説明

異径鋼管の接合構造

【課題】外管に内管を所定の長さだけ挿入し、外管と内管との隙間にグラウトを充填して二重管構造とした部分の接合に好適な接合構造を提供する。
【解決手段】シアキーを用いずに外管が支えている上部構造物などの重量をグラウトから内管に効率良く伝達させるように、二重管領域における外管1の内径または内管2の外径のいずれかを管軸方向に変化させ、グラウトにかかるせん断力の一部を内管2の径方向に作用させる。外管1に内管2が所定の長さだけ挿入され、外管1と内管2がグラウトを介して接合された二重管領域において、外管1の内径は管軸方向に一定で、内管2の外径は挿入した先端部に向かって漸次縮径し、または外管1の内径は端部に向かって漸次拡径し、内管2の外径は挿入した先端部に向かって管軸方向に一定とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸心を一致させて径の異なる鋼管同士をグラウトを介した二重管構造で接合する接合構造に関し、鋼管を塔本体とする塔状構造物基部において塔本体を外管とし、鋼管杭を内管として二重管構造となる部分の接合構造として好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管を主な構造部材とする構造物には、石油掘削用リグ、桟橋、風力発電設備があり、鋼管の接合構造には様々なものが用いられている。
【0003】
鋼管の接合構造を特許文献1では、従来の技術の説明において、1.突き合わせ溶接、2.ボルト接合、3.二重管構造、4.ねじ方式、5.いんろう方式、6.テーパ方式に分類しているがいずれも径寸法が同じ鋼管同士の接合構造である。
【0004】
一方、径寸法の異なる鋼管同士の場合、図8(a)、(b)、(c)に示す接合構造があり、モノパイル式洋上風力発電機(図9に概要構造を示す)などに用いられている。
【0005】
モノパイル式洋上風力発電機の場合、接合部11は上部構造9側を外管1、下部構造10側を内管2とする、グラウト3(コンクリート等)を介した図8(b)に示す二重管構造とするのが一般的で、図8(a)、(c)のように、鉄筋などを内管2や、内管2と外管1の両方に溶接したシアキー4(せん断力伝達部材)を設けることも多い。
【0006】
シアキー4(せん断力伝達部材)により、外管1と内管2の間のせん断力はグラウト3に効率良く伝達され、上部構造9の総重量は確実に内管2で支えられる。
【0007】
図8(b)に示す接合部の場合は、図8(a)、(c)のように、シアキー(せん断力伝達部材)4が無いため、グラウト3と鋼管の表面との付着が切れるとグラウト3にはせん断力が有効に作用せず、上部構造9の総重量を支える外管1は重力で落下する。
【0008】
また、特許文献1では管の内側を向く内向きフランジを形成した第1の中空管の端部に、第1の中空管より小径で、管の外側を向く外向きフランジを形成した第2の中空管を挿入し、両フランジ間に硬化剤を充填する中空管の接合構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−339937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、図8(a)(c)に示すシアキー4を取り付けた構造では、シアキー4の近傍の応力集中により作用応力が高くなるため、シアキー近傍でグラウト3が破壊する可能性がある。
【0011】
グラウト3がシアキー近傍で破壊すると、局所的な破壊であっても応力が再分配されるため、局所的な破壊にとどまらず全体的な破壊へと進展し、最終的に、シアキー4があっても外管1が上部構造の総重量を支えられず、下方に落下する。
【0012】
特許文献1記載の中空管の接合構造の場合は、第1の中空管に取り付けた内向きフランジの内側に、第2の中空管に取り付けた外向きフランジが挿入されるようにフランジの寸法を管理して製作したり、取り付ける作業が必要で、現地において接合部を組み立てる際の施工管理も容易でない。
【0013】
そこで本発明は、シアキーを用いない簡単な構造で、外管の重力による落下防止が可能で、モノパイル式洋上風力発電機などの基部構造に好適な接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記グラウトの管軸方向の断面が略楔状となるように前記第1の鋼管の内径または前記第2の鋼管の外径を管軸方向に漸次変化させたことを特徴とする異径鋼管の接合構造。
2.鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記第1の鋼管の内径は管軸方向に一定で、前記第2の鋼管の外径は挿入した先端部に向かって漸次縮径していることを特徴とする異径鋼管の接合構造。
3.前記二重管領域における、第2の鋼管の内径が外径に沿って漸次縮径していることを特徴とする2記載の異径鋼管の接合構造。
4.前記二重管領域における、第2の鋼管の内径は管軸方向に一定であることを特徴とする2記載の異径鋼管の接合構造。
5.鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記第1の鋼管の内径は端部に向かって漸次拡径し、前記第2の鋼管の外径は挿入した先端部に向かって管軸方向に一定であることを特徴とする異径鋼管の接合構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、異径の鋼管同士を接合する際、二重管領域における外管の内径または内管の外径のいずれかを管軸方向に変化させるので、シアキーを取り付けたり、外管や内管にフランジを取り付けることなく簡単な構造で外管と内管の隙間に充填されたグラウトが拘束されて安全性が格段に向上し、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例に係る異径鋼管の接合構造を説明する図で軸方向に軸心で切断した軸方向断面図。
【図2】図1に示した異径鋼管の接合構造における、内管の円錐台状の先端部の外観図。
【図3】本発明に係る外管と内管の接合構造の原理を説明する図で、(a)は外管が内管の鉛直方向の上方にある接合構造、(b)は(a)のA部におけるグラウトの楔効果を説明する図。
【図4】本発明の他の実施例に係る異径鋼管の接合構造を説明する図。
【図5】内管の円錐台状の先端部をLP鋼板で製造した場合の外観図。
【図6】本発明の他の実施例に係る異径鋼管の接合構造を説明する図。
【図7】(a)は二重管領域における外管の内径と内管の外径が一定で、グラウトが充填される空隙が管軸方向に変化しない場合の接合構造を示し(従来例)、(b)は(a)の場合のせん断力によるグラウトの変形を説明する図。
【図8】径寸法の異なる鋼管同士をグラウトを介して接合する接合構造の例を示し、(a)はシアキーを内管に取り付けた場合、(b)はシアキーを取り付けない場合、(c)はシアキーを内管と外管に取り付けた場合を示す図。
【図9】モノパイル式洋上風力発電機の概要構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明はシアキーを用いずに外管が支えている上部構造物などの重量をグラウトから内管に効率良く伝達させるため、グラウトの管軸方向断面が略楔状になるように二重管領域における外管の内径または内管の外径のいずれかを管軸方向に変化させることを特徴とする。以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施例に係る異径鋼管の接合構造を説明する図で軸方向に軸心で切断した軸方向断面図を示す。図において1は外管、2は内管、2aは内管2の先端部、3はグラウト、5は外管1の内部に内管2が挿入され、外管と内管の間にはグラウト3が充填されて二重管となっている領域を示す。
【0019】
外管1と内管2は、外管1の中に軸心を揃えて内管2が所定の長さだけ挿入されている。外管1の中に内管2が挿入されて二重管となっている領域5で、外管1と内管2はグラウト3を介して接合されている。グラウト3は、所望する接合強度が得られるように、領域5内の充填量を適宜調整する。
【0020】
図示した接合構造の場合、領域5における外管1の内径は管軸方向に一定で、内管2の外径は挿入した部分の先端に向かって漸次縮径し、グラウト3は管軸方向の断面形状が略楔状になって充填している。図2に、内管2の外径が先端に向かって漸次縮径する、円錐台状の先端部2aの一例を外観図で示す。内管2の内径は外径に沿って漸次縮径している。
【0021】
図3は、本発明に係る外管1と内管2の接合構造の原理を説明する図で、(a)は外管1が内管2の鉛直方向の上方にある接合構造、(b)は(a)のA部におけるグラウト3の楔効果を説明する図を示す。
【0022】
外管1の自重及び外管1が支持する荷重によるせん断力(矢印aで方向を示す)によりグラウト3にはせん断ひずみγ(矢印b間)が発生する。せん断力(矢印aで方向を示す)によるグラウト3の変形は弾性変形なので、せん断ひずみγ(矢印b間)による体積変形分Cが発生しようとするが外管1により阻止され、楔効果が発生する。
【0023】
グラウト3は内管2の先端部2aと外管1との間で管軸方向の断面形状が略楔状となって拘束されているため、外管1と内管2の空隙が狭くなる鉛直方向の下方において、体積変形分cに応じた力で外管1が外に向かって押される、押し込み力に対する抵抗力、即ち楔効果としての抵抗力が得られ、外管1の落下が防止される。グラウト3が充填される空隙の傾斜により、楔効果が発生し、シアキーを用いた場合のような局所的な応力集中を生ずることなく確実に力を伝達できる接合構造が得られる。
【0024】
尚、二重管領域における外管1の内径と内管2の外径が一定で、グラウト3が充填される空隙が管軸方向に変化しない場合(図7(a))、せん断力aによりグラウト3にはせん断ひずみγが発生するが、グラウト3は内管2、外管1の距離を変えることなく変形する(図7(b))。この場合、内管2、外管1とグラウト3の接合は鋼とコンクリート間の付着力にのみ依存する。
【0025】
図4は本発明の他の実施例に係る異径鋼管の接合構造を説明する、軸方向に軸心で切断した軸方向断面図を示す。二重管領域における、内管2の外径は挿入した部分の先端に向かって漸次縮径し、内管2の内径は管軸方向に一定である場合を示す。
【0026】
図5に図4に示した内管2の先端部2aの外観図を示す。板厚が圧延方向に変化するLP鋼板(Longitudinally Profiled Plate、テーパ鋼板とも言う)6を用いて製造可能である。
【0027】
以上の説明では、グラウト3の管軸方向の断面形状を二重管領域の内管側が先細となる略楔状としたが、図6に示すように、二重管領域の外管側を先細とする略楔状としても良い。二重管領域の内管2の外径を一定とし、外管1の内径を端部に向かって漸次拡径する場合で、外管1の二重管領域をLP鋼板(Longitudinally Profiled Plate、テーパ鋼板とも言う)6とすることで製造可能である。
【0028】
本発明に係る異径鋼管の接合構造をモノパイル式洋上風力発電機の塔状構造物基部における上部構造(外管に相当)と鋼管杭(内管に相当)からなる下部構造の接合構造に適用すると、上部構造が重量により落下することが防止でき、安全性が格段に向上する。
【符号の説明】
【0029】
1 外管
2 内管
3 グラウト
4 シアキー
5 領域
6 LP鋼板部
7 せん断力
C 体積変形分
9 上部構造
10 下部構造
11 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記グラウトの管軸方向の断面が略楔状となるように前記第1の鋼管の内径または前記第2の鋼管の外径を管軸方向に漸次変化させたことを特徴とする異径鋼管の接合構造。
【請求項2】
鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記第1の鋼管の内径は管軸方向に一定で、前記第2の鋼管の外径は挿入した先端部に向かって漸次縮径していることを特徴とする異径鋼管の接合構造。
【請求項3】
前記二重管領域における、第2の鋼管の内径が外径に沿って漸次縮径していることを特徴とする請求項2記載の異径鋼管の接合構造。
【請求項4】
前記二重管領域における、第2の鋼管の内径は管軸方向に一定であることを特徴とする請求項2記載の異径鋼管の接合構造。
【請求項5】
鋼管径の異なる鋼管同士を軸心を一致させて接合する異径鋼管の接合構造であって、第1の鋼管内に第2の鋼管が所定の長さだけ挿入され、第1の鋼管と第2の鋼管がグラウトを介して接合された二重管領域において、前記第1の鋼管の内径は端部に向かって漸次拡径し、前記第2の鋼管の外径は挿入した先端部に向かって管軸方向に一定であることを特徴とする異径鋼管の接合構造。

【図2】
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【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−53425(P2013−53425A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191195(P2011−191195)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】