説明

異物分析用試料および異物の分析方法

【課題】本発明の目的は、異物の分析を分析に際しての新たな異物の混入なく分析し異物の正確な情報を提供することにある。
【解決手段】本発明は、導電性膜を全体にコートしてなる異物分析用試料であり、また異物を含有する試料全体に導電性膜をコートすることを特徴とする異物の分析方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物の観察に有用な試料および異物の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微少な異物が問題になるような製品を作る工程では、異物が発生した場合にその原因を見極めるためには非常に小さな異物も含めて全ての異物の分析が重要である。特に、面積の広いフイルム状の成型物中に含まれた、あるいは表面に付着した異物を分析する場合には工程で着いた異物のみを分析する必要があるが、分析のための切出しなどの作業中に発生する異物が表面に付着あるいは中まで浸透しまうことがあり、特に異物が数μm以下と小さくなると分析のための作業中の外乱は大きな問題となる。
【0003】
一方、異物分析のためオージェ電子分光分析法などの電子線で異物を励起して分析することが広く行われており、その際に試料が帯電し分析結果に悪い影響を与えることを排除するために異物周辺を導電膜で覆い、異物部分の導電膜のみを除去露出して導電膜を接地して測定する方法が知られている(特許文献1)が、この方法は、同定する異物を決めた後に周りを導電膜で覆うものであり、異物が存在するかどうか判らない広い面積の試料全体を覆うことを意図したものではない。
【特許文献1】特開平11−311611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
製品の製造工程で発生付着する異物のみを観察して原因を見極めるためには、異物を含む試料を採取した後に分析のために試料の移動、さらには試料を分析するための加工など異物を同定するための長い分析の工程で新に混入する異物を排除しないと原因を正確に知ることできず、分析の際に試料全体に新たな異物の原因となる物を混入させない方法を確立することが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決する為に、鋭意検討したところ、導電性膜を試料全体にコートした試料を用いることで上記問題が解決できることを見出して本発明を完成した。
【0006】
即ち本発明は、導電性膜をコートしてなる異物分析用試料である。
【0007】
本発明はまた、異物を含有する試料に導電性膜をコートすることを特徴とする異物の分析方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明試料および分析方法は、異物について正確な情報を提供することを可能にするものであり工業的に価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明において、試料としては異物観察を目的とするものであればどのようなものでも良く、試料表面に導電性膜を形成することで作ることができる。この導電性膜は、分析しようと考えている範囲全体に対し行うことが肝要であり、予め試料を観察することで異物が存在する領域を決めることは必ずしも必要なく、観察領域を決定するために試料をクリーンルームから出す必要があるなど試料の観察により異物の混入が考えられる場合にはむしろ好ましくない。従って、試料全体を導電性膜で覆ってしまうのが好ましい態様と言える。
【0010】
導電性膜の形成にはスパッタ法または真空蒸着法が一般的であり、膜としては炭素膜、白金膜、クロム膜、モリブデン膜、アルイミニウム膜、金膜、オスニウム膜など各種膜が使用できる。特に金属膜、中でも白金膜が表面に凹凸などがなく異物の観察がやり易く好ましい。この作業は試料が作られる条件下で行うのが好ましく、試料をサンプリングするクリーンルーム内で行うのが好ましい。
【実施例】
【0011】
以下に、本発明の実施の一例について示す。
【0012】
実施例1
200mm×200mmの厚さ1μmの有機物のフイルムを金属のフレームに密着させた試料について、予めクリーンルーム内で異物のおおよその位置を光学顕微鏡等で確認した。その後、試料全体に、Ptコートを実施した。Ptをコートした後、試料台に固定するために、異物の周りを10mm×10mmに切断した後に異物を観察した。図1に異物の走査型電子顕微鏡写真(以下、SEMと略記する。撮影倍率1万倍)、図2に同異物について元素分析を行ったX線マイクロアナライザー(以下、XMAと略記する)チャートを示す。これより、異物はAlを主体とした無機物であることが判明した。なお、予めクリーンルーム内で存在が確認された異物以外にはSEMによる観察でも観察できなかった。
【0013】
比較例1
実施例1と異なる点は、クリーンルーム内で異物の位置確認をした後、通常の実験室においてカーボン蒸着を実施した点である。図3、図4に走査型電子顕微鏡写真(撮影倍率1万倍)及びXMAチャートを示す。実施例1と同様のAlを主体とした無機物の他にクリーンルーム内では観察されなかった異物が幾つか観察された。その一例を図3、4に示す。正常部のXMAチャートである図5と比較すると、炭素が多い異物であった。これはカーボン蒸着の際に発生したものと推定される。
【0014】
比較例2
実施例1と異なる点は、クリーンルーム内で異物の位置確認をした後、異物の周辺を10mm×10mmの大きさに切断した後、通常の実験室においてPt蒸着を実施した点である。本来の無機系の異物の他にやや大きい炭素と弗素を主成分とする異物が観察された(図6、図7参照)。正常部のXMAチャートである図8と略同じ組成であり、この異物は切断の際に発生したものと推定される。
【0015】
実施例1については、光学顕微鏡による広視野での観察及び走査型電子顕微鏡による観察時に、異物周辺にこれ以外の付着物は観察されなかった。よって、異物そのものを分析したものと考えられる。一方、通常の実験室でカーボンあるいはPtコートを実施した場合、クリーンルーム内での光学顕微鏡による予備観察では1つであった異物が、比較例1、2に示すように同一面内に複数の異物または付着物として観察された。これは2次的に試料表面に付着したものと思われる。実験室でのサンプリング時に付着した場合と、コート時に付着した可能性が考えられる。よって、実験室系での前処理では本来の異物であるか、2次的な付着物であるかの判別は困難となる。また、カーボン蒸着の場合、蒸着時に数μmサイズの無数のカーボン塊が飛散し、試料に付着するため、同程度のサイズの異物であったり、炭素を含む有機系異物である場合、本来の異物との識別が困難となるため、前処理に用いるのは好ましくないことがある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1のSEMでの観察結果を示す図面である。
【図2】実施例1のXMAでの観察結果を示す図面である。
【図3】比較例1のSEMでの観察結果を示す図面である。
【図4】比較例1のXMAでの観察結果を示す図面である。
【図5】比較例1の正常部についてのXMAでの観察結果を示す図面である。
【図6】比較例2のSEMでの観察結果を示す図面である。
【図7】比較例2のXMAでの観察結果を示す図面である。
【図8】比較例2の正常部についてのXMAでの観察結果を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性膜をコートしてなる異物分析用試料。
【請求項2】
導電性膜が金属の膜である請求項1に記載の異物分析用試料。
【請求項3】
異物を含有する試料に導電性膜をコートすることを特徴とする異物の分析方法。
【請求項4】
異物を含有する試料に予め金属をコートする請求項3に記載の方法。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−216425(P2009−216425A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57713(P2008−57713)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(501021139)株式会社三井化学分析センター (10)
【Fターム(参考)】