説明

異方性導電フィルム

【課題】水分による接着性の低下が抑制された、保存安定性に優れた異方性導電フィルムを提供する。
【解決手段】導電性粒子が絶縁性接着剤に分散し、フィルム状に成形されている異方性導電フィルムであって、ゼオライトを1〜20wt%含有する。該ゼオライトの平均細孔径は3〜5オングストロームであり、導電性粒子の平均粒子径はゼオライトの平均粒子径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品の端子同士を異方性導電接続するために有用な異方性導電フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
配線材料として、絶縁性接着剤中に導電性粒子を分散させ、フィルム状に成形した異方性導電フィルムが使用されている。異方性導電フィルムとしては、密着性がよく低温速硬化するものが望ましく、そのためにラジカル重合性のアクリル系バインダーにシランカップリング剤を使用することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
異方性導電フィルムに用いるシランカップリング剤としては官能基の異なる種々のものが知られている。しかしながら、いずれのシランカップリング剤も、異方性導電フィルムを長期間保管すると空気中の水分により加水分解し、部分的縮合によりオリゴマー化し、水酸基が減少して異方性導電フィルムの密着力が低下するという問題点を有する。
【0004】
一方、異方性導電フィルムで導通接続した接続構造体では、通電により電極から金属イオンが溶出してマイグレーションを起こす場合があり、かかる金属イオンの濃度を低下させてマイグレーションの発生を防止するために、異方導電性フィルムを構成する絶縁性接着剤中に無機イオン交換体を含有させることが提案されている(特許文献2)。しかしながら、無機イオン交換体を含有させても、異方性導電フィルム中の余分な水分を取り除くことはできず、異方性導電性フィルムを長期間保管した後の接着性の低下は解消されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−167555号公報
【特許文献2】特開平10−245528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の従来技術に対し、本発明は、水分による接着性の低下が抑制され、保存安定性に優れた異方性導電フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、異方性導電フィルムを構成する絶縁性接着剤中に特定のゼオライトを含有させると、ゼオライトに水分が捕捉され、異方性導電フィルムの保存安定性が向上することを見出した。
【0008】
即ち、本発明は、導電性粒子が、シランカップリング剤を含有する絶縁性接着剤に分散し、フィルム状に成形されている異方性導電フィルムであって、ゼオライトの含有率が1〜20wt%、該ゼオライトの平均細孔径が3〜5オングストロームであり、導電性粒子の平均粒子径がゼオライトの平均粒子径よりも大きい異方性導電フィルムを提供する。
【0009】
また、本発明は、上述の異方性導電フィルムを用いた異方性導電接続方法や、それによる異方性導電接続体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の異方性導電フィルムは、それを構成する絶縁性接着剤中に平均細孔径が3〜5オングストロームのゼオライト粒子を含有しているので、異方性導電フィルム中の余分な水分が吸着される。このため、異方性導電フィルムを構成する絶縁性接着剤中にシランカップリング剤が含まれていても、その加水分解が防止される。したがって、異方性導電フィルムを長期間保管した後でも十分な接着強度を維持することができる。
【0011】
また、本発明の異方性導電フィルムに含有されるゼオライト粒子の平均粒子径は、異方性導電フィルムに含有される導電性粒子の平均粒子径よりも小さいため、導電性粒子による端子間の導通がゼオライト粒子によって阻害されることはなく、長期間保存後においても初期の低い導通抵抗を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明の異方性導電フィルムは、絶縁性接着剤中に特定の細孔径のゼオライトを含有することを特徴としている。ゼオライトは、アルミノケイ酸塩を骨格とする多孔質の結晶性物質である。ゼオライトには特定の組成を有する合成ゼオライトと、天然ゼオライトと、産業廃棄物を原料として生産される人工ゼオライトがあるが、本発明においては、細孔径や粒子径の制御の点から合成ゼオライトを使用することが好ましい。
【0013】
合成ゼオライトは、アルミノシリケートの含水金属塩から形成されており、その含水金属塩を加熱脱水することで、空洞となった細孔が形成され、平均細孔径を3〜5オングストローム、より好ましくは約3オングストローム程度とする。平均細孔径を約3オングストロームとすることにより、細孔に水分子が吸着され、約4オングストロームとすることにより、硬化阻害を引き起こすおそれのある硫化水素や、接着力の低下を引き起こすおそれのあるエチルアルコールが吸着され、約5オングストロームとすることにより、接着力の低下を引き起こすおそれのあるパラフィン類やオレフィン類が吸着される。これに対し、平均細孔径が5オングストロームよりも大きくなると、水分子以外の分子が過度に吸着されるために、水分子の吸着性が低下する。したがって、異方性導電フィルムを形成する絶縁性接着剤中に平均細孔径が3〜5オングストローム、より好ましくは約3オングストロームのゼオライトを含有させることが、絶縁性接着剤中の余分な水分をゼオライトに吸収させ、接続信頼性を向上させる点で好ましい。
【0014】
合成ゼオライトの種類としては、特に制限はなく、通常吸着剤、触媒等として用いられるものを使用することができる。例えば、A型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト(X型、Y型ゼオライト)、L型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、FMI型ゼオライト(ZSM−5型ゼオライト)、8型ゼオライト等を用いることができる。合成ゼオライトの具体例としては、モレキュラーシーブス3A,4A,5A(ユニオン昭和株式会社製)などをあげることができる。
【0015】
ゼオライトの平均粒子径は、異方性導電フィルムに含有させる導電性粒子の平均粒子径よりも小さくする。ゼオライトの平均粒子径が導電性粒子の平均粒子径以上であると、異方性導電フィルムの圧着時に導電性粒子を十分に押し込むことができないため、接続抵抗が高くなる。これに関し、通常はゼオライトの平均粒子径を5μm以下にすると、導電性粒子の方がゼオライト粒子よりも大きくなるので、ゼオライト粒子を含有させない場合に比べて接続抵抗が高くなることを防止することができる。
【0016】
異方性導電フィルムにおけるゼオライトの含有率は1〜20wt%、好ましくは5〜15wt%とする。ゼオライトの含有率が少なすぎるとゼオライトによる水分の吸着効果を十分に得ることができず、反対に多すぎると接続抵抗が高くなる。
【0017】
本発明の異方性導電フィルムは、絶縁性接着剤がシランカップリング剤を含有し、ゼオライトが分散している他は、絶縁性接着剤の組成や、それに分散させる導電性粒子について特に制限はない。
例えば、絶縁性接着剤は、膜形成樹脂、液状エポキシ化合物(硬化成分)あるいはアクリルモノマー(硬化成分)、硬化剤等と、シランカップリング剤から構成することができる。
【0018】
ここで、膜形成樹脂としては、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等を挙げることができ、これらの2種以上を併用することができる。これらの中でも、製膜性、加工性、接続信頼性の観点から、フェノキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0019】
液状エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、それらの変性エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物などを挙げることができ、これらの2種以上を併用することができる。この場合、硬化剤としては、ポリアミン、イミダゾール等のアニオン系硬化剤やスルホニウム塩などのカチオン系硬化剤、フェノール系硬化剤等の潜在性硬化剤を挙げることができる。
【0020】
アクリルモノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート等を上げることができる。この場合、硬化剤(ラジカル重合開始剤)としては、有機過酸化物、アゾビスブチロニトリル等を挙げることができる。
【0021】
シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤は、主としてアルコキシシラン誘導体である。
【0022】
絶縁性接着剤には、必要に応じて充填剤、軟化剤、促進剤、老化防止剤、着色剤(顔料、染料)、有機溶剤、イオンキャッチャー剤などを配合することができる。
【0023】
一方、絶縁性接着剤に分散させる導電性粒子としては、金属粒子や、樹脂粒子の表面に金属メッキを施したもの等を使用することができる。
【0024】
絶縁性接着剤に対する導電性粒子の配合割合は、導電性粒子が少なすぎると導通信頼性が低下し、多すぎると異方導電性が低下するので、導電性粒子を好ましくは0.1〜20wt%、より好ましくは0.2〜10wt%とする。
【0025】
異方性導電フィルムは、上述の絶縁性接着剤中に導電性粒子を分散させ、離型フィルム上に製膜することにより形成することができる。
【0026】
本発明の異方性導電フィルムは、従来の異方性導電フィルムと同様に、フレキシブル基板、リジッド基板、電子部品等の接続すべき端子間に配置し、端子間を加圧しつつ、加熱、UV照射等を行い、端子間を電気的、機械的に接続する異方性導電接続に使用することができ、これにより高い接続信頼性を有する異方導電性接続体の製造が可能となる。本発明は、かかる接続体も包含する。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0028】
比較例1
フェノキシ樹脂(YP50、東都化成社製)60重量部とラジカル重合性樹脂(EB-600、ダイセル・サイテック社製)35重量部、反応開始剤(パーヘキサC、日油(株)製)2重量部、シランカップリング剤(A-187、モメンティブ・パフォーマンスマテリアルズ(株))2重量部を混合して絶縁性接着剤を得、これに平均粒径5μmの導電性粒子(AUL705,積水化学工業社製)を分散させ、剥離フィルム上に塗布し、オーブンで乾燥し、導電性粒子密度10000個/mm2、厚さ15μmの異方性導電フィルムを製造した。
【0029】
実施例1〜5
有効細孔径が3オングストロームのゼオライト(ゼオラムA-3、東ソー株式会社)を減圧乾燥し、水分を揮発させ、粉砕した後に、篩を用いて分級した。得られたゼオライト粒子は平均粒子径3.5μmであった。
このゼオライト粒子を表1に示す割合で絶縁性接着剤に加える以外は比較例1と同様にして実施例1〜5の異方性導電フィルムを製造した。
【0030】
実施例6
有効細孔径が4オングストロームのゼオライト(ゼオラムA-4、東ソー株式会社)を減圧乾燥し、水分を揮発させ、粉砕した後に、篩を用いて分級し、平均粒径3.0μmのゼオライト粒子を調製した。
このゼオライト粒子を表1に示す割合で絶縁性接着剤に加える以外は比較例1と同様にして実施例6の異方性導電フィルムを製造した。
【0031】
実施例7
有効細孔径が5オングストロームのゼオライト(ゼオラムA-5、東ソー株式会社)を減圧乾燥し、水分を揮発させ、粉砕した後に、篩を用いて分級し、平均粒径3.0μmのゼオライト粒子を調製した。
このゼオライト粒子を表1に示す割合で絶縁性接着剤に加える以外は比較例1と同様にして実施例7の異方性導電フィルムを製造した。
【0032】
比較例2
有効細孔径が3オングストロームのゼオライト(ゼオラムA-3、東ソー株式会社)を減圧乾燥し、水分を揮発させ、粉砕した後に、篩を用いて分級し、平均粒径10μmのゼオライト粒子を調製した。
このゼオライト粒子を表1に示す割合で絶縁性接着剤に加える以外は比較例1と同様にして比較例2の異方性導電フィルムを製造した。
【0033】
比較例3
ゼオライトに代えて平均粒子径3.5μmのシリカ粒子(HPS-3500、東亞合成社製)を5.0wt%含有させる以外は実施例1と同様にして比較例3の異方性導電フィルムを製造した。
【0034】
評価
実施例1〜7及び比較例1〜3で得た異方性導電フィルムについて、(a)接続抵抗と(b)接着強度を次のようにして測定した。また、異方性導電フィルムを85℃、85%RHに500時間おく保存安定性加速試験を行った後に、同様に(a)接続抵抗と(b)接着強度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0035】
(a)接続抵抗の測定方法
評価用基材としてソニーケミカル&インフォメーションデバイス社製COF(50μmピッチ、Cu8μm厚-Snメッキ、ポリイミド38μm厚-Sperflex基材)と評価用ITOベタガラスを用意した。そして、ITOベタガラスに、1.5mmにスリットした異方性導電フィルムを緩衝材150μm厚テフロン(登録商標)を用いたツール幅1.5mmの仮圧着機にて70℃、1MPa、1secにて仮圧着し、次いで、COFを同圧着機にて80℃、0.5MPa、0.5secで仮固定し、最後に190℃、3MPa、10secでツール幅1.5mmの本圧着機で圧着し、実装体を作成した。
この実装体について、接続抵抗値をデジタルマルチメータ(横河電機社製)を用いて四端子法(電流1mA)で測定した。
【0036】
(b)接着強度の測定方法
ITOベタガラスに代えてノンアルカリベタガラスを用いて(a)と同様に実装体を作成し、その実装対の接着強度を、引っ張り試験機(AND社製)を用いて測定した。この場合、測定速度は50mm/secでCOFを90°で引き上げたときの接着強度を測定した。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から、ゼオライトを含有しない比較例1の異方性導電フィルムでは、保存安定性加速試験後に接着強度が大きく低下すること、導電性粒子よりも粒径の大きいゼオライトを含有した比較例2の異方性導電フィルムでは、圧着時に導電性粒子を十分に押し込めないので接続抵抗が高いこと、ゼオライトに代えてシリカを含有させた比較例3の異方性導電フィルムでも保存安定性加速試験後の接着強度が大きく低下すること、これに対し、導電性粒子よりも粒径が小さいゼオライトを含有する実施例1〜7の異方性導電フィルムでは、保存安定性加速試験後においても接着強度が高く、接続抵抗が十分に低いこと、特に、ゼオライトの平均細孔径が3オングストロームでゼオライトの含有量が5〜15wt%である実施例2〜4の異方性導電フィルムでは、接続抵抗が低く、保存安定性加速試験後の接着強度に優れ、接続信頼性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子が、シランカップリング剤を含有する絶縁性接着剤に分散し、フィルム状に成形されている異方性導電フィルムであって、ゼオライトの含有率が1〜20wt%、
該ゼオライトの平均細孔径が3〜5オングストロームであり、
導電性粒子の平均粒子径がゼオライトの平均粒子径よりも大きい異方性導電フィルム。
【請求項2】
ゼオライトの含有率が5〜15wt%である請求項1記載の異方性導電フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2記載の異方性導電フィルムを対向する端子間に配置し、端子間を加熱加圧して接続する異方性導電接続方法。
【請求項4】
請求項1又は2記載の異方性導電フィルムを用いて電子部品同士が異方性導電接続されている異方性導電接続体。

【公開番号】特開2011−102404(P2011−102404A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−31753(P2011−31753)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】