説明

異方性形状の窒化アルミニウムフィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物

【課題】少量で熱伝導性を向上させられる熱伝導性フィラーを用いることにより、高熱伝導性の樹脂組成物及び成形体を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記窒化アルミニウムフィラーが異方性形状であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異方性形状の窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子を含有する熱硬化性樹脂組成物、及びこれを成形して得られる成形体等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの高性能化に伴う消費電力量の増加により、機器からの発熱量が増え、機器内が局所的に高温になることによる誤動作等の発生が懸念されてきている。機器内で局部的に発生した熱は、通常、放熱ファンや放熱シートで拡散させているが、電子デバイスの小型化に伴い、スペース的に放熱ファンが設置しにくい、従来の放熱シートでは充分な放熱が行えない等の問題が生じてきており、放熱性に優れた放熱シートの開発が望まれている。
放熱シートとしては、従来、熱伝導性のフィラーをマトリックス樹脂中に分散させたものなどが知られている。
窒化アルミニウムは、熱伝導率及び電気絶縁性に優れ、熱膨張係数がシリコンに近いことから、高放熱性の半導体実装用基板を始め、半導体封止用樹脂等の熱伝導性フィラー等として応用されることが期待されている。
【0003】
窒化アルミニウムは、一般的に、金属アルミニウムや酸化アルミニウムを原料として、直接窒化法又は還元窒化法などにより製造される。
【0004】
窒化アルミニウムは、その結晶構造がウルツ鉱型であり、一軸方向に成長し難い。このため、これらの方法により製造された窒化アルミニウムは、等方性形状になっている。これらの窒化アルミニウムを樹脂に混合(以下、充填ということがある)することにより樹脂組成物に熱伝導性を付与する場合、窒化アルミニウムを高充填させやすい球状粒子にして、高濃度充填させることにより、窒化アルミニウム同士の接触面積を増加させ、熱伝導経路を確保させる必要がある。このため、通常、樹脂組成物中に60体積%以上の窒化アルミニウムを含有させている。しかしながら、樹脂組成物中に多量の窒化アルミニウムを含有させると、材料コストが増大する上に、粘度上昇により成形加工性が低下してしまうという問題があった。
【0005】
また、特に、金属アルミニウムを原料とする方法は、窒化反応が発熱反応であるため、反応の制御が困難である上に、窒化反応の過程で生じる熱によって粒子同士が融着して、大粒子になりやすく、分散性が低下してしまうという問題もあった。
【0006】
一方、繊維径が1μm以下で長さが5〜500μmの窒化アルミニウムウィスカーも知られている(非特許文献1及び2)。しかしながら、これらのウィスカーは、単結晶であり、その形状がアスベスト様であることから作業性が悪く、人体への影響なども懸念されている。
【0007】
また、これらのウィスカーは、昇華再結晶法(非特許文献1参照)又は気相合成法(非特許文献2参照)により製造されるが、前者の方法は、操作温度が1800〜2000℃と非常に高いために工業化に不向きな方法であり、また、後者の方法も量産化には不向きな方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】電気化学, vol.10, p743, 1972
【非特許文献2】日本セラミック協会学術論文誌, vol.97, p864, 1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、少量で熱伝導性を向上させられる熱伝導性フィラーを用いることにより、熱伝導性と成形加工性とを兼ね備えた樹脂組成物及び成形体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の従来技術の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。この結果、特定形状の窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子を熱硬化性樹脂に含有させることにより、熱伝導性と成形加工性とを兼ね備えた熱硬化性樹脂組成物及びその成形体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は、窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記窒化アルミニウムフィラーが異方性形状であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物に存する。また、この熱硬化性樹脂組成物を成形して得られる成形体及び熱伝導性シートに存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱伝導性と成形加工性とを兼ね備えた熱硬化性樹脂組成物及び成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本願発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とを含有する。
【0014】
<窒化アルミニウムフィラー>
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーは、異方性形状であり、球状粒子のような等方性形状であるものは含まれない。また、異方性形状であれば、その形状は特に限定されず、例えば、繊維状でも板状でもよいが、熱伝導性制御の観点から繊維状であるのが好ましい。なお、ここで規定する窒化アルミニウムフィラーの形状は、本発明の熱硬化性樹脂組成物とする前の状態での窒化アルミニウムフィラーの形状である。
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの長さは、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導経路が効率的に成形されやすい点では長い方が好ましく、また、一方、フィラーの分散性、及び得られる熱硬化性樹脂組成物の流動性及び成形性の点では短い方が好ましい。具体的には、通常0.125μm以上、好ましくは0.2μm以上、更に好ましくは2μm以上、特に好ましくは20μm以上、最も好ましくは50μm以上がよく、また、通常5000μm以下、好ましくは2000μm以下、更に好ましくは500μm以下、特に好ましくは100μm以下がよい。そして、特に、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーが繊維状である場合は、好ましくは1.25μm以上、更に好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上、最も好ましくは50μm以上がよく、また、好ましくは3000μm以下、更に好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下、最も好ましくは100μm以下がよい。また、特に、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーが板状である場合は、好ましくは1.25μm以上、更に好ましくは2μm以上、特に好ましくは10μm以上がよく、また、好ましくは1500μm以下、更に好ましくは60μm以下、特に好ましくは30μm以下、最も好ましくは15μm以下がよい。
【0015】
なお、本発明において「長さ」とは、窒化アルミニウムフィラーを柱状又は板状等とみなした場合の長さをいう。また、「フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さ」は、この窒化アルミニウムフィラーの「長さ」に対して垂直な方向の径又は厚み等をいう。
【0016】
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの長さは、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、凝集等が起こり難く、分散性に優れる点では短い方が好ましく、また、一方、熱伝導経路が効率的に形成されやすい点では長い方が好ましい。具体的には、通常0.05μm以上、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは3.0μm以上、特に好ましくは6.0μm以上がよく、また、通常50μm以下、好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下がよい。そして、特に、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーが繊維状である場合は、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは6.0μm以上、特に好ましくは7.0μm以上、最も好ましくは8.0以上がよく、また、好ましくは30μm以下、更に好ましくは15μm以下、特に好ましくは10μm以下がよい。また、特に、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーが板状である場合は、好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは1.0μm以上がよく、また、好ましくは15μm以下、更に好ましくは10μm以下、特に好ましくは5μm以下がよい。
【0017】
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーのアスペクト比は、通常2.5以上であり、100以下であるのがよい。本発明に係る窒化アルミニウムフィラーにおいて、少量で熱伝導性を発現しやすい点では、アスペクト比は、大きい方が好ましく、また、一方、成形加工性及び強度の点では、アスペクト比は、小さい方が好ましい。具体的には、アスペクト比が好ましくは3.0以上、更に好ましくは4.0以上、特に好ましくは5.0以上、最も好ましくは10以上、また、通常100以下、好ましくは70以下、更に好ましくは50以下、特に好ましくは30以下がよい。このアスペクト比に該当していれば、繊維状でも板状でもかまわない。また、繊維状の場合に内部が中空のチューブ状であっても構わないし、板状の場合、これがねじれたリボン状であっても構わない。
【0018】
なお、本発明においてアスペクト比とは、「長さ」を「フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さ」で除した値であり、繊維状または板状などの形状の異方性を表す指標となる値である。具体的には、繊維状フィラーのアスペクト比は、長軸方向の長さに対する長軸に垂直な方向の径の比であり、また、板状フィラーのアスペクト比は、短軸方向(面方向と垂直方向な厚み方向長さ)の長軸方向(面方向)に対する比とする。長さ、長さ方向に垂直な方向の長さ及びアスペクト比は、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡などによる形状観察によって、確認することができる。また、大凡の形状は、例えば、粒度・形状分布測定装置(株式会社セイシン企業製「PITA−1」)を用いて、水を分散媒として、フィラー形状(長さ、長さ方向に垂直な方向の長さ、アスペクト比(アスペクト比=長さ/長さ方向に垂直な方向の長さ))及びその個数を計測し、計測個数の度数平均値におけるアスペクト比として把握することもできる。
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーは、通常、窒化アルミニウムの単結晶と思しき粒子の集合体であり、すなわち、窒化アルミニウムの単結晶と思しき粒子が融着して繊維状になったものである。このような窒化アルミニウムフィラーの形状は、走査型電子顕微鏡等により確認することができる。
【0019】
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーには、本発明の効果を著しく損なわなければ、窒化アルミニウム以外の成分が含まれていてもよい。これらの含まれていてもよい成分としては、具体的には、例えば、窒化アルミニウムフィラーの原料に含まれていたシリカ、酸化アルミニウム、カルシウム(元素)含有物、マグネシウム(元素)含有物、イットリウム(元素)含有物などのバインダー由来の成分及び未窒化のアルミニウム化合物などの窒化アルミニウム製造時の未反応原料などが挙げられる。前述のバインダーのうち、繊維状の窒化アルミニウムフィラーを製造する時には、後述のように、バインダーとしてシリカが好適に用いられる。但し、本発明に係る窒化アルミニウムフィラー中に窒化アルミニウム以外の成分の含まれている場合でも、フィラー中に窒化アルミニウムは、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上含まれているのがよい。
また、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーは、熱伝導性などの本発明の効果を著しく損なわなければ、種々の表面処理などが施されていてもよい。具体的には、例えば、樹脂とフィラーとの界面の親和性や接合性を高める、窒化アルミニウムフィラー表面の疎水性を高めるなどを目的とした市販のカップリング剤などによる処理等が挙げられる。好適に用いられるカップリング剤としては、シラン系、チタネート系などが挙げられる。
【0020】
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの熱伝導率は、熱伝導性向上の観点では高い方が好ましく、通常5W/m・K以上、好ましくは30W/m・K以上、更に好ましくは70W/m・K以上がよい。また、一方、経済性及び入手のしやすさの観点では低い方が好ましく、通常320W/m・K以下、好ましくは300W/m・K以下、さらに好ましくは200W/m・K以下がよい。
【0021】
なお、本発明において窒化アルミニウムフィラーの熱伝導率は、熱拡散率と樹脂組成物の比熱と密度の積として求められる。窒化アルミニウムフィラーの熱拡散率は、以下のようにして測定することができる。すなわち、フィラーを加圧成形し、2000℃以上の温度で焼結させたものを株式会社アルバック製全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000H/SB」を用いて、JIS R1611−1997「ファインセラミックのレーザフラッシュ法による、熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法」で規定される熱拡散率試験方法に従って測定することができる。ここで、密度は、メトラー・トレド株式会社製精密天秤「XS−204」を用い、置換液に蒸留水を用いてアルキメデス法にて測定することができる。また、比熱は、株式会社パーキンエルマー製の示差走査熱量計「DSC7」を用い、結晶化条件が200℃で3分放置後10℃/分で−10℃まで降温、昇温条件が−10℃で5分放置後10℃/分で81℃まで昇温し4分放置にて測定した場合の25℃における比熱とする。
【0022】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をOA、電気・電子部品などに用いる場合には、本発明に係る窒化アルミニウムの電気絶縁性が高いことが好ましい。本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの電気絶縁性は、体積低効率で通常108Ω・cm以上、好ましくは1010Ω・cm以上、さらに好ましくは1012Ω・cm以上がよく、また、通常1015Ω・cm以下、好ましくは1014Ω・cm以下がよい。
【0023】
なお、本発明において窒化アルミニウムフィラーの電気絶縁性(体積抵抗率)は、加圧した後に焼結した板状の成形体の体積抵抗率の3点の平均値で評価することができる。体積抵抗率の測定は、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタUP(URS端子)」で1000V、10秒の条件で測定する。
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物を高強度にするためには、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの強度が高いことが好ましい。
なお、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーとしては、組成や形状が同一のもののみを用いても、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーは、熱伝導性などの本発明の効果を著しく損なわなければ、どのような方法で製造されたものでもよいが、以下に特に好ましい製造方法の一例について説明する。この方法によれば、高いアスペクト比を有する窒化アルミニウムフィラーを実用的且つ安全に製造することができる。
この好ましい方法では、酸化アルミニウムフィラーと炭素源とを含む組成物を窒素雰囲気下で加熱することにより、窒化アルミニウムフィラーを製造する。
酸化アルミニウム(アルミナ)は、主成分として酸化アルミニウムを含有していれば、特に限定されない。酸化アルミニウムは、α、γ、θ、η等の何れの結晶構造を有するものでも構わないが、α型及びγ型が好ましい。
【0024】
酸化アルミニウムフィラーのα化率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、熱伝導性向上の観点では高い方が好ましく、また、一方、製造コストの点では低い方が好ましい。具体的には、下限が通常10%、好ましくは50%、さらに好ましくは80%であるのがよい。また、上限は、通常100%、好ましくは99%であるのがよい。
【0025】
酸化アルミニウムフィラー中の酸化アルミニウムの純度は、得られる窒化アルミニウムの熱伝導性の点では高い方が好ましく、また、一方、酸化アルミニウムを所望の形状に制御しやすい点では低い方が好ましい。具体的には、通常70重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは90重量%以上がよく、また、通常100重量%以下、好ましくは99.5重量%以下、更に好ましくは98重量%以下がよい。
【0026】
酸化アルミニウムフィラーは、その表面がバインダー等の酸化アルミニウム以外の成分で被覆されていてもよい。バインダーとしては、例えば、シリカ、カルシウム含有化合物、マグネシウム含有物、イットリウム含有物などが挙げられる。バインダーが含まれる場合の原料中における含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、更に好ましくは1重量%以上、特に好ましくは2重量%がよく、また、一方、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下がよい。
【0027】
特に、繊維状の酸化アルミニウムを原料として用いる場合、酸化アルミニウムを所望の形状に制御しやすいことからシリカがバインダーとして好適に用いられる。本発明に係る窒化アルミニウムフィラー製造時の原料にシリカが含まれる場合の原料中における含有量は、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは3重量%以上、特に好ましくは5重量%以上がよく、また、一方、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下がよい。
【0028】
本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの製造方法では、原料である酸化アルミニウムフィラーの形状を維持した窒化アルミニウムフィラーを製造するのが好ましい。そのためには、所望の窒化アルミニウムフィラーと同一形状の酸化アルミニウムフィラーを原料として用いればよい。
すなわち、酸化アルミニウムフィラーのアスペクト比は、上述の窒化アルミニウムフィラーのアスペクト比と同様の形状が好ましい。また、酸化アルミニウムフィラーの長さは、本発明の熱硬化性樹脂組成物において熱伝導経路が効率的に形成されやすいこと及び窒化反応時に酸化アルミニウムフィラー同士の融着凝集が起こりにくいことから長い方が好ましく、また、一方、酸化アルミニウムフィラーの分散性、及び本発明の熱硬化性樹脂組成物における流動性、成形性の点では短い方が好ましいため、上述の窒化アルミニウムフィラーの長さと同様の形状が好ましい。そして、酸化アルミニウムフィラーの長さ方向に垂直な方向の長さも、本発明の熱硬化性樹脂組成物において熱伝導経路が効率的に形成されやすく、窒化反応時の酸化アルミニウムフィラー同士の融着凝集が起こりにくいことから長い方が好ましく、また、一方、本発明の熱硬化性樹脂組成物における窒化アルミニウムフィラーの分散性及び加工性の点では短い方が好ましいため、上述の窒化アルミニウムフィラーの長さ方向に垂直な方向の長さと同様の形状が好ましい。
【0029】
酸化アルミニウムフィラーの具体的な形状としては、例えば、繊維状、板状等が挙げられる。ここで、繊維状の場合に内部が中空のチューブ状であっても構わないし、板状の場合にこれがねじれたリボン状であっても構わない。
【0030】
各種の酸化アルミニウムフィラーのうち、繊維状の酸化アルミニウムフィラーとしては、アルミナ繊維等が好適に用いられる。また、板状の酸化アルミニウムフィラーとしては、α−アルミナ(例えばキンセイマテック株式会社製、「セラフ10030」(酸化アルミニウム成分99.3wt%)等が好適に用いられる。
この好ましい方法で用いられる炭素源としては、固体炭素が好ましく、具体的には、カーボンブラック、黒鉛、及び高温で炭素源となり得るカーボン前駆体等が使用できる。カーボンブラックは、ファーネス法、チャンネル法などのカーボンブラック、及びアセチレンブラックなどを使用することができる。また、カーボン前駆体としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フランフェノール樹脂等の合成樹脂縮合物;ピッチ、タール等の炭化水素化合物及びセルロース、ショ糖、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレンなどの有機化合物等が挙げられる。これらのうち、入手し易さ、作業性及び反応の安定性などの点から、カーボンブラック及びカーボン前駆体が好ましく、カーボンブラックが更に好ましい。また、カーボン前駆体の中では、フェノール樹脂、セルロース、ポリフェニレンなどの金属などの不純物が少ない樹脂が好ましい。
【0031】
炭素源の粒径は、酸化アルミニウムを還元できれば特に制限は無いが、0.01〜200μmであるのが好ましい。
窒素気流中で加熱する原料には、窒化アルミニウムの生成を大幅に妨げなければ、酸化アルミニウムフィラー及び炭素源以外の成分が含まれていても構わない。酸化アルミニウムフィラー及び炭素源以外の成分が含まれている場合における、原料中に含まれる酸化アルミニウムフィラーと炭素源の合計量は、通常、50重量%以上であり、好ましくは70重量%以上であり、更に好ましくは90重量%以上である。上限は、100重量%であるのが好ましい。
【0032】
窒素雰囲気下で加熱する原料中の酸化アルミニウムの割合は、得られる窒化アルミニウムフィラーの熱伝導性の点では高い方が好ましく、所望の形状に制御しやすい点では低い方が好ましい。具体的には、通常40.0重量%以上、好ましくは50.0重量%以上、更に好ましくは60.0重量%以上が良く、また、一方、90.0重量%以下、更に好ましくは80.0重量%以下、特に好ましくは70.0重量%以下が好ましい。
【0033】
また、窒素雰囲気下で加熱する原料中の炭素源の量は、十分な還元反応を行いやすい点では多い方が好ましく、得られる窒化アルミニウムフィラー中の残存炭素量が少ない点では少ない方が好ましい。具体的には、酸化アルミニウムの窒素化に必要な炭素源の量は、炭素源中の炭素原子量換算で、酸化アルミニウムの3.0倍モルである。但し、ここで、酸化アルミニウムフィラーが完全に還元されていなくても、熱伝導性等の本発明の優れた効果が発現されれば、3.0倍モル未満でも構わない。これらの理由から、炭素源は、酸化アルミニウムに対し、炭素源中の炭素原子量換算で、通常3.0倍モル以上、好ましくは3.3倍モル以上、より好ましくは3.6倍モル以上用いるのがよい。
【0034】
酸化アルミニウムフィラーと炭素源は、通常、両者が均一になるよう混合させてから、加熱を行う。混合方法としては、例えば、ポリエチレン製などの袋中で混合させるハンドブレンドなどの単純混合法;カッターミルなどを用いた湿式混合法;ボールミルなどを用いた乾式混合法などの何れの方法でもよい。これらのうち、酸化アルミニウムフィラーの形状を維持しやすいことから、ハンドブレンドなどの単純混合法及びカッターミルなどを用いた湿式混合法が好ましい。湿式混合する際に用いる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン、トルエン、キシレン等が挙げられる。湿式混合を行う場合は、通常、原料成分が均一に混合されたスラリーを乾燥させて溶媒を除去した後、乳鉢などで乾燥物の塊を軽く粉砕してから加熱を行う。
【0035】
窒素雰囲気下で加熱する温度は、窒化反応速度の点では高い方が好ましく、フィラーの形状制御の点ではフィラー同士の融着が起こり難いことから低い方が好ましい。また、反応時の圧力は、酸化アルミニウムフィラーの窒化アルミニウムフィラーへの反応を大きく妨げなければ、加圧でも、常圧でも、減圧でも構わないが、経済性及びフィラーの形状維持性の点から、常圧で行うのが好ましい。具体的には、常圧で反応を行う場合、通常、1200℃以上、好ましくは1400℃以上、更に好ましくは1500℃以上、特に好ましくは1600℃以上がよく、また、一方、通常1800℃以下、好ましくは1750℃以下、更に好ましくは1700℃以下で還元窒化するのがよい。
窒素雰囲気中には、酸化アルミニウムフィラーの窒化アルミニウムフィラーへの変化を大きく妨げなければ、窒素ガス以外の気体が混入されていても構わないが、通常、窒素99体積%以上の雰囲気で行う。なお、窒素雰囲気下での加熱は、通常、原料成分をアルミナ製ルツボや黒鉛ルツボに移し、窒素気流を流通させた状態で行う。
加熱時間は、原料組成及び酸化アルミニウムフィラーの形状などにより異なるが、上述の好ましい条件で反応を行う場合は、通常、48時間以内に反応が終了する。
【0036】
加熱後の組成物には、通常、微量の炭素源が残存している。そこで、通常、酸化雰囲気下での熱処理により、これを除去する。熱処理の温度は、窒化アルミナフィラーの表面が酸化されて酸化層が形成され難い点では低温が好ましく、残存炭素源の除去性の点では、高温が好ましい。また、熱処理時の圧力は、加圧、常圧、減圧の何れでも構わないが、経済性及びフィラーの形状維持性の点から、常圧で行うのが好ましい。常圧で行う場合の熱処理の温度としては、具体的には、通常500℃以上、好ましくは700℃、また、一方、通常900℃以下、好ましくは800℃以下がよい。熱処理時の雰囲気は、空気中の酸素を利用することができるので大気下で構わない。
【0037】
熱処理を施す時間は、炭素源を所望の濃度まで除去できれば制限は無く、また、除去したい炭素源の量及び熱処理温度等の条件により異なるが、表面に酸化層が形成され難い点では短い方が好ましく、残存炭素源の除去性の点では、長い方が好ましい。具体的には、通常3時間以上、5時間以下行うのがよい。
【0038】
<等方性形状の粒子>
本発明に係る等方性形状の粒子は、通常、アスペクト比が1.0以上2.5未満である。本発明に係る等方性形状の粒子のアスペクト比は、本発明に係る窒化アルミニウムフィラーの分散性の点では小さい方が好ましい。具体的には、アスペクト比が2.0未満であるのが好ましく、1.5未満であるのが更に好ましい。なお、下限は、1.0である。このアスペクト比に該当していれば、多面体形状でも、略球状でも構わないが、真球に近い形状が好ましい。
本発明に係る等方性形状の粒子の「長さ」及び「長さ方向に垂直な方向の長さ」は、アスペクト比が上述の範囲内であれば、特に制限はされないが、本発明の熱硬化性樹脂組成物中における窒化アルミニウムフィラーの分散性及び成形性の点では小さい方が好ましく、窒化アルミニウムフィラーの分散性制御の点では大きい方が好ましい。特に、等方性形状の粒子の「長さ方向に垂直な方向の長さ」は、この窒化アルミニウムフィラーの分散性制御の点では、窒化アルミニウムフィラーの長さの0.7倍以上であるのが好ましく、0.8倍以上であるのが更に好ましく、0.9倍以上であるのが特に好ましく、1.0倍以上であるのが最も好ましく、また、一方、2.5倍以下であるのが好ましく、2.0倍以下であるのが更に好ましく、1.7倍以下であるのが特に好ましく、1.5倍以下であるのが最も好ましい。具体的には、本発明に係る等方性形状の粒子の長さは、通常3μm以上、好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上がよく、また、一方、通常300μm以下、好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下であるのがよい。そして、本発明に係る等方性形状の粒子の「長さ方向に垂直な方向の長さ」は、通常3μm以上、好ましくは10μm以上、更に好ましくは30μm以上がよく、また、一方、通常300μm以下、好ましくは200μm以下、更に好ましくは100μm以下であるのがよい。
【0039】
本発明に係る等方性形状の粒子の熱伝導率は、熱伝導性向上の観点では高い方が好ましく、通常5W/m・K以上、好ましくは10W/m・K以上、更に好ましくは30W/m・K以上、特に好ましくは70W/m・K以上がよい。また、一方、経済性及び入手のしやすさの観点では低い方が好ましく、通常320W/m・K以下、好ましくは300W/m・K以下、さらに好ましくは200W/m・K以下がよい。なお、本発明において等方性形状の粒子の熱伝導率は、上述の窒化アルミニウムフィラーの熱伝導率と同様の方法で求めることができる。
【0040】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をOA、電気・電子部品などに用いる場合には、本発明に係る等方性形状の粒子が絶縁性の粒子である、すなわち、電気絶縁性が高い粒子であることが好ましい。本発明に係る等方性形状の粒子の電気絶縁性は、体積抵抗率で通常108Ω・cm以上、好ましくは1010Ω・cm以上、更に好ましくは1012Ω・cm以上がよく、また、通常1016Ω・cm以下、好ましくは1015Ω・cm以下がよい。なお、本発明において等方性形状の粒子の電気絶縁性(体積抵抗率)は、例えば、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタUP(URS端子)」を使用し、1000V、10秒の条件にて測定し、得られた体積抵抗率の3点の平均値で評価することができる。
等方性形状の粒子としては、具体的には、例えば、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の絶縁性のセラミック粒子;炭化珪素、窒化珪素等の導電性のセラミック粒子;銅、アルミニウム等の金属粒子などが好適に用いられる。これらのなかで、電気又は電子機器用の放熱シートとしては、熱伝導率と電気絶縁性を兼ね備えた絶縁性のセラミック粒子が好ましく、酸化アルミニウム粒子が特に好ましい。
本発明に係る等方性形状の粒子には、本発明の効果を著しく損なわなければ、上述の絶縁性のセラミック、導電性のセラミック又は金属等好適な成分以外のその他の成分が含まれていてもよい。但し、本発明に等方性形状の粒子中にその他の成分が含まれている場合でも、等方性形状の粒子中にこれらの好適な成分は、通常、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上含まれているのがよい。ここで、上限は、100重量%である。
本発明に係る等方性形状の粒子としては、組成や形状が同一のもののみを用いても、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0041】
<熱硬化性樹脂>
本発明に係る熱硬化性樹脂は、熱エネルギーの付与により、その分子構造が3次元化する樹脂である。ここで、熱エネルギーと同等のエネルギーの付与により3次元化されるのであれば、光などの熱以外のエネルギーの付与によりその分子構造が3次元化する樹脂も含まれる。具体的には、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。これらのうち、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂及びポリイミド樹脂等が成形加工時の自由度が高いことから好ましい。また、これらのうち、特に、耐熱性を必要とする用途には、シリコーン樹脂及びポリイミド樹脂が好ましく、シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0042】
<その他成分>
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明の優れた効果を著しく損ねない範囲で、窒化アルミニウムフィラー、等方性形状の粒子及び熱硬化性樹脂以外の成分が含まれていてもよい。本発明の熱硬化性樹脂組成物に含まれていてもよい成分としては、例えば、各種安定剤、着色剤、可塑剤、滑材、離型剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、粘度調整剤等の添加剤及び熱可塑性樹脂などが挙げられる。これらのその他成分が含まれる場合における、熱硬化性樹脂組成物中における窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂の合計量は、本発明の優れた効果を発現しやすいことから高い方が好ましく、通常、70重量%以上であるのが好ましく、80重量%以上であるのが更に好ましく、90重量%以上であるのが特に好ましく、95重量%以上であるのが最も好ましい。又、上限は高い方が好ましいので、100重量%が好ましい。
【0043】
<組成>
本発明の熱硬化性樹脂組成物の組成について説明する。窒化アルミニウムフィラーは、熱伝導性の点では多い方が好ましいが、成形加工性の点では少ない方が好ましい。また、等方性形状の粒子は窒化アルミニウムフィラーに対する相対量として多い方が窒化アルミニウムフィラーの分散性が向上しやすいために熱伝導性の点で好ましいが、成形加工性の点では熱硬化性樹脂組成物中の絶対量が少ない方が好ましい。具体的には、等方性形状の粒子は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中における窒化アルミニウムフィラー100重量部に対して、通常100重量部以上、好ましくは300重量部以上、更に好ましくは400重量部以上であるのがよく、通常750重量部以下、好ましくは700重量部以下、更に好ましくは650重量部以下であるのがよい。また、熱硬化性樹脂は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中における窒化アルミニウムフィラー100重量部に対して、通常40重量部以上、好ましくは80重量部以上、更に好ましくは100重量部以上であるのがよく、通常200重量部以下、好ましくは170重量部以下、更に好ましくは150重量部以下がよい。
【0044】
<熱硬化性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、少なくとも窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とが含有されていれば、これらの各成分を混合しても、敢えて混合操作を行わなくても構わないが、各成分を混合する方が窒化アルミニウムフィラーの分散性の点で好ましい。
混合する場合の混合方法は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はなく、窒化アルミニウムフィラー、等方性形状の粒子及び熱硬化性樹脂を同時に混合してもよいし、何れか2成分を混合後に残り1成分を加えてもよいが、これらの必須3成分を同時に混合するのが操作の簡便性から好ましい。また、窒化アルミニウムフィラー、等方性形状の粒子及び熱硬化性樹脂以外の成分を含む場合も同様に、敢えて混合操作を行わなくても構わないが、各成分を混合する方が窒化アルミニウムフィラーの分散性の点で好ましく、混合を行う場合は、全成分を同時に混合してもよいし、任意の複数成分を混合後に残りの成分を混合してもよい。
【0045】
混合方法としては、例えば、ポリエチレン製などの袋中で混合させるハンドブレンドや乳鉢などの単純混合法でも構わないが、工業化する場合は、ロール、二軸押出機などの混合装置を用いて混合する方法及びこれらの方法を複数組み合わせて混合する方法等も挙げられる。窒化アルミニウムフィラーの分散性の点からは、剪断応力をかけることが好ましいが、一方、混合時に窒化アルミニウムフィラーを長い状態で残す(外圧などによって切断されない)方が熱伝導性能を向上させることができるという点では、剪断応力が小さい混合方法が好ましい。この相反する条件を鑑みて、スクリューの形態、処理量、スクリューの回転数、装置温度等の操作条件に対する自由度が高い二軸押出機を用いて行う方法が好ましい。
【0046】
<熱硬化性樹脂組成物>
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とが含有されている。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限は無いが高い方が好ましい。そして、上述の好ましい窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂を、上述の好ましい熱硬化性樹脂組成物の製造方法に従って熱硬化性樹脂組成物とし、これを成形すれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率は、通常非常に高くなる。具体的には、通常1W/m・K以上、好ましくは2W/m・K以上、更に好ましくは3W/m・K以上とすることが可能である。
本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率が高い理由は明かではないが、以下のように推定される。すなわち、熱硬化性樹脂組成物中で、異方性形状の窒化アルミニウムフィラーが、等方性形状の粒子の存在により、折れ曲がりが少ない状態で存在しているために熱伝導経路が確保されやすくなった可能性が高いと思われる。
ここで、本発明の熱硬化性樹脂組成物の熱拡散率は、上述の窒化アルミニウムフィラーの熱伝導率と同様の方法で求めることができる。
【0047】
本発明の熱硬化性樹脂組成物の電気絶縁性は、本発明の効果を著しく損なわなければ制限はないが、本発明の熱硬化性樹脂組成物を電気又は電子部品等の電気絶縁性を求められる部品に適用する場合は高い方が好ましい。そして、上述の好ましい窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂を、上述の好ましい熱硬化性樹脂組成物の製造方法に従って熱硬化性樹脂組成物とし、これを成形すれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物の電気絶縁性は、高くすることが可能である。具体的には、体積抵抗値が通常108Ω・cm以上、好ましくは1010Ω・cm以上、更に好ましくは1012Ω・cm以上とすることがよい。また、上限は、通常1016Ω・cm以下、好ましくは1015Ω・cm以下がよい。
【0048】
ここで、本発明の熱硬化性樹脂組成物の電気絶縁性は、上述の窒化アルミニウムフィラーの電気絶縁性と同様の方法で求めることができる。
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、高価な窒化アルミニウムフィラーが少量でも高い熱伝導性を発現できるため、経済性及び成形加工性に優れる。
成形加工性は、「押出し式流れ試験金型測定法」等による流動性測定により評価することができる。具体的には、以下の手順による流動性により評価する。円筒形金型の上部に、固定しない押し型をはめ込み、側面のゲートから加熱・加圧した樹脂を注入する。金型内に充填された樹脂は、押し型を押し上げるが、やがて化学反応による硬化が進行し、樹脂をそれ以上金型内に注入できなくなる。このときまでに注入された樹脂量(流出量[g])及び流出速度[g/min]と、時間[min]との相関曲線で流動性を表す。
【0049】
<成形体>
本発明の成形体は、上述の熱硬化性樹脂組成物を成形することにより得ることができる。
本発明の成形体を成形する成形方法は、特に制限は無く、射出成形、トランスファ成形、押出成形、バルクモールディングコンパウンド成形及び圧縮成形などの従来公知の各種熱硬化性樹脂の成形方法などが適用可能である。これらのうち、成形のしやすさ、特にシート状の成形体としやすいことから、圧縮成形が好ましい。
本発明の成形体の形状は、本発明の効果を著しく損なわない限り制限はない。具体的には、具体的には、シート状、フィルム状、円盤状、矩形状等が挙げられる。本発明に係る窒化アルミニウムフィラーは、熱伝導性と強度のバランス及び成形加工性に優れることから、本発明の熱硬化性樹脂組成物を圧縮成形したシート及びフィルムは、各種用途に特に好適に用いられる。
【0050】
本発明の成形体の熱伝導率の測定方法、好ましい範囲とその理由は、上述の本発明の熱硬化性樹脂組成物で述べたとおりである。特に、本発明の成形体が圧縮成形によって得られた成形体である場合、その厚み方向の熱伝導率は、高くなる。この理由は定かではないが、以下のように推定される。すなわち、成形体中で、異方性形状の窒化アルミニウムフィラーが、等方性形状の粒子の存在により、厚み方向に配列した状態で存在しているために熱伝導経路が確保されやすくなった可能性が高いと思われる。また、特に、等方性形状の粒子の割合が多いと、等方性形状の粒子が規則的に立体配置しやすく、その間隙を埋めるように窒化アルミニウムフィラーが配置されることにより、窒化アルミニウムフィラーのみで等方性形状の粒子が存在しない場合に比べ、等方性形状の粒子同士、窒化アルミニウムフィラー同士及び等方性形状の粒子と窒化アルミニウムフィラー間の接触面積が増大し、熱伝導率が高くなった可能性もあると思われる。
【0051】
本発明の成形体の電気絶縁性の測定方法及び好ましい範囲は、上述の本発明の熱硬化性樹脂組成物の電気絶縁性の説明で述べたとおりである。
【0052】
<用途>
本発明の熱硬化性樹脂組成物及びこれを成形して得られる成形体は、熱伝導率の高さを利用することで、各種の電子部品用放熱部品として用いることができる。また、絶縁性を要求されるOA機器部品や電気電子部品、精密機器及び自動車関連部品等にも幅広く用いることが可能である。中でもOA機器や電気電子機器の内部部品に好適であり、例えば、パソコン部材や携帯電話、プリンター、コピー機、スキャナー、テレビ等の用途が挙げられる。また、例えば、耐衝撃性のある熱硬化性樹脂を選択するなどすれば、耐衝撃性が要求されるような自動車部品用との用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<物性測定> 各実施例中の物性測定は、以下のように行った。
<熱伝導率>
熱伝導率は、熱拡散率と樹脂組成物の比熱、密度の積として求めた。熱拡散率は、株式会社アルバック製全自動レーザーフラッシュ法熱定数測定装置「TC−7000H/SB」を用いて、JIS R1611−1997「ファインセラミックのレーザフラッシュ法による、熱拡散率・比熱容量・熱伝導率試験方法」で規定される熱拡散率試験方法に従って測定した。
密度は、メトラー・トレド株式会社製精密天秤「XS−204」を用い、置換液に蒸留水を用いてアルキメデス法にて測定した。比熱は、株式会社パーキンエルマー製の示差走査熱量計「DSC7」を用い、結晶化条件が200℃で3分放置後10℃/分で−10℃まで降温、昇温条件が−10℃で5分放置後10℃/分で81℃まで昇温し、4分放置にて測定した場合の25℃における比熱とした。
【0054】
<電気絶縁性>
電気絶縁性は、体積抵抗率の値で評価した。体積抵抗率は、ダイヤインスツルメント株式会社製「ハイレスタUP(URS端子)」を使用し、1000V、10秒の条件にて測定し、得られた体積抵抗率の3点の平均値で評価した。
(製造例1)
繊維状の酸化アルミニウムフィラー(酸化アルミニウム:シリカ=95重量%:5重量%、直径(フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さ)が6μm、繊維軸方向の平均長さが60μm、アスペクト比が10)8g、カーボンブラック(キシダ化学株式会社製、透過型電子顕微鏡観察による平均粒径30nm)3.42g(対酸化アルミニウム3.6倍モル)及び純水75cm3をカッターミル容器(大阪ケミカル株式会社社製アブソリュートミル)に入れ、37,000rpmで3分間粉砕しながら混合した。
スラリー状の混合物を取り出し、通風式乾燥器内で120℃で10時間乾燥させた後、乳鉢中で乳棒を用いて混ぜ、酸化アルミニウム製の坩堝に20g入れてから高温雰囲気炉中にセットした。窒素(純度99.9体積%)を0.5リットル/minで流通させながら、常圧下で、昇温速度200℃/時間で1600℃まで昇温し、その温度で35時間保持した後、自然冷却させ、タングステンカーバイド製の乳鉢を使って軽く解砕した。
粉砕品を、マッフル炉を用いて、大気下、650℃で3時間加熱した後に、700℃で1時間熱処理を施した。
【0055】
得られた組成物をX線回折装置で測定すると共に、走査型電子顕微鏡によりその形態を観察した。この結果、X線回折パターンでシリカ由来と思われるピーク及びAl937由来と思われるピークが僅かに観察されたが、殆どが窒化アルミニウムとなったことが確認された。また、走査型電子顕微鏡による観察結果で、直径(フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さ)が7μm、繊維軸方向の平均長さが80μm、アスペクト比が11の繊維状フィラーとなっていること、及びこの繊維が窒化アルミニウムの単結晶と思われる粒子が複数融着した形状であることが確認された。
この繊維状窒化アルミニウムフィラーを加圧成形後、2000℃で焼結させた成形体の熱伝導率は100W/m・Kで、電気絶縁性は1.31×1014Ω・cm超であった。
【0056】
(製造例2)
板状の酸化アルミニウムフィラー(キンセイマテック株式会社製「セラフ10030」(カタログ値で酸化アルミニウム成分99.3重量%、フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さが1μm、長さが10μm、アスペクト比が10)8g、カーボンブラック(キシダ化学株式会社製、透過型電子顕微鏡観察による平均粒径30nm)3.42g(対酸化アルミニウム3.6倍モル)及び純水75cm3をカッターミル容器(大阪ケミカル株式会社社製アブソリュートミル)に入れ、37,000rpmで3分間粉砕しながら混合した。
スラリー状の混合物を取り出し、通風式乾燥器内で120℃で10時間乾燥させた後、乳鉢中で乳棒を用いて混ぜ、酸化アルミニウム製の坩堝に20g入れてから高温雰囲気炉中にセットした。窒素(純度99.9体積%)を0.5リットル/minで流通させながら、常圧下で、昇温速度200℃/時間で1600℃まで昇温し、その温度で35時間保持した後、自然冷却させ、タングステンカーバイド製の乳鉢を使って軽く解砕した。
粉砕品を、マッフル炉を用いて、大気下、650℃で3時間加熱した後に、700℃で1時間熱処理を施した。
【0057】
得られた組成物をX線回折装置で測定すると共に、走査型電子顕微鏡によりその形態を観察した。この結果、X線回折パターンでAl937由来と思われるピークが僅かに観察されたが、殆どが窒化アルミニウムとなったことが確認された。また、走査型電子顕微鏡による観察結果で、フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さが1μm、長さが9μm、アスペクト比が9の板状フィラーとなっていること、及びこの板が窒化アルミニウムの単結晶と思われる粒子が複数融着した形状であることが確認された。
この板状窒化アルミニウムフィラーを加圧成形後、2000℃で焼結させた成形体の熱伝導率は100W/m・Kで、電気絶縁性は8.7×1013Ω・cm超であった。
【0058】
(実施例1)
製造例1で得られた窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、株式会社マイクロン製の球状の酸化アルミニウム粒子「AW−70−120」(カタログ値で平均粒子径70μm、アスペクト比1.0、熱伝導性32W/m・K、電気絶縁性1×1014Ω・cm超)591重量部と東レ・ダウコーニング社製シリコーン樹脂(主剤と硬化剤を重量比1:1で混合)127重量部を加え、アルミナ製容器内で混合し、樹脂組成物を得た。これを株式会社東洋精機製作所製ミニホットプレスを用いて、成形部のサイズが30mm×30mm×2mmの直方体型の金型にてプレス温度150℃、プレス圧力15MPa、保持時間30分の条件で成形し、30mm×30mm×2mmの直方体型の成形体を得た。
【0059】
(実施例2)
実施例1で、窒化アルミニウムフィラーと球状の酸化アルミニウム粒子とシリコーン樹脂の割合を、窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、球状の酸化アルミニウム粒子を473重量部、シリコーン樹脂を159重量部とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0060】
(実施例3)
実施例1で、窒化アルミニウムフィラーと球状の酸化アルミニウム粒子とシリコーン樹脂の割合を、窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、球状の酸化アルミニウム粒子を118重量部、シリコーン樹脂を42重量部とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0061】
(実施例4)
実施例1で、窒化アルミニウムフィラーとして、製造例2で得られた窒化アルミニウムフィラーを用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0062】
(比較例1)
実施例1で、窒化アルミニウムフィラーの代わりに、窒化アルミニウムフィラーの製造例1で窒化アルミニウムフィラーの原料として用いた繊維状の酸化アルミニウムフィラー(酸化アルミニウム:シリカ=95重量%:5重量%)、直径(フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さ)が6μm、繊維軸方向の平均長さが60μm、アスペクト比が10)を用いて、繊維状酸化アルミニウムフィラーと球状酸化アルミニウム粒子とシリコーン樹脂の割合を、繊維状酸化アルミニウムフィラー100重量部に対し、球状酸化アルミニウム粒子を500重量部、シリコーン樹脂を108重量部とした以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0063】
(比較例2)
実施例1で、球状酸化アルミニウム粒子を用いずに、窒化アルミニウムフィラーとシリコーン樹脂の割合を、窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、シリコーン樹脂を21重量部とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0064】
(比較例3)
実施例1で、窒化アルミニウムフィラーの代わりに球状の窒化アルミニウム(株式会社トクヤマ製「Hグレード」、カタログ値で長さが75μm、長さ方向に垂直な方向の長さが75μm、アスペクト比が1.0、熱伝導率96W/m・K)を用いて、球状酸化アルミニウム粒子を用いずに、球状窒化アルミニウムフィラーとシリコーン樹脂の割合を、球状窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、シリコーン樹脂を21重量部とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
【0065】
(比較例4)
実施例2で、球状酸化アルミニウム粒子を用いずに、窒化アルミニウムフィラーとシリコーン樹脂の割合を、球状窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、シリコーン樹脂を21重量部とした以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物及びその成形体を得た。
上述の実施例及び比較例で得られた成形体の厚み方向の熱伝導率及び電気絶縁性を測定した結果を表1に示す。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムフィラーと等方性形状の粒子と熱硬化性樹脂とを含有する熱硬化性樹脂組成物であって、前記窒化アルミニウムフィラーが異方性形状であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記窒化アルミニウムフィラーのアスペクト比が2.5以上100以下であることを特徴とする、請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記窒化アルミニウムフィラーの長さが0.125μm以上5000μm以下であり、フィラーの長さ方向に垂直な方向の長さが0.05μm以上50μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記窒化アルミニウムフィラーが、酸化アルミニウムフィラーと炭素源とを含む組成物を窒素雰囲気下で加熱することにより製造された窒化アルミニウムフィラーであることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記等方性形状の粒子が絶縁性の粒子であることを特徴とする、請求項1乃至4の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記窒化アルミニウムフィラーの熱伝導率が5W/m・K以上320W/m・K以下であり、前記等方性形状の粒子の熱伝導率が5W/m・K以上であることを特徴とする、請求項1乃至5の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記窒化アルミニウムフィラー100重量部に対し、前記等方性形状の粒子が100重量部以上750重量部以下、前記熱硬化性樹脂が40重量部以上100重量部以下含有されていることを特徴とする、請求項1乃至6の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物であって、熱伝導率が1W/m・K以上であることを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れかに記載の熱硬化性樹脂組成物を成形して得られる熱伝導性シート。

【公開番号】特開2010−235842(P2010−235842A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86847(P2009−86847)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】