説明

異方性導電材料及び接続構造体

【課題】接着性と耐熱クリープ特性とを高めることができる異方性導電材料、並びに該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る異方性導電材料は、導電性粒子と、バインダー樹脂である鎖状延長されたポリアミドエラストマー及びバインダー樹脂である架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種と、溶剤とを含む。本発明に係る接続構造体1は、第1の接続対象部材2と、第2の接続対象部材4と、該第1,第2の接続対象部材2,4を電気的に接続している接続部3とを備える。接続部3は、上記異方性導電材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の導電性粒子を含む異方性導電材料に関し、様々な接続対象部材の電極間の電気的な接続に用いることができる異方性導電材料、並びに該異方性導電材料を用いた接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント基板(FPC)、ガラス基板及び半導体チップなどの様々な接続対象部材の電極間の電気的な接続に、異方性導電材料が用いられている。例えば、タッチパネルでは、フレキシブルプリント基板の電極が他の電極と、異方性導電材料により電気的に接続されている。異方性導電材料では、インク又は樹脂中に複数の導電性粒子が分散されている。
【0003】
上記異方性導電材料の一例として、下記の特許文献1には、ポリアミドエラストマーと、ポリウレタンエラストマーと、スチレン−イソブチレン−スチレンコポリマーと、導電性フィラーとを含む異方性導電材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−168510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、フレキシブルプリント基板を用いた電子部品では、電子部品の小型化に伴って、異方性導電材料を用いた接着部分の面積が小さくなってきている。さらに、フレキシブルプリント基板が曲げられた状態で、電子部品が用いられることも多くなってきている。
【0006】
特許文献1に記載のような従来の異方性導電材料により、フレキシブルプリント基板の電極を他の電極と接続したタッチパネル等の接続構造体において、フレキシブルプリント基板が折り曲げられた場合には、剥離が生じることがある。また、従来の異方性導電材料では、耐熱クリープ特性が低いことがある。このため、上記接続構造体が高温下で長期間使用されると、剥離が生じやすいという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、接着性と耐熱クリープ特性とを高めることができる異方性導電材料、並びに該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の広い局面によれば、導電性粒子と、バインダー樹脂である鎖状延長されたポリアミドエラストマー及びバインダー樹脂である架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種と、溶剤とを含む、異方性導電材料が提供される。
【0009】
本発明に係る異方性導電材料のある特定の局面では、上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は上記架橋ポリアミドエラストマーは、ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることにより得られた鎖状延長されたポリアミドエラストマー、又は上記ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることにより得られた架橋ポリアミドエラストマーである。
【0010】
本発明に係る異方性導電材料の他の特定の局面では、ポリアミドエラストマーに反応させる上記不飽和結合を有する化合物は、不飽和結合を有するエポキシ化合物である。
【0011】
本発明に係る異方性導電材料の他の特定の局面では、上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は上記架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量は30000以上である。
【0012】
本発明に係る異方性導電材料は、フレキシブルプリント基板の電極の電気的な接続に用いられる異方性導電材料であることが好ましい。本発明に係る異方性導電材料は、タッチパネル用異方性導電材料であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る異方性導電材料の別の特定の局面では、平均粒径が0.01μm以上、5μm以下である無機充填剤がさらに含まれている。
【0014】
本発明に係る異方性導電材料のさらに別の特定の局面では、上記無機充填剤はタルクを含有する。
【0015】
本発明に係る接続構造体は、第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を電気的に接続している接続部とを備えており、該接続部が、本発明に従って構成された異方性導電材料により形成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る異方性導電材料は、導電性粒子と、バインダー樹脂である鎖状延長されたポリアミドエラストマー及びバインダー樹脂である架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種と、溶剤とを含むので、接着性と耐熱クリープ特性とを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る異方性導電材料を用いた接続構造体を模式的に示す正面断面図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例において、接着力の測定に用いたフレキシブルプリント基板を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例及び比較例において接着力を測定する方法を説明するための模式図である。
【図4】図4は、実施例及び比較例において耐熱クリープを測定する方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る異方性導電材料は、導電性粒子と、鎖状延長されたポリアミドエラストマー及び架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種と、溶剤とを含む。上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は上記架橋ポリアミドエラストマーは、バインダー樹脂である。
【0020】
上記組成の採用により、異方性導電材料を用いた接続構造体において、接着性と耐熱クリープ特性とを高めることができる。本発明に係る異方性導電材料を用いて、フレキシブルプリント基板の電極を他の電極と接続し、タッチパネル等の接続構造体を得たときに、該接続構造体が折り曲げられても、剥離が生じ難くなる。また、得られた接続構造体が高温下で長期間使用されても、剥離が生じ難くなる。
【0021】
以下、先ず、本発明に係る異方性導電材料に含まれている各成分の詳細を説明する。
【0022】
(バインダー樹脂)
本発明に係る異方性導電材料は、バインダー樹脂である鎖状延長されたポリアミドエラストマー及び架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種を含む。鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーは、鎖状延長された分岐構造又は架橋構造を有し、かつポリアミド骨格を有する。鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーは、通常のポリアミドエラストマーとは異なる。鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は上記架橋ポリアミドエラストマーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0023】
ここで、鎖状延長されたポリアミドエラストマーとは、重合を進行させる場合に、ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させた反応物と、単官能不飽和結合を有する化合物とを共存して反応させて得られた樹脂を示す。
【0024】
一方、架橋ポリアミドエラストマーとは、ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させた反応物と、少なくとも1種類以上の2個以上の不飽和結合を有する化合物とを共存して反応させて得られた樹脂を示す。この樹脂を得る反応では、鎖状延長と化学架橋が同時に起こる。
【0025】
一般に架橋樹脂とは、溶剤に不溶な樹脂を示す。これに対して、本明細書における架橋樹脂とは、いわゆる微架橋樹脂を示し、ごくわずかに架橋しているだけなので、溶剤に十分可溶である。
【0026】
通常のポリアミドエラストマーに鎖状延長された分岐構造又は架橋構造を導入する方法は、種々の方法を用いることができ特に限定されない。鎖状延長された分岐構造又は架橋構造を導入する方法は種々知られている。通常のポリアミドエラストマーに鎖状延長された分岐構造又は架橋構造を導入する方法としては、ポリアミドエラストマーが有する官能基と反応可能な官能基を2つ以上有する化合物とポリアミドエラストマーとの反応により、ポリアミドエラストマーを鎖状延長又は架橋させる方法(方法A)、並びにポリアミドエラストマーが有する官能基と反応可能な官能基及び、鎖状延長反応又は架橋反応可能な反応性基を1つ以上有する化合物とポリアミドエラストマーとを反応させた後、鎖状延長反応又は架橋反応を行う方法(方法B)等が挙げられる。上記方法Aとしては、エポキシ基とカルボキシル基又はアミノ基との反応やイソシアネート基と水酸基との反応等の重付加反応、カルボキシル基と水酸基との脱水縮合によるエステル化反応、並びにカルボキシル基と水酸基との脱水縮合によるアミド化反応等が挙げられる。上記方法Bとしては、例えば、ポリアミドエラストマーの末端に残存しているカルボキシル基に、不飽和結合を有する化合物を反応させ、重合を進行させる方法が挙げられる。ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させた後、重合させることにより、鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーを得ることができる。不飽和結合の重合反応としては、ラジカル重合、アニオン重合又はカチオン重合等の任意の重合反応が利用可能である。上記不飽和結合の重合反応として、ラジカル重合が好適である。上記重合時に、各種の単官能不飽和結合を有する化合物、又は2官能以上の多官能不飽和結合を有する化合物を共存させることにより、鎖状延長された分岐構造又は架橋構造を有する樹脂を任意に合成することができ、また架橋度及び柔軟性などの特性を調整することができる。
【0027】
異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性をより一層高める観点からは、上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は上記架橋ポリアミドエラストマーは、ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることに
より得られた鎖状延長されたポリアミドエラストマー、又はポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることにより得られた架橋ポリアミドエラストマーであることが好ましい。
【0028】
上記不飽和結合を有する化合物としては、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)クリレート、スチレン−p−グリシジルエーテル及びダイセル化学工業社製サイクロマー A−200、M100、M101等が挙げられる。これら以外の不飽和結合を有する化合物を用いてもよい。上記不飽和結合を有する化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0029】
異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性をより一層高める観点からは、上記不飽和結合を有する化合物は、不飽和結合を有するエポキシ化合物であることが好ましい。すなわち、上記不飽和結合を有する化合物は、不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物であることが好ましい。
【0030】
異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性をより一層高める観点からは、鎖状延長前及び架橋前のポリアミドエラストマーは、ハードセグメントとしてポリアミド骨格を有し、かつソフトセグメントとしてポリエーテルエステル骨格及びポリエステル骨格の内の少なくとも1種の骨格を有するポリアミドエラストマーであることが好ましい。このようなポリアミドエラストマーの市販品として、富士化成工業社製のTPAEシリーズが挙げられる。中でも、上記ポリアミドエラストマーの市販品として、富士化成工業社製「TPAE−31」、「TPAE−32」及び「TPAE−33」が好適に用いられる。
【0031】
異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性をより一層高める観点からは、鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーは、ハードセグメントとしてポリアミド骨格を有し、かつソフトセグメントとしてポリエーテルエステル骨格及びポリエステル骨格の内の少なくとも1種の骨格を有するポリアミドエラストマーであることが好ましい。
【0032】
異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性をより一層高める観点からは、鎖状延長されたポリアミドエラストマーの重量平均分子量は30000以上であることが好ましく、架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量は30000以上であることが好ましい。鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量は、より好ましくは50000以上、好ましくは2000000以下、より好ましくは1000000以下、更に好ましくは500000以下である。
【0033】
上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーの含有量は特に限定されない。異方性導電材料(固形分換算:溶剤を除く)100重量%中、上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーの含有量は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、好ましくは95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。異方性導電材料中には、スクリーン印刷のために、各種のフィラー等が配合されることが多いので、上記ポリウレタン樹脂の含有量が多すぎると、接着性及び耐熱クリープ特性以外の他の特性が悪くなる傾向がある。上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーの含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、接着性及び耐熱クリープ特性により一層優れた異方性導電材料が得られる。
【0034】
(導電性粒子)
本発明に係る異方性導電材料に含まれている導電性粒子は、例えば、第1,第2の接続対象部材の電極間を電気的に接続する。本発明に係る異方性導電材料は、複数の導電性粒
子を含むことが好ましい。上記導電性粒子は、導電性を有する粒子であれば特に限定されない。導電性粒子の導電層の表面が絶縁層により被覆されていてもよい。この場合には、接続対象部材の接続時に、導電層と電極との間の絶縁層が排除される。上記導電性粒子としては、例えば、有機粒子、無機粒子、有機無機ハイブリッド粒子もしくは金属粒子等の表面を金属層で被覆した導電性粒子、又は実質的に金属のみで構成される金属粒子等が挙げられる。上記導電層は特に限定されない。上記導電層としては、金層、銀層、銅層、ニッケル層、パラジウム層、錫を含有する金属層、及び異種金属の合金層等が挙げられる。上記導電層は、多層構造を有していてもよい。
【0035】
電極の損傷を抑制し、かつ電極間の導通信頼性をより一層高める観点からは、上記導電性粒子は、樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面上に設けられた導電層とを有することが好ましい。
【0036】
導電性粒子の粒子径は好ましくは0.5μm以上、好ましくは100μm以下である。
【0037】
導電性粒子の「粒子径」は、数平均粒子径を示す。導電性粒子の平均粒子径は、任意の導電性粒子50個を電子顕微鏡又は光学顕微鏡にて観察し、平均値を算出することにより求められる。
【0038】
上記導電性粒子の含有量は特に限定されない。異方性導電材料100重量%中、上記導電性粒子の含有量は、好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。上記導電性粒子の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、接続されるべき上下の電極間に導電性粒子を容易に配置できる。さらに、接続されてはならない隣接する電極間が複数の導電性粒子を介して電気的に接続され難くなる。すなわち、隣り合う電極間の短絡をより一層防止できる。
【0039】
(溶剤)
本発明に係る異方性導電材料に含まれている溶剤は特に限定されない。該溶剤の使用により、異方性導電材料の粘度を容易に調整できる。上記溶剤としては、例えば、ベンジルアルコール、イソホロン、ジメチルホルムアミド、酢酸エチル、メチルセロソルブ、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン及びジエチルエーテル等が挙げられる。これら以外の溶剤を用いてもよい。溶剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0040】
上記溶剤は、上記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマーを分散又は溶解した液として添加されてもよく、導電性粒子を分散させた液として添加されてもよい。また、異方導電材料の製造工程において、粘度調整の目的等により上記溶剤を添加されてもよい。
【0041】
溶剤の含有量は、他の成分の分散又は溶解性、並びに異方性導電材料の粘度などを考慮して、適宜調整される。異方性導電材料100重量%中、溶剤の含有量は好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、好ましくは85重量%以下、より好ましくは75重量%以下である。
【0042】
(他の成分)
本発明に係る異方性導電材料は、鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は架橋ポリアミドエラストマー以外の他のバインダー樹脂、熱硬化性化合物、硬化剤、硬化促進剤、光硬化性化合物、光重合開始剤、無機充填剤、有機充填剤、貯蔵安定剤、イオン捕捉剤、シランカップリング剤、粘着付与剤、消泡剤、分散剤、チクソ性調整剤、又はレベリング
剤等をさらに含んでいてもよい。
【0043】
上記の他の成分の内、無機充填剤が好適に用いられる。無機充填剤の使用により、異方導電材料としての粘度やチクソ性を任意に調整できる他、凝集力や応力緩和性を発現させることが可能になる。上記無機充填剤としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、酸化亜鉛、酸化マグネシウム及び酸化鉄等の酸化物類や、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム及び炭酸亜鉛等の炭酸塩類や、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、カオリン、クレー、タルク、マイカ、ゼオライト及びセリサイト等の珪酸塩類や、水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム等の水酸化物類や、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び亜硫酸カルシウム等の硫酸塩類又は亜硫酸塩類や、窒化ホウ素及び窒化珪素等の窒化物類や、チタン酸カリウム及びチタン酸バリウム等のチタン酸塩類や等が挙げられる。更に、上記無機充填剤としては、ドーソナイト、カーボンブラック及び炭化珪素等が挙げられる。上記無機充填剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
異方性導電材料の接着性をより一層高める観点からは、上記無機充填剤は、タルクを含有することが好ましい。
【0045】
上記無機充填剤の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上、好ましくは5μm以下である。上記無機充填剤の平均粒径が上記範囲内であると、応力緩和性が効果的に発現され、異方性導電材料の接着性がより一層高くなる。異方性導電材料の接着性を更に一層高める観点からは、上記無機充填剤の平均粒径は、より好ましくは3μm以下である。
【0046】
上記「平均粒径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した粒度分布測定結果から求められる累積50%粒子径(Median径)である。
【0047】
また、上記無機充填剤は、表面処理されていることが好ましい。該表面処理の方法として、従来公知の方法を採用可能である。
【0048】
上記バインダー樹脂であるポリアミドエラストマー100重量部に対して、上記無機充填剤の含有量は好ましくは5重量部以上、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。上記無機充填剤の含有量が上記下限以上であると、異方性導電材料の接着性の向上効果が効果的に得られる。上記無機充填剤の含有量が上記上限以下であると、無機充填剤の分散状態が良好になり、貯蔵安定性の低下等の不具合が生じ難くなる。
【0049】
(異方性導電材料の詳細及び用途)
本発明に係る異方性導電材料は、ペースト状又はフィルム状の異方性導電材料であることが好ましく、ペースト状の異方性導電材料であることが好ましい。ペースト状の異方性導電材料は、異方性導電ペーストである。フィルム状の異方性導電材料は、異方性導電フィルムである。
【0050】
本発明に係る異方性導電材料を用いて、フレキシブルプリント基板の電極を他の電極と接続し、タッチパネル等の接続構造体を得たときに、該接続構造体が折り曲げられても、剥離が生じ難くなる。また、得られた接続構造体が高温下で長期間使用されても、剥離が生じ難くなる。
【0051】
本発明に係る異方性導電材料は、フレキシブルプリント基板の電極の電気的な接続に用いられる異方性導電材料であることが好ましい。フレキシブルプリント基板は柔軟性が高く、力が付与されたり、振動が与えられたりすると湾曲しやすい。さらに、フレキシブル
プリント基板は曲げられた状態で用いられることがある。フレキシブルプリント基板が曲げられると、異方性導電材料とフレキシブルプリント基板との接着部分で剥離が生じやすい。しかし、本発明に係る異方性導電材料の使用により、異方性導電材料とフレキシブルプリント基板との接着力が高くなるので、剥離を効果的に抑制することができる。従って、本発明に係る異方性導電材料は、フレキシブルプリント基板の電極の電気的な接続に好適に用いられる。
【0052】
本発明に係る異方性導電材料は、タッチパネル用異方性導電材料であることが好ましい。本発明に係る異方性導電材料は、フレキシブルプリント基板の電極の電気的な接続に用いられるタッチパネル用異方性導電材料であることが好ましい。タッチパネルでは、使用時に異方性導電材料と接続対象部材との接着部分に力が加わったり、異方性導電材料が高温の環境下に晒されたりする。本発明に係る異方性導電材料の接着性及び耐熱クリープ特性は高いので、本発明に係る異方性導電材料を用いたタッチパネルにおいて、異方性導電材料と接続対象部材との接着性を高めることができ、更に異方性導電材料が高温下に晒されても、異方性導電材料と接続対象部材との剥離を生じ難くすることができる。
【0053】
また、本発明に係る異方性導電材料は、様々な接続対象部材を接着するために使用できる。上記異方性導電材料は、第1,第2の接続対象部材が電気的に接続されている接続構造体を得るために好適に用いられる。
【0054】
図1に、本発明の一実施形態に係る異方性導電材料を用いた接続構造体の一例を模式的に断面図で示す。
【0055】
図1に示す接続構造体1は、第1の接続対象部材2と、第2の接続対象部材4と、第1,第2の接続対象部材2,4を接続している接続部3とを備える。接続部3は、導電性粒子5を含む異方性導電材料により形成されている。
【0056】
第1の接続対象部材2の上面2aには、複数の電極2bが設けられている。第2の接続対象部材4の下面4aには、複数の電極4bが設けられている。電極2bと電極4bとが、1つ又は複数の導電性粒子5により電気的に接続されている。従って、第1,第2の接続対象部材2,4が導電性粒子5により電気的に接続されている。
【0057】
電極2b,4b間の接続は、通常、第1の接続対象部材2と第2の接続対象部材4とを異方性導電材料を介して電極2b,4b同士が対向するように重ね合わせた後に、異方性導電材料を硬化させる際に、加圧することにより行われる。加圧により、一般に導電性粒子5は圧縮される。
【0058】
上記接続構造体としては、具体的には、回路基板上に、半導体チップ、コンデンサチップ又はダイオードチップ等の電子部品チップが搭載されており、該電子部品チップの電極が、回路基板上の電極と電気的に接続されている接続構造体等が挙げられる。回路基板としては、フレキシブルプリント基板等の様々なプリント基板、ガラス基板、又は金属箔が積層された基板等の様々な回路基板が挙げられる。第1,第2の接続対象部材は、電子部品又は回路基板であることが好ましい。
【0059】
第1,第2の接続対象部材の内の少なくとも一方は、フレキシブルプリント基板であることが好ましい。上記接続構造体は、タッチパネルであることが好ましい。
【0060】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0061】
(合成例1)
不飽和結合を末端に有するポリアミドエラストマーの合成
1Lのセパラブルフラスコに、ポリアミドエラストマー(富士化成工業社製「TPAE−32」、Mw=2.8万、酸価=2.2)120gと、ベンジルアルコール480gと、酸化防止剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製「イルガノックス1098」)0.3gと、酸化防止剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製「イルガノックス1010」)0.4gとを入れ、セパラブルフラスコ中の温度を60℃にして、窒素雰囲気下で溶解させた。
【0062】
次に、上記セパラブルフラスコ中に、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル12gと、メトキシフェノール0.6gと、ナフテン酸クロム0.9gとをさらに入れ、セパラブルフラスコ中の温度を85℃にして、窒素雰囲気中で11時間反応させ、不飽和結合を末端に有するポリアミドエラストマーを含む溶液Aを得た。
【0063】
(合成例2)
鎖状延長ポリアミドエラストマーの合成
上記合成例1で得られた溶液A90gと、EBECRYL 3702(ダイセルサイテック社製、脂肪酸変性エポキシアクリレート)3.2gと、開始剤(和光純薬社製「V−70」、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル))0.08gとを配合して、60℃で8時間反応させて、鎖状延長ポリアミドエラストマーを含む溶液Bを合成した。
【0064】
得られた鎖状延長ポリアミドエラストマーをクロロホルムに溶解させた後、鎖状延長ポリアミドエラストマーの重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、鎖状延長ポリアミドエラストマーの重量平均分子量は10万であった。
【0065】
(合成例3)
架橋ポリアミドエラストマーの合成
上記合成例1で得られた溶液A90gと、変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製:DPCA−120:6官能)2.25gと、EBECRYL 3702(ダイセルサイテック社製:脂肪酸変性エポキシアクリレート)0.95gと、開始剤(和光純薬社製「V−70」、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル))0.08gとを配合して、60℃で8時間反応させて、架橋ポリアミドエラストマーを含む溶液Cを合成した。
【0066】
得られた架橋ポリアミドエラストマーをクロロホルムに溶解させた後、架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。その結果、架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量は15万であった。
【0067】
(実施例1)
異方性導電材料の作製
合成例2で得られた鎖状延長ポリアミドエラストマー23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液B20重量部と、無機充填剤として平均粒径4.5μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースP−4」)1.4重量部と、酸化防止剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製「イルガノックス1010」)0.02重量部と、酸化防止剤(チバ・スペシャルティケミカルズ社製「イルガノックス1098」)0.02重量部と、無機充填剤として平均粒径0.21μmの酸化チタン(石原産業社製「CR−60」)0.2重量部と、導電性粒子(樹脂粒子がニッケル層により被覆されており、更に該ニッケ
ル層が金層により被覆されている導電性粒子、平均粒子径30μm)0.4重量部とを配合し、配合物を得た。
【0068】
得られた配合物を、公転真空ミキサー「あわとり練太郎」にて、2000回転で3分混練することにより、異方性導電材料を作製した。
【0069】
(実施例2)
合成例2で得られた鎖状延長ポリアミドエラストマー23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液B20重量部を、合成例3で得られた架橋ポリアミドエラストマー23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液C20重量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして、異方性導電材料を作製した。
【0070】
(実施例3)
平均粒径4.5μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースP−4」)の代わりに、平均粒径8.0μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースK−1」)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、異方性導電材料を作製した。
【0071】
(実施例4)
平均粒径4.5μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースP−4」)の代わりに、平均粒径2.5μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースSG−95」)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、異方性導電材料を作製した。
【0072】
(実施例5)
平均粒径4.5μmのタルク(日本タルク社製「ミクロエースP−4」)の代わりに、平均粒径0.6μmのタルク(日本タルク社製「NANO ACE D−600」)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、異方性導電材料を作製した。
【0073】
(比較例1〜2)
上記配合物を得る際の組成を下記の表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして、異方性導電材料を得た。
【0074】
バインダー樹脂に関して、比較例1では、合成例2で得られた鎖状延長ポリアミドエラストマー23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液B20重量部のかわりに、通常のポリアミドエラストマー(富士化成工業社製「TPAE−32」)23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液20重量部を用いた。
【0075】
バインダー樹脂に関して、比較例2では、合成例2で得られた鎖状延長ポリアミドエラストマー23重量%とベンジルアルコール77重量%とを含む溶液B20重量部のかわりに、通常のポリアミドエラストマー(富士化成工業社製「TPAE−32」)2.8重量部と、ウレタンエラストマー(日本ポリウレタン工業社製「ミラクトンP390RSUP」)1.2重量部と、スチレンエラストマー(カネカ社製「シブスター062M」)1.0重量部とを、ジメチルホルムアミド9重量部、シクロヘキサノン4重量部及びトルエン2.25重量部に溶解した溶液を用いた。
【0076】
(評価)
得られた異方性導電ペーストを用いて、接着力(90度ピール強度)及び耐熱クリープを測定した。測定用サンプルの作成方法及び評価方法は以下の通りである。
【0077】
「接着力の測定サンプルの作成方法」
図2に示す仕様のフレキシブルプリント基板の一部(大洋工業社製、構成:厚み25μ
mのポリイミドフィルム/厚み18μmの銅箔、電極めっき:Ni5μm/Au0.05μm)を用意した。図2に示すように、フレキシブルプリント基板では、電気めっきされた銅箔51(銅配線)上に、カバーレイ52が設けられている。
【0078】
このフレキシブルプリント基板上に、100メッシュ(材質ステンレス)の版を使用して、乾燥後の厚みが20〜25μmになるように、得られた異方性導電材料をスクリーン印刷した。次に、熱風乾燥オーブン内で110℃で10分乾燥を行った。その後、コンスタントヒーター方式圧着機(大橋製作所:BD−03SDSS)を用いて、フレキシブルプリント基板とITOガラスとを異方性導電材料を介して、圧着温度140℃及び圧力294.2N/cmの条件で、15秒間貼り合わせ、接着力の測定用サンプルを得た。
【0079】
「接着力の測定方法」
図3に示すように、静的材料試験機(島津製作所社製「EZ−Graph」)を用いて、得られた接着力の測定用サンプルについて、引っ張り速度50mm/分で90度剥離試験を行った。得られた90度ピール強度の最大値を接着力の測定値とした。図3に示すように、ITOガラス61からフレキシブルプリント基板62を矢印X1で示す方向に剥離して、接着力を測定した(異方性導電材料の図示は省略)。
【0080】
「耐熱クリープの測定用サンプルの作成方法」
厚み38μmの未処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(3mm×20mmの大きさ)を用意した。このPETフィルムに100メッシュ(材質ステンレス)の版を使用して、乾燥後の厚みが20〜25μmになるように、得られた異方性導電材料をスクリーン印刷した。次に、熱風乾燥オーブン内で110℃で10分乾燥を行った。その後、コンスタントヒーター方式圧着機(大橋製作所:BD−03SDSS)を用いて、PETフィルムとITOガラスとを異方性導電材料を介して、圧着温度140℃及び圧力294.2N/cmの条件で、15秒間貼り合わせ、耐熱クリープの測定用サンプルを得た。
【0081】
「耐熱クリープの測定方法」
85℃のオーブン内に、耐熱クリ―プの測定用サンプルを入れ、図4に示すように、0.29N/cmの荷重をかけた後、どれだけの時間、剥離せずに保持できるかを測定した。すなわち、ITOガラス71を主面が鉛直方向と垂直な平面内に位置するように、かつITOガラス71の下面71aにPETフィルム72が接着されている状態となるように配置した。PETフィルム72の端部72aに重り73を付けPETフィルム72に、矢印X2で示す方向に0.29N/cmの荷重をかけた(異方性導電材料の図示は省略)。
【0082】
また、48時間放置しても落下が生じなかった場合には、「落下せず」と判定して、PETフィルムの剥離した距離を測定した。
【0083】
結果を下記の表1に示す。
【0084】
【表1】

【符号の説明】
【0085】
1…接続構造体
2…第1の接続対象部材
2a…上面
2b…電極
3…接続部
4…第2の接続対象部材
4a…下面
4b…電極
5…導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と、バインダー樹脂である鎖状延長されたポリアミドエラストマー及びバインダー樹脂である架橋ポリアミドエラストマーの内の少なくとも1種と、溶剤とを含む、異方性導電材料。
【請求項2】
前記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は前記架橋ポリアミドエラストマーは、ポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることにより得られた鎖状延長されたポリアミドエラストマー、又はポリアミドエラストマーに不飽和結合を有する化合物を反応させ、ラジカル重合を進行させることにより得られた架橋ポリアミドエラストマーである、請求項1に記載の異方性導電材料。
【請求項3】
前記不飽和結合を有する化合物が、不飽和結合を有するエポキシ化合物である、請求項2に記載の異方性導電材料。
【請求項4】
前記鎖状延長されたポリアミドエラストマー又は前記架橋ポリアミドエラストマーの重量平均分子量が30000以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の異方性導電材料。
【請求項5】
フレキシブルプリント基板の電極の電気的な接続に用いられる異方性導電材料である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の異方性導電材料。
【請求項6】
タッチパネル用異方性導電材料である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の異方性導電材料。
【請求項7】
平均粒径が0.01μm以上、5μm以下である無機充填剤をさらに含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の異方導電性材料。
【請求項8】
前記無機充填剤がタルクを含有する、請求項7に記載の異方導電性材料。
【請求項9】
第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を電気的に接続している接続部とを備え、
前記接続部が、請求項1〜8のいずれか1項に記載の異方性導電材料により形成されている、接続構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−142255(P2012−142255A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57381(P2011−57381)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】