説明

異方性多孔質材料および膜

【課題】流体のフィルタにおいて除去能力の低下を軽減するなど、初期の機能を長期にわたって維持することができる異方性多孔質材料および膜を提供する。
【解決手段】異方性多孔質材料1は、複数の孔2を含有し、この複数の孔2が方向性を有する配列をなし、孔2の通路が略直線状に形成され、異方性多孔質材料1の表面における孔2の径と内部における孔2の径とが略同一である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輸送機器分野、建築、土木分野、空調機器、医療機器、薬品、水処理その他産業機械分野において、触媒、衝撃エネルギー吸収、吸音、液分離、汚染物質除去に用いられる異方性多孔質材料およびこれを用いた膜に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、多数の孔を含有する構造物であって、その材質や用途等によって種々の種類がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
例えば、液体、気体中の汚染物質を除去するために、多孔質材料である発泡金属からなる膜や、有機膜が使用されている。このような膜において、汚染物質は、汚染物質のサイズより小さいサイズの孔によりトラップされ、汚染物質の含まれていない液体、気体が多孔質材料の膜を通過する。これにより、汚染物質と、汚染物質のない液体、気体とを分離することができる。
【特許文献1】特開2005−7298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記発泡金属を用いた膜の場合、その表面における孔のサイズに比較して、膜の内部では孔のサイズが小さくなっている部分がある。そのために、汚染物質は除去されるものの、繰り返しの使用により、液体、気体が通過していく通過面積が徐々に減少し、これにより汚染物質の除去量が減少する。
【0005】
また、有機膜においても、繰返しの使用により同様の除去能力の低下が生じる。膜の表面に汚染物質がトラップされている場合は、汚染物質の除去が可能であるが、膜の内部に汚染物質がトラップされて孔径が小さくなった場合は、汚染物質の除去が困難となり、内部でのトラップ量がさらに多くなると、膜の交換を行わなければならない。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、流体のフィルタにおいて除去能力の低下を軽減するなど、初期の機能を長期にわたって維持することができる異方性多孔質材料およびこれを用いた膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の異方性多孔質材料は、請求項1に記載のように、複数の孔を含有し、前記複数の孔が方向性を有する配列をなす異方性多孔質材料であって、前記孔は、その通路が略直線状に形成され、当該異方性多孔質材料の表面における前記孔の径と内部における前記孔の径とが略同一であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の異方性多孔質材料は、請求項2に記載のように、請求項1に記載の異方性多孔質材料において、金属材料または無機材料からなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の異方性多孔質材料は、請求項3に記載のように、請求項2に記載の異方性多孔質材料において、前記金属材料は、アルミニウム、アルミ合金、銅、銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金、鋼材、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、チタン、チタン合金から選ばれる1種類であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の異方性多孔質材料は、請求項4に記載のように、請求項2に記載の異方性多孔質材料において、前記無機材料は、アルミナ材、アルミナ・シリカ材、ジルコニア材、窒化ケイ素、炭化ケイ素から選ばれる1種類を主成分とするセラミックス、またはケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスから選ばれる1種類を主成分とするガラスであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の異方性多孔質材料は、請求項5に記載のように、請求項3に記載の異方性多孔質材料において、前記孔の内壁にコーティング層が形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の異方性多孔質材料は、請求項6に記載のように、請求項5に記載の異方性多孔質材料において、前記コーティング層は、ニッケル、銅、金、チタンから選ばれる1種類を主成分とすることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の膜は、請求項7に記載のように、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の異方性多孔質材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の異方性多孔質材料および膜によれば、流体のフィルタにおいて除去能力の低下を軽減するなど、初期の機能を長期にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
【0016】
図1〜図3は、本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料の表面における孔の基本パターンを示す模式図である。本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料1は、複数の孔2を含有する。
【0017】
図1は、基本パターンが4つの孔2で形成されており、各孔2の中心から90度の位置に存在する2つの孔2の中心までの距離が略等しい異方性多孔質材料1を示す。図2は、基本パターンが5つの孔2で形成されており、図1に示した4つの孔2の中心に5つ目の孔2が存在する異方性多孔質材料1を示す。図3は、基本パターンが7個の孔2で形成されており、6個の孔2の中心に1個の孔2が存在し、各孔2の中心から隣接する他の孔2までの距離が略等しい異方性多孔質材料1を示す。
【0018】
本実施の形態に係る異方性多孔質材料1は、図1〜図3のいずれかを基本パターンとして配置される多数の孔2を含有している。
【0019】
本実施の形態に係る異方性多孔質材料1において、複数の孔2は、方向性を有する配列をなしている。図4〜図6は、本実施の形態に係る異方性多孔質材料1における孔2の軸方向に沿う断面構造の基本パターンを示す模式図である。
【0020】
図4においては、各孔2の軸方向が、異方性多孔質材料1の表面に対して略垂直な方向に揃うように、各孔2が形成されている。図5においては、各孔2の軸方向が、異方性多孔質材料1の表面に対して垂直以外の角度に傾斜して揃うように、各孔2が形成されている。図6においても、異方性多孔質材料1の表面に対して垂直以外の角度に軸方向が傾斜した各孔2が形成されている。
【0021】
図4〜図6に示すように各孔2は、その通路が略直線状になるように形成され、異方性多孔質材料1の表面における孔2の軸に直交する断面の径と、異方性多孔質材料1の内部における孔2の軸に直交する断面の径とが略同一となっている。
【0022】
異方性多孔質材料1は、金属材料または無機材料からなる。金属材料としては、アルミニウム、アルミ合金、銅、銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金、鋼材、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、チタン、チタン合金から選ばれる1種類であることが好ましい。
【0023】
無機材料としては、アルミナ材、アルミナ・シリカ材、ジルコニア材、窒化ケイ素、炭化ケイ素から選ばれる1種類を主成分とするセラミックス、またはケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスから選ばれる1種類を主成分とするガラスであることが好ましい。異方性多孔質材料1の材質は、その用途や使用条件等に応じて選択される。
【0024】
異方性多孔質材料1においては、孔2が存在する表面全体に対して、孔2が占める面積の比率(空隙率)は、20〜60%であることが好ましい。また、互いに隣接する孔2の縁の間隔は0.1μm〜600μmであることが好ましい。
【0025】
異方性多孔質材料1における空隙率、および隣接する孔2の間隔は、異方性多孔質材料1の用途、使用条件によって選択される。例えば、気体および液体中から汚染物質を分離する場合には、隣接する孔2の間隔を小さくして空隙率を大きくした方が、処理量が大きくて効率がよい。空隙率が20%未満では、孔2が短期間で汚染物質に埋められて処理能力が低下するため好ましくない。
【0026】
一方、異方性多孔質材料1の強度的な観点から見ると、空隙率が小さい方が強度は高い。空隙率が60%を超えると、異方性多孔質材料1の強度が低下するため好ましくない。異方性多孔質材料1の使用環境、使用条件等により適切な空隙率、および隣接する孔2の間隔を選択することが必要である。
【0027】
また、孔2の直径は、球換算で0.1μm〜600μmであることが好ましい。直径が0.1μm未満の場合は製造が困難である。直径が600μmを超える場合は、孔開け加工等の既存の機械加工により製造が可能になる範疇にあり、これは本発明の異方性多孔質材料の概念に含まれない。孔2の直径は、異方性多孔質材料1の用途により適切な値を選択する。
【0028】
上記のように、本実施の形態に係る異方性多孔質材料1は、各孔2の通路が略直線状であり、異方性多孔質材料1の表面における孔2の径と、異方性多孔質材料1の内部における孔2の径とが略同一であるため、異方性多孔質材料1を流体のフィルタに用いると、フィルタの表面で汚染物質等を捕捉し、内部に汚染物質等が入り込むことを抑えるので、除去能力の低下を軽減し、フィルタの洗浄性を向上させることができる。
【0029】
図7に本実施の形態に係る異方性多孔質材料と従来の多孔質材料との比較データを示す。図7は、互いに同量の孔径と空隙率とを有する本実施の形態に係る異方性多孔質材料および従来の多孔質材料(従来材)において、気体中の汚染物質の除去試験を行った結果である。図7において、Y軸には使用前の通過量を100%とした場合の、気体の通過量の比較値を示す。X軸には試験の繰返し回数を示す。
【0030】
図7に示すように、従来材においては、繰返し回数が増加するとともに処理量は低下している。これは、従来材の孔の内部に汚染物質が入り込み、繰り返し回数の増加ともに孔径が小さくなるためである。これに対して、本実施の形態の異方性多孔質材料では、長期に渡って処理能力の低下は見られない。
【0031】
以上説明したように、本実施の形態に係る異方性多孔質材料によれば、流体のフィルタにおいて除去能力の低下を軽減するなど、初期の機能を長期にわたって維持することができる。
【0032】
また、本実施の形態に係る異方性多孔質材料は、金属材料または無機材料からなるため、洗浄水の圧力を高めて洗浄したり、300℃程度の高温に加熱して殺菌したりすることができる。
【0033】
本実施の形態に係る異方性多孔質材料は、例えば、中空筒状の金属材料を金型に配置し、溶融金属を金型に充填し、その後、溶融金属を凝固させることにより得られる。中空筒状の金属材料の配置の仕方により、図1〜図3に示したようなパターンが得られる。無機材料を用いる場合も同様の方法により、本実施の形態に係る異方性多孔質材料を製造することができる。
【0034】
(変形例)
図8(a)は、本発明の実施の形態の変形例に係る異方性多孔質材料の表面を示す模式図、図8(b)は、図8(a)に示す異方性多孔質材料における孔の軸方向に沿う断面を示す模式図である。
【0035】
図8(a)(b)に示すように、本変形例に係る異方性多孔質材料3は、上述の金属材料からなり、孔2の内壁にコーティング層4が形成されている。
【0036】
コーティング層4は、例えば、ニッケル、銅、金等のめっきにより形成されている。また、PVD(Physical Vapor Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によりチタンのコーティング層4を施工してもよい。
【0037】
本変形例によれば、コーティング層4により孔2の径をさらに小さくしたり、使用環境に応じた耐腐食性を向上させたりすることができる。
【0038】
なお、図2、図3に示すパターンで形成された孔2にコーティング層4を施工してもよい。
【0039】
図9は、上記実施の形態およびその変形例に係る異方性多孔質材料からなる膜を、流体中の固体を分離するフィルタとして用いた分離器を示す概略図である。
【0040】
図9に示す分離器は、互いに孔径の異なる異方性多孔質材料からなる厚さが例えば1mm〜5mm程度の膜11〜13を備える。流体の流れ方向の最も上流側(図示左側)に孔径が最も大きな膜11が配置され、最も下流側(図示右側)に孔径が最も小さい膜13が配置されている。また、膜11〜13の孔の中心軸が流体の流れ方向に略平行となるように配置されている。
【0041】
図9に示す分離器においては、分離対象の固体は、各膜11〜13の上流側の表面に分離されて堆積してくるので、膜11〜13表面のみを洗浄して固体物質を除去等することにより、初期と同様の機能を維持することができる。
【0042】
なお、図9では、3つの膜11〜13を配置しているが、流体中の分離したい固体の量、大きさ等に応じて、さらに多数、または少数の膜を配置するようにしてもよい。
【0043】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合せてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料の表面における孔の基本パターンの一例を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料の表面における孔の基本パターンの他の例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料の表面における孔の基本パターンのさらに他の例を示す模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料における孔の軸方向に沿う断面構造の基本パターンの一例を示す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料における孔の軸方向に沿う断面構造の基本パターンの他の例を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る異方性多孔質材料における孔の軸方向に沿う断面構造の基本パターンのさらに他の例を示す模式図である。
【図7】本実施の形態に係る異方性多孔質材料と従来の多孔質材料との比較データを示す図である。
【図8】(a)は、本発明の実施の形態の変形例に係る異方性多孔質材料の表面を示す模式図、(b)は、(a)に示す異方性多孔質材料における孔の軸方向に沿う断面を示す模式図である。
【図9】本発明の実施の形態およびその変形例に係る異方性多孔質材料からなる膜を、流体中の固体を分離するフィルタとして用いた分離器を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1,3 異方性多孔質材料
2 孔
4 コーティング層
11〜13 膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の孔を含有し、前記複数の孔が方向性を有する配列をなす異方性多孔質材料であって、
前記孔は、その通路が略直線状に形成され、当該異方性多孔質材料の表面における前記孔の径と内部における前記孔の径とが略同一であることを特徴とする異方性多孔質材料。
【請求項2】
金属材料または無機材料からなることを特徴とする請求項1に記載の異方性多孔質材料。
【請求項3】
前記金属材料は、アルミニウム、アルミ合金、銅、銅合金、マグネシウム、マグネシウム合金、鋼材、ステンレス鋼、クロムモリブデン鋼、チタン、チタン合金から選ばれる1種類であることを特徴とする請求項2に記載の異方性多孔質材料。
【請求項4】
前記無機材料は、アルミナ材、アルミナ・シリカ材、ジルコニア材、窒化ケイ素、炭化ケイ素から選ばれる1種類を主成分とするセラミックス、またはケイ酸ガラス、ホウ酸ガラス、ホウケイ酸ガラスから選ばれる1種類を主成分とするガラスであることを特徴とする請求項2に記載の異方性多孔質材料。
【請求項5】
前記孔の内壁にコーティング層が形成されていることを特徴とする請求項3に記載の異方性多孔質材料。
【請求項6】
前記コーティング層は、ニッケル、銅、金、チタンから選ばれる1種類を主成分とすることを特徴とする請求項5に記載の異方性多孔質材料。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の異方性多孔質材料からなることを特徴とする膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−221055(P2009−221055A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67927(P2008−67927)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】