説明

異方導電性接着剤、並びに該接着剤を用いた回路接続方法及び回路接続構造体

本発明は、ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する絶縁性接着成分と、該絶縁性接着成分中に分散され、表面に絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が形成された多数の絶縁被覆導電性粒子とを含有し、該絶縁性熱可塑性樹脂の軟化点が該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低いことを特徴とする異方導電性接着剤に関する。
この異方導電性接着剤においては、絶縁性接着成分が低温において短時間で硬化可能である。また導電性粒子が凝縮した場合であっても導通不良となること無く回路の短絡を防止できるため、この異方導電性接着剤は回路接続構造体の製造に非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異方導電性接着剤(Anisotropic−electroconductive adhesive)、並びに該
接着剤を用いた回路接続方法及び回路接続構造体に関し、さらに詳しくはLCD(Liquid Crystal Display)とフレキシブル回路基板やTAB(Tape
Automated bonding)フィルムとの接続、TABフィルムとプリント回路基板との接続、及び半導体ICとIC搭載回路基板との接続などの、微細な回路の電気的接続が必要な構造体に用いられる異方導電性接着剤、並びに該接着剤を用いた回路接続方法及び回路接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、技術の発展に伴って、電子機器は急速に小型化及び薄型化が進んでいる。これによって、微細回路間の接続又は微細回路と微小部品との間の接続が飛躍的に増大しているが、このような接続には異方導電性接着剤が用いられている。従来の異方導電性接着剤を用いた微細回路の接続方法は以下のとおりである。
【0003】
図1を参照すると、上基板10の下面及び下基板20の上面にそれぞれ互いに対向するように設けられた回路電極11と21との間に、絶縁性接着成分40とこの絶縁性接着成分40に分散された多数の導電性粒子50とからなる異方導電性接着剤30を介在させる。その後、上基板10と下基板20とを所定の温度および圧力で熱圧着させると、図2に示すように、回路電極11と21との間に介在する導電性粒子50が、対向する回路電極11と21とを電気的に接続させる。さらに、この熱圧着過程で隣接する回路の間には絶縁性が確保され得る。また、絶縁性接着成分40が完全に硬化されるので、上基板10と下基板20とは互いに堅固に接着する。しかし、図3の‘A’に示すように絶縁性接着成分40に分散された導電性粒子50が凝縮(condensed)すると、従来の異方導電性接着
剤は、隣接する回路電極の間を電気的に接続させて、短絡を引き起こすことがある。
【0004】
従来の異方導電性接着剤に用いられてきた接着成分は、大別して加熱および溶融により接着性が発現する熱可塑性タイプと、加熱および硬化反応により接着性が発現する熱硬化性タイプとに分けられる。
【0005】
熱可塑性樹脂を接着成分として用いた異方導電性接着剤を使用する場合は、接着の際に、加熱温度を熱可塑性樹脂の溶融温度以上に制御する必要があるが、熱可塑性樹脂を選択すれば、比較的低い温度で物体を接続でき、またこの接着剤を用いた接続には化学反応が伴わないため、短時間で物体を接続させることが可能である。このため、被接着物の熱による損傷を抑えることができる。しかし、このような接着剤を用いて回路を接続する場合、接続部の耐熱性、耐湿性及び耐薬品性には限界があるため、接続の信頼性および安定性に問題がある。
【0006】
熱硬化性樹脂を接着成分として用いた異方導電性接着剤を使用する場合は、加熱温度を該樹脂の硬化温度と同じに制御する必要がある。また十分な接着強度や接続信頼性を得るためには、硬化反応を十分に行わせると共に、約30秒の間、加熱温度を150℃〜200℃の間に維持する必要がある。このようなタイプの異方導電性接着剤は、十分に熱硬化した後には耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れるので、主流を占めている。
【0007】
熱硬化性樹脂の中でも特にエポキシ樹脂系の接着剤が主に用いられてきた。この接着剤は、高い接着強度が得られ、耐水性および耐熱性に優れているので、電気、電子、建築、
自動車、航空機などの各種の用途に多く用いられている。その中でも1液型エポキシ樹脂系接着剤は、主成分と硬化剤との混合が不要であり、使用が簡便であるため、フィルム状、ペースト状、粉体状の形態で広く用いられている。しかし、エポキシ樹脂系のフィルム状接着剤は作業性に優れているが、使用の際に、20秒くらいの接続時間であれば150℃〜180℃に加熱する必要があり、10秒くらいの接続時間であれば180℃〜210℃に加熱する必要がある。
【0008】
さらに、現状のエポキシ系接着剤は、高温で取り扱われるので、被接着物に熱的損傷を与えたり、熱的な膨脹又は収縮による寸法変化などの問題を発生させる。この接着剤を使用する場合には、生産性を向上させるため、接続時間を10秒以下に短縮させる必要もある。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、このような従来技術における問題点を解決しようとするものであり、本発明の目的は、短時間で回路接続を確保し、導電性粒子が凝縮される場合であっても回路の短絡を防止することができ、また導通不良のない高い信頼性を有する異方導電性接着剤を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、上記異方導電性接着剤を用いた回路接続方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、上記異方導電性接着剤を用いた回路接続構造体を提供することにある。
【0011】
本発明によれば、ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含む絶縁性接着成分と、該絶縁性接着成分に分散され、絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が導電性粒子の表面に形成された多数の絶縁被覆導電性粒子とを含有し、該絶縁性熱可塑性樹脂の軟化点が該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低いことを特徴とする異方導電性接着剤が提供される。
【0012】
上記絶縁性接着成分の発熱ピーク温度は、低温での急速な硬化の観点から、80℃〜120℃の範囲にあることが望ましい。
また、上記絶縁性熱可塑性樹脂からなる上記被覆層の厚さは、被覆層の絶縁性と被覆層の軟化による対向する電極間の電気的な接続性とを考慮すると、0.01〜10μmであることが望ましい。
【0013】
上記他の目的を達成するために、本発明は、(a)ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する絶縁性接着成分と、該絶縁性接着成分に分散され、軟化点が該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低い絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が導電性粒子表面に形成された多数の絶縁被覆導電性粒子とを含有する異方導電性接着剤を、互いに対向する回路電極をそれぞれが備えた基板間に介在させる工程と、(b)対向する該回路電極に接触する、該導電性粒子表面の該絶縁性熱可塑性樹脂被覆層の一部を、加熱加圧により除去することによって、対向する該回路電極同士を電気的に接続させる工程と、(c)回路電極同士が接着および固定されるように、上記絶縁性接着成分を硬化させる工程とを含むことを特徴とする回路接続方法を提供する。
【0014】
上記さらなる目的を達成するために、本発明は、互いに対向する回路電極をそれぞれが備えた基板間に、該回路電極同士が互いに電気的に接続されるように、ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する絶縁性接着成分と、該絶縁性接着成分に分散され、軟化点が該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低い絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が導電性粒子表面に形成された多数の絶縁被覆導電性粒子とを含有する異方導電性接着剤が介在していることを特徴とする回路接続構造体を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の異方導電性接着剤、これを用いた回路接続方法及び回路接続構造体についてさらに詳しく説明する。
本発明の異方導電性接着剤において、接着成分は基板間を堅固に接着・固定させるために用いられる。この成分は、ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含んでいる。低温での急速な硬化と保存性とを考慮すると、この成分の発熱ピーク温度は、80℃〜120℃であることが望ましい。
【0016】
上記ラジカル重合性化合物は、ラジカルによって重合する官能基を有する物質であって、単量体以外にオリゴマーなども使用可能であり、単量体とオリゴマーとを併用することも可能である。ラジカル重合性化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ビスフェノールAエチレングリコール変性ジアクリレート、エチレングリコールイソシアヌレート変性ジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレングリコールトリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレングリコールトリアクリレート、エチレングリコールイソシアヌレート変性トリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、トリシクロデカニルアクリレートなどのアクリレート系又はメタクリレート系の化合物を例に挙げることができる。特に、ジシクロペンテニル基及び/又はトリシクロデカニル基及び/又はトリアジン環を有するアクリレート系又はメタクリレート系の化合物は、耐熱性が高いため好ましく用いられる。
【0017】
この他にも、ラジカル重合性化合物には、マレイミド化合物、不飽和ポリエステル、アクリル酸、ビニルアセテート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどがあり、このようなラジカル重合性化合物は単独で又は組み合わせて用いられる。
【0018】
重合開始剤は、ラジカル重合性化合物を活性化して高分子ネットワーク構造又は高分子IPN構造を形成する機能を果たし、このような架橋構造の形成によって絶縁性接着成分は硬化される。この重合開始剤としては熱重合開始剤及び/又は光重合開始剤を用いることができる。重合開始剤の含量は、ラジカル重合性化合物の種類と、目的とする回路接着工程の信頼性および作業性に応じて調節できるが、ラジカル重合性化合物100重量%に対して0.1〜10重量%であることが望ましい。
【0019】
熱重合開始剤は、加熱によって分解されて遊離ラジカルを発生させる化合物であり、この熱重合開始剤としては、過酸化物、アゾ系化合物などを挙げることができ、特に有機過酸化物を用いることが望ましい。有機過酸化物は、分子内にO−O−結合を有しており、加熱によって遊離ラジカルを発生させて活性を示す。
【0020】
有機過酸化物は、ケトンペルオキシド類、ペルオキシケタール類、ハイドロペルオキシド類、ジアルキルペルオキシド類、ジアシルペルオキシド類、ペルオキシカーボネート類、ペルオキシエステル類などに分類される。
【0021】
ケトンペルオキシド類としては、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシドなどを挙げることができ;
ペルオキシケタール類としては、1、1−ビス(t−ブチルペルオキシシクロヘキサノ
ン)、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン
)などを挙げることができ;
ハイドロペルオキシド類としては、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロ
ペルオキシドなどを挙げることができ;
ジアルキルペルオキシド類としては、ジクミルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキ
シドなどを挙げることができ;
ジアシルペルオキシド類としては、ラウロイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどを挙げることができ;
ペルオキシジカーボネート類としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ビス−(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネートなどを挙げることがで
き;
ペルオキシエステル類としては、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシ(2−エチルヘキサノエート)、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、
1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートなどを挙げることができる。
【0022】
保存性、硬化性および接着性のバランスを考慮すると、ペルオキシケタール類およびペルオキシエステル類が好ましく用いられる。
さらに、無機過酸化物の熱重合開始剤として、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムなどを挙げることができ;アゾ系熱重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル及び4,4−アゾビス−4−シアノ吉草
酸を挙げることができる。
【0023】
前述した熱重合開始剤は単独で又は組み合わせて用いることができる。目的とする接続温度、接続時間、可用時間などを考慮して適切な重合開始剤を選択することによって、短時間でのラジカル重合性化合物の硬化を可能にする。
【0024】
さらに、熱重合開始剤の代わりに、光重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤は、ラジカル重合性化合物に準じて組み合わせて用いることも可能である。光重合開始剤としては、カルボニル化合物、硫黄化合物、アゾ系化合物などが挙げられる。
【0025】
本発明の異方導電性接着剤においては、絶縁性接着成分は、接着力および信頼性の向上の観点から、ラジカル重合性物質および重合開始剤と同様、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂系硬化剤、フェノール樹脂およびフェノール樹脂系硬化剤を共に用いることができる。上記ラジカル重合性化合物100重量%に対して、20〜200重量%の上記絶縁性接着成分を添加することが望ましい。
【0026】
さらに、本発明の異方導電性接着剤においては、絶縁性接着成分は、好ましくは熱可塑性樹脂を含有する。この熱可塑性樹脂としては、従来のエポキシ系接着剤において用いられている樹脂を用いることができ、特に、速く硬化させるために、ラジカル重合性化合物との相溶性の良い樹脂を用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−ブタジエン飽和共重合体、スチレン−イソプレン飽和共重合体、スチレン−エチレン−ブテン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート重合体、アクリルゴム、ウレタン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂 、ポリスチレン樹脂、ポ
リビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリイミド、熱可塑性エポキシ樹脂およびフェノール樹脂などを挙げることができる。接着力向上の観点からは、ウレタン樹脂又はフェノキシ樹脂を用いることが好ましい。上記異方導電性接着剤は、前述した熱可塑性樹脂を用いたフィルムの形態で製造できる。この場合熱可塑性樹脂は、末端に水酸基又はカルボキシル基を有していると、好ましくは接着力を向上させる。このような熱可塑性樹脂は単独又は組み合わせて用いられる。ラジカル重合性化合物の量に対する熱可塑性樹脂の量の比率は、10/90〜90/10であることが望ましく、30/7
0〜70/30であることがさらに望ましい。
【0027】
また、本発明の異方導電性接着剤には、必要であれば、充填材、軟化剤、促進剤、着色剤、難燃化剤、光安定剤、カップリング剤、重合禁止剤などをさらに添加してもよい。例えば、充填材を添加すると接続信頼性を向上させることができ、カップリング剤を添加すると異方導電性接着剤の接着面の接着性を改善させ、接着強度、耐熱性または耐湿性を向上させて接続信頼性を増大させることができる。このようなカップリング剤として、特にシランカップリング剤、例えばβ−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0028】
本発明の異方導電性接着剤を構成する絶縁被覆導電性粒子は、次のような手順で製造される。
絶縁性熱可塑性樹脂で被覆される導電性粒子は、回路間を確実に電気的に接続できるものであれば、いずれも用いることができる。例えば、図5の(a)及び(b)に示すように、導電性粒子としてニッケル、鉄、銅、アルミニウム、スズ、亜鉛、クロム、コバルト、銀、金などの金属、又は金属酸化物、はんだ、カーボンなど、それ自体が導電性を有する粒子を用いることができる。あるいは、ガラス、セラミック、ポリマーなどの核材153の表面に、無電解めっき法などの薄層形成方法によって金属薄層154を形成している粒子を導電性粒子151として用いることができる。特に、各高分子核材表面に金属薄層が形成された導電性粒子は、加圧工程で加圧方向に変形されることによって電極との接触面積が増加し、電気的接続信頼性が向上する。
【0029】
高分子核材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどの各種のアクリレート;ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリ塩化ビニル;フッ素樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール−ホルマリン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリールフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ポリイソシアネート樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂などの様々な高分子樹脂から製造することができ、これら樹脂は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。さらに、必要に応じて、架橋剤、硬化剤などの添加剤を添加し、これらを反応させて架橋構造が形成された高分子樹脂も用いてもよい。このような核材は、乳化重合法、懸濁重合法、非水分散重合法、分散重合法、界面重合法、in−situ重合法、液中硬化被覆法、液中乾燥法、融解分散冷却法、スプレードライ法などの方法により製造することができる。上記導電性粒子は、粒径が回路電極の間隔よりも小さいことが望ましい。その粒径は望ましくは0.1〜50μm、さらに望ましくは1〜20μm、最も望ましくは2〜10μmである。
【0030】
導電性粒子の表面に形成される被覆層の材料は、絶縁性と熱可塑性との両特性を有しており、その軟化点が絶縁被覆導電性粒子が分散される絶縁性接着成分の発熱ピーク温度より低い樹脂であればいずれの樹脂でも用いることができる。この絶縁性熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン及びその共重合体、ポリスチレン及びその共重合体、ポリメチルメタクリレート及びその共重合体、ポリ塩化ビニル及びその共重合体、ポリカーボネート及びその共重合体、ポリプロピレン及びその共重合体、アクリル酸エステル系ゴム、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、フェノキシ樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、ポリウレタンなどを挙げることができる。このような樹脂は単独で又は2種以上を混合して用いることができ、また適宜に変性して用いることもできる。
【0031】
上記絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層を上記導電性粒子の表面に形成する方法としては、静電塗装法、熱溶融被覆法、溶液塗布法、ドライ・ブレンド法のような公知の被覆方法を用いることができる。たとえば、樹脂粒子の表面に溶液塗布法によって金属薄層が形成されている導電性粒子に絶縁性熱可塑性樹脂を被覆する方法は、以下のとおりである。まず、金属薄層が形成された樹脂粒子とその表面に被覆される絶縁性熱可塑性樹脂との結合を容易にするために、シランカップリング剤又はチタン系カップリング剤のようなカップリング剤を用いて粒子の表面を処理する。例えば、金属薄層が樹脂粒子の表面に形成された導電性粒子をシランカップリング剤溶液に均一に分散させ、約1時間撹伴した後乾燥すると、シランカップリング剤で表面処理された導電性粒子を得ることができる。続いて、表面処理された導電性粒子を、この表面処理された導電性粒子の被覆に用いる絶縁性熱可塑性樹脂溶液に溶解させて均一に分散させる。その後、導電性粒子が分散された絶縁性熱可塑性樹脂溶液を非イオン性乳化剤水溶液に滴下しつつホモジナイザーを用いて均一に分散させた後に凍結乾燥すると、絶縁性熱可塑性樹脂で被覆された絶縁被覆導電性粒子を得ることができる。
【0032】
絶縁性熱可塑性樹脂被覆層の厚さは望ましくは0.01〜10μm、さらに望ましくは0.05〜5μm、最も望ましくは0.2〜2μmであり、導電性粒子の粒径に対する該被覆層の厚さの比率は1/100〜1/5、さらに望ましくは1/50〜1/10である。絶縁性熱可塑性樹脂の被覆層の厚さが薄すぎると絶縁性が低下し、一方、厚さが厚すぎると、加熱加圧の際ですら、回路電極と接触する加圧方向の絶縁被覆層が除去されないことがあり、導通不良が生じ得る。
【0033】
絶縁被覆導電性粒子の含有量は、絶縁性接着成分100重量%に対して0.1〜30重量%であることが望ましい。導電性粒子の表面に絶縁被覆層が形成されているため、導電性粒子が凝縮される場合ですら、導電性粒子の間にはいかなる電気的接続も、それによる短絡も生じない。このような理由から、絶縁被覆導電性粒子の比率は、絶縁性接着成分の重量の1/3程度にまで増やすことができる。
【0034】
以下、本発明の異方導電性接着剤を用いて回路を接続する際の作用について説明する。
図4を参照すると、導電性粒子151の表面に絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層152が形成された多数の絶縁被覆導電性粒子150が、絶縁性接着成分140に分散している。導電性粒子151の表面に形成された被覆層152を成す絶縁性熱可塑性樹脂は、その軟化点が絶縁性接着成分140の発熱ピーク温度よりも低い。ここで、発熱ピーク温度とはDSC(示差走査熱量計)を用いて接着成分の温度を周囲温度から10℃/分の割合に上昇させる際に測定される、発熱が最大となる温度(a maximum exothermic temperature)を意味する。即ち、発熱ピーク温度では、反応が最も急激に起こる。回路は、次に、異方導電性接着剤130を用いて下記のように接続される。
【0035】
まず、前述した異方導電性接着剤130を、互いに対向する回路電極11および21をそれぞれ備えた上基板10と下基板20との間に介在させる(図6)。
続いて、所定の温度と圧力で加熱加圧すると、絶縁性接着成分140が硬化する前に、被覆層152の中の絶縁性熱可塑性樹脂が軟化する。このようにして、回路電極11および21に接触する、加圧方向の被覆層152の一部が除去され、その結果回路電極11と21とは導電性粒子151を通じて電気的に接続される。一方、加圧方向ではない部分の被覆層は軟化されても導電性粒子151の表面から離脱しないので、絶縁被覆導電性粒子150が凝縮しても隣接する電極間には絶縁性が維持され、短絡を防止することができる。もし、導電性粒子151の表面に形成された被覆層152を成す絶縁性熱可塑性樹脂の軟化点が絶縁性接着成分140の発熱ピーク温度よりも高いと、被覆層152が軟化する前に絶縁性接着成分140が硬化するため、回路電極11および21に接触する、加圧方向の絶縁被覆層が除去されず、導通不良が生じるようになる。
【0036】
その後、上基板10と下基板20とが堅固に接着・固定されるように、絶縁性接着成分140が完全に硬化される。こうして、本発明の異方導電性接着剤により対向する回路電極間が電気的に接続された、信頼性の高い回路接続構造体が形成される。
【0037】
以下、本発明を具体的に説明するため実施例を挙げて詳しく説明する。しかし、本発明による実施例は様々な形態に変形することができ、本発明の範囲が以下に記述する実施例に限定されるものとして解釈されてはならない。本発明の実施例は、当業界において通常の知識を持つ者に対して本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【実施例1】
【0038】
絶縁被覆導電性粒子の製造
金属で被覆された粒子(積水化学社製、商品名:Micropearl AU205TM、50μm)からなる導電性粒子を、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Aldrich社製)5重量%のアセトン溶液に入れて均一に分散させた後、乾燥させて、表面処理された導電性粒子を得た。続いて、この表面処理された導電性粒子3gを、n−ヘキサン15gにポリスチレン(Novaケミカル社、商品名:STYROSUN 2158TM、軟化点96℃)3gを溶解させた溶液に添加した。その後、この溶液を非イオン性乳化剤(Srobitan monolaurate)を含有する溶液100gに徐々に添加しながらホモジナイザーを用いて均質に混合させた後、凍結乾燥させて、ポリスチレンで被覆された導電性粒子である、絶縁被覆導電性粒子を得た。被覆層の厚さは0.7mmであった。
【0039】
異方導電性接着剤の製造
フェノキシ樹脂(Inchem社製、商品名:PKHCTM、平均分子量45,000)50gを、トルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)およびアセトン(沸点56.1℃、SP値10.0)が50:50の重量比で混合された混合液に溶解させて、固形分が40%である溶液を製造した。続いて、固形分重量比でフェノキシ樹脂50g、ラジカル重合性化合物としてのトリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート樹脂(共栄社化学株式会社製、商品名:80MFATM)50g、重合開始剤としてのt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(SEKI ATOFINA製、商品名:Ruperox26TM)3gになるように配合して絶縁性接着成分を製造し、ここに前述したように製造した絶縁被覆導電性粒子を、接着成分100重量%に対して3重量%の割合で配合し、均一に分散させて異方導電性接着剤を製造した。その後、片面を表面処理した厚さ50μmのPETフィルムに、アプリケータを用いて異方導電性接着剤を塗布し、70℃で10分間熱風乾燥させて、接着剤層の厚さが35μmである異方導電性接着剤フィルムを得た。ここで、絶縁性接着成分の発熱ピーク温度は、測定した結果107℃であった。
【実施例2】
【0040】
フェノキシ樹脂(Inchem社製、商品名:PKHCTM、平均分子量45,000)50gを、トルエン(沸点110.6℃、SP値8.90)およびアセトン(沸点56.1℃、SP値10.0)が50:50の重量比で混合された混合液に溶解させて固形分が40%である溶液を製造した。続いて、固形分重量比でフェノキシ樹脂50g、トリヒドロキシエチルグリコールジメタクリレート樹脂(Kongyoungsa Fat & Oil製、商品名:8
0MFATM)30g、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(Segiatopina
製、商品名:Ruperox26TM)1.8g、熱硬化性フェノール樹脂(KOLONケミカル製、商品名:KRD−HM2TM)20gと硬化剤(ヘキサメチレンテトラミン、HMTA)1gになるように配合して絶縁性接着成分を製造し、ここに実施例1の絶縁被覆導電性粒子を、接着成分100重量%に対して3重量%の割合で配合し、均一に分散させて異方導電性接着剤を製造した。その後、片面にヘテロ処理(hetero-treated)した厚さ
50μmのPETフィルムに、アプリケータを用いて異方導電性接着剤を塗布し、70℃で10分間熱風乾燥させて、接着剤層の厚さが35μmである異方導電性接着剤フィルムを得た。ここで、絶縁性接着成分の発熱ピーク温度は、測定した結果109℃であった。[比較例1]
絶縁被覆導電性粒子の絶縁被覆層の原料樹脂として、軟化点が96℃である実施例1のポリスチレン(Novaケミカル社製、商品名:STYROSUN 2158TM)の代わりに、軟化点が122℃であるポリスチレン(Novaケミカル社製、商品名:DYLARK 232TM)を用いたことを除いては実施例1と同じ方法で、異方導電性接着剤フィルムを製造した。
【0041】
線幅50μm、ピッチ100μm、厚さ18μmの銅回路を500個有するフレキシブル配線板(FPC)間に、実施例1、2及び比較例1においれ製造した異方導電性接着剤フィルムをそれぞれ介在させた。異方導電性接着剤フィルムの接着面を一方のFPCの面上に貼り付けた後、70℃、5kg/cm2で5秒間加熱加圧して幅2mmにわたって仮
接続させた。その後、異方導電性接着剤フィルムをもう一方のFPCの面と接続して、回路を接続するために、PETフィルムを剥離した。続いて、160℃、30kg/cm2
で10秒間加熱加圧して回路接続構造体を完成させた。
【0042】
このように製造した回路接続構造体の接着力、接続抵抗、及び65℃、相対湿度95%の条件下で1000時間経過後の接続抵抗の信頼性を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1を参照すると、本発明の実施例1および2の異方導電性接着剤を用いた回路接続構造体は、接着力、接続抵抗及び接続抵抗の信頼性のすべてが良好であることがわかる。
一方、比較例1が高い接続抵抗を示したのは、導電性粒子の絶縁被覆層を構成するポリスチレン樹脂の軟化点(122℃)が絶縁性接着成分の発熱ピーク温度(107℃)より高いため、絶縁被覆導電性粒子の絶縁被覆層が軟化して十分に除去される前に接着成分が硬化したためであると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
前述したように、本発明の異方導電性接着剤は低温で急速な硬化が可能であるため、生産効率を著しく高めることができる。さらに、導電性粒子が凝縮される場合ですら、導通不良となることなく回路の短絡を防止できるため、本発明の異方導電性接着剤は回路接続構造体の製造に非常に有用である。
【0046】
本発明は詳細に述べられた。しかし、詳細な説明と特定の実施例は、本発明の好ましい具体的態様を示しているものの、説明のために与えられたに過ぎず、本発明の精神および範囲の中では、当業者には様々な変更および改良が明らかになると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は、互いに対向する回路電極を備えた基板間に介在させた従来の異方導電性接着剤を示した概略図である。
【図2】図2は、従来の異方導電性接着剤によって電気的に接続された回路接続構造体を示した概略図である。
【図3】図3は、従来の異方導電性接着剤によって電気的に接続された回路接続構造体の短絡を示した概略図である。
【図4】図4は、本発明の一実施態様による異方導電性接着剤を示した断面図である。
【図5】図5は、本発明の異方導電性接着剤に分散された絶縁被覆導電性粒子を示した断面図である。
【図6】図6は、互いに対向する回路電極を備えた基板間に介在させた本発明の異方導電性接着剤を示した概略図である。
【図7】図7は、本発明の異方導電性接着剤を用いて電気的に接続された回路接続構造体を示した概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する絶縁性接着成分と、
該絶縁性接着成分中に分散され、絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が導電性粒子の表面に形成された多数の絶縁被覆導電性粒子と
を含有し、
該絶縁性熱可塑性樹脂の軟化点が、該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低い
ことを特徴とする異方導電性接着剤。
【請求項2】
上記絶縁性接着成分の発熱ピーク温度が、80℃〜120℃の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性接着剤。
【請求項3】
上記絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層の厚さが、0.01〜10μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性接着剤。
【請求項4】
上記導電性粒子が、核材表面に金属薄層を形成することにより製造されることを特徴とする請求項1又は3に記載の異方導電性接着剤。
【請求項5】
上記絶縁性接着成分が、熱硬化性樹脂及び硬化剤をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項6】
上記ラジカル重合性化合物が、アクリレート系又はメタクリレート系化合物であることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性接着剤。
【請求項7】
上記重合開始剤が、有機過酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項8】
上記絶縁性接着成分が、熱可塑性樹脂をさらに含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項9】
(a)ラジカル重合性化合物と重合開始剤とを含有する絶縁性接着成分と、
該絶縁性接着成分中に分散され、軟化点が該絶縁性接着成分の発熱ピーク温度よりも低い絶縁性熱可塑性樹脂からなる被覆層が導電性粒子表面に形成された多数の絶縁被覆導電性粒子と
を含有する異方導電性接着剤を、互いに対向する回路電極をそれぞれが備えた基板間に介在させる工程と、
(b)対向する該回路電極に接触する、該導電性粒子表面の該絶縁性熱可塑性樹脂被覆層の一部を、加熱加圧により除去することによって、対向する該回路電極同士を電気的に接続させる工程と、
(c)回路電極同士が接着および固定されるように、上記絶縁性接着成分を硬化させる工程と
を含むことを特徴とする回路接続方法。
【請求項10】
互いに対向する回路電極をそれぞれが備えた基板間に、該回路電極が互いに電気的に接続されるように、請求項1に記載の異方導電性接着剤が介在していることを特徴とする回路接続構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−509884(P2006−509884A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560672(P2004−560672)
【出願日】平成15年7月29日(2003.7.29)
【国際出願番号】PCT/KR2003/001515
【国際公開番号】WO2004/055126
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(502297933)エルジー ケーブル リミテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】LG Cable Ltd.
【Fターム(参考)】