説明

異方導電性接着剤

【課題】耐熱性、耐湿性の優れた異方導電性接着剤を提供する。本発明の異方導電性接着剤は実装時の流動特性に優れ、良好な導電/絶縁性能及び接着性能を有すると共に、高温高湿条件下で長時間使用されても特性の変化が少なく、高い信頼性が要求される用途に使用することができる。
【解決手段】エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー及び導電性粒子を必須成分とし、前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が65℃以上100℃以下であることを特徴とする異方導電性接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、回路等を設けた基板や電子部品等を接着し、かつ電気的に接続するための異方導電性接着剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器の小型化、高機能化の流れの中で、構成部品内の接続端子の微小化が進んでいる。このため、エレクトロニクス実装分野においては、そのような端子間の接続を容易に行える種々の異方導電性接着剤が広く使用されている。例えばICチップとフレキシブルプリント配線板(FPC)、ICチップとITO(Indium-Tin-Oxide)電極回路が形成されたガラス基板、等の接合に使用されている。
【0003】
異方導電性接着剤は絶縁性の樹脂組成物中に導電性粒子を分散させたフィルム状またはペースト状の接着剤であり、接続対象の間に挟まれ、加熱、加圧されて接続対象を接着する。すなわち、加熱、加圧により接着剤中の樹脂が流動し、それぞれの接続対象上の相対峙する電極間の間隙を封止すると同時に導電性粒子の一部が対峙する電極間に噛み込まれて電気的接続が達成される。異方導電性接着剤においては、厚み方向に相対峙する電極間の抵抗(接続抵抗)を低くするという導通性能と、面方向に隣り合う電極間の抵抗(絶縁抵抗)を高くするという絶縁性能が必要とされている。
【0004】
異方導電性接着剤を構成する絶縁性の樹脂組成物としては、主にエポキシ系の熱硬化性樹脂組成物が用いられている。例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と硬化剤を組み合わせた樹脂組成物が広く使用されている。
【0005】
異方導電性接着剤は液晶表示装置(LCD)等の精密機器周辺の接続に使用されるため高い接続信頼性が要求されている。そこで導通/絶縁性能に加え、耐環境性が求められており、たとえば高温高湿試験やヒートサイクル試験等によりその性能を評価している。ここで異方導電性接着剤に使用されるエポキシ系樹脂組成物は分子内に水酸基を含むため吸水性が高く、高温高湿試験で接続不良を生じる場合がある等、耐湿性に課題がある。また樹脂組成物は基板材料に比べると熱膨張率が高いため、ヒートサイクル試験下では基板と接着剤との熱膨張率の差に基づくストレスが接続部に生じ、接続部での接続抵抗が増大する場合がある。
【0006】
耐熱性及び耐湿性向上のため、特許文献1にはフェノキシ樹脂、ナフタレン系エポキシ樹脂及び潜在性硬化剤を必須成分とする接着剤組成物が開示されている。エポキシ樹脂としてナフタレン系エポキシ樹脂を使用することで、硬化物のTgを高くすることができる。また熱膨張率の低減及び耐湿性向上のため、樹脂組成物中に無機フィラーを添加する方法が提案されている。特許文献2には、エポキシ樹脂、潜在性硬化剤、無機フィラー及びポリエーテルスルホンからなり、該エポキシ樹脂と該潜在性硬化剤と該ポリエーテルスルホンの合計量100部あたり、該無機フィラーの含有量が5〜900重量部であるエポキシ樹脂系シート状接着剤組成物が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−315885号公報
【特許文献2】特開2000−204324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、耐熱性及び耐湿性の向上のためには、異方導電性接着剤に含まれる樹脂成分の硬化後のガラス転移温度(Tg)を高くすることが必要である。ガラス転移温度(Tg)が高いと高温域での熱膨張率が低減し、高温・高湿環境での特性変化が少なくなるからである。
【0009】
樹脂成分の硬化後のガラス転移温度(Tg)を高くするための方法として、ガラス転移温度(Tg)の高いフェノキシ樹脂が樹脂成分として使用されている。しかしガラス転移温度(Tg)の高いフェノキシ樹脂を使用すると異方導電性接着剤の接続信頼性が低下することがわかった。異方導電性接着剤は接続対象の間に挟まれ、加熱、加圧されて接続対象を接着するが、ガラス転移温度(Tg)が高いフェノキシ樹脂は加熱、加圧時に充分な流動特性を有さないため、接続対象である電極間に樹脂成分が必要量以上に残留し、残留した樹脂成分が硬化したものが絶縁被膜を形成して接続不良の原因となるからである。特に最近は低温、低圧での接続条件が求められており、このような条件においても充分な流動性を有することが接続信頼性の安定のために必要である。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決し、接着性、導通/絶縁性能等の基本特性を損なうことなく、高温高湿条件下での熱膨張を抑制し、かつ接続安定性を向上することのできる異方導電性接着剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー及び導電性粒子を必須成分とし、更に前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を最適化することで上記課題が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー及び導電性粒子を必須成分とし、前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が66℃以上100℃以下であることを特徴とする異方導電性接着剤である(請求項1)。
【0013】
比較的ガラス転移温度(Tg)の低いフェノキシ樹脂を使用することで、樹脂成分の流動性を高めることができ、その結果接続安定性を高めることができる。
【0014】
本発明に使用するフェノキシ樹脂は高分子量のエポキシ樹脂であり、本発明においては平均分子量が10000以上のものをいう。なお平均分子量はTHF展開のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から求められたポリスチレン換算の平均分子量を意味する。フェノキシ樹脂は、異方導電性接着剤のフィルム成形性を高めるために使用される。フェノキシ樹脂の平均分子量としては10000〜150000の範囲が好ましく、より好ましい範囲は10000〜80000である。
【0015】
ここで、フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)を66℃以上100℃以下とする必要がある。フェノキシ樹脂のTgが66℃未満であると、硬化後の異方導電性接着剤のTgが高くならず、耐熱性及び耐湿性が劣る結果となる。またフェノキシ樹脂のTgが100℃を超えると、接続時の加熱、加圧条件で樹脂成分が充分な流動特性を有さないため、接続対象である電極間に樹脂成分が必要量以上に残留し、残留した樹脂成分が硬化したものが絶縁被膜を形成して接続不良の原因となる。なお、ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱分析(DSC)により測定することができる。
【0016】
フェノキシ樹脂の含有量は、樹脂成分の合計重量の5重量%以上60重量%以下であることが好ましい。請求項2はこの好ましい態様に該当する。フェノキシ樹脂の含有量が5重量%未満であると、フィルム成形性の面で問題がある。また60重量%を超えると、硬化速度が低下し、硬化が不充分となる場合がある。更に好ましいフェノキシ樹脂の含有量は10重量%以上40重量%以下である。なお、ここでいう樹脂成分とは、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂を指すものとする。
【0017】
本発明に使用するエポキシ樹脂は、加熱時に速やかに硬化剤と反応し接着性能を発現するものである。エポキシ樹脂の種類は特に限定されないが、ビスフェノールA、F、S、AD等を骨格とするビスフェノール型エポキシ樹脂等の他、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が例示される。エポキシ樹脂の分子量は、異方導電性接着剤に要求される性能を考慮して適宜選択することができる。
【0018】
エポキシ樹脂としてナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を使用すると、硬化後の樹脂成分のガラス転移温度(Tg)を下げることなく、流動性を向上することができ、好ましい。硬化後のガラス転移温度(Tg)が高いことで接続後の耐熱、耐湿性が向上する。請求項3はこの好ましい態様に該当する。
【0019】
本発明に使用する硬化剤としては、エポキシ樹脂の硬化剤として公知のものを適宜選択して使用することができる。その中でも潜在性硬化剤を使用すると、保存安定性に優れ好ましい。潜在性硬化剤は低温での貯蔵安定性に優れ、室温ではほとんど硬化反応を起こさないが、加熱等により所定の条件とすると速やかに硬化反応を行う硬化剤である。潜在性硬化剤としては、イミダゾール系、ヒドラジド系、三フッ化ホウ素-アミン錯体、アミンイミド、ポリアミン系、第3級アミン、アルキル尿素系等のアミン系、ジシアンジアミド等、及びこれらの変性物が例示され、これらは単独または2種以上の混合物として使用できる。
【0020】
前記の潜在性硬化剤の中でも、イミダゾール系潜在性硬化剤が好ましく使用される。イミダゾール系潜在性硬化剤としては、公知のイミダゾール系潜在性硬化剤を使用することができ、具体的にはイミダゾール化合物のエポキシ樹脂との付加物が例示される。イミダゾール化合物としては、イミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-ドデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェ
ニル-4-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾールが例示される。
【0021】
さらに、これらの潜在性硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系等の高分子物質や、ニッケル、銅等の金属薄膜及びケイ酸カルシウム等の無機物で被覆してマイクロカプセル化したものは長期保存性と速硬化性という矛盾した特性の両立をより充分に達成するため好ましい。従って、マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が特に好ましい。
【0022】
前記エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂と潜在性硬化剤の配合割合は、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の合計重量に対し、5〜40重量%とするのが好ましい。潜在性硬化剤の割合が5重量%より少ない場合、硬化速度が低下し、硬化が不十分になる場合がある。また40重量%より多い場合、未反応の硬化剤が残留しやすくなり、耐熱、耐湿性を低下させる場合がある。
【0023】
本発明に使用する無機フィラーは異方導電性接着剤の熱膨張率を抑制し、また吸水率を低減することで耐熱性及び耐湿性を向上するものである。無機フィラーとしてはシリカ、アルミナ、酸化チタン等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、複合酸化物、等公知のものを使用することができる。無機フィラーとしてシリカフィラーを使用すると、熱膨張率低減効果と絶縁性向上効果が優れ、好ましい。
【0024】
無機フィラーの平均粒径は500nm以下とすることが好ましい。無機フィラーの平均粒径が小さくなるにつれて表面積が大きくなり、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂等の樹脂成分との相互作用を高めることができ、結果として少ない含有量で耐湿性向上効果が得られるからである。平均粒径の下限は特に制限しないが、作業性を考慮すると3nm以上とするのが好ましい。更に無機フィラーの平均粒径が100nm以下であると、耐湿性向上効果に優れ、好ましい。請求項4はこの好ましい態様に該当する。更に無機フィラーの最大粒径が5μm以下であると好ましい。
【0025】
無機フィラーの含有量が多いほど接着剤の吸水率は低くなり、耐湿性を向上することができる。しかし無機フィラーの含有量が多すぎると接着性が低下し、また接続時の加熱、加圧条件で充分な流動性を得られず、接続信頼性が低下するという問題が生じる。このため無機フィラーの含有量は樹脂成分の合計重量の0.5重量%以上30重量%以下であることが好ましい。更に好ましい無機フィラーの含有量は樹脂成分の合計重量の5重量%以上20重量%以下である。
【0026】
本発明に使用する導電性粒子としては、金、銀、銅、ニッケル及びそれらの合金などの金属粒子、カーボン、等が挙げられる。又、非導電性のガラス、セラミック、プラスチック、金属酸化物等の核の表面に、金属やITO等を被覆して導電層を形成したものでも良い。
【0027】
導電性粒子として、径と長さの比(アスペクト比)が5以上の導電性粒子を用いると、導電性粒子の含有量を増やすことなく接続抵抗を低くすることができ、良好な電気的接続を達成出来ると共に、面方向の絶縁抵抗をより高く保つことができ、好ましい。請求項5はこの好ましい態様に該当する。導電性粒子のアスペクト比は、CCD顕微鏡観察等の方法により直接測定する。断面が円でない粒子の場合は、断面の最大長さを径としてアスペクト比を求める。また、導電性粒子は必ずしもまっすぐな形状を有する必要はなく、多少の曲がりや枝分かれがあっても問題なく使用できる。この場合は導電性粒子の最大長を長さとしてアスペクト比を求める。アスペクト比が5以上の導電性粒子としては、市販の針状導電性粒子を使用することができる。また微細な金属粒子を多数つなげて針状に形成したものも好ましく使用できる。アスペクト比が10〜100であると更に好ましい。また導電性粒子の径が1μm以下であると、いわゆるファインピッチ電極の接続が可能となり好ましい。
【0028】
微細な金属粒子を形成する金属としては、Fe、Ni、Co等の強磁性を有する金属の単体又は強磁性を含む金属を含む複合体が挙げられる。強磁性を有する金属を用いると、それ自体が有する磁性により配向し、また後述するように磁場を用いて導電性粒子の配向を行うことができる。
【0029】
異方導電性接着剤の形状をフィルム状とし、上記のアスペクト比が5以上の導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向していると、異方導電性がさらに向上するので好ましい。請求項6はこの好ましい態様に該当する。なお、厚み方向に配向とは、導電性粒子の長手方向がフィルムの面に対して垂直方向に並んだ状態になっていることをいう。導電性粒子をフィルムの厚み方向に配向させる方法は特に限定されないが、前記のような強磁性を有する導電性粒子を用いる場合は、導電性粒子を樹脂用液中に分散し、得られた分散溶液を下地面と交差する方向に磁場を印加した下地上に塗布して、該導電性粒子を配向させ、下地上で溶媒の除去等により固化、硬化させて配向を固定する方法が好ましく例示される。
【0030】
導電性粒子の含有量は、異方導電性接着剤の全体積に対して0.01〜30体積%の範囲から選ばれ、用途により使い分ける。過剰な導電性粒子による面方向の絶縁性能低下を防ぐためには、0.01〜10体積%とするのがより好ましい。
【0031】
本発明の異方導電性接着剤には、本発明の趣旨を損なわない範囲で、前記の必須成分に加えて、他の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等を添加することが可能である。また硬化促進剤、重合抑制剤、増感剤、シランカップリング剤、難燃化剤、チキソトロピック剤等の添加剤を含有しても良い。
【0032】
本発明の異方導電性接着剤は、前記の各成分を混合することにより得ることができる。例えば前記エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、潜在性硬化剤等を溶媒に溶解した溶液中に無機フィラーと導電性粒子を分散させることで液状の異方導電性接着剤が得られる。またこの分散溶液をロールコーター等で塗工して薄い膜を形成し、その後溶媒を乾燥等により除去することによりフィルム状の異方導電性接着剤が得られる。膜の厚みは特に限定されないが、通常10〜50μmである。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、高い接続信頼性を有し、かつ耐環境性に優れる異方導電性接着剤を提供する。本発明の異方導電性接着剤は、電極間の接続等を行う際に、接続時の加熱・加圧によって速やかに流動することで良好な接続抵抗を得られると共に、高温高湿の環境下で長時間使用されてもその特性の変化が少なく、高い信頼性が要求される用途に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
(塗工溶液の作製)
エポキシ樹脂としてビスフェノールA型の液状エポキシ樹脂[大日本インキ化学工業(株)製、エピクロン850]及びナフタレン型エポキシ樹脂[大日本インキ化学工業(株)製、エピクロン4032D]、フェノキシ樹脂としてガラス転移温度が95℃のフェノキシ樹脂[インケム社製PKHJ]、潜在性硬化剤としてマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤[旭化成エポキシ(株)製、ノバキュアHX3941]とを、重量比で30/30/40/30の割合で用い、これらをγ−ブチロラクトンに溶解し固形分60%の樹脂組成物溶液を作製した。ここに無機フィラーとして平均粒径20nmの球状シリカ粒子をエポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂の合計重量に対して5重量%となるように加え、3本ロールによる混練を行って均一な溶液とした。更に導電性粒子として、1μmから8μmまでの鎖長分布を有する針状ニッケル粒子(平均粒径200nmのニッケル微粒子が針形状に連結したもの。アスペクト比:15〜55)を、固形分の総量(樹脂組成物+無機フィラー+ニッケル粉末)に対して1体積%となるように添加し、遠心ミキサーを用いて攪拌することで均一分散し、接着剤用の塗工溶液を調製した。
【0036】
(異方導電性接着剤の作製)
上記で調整した塗工溶液を、離型処理したPETフィルム上にドクターナイフを用いて塗布した後、磁束密度100mTの磁場中、65℃で30分間乾燥、固化させることによって、厚み25μmのフィルム状の異方導電性接着剤を得た。
【0037】
(接続抵抗評価)
幅15μm、長さ100μm、高さ16μmの金メッキバンプが15μm間隔で726個配列されたICチップと、幅20μm、スペース10μmで同数のITO電極が形成されたガラス基板とを用意した。このICチップと回路基板との間に前記で得られた異方導電性接着剤フィルムを挟み、180℃に加熱しながら、1バンプ当たり20gfの圧力で30秒間加圧して熱接着させ、ICとガラス基板との接合体を得た。この接合体の726個の電極のうち、ITO電極、異方導電性接着剤、及び金バンプを介して接続された連続する32個の抵抗値を四端子法により求め、その値を32で除することによって1電極当たりの接続抵抗を求めた。この評価を10回繰り返し、接続抵抗の平均値を求めた。
【0038】
(耐熱・耐湿試験)
前記のICとガラス基板との接合体を温度85℃、湿度85%に設定した恒温恒湿槽内に投入し、200時間経過後に取り出し、再び前記と同様にして接続抵抗の平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2)
フェノキシ樹脂として、ガラス転移温度が84℃のフェノキシ樹脂[インケム社製PKHB]を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚みが25μmのフィルム状の異方導電性接着剤を作製し、接続抵抗評価、耐熱・耐湿試験を行った。その結果を表1に示す。
【0040】
(実施例3)
フェノキシ樹脂として、ガラス転移温度が78℃のフェノキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)社製エピコート4250]を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚みが25μmのフィルム状の異方導電性接着剤を作製し、接続抵抗評価、耐熱・耐湿試験を行った。その結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
フェノキシ樹脂として、ガラス転移温度が65℃のフェノキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)社製エピコート4256]を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚みが25μmのフィルム状の異方導電性接着剤を作製し、接続抵抗評価、耐熱・耐湿試験を行った。その結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
フェノキシ樹脂として、ガラス転移温度が110℃のフェノキシ樹脂[ジャパンエポキシレジン(株)社製エピコート5580]を用いたこと以外は実施例1と同様にして厚みが25μmのフィルム状の異方導電性接着剤を作製し、接続抵抗評価、耐熱・耐湿試験を行った。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1の結果は、本発明(実施例)の異方導電性接着剤を用いて接着された場合は、初期の接続抵抗が低く、また高温高湿の環境下に長時間置かれた場合でも接続抵抗値の増加は小さく、優れた耐熱・耐湿性が達成できることを示している。一方、ガラス転移温度の低いフェノキシ樹脂を用いた比較例1では初期の接続抵抗は低いが、耐熱・耐湿試験後の接続抵抗値の増加率が大きく、耐熱、耐湿性が劣る結果となった。またガラス転移温度の高いフェノキシ樹脂を用いた比較例2では、初期の接続抵抗が高く、又抵抗値の増加率も大きい。これは接続時の流動性が低いことに起因していると考えられる。更にフェノキシ樹脂の含有量を樹脂成分の合計重量の70重量%とした比較例3も同様に初期の接続抵抗が高く、高く、更に抵抗値の増加率も大きい。この結果から明らかなように、本発明例の異方導電性接着剤を用いることにより、優れた接続性能及び耐熱耐湿性を達成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、硬化剤、無機フィラー及び導電性粒子を必須成分とし、前記フェノキシ樹脂のガラス転移温度(Tg)が66℃以上100℃以下であることを特徴とする異方導電性接着剤。
【請求項2】
前記フェノキシ樹脂の含有量が、樹脂成分の合計重量の5重量%以上60重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の異方導電性接着剤。
【請求項3】
前記エポキシ樹脂として、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の異方導電性接着剤。
【請求項4】
前記無機フィラーの平均粒径が100nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異方導電性接着剤。
【請求項5】
前記導電性粒子が、径と長さの比(アスペクト比)が5以上の導電性粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の異方導電性接着剤。
【請求項6】
形状がフィルム状であり、前記導電性粒子がフィルムの厚み方向に配向していることを特徴とする請求項5に記載の異方導電性接着剤。

【公開番号】特開2007−91959(P2007−91959A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285721(P2005−285721)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】