説明

異方性ボンド磁石および異方性ボンド磁石用コンパウンド

【課題】磁性粉もしくは樹脂に対して酸化防止剤などの特別な処理を施すこと無く、高い耐熱性を実現する。
【解決手段】粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が10vol%以下、かつ粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が20vol%以下の粒度分布を有する、Nd−Fe−B系HDDR異方性磁性粉末を、熱可塑性樹脂と共にコンパウンド化した後、射出成形によりすることにより、磁性粉もしくは樹脂に対して酸化防止剤などの特別な処理を施すこと無く、高い耐熱性を有する異方性ボンド磁石が提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い耐熱性を有する希土類異方性ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類元素を含有する希土類磁石の一形態として、希土類ボンド磁石が知られている。希土類ボンド磁石は、優れた磁気特性を有するとともに、複雑な形状にも比較的容易に対応できることから、モータなどの各種機器に使用されている。また、環境問題を踏まえ省エネルギーの観点から、自動車に搭載されるモータには小型軽量化・高効率化が図られており、それに伴って、優れた磁気特性を有する希土類ボンド磁石が求められている。
【0003】
このような車載用の永久磁石は、自動車等の車輌が様々な環境において駆動されることから、幅広い環境温度に対して、十分な磁気特性を有することが要求される。即ち、車載用の永久磁石には、温度変化に対して少ない減磁特性を持ち、耐熱性、耐久性、耐候性を有することが必要とされる。
【0004】
希土類ボンド磁石の成形プロセスは、圧縮成形と射出成形に大別され、用途に応じて使い分けられるのが一般的である。なかでも、射出成形によって作製される希土類ボンド磁石は、圧縮成形の場合に比べて磁石粉末の含有量は低いものの、磁場配向における磁石粉末の配向度が高く、形状自由度に優れ、さらには空隙の無い成形体を得ることが出来るため、耐食性の良い耐熱性に優れる磁石を得ることが出来る。
【0005】
ところで、従来、車載用モータには、優れた耐熱性、耐久性、耐候性を持つフェライト永久磁石材料が使用されてきた。しかしながら、フェライト永久磁石は、残留磁束密度若しくは磁力が比較的弱いため、必要な磁束を得るためには、磁石体積が大きくなり、モータ重量が重くなってしまう。よって、高出力化かつ小型軽量化などの要請から、フェライト永久磁石材料に代わって、小型でも高い残留磁束密度を持つ希土類磁石材料の使用が増え、その一例として、希土類ボンド磁石へ移行することが年々増加している状況にある。
【0006】
しかしながら、希土類永久磁石材料は、低温での減磁は発生しないものの、高温状態では減磁し、いわゆる熱減磁が大きい。それゆえに、希土類永久磁石材料を使用する場合には、熱減磁の抑制が必要である。
【0007】
この希土類永久磁石材料の熱減磁は、熱ゆらぎによる磁気余効と、磁石材料そのものにおける酸化による劣化と、によるものと考えられている。例えば、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、硼素(B)などを主成分とするNd−Fe−B系の希土類永久磁石では、主相であるNdFe14Bや、主相結晶粒の周辺に存在する粒界相(Ndリッチ相やBリッチ相)が酸化しやすい。これらの相が酸化劣化することにより、残留磁束密度Brや固有保磁力Hcjといった基本的な磁気特性が低下し、ひいてはモータなどの回転機器の特性(例えば、回転トルク)の低下に大きな影響を及ぼす。そのため、希土類永久磁石材料における酸化劣化防止の技術が、磁石特性、さらにはモータなどの回転機器の特性を決定する重要な要素となる。
【0008】
上記酸化劣化防止の要請に答えるべく、磁石本体そのものの表面をコーティングする方法が採用されており、例えば、当該コーティング方法にエポキシ樹脂によるものがある。すなわち、希土類永久磁石本体(希土類ボンド磁石)の表面をエポキシ樹脂でコーティングすることにより、外気に含まれる酸素または水が、基本的に、希土類永久磁石材料の表面と接触することを防ぎ、希土類永久磁石材料の表面や内部への侵入を防ぐことができる。しかしながら、エポキシ樹脂によるコーティング層を僅かに酸素が透過するため、長期間使用すると、希土類永久磁石材料が酸化する可能性が高くなる。また、希土類永久磁石材料の内部にも、空孔が含まれる場合があり、その中に存在する酸素を含んだ空気などが希土類永久磁石材料と接触するおそれがある。特に、圧縮成形によって作製される希土類永久磁石材料を含む希土類ボンド磁石は、その内部において、磁石材料の粉末および結合樹脂以外に、空孔が10vol%以上存在する場合が多く、磁石材料の粉末と酸素とが接触する可能性は無視できない。
【0009】
このことから、希土類ボンド磁石内部における磁石材料の粉末と酸素との接触を防ぐのに際して、従来の方法と異なり、個々の、希土類永久磁石材料の粉末を、別途、樹脂などでコーティングあるいは表面処理を行う方法がさらに必要とされる。
【0010】
例えば、このような希土類永久磁石粉末をコーティングあるいは表面処理する方法として、特許文献1に、表面処理された希土類系磁性粉及びその表面処理方法に関するものが提案されている。ここでは、有機ホスホン酸の塩によって希土類磁石粉末の表面に酸化防止被膜を有する表面処理を行うことにより、錆防止効果もしくは酸化防止効果を有する磁性粉の表面処理方法が記載されている。また、この表面処理した磁性粉を樹脂と混合して射出成形機または圧縮成形機を用いて、希土類ボンド磁石を作製することが提示されている。
【0011】
また、特許文献2においては、粒径が30μm〜500μmの希土類磁石粉末と有機リン系化合物が均一に分散された熱硬化性樹脂バインダからなるコンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化して希土類ボンド磁石を作製することで、高温環境下においても、耐熱性に優れ、さらには、均一に分散された有機リン化合物を含む樹脂バインダが、圧縮成形によって磁石粉末が破砕することで露出する新生面を、熱硬化中において覆い、酸化劣化や熱減磁に起因する磁石の磁気特性の低下を抑制できる、希土類ボンド磁石を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−244106号公報
【特許文献2】特開2009−99580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載された表面処理を行った磁性粉を用いた射出成形磁石は、優れた錆防止効果及び酸化防止効果を持ち、表面へのエポキシスプレー塗装等の後加工が不要となるが、車載用モータで求められるような高い環境温度における耐酸化性、あるいは熱減磁についての効果については言及されておらず、十分ではないと考えられる。
【0014】
また、特許文献2に記載された均一に分散された有機リン化合物を含む樹脂バインダからなる圧縮成形磁石は、180℃120時間という環境下では良好な耐熱性を示すものの、車載用途として要求されるような1000時間のような長時間での熱減磁や、耐酸化性については説明されておらず、十分ではないと考えられる。
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、十分に優れた耐熱性を有し、かつ高い残留磁束密度を有する異方性希土類ボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明では、軽希土類元素を含み、水素化分解・脱水素再結合法によって得られた磁性粉末と、熱可塑性樹脂とを混合し、樹脂ペレットとする第1工程と、上記ペレットを溶融させた後、磁場中成形して成形体を作製する第2工程とを有し、第1工程における磁性粉末は、平均粒径が50〜150μmであり、熱可塑性樹脂は主にポリフェニルサルファイド樹脂(以下PPSと称す)からなり、それらを混合し、ペレット化後、第2工程において前記樹脂ペレットを溶融させ、磁場を印加した中で金型内に射出、固化し所望の形状の異方性希土類ボンド磁石を得る。
【0017】
本発明によれば、十分に優れた耐熱性を有し、かつ残留磁束密度の高い異方性希土類ボンド磁石を製造することができる。このような効果が得られる要因は、以下のように推察される。すなわち、本発明では、磁性粉末として水素化分解・脱水素再結合法によって得られた高い異方性を有する磁性粉末を用いている。そして、該磁性粉末として、配向しにくい粒径の大きい磁性粉末を除いたものを用いているため、磁場中射出成形によって容易に磁場方向に配向し、高い残留磁束密度が得られる。
【0018】
また、酸化しやすい粒径の小さい磁性粉末を除き、かつ射出成形により空隙のない成形体を形成するため、酸化による特性低下を極力抑えることが出来ると共に、熱可塑性樹脂としてPPS樹脂を用いることで吸水性も小さく、空気や水分の透過が原因と考えられる磁性粉末の経時的な酸化も抑えられ、長期間に亘っての磁気特性の低下が小さくなる。
【0019】
さらには、粒子径の大きい磁性粉末が多い場合、射出成形磁石中で個々に孤立して位置する大粒子径の磁性粉末は、その反磁界が大きいため、高温での減磁が大きく、熱的経時変化が大きくなる。よって粒子径の大きい磁性粉末を減らし、磁石内では磁性粉末を連続的に均一に存在させることが、希土類ボンド磁石の耐熱性向上の要因となる。
【0020】
本発明では、使用する磁性粉末の粒径は30μmから150μmの範囲にあることが好ましい。これによって、優れた耐熱性を有する異方性希土類ボンド磁石となる。
【0021】
本発明では、粒径が30μmより小さい磁性粉末の体積比率が磁性粉末全体の10vol%以下であることが好ましい。これによって、一層優れた耐熱性と耐酸化性を有する希土類ボンド磁石を製造することができる。好ましくは粒径が30μmより小さい磁性粉末の体積比率は5vol%以下である。
【0022】
また、粒径が30μmより小さい磁性粉末の体積比率が磁性粉末全体の1vol%以上であることが好ましい。これにより小さい磁性粉末が、大きい磁性粉末の隙間に配列することで、磁石体中に空隙が生じることを抑え、耐酸化性を損なうことなく、かつ磁石内の磁性粉末が連続的に均一に存在することで耐熱性が向上する。
【0023】
本発明では、粒径が150μmより大きい磁性粉末の体積比率が磁性粉末全体の20vol%以下であることが好ましい。これによって、前述のように、大きい粒子径の磁性粉末が磁石体中に孤立して存在することを防ぎ、優れた耐熱性を有する異方希土類ボンド磁石となる。
【0024】
また、粒径が150μmより大きい磁性粉末の体積比率が磁性粉末全体の2vol%以上であることが好ましい。これによって、磁性粉末の充填が改善され、密度の向上と共に空隙が発生することを防ぐ。結果的に、磁性粉末の充填比率を高くすることが出来、磁気特性、特に残留磁束密度の高い射出成形磁石を提供することが出来る。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、高温においての酸化や減磁が小さいため、十分に優れた耐熱性と高い残留磁束密度を有する異方性希土類ボンド磁石を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る希土類ボンド磁石に用いた磁性粉末の粒度分布を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る希土類ボンド磁石の製造方法によって得られる希土類ボンド磁石の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る射出成形装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0028】
磁石粉末
本実施形態に用いられる磁性粉末はNd−Fe−B系磁性粉末として、HDDR(水素化分解・脱水素再結合、ydrogenation−ecomposition−esorption−ecombination)法で作製された異方性Nd−Fe−B系磁性粉末を使用する。これにより、高磁気特性を有するボンド磁石を作製することが出来る。
【0029】
磁性粉末の粒径は30μm〜150μmの範囲のものを用いる。30μmより小さい粒径の磁性粉末が存在しても良いが、30μmよりも小さい磁性粉末は酸化されやすく、耐酸化性の低下や熱減磁を大きくする原因となるため存在比率は10vol%以下にすることが好ましい。但し、小さい粒径の磁性粉末が存在しない場合、成形時の磁性粉の充填が悪くなり、空隙が生じやすく、高温下では酸化が進む原因となる。よって空隙を少なくするためにも1vol%以上存在することが好ましい。
【0030】
30μmより小さい粒径の磁性粉末の存在比率は5vol%以下にすることがより好ましい。
【0031】
150μmより大きい粒径の磁性粉末は、射出成形の場合、多く存在すると流動性が悪くなり、成形性の低下により薄肉状の磁石の生産性が悪くなると共に、配向性の低下につながり残留磁束密度が低下する。また、粒径の大きな磁性粉末が磁石中に孤立して存在すると、反磁界の影響により減磁しやすくなり高温での減磁が大きくなる。そのため存在比率は10vol%以下にすることが好ましい。但し、大きい粒径の磁性粉末が存在しないと磁性粉末の充填が悪くなり、密度の低下と共に空隙が発生しやすい。空隙は酸化の原因となり耐熱性が低下するため、150μmより大きい粒径の磁性粉末は2vol%以上必要である。
【0032】
有機バインダー
本実施形態では有機バインダーとして熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂は、所望とする成形性、耐熱性、機械的強度などに応じて、様々な種類の樹脂を選択することが可能であり、1種類の樹脂を単独で使用しても、2種類以上の樹脂を混合して使用しても良い。
【0033】
本実施形態では、熱可塑性樹脂成分の融点として、200〜400℃であることが好ましく、230〜350℃であることがより好ましい。熱可塑性樹脂成分の融点が200℃未満では、本実施形態における耐熱性が不十分である。また、融点が400℃を超えると、混練時や成形時の装置負荷が大きくなり、高温で混練、成形する必要があるために樹脂自体や磁性粉末の劣化が問題となる。また、有機バインダー原料としての形状は、粉末状、ビーズ形状、ペレット形状等、特に限定されないが、磁石粉末と均一に混合するためには粉末状であることがより好ましい。
【0034】
これらを鑑み、本実施形態では熱可塑性樹脂として、PPS(ポリフェニルサルファイド)樹脂やPA(ポリアミド)樹脂が用いられる。これらの樹脂を用いることで、十分な耐熱性を有し、成形性に優れたボンド磁石用コンパウンド及びボンド磁石を提供することが可能となる。
【0035】
ボンド磁石用コンパウンド
本実施形態におけるボンド磁石用コンパウンドは、磁石粉末の含有比率が79〜95質量%、熱可塑性樹脂の含有比率が5〜21質量%であることが好ましい。この範囲とすることで、熱可塑性樹脂の特徴である高耐熱性を損なうことなく、成形時の流動性や充填性を向上したボンド磁石用コンパウンドとなり、磁気特性、寸法精度や機械的強度などに優れたボンド磁石を提供することが出来る。
【0036】
本発明のボンド磁石用コンパウンドには、必要に応じて酸化防止剤、重金属不活性化剤等の添加剤を添加しても良い。ただし、本発明のボンド磁石用コンパウンドにおいては、製造中に250℃を超える高温に晒されるため、これら添加剤の使用時には、使用量を必要最小限にする、あるいは、高融点あるいは高分解温度の添加剤を適宜選択すれば良い。
【0037】
ボンド磁石
図2に、本実施形態におけるボンド磁石10の好適な一例を示す。図2に示すボンド磁石10の形態は、リング(円筒)形状であるが、本発明ではこの形状に限定されるものではなく、金型を変えることによって、所望の形状(例えば、柱状、平板状又はC型形状)を有するボンド磁石に適用可能である。
【0038】
ボンド磁石の製造方法
以下に、本発明の好適な実施形態に係るボンド磁石の製造方法について説明する。本実施形態におけるボンド磁石の製造方法は、混練・ペレット作製(コンパウンド化)工程、成形工程を含み、これからの工程を経て、ボンド磁石を製造することが出来る。各工程について以下に説明する。
【0039】
混練・ペレット作製(コンパウンド化)工程
本実施形態における混練・ペレット作製工程では、磁石粉末と熱可塑性樹脂を混練し、混練物をペレタイザなどでペレット状に成形する。混練は、例えばバッチ式ニーダー、二軸押出機などで行えば良い。ペレタイザとしては、例えば一軸押出機が用いられる。特に、二軸押出機などは、混練後にストランド(排出口)から連続的に排出される、棒状のコンパウンドを連続してカットすればペレットが作製出来るので、より好適である。混練およびペレット作製は、使用する熱可塑性樹脂の溶融温度に応じて加熱しながら実施されるが、250〜350℃であることが好ましく、280〜330℃であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態において、前述のコンパウンド中における磁石粉末の含有量は、好ましくは79〜95質量%、より好ましくは82〜93質量%である。磁石粉末の含有量がこの範囲内であることにより、十分な耐熱性を有し、成形時の高流動性・高充填性と高磁気特性が両立したボンド磁石用コンパウンドを製造することが出来る。
【0041】
成形工程
本実施形態の成形工程では、例えば図3に示す磁場射出成形装置1を用いて、前述のペレット5を金型4内に射出成形し、ボンド磁石の成形品が得られる。ペレット5は押出機3の内部で、例えば250〜350℃に加熱溶融される。この加熱溶融物が金型4に射出される前に金型4は閉じられ、内部にキャビティ6が形成される。加熱溶融物はスクリューにより金型4の内部キャビティ6に射出され、射出成形される。このときの金型4の温度は100〜160℃程度とすれば良い。
【0042】
成形時、金型4へ磁場が印加されると、異方性ボンド磁石が得られる。このときの金型4への印加磁場は、398〜1989kA/m(5〜25kOe)程度とすれば良い。
【0043】
以上、ボンド磁石の好適な製造方法について説明したが、本発明は、前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内で主々に改変することが出来る。
【実施例】
【0044】
本発明の内容を実施例及び比較例を用いて以下に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
[希土類ボンド磁石の作製]
ストリップキャスト法によって、主成分としてNdFe14Bを含有する、下記組成を有する合金を調製した。
【0046】
Nd:28.0質量%
Co: 3.5質量%
B : 1.1質量%
Ga: 0.35質量%
Nb: 0.30質量%
Cu: 0.03質量%
Fe及び不可避不純物:残部
【0047】
この合金は、微量の不可避不純物(原料化合物全体で0.5質量%以下)を含んでいた。この合金を、減圧雰囲気中(1kPa以下)、1000〜1200℃の温度範囲で24時間保持した(均質化熱処理)。均質化熱処理で得られた生成物(主成分:NdFe14B)をスタンプミルで粉砕し、篩分けを行って、原料粉末(粒径1〜2mm)を得た。
【0048】
この原料粉末を、モリブテン製の容器に充填し、赤外線加熱方式を有する管状熱処理炉に装填し、以下の条件で水素化分解・脱水素再結合法による処理(HDDR処理)を施した。
【0049】
まず、水素ガス雰囲気下、水素分圧100〜300kPa、温度100℃で原料粉末を2時間保持する水素吸蔵工程を行った。続いて、炉内の水素分圧を下げるとともに炉内温度を昇温し、水素ガスを吸蔵した原料粉末を、水素分圧40kPa、温度850℃の条件で1.5時間保持する水素化分解工程を行った。
【0050】
その後、炉内温度を850℃に維持しながら水素圧力を低減して脱水素再結合工程を行った。これによって、HDDR処理された異方性の磁性粉末(NdFe14B粉末)を得た。得られた磁性粉末を、窒素ガス雰囲気中でセラミックミルを用いて、篩いの目開き500μmを全て通過するまで粉砕した。
【0051】
実施例1〜3
磁性粉末として、上記、HDDR法で作製し、粒径を500μm以下まで粉砕した異方性Nd−Fe−B系磁性粉末を準備した。それらの磁性粉末に対して以下の処理を行った。
【0052】
(1)500μmを通った磁性粉末を、さらにピンミルで300μmの篩いを通るまで粉砕し(A粉とする)、そのA粉に対してそれぞれ次の処理を行った。
A粉を176μmの篩いに通しオーバーカットした磁性粉末(実施例1)図1に、本実施例1にて使用した磁性粉末の累積粒度分布を示す。
(2)A粉を200μmの篩いに通しオーバーカットした磁性粉末(実施例2)
(3)A粉を150μmの篩いに通した磁性粉末を、さらに22μmの篩いで分級しアンダーカットした磁性粉(実施例3、4)
(4)A粉を250μmの篩いに通した磁性粉末を、さらに22μmの篩いで分級しアンダーカットした磁性粉(実施例5)
【0053】
(5)300μmの篩いを通したまま(A粉のまま)の磁性粉末(比較例1)500μmを通った磁性粉末を気流式粉砕機(ジェットミル)にて粉砕し、平均粒径D(50)が20μmの微粉を得た。この微粉をB粉とした。
(6)(実施例2)に対してB粉を3質量%添加、混合した磁性粉末(比較例2)
(7)500μmの篩いを通したままの磁性粉末にB粉を30質量%添加、混合した磁性粉末(比較例3)図1に、本比較例3にて使用した磁性粉末の累積粒度分布を示す。
(8)500μmの篩いを通したままの磁性粉末にB粉を3質量%添加、混合した磁性粉末(比較例4)図1に、本比較例4にて使用した磁性粉末の累積粒度分布を示す。
(9)A粉を150μmの篩いに通したままの磁性粉末(比較例5)
(10)A粉を200μmの篩いに通した磁性粉末を、さらに45μmの篩いで分級しアンダーカットした磁性粉末(比較例6)
尚、これらで用いた磁性粉末の粒度分布(累積粒度分布)はSympatec 社製HELOS&RODOSレーザー回折式粒度分布測定装置で評価した。
【0054】
熱可塑性樹脂として、直鎖型PPS樹脂(融点:約280℃)を準備した。上記で作製した磁性粉末を表1に示すコンパウンド組成となるように秤量し、キャビィティー内を窒素置換した加圧加熱ニーダーを用いて、300℃で2hrs混練し、得られたコンパウンドをペレタイザでペレット化した。
【0055】
次に、図3に示す磁場射出成形装置1を用いて、ペレット5を金型4内に射出成形し、異方性ボンド磁石を作製した。金型4への射出前に、金型4は閉じられ、内部にキャビティ6が形成され、金型4には磁場が印加された。なお、ペレット5は、押出機13の内部で加熱溶融され、スクリューにより金型4のキャビティ6内に射出された。射出温度は300℃、金型温度は140℃、射出成形時の印加磁場は1592kA/mとした。磁場射出成形工程で得られたボンド磁石は円柱状であり、直径10mm、長さ7mmであった。
【0056】
作製したボンド磁石は、アルキメデス法により密度測定を行った。このボンド磁石を用いて、25℃の大気中にて最大印加磁場1989kA/mのB−Hトレーサにて磁気特性(残留磁束密度Br、保磁力HcJ)を測定した。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
さらに、最大印加磁場1989kA/mで着磁した円柱状試料のFlux(磁束)を25℃大気中にて測定した。
【0059】
円柱状試料については、着磁したまま高温恒温槽に入れ、大気中での耐熱試験を行った。所定温度、時間に晒された円柱状試料は、高温恒温槽から取り出し後、1時間以上大気中25℃雰囲気に放置し、試料温度が25℃になったことを確認した。
【0060】
耐熱試験を終了した円柱状試料のFluxを測定し、次式に基づき熱減磁量を計算により求めた。その結果を表2に示す。
熱減磁量(%)=(試験後のFlux−初期Flux)/初期Flux×100
尚、Fluxはデジタル磁束計(東英工業製TDF−5)を用い、サーチコイル(ターン数200)による繰り返し引き抜き法により、磁石のオープンFlux を測定し求めた。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示すとおり、実施例1〜実施例5の希土類ボンド磁石は、高温での保持時間が1000時間経過しても、減磁率の変化が小さい(1時間後の減磁から5%未満)ことが分かる。また再着磁後の減磁率も2%未満であり、永久減磁率が小さいことが確認された。一方、比較例1〜比較例6の希土類ボンド磁石は、例えば、高温での保持時間が1000時間後の減磁率を保持時間1時間後の減磁率と比較してみても、その変化が7%以上と極めて大きい。表2に示した粒径比率の結果より、実施例1〜実施例5に使用した磁性粉末においては、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量は1vol%以上10vol%以下で、かつ粒径が150μmを超える磁性粉の含有量は2vol%以上20vol%以下の範囲にある。一方、比較例1〜6に使用した磁性粉末においては、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が1vol%以上10vol%以下であっても、粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が2vol%以上20vol%以下の範囲外であると(比較例1、4,5)、再着磁後の減磁率は小さいものの、高温での保持時間が1000時間後の減磁率が大きい。あるいは、粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が2vol%以上20vol%以下であっても、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が1vol%以上10vol%の範囲外であると(比較例2、6)、再着磁後の減磁率が大きく、特に粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が10vol%以上の場合、再着磁後の減磁率はより大きい。あるいはまた、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が1vol%以上10vol%以下の範囲外で、かつ粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が2vol%以上20vol%以下の範囲外であると(比較例3)、高温での保持時間が1000時間後の減磁率が大きいと共に、再着磁後の減磁率すなわち永久減磁率が大きい。このように本発明における粒度分布を持つ磁性粉末を用いた異方性ボンド磁石おいては、長時間に亘る減磁を小さく出来ると共に、永久減磁も小さくすることを可能にする。よって、高い耐熱性を有し、高い残留磁束密度を有する異方性ボンド磁石を提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本件発明により、モータなどの各種機器に対して、優れた磁気特性を有する希土類ボンド磁石が提供できる。
【符号の説明】
【0064】
1 磁場射出成形装置
2 ホッパ
3 押出機
4 金型
5 ペレット
6 キャビティ
10 ボンド磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性ボンド磁石であり、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が1vol%以上10vol%以下、かつ粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が2vol%以上20vol%以下の粒度分布を有する異方性ボンド磁石。
【請求項2】
請求項1において、粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が5vol%以下である永久減磁の小さい異方性ボンド磁石。
【請求項3】
粒径が30μmより小さい磁性粉の含有量が1vol%以上10vol%以下、かつ粒径が150μmを超える磁性粉の含有量が2vol%以上20vol%以下の粒度分布を有する磁性粉と、熱可塑性樹脂からなる異方性ボンド磁石用コンパウンド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−105984(P2013−105984A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250534(P2011−250534)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】