説明

異方性導電材料及び接続構造体

【課題】光の照射と熱の付与により硬化可能な異方性導電材料、及び該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供する。
【解決手段】本発明に係る異方性導電材料は、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂と、光重合開始剤と、熱硬化剤と、導電性粒子5とを含む。本発明に係る接続構造体1は、第1の接続対象部材2と、第2の接続対象部材4と、該第1,第2の接続対象部材2,4を接続している接続部3とを備える。接続部3は、上記異方性導電材料により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射及び熱の付与により硬化可能な異方性導電材料に関し、より詳細には、フェノキシ樹脂を用いた異方性導電材料、並びに該異方性導電材料を用いた接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、硬化後の硬化物の接着力が高く、硬化物の耐水性及び耐熱性にも優れている。このため、エポキシ樹脂組成物は、電気、電子、建築及び車両等の各種用途に広く用いられている。
【0003】
また、様々な接続対象部材を電気的に接続するために、上記エポキシ樹脂組成物に、導電性粒子が配合されることがある。導電性粒子を含むエポキシ樹脂組成物は、異方性導電材料と呼ばれている。
【0004】
上記異方性導電材料は、具体的には、ICチップとフレキシブルプリント回路基板との接続、及びICチップとITO電極を有する回路基板との接続等に使用されている。例えば、ICチップの電極と回路基板の電極との間に異方性導電材料を配置した後、加熱及び加圧することにより、これらの電極同士を接続できる。
【0005】
上記異方性導電材料の一例として、下記の特許文献1には、加熱により遊離ラジカルを発生する硬化剤と、分子量10000以上の水酸基含有樹脂と、リン酸エステルと、ラジカル重合性物質と、導電性粒子とを含む異方性導電材料が開示されている。上記水酸基含有樹脂としては、具体的には、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、フェノール樹脂、エポキシ樹脂及びフェノキシ樹脂などのポリマーが挙げられている。
【0006】
また、下記の特許文献2には、硬化性成分と、シラン化合物と、導電性粒子とを含む異方性導電材料が開示されている。ここでは、硬化性成分とシラン化合物との併用により、充分な接着強度が得られるとともに、高温高湿環境下でも安定した接着強度が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−314696号公報
【特許文献2】特開2006−16580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、上記異方性導電材料として、新規な異方性導電材料の開発が求められている。
【0009】
また、近年、精密電子機器の分野では、回路の高密度化が進んでおり、電極幅及び電極間隔が極めて狭くなっている。このため、特許文献1,2に記載のような従来の異方性導電材料では、硬化が速やかに進行せずに、配線の脱落、剥離及び位置ずれが生じることがある。
【0010】
また、特許文献2では、充分な接着強度が得られることが記載されているものの、各種の基板などの接着対象部材に対する異方性導電材料の硬化物の接着強度が必ずしも充分に高くならないという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、光の照射及び熱の付与により硬化可能な新規な異方性導電材料、及び該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供することである。
【0012】
本発明の限定的な目的は、光の照射により硬化を進行させることができ、かつ低温で速やかに熱硬化させることができる異方性導電材料、及び該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供することである。
【0013】
本発明の他の限定的な目的は、金属配線又は導電性粒子などの金属に対して、異方性導電材料中の硬化性化合物を硬化させた硬化物の接着強度を高くすることができる異方性導電材料、及び該異方性導電材料を用いた接続構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の広い局面によれば、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂と、光重合開始剤と、熱硬化剤と、導電性粒子とを含む、異方性導電材料が提供される。
【0015】
本発明に係る異方性導電材料のある特定の局面では、ウレタン樹脂がさらに含まれている。
【0016】
本発明に係る接続構造体は、第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を接続している接続部とを備えており、該接続部が、本発明に従って構成された異方性導電材料により形成されている。
【0017】
本発明に係る接続構造体のある特定の局面では、上記第1,第2の接続対象部材は、前記導電性粒子により電気的に接続されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る異方性導電材料は、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂と、光重合開始剤と、熱硬化剤と、導電性粒子とを含むので、光の照射及び熱の付与により硬化可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る異方性導電材料を用いた接続構造体を模式的に示す部分切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
(異方性導電材料)
本発明に係る異方性導電材料は、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂と、光重合開始剤と、熱硬化剤と、導電性粒子とを含む。この組成の採用により、光の照射及び熱の付与により異方性導電材料は硬化可能になる。また、この組成の採用により、光の照射により異方性導電性材料を半硬化又は硬化させることができ、更に熱の付与により異方性導電材料を半硬化又は硬化させることができる。従って、本発明に係る異方性導電材料は、様々な方法で硬化可能であるので、様々な用途に適用可能である。
【0022】
また、本発明に係る異方性導電材料では、光の照射と熱の付与とを別々に行うことによって、特に光の照射によって、異方性導電材料を半硬化させ、異方性導電材料の流動性を低下させることができる。流動性を低下させた後、光の照射又は熱の付与によって、特に熱の付与によって、異方性導電材料を硬化させることができる。
【0023】
また、上記組成の採用により、特に不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂に由来して、異方性導電材料中の硬化性化合物が硬化した硬化物の物性を良好にすることができる。
【0024】
また、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂を含む異方性導電材料では、フェノキシ樹脂の骨格の強靭性により硬化物の伸びが良好になる。このため、異方性導電材料を用いて接続対象部材を接続した場合に、負荷がかかっても、異方性導電材料を硬化させた硬化物の接続対象部材に対する接着強度を高く維持できる。
【0025】
〔不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂〕
本発明に係る異方性導電材料は、光硬化性化合物として、熱硬化性化合物として、又は光及び熱硬化性化合物として、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂を含む。上記不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂を、以下、フェノキシ樹脂Aと略記することがある。フェノキシ樹脂Aは、一般にエポキシ基を有する。フェノキシ樹脂Aは、エポキシ基又はチイラン基を有することが好ましい。フェノキシ樹脂Aはエポキシ基を有していてもよく、チイラン基を有していてもよい。エポキシ基又はチイラン基を有するフェノキシ樹脂Aは、熱の付与により硬化可能である。フェノキシ樹脂Aは、不飽和二重結合を有するので、光の照射により硬化可能である。フェノキシ樹脂Aは、光の照射及び熱の付与により硬化可能な樹脂であり、光及び熱硬化性化合物であることが好ましい。フェノキシ樹脂Aは、フェノキシ樹脂の変性物である。フェノキシ樹脂Aは、フェノキシ樹脂に、不飽和二重結合が導入されている樹脂である。フェノキシ樹脂Aは、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
上記フェノキシ樹脂Aの分子量は、好ましくは2000以上、より好ましくは4000以上、好ましくは9500以下、より好ましくは8000以下である。上記フェノキシ樹脂Aの分子量が上記下限以上及び上記上限以下であると、硬化性組成物(異方性導電材料)が液状又は半液状であるため、硬化性組成物の流動性が良好になり、硬化性組成物を加工しやすく、硬化性組成物を取り扱いやすい。なお、本明細書において、「分子量」とは、上記フェノキシ樹脂Aが重合体ではない場合、及び上記フェノキシ樹脂Aの構造式が特定できる場合は、当該構造式から算出できる分子量を意味する。また、上記フェノキシ樹脂Aが重合体である場合は、重量平均分子量を意味する。
【0027】
上記フェノキシ樹脂Aでは、側鎖や末端等に不飽和二重結合が導入されている。上記フェノキシ樹脂Aでは、側鎖に不飽和二重結合が導入されていることが好ましい。側鎖に不飽和二重結合が導入されているフェノキシ樹脂の架橋密度の制御は容易である。
【0028】
上記フェノキシ樹脂Aは、1分子あたり平均で、不飽和二重結合を1個以上、1.5個以下有することが好ましい。また、後述する異方性導電材料に含まれている上記フェノキシ樹脂Aは、1分子あたり平均で、不飽和二重結合を1個以上、1.5個以下有することが好ましい。この場合には、異方性導電材料に光を照射した後に、良好なBステージ状態にすることができる。
【0029】
フェノキシ樹脂Aは、フェノキシ樹脂に不飽和二重結合が導入されている変性フェノキシ樹脂であり、不飽和二重結合を有する。不飽和二重結合を含む基としては、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。フェノキシ樹脂Aは、(メタ)アクリロイル基を有することが好ましい。
【0030】
フェノキシ樹脂Aは、チイラン基を有することが好ましい。特に、フェノキシ樹脂Aがチイラン基を有することにより、異方性導電材料を低温で速やかに硬化させることが可能になる。チイラン基を有する化合物は、エポキシ基を有する化合物と比較して、チイラン基に由来してより一層低い温度で硬化可能である。
【0031】
さらに、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂がチイラン基を有する場合には、金属配線又は導電性粒子などの金属に対して、異方性導電材料中の硬化性化合物を硬化させた硬化物の接着強度を高くすることができる。これは、チイラン基の硫黄原子と金属とが配位結合するためであると考えられる。フェノキシ樹脂Aがチイラン基を有する場合には、上記硬化物の接着強度が高くなり、接続信頼性に優れた接続構造体を得ることができる。
【0032】
フェノキシ樹脂は、一般的には、例えばエピハロヒドリンと2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂、又は2価のエポキシ化合物と2価のフェノール化合物とを反応させて得られる樹脂である。
【0033】
また、一般にフェノキシ樹脂は水酸基を有する。この水酸基の反応性を利用して、フェノキシ樹脂に不飽和二重結合を導入することができる。例えば、水酸基を有するフェノキシ樹脂に、イソシアネートと、不飽和二重結合とを有する化合物と反応させることで、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂を得ることができる。
【0034】
チイラン基を有するフェノキシ樹脂を得る上記反応において、チイラン基を有するフェノキシ樹脂の原料となるエポキシ基を有する化合物にかえて該エポキシ基を有する化合物のエポキシ基をチイラン基に変換したチイラン基を有する化合物を用いることにより、チイラン基を有するフェノキシ樹脂を得ることができる。さらに、エポキシ基を有するフェノキシ樹脂を用意し、該エポキシ基を有するフェノキシ樹脂のエポキシ基をチイラン基に変換することによっても、チイラン基を有するフェノキシ樹脂を得ることができる。本明細書において、これらの方法で得られる樹脂を含めて、チイラン基を有するフェノキシ樹脂と呼ぶ。エポキシ基を有するフェノキシ樹脂のエポキシ基がチイラン基に変換された樹脂を、チイラン基を有するフェノキシ樹脂と呼ぶ。
【0035】
上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのエポキシ基を有する化合物とを用いた反応物であることがより好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのチイラン基を有する化合物とを用いた反応物であることがより好ましい。
【0036】
上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのエポキシ基を有する化合物との反応物に、ビニル基を有する化合物を反応させることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのエポキシ基を有する化合物との反応物のエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した後、ビニル基を有する化合物又はエポキシ基を有する化合物を反応させることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのエポキシ基を有する化合物との反応物に、ビニル基を有する化合物又はエポキシ基を有する化合物を反応させた後、エポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換することにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ジオール化合物と2つのチイラン基を有する化合物との反応物に、ビニル基を有する化合物を反応させることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0037】
上記フェノキシ樹脂Aは、側鎖にビニル基を合計で2個以上有することが好ましい。この場合には、硬化物の接着性及び耐湿性をより一層高めることができる。
【0038】
上記フェノキシ樹脂Aは、ビスフェノールFと、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル又はレゾルシノールジグリシジルエーテルとの反応物(以下、反応物X1と記載することがある)を得た後、(メタ)アクリル酸又は2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ビスフェノールFと、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル又はレゾルシノールジグリシジルエーテルとの反応物X1のエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した後、(メタ)アクリル酸又は2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ビスフェノールFと、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル又はレゾルシノールジグリシジルエーテルとの反応物X1に、(メタ)アクリル酸又は2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させた後、エポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換することにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。上記フェノキシ樹脂Aは、ビスフェノールFと、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物又はレゾルシノールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物との反応物(以下、反応物X2と記載することがある)に、(メタ)アクリル酸又は2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応さることにより得られるフェノキシ樹脂であることが好ましい。このように合成されたフェノキシ樹脂は、速やかに硬化させることができ、更に硬化物の接着性及び耐湿性を高くすることができる。上記フェノキシ樹脂を得る際に、(メタ)アクリル酸を用いることで、(メタ)アクリロイル基を有するフェノキシ樹脂が得られる。
【0039】
上記反応物X1としては、ビスフェノールFと1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの第1の反応物、ビスフェノールFとレゾルシノールジグリシジルエーテルとの第2の反応物が挙げられる。
【0040】
上記反応物X2としては、ビスフェノールFと1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物との第1の反応物、ビスフェノールFとレゾルシノールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物との第2の反応物が挙げられる。
【0041】
上記第1の反応物は、ビスフェノールFに由来する骨格と1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル又は該1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物に由来する骨格とが結合した構造単位を主鎖に有し、かつ1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル又は該1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物に由来するエポキシ基又はチイラン基を両末端に有する。上記第2の反応物は、ビスフェノールFに由来する骨格とレゾルシノールジグリシジルエーテル又は該レゾルシノールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物に由来する骨格とを主鎖に有し、かつレゾルシノールジグリシジルエーテル又は該レゾルシノールジグリシジルエーテルのエポキシ基の一部又は全部をチイラン基に変換した化合物に由来するエポキシ基又はチイラン基を両末端に有する。
【0042】
合成が容易であり、フェノキシ樹脂をより一層速やかに硬化させることを可能にし、更に硬化物の接着性及び耐湿性をより一層高める観点からは、上記第1,第2の反応物のうち、上記第1の反応物が好ましい。
【0043】
エポキシ基を有するフェノキシ樹脂のエポキシ基をチイラン基に変換する方法は特に限定されない。エポキシ基を有するフェノキシ樹脂のエポキシ基をチイラン基に置き換える際に、全部のエポキシ基をチイラン基に変換してもよく、一部のエポキシ基をチイラン基に変換してもよい。
【0044】
上記製造方法は、チオシアン酸塩を含む第1の溶液に、エポキシ基を有するフェノキシ樹脂又は該エポキシ基を有するフェノキシ樹脂を含む溶液を連続的又は断続的に添加した後、チオシアン酸塩を含む第2の溶液を連続的又は断続的にさらに添加する方法が好ましい。この方法により、上記エポキシ基を有するフェノキシ樹脂の全部又は一部のエポキシ基をチイラン基に変換できる。上記エポキシ基を有するフェノキシ樹脂の一部のエポキシ基をチイラン基に変換した結果、チイラン基とエポキシ基とを有するフェノキシ樹脂、又はチイラン基を有するフェノキシ樹脂とチイラン基とエポキシ基とを有するフェノキシ樹脂との混合物が得られる。
【0045】
また、一般的なフェノキシ樹脂から、チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂は、具体的には、以下に示す製造方法により得ることができる。
【0046】
第1の溶媒中で、エポキシ基と水酸基とを有するフェノキシ樹脂に、水酸基の反応性を利用して、イソシアネートと、不飽和二重結合を有する化合物(例えば、(メタ)アクリロイル基を有する化合物)を反応させ、反応液を得る。この反応には、例えば、触媒としてチタン系触媒等、第1の溶媒としてトルエン等が用いられる。次に、反応液に、メタノールなどの第2の溶媒を加え、エポキシ基をチイラン基に変換する反応を行う。この変換反応には、チオ尿素等が用いられる。その後、メタノールなどの第2の溶媒を除去し、フェノキシ樹脂Aと第1の溶媒とを含む溶液を得る。その後、第1の溶媒は、必要に応じて除去される。
【0047】
不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂は、好ましくは、水酸基を有するフェノキシ樹脂を用いて、フェノキシ樹脂の水酸基に不飽和二重結合を有する化合物を反応させて、不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂を得る製造方法により得られる。上記水酸基を有するフェノキシ樹脂は、水酸基を有し、かつ不飽和二重結合を有さないフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0048】
チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂は、好ましくは、エポキシ基と水酸基とを有するフェノキシ樹脂を用いて、該フェノキシ樹脂のエポキシ基をチイラン基に変換し、かつ該フェノキシ樹脂の水酸基に不飽和二重結合を有する化合物を反応させて、チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂を得る製造方法により得られる。この製造方法において、フェノキシ樹脂の一部のエポキシ基をチイラン基に変換することにより、チイラン基とエポキシ基と不飽和二重結合とを有する変性フェノキシ樹脂が得られる。上記エポキシ基と水酸基とを有するフェノキシ樹脂は、エポキシ基と水酸基とを有し、かつチイラン基と不飽和二重結合とを有さないフェノキシ樹脂であることが好ましい。
【0049】
フェノキシ樹脂Aは、エポキシ基を有していてもよい。フェノキシ樹脂Aは、チイラン基とエポキシ基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂であってもよい。チイラン基とエポキシ基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂の使用により、異方性導電材料の保存安定性及び取扱い性をより一層高めることができる。
【0050】
フェノキシ樹脂Aが水酸基又はカルボキシル基などの極性基を有すると、他の成分、特にエポキシ基を有する硬化性化合物との相溶性が高くなる。このため、硬化物の外観を均一にすることができ、更に異方性導電材料の硬化速度を速くすることができる。
【0051】
本発明に係る異方性導電材料では、硬化性化合物100重量%中、フェノキシ樹脂Aの含有量は0.1重量%以上、100重量%以下であることが好ましい。硬化性化合物100重量%中、フェノキシ樹脂Aの含有量は、より好ましくは5重量%以上、更に好ましくは10重量%以上、特に好ましくは50重量%以上である。フェノキシ樹脂Aがチイラン基を有する場合には、エポキシ基を有する硬化性化合物と比べて、反応性が高い。従って、フェノキシ樹脂Aの含有量が多いほど、異方性導電材料を低温でより一層速やかに硬化させることができる。
【0052】
なお、硬化性化合物の全量が、フェノキシ樹脂Aであってもよい。上記硬化性化合物としてフェノキシ樹脂Aのみを用いる場合には、上記「硬化性化合物100重量%」は、フェノキシ樹脂A100重量%を示す。上記硬化性化合物として、フェノキシ樹脂Aと該フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物とを併用する場合には、上記「硬化性化合物100重量%」は、フェノキシ樹脂Aと熱硬化性化合物との合計100重量%を示す。上記硬化性化合物として、フェノキシ樹脂Aと該フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物とを併用する場合には、上記「硬化性化合物100重量%」は、フェノキシ樹脂Aと光硬化性化合物との合計100重量%を示す。上記硬化性化合物として、フェノキシ樹脂Aと該フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物と該フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物を併用する場合には、上記「硬化性化合物100重量%」は、フェノキシ樹脂Aと熱硬化性化合物と光硬化性化合物との合計100重量%を示す。
【0053】
〔光重合開始剤〕
本発明に係る異方性導電材料に含まれている光重合開始剤は特に限定されない。該光重合開始剤は、フェノキシ樹脂A及び光硬化性化合物を硬化させる。該光重合開始剤として、従来公知の光重合開始剤を用いることができる。該光重合開始剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0054】
上記光重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン光重合開始剤、ベンゾフェノン光重合開始剤、チオキサントン、ケタール光重合開始剤、ハロゲン化ケトン、アシルホスフィノキシド及びアシルホスフォナート等が挙げられる。
【0055】
上記アセトフェノン光重合開始剤の具体例としては、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、及び2−ヒドロキシ−2−シクロヘキシルアセトフェノン等が挙げられる。上記ケタール光重合開始剤の具体例としては、ベンジルジメチルケタール等が挙げられる。
【0056】
上記光重合開始剤の含有量は特に限定されない。本発明に係る異方性導電材料では、フェノキシ樹脂A100重量部に対して、光重合開始剤の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは0.2重量部以上、更に好ましくは2重量部以上、好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下である。光重合開始剤の含有量が上記下限以上であると、光重合開始剤を添加した効果を充分に得ることが容易である。光重合開始剤の含有量が上記上限以下であると、異方性導電材料の硬化物の接着力が充分に高くなる。
【0057】
〔熱硬化剤〕
本発明に係る異方性導電材料に含まれている熱硬化剤は特に限定されない。該熱硬化剤は、フェノキシ樹脂A及び熱硬化性化合物を硬化させる。該熱硬化剤として、従来公知の熱硬化剤を用いることができる。該熱硬化剤は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0058】
上記熱硬化剤としては、イミダゾール硬化剤、アミン硬化剤、フェノール硬化剤、ポリチオール硬化剤及び酸無水物等が挙げられる。なかでも、異方性導電材料を低温でより一層速やかに硬化させることができるので、イミダゾール硬化剤、ポリチオール硬化剤又はアミン硬化剤が好ましい。また、上記熱硬化性化合物と上記熱硬化剤とを混合したときに保存安定性を高めることができるので、潜在性の硬化剤が好ましい。潜在性の硬化剤は、潜在性イミダゾール硬化剤、潜在性ポリチオール硬化剤又は潜在性アミン硬化剤であることが好ましい。これらの熱硬化剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。なお、上記熱硬化剤は、ポリウレタン樹脂又はポリエステル樹脂等の高分子物質で被覆されていてもよい。
【0059】
上記イミダゾール硬化剤としては、特に限定されないが、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン及び2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0060】
上記ポリチオール硬化剤としては、特に限定されないが、トリメチロールプロパン トリス−3−メルカプトプロピオネート、ペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネート及びジペンタエリスリトール ヘキサ−3−メルカプトプロピオネート等が挙げられる。
【0061】
上記アミン硬化剤としては、特に限定されないが、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)2,4,8,10−テトラスピロ[5.5]ウンデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、メタフェニレンジアミン及びジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0062】
上記熱硬化剤の中でもポリチオール化合物又は酸無水物等が好ましく用いられる。異方性導電材料の硬化速度をより一層速くできるので、ポリチオール化合物がより好ましく用いられる。
【0063】
上記ポリチオール化合物の中でもペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネートがより好ましい。このポリチオール化合物の使用により、異方性導電材料の硬化速度をより一層速くできる。
【0064】
上記熱硬化剤のガラス転移温度は好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。上記熱硬化剤のガラス転移温度が上記上限以下であると、硬化物とポリイミド基材とが密着しやすく、硬化物の接着強度がより一層高くなる。上記熱硬化剤のガラス転移温度は好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上である。
【0065】
上記熱硬化剤の含有量は特に限定されない。本発明に係る異方性導電材料では、フェノキシ樹脂A100重量部に対して、熱硬化剤の含有量は、好ましくは0.01重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは200重量部以下、より好ましくは100重量部以下、更に好ましくは75重量部以下である。熱硬化剤の含有量が上記下限以上であると、異方性導電材料を充分に硬化させることが容易である。熱硬化剤の含有量が上記上限以下であると、硬化後に硬化に関与しなかった余剰の熱硬化剤が残存し難くなり、かつ硬化物の耐熱性がより一層高くなる。
【0066】
なお、上記熱硬化剤がイミダゾール硬化剤又はフェノール硬化剤である場合、上記硬化性化合物100重量部に対して、イミダゾール硬化剤又はフェノール硬化剤の含有量は好ましくは1重量部以上、好ましくは15重量部以下である。また、上記熱硬化剤がアミン硬化剤、ポリチオール硬化剤又は酸無水物である場合、上記硬化性化合物100重量部に対して、アミン硬化剤、ポリチオール硬化剤又は酸無水物の含有量は、好ましくは15重量部以上、好ましくは40重量部以下である。
【0067】
〔硬化促進剤〕
本発明に係る異方性導電材料は、硬化促進剤をさらに含むことが好ましい。硬化促進剤の使用により、異方性導電材料の硬化速度をより一層速くすることができる。硬化促進剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
上記硬化促進剤の具体例としては、イミダゾール硬化促進剤及びアミン硬化促進剤等が挙げられる。なかでも、イミダゾール硬化促進剤が好ましい。なお、イミダゾール硬化促進剤又はアミン硬化促進剤は、イミダゾール硬化剤又はアミン硬化剤としても用いることができる。
【0069】
上記イミダゾール硬化促進剤としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン及び2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加物等が挙げられる。
【0070】
上記フェノキシ樹脂A100重量部に対して、上記硬化促進剤の含有量は、好ましくは0.5重量部以上、より好ましくは1重量部以上、好ましくは6重量部以下、より好ましくは4重量部以下である。硬化促進剤の含有量が上記下限以上であると、異方性導電材料を充分に硬化させることが容易である。硬化促進剤の含有量が上記上限以下であると、硬化後に硬化に関与しなかった余剰の硬化促進剤が残存し難くなる。
【0071】
〔ウレタン樹脂〕
異方性導電材料中の硬化性化合物を硬化させた硬化物の接着性をより一層高める観点からは、本発明に係る異方性導電材料は、ウレタン樹脂を含むことが好ましい。また、フェノキシ樹脂Aとウレタン樹脂との併用により、上記硬化物の接着性がより一層良好になる。該ウレタン樹脂として、従来公知のウレタン樹脂を用いることができる。該ウレタン樹脂は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0072】
上記ウレタン樹脂として、イソシアネート基を少なくとも2個有するポリイソシアネートとポリオールとの反応により得られる通常のウレタン樹脂を用いることができる。
【0073】
上記ポリイソシアネートとしては、例えば、一般にウレタン樹脂の製造に用いられる種々のポリイソシアネート化合物が挙げられる。上記ポリイソシアネートとしては、具体的には、2,4−トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート、MDIとトリフェニルメタントリイソシアネート等との混合物(クルードMDI)、イソフォロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、並びにテトラメチレンジイソシアネート等が挙げられる。これらの水素添加物を用いてもよい。
【0074】
上記ポリオールとしては、一般にウレタン樹脂の製造に用いられる種々のポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール及びポリマーポリオール等が挙げられる。
【0075】
上記ポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、活性水素を2個以上有する低分子量活性水素化合物の存在下で、アルキレンオキサイドを開環重合させて得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。上記低分子量活性水素化合物としては、ビスフェノールA、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール及び1,6−ヘキサンジオール等のジオール類、グリセリン及びトリメチロールプロパン等のトリオール類、並びにエチレンジアミン及びブチレンジアミン等のアミン類等が挙げられる。上記アルキレンオキサイドとしては、プロピレンオキサイド、エチレンオキサイド及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0076】
上記ポリエステル系ポリオールとしては、多塩基酸と多価アルコールとを脱水縮合して得られる重合体、ラクトンの重合体、及びヒドロキシカルボン酸と多価アルコール等との縮合物が挙げられる。上記多塩基酸としては、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びコハク酸等が挙げられる。上記多価アルコールとしては、例えば、ビスフェノールA、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール及びネオペンチルグリコール等が挙げられる。上記ラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン及びα−メチル−ε−カプロラクトン等が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸と多価アルコール等との縮合物としては、例えば、ひまし油、及びひまし油とエチレングリコールとの反応生成物等が挙げられる。
【0077】
上記ポリマーポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオールもしくはポリエステルポリオールに、エチレン性不飽和化合物をグラフト重合させた化合物、1,2−ポリブタジエンポリオール及び1,4−ポリブタジエンポリオール等が挙げられる。これらの水素添加物を用いてもよい。上記エチレン性不飽和化合物としては、アクリロニトリル、スチレン及びメチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
上記ウレタン樹脂の含有量は特に限定されない。本発明に係る異方性導電材料では、フェノキシ樹脂A100重量部に対して、ウレタン樹脂の含有量は、好ましくは1重量部以上、好ましくは50重量部以下である。ウレタン樹脂の含有量が上記下限以上であると、ウレタン樹脂に由来して硬化物の接着性がより一層高くなる。ウレタン樹脂の含有量が上記上限以下であると、フェノキシ樹脂Aの含有量が相対的に多くなるので、異方性導電材料中の硬化性化合物を硬化させた硬化物の物性をより一層良好にすることができ、更に硬化物の接着力を充分に高くすることができる。
【0079】
〔フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物〕
本発明に係る異方性導電材料は、フェノキシ樹脂Aに加えて、該フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物を含んでいてもよい。ただし、本発明に係る異方性導電材料は、フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物を含んでいなくても熱の付与により硬化可能である。該熱硬化性化合物としては、チイラン基を有する硬化性化合物及びエポキシ基を有する硬化性化合物等が挙げられる。また、チイラン基とエポキシ基とを有する硬化性化合物を用いてもよい。上記熱硬化性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0080】
本発明に係る異方性導電材料は、具体的には、例えば、フェノキシ樹脂Aに加えて、不飽和二重結合を有し、かつフェノキシ樹脂ではない硬化性化合物、不飽和二重結合を有さず、チイラン基を有する硬化性化合物、又は不飽和二重結合を有さず、かつエポキシ基を有する硬化性化合物などを含んでいてもよい。
【0081】
フェノキシ樹脂Aが、チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂である場合には、本発明に係る異方性導電材料は、チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂に加えて、該チイラン基と不飽和二重結合とを有するフェノキシ樹脂とは異なるチイラン基を有する硬化性化合物、エポキシ基を有する硬化性化合物を含んでいてもよい。
【0082】
異方性導電材料の保存安定性及び取扱い性をより一層高める観点からは、異方性導電材料は、フェノキシ樹脂Aと、チイラン基を有する硬化性化合物又はエポキシ基を有する硬化性化合物とを含むことが好ましい。
【0083】
異方性導電材料がチイラン基を有する硬化性化合物をさらに含む場合には、金属配線又は導電性粒子などの金属に対して、異方性導電材料中の硬化性化合物を硬化させた硬化物の接着強度を高くすることができる。これは、チイラン基の硫黄原子と金属とが配位結合するためであると考えられる。異方性導電材料がチイラン基を有する硬化性化合物をさらに含む場合には、上記硬化物の接着強度が高くなり、接続信頼性に優れた接続構造体を得ることができる。
【0084】
チイラン基を有する硬化性化合物は特に限定されない。該チイラン基を有する硬化性化合物として、従来公知の硬化性化合物を用いることができる。チイラン基を有する硬化性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0085】
低温でより一層速やかに硬化させる観点からは、チイラン基を有する硬化性化合物は、下記式(1−1)、(2−1)、(3)、(7)又は(8)で表される構造を有するエピスルフィド化合物であることが好ましく、下記式(1−1)、(2−1)又は(3)で表される構造を有するエピスルフィド化合物であることがより好ましい。
【0086】
下記式(1−1)において、ベンゼン環に結合している6つの基の結合部位は特に限定されない。下記式(2−1)において、ナフタレン環に結合している8つの基の結合部位は特に限定されない。
【0087】
【化1】

【0088】
上記式(1−1)中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R3、R4、R5及びR6の4個の基の内の2〜4個の基は水素を表す。R3、R4、R5及びR6の内の水素ではない基は下記式(4)で表される基を表す。R3、R4、R5及びR6の4個の基の全てが水素であってもよい。R3、R4、R5及びR6の4個の基の内の1個又は2個が下記式(4)で表される基であり、かつR3、R4、R5及びR6の4個の基の内の下記式(4)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0089】
【化2】

【0090】
上記式(4)中、R7は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0091】
【化3】

【0092】
上記式(2−1)中、R51及びR52はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の内の4〜6個の基は水素を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の内の水素ではない基は、下記式(5)で表される基を表す。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の全てが水素であってもよい。R53、R54、R55、R56、R57及びR58の6個の基の内の1個又は2個が下記式(5)で表される基であり、かつR53、R54、R55、R56、R57及びR58の内の下記式(5)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0093】
【化4】

【0094】
上記式(5)中、R59は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0095】
【化5】

【0096】
上記式(3)中、R101及びR102はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の内の6〜8個の基は水素を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の内の水素ではない基は、下記式(6)で表される基を表す。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の全てが水素であってもよい。R103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の8個の基の内の1個又は2個が下記式(6)で表される基であり、かつR103、R104、R105、R106、R107、R108、R109及びR110の内の下記式(6)で表される基ではない基は水素であってもよい。
【0097】
【化6】

【0098】
上記式(6)中、R111は炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0099】
【化7】

【0100】
上記式(7)中、R1及びR2はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0101】
【化8】

【0102】
上記式(8)中、R3及びR4はそれぞれ炭素数1〜5のアルキレン基を表す。
【0103】
上記エポキシ基を有する硬化性化合物は特に限定されない。エポキシ基を有する硬化性化合物として、従来公知のエポキシ化合物を使用できる。上記エポキシ基を有する硬化性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0104】
上記エポキシ基を有する硬化性化合物としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、アダマンタン骨格を有するエポキシ樹脂、トリシクロデカン骨格を有するエポキシ樹脂、及びトリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0105】
エポキシ基を有する硬化性化合物の具体例としては、例えばエピクロルヒドリンと、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂又はビスフェノールD型エポキシ樹脂等とから誘導されるビスフェノール型エポキシ樹脂、並びにエピクロルヒドリンとフェノールノボラック又はクレゾールノボラックとから誘導されるエポキシノボラック樹脂が挙げられる。グリシジルアミン、グリシジルエステル、並びに脂環式又は複素環式等の1分子内に2個以上のオキシラン基を有する各種のエポキシ化合物を用いてもよい。
【0106】
接着性及び反応性等を任意に設定できることから、上述のエポキシ樹脂の中では、ビスフェノール型エポキシ樹脂が好ましい。粘度が特に低いことからフェノキシ樹脂Aとの組み合わせで異方性導電材料の流動性を広範囲に設定でき、更に液状であり良好な粘着性も得やすいことから、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が特に好ましい。また、異方性導電材料の硬化物の架橋密度が高くなり、硬化物の耐熱性が高くなるので、1分子内に3個以上のオキシラン基を有する多官能エポキシ樹脂も好適に用いられる。
【0107】
さらに、チイラン基を有する化合物として、例えば、上記式(1−1)、(2−1)、(3)、(7)又は(8)で表される構造におけるエポキシ基をチイラン基に置き換えた構造を有するチイラン基を有する化合物を用いてもよい。
【0108】
上記異方性導電材料は、窒素原子を含む複素環を有するエポキシ化合物を含んでいてもよい。該上記窒素原子を含む複素環を有するエポキシ化合物は、トリグリシジルイソシアヌレート、又はトリスヒドロキシエチルイソシアヌレートトリグリシジルエーテルであることが好ましい。これらの化合物の使用により、異方性導電材料の硬化速度をさらに一層速くすることができる。
【0109】
本発明に係る異方性導電材料は、上記エポキシ基を有する硬化性化合物として、芳香族環を有するエポキシ化合物を含むことが好ましい。芳香族環を有するエポキシ化合物の使用により、異方性導電材料の硬化速度をより一層速くし、異方性導電材料を塗布しやすくすることができる。異方性導電材料の塗布性をより一層高める観点からは、上記芳香族環は、ベンゼン環、ナフタレン環又はアントラセン環であることが好ましい。上記芳香族環を有するエポキシ化合物としては、レゾルシノールジグリシジルエーテル又は1,6−ナフタレンジグリシジルエーテルが挙げられる。なかでも、レゾルシノールジグリシジルエーテルが特に好ましい。レゾルシノールジグリシジルエーテルの使用により、異方性導電材料の硬化速度を速くし、異方性導電材料を塗布しやすくすることができる。
【0110】
フェノキシ樹脂A以外の熱硬化性化合物を用いる場合には、上記異方性導電材料を効率的に熱硬化させる観点からは、フェノキシ樹脂A100重量部に対して、上記熱硬化性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、特に好ましくは50重量部以上、好ましくは10000重量部以下、より好ましくは1000重量部以下、さらに好ましくは500重量部以下である。
【0111】
〔フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物〕
本発明に係る異方性導電材料は、光照射により効果的に硬化するように、フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物をさらに含んでいてもよい。ただし、本発明に係る異方性導電材料は、フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物を含んでいなくても光の照射により硬化可能である。上記光硬化性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0112】
上記光硬化性化合物は特に限定されない。該光硬化性化合物として、(メタ)アクリル樹脂又は環状エーテル基含有樹脂等が好適に用いられ、(メタ)アクリル樹脂がより好適に用いられる。上記(メタ)アクリル樹脂は、メタクリル樹脂とアクリル樹脂とを示す。上記(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する。上記(メタ)アクリロイル基は、メタクリロイル基とアクリロイル基とを示す。
【0113】
エポキシ基又はチイラン基を有する硬化性化合物と(メタ)アクリル樹脂とを含む組成物では、上記熱硬化性化合物のエポキシ基又はチイラン基が開環してラジカルが発生したときに、該ラジカルの作用によって(メタ)アクリル樹脂の重合が進行しやすい。しかしながら、上記熱硬化性化合物に対して、後述のフェノール性化合物と貯蔵安定剤を組み合わせて配合することにより、異方性導電材料の保管時にエポキシ基又はチイラン基が開環し難くなる。この結果、異方性導電材料の保管時に、(メタ)アクリル樹脂の重合が進行し難くなる。
【0114】
上記(メタ)アクリル樹脂として、(メタ)アクリル酸と水酸基を有する化合物とを反応させて得られるエステル化合物、(メタ)アクリル酸とエポキシ化合物とを反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、又はイソシアネートに水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体を反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート等が好適に用いられる。
【0115】
上記(メタ)アクリル酸と水酸基を有する化合物とを反応させて得られるエステル化合物は特に限定されない。該エステル化合物として、単官能のエステル化合物、2官能のエステル化合物及び3官能以上のエステル化合物のいずれも用いることができる。
【0116】
上記光硬化性化合物は、エポキシ基と(メタ)アクリロイル基とを有する光及び熱硬化性化合物(以下、部分(メタ)アクリレート化エポキシ樹脂ともいう)を含むことが好ましい。
【0117】
上記部分(メタ)アクリレート化エポキシ樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸とを、常法に従って塩基性触媒の存在下で反応することにより得られる。エポキシ基の20%以上が(メタ)アクリロイル基に変換され(転化率)、部分(メタ)アクリル化されていることが好ましい。エポキシ基の50%が(メタ)アクリロイル基に変換されていることがより好ましい。
【0118】
上記エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノール型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、カルボン酸無水物変性エポキシ(メタ)アクリレート、及びフェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0119】
上述した光硬化性化合物以外の光硬化性化合物が含まれる場合には、該光硬化性化合物は、架橋性化合物であってもよく、非架橋性化合物であってもよい。
【0120】
上記架橋性化合物の具体例としては、例えば、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、グリセリンメタクリレートアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸ビニル、ジビニルベンゼン、ポリエステル(メタ)アクリレート、及びウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0121】
上記非架橋性化合物の具体例としては、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、及びテトラデシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0122】
フェノキシ樹脂A以外の光硬化性化合物を用いる場合には、上記異方性導電材料を効率的に光硬化させる観点からは、フェノキシ樹脂A100重量部に対して、上記光硬化性化合物の含有量は、好ましくは0.1重量部以上、より好ましくは1重量部以上、更に好ましくは10重量部以上、特に好ましくは50重量部以上、好ましくは10000重量部以下、より好ましくは1000重量部以下、さらに好ましくは500重量部以下である。
【0123】
〔導電性粒子〕
本発明に係る異方性導電材料に含まれている導電性粒子は、例えば回路基板と半導体チップとの電極間を電気的に接続する。上記導電性粒子は、少なくとも表面が導電性を有する粒子であれば特に限定されない。上記導電性粒子としては、例えば、有機粒子、無機粒子、有機無機ハイブリッド粒子もしくは金属粒子等の表面を金属層で被覆した導電性粒子、又は実質的に金属のみで構成される金属粒子等が挙げられる。上記金属層は特に限定されない。上記金属層としては、金層、銀層、銅層、ニッケル層、パラジウム層又は錫を含有する金属層等が挙げられる。
【0124】
電極間の導通信頼性をより一層高める観点からは、上記導電性粒子は、樹脂粒子と、該樹脂粒子の表面上に配置された導電層とを有することが好ましい。上記導電性粒子は、導電層の少なくとも外側の表面層が、はんだ層である導電性粒子であってもよい。
【0125】
上記はんだ層を構成する材料は特に限定されないが、JIS Z3001:溶剤用語に基づき、液相線が450℃以下である溶可材であることが好ましい。上記はんだ層の組成としては、例えば亜鉛、金、鉛、銅、錫、ビスマス、インジウムなどを含む金属組成が挙げられる。なかでも低融点で鉛フリーである錫−インジウム系(117℃共晶)、又は錫−ビスマス系(139℃共晶)が好ましい。すなわち、はんだ層は、鉛を含まないことが好ましく、錫とインジウムとを含むはんだ層、又は錫とビスマスとを含むはんだ層であることが好ましい。
【0126】
はんだ層の厚みは、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、更に好ましくは20nm以上、好ましくは40000nm以下、より好ましくは30000nm以下、更に好ましくは20000nm以下、特に好ましくは10000nm以下である。はんだ層の厚みが上記下限以上であると、導電性を十分に高くすることができる。導電層の厚みが上記上限以下であると、樹脂粒子とはんだ層との熱膨張率の差が小さくなり、はんだ層の剥離が生じ難くなる。
【0127】
上記導電性粒子の含有量は特に限定されない。異方性導電材料100重量%中、上記導電性粒子の含有量は好ましくは0.1重量%以上、より好ましくは0.5重量%以上、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下である。上記導電性粒子の含有量が上記下限以上及び上記上限以下であると、接続されるべき上下の電極間に導電性粒子を容易に配置できる。さらに、接続されてはならない隣接する電極間が複数の導電性粒子を介して電気的に接続され難くなる。すなわち、隣り合う電極間の短絡を防止できる。
【0128】
異方性導電材料が液状又はペースト状である場合、異方性導電材料の粘度(25℃)は、20000〜100000mPa・sの範囲内であることが好ましい。上記粘度が低すぎると、導電性粒子が沈降することがある。上記粘度が高すぎると、導電性粒子が充分に分散しないことがある。
【0129】
〔他の成分〕
本発明に係る異方性導電材料は、フェノール性化合物をさらに含むことが好ましい。チイラン基又はエポキシ基を有するフェノキシ樹脂と、フェノール性化合物との併用により、異方性導電材料の保管時にエポキシ基又はチイラン基が開環し難くなる。また、電極間に導電性粒子を含む異方性導電材料を配置して導電性粒子を適度に圧縮したときに、電極に適度な圧痕を形成できる。従って、電極間の接続抵抗を低くすることができる。
【0130】
上記フェノール性化合物は、ベンゼン環に水酸基が結合したフェノール性水酸基を有する。上記フェノール性化合物としては、ポリフェノール、トリオール、ハイドロキノン、及びトコフェロール(ビタミンE)等が挙げられる。上記フェノール性化合物は、1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0131】
上記フェノール性化合物は、共鳴構造をとりかつ酸度が高い1級水酸基を有することが好ましい。上記フェノール性化合物は、立体障害が発現しない程度で、官能基を多く有することが好ましい。酸度が高いことから、上記フェノール性化合物は、ベンゼン環のオルト位又はパラ位に1級水酸基が直接結合している構造を有することが好ましい。
【0132】
本発明に係る異方性導電材料は、フィラーをさらに含むことが好ましい。フィラーの使用により、異方性導電材料の硬化物の潜熱膨張を抑制できる。上記フィラーの具体例としては、シリカ、窒化アルミニウム又はアルミナ等が挙げられる。フィラーは1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0133】
本発明に係る異方性導電材料は、溶剤を含んでいてもよい。該溶剤の使用により、異方性導電材料の粘度を容易に調整できる。さらに、例えば、上記熱硬化性化合物が固形である場合に、固形の上記熱硬化性化合物に溶剤を添加し、溶解させることにより、上記熱硬化性化合物の分散性を高めることができる。
【0134】
上記溶剤としては、例えば、酢酸エチル、メチルセロソルブ、トルエン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、テトラヒドロフラン及びジエチルエーテル等が挙げられる。
【0135】
本発明に係る異方性導電材料は、貯蔵安定剤をさらに含むことが好ましい。本発明に係る異方性導電材料は、上記貯蔵安定剤として、リン酸エステル、亜リン酸エステル及びホウ酸エステルからなる群から選択された少なくとも一種を含むことが好ましく、リン酸エステル及び亜リン酸エステルの内の少なくとも一種を含むことがより好ましく、亜リン酸エステルを含むことが更に好ましい。これらの貯蔵安定剤の使用により、特に亜リン酸エステルの使用により、上記チイラン基を有するフェノキシ樹脂の貯蔵安定性をより一層高めることができる。上記貯蔵安定剤は1種のみが用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0136】
上記リン酸エステルとしては、ジエチルベンジルホスフェート等が挙げられる。上記亜リン酸エステルとしては、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト又はジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイトが好ましく、ジフェニルモノデシルホスファイト及びジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト等が挙げられる。
【0137】
本発明に係る異方性導電材料は、アスコルビン酸、アスコルビン酸の誘導体、アスコルビン酸の塩、イソアスコルビン酸、イソアスコルビン酸の誘導体及びイソアスコルビン酸の塩からなる群から選択された少なくとも1種の成分を含んでいてもよい。これらの成分の配合により、異方性導電材料の保存安定性が高くなる。
【0138】
本発明に係る異方性導電材料は、必要に応じて、イオン捕捉剤又はシランカップリング剤をさらに含んでいてもよい。
【0139】
(異方性導電材料の用途)
本発明に係る異方性導電材料は、様々な接続対象部材を接着するのに使用できる。本発明に係る異方性導電材料は、金属を表面に有する接続対象部材を接着するのに好適に使用できる。
【0140】
本発明に係る異方性導電材料が、導電性粒子を含む異方性導電材料である場合、該異方性導電材料は、異方性導電ペースト又は異方性導電フィルム等として使用され得る。異方性導電材料が、異方性導電フィルムである場合、該導電性粒子を含有する異方性導電フィルムに、導電性粒子を含有しないフィルムが積層されていてもよい。
【0141】
本発明に係る異方性導電材料は、異方性導電ペーストであることが好ましい。フェノキシ樹脂Aを含む異方性導電ペーストは、光の照射により半硬化させて流動性を低下させ、熱の付与により硬化させることができる。また、例えば、電極を上面に有する接続対象部材上に異方性導電材料を塗布した後、光の照射により半硬化させて流動性を低下させることで、半硬化した異方性導電材料が必要以上に濡れ広がるのを抑制でき、導電性粒子が意図しない領域に配置されるのを抑制できる。
【0142】
上記異方性導電材料は、第1,第2の接続対象部材が電気的に接続されている接続構造体を得るために好適に用いられる。
【0143】
図1に、本発明の一実施形態に係る異方性導電材料を用いた接続構造体の一例を模式的に断面図で示す。
【0144】
図1に示す接続構造体1は、第1の接続対象部材2と、第2の接続対象部材4と、第1,第2の接続対象部材2,4を接続している接続部3とを備える。接続部3は、導電性粒子5を含む異方性導電材料、すなわち異方性導電材料を硬化させることにより形成されている。
【0145】
第1の接続対象部材2の上面2aには、複数の電極2bが設けられている。第2の接続対象部材4の下面4aには、複数の電極4bが設けられている。電極2bと電極4bとが、1つ又は複数の導電性粒子5により電気的に接続されている。従って、第1,第2の接続対象部材2,4が導電性粒子5により電気的に接続されている。
【0146】
上記接続構造体としては、具体的には、回路基板上に、半導体チップ、コンデンサチップ又はダイオードチップ等の電子部品チップが搭載されており、該電子部品チップの電極が、回路基板上の電極と電気的に接続されている接続構造体等が挙げられる。回路基板としては、フレキシブルプリント基板等の様々なプリント基板、ガラス基板、又は金属箔が積層された基板等の様々な回路基板が挙げられる。第1,第2の接続対象部材は、電子部品又は回路基板であることが好ましい。上記異方性導電材料は、電子部品又は回路基板の接続に用いられることが好ましい。上記異方性導電材料は、ペースト状であり、ペースト状の状態で接続対象部材上に塗布される異方性導電材料であることが好ましい。
【0147】
上記接続構造体の製造方法は特に限定されない。接続構造体の製造方法の一例として、電子部品又は回路基板等の第1の接続対象部材と、電子部品又は回路基板等の第2の接続対象部材との間に上記異方性導電材料を配置し、積層体を得た後、該積層体を加熱及び加圧する方法等が挙げられる。
【0148】
なお、上記異方性導電材料は、導電性粒子を含んでいなくてもよい。この場合には、第1,第2の接続対象部材を電気的に接続することなく、第1,第2の接続対象部材を接着して接続するために、上記異方性導電材料が用いられる。
【0149】
以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0150】
(合成例1)
(1)ビスフェノールFと1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルとの第1の反応物の合成:
ビスフェノールF(4,4’−メチレンビスフェノールと2,4’−メチレンビスフェノールと2,2’−メチレンビスフェノールとを重量比で31:52:17で含む)72重量部、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル100重量部、及びトリフェニルフォスフィン1重量部を3つ口フラスコに入れ、150℃で溶解させた。その後、180℃で6時間、付加重合反応させることにより第1の反応物を得た。
【0151】
付加重合反応が進行したことを確認して、第1の反応物が、ビスフェノールFに由来する骨格と1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルに由来する骨格とが結合した構造単位を主鎖に有し、かつ1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルに由来するエポキシ基を両末端に有することを確認した。
【0152】
(2)上記第1の反応物と、アクリル酸とを反応させたエポキシ化合物の合成:
得られた第1の反応物100重量部とアクリル酸4重量部とを配合し、80℃まで昇温した。昇温後、触媒であるジメシチルアンモニウムペンタフルオロベンゼンスルホナート1重量部を入れ、4時間縮合反応させることにより、両末端にエポキシ基を有し、かつ側鎖にビニル基を有するエポキシ化合物を得た。
【0153】
得られたエポキシ化合物の重量平均分子量は8000であった。得られたエポキシ化合物の分子量分布におけるピークは1つのみでアクリル酸由来の低分子は観察されなかった。また、NMRにより、水酸基にアクリル酸が反応して、側鎖にビニル基が導入されていることを確認した。
【0154】
(合成例2)
合成例1で得られた上記第1の反応物と、2−メタアクリロイルオキシエチルイソシアネートとを反応させたエポキシ化合物の合成:
合成例1で得られた上記第1の反応物100重量部と、2−メタクロイルオキシエチルイソシアネート4重量部と、ラウリル酸ジブチル錫0.3重量部とを配合した後、80℃で4時間付加反応させることにより、両末端にエポキシ基を有し、かつ側鎖にビニル基を有するエポキシ化合物を得た。
【0155】
得られたエポキシ化合物の重量平均分子量は12000であった。得られたエポキシ化合物の分子量分布におけるピークは1つのみでメタクリル酸化合物由来の低分子のピークは観察されなかった。また、NMRにより、水酸基に2−メタアクリロイルオキシエチルイソシアネートが反応して、側鎖にビニル基が導入されていることを確認した。
【0156】
(実施例1)
上記合成例2で合成した不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂33重量部に、光硬化性化合物であるエポキシアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL3702」)5重量部と、光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物(チバ・ジャパン社製「DAROCUR TPO」)0.1重量部と、フェノール性化合物であるα−メチルベンジルフェノール0.58重量部と、熱硬化剤であるペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネート20重量部と、硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾール1重量部と、フィラーである平均粒子径0.25μmのシリカ20重量部及び平均粒子径0.5μmのアルミナ20重量部と、平均粒子径3μmの導電性粒子2重量部とを添加し、遊星式攪拌機を用いて2000rpmで5分間攪拌することにより、異方性導電ペーストである硬化性組成物を得た。なお、用いた導電性粒子は、ジビニルベンゼン樹脂粒子の表面にニッケルめっき層が形成されており、かつ該ニッケルめっき層の表面に金めっき層が形成されている金属層を有する導電性粒子である。
【0157】
(実施例2)
上記フェノール性化合物として、α−メチルベンジルフェノール0.58重量部にかえて2,6−ジターシャルブチルフェノール0.58重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0158】
(実施例3)
上記フェノール性化合物として、α−メチルベンジルフェノール0.58重量部にかえて2,2’−メチレンビスブチルフェノール0.58重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0159】
(実施例4)
上記フェノール性化合物として、α−メチルベンジルフェノール0.58重量部にかえて2,2’−チオビスフェノール0.58重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0160】
(実施例5)
遊星式攪拌機を用いて撹拌する前に、リン酸エステルであるジエチルハイドロゲンフォスファイト0.01重量部をさらに添加したこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0161】
(実施例6)
光硬化性化合物として、エポキシアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL3702」)5重量部にかえて、ウレタンアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL8804」)5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0162】
(実施例7)
導電性粒子を、ジビニルベンゼン樹脂粒子の表面にニッケルめっき層が形成されており、かつ該ニッケルめっき層の表面にはんだ層が形成されている金属層を有する導電性粒子(平均粒子径3μm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、硬化性組成物を得た。
【0163】
(比較例1)
ビスフェノールAフェノキシ樹脂(巴工業社製「PKHC」)33重量部に、光硬化性化合物であるエポキシアクリレート((メタ)アクリル樹脂、ダイセル・サイテック社製「EBECRYL3702」)5重量部と、光重合開始剤であるアシルホスフィンオキサイド系化合物(チバ・ジャパン社製「DAROCUR TPO」)0.1重量部と、フェノール性化合物であるα−メチルベンジルフェノール0.58重量部と、熱硬化剤であるペンタエリスリトール テトラキス−3−メルカプトプロピオネート20重量部と、硬化促進剤である2−エチル−4−メチルイミダゾール1重量部と、フィラーである平均粒子径0.25μmのシリカ20重量部及び平均粒子径0.5μmのアルミナ20重量部と、実施例1で用いた導電性粒子2重量部とを添加し、遊星式攪拌機を用いて2000rpmで5分間攪拌することにより、異方性導電ペーストである硬化性組成物を得た。
【0164】
(比較例2)
ビスフェノールAフェノキシ樹脂(巴工業社製「PKHC」)を、ビスフェノールAとビスフェノールFの混合品であるフェノキシ樹脂(三菱化学社製「4250」)に変更したこと以外は比較例1と同様にして、異方性導電ペーストである硬化性組成物を調製した。
【0165】
(実施例及び比較例の評価)
(接着力の評価)
4cm×2cmの大きさのガラス板に、得られた硬化性組成物を、乾燥後の厚みが20μmとなるように、2cm×2cmの大きさに塗布した。次に、420nmの紫外線を光照射強度が60mW/cmとなるように硬化性組成物に照射した後、コンスタントヒーター方式圧着機(大橋製作所社製「BD−03SDSS」)を用いて、ガラス板とポリイミドフィルム(東レ社製)とを硬化性組成物の光照射物を介して、圧着温度150℃及び圧力294.2N/cmの条件で貼り合わせて、接着力の測定用サンプルを得た。
【0166】
静的材料試験機(島津製作所社製「EZ−Graph」)を用いて、得られた接着力の測定用サンプルについて、引っ張り速度50mm/分で90度剥離試験を行った。得られた90度ピール強度の最大値を接着力の測定値とした。
【0167】
(硬化時間の評価)
DSC(示差走査熱分析)(測定条件;サンプル量2mg、室温〜150℃、10℃/分昇温)によって、全硬化発熱量の90%の発熱を終えた状態を測定した。これを硬化時間とした。
【0168】
結果を下記の表1に示す。
【0169】
【表1】

【符号の説明】
【0170】
1…接続構造体
2…第1の接続対象部材
2a…上面
2b…電極
3…接続部
4…第2の接続対象部材
4a…下面
4b…電極
5…導電性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和二重結合を有するフェノキシ樹脂と、光重合開始剤と、熱硬化剤と、導電性粒子とを含む、異方性導電材料。
【請求項2】
ウレタン樹脂をさらに含む、請求項1に記載の異方性導電材料。
【請求項3】
第1の接続対象部材と、第2の接続対象部材と、該第1,第2の接続対象部材を接続している接続部とを備え、
前記接続部が、請求項1又は2に記載の異方性導電材料により形成されている、接続構造体。
【請求項4】
前記第1,第2の接続対象部材が、前記導電性粒子により電気的に接続されている、請求項3に記載の接続構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72386(P2012−72386A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186282(P2011−186282)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】