溶融紡出した未延伸モノフィラメントを冷却後にローラ間で熱延伸する溶融紡糸法で得ることが可能である。なお、高強度モノフィラメントを得るために多段延伸法を採用することが好ましく、モノフィラメントの高強度化及び設備簡略化の観点から延伸段数は2〜4段であることが好ましい。以下、溶融紡糸2段延伸法による製造方法を説明する。
【0042】
溶融紡糸に供する原料樹脂は、図示した原料貯留ホッパー4からエクストルーダー5へ供給されるが、この原料樹脂の水分率は、溶融時の気泡発生抑制、及びポリエステル原料を使用する場合には加水分解抑制の観点から0〜200ppmであることが好ましい。水分率の測定方法は通常知られた方法で測定すればよく、例えば、平沼産業(株)製カールフィッシャー水分計(AQ−2100)を用いた電量滴定法で測定することができる。
【0043】
原料樹脂の溶融方法に特に決まりはなく、プレッシャーメルター、エクストルーダー等を用いて溶融すれば良い。溶融温度は原料種によって適宜変更すれば良いが、図4では1軸エクストルーダー5を使用している。通常は溶融成形性、及び、熱分解抑制の観点から、通常原料樹脂の融点+10℃〜融点+60℃の範囲に設定される。
【0044】
溶融樹脂は、ギヤポンプ6を経て紡糸パック7内のフィルターにて異物を取り除いた後、図5に例示される口金細孔より吐出される。細孔の形状及び大きさは樹脂の溶融粘度、目標モノフィラメント直径等により適宜変更すれば良いが、本発明の異型断面モノフィラメントを得るためには中心成分吐出孔16と突起部吐出孔17の距離を変更するのは勿論のこと、突起部の吐出圧が中心成分の吐出圧よりも高くなるように設計すること、及び、突起部を吐出する細孔の孔長/孔径が中心成分を吐出する細孔の孔長/孔径よりも大きいことが好ましい。
【0045】
その詳細な理由は不明であるが、突起部を形成する樹脂の吐出圧が高くなるために突起部樹脂の計量性が向上して未延伸モノフィラメントの湾曲・変形が抑制されること、及び、孔長/孔径が大きいために口金孔に流入した際にポリマの受ける弾性エネルギーが口金孔内で緩和し易く、突起部を形成するポリマの吐出直後の膨らみが小さくなること等が理由として考えられる。
【0046】
紡糸口金8の直下には必要に応じて加熱筒を設置することができる。紡出モノフィラメントを200〜300℃に保温された加熱筒を通過させることで、吐出モノフィラメントの配向が緩和され、均一な物性を有するモノフィラメントを延伸性良く得ることが可能となる。
【0047】
吐出されたモノフィラメントは次いで吐出樹脂のガラス転移温度以下の溶媒を満たした冷却浴9で冷却固化させる。溶媒の種類に特に決まりは無く、冷却溶媒として水やポリエチレングリコール等を例示できる。
【0048】
このとき、本発明のモノフィラメントを得るためには紡糸口金面から冷却浴9までの距離を1〜10cmに設定することが必要である。冷却浴9までの距離が10cmを超える場合には吐出樹脂に微結晶が多く生成して延伸性が悪化するだけでなく中心成分と突起部の剥離性が悪くなる可能性がある。一方、冷却浴9までの距離が1cmを下回る場合には空気層での冷却が不足するために冷却溶媒が突沸し、所望の断面を有するモノフィラメントを得ることが困難となる。
【0049】
次いで、冷却固化した未延伸モノフィラメントを第1GR10にて引き取る。第1GR10の表面速度は紡出する樹脂の曳糸性に応じて設定すれば良いが、通常1〜50m/分の範囲に設定される。
【0050】
前記速度で引き取られた未延伸モノフィラメントは一旦巻き取った後、又は一旦巻き取ることなく連続的に延伸工程に供する。すなわち、2段延伸法の場合、第1GR10と第2GR11間で1段目の延伸を行い、ついで、第2GR11と第3GR12間で2段目の延伸を行う。延伸後のモノフィラメントは第3GR12と第4GR13間で施される弛緩熱処理により延伸工程で生じた歪を取り除いた後、巻取り機15にて巻き取られる。
【0051】
なお、延伸および弛緩処理時にモノフィラメントに熱を付与する方法は特に制限されるものでは無く、樹脂種やモノフィラメント直径によって、加熱ロール、乾熱空気、蒸気、熱媒浴等から適宜選択すれば良いが、図4では各GR間に蓋付きドライオーブン14を配置している。
【0052】
また、延伸および弛緩処理時に付与する熱量に関しても使用する樹脂種によって適宜変更することができるが、延伸工程および弛緩処理時共に樹脂のガラス転移温度〜融点+20℃の範囲とすることが好ましい。
【0053】
更に、本発明のモノフィラメントはモノフィラメント製造時に油剤0.1〜1.5重量%を付与することが工程通過性向上、静電気除去の観点から好ましい。油剤付着量が0.1重量%未満の場合は油剤付与効果が発現し難く、一方、油剤付着量が1.5重量%を超える場合には次工程のガイド等を汚して工程通過性を悪化させる可能性がある。
【0054】
つぎに、モノフィラメント断面における中心成分1と突起部2の界面を剥離させて剥離部3(図3参照)を形成する方法について説明する。
【0055】
第一の方法としてモノフィラメントに直接、又は、ストリングに加工後に圧縮、打撃、屈曲、捻じり等の物理的外力を加える方法を例示する。具体的には紡糸後のモノフィラメントを同速で回転する2つのローラ間を走行させつつ、角棒又は丸棒にモノフィラメントの折れ曲がり角度が20〜60°程度となるように押し付ける方法、平面に設置したストリングに上部から圧力を加える方法等を採用すれば良い。また、該方法を用いた際にモノフィラメント表面へのクラックの発生、及び、顕著な物性低下が発生する場合には、物理的外力によって容易に剥離が生じるように、中心成分と突起部の樹脂を非相溶とすることが好ましい。非相溶な樹脂の組み合わせとしては、中心成分にポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素樹脂から選ばれるひとつの樹脂を使用した場合、突起部の樹脂としてはポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン、フッ素樹脂のうち中心成分に使用した樹脂以外の樹脂を使用すれば良い。なお、加工性、製造コストの観点からポリエステルとポリアミドの組み合わせが最も好ましい。
【0056】
第二の方法として突起部および/または中心成分の表面を溶媒で溶出する方法、即ち、突起部又は中心成分に使用する樹脂の特定溶媒への溶解性の差を利用し、突起部又は中心成分のどちらか/または両方を溶出して界面を剥離する方法を例示する。溶出させる溶媒は使用樹脂種によって適宜選択すれば良く、ポリアミドを溶出させる溶媒として蟻酸、硫酸を、ポリエステルを溶出させる溶媒として水酸化ナトリウム水溶液を例示することができる。第二の方法によれば中心成分または突起部共にクラック等を発生させることなく界面剥離を引き起こすことが可能となる。具体的には中心成分及び/又は突起部にポリエステル系樹脂を用いた異型断面モノフィラメントの場合、温度70℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で10分間処理した後、純水で繰り返し洗浄すれば良い。
【0057】
第三の方法として、突起部と中心成分の界面を製糸工程で剥離させる方法を例示する。具体的には多段延伸プロセスの1段目で総延伸倍率の30%程度の延伸を施したモノフィラメントを、中心成分および/または突起部を形成する樹脂の結晶化温度±20℃で熱処理した後、2段目の延伸をおこなう方法が例示できる。第三の方法で中心成分と突起部が剥離しやすくなる機構は明確でないが、中心成分又は突起部のどちらかが十分に結晶化されることで、結晶化が十分に引き起こされていない他方との延伸性に差が生じ、延伸・弛緩・巻取り工程で中心成分と突起部が剥離すると考えられる。
【0058】
かくして本発明のモノフィラメントを得ることができる。
【0059】
次に本発明のストリングを得る方法について説明する。
【0060】
本発明のストリングは本発明のモノフィラメントに必要に応じて撚りを施すこと、皮糸等の保護成分を巻回すること、樹脂被覆することで得られる。本発明のモノフィラメントに皮糸を配する際には必要に応じて保護成分と芯成分となるモノフィラメントを接着剤で固定することも可能である。皮糸を配する方法としてはブレイディング加工やワインディング加工等を、樹脂被覆の方法としてはディッピング法、溶融コーティング法等を例示することができる。更に、ストリング物性を調整するためにストリング製造工程において緊張又は弛緩熱処理をすることが好ましい。
【0061】
また、前述の通り本発明のモノフィラメントの中心成分と突起部の界面はストリング製造工程でも剥離させることができる。
【0062】
かくして本発明のストリングを得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明の態様を更に詳しく説明する。なお、明細書本文および実施例に用いた特性の定義および測定方法は次のとおりである。
【0064】
[中心成分径、及び、突起部径]:(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX−500を用い、中心成分、突起部における最長部の径をそれぞれ中心成分径、突起部径とした。測定倍率についてはサンプルサイズによって適宜変更すれば良い。
【0065】
[中心成分と突起部の界面長]:(株)キーエンス社製マイクロスコープVHX−500を用いて測定した。なお、図2および図3のAで示される様に、中心成分と突起部の接触開始点から接触終了点を結んだ直線の長さを界面長と定義した。
【0066】
[モノフィラメントの破断強度、伸度]:オリエンテック社製テンシロン引張り試験機を用い、JIS L1013の方法に従って試長250mm、引張速度300mm/minの条件で引張試験を行い、得られた強伸度曲線より破断強力と破断伸度を求めた。JIS L1013に従い、シイベル機械(株)製 メトラーAE240を用いた繊度測定を行った。得られた破断強力を繊度で除すことで破断強度を得た。なお、各サンプルについて測定を5回行い、その平均値を求めた。
【0067】
[製糸性]:連続製糸を行った際の製糸長1万mあたりの糸切れ回数で評価した。
◎:生産性に非常に優れる(糸切れ回数<0.01回/1万m)
○:生産性に優れる(糸切れ回数=0.01〜0.05回/1万m)
△:安定生産可能(糸切れ回数=0.05〜0.2回/1万m)
×:安定生産不可(糸切れ回数>0.2回/1万m)
【0068】
[ストリング生産性]:連続生産を行った際の加工長1万mあたりの断糸回数で評価した。
◎:生産性に非常に優れる(断糸回数<0.01回/1万m)
○:生産性に優れる(断糸回数=0.01〜0.03回/1万m)
△:安定生産可能(断糸回数>0.03〜0.05回/1万m)
×:安定生産不可(糸切れ回数>0.05回/1万m)
【0069】
[モニター試験]:競技歴10年の競技者3名、及び、競技暦8年の競技者2名により打球感に関する2時間の実打試験をおこなった。比較例1記載の通常丸断面糸を用いたストリングを使用した際の打球感を3点とする下記5段階評価を各人が行い、その平均をモニター試験結果とした。なお、点数は四捨五入により小数点1桁まで求めた。
5:非常に柔らかい、4:柔らかい、3:普通、2:硬い、1:非常に硬い
【0070】
[耐久性試験]:競技歴10年の競技者3名、及び、競技暦8年の競技者2名による試打(2時間/日)を行い、ストリングが破断するまでの日数を測定した。なお、サンプル毎に2回/人の試行を行い、通常の丸断面モノフィラメントよりなる比較例1のストリングが破断するまでの日数を「1」とした際の相対比較を行った。なお、数値は点数を四捨五入により小数点1桁まで求め、5名の競技者の平均値を試験結果とした。
【0071】
(製造例)
[ストリング製造方法]:1.02倍のストレッチを付与した状態のモノフィラメントに220℃で溶融したアミランT−100L(東レ(株)製)を溶融ディップ法にて被覆した。被覆後のフィラメントは230℃の乾熱炉で1.05倍のストレッチを付与した状態で熱セットをした後、続けて230℃の乾熱炉で1%の弛緩処理を行って直径1.33mmのストリングを得た。
【0072】
[ストリングのラケットへの張設方法]:TOALSON社製電動ストリングマシーンを用いてラケット(Wilson社製Six.One BLX 105)にストリングを張設した。
【0073】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート樹脂(三井化学(株)製 J055)を110℃の真空乾燥機にて水分率が60±30ppmとなる様に乾燥した後、φ30mm(L/D=25)の1軸エクストルーダー(中心成分用)、及び、φ25mm(L/D=25)の1軸エクストルーダー(突起部用)を有する2成分複合溶融紡糸装置に供給して紡糸温度285℃で溶融した。
【0074】
溶融樹脂は延伸後の中心成分および突起部の径が表1記載となるようにギヤポンプで計量したのち、紡糸パック中で50μmの金属不織布フィルターで濾過し、図5(b)に示す口金から紡出した。なお、中心成分吐出孔と突起部吐出孔間距離は、表1記載の界面長となるように設計した。
【0075】
紡出したストランドを10℃の冷水で冷却固化した後、第一ローラにより8m/分の表面速度で回転する第1GRにより引き取り未延伸フィラメントを得た。引き取った未延伸モノフィラメントは一旦巻き取ることなく連続して第1GR―第2GR間で1段目の延伸を行い、次いで、第2GR―第3GR間で2段目の延伸を行った。この時、第1段目の延伸、及び、第2段目の延伸にはそれぞれ100℃、225℃の蓋付のドライオーブンを用い、1段目、及び、2段目の延伸倍率をそれぞれ3.5倍、1.5倍で延伸した。
【0076】
延伸後のフィラメントに第3GR―第4GR間で0.95倍の弛緩熱処理を施した後、ワインダーにて巻き取った。なお、熱処理は250℃の蓋付きドライオーブンを用いた。得られたモノフィラメントの物性を表1に示す。
【0077】
前述のストリング製造方法に従い、得られたフィラメントを用いてストリングを製造した時のストリング生産性を表1に示す。得られたストリングを前述の張設方法に従い、表1に示すテンションで張設した。得られたラケットを用いたストリング評価結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2)
突起部を形成する樹脂として、ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT)を用いたこと、及び、突起部用エクストルーダーの溶融温度を270℃としたこと以外は、実施例1と同様に行った。なお、PBTとしては東レ(株)製トレコン1200Sを用い、100℃の真空乾燥機にて水分率が100±30ppmとなる様に乾燥した。得られたモノフィラメントの特性、ストリング生産性、ラケット張設後のストリング評価結果を表1に示す。
【0079】
(比較例1)
突起部用エクストルーダーに樹脂を供給しないこと以外は、実施例1と同様に行った。得られたモノフィラメントの特性、ストリング生産性、ラケット張設後のストリング評価結果を表2に示す。
【0080】
(実施例3〜10、比較例2、比較例3)
突起部を形成する樹脂として、ポリアミド樹脂(以下、PA)を用いたこと、及び突起部用エクストルーダーの溶融温度を280℃としたこと以外は、実施例1と同様に行った。なお、PAとしてはナイロン6/ナイロン66共重合チップ(東レ(株)製M6241)70重量%、ホモナイロン6チップ(東レ(株)製M1021)30重量%のブレンド物を使用し、100℃の真空乾燥機にて水分率が100±30ppmとなる様に乾燥した。得られたモノフィラメントの特性、ストリング生産性、ラケット張設後のストリング評価結果を表1又は表2に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
表1、表2より明らかな様に、突起部の数、A/Bが本発明の範囲外にある比較例1〜3のモノフィラメント及びストリングは、耐久性が低く、モニター評価結果が悪かったのに対し、本発明のモノフィラメントは、製糸性および工程通過性のみならず、ソフトな打球感、優れた耐久性を同時に満足するものであった。
【0084】
また、モニター試験において、実施例2及び実施例3のストリングは、実施例1のストリングに比べて玉の捕まりが良いとのコメントがあった。これは実施例2及び実施例3のストリングを構成するモノフィラメントの突起部に使用した樹脂が、実施例1の樹脂よりも潰れ易いことに起因すると考えられる。
【0085】
(実施例11)
得られたモノフィラメントに、リング撚糸機を用いて8T/10cmの撚りを施したこと以外は、実施例2と同様に行った。得られたモノフィラメントの特性、ストリング生産性、ラケット張設後のストリング評価結果を表3に示す。
【0086】
(実施例12)
紡糸後モノフィラメントを、金属ボビンに巻き取った状態で98%硫酸を用いて表3記載の突起部径となるまで溶解した後、流水で洗浄し、室温で2日間乾燥させたこと以外は、比較例3と同様に実施した。得られたモノフィラメントの特性、ストリング生産性、ラケット張設後のストリング評価結果を表3に示す。
【0087】
【表3】

【0088】
表3より明らかな様に、撚糸又は溶媒処理によって中心成分と突起部の剥離したフィラメント及び、該フィラメントを用いたストリングは、フィラメントの製糸性はもちろんのこと、ストリングの生産性にも優れ、且つ、打球感、耐久性も優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の異形断面モノフィラメント、及びラケット用ストリングは、生産性良く得られ、且つ、優れた衝撃吸収性を有することから、従来のストリングと比較して競技者の肘への負担が小さいという特徴を有する。また、本発明のストリングは、従来のストリングでストリングの保護成分として使用されてきた皮糸が無い場合にも、実用に耐えうる耐久性を有することから、テニス、バドミントン、スカッシュ、ソフトテニス等のあらゆるラケットスポーツ分野に適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
1:異型断面モノフィラメントの中心成分
2:異型断面モノフィラメントの突起部
3:中心成分と突起部の剥離部
4:原料貯留ホッパー
5:1軸エクストルーダー
6:ギヤポンプ
7:紡糸パック
8:口金
9:冷却浴
10:第1GR
11:第2GR
12:第3GR
13:第4GR
14:蓋付きドライオーブン
15:巻取機
16:中心成分吐出孔
17:突起部吐出孔
A:界面長
B:突起部径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維軸を含む中心成分と、この中心成分の周縁に形成された少なくとも4つ以上の突起部とからなる異型断面形状を有するモノフィラメントであって、前記中心成分と前記突起部との接触界面長(A)及び前記突起部の最大径(B)が、式A/B≦0.6の関係を満たすことを特徴とする異形断面モノフィラメント。
【請求項2】
前記中心成分と突起部との少なくとも一部が剥離してなることを特徴とする請求項1記載の異形断面モノフィラメント。
【請求項3】
前記突起部の最大径が、前記中心成分の最大径の0.05〜0.4倍であることを特徴とする請求項1または2記載の異形断面モノフィラメント。
【請求項4】
前記突起部を形成する樹脂が、前記中心成分を形成する樹脂と異なることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の異形断面モノフィラメント。
【請求項5】
撚糸されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の異形断面モノフィラメント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の異形断面モノフィラメントを少なくとも一部に用いたことを特徴とするラケット用ストリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−75513(P2012−75513A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221301(P2010−221301)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)