説明

異方性多孔質材料およびその製造方法

【課題】所定の孔径を有する複数の孔を、孔間の間隔を任意に設定して構成することができ、初期の機能を維持しつつ浄化等の処理を容易に行うことができる異方性多孔質材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】異方性多孔質材料10は、マトリックス11中に複数の細孔12を含有し、この複数の細孔12が方向性を有して直線状に貫通して配列されている。また、各細孔12は、所定の方向に間隔をほぼ一定として形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器分野、建築・土木分野、空調機器、医療機器、薬品、水処理、通信その他産業機械分野において、触媒、衝撃エネルギ吸収、吸音、液分離、汚染物質除去、冷却、放熱等の水処理や熱関連に用いられる異方性多孔質材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に多数の孔を有する多孔質材料は、気相、液相に係らず各種流体のフィルタ、吸音材、衝撃緩衝材、断熱材等、広範囲の用途に使用されている(例えば、非特許文献1参照。)。ここでは、水処理施設などにおける水の浄化を例示して説明する。
【0003】
河川の水は、雨水を溜めて利用するが、この雨水には、大気中に存在する硫化物、塩化物、あるいはその他の有害物質が溶け込んでいるおそれがある。このような有害物質が溶け込んだ雨水は、砂礫や土壌による自然の浄化作用では除去しきれないことがあり、このことは、現代も継続する水循環の大きな社会問題となっている。
【0004】
また、上記した河川の水を利用して得られる水道水には、様々な有害成分が含有される他、微生物の殺菌のために加えられる塩化物のために、発ガン性が疑われるトリハロメタンなどが存在している。これは、各種有機廃水の他、天然水中に存在するフミン質などの有機物質と、浄化処理に使用される遊離塩素とが反応して生成されるものであり、安全な飲料水を得るためには、これらの微量成分やバクテリアなども取り除く必要がある。これらの微量成分やバクテリアなどを取り除く方法としては、蒸留やろ過が主な方法であるが、現在、多く用いられているのは、活性炭フィルタによってろ過する方法であり、活性炭フィルタとして様々な形状のものが市販されている。
【0005】
活性炭フィルタに用いる上水処理用の活性炭の選定基準は、日本水道協会規格(JWWA K113−1974)によって規定されている。浄水場では、ウェットカーボンをスラリー状にして混入するが、注入地点の選定や、混和接触時間を長くするための敷地や動力などの面で制約が大きい。また、使用する活性炭の種類によっては、トリハロメタンを完全に除去することができないものや全く除去できないものがある。
【0006】
化学工場や食品加工場では、金属や有機物を含む多量の廃水が出る。一定の基準値以下であっても、微量の有害成分が継続されると蓄積量が多くなるので無視できない汚染を生むことになる。そのため、廃水を継続的に浄化する浄化部材が必要となる。この浄化部材として、主に活性炭が用いられているが、大量に用いられることにより経費が膨大となり、また頻繁な取り替えが必要となる。
【0007】
また、飲料水の場合と同様に、浄化部材の適切な交換時期がわからずに有害成分を環境中に流してしまう恐れがある。したがって、通水に優れ、安価であり、吸着能力の優れた浄化部材が望まれている。
【0008】
化学合成された製品、あるいは天然物質から抽出され精製される製品における精製過程においては、従来、活性炭が使用されていた。精製に活性炭を用いる理由は、夾雑物を均一な溶質から分離するためであり、活性炭の細孔によって夾雑物を吸着する。しかしながら、活性炭の吸着能力は、強力ではあるが、吸着能力には限界があり、より優れた吸着技術が求められている。
【0009】
また、精製過程の中で、脱色は極めて困難な過程である。多くの色素は、様々な精製法を用いても、取り除くのは困難な物質の一つであり、高度に精製されても完全に除去することは困難である。この脱色過程においても、従来は活性炭が用いられてきたが、やはり吸着能力には限界があり、より能力の高い物質あるいは方法が模索されている。特に、高粘性溶液の脱色や精製には、従来、活性炭が用いられてきたが、粘性の高い物質は、活性炭を通過し難いという問題がある。この高粘性溶液が通過しやすくするために活性炭の粒径を大きくすれば、吸着力が落ち、活性炭の粒径を小さくして吸着能力を高めると、高粘性溶液が通過できなくなる。そのため吸着性に優れ、通過しやすいという双方を満たす部材が求められている。
【0010】
また、現在、日本で販売されている浄水器は、活性炭と中空糸膜(マイクロフィルタ)とを併用するタイプが主流になっている。このタイプの浄水器では、活性炭で匂い物質や有機物を除去し、中空糸膜で雑菌やサビを取る。また、抗菌のため、活性炭の表面に銀をコーティングしたものが用いられている。中空糸膜は、プラスチックからなり、マカロニのように中が空洞になった、例えば直径が0.4mmの繊維を束ねて形成される。繊維の壁面には、0.1〜0.01μmの小さな孔が無数に開いており、また膜の表面には、合成界面活性剤(合成洗剤の主剤)からなる親水化剤が塗られている。
【0011】
また、最近では、中空糸膜フィルタは、原子力発電所や火力発電所の復水ろ過装置にも適用されている。特に、火力発電プラントにおいては、近年、エネルギ効率の向上やプラントにおける信頼性の向上のために、以前にも増して復水や給水の水質の最適管理が求められている。
【0012】
また、不純物除去のため設置されている復水浄化設備では、イオン交換樹脂式の脱塩装置と、中空糸膜フィルタ開発の前から適用されていた電磁フィルタが併用されている。現在の火力発電プラントの給水系には、系統腐食抑制のために薬品が注入されている。近年、プラントにおける信頼性の向上のために、この薬品の注入量を抑制する技術が適用されつつあるが、この場合、電磁フィルタによる不純物除去能力が低下することとなる。
【0013】
また、近年、金属多孔体の膜を使用して、混合物の中から有効成分を分離したり、水を浄化したりする技術が、環境対策、省エネルギの観点から期待されている。金属多孔体は、高い気孔率(95%以上)を有することができ、連結空孔からなる多孔質材料で構成される。具体的には、様々な材質で作製された三次元網目状構造を有する発泡金属で構成され、薄膜状に構成することもできる。
【非特許文献1】NEDO平成16年度成果報告書、「バイオマスエネルギー高効率転換技術開発/ゼオライト膜によるバイオマスエタノール濃縮の研究開発」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記したように、従来の浄水器の浄化フィルタにおいては、活性炭と中空糸膜とが使用され、活性炭に銀をコーティングして、抗菌性を持たせるようにしている。しかしながら、抗菌力が強ければ、銀中毒などの人体への影響も考慮しなければならず、この方法による抗菌力の向上は期待できない。
【0015】
一方、中空糸膜では、小さな孔によって雑菌やサビをカットするが、ここで溜まった雑菌の死骸などにカビが発生すると浄水の味に変化が生じる。さらに、中空糸膜の原料であるプラスチックは、撥水性を有し、上記したように流体の通路が超微小孔で形成されているため大量の流体を通過させることはできない。さらに、水圧や微生物等の除去を行う際の逆洗により形状変化を生じる。この形状変化が生じることにより孔径が変化し、本来除去できるはずの雑菌やさび等を除去することができなくなる。
【0016】
また、上述した金属多孔体は、連結空孔からなる多孔質材料であり、具体的には、三次元網目状構造を有する発泡金属で構成される。しかしながら、水圧や微生物等の除去を行う際の逆洗により形状変化を生じる。この形状変化が生じることにより孔径が変化し、本来除去できるはずの雑菌やさび等を除去することができなくなる。また、金属メッシュによるフィルタを用いた場合には、使用するメッシュによって開孔率が異なり、一様ではないため、同じ供給圧力でも常に同じ流量とはならない。
【0017】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、所定の孔径を有する複数の孔を、孔間の間隔を任意に設定して構成することができ、初期の機能を維持しつつ浄化等の処理を容易に行うことができる異方性多孔質材料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明の異方性多孔質材料は、卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の異方性多孔質材料の製造方法は、卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されている異方性多孔質材料の製造方法であって、細孔を形成するためのプリホーム体の表面にメッキ処理により所定の厚さのメッキ層を形成するメッキ層形成工程と、前記メッキ層を備えた複数のプリホーム体を積層して配置し、加熱加圧処理を施して隣接するプリホーム体どうしを接合しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、形成された前記マトリックスを酸素雰囲気中で加熱し、前記マトリックスから前記プリホーム体を除去して細孔を形成する細孔形成工程とを具備することを特徴とする。
【0020】
また、本発明の異方性多孔質材料の製造方法は、卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されている異方性多孔質材料の製造方法であって、細孔を形成するためのプリホーム体の表面にメッキ処理により所定の厚さの第1のメッキ層を形成する第1のメッキ層形成工程と、前記第1のメッキ層の表面にメッキ処理により所定の厚さの第2のメッキ層を形成する第2のメッキ層形成工程と、前記メッキ層を備えた複数のプリホーム体を積層して配置し、加熱加圧処理を施して隣接するプリホーム体どうしを接合しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、形成された前記マトリックスを酸素雰囲気中で加熱し、前記マトリックスから前記プリホーム体を除去して細孔を形成する細孔形成工程とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の異方性多孔質材料およびその製造方法によれば、所定の孔径を有する複数の孔を、孔間の間隔を任意に設定して構成することができ、初期の機能を維持しつつ浄化等の処理を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る一実施の形態の異方性多孔質材料10の平面図である。また、図2は、図1のA−A断面図である。
【0024】
図1に示すように、異方性多孔質材料10は、マトリックス11中に複数の細孔12を含有し、この複数の細孔12が方向性を有して配列されている。また、各細孔12は、所定の方向(図1では上下および左右方向)に間隔をほぼ一定として形成されている。
【0025】
また、図2に示すように、細孔12は、形成方向に亘って同一の大きさ、すなわち同一の直径で直線状に貫通して形成されている。なお、図2では、細孔12が、マトリックス11の上面11aまたは下面11bに対して垂直に形成されているが、例えば、マトリックス11の上面11aまたは下面11bに対して斜めに所定の角度を有して形成されてもよい。すなわち、細孔12が、マトリックス11の上面11aから下面11bに亘って、直線状に形成されていればよい。
【0026】
また、ここでは、細孔12の断面形状が円形に形成された一例を示しているが、細孔12の断面形状は円形に限られるものではなく、使用する用途に応じて、例えば矩形、三角形、多角形等の形状に形成することができる。また、隣り合う細孔12との間の距離も、使用する用途に応じて適宜変更することができる。これによって、使用する用途に応じて、マトリックス11全体の体積に対する細孔12全体の体積の割合である細孔12の体積含有率等を変更することができる。
【0027】
マトリックス11は、アルミニウム、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルト、錫などの卑金属および銀、パラジウムおよび金などの貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とする材料で形成される。
【0028】
次に、異方性多孔質材料10の製造方法について、図3〜図8を参照して説明する。
【0029】
図3は、異方性多孔質材料10を製造する工程を説明するためのフローチャートである。図4は、メッキ層30が形成されたプリホーム体20の断面を示す図である。図5は、下地メッキ層40およびメッキ層30が形成されたプリホーム体20の断面を示す図である。図6は、メッキ層30が形成されたプリホーム体20が一方向に方向を揃えて積層して配置された金型50の断面を示す図である。図7および図8は、金型50に配置された、メッキ層30が形成されたプリホーム体20の断面を示す図である。
【0030】
まず、細孔12を形成するためのプリホーム体20を用意する。ここで、プリホーム体は、炭素からなる、繊維、粒体および柱体の少なくとも1種から形成されている。なお、粒体には粉体を含むものとし、柱体には、ワイヤを含むものとする。なお、以下の説明では、プリホーム体20として炭素繊維を用いた場合について説明する。
【0031】
プリホーム体20として炭素繊維を用いる場合、通常炭素繊維は、複数本の繊維がまとめられた束が巻きつけられたボビンから供給される。そのため、ボビンから所定の長さに繊維の束を切り取り、束になっている繊維を一本一本の繊維がばらばらになるように分散させる。なお、プリホーム体20は、長さ方向に亘ってほぼ同一の直径で形成され、使用する各プリホーム体20の直径もほぼ同じとしている。これによって、1つの細孔12を、形成方向に亘って同一の大きさ、すなわち同一の直径で直線状に形成することができ、さらにほぼ同一の直径を有する細孔12を複数形成することができる。
【0032】
続いて、図4に示すように、分散された繊維であるプリホーム体20に対してメッキ処理を施し、メッキ層30を形成する(ステップS110)。メッキ処理は、乾式、湿式のいずれであってもよい。また、メッキ処理は、電界メッキ、無電解メッキであってもよい。また、アルミニウム、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルト、錫などの卑金属および銀、パラジウムおよび金などの貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とする金属でメッキ処理することが好ましい。
【0033】
ここで、プリホーム体20に炭素繊維を用いた場合は、メッキ処理において、濡れが悪くなることがある。例えば、銅メッキを炭素繊維の表面に処理する場合に、均一にメッキ層を形成することができないことがある。このような場合、均一にメッキ層30を形成するために、プリホーム体20である炭素繊維の表面に、例えば、ニッケルメッキ処理によって、第1のメッキ層として機能する下地メッキ層40を形成することが好ましい。そして、上記したように、この下地メッキ層40上に、第2のメッキ層として機能するメッキ層30を形成する。
【0034】
なお、異方性多孔質材料10の細孔12の直径は、プリホーム体20の直径とほぼ同一となるので、このプリホーム体20の直径を適宜に変更することで、細孔12の直径を設定することができる。また、メッキ層30の厚さによって、異方性多孔質材料10における隣り合う細孔12どうしの間隔が定まる。このメッキ層30の厚さは、例えば、電界メッキを施す場合には、電流と時間を調整することで所定の厚さにすることができる。
【0035】
続いて、所定の厚さのメッキ層30が形成されたプリホーム体20を所定の長さに切断する。メッキ層30が形成されたプリホーム体20を所定の長さに切断することで、メッキ層で覆われていた両端面にプリホーム体20が露出する。なお、両端面にプリホーム体20を露出させる処理は、後の工程でプリホーム体20を除去して細孔12を形成するために必要な処理である。また、この処理は、後述するマトリックス11を形成する処理後で、プリホーム体20を除去する処理の前に行われてもよい。特に、プリホーム体20として微細な粉体が用いられた場合には、メッキ層が形成された微細な粉体を単層に配置してマトリックス11を形成した後で、かつプリホーム体20を除去する処理の前に、両端面にプリホーム体20を露出させる処理を行う方が作製が容易となるので好ましい。
【0036】
そして、図6および図7に示すように、両端面にプリホーム体20が露出したメッキ層30が形成されたプリホーム体20を、例えば金型50内に一方向に方向を揃えて積層して配置する。なお、図7では、プリホーム体20を直線状に積層し、所定の方向(図7では上下および左右方向)にプリホーム体20間の間隔を一定とした一例を示しているが、積層方法はこれに限られるものではない。例えば、図8に示すように、ある段(図8では左右方向に配置されたプリホーム体20を段という)に並べられたプリホーム体20とそれに隣接する段に並べられたプリホーム体20とをずらして積層し、各プリホーム体20間の隙間を最小にするように積層して配置してもよい。この場合、隣接するプリホーム体20間の間隔は一定となる。
【0037】
メッキ層30が形成されたプリホーム体20の直径が小さく、例えば、図8に示すように、ある段に並べられたプリホーム体20とそれに隣接する段に並べられたプリホーム体20とをずらして積層して配置した場合には、各メッキ層30が形成されたプリホーム体20間は密に配置される。このような場合には、金型50内に積層して配置された、メッキ層30が形成されたプリホーム体20を加圧加熱して、隣接するメッキ層30どうしを接合してマトリックス11を形成する(ステップS111)。
【0038】
一方、メッキ層30が形成されたプリホーム体20の直径が大きく、各メッキ層30間に空隙を多く有する場合には、金型50内に積層して配置された、メッキ層30が形成されたプリホーム体20を加圧加熱するとともに、金型50内に溶融金属を充填することが好ましい。この充填された溶融金属は、上記した各メッキ層30間の空隙に流入し、溶融金属が固まることで各メッキ層30間が接合される。溶融金属としては、アルミニウム、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルト、錫などの卑金属および銀、パラジウムおよび金などの貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とする金属が用いられ、例えば、メッキ層30を形成する金属の融点より温度が低い融点を有する金属を選択して使用することが好ましい。これによって、メッキ層30が溶融することなく、各メッキ層30間が接合されるので、各細孔12間を、メッキ層30の厚さによって定まる所定の間隔に維持することができる。なお、溶融金属は、例えば重力鋳造法、低圧鋳造法、ダイカスト法などの充填方法により充填される。また、溶融金属を充填する場合には、充填した溶融金属が凝固するまで放置される。
【0039】
なお、溶融金属として、プリホーム体20の表面にメッキ処理された金属と同一の金属を使用する場合には、メッキ処理を電解メッキ処理で行うことが好ましい。例えば、ニッケルを用いた無電界メッキ処理において、形成されたメッキ層にはリンが6〜10重量%程度含まれる。このようにリンを含有することで、熱処理によりメッキ層にリン化ニッケル(NiP)が析出する。このNiPは、非常に硬く、ビッカース硬さでHV1000程度となる。この硬い生成物が析出した場合には、部分的に非常に硬い部分が形成されるので、衝撃により割れなど発生することがある。一方、電解メッキ処理の場合は、リン等の不純物を含有しないため、上記したような析出物が生成されない。
【0040】
また、プリホーム体20の表面にニッケルメッキ処理を施し、溶融金属として銅を用いた場合には、銅の中にニッケルが拡散し、Cuの熱伝導率が低下する場合がある。特に、異方性多孔質材料10を放熱フィンや冷却フィンなどの熱交換部に使用するときには、熱伝導率の低下は熱特性に影響を及ぼす。このような場合には、ニッケルの代わりに、銀などの貴金属によるメッキ処理を施すことが好ましい。
【0041】
続いて、形成されたマトリックス11を酸素雰囲気中で加熱し、マトリックス11からプリホーム体20を除去して細孔を形成する(ステップS112)。この処理において、炭素繊維であるプリホーム体20を燃焼させて除去する。加熱には、温度や雰囲気が調整可能な電気炉や加熱炉を用いる。なお、加熱温度は、メッキ層30を形成する材料の融点よりも低い温度、かつプリホーム体20が加熱分解する温度に設定される。
【0042】
上記したように、一実施の形態の異方性多孔質材料10によれば、1つの細孔12を、形成方向に亘って同一の大きさ、すなわち同一の直径で直線状に形成することができる。また、ほぼ同一の直径を有する細孔12を複数形成することができる。これによって、例えば、この細孔12内を流れる流体は、異方性多孔質材料10を通過する際、直線状に流れるので、細孔12内における流路抵抗が小さくなり、細孔12内における圧力損失を低減することができる。また、各異方性多孔質材料10における細孔12をほぼ同じ形状(例えば、同じ直径)に形成することができるので、特にフィルタとして用いた場合には、所定の大きさ以上の物質の通過を適確に防止し、所定の大きさよりも小さい物質をスムーズに通過させることができる。
【0043】
また、異方性多孔質材料10は、金属で形成されているので、プラスチックで形成した場合のような撥水性がなく、さらに流体の流動時や逆洗浄時に負荷される圧力による細孔12の変形を防止することができる。これによって、負荷される圧力によらず、所定量の流体を通過させることができる。
【0044】
また、一実施の形態の異方性多孔質材料10の製法方法によれば、各プリホーム体20の表面に形成されるメッキ層30の厚さによって、各細孔12の間隔を調整することができる。これによって、異方性多孔質材料10を形成する工程において、部分的にプリホーム体20どうしが重なり合って、細孔12間の距離が短くなる、すなわち細孔12間の壁が薄くなるような部分が形成されるのを防止することができる。換言すれば、一実施の形態の異方性多孔質材料10の製法方法によって、均一な間隔で細孔12が配置された異方性多孔質材料10を容易に形成することができる。これによって、細孔12間の壁が薄い場合に生じるき裂の発生等を防止することができ、信頼性の高い異方性多孔質材料10を提供することができる。
【0045】
また、各プリホーム体20の表面に形成されるメッキ層30の厚さを調整することで、異方性多孔質材料10の表面の単位面積当りに形成される細孔数を調整することができる。これによって、用途に応じて開孔率を調整して異方性多孔質材料10を作製することができる。ここで、開孔率とは、異方性多孔質材料10の表面の単位面積に対する、この単位面積内に形成された細孔12の全面積の割合をいう。さらに、開孔率が一定となるように異方性多孔質材料10を形成することができるので、例えば、冷却フィン等に使用した場合でも、異方性多孔質材料10における熱抵抗等を一定に維持することができるので、製品の熱特性等を安定させることができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。本発明に係る異方性多孔質材料10は、上記した実施の形態で例示した用途の他に、例えば、輸送機器分野、建築・土木分野、空調機器、医療機器、薬品、水処理、通信その他産業機械分野において、触媒、衝撃エネルギ吸収、吸音、液分離、汚染物質除去、冷却に用いられる多孔質材料として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る一実施の形態の異方性多孔質材料の平面図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】異方性多孔質材料を製造する工程を説明するためのフローチャート。
【図4】メッキ層が形成されたプリホーム体の断面を示す図。
【図5】下地メッキ層およびメッキ層が形成されたプリホーム体の断面を示す図。
【図6】メッキ層が形成されたプリホーム体が一方向に方向を揃えて積層して配置された金型の断面を示す図。
【図7】金型に配置された、メッキ層が形成されたプリホーム体の断面を示す図。
【図8】金型に配置された、メッキ層が形成されたプリホーム体の断面を示す図。
【符号の説明】
【0048】
10…異方性多孔質材料、11…マトリックス、11a…上面、11b…下面、12…細孔、20…プリホーム体、30…メッキ層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されていることを特徴とする異方性多孔質材料。
【請求項2】
前記卑金属がアルミニウム、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルトおよび錫、前記貴金属が銀、パラジウムおよび金であることを特徴とする請求項1記載の異方性多孔質材料。
【請求項3】
卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されている異方性多孔質材料の製造方法であって、
細孔を形成するためのプリホーム体の表面にメッキ処理により所定の厚さのメッキ層を形成するメッキ層形成工程と、
前記メッキ層を備えた複数のプリホーム体を積層して配置し、加熱加圧処理を施して隣接するプリホーム体どうしを接合しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、
形成された前記マトリックスを酸素雰囲気中で加熱し、前記マトリックスから前記プリホーム体を除去して細孔を形成する細孔形成工程と
を具備することを特徴とする異方性多孔質材料の製造方法。
【請求項4】
卑金属および貴金属のうちの少なくとも1種を主成分とするマトリックス中に複数の細孔を含有し、前記複数の細孔が方向性を有して直線状に貫通して配列されている異方性多孔質材料の製造方法であって、
細孔を形成するためのプリホーム体の表面にメッキ処理により所定の厚さの第1のメッキ層を形成する第1のメッキ層形成工程と、
前記第1のメッキ層の表面にメッキ処理により所定の厚さの第2のメッキ層を形成する第2のメッキ層形成工程と、
前記メッキ層を備えた複数のプリホーム体を積層して配置し、加熱加圧処理を施して隣接するプリホーム体どうしを接合しマトリックスを形成するマトリックス形成工程と、
形成された前記マトリックスを酸素雰囲気中で加熱し、前記マトリックスから前記プリホーム体を除去して細孔を形成する細孔形成工程と
を具備することを特徴とする異方性多孔質材料の製造方法。
【請求項5】
前記プリホーム体が、炭素からなる、繊維、粒体および柱体の少なくとも1種から形成されていることを特徴とする請求項3および4記載の異方性多孔質材料の製造方法。
【請求項6】
前記細孔形成工程における加熱温度が、前記メッキ層を形成する材料の融点よりも低い温度、かつ前記プリホーム体が加熱分解する温度であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項記載の異方性多孔質材料の製造方法。
【請求項7】
前記マトリックス形成工程において、前記加熱加圧処理を施すとともに、積層して配置された前記プリホーム体間に溶融金属を充填することを特徴とする請求項3乃至6のいずれか1項記載の異方性多孔質材料の製造方法。
【請求項8】
前記卑金属がアルミニウム、チタン、鉄、銅、ニッケル、コバルトおよび錫、前記貴金属が銀、パラジウムおよび金であることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項記載の異方性多孔質材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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