説明

異方導電性シートの製造方法

【課題】金型数を削減してコストを低減することができ、しかも、複数の導電突部のうち、外側に位置する導電突部の導電性を向上させることのできる異方導電性シートの製造方法を提供する。
【解決手段】磁界が作用する金型にシート層10をインサートし、シート層10がインサートされた金型に、導電性磁性粒子が分散した流動性の成形材料を充填してシート層10の表裏両面に複数の導電ピン20をそれぞれ配列してプレス成形する製造方法で、シート層10の複数の導電ピン20が成形される加工領域11を必要域12と不要域13とに区画して必要域12の少なくとも外側に不要域13を形成し、必要域12に、シート層10の表裏両面に位置する複数の導電ピン20を導通する貫通孔14を穿孔し、複数の導電ピン20のプレス成形後に不要域13の導電ピン20を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電気接合物、例えば回路基板と半導体パッケージや回路基板同士等を電気的に接続する異方導電性シートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回路基板と半導体パッケージとを電気的に接続する異方導電性シートを製造する場合には、図示しないが、磁界が作用する金型に、導電性磁性粒子が分散した流動性の成形材料を充填するとともに、磁界を作用させることにより、表裏両面に複数の導電ピンをそれぞれ並べ備えた異方導電性シートをプレス成形で製造するようにしている(特許文献1、2、3参照)。
【0003】
金型は、例えば強磁性体を用いて異方導電性シートのピン数に応じた専用品に構成され、一対の電磁石からなる磁極の間に介在して設置されている。成形材料は、例えば液状のシリコーンゴムに多数のニッケル粒子が混合することにより調製され、磁界が作用することにより、多数のニッケル粒子が金型の一対の磁極部間で磁界方向に連接して整列する。また、異方導電性シートは、例えばシート層の両面に複数の導電ピンがm×n行列のマトリックスに配列され、両面に配列された複数の導電ピンがシート層を介して相互に導通しており、厚さ方向で導電性を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3152166号公報
【特許文献2】特開2006‐93020号公報
【特許文献3】特開2000‐357573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来における異方導電性シートは、以上のように製造され、金型が異方導電性シートのピン数に応じた専用品に構成されるので、複数種の異方導電性シートを製造する場合には、ピン数に対応する複数の金型を用意しなければならず、コスト削減を図ることができないという問題がある。また、複数の導電ピンをプレス成形する場合、外側における成形材料の流動性が悪化することが少なくないので、複数の導電ピンのうち、四隅を含む外側の導電ピン中のニッケル粒子が磁界方向に均一に配向したり、整列せず、その結果、異方導電性シートの厚さ方向における導電性を十分に確保できないおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたもので、金型数を削減してコストを低減することができ、しかも、複数の導電突部のうち、外側に位置する導電突部の導電性を向上させることのできる異方導電性シートの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては上記課題を解決するため、磁界が作用する金型に絶縁性のシート層をセットし、このシート層がセットされた金型に、導電性磁性粒子が分散した流動性の成形材料を充填してシート層の両面に導電突部をそれぞれ成形する異方導電性シートの製造方法であって、
シート層の導電突部が成形される加工領域を必要域と不要域とに区画して必要域の少なくとも外側に不要域を形成し、これら必要域と不要域のうち少なくとも必要域に、シート層の両面に位置する複数の導電突部を導通する貫通孔を設け、不要域の導電突部を除去することを特徴としている。
【0008】
なお、シート層の不要域に離型処理を施すことが好ましい。また、シート層の不要域の両面に離型剤をそれぞれ塗布することができる。
【0009】
ここで、特許請求の範囲におけるシート層には、少なくとも各種のシートやフィルムが含まれる。導電突部は、各種の柱形や錐台形、ピン形等とすることができ、規則的あるいは不規則に配列して成形することができる。また、加工領域には、必要域と不要域、必要域、不要域を切断するためのミシン目等を適宜形成することができる。この加工領域の必要域と不要域とは、それぞれ単数複数のいずれでも良い。不要域は、成形材料の流動性悪化が予測される箇所、導電突部の成形が不要な箇所、シート層を分割したい箇所等に適宜形成することができる。
【0010】
本発明において、異方導電性シートを製造する場合には、シートの加工領域の少なくとも必要域に複数の貫通孔を設けてシート層を用意し、金型にシート層をセットして成形材料を充填するとともに、磁界を作用させることにより、両面に複数の導電突部をそれぞれ備えた異方導電性シートを成形する。異方導電性シートを成形したら、金型から異方導電性シートを取り外し、不要域の導電突部を除去すれば、必要数の導電突部を備えた異方導電性シートを製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも金型数を削減してコストを低減することができ、しかも、異方導電性シートの複数の導電突部のうち、外側に位置する導電突部の導電性を向上させることができるという効果がある。また、シート層の必要域の少なくとも外側に不要域を形成するので、必要域に、導電性磁性粒子が磁界方向に均一に配向した導電突部を集中させて成形し、不要域に、導電性磁性粒子が磁界方向に不均一に配向した導電突部を集中させることができる。
【0012】
また、シート層の不要域に離型処理を施せば、不要域から成形した導電突部を簡単に取り除くことができる。
さらに、シート層の不要域の両面に離型剤をそれぞれ塗布すれば、離型処理によりシート層が肉厚になるのを防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の実施形態における金型を用いた成形状態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図2】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の実施形態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図3】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の実施形態における不要域の導電ピンを除去した状態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図4】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の第2の実施形態を模式的に示す平面説明図である。
【図5】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の第2の実施形態を模式的に示す部分断面説明図である。
【図6】本発明に係る異方導電性シートの製造方法の第2の実施形態における異方導電性シートにハーフカットを施す状態を模式的に示す部分断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明すると、本実施形態における異方導電性シートの製造方法は、図1ないし図3に示すように、磁界が作用する金型1にシート層10をインサートし、このシート層10がインサートされた金型1に、導電性と磁性とを有する流動性の成形材料を充填してシート層10の両面に複数の導電ピン20をそれぞれ配列してプレス成形する製造方法であり、シート層10の加工領域11を必要域12と不要域13とに区画し、複数の導電ピン20のプレス成形後に不要域13の導電ピン20を除去するようにしている。
【0015】
金型1は、図1に示すように、例えば接離可能に相対向する上型2と下型3とを備え、これら上型2と下型3とが強磁性体を用いてそれぞれ構成されており、一対の電磁石からなる磁極の間に介在して設置される。金型1の上型2は、磁極に装着される型基板を備え、この型基板に、成形材料のキャビテイとなる磁極部が一体的に形成される。下型3についても、磁極に装着される型基板を備え、この型基板に、成形材料のキャビテイとなる磁極部が一体形成される。
【0016】
シート層10は、図1ないし図3に示すように、例えば所定の材料を使用して可撓性と絶縁性とを有する薄い平面矩形に成形され、複数の導電ピン20の成形される加工領域11が製造すべき異方導電性シートのピン数や成形材料の流動性に鑑みて必要域12と不要域13とに区画されており、これら必要域12と不要域13との間には、図示しない切断用のミシン目が必要に応じて型抜き形成される。
【0017】
シート層10の材料としては、特に限定されるものではないが、例えばポリエステル系、ポリプロピレン系、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ナイロン、ビニロン、アセテート、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアクリル、ポリ塩化ビニル、アクリル系樹脂等があげられる。
【0018】
加工領域11の必要域12には、複数の貫通孔14がm×n行列のマトリックスに所定のピッチ(例えば、0.3mm、0.5mm、0.8mm、1.0mm、1.25mmピッチ等)で並べて穿孔され、各貫通孔14がシート層10の表裏両面に位置する複数の導電ピン20を一体化して導通するよう機能する。これに対し、加工領域11の不要域13は、成形材料の流動性悪化が予測される箇所と導電ピン20の成形が不要な箇所のうち、少なくとも成形材料の流動性悪化が予測される必要域12の外側に形成されてシート層10の周縁部側に位置し、貫通孔14が穿孔されることなく所定の離型処理が施される。
【0019】
所定の離型処理としては、例えば不要域13の両面に再使用可能な剥離テープをそれぞれ着脱自在に粘着する方法、不要域13の両面にシリコーン系やフッ素系の離型剤15をそれぞれ塗布する方法等があげられる。これらの方法は、いずれでも良いが、厚み等を考慮すると、図2に示すように、不要域13の両面にシリコーン系やフッ素系の離型剤15をそれぞれ塗布する方法が最適である。
【0020】
このような必要域12と不要域13とは、例えば必要域12が平面矩形に形成される場合には、不要域13が必要域12を外側から包囲する平面枠形に形成されたり、必要域12を外側から包囲し、かつ細分する平面格子形等に形成される。また、必要域12が平面円形に形成される場合には、不要域13が必要域12を外側から包囲する平面リング形等に形成される。さらに、必要域12が細長い平面矩形に形成される場合には、不要域13が必要域12の外側である両端部にそれぞれ位置する島形等に形成される。
【0021】
成形材料は、例えば電気絶縁性の高分子材料に多数の導電性磁性粒子が分散することにより調製され、磁界が作用することにより、多数の導電性磁性粒子が金型1の一対の磁極部間で磁界方向に連接して整列する。この成形材料の高分子材料としては、未硬化の状態で導電性磁性粒子を配向可能な液状の高分子材料、例えば液状のシリコーンゴム、エチレンプロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム、フッ素ゴム、ポリエステル系ゴム、スチレンブタジエン系ゴム、軟質エポキシ樹脂、熱可塑性エラストマー等があげられる。
【0022】
これらの高分子材料のうち、温度特性、環境特性、電気特性等に優れるシリコーンゴムの使用が最も好ましい。シリコーンゴムが使用される場合には、フッ素系の離型剤15を選択すると良い。
【0023】
成形材料の導電性磁性粒子としては、特に限定されるものではないが、例えばニッケル、鉄、コバルト等の粒子、ガラスビーズやポリマーにニッケル、鉄、コバルト等がメッキされた粒子、これらの混合粒子等が該当する。
【0024】
導電突部である各導電ピン20は、成形材料の硬化により弾性を有する円錐台形に形成され、加工領域11の必要域12と不要域13とにそれぞれ配列される。この導電ピン20は、必要域12に配列される場合には、必要域12の貫通孔14を介して表裏一対(図2、図3では上下一対)をなし、異方導電性シートの製造後に複数の電気接合物の電極間に圧接され、これらを電気的に導通接続するよう機能する。これに対し、不要域13に配列される場合には、不要域13に貫通孔14が穿孔されないので、複数の電気接合物の導通接続に資することがなく、異方導電性シートの完成前に除去される。
【0025】
上記において、異方導電性シートを製造する場合には、先ず、用意したシートの必要域12に複数の貫通孔14を穿孔し、不要域13に離型処理、具体的には不要域13の両面に離型剤15をそれぞれ塗布して乾燥させ、シート層10を完成させる。この際、必要域12については、実際に使用する導電ピン20の本数やその配列箇所を考慮して選定する。また、不要域13については、成形材料の流動性悪化が予測される必要域12の外側の他、最終的に導電ピン20を使用したくない箇所を考慮して選定する。
【0026】
こうしてシート層10を完成させたら、金型1にシート層10をインサートして型締め(図1参照)し、この金型1に液状の成形材料を充填して加熱加圧するとともに、磁界を作用させることにより、表裏両面に複数の導電ピン20をそれぞれ並べ備えた異方導電性シートをプレス成形する。
【0027】
この際、成形材料は、金型1内の加工領域11を流動するが、必要域12や必要域12の外側以外の不要域13を流動する場合には、流動性に特に支障を来たさないので、金型1の一対の磁極部間で多数の導電性磁性粒子が磁界方向に均一に連接して整列する。これに対し、必要域12の外側に位置する不要域13を流動する場合には、流動性が悪化するので、金型1の一対の磁極部間で多数の導電性磁性粒子が磁界方向に不均一に連接したり、不揃いに整列することとなる。
【0028】
成形材料中の導電性磁性粒子をより均一に整列させたい場合には、金型1の成形圧力を脈動させたり、金型1をバンピングすれば良い。また、磁界を断続してパルス状に作用させたり、磁界を反転等させても良い。
【0029】
異方導電性シートが硬化したら、冷却した金型1を型開きして異方導電性シートを脱型(図2参照)し、電気接合物の導通接続に寄与しない不要域13の導電ピン20を離型剤15と共にあるいは単独で除去(図3参照)し、必要域12の導電ピン20のみを残すようにすれば、必要な本数の導電ピン20を備えた異方導電性シートを製造することができる。
【0030】
上記によれば、異方導電性シートのピン数に応じてシート層10を必要域12と不要域13とに区画し、不要域13の不要な導電ピン20を除去することができるので、導電ピン20の本数を自由に調整することができ、異方導電性シートの種類に応じて金型1を専用品に構成する必要が全くない。したがって、複数の金型1を個別に用意する必要がなく、コストや設備等を大いに削減することができる。
【0031】
また、必要域12の外側に位置する不要域13に導電性に支障を来たす導電ピン20を集中させて全て除去し、必要域12のシート層周縁部寄りに位置する導電性に優れる導電ピン20を従来における外側の導電ピン20として利用することができる。したがって、異方導電性シートの厚さ方向における導電性を十分に確保することが可能になる。
【0032】
次に、図4ないし図6は本発明の第2の実施形態を示すもので、この場合には、シート層10に、平面矩形の必要域12を形成するとともに、この必要域12を外側から包囲して二分する平面略日字形の不要域13を区画形成し、異方導電性シートの大きさを変更したり、複数の異方導電性シートを製造するようにしている。
【0033】
本実施形態において、異方導電性シートを製造する場合には、先ず、用意したシートの必要域12に複数の貫通孔14を穿孔し、不要域13に離型処理、具体的には不要域13の両面に離型剤15をそれぞれ塗布して乾燥させ、シート層10を完成させる。この際、シート層10の必要域12と不要域13との間にミシン目を形成したり、ハーフカット処理を施しても良い。
【0034】
シート層10を完成させたら、金型1にシート層10をインサートして型締めし、この金型1に液状の成形材料を充填して加熱加圧するとともに、磁界を作用させることにより、表裏両面に複数の導電ピン20をそれぞれ並べ備えた異方導電性シートをプレス成形する。
【0035】
次いで、冷却した金型1を型開きして異方導電性シートを脱型(図5参照)し、異方導電性シートの必要域12と不要域13との間にミシン目を形成したり、ハーフカット処理(図6の点線参照)を施し、電気接合物の導通接続に寄与しない不要域13の導電ピン20を離型剤15と共にあるいは単独で除去した後、ミシン目やハーフカットを利用して異方導電性シートの必要域12と不要域13とを分断すれば、所定の数の異方導電性シートを製造することができる。
【0036】
上記作業の際、ミシン目やハーフカットを利用して異方導電性シートの必要域12と不要域13とを分断し、その後、不要域13とその導電ピン20を共に除去するようにしても良い。その他の部分については、上記実施形態と略同様であるので説明を省略する。
本実施形態においても上記実施形態と同様の作用効果が期待でき、しかも、不要域13のない小型の異方導電性シートを容易に製造したり、一枚のシート層10を利用して異なるピン数の異方導電性シートを簡易に複数製造することができるのは明らかである。
【0037】
なお、上記実施形態ではシート層10の必要域12と不要域13との間にミシン目等を形成したが、何らこれに限定されるものではない。例えば、必要域12と不要域13とにミシン目等をそれぞれ形成しても良いし、必要域12のみにミシン目等を形成しても良く、不要域13のみにミシン目等を形成することも可能である。さらに、シート層10の必要域12と不要域13とに貫通孔14をそれぞれ穿孔し、異方導電性シートの製造後に余分な不要域13と共にその導電ピン20を除去しても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 金型
2 上型
3 下型
10 シート層
11 加工領域
12 必要域
13 不要域
14 貫通孔
15 離型剤
20 導電ピン(導電突部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界が作用する金型に絶縁性のシート層をセットし、このシート層がセットされた金型に、導電性磁性粒子が分散した流動性の成形材料を充填してシート層の両面に導電突部をそれぞれ成形する異方導電性シートの製造方法であって、
シート層の導電突部が成形される加工領域を必要域と不要域とに区画して必要域の少なくとも外側に不要域を形成し、これら必要域と不要域のうち少なくとも必要域に、シート層の両面に位置する複数の導電突部を導通する貫通孔を設け、不要域の導電突部を除去することを特徴とする異方導電性シートの製造方法。
【請求項2】
シート層の不要域に離型処理を施す請求項1記載の異方導電性シートの製造方法。
【請求項3】
シート層の不要域の両面に離型剤をそれぞれ塗布する請求項2記載の異方導電性シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−192454(P2011−192454A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−55968(P2010−55968)
【出願日】平成22年3月12日(2010.3.12)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】