説明

異物探知方法、および異物探知装置

【課題】本発明は、高い検査精度を保ちつつ分析検査時間を短縮化できる異物探知方法および異物探知装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、検査試料から取得した試料質量スペクトルと標準質量スペクトルより検査試料の異物を求める異物探知方法であって、前記試料質量スペクトルと前記標準質量スペクトルを質量電荷比軸の始端から終端までスペクトル全域に亘り質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置を用いた異物探知方法、および異物探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食品への異物混入で食品衛生上の問題となっている。このため、近年は多くの食品製造メーカが金属探知機やX線検査装置を採用し、金属等の異物の除去作業を行っている。しかしながら、上記の検査装置では検知できる異物の種類が限定され、全ての異物の混入を判断することは難しい。特に原材料に農薬などの化学薬品が混入すると、目視や臭いでは判別が困難な場合があり、そのまま調理されてしまえば消費者が気づかずに口にしてしまう可能性がある。
【0003】
そのような異物の混入を調べる場合、現在は社内または外部の検査機関に委託することが多い。検査機関による精密な検査を行うことでそれらの異物を発見し特定することは可能だが、時間や費用が多くかかってしまう。そのため、生産工場内でこまめに検査することは困難である。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2006−234527号公報)に示す検査方法は食品に残留する農薬をガスクロマトグラフ質量分析方法で分析するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−234527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の質量分析方法では試料の前処理をして分析を行っていた。前処理をしていない状態で分析を行うと、精度が悪くなり、検査が困難になる。前処理をすることにより分析検査精度は向上するが、前処理に時間を費やし分析検査時間が長くなる嫌いがあった。
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は高い分析精度を保ちつつ短い分析検査時間で異物検査ができる異物探知方法および異物探知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、検査試料から取得した試料質量スペクトルと標準質量スペクトルより検査試料の異物を求める異物探知方法であって、前記試料質量スペクトルと前記標準質量スペクトルを質量電荷比軸の始端から終端までスペクトル全域に亘り質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、検査試料から取得した試料質量スペクトルと標準質量スペクトルより検査試料の異物を求める異物探知装置にあって、前記試料質量スペクトルと前記標準質量スペクトルを質量電荷比軸の始端から終端までスペクトル全域に亘り質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者を区分する区分機能と、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較する機能を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い検査精度を保ちつつ短い分析検査時間で異物探知をすることができる異物探知方法および異物探知装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例にかかわるもので、異物探知装置の概要図である。
【図2】本発明の実施例にかかわるもので、標準質量スペクトルの作成概要図である。
【図3】本発明の実施例にかかわるもので、検査試料31の検査概要図である。
【図4】本発明の実施例にかかわるもので、検査試料41の検査概要図である。
【図5】本発明の実施例にかかわるもので、検査試料51の検査概要図である。
【図6】本発明の実施例にかかわるもので、検査試料61の検査概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する前に本発明の主要部に関する概要について述べる。
【0013】
この異物探知は、質量分析装置を用いて以下の手順で検査を行う。
【0014】
検査を行う際、まず標準質量スペクトルの登録を行う。検査試料と同じ材料の異物の混入していない試料の質量スペクトルを1つ以上測定し、それらを演算することで、標準質量スペクトルとする。
【0015】
標準質量スペクトル登録後に、検査したい試料の検査を行う。検査対象となる試料の質量スペクトルを測定する。
【0016】
それぞれの質量スペクトルを設定した質量電荷比区分幅の形状相関値、及びピーク高さについて、各々の閾値と照合して判定する2種類の検査方法で自動比較を行う。
【0017】
形状相関値とは、標準質量スペクトルと検査対象となる試料質量スペクトルを、同じ質量電荷比区分幅(範囲)において比較した相関係数であり、式1により算出する。相関係数は−1から+1までの無次元の数値である。+1に近づくと、正の相関が強くなり、−1に近づくと、負の相関が強くなる。
【0018】
また、0に近づく程これらの傾向は弱くなる。形状相関値を用いて2つのスペクトルを計算することによって、2つのスペクトルの形状(傾き、凹凸等)がどれだけ類似しているかを判別することができる。したがって、本発明は標準質量スペクトル・試料質量スペクトルの質量電荷比区分幅を比べて形状の類否判断により異物探知をすることを基本とする。
【0019】
【数1】

【0020】
設定した質量電荷比区分幅の形状相関値による判定は、以下の方法により行う。
【0021】
1−1:標準質量スペクトルと測定した質量スペクトルを、一定の質量電荷比区分幅毎に区切る。
【0022】
1−2:1−1で区切ったそれぞれの区間で、標準質量スペクトルと測定した質量スペクトルの形状相関値を算出する。算出した形状相関値があらかじめ設定してある閾値以下であった場合、その区間では二つの質量スペクトルの相関が取れていないと判断する。
【0023】
1−3:1−1と同一の質量電荷比区分幅で起点をずらし、1−1で区切ったときに端に位置した質量電荷比値が、端以外に位置するような質量電荷比区分幅を設定する。その後1−2と同様に形状相関値を算出し、算出した形状相関値が閾値以下であった場合、その区間では二つの質量スペクトルの相関が取れていないと判断する。
【0024】
1−4:1−2、1−3とは異なる質量電荷比区分幅で、1−2,1−3と同様に検査試料の質量スペクトル及び標準質量スペクトルの形状相関値を算出し、相関が取れているかの確認を行う。
【0025】
1−5:1−2、1−3、1−4の結果から、形状相関値の判定を行う。1つまたは2つ以上の項目で、相関が取れていないと判断された場合、その区間は相関異常と判断する。
【0026】
ピーク高さは以下の方法で判定を行う。
【0027】
2−1:標準質量スペクトルに特定の演算を行い、閾値とする。
【0028】
2−2:測定した質量スペクトルを2−1で定めた閾値と比較する。測定した質量スペクトル閾値を越える部分あると判断された場合、その箇所はピーク異常と判断する。
【0029】
上記検査方法の1つもしくは両方で異常と判断された場合、異物探知装置はその試料を異物混入の疑いありと判断する。
【0030】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0031】
図1は本発明の実施例に係るオンラインリアルタイムで探知できる異物探知装置の概念図である。
【0032】
異物探知装置1は質量分析計の機能を有しており、検査対象からサンプリングした少量の検査試料を付着させた検査シートを検査者が異物探知装置1に挿入して探知する。異物探知装置1は、加熱部3に自動搬送する試料導入部2、検査シートを加熱する加熱部3、加熱されて気化した検査試料を吸引し、イオン源5に送る加熱配管4、気化した検査試料をイオン化させるイオン源5、イオン化された検査試料の質量を分析し質量スペクトルを取得する分析部6、取得された検査試料の質量スペクトルをデータ化して保持し、検査者からの命令を受け取るPC7、受け取った命令を実行し、データ化された質量スペクトルを演算する異物探知ソフト8、演算された結果を表示するディスプレイ9により構成されている。
【0033】
PC7、異物探知ソフト8は、質量分析計が分析した標準質量スペクトル・試料質量スペクトルの質量電荷比区分幅での区分、形状相関値の算定、類否の判定、形状相関値の閾値との比較、スペクトル信号強度の比較、スペクトル信号強度の閾値との比較、区分位置を変えた2度以上区分するなどの各種機能を備える。
【0034】
検査には異物探知装置1の他に、標準質量スペクトルの登録に使用する異物の混入がないことが明確であるマスター用試料21、22、23、異物の混入が不明確である検査試料31、41、51、61を使用する。なお、マスター用試料21、22、23及び検査試料31、41、51、61は電気泳動法等の前処理は行っていない。前処理をしなくても精度の高い良好な異物探知をすることができるが、前処理をすることにより分析検査の精度はさらに向上するので、本発明の実施例でも精度の求めに応じて適宜に前処理を選択することは可能である。
【0035】
検査を行うにあたり、最初に標準質量スペクトルの登録を行う。
【0036】
検査者は、PC7を操作し、異物探知装置1の状態を標準質量スペクトル登録モードに切り替える。
【0037】
図2はマスター用試料21、22、23により得られた質量スペクトル24、25、26、及び質量スペクトル24、25、26から算出した標準質量スペクトル27である。質量スペクトル24、25、26、標準質量スペクトル27は横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としている。
【0038】
検査シートにのせた異物の混入がないことが明確であるマスター用試料21、22、23を一つずつ試料導入部2に挿入する。異物探知装置1はマスター用試料21、22、23から、それぞれの質量スペクトル24、25、26を取得する。質量スペクトル24、25、26はPC7に送られ、異物探知ソフト8によって演算され、標準質量スペクトル27としてPC7に記録される。
【0039】
標準質量スペクトルの登録完了後、検査対象となる試料の検査を行う。
【0040】
検査者は、PC7を操作し、異物探知装置1の状態を異物検査モードに切り替える。
【0041】
検査試料31を、試料導入部2に挿入する。図3は検査試料31から取得する質量スペクトル32と、PC7に記録されてある標準質量スペクトル27及びそれらの比較スペクトル33を表したものである。質量スペクトル32は横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としている。また、比較33も同様に横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としているが、比較のためにスペクトルを、倍率をかえずに縦方向にずらしている。
【0042】
異物探知装置1は検査試料31から質量スペクトル32を取得する。質量スペクトル32はPC7に送られ、異物探知ソフト8によってあらかじめ登録しておいた標準質量スペクトル27と比較される。
【0043】
比較スペクト33は、検査試料31から取得した質量スペクトル32と、あらかじめ登録しておいた標準質量スペクトル27を比較したものである。34が質量スペクトル32、35が標準質量スペクトル27を示している。
【0044】
形状相関値及びピーク高さについて説明する。
【0045】
異物探知ソフト8は質量スペクトル34と標準質量スペクトル35の形状相関値及びピーク高さがそれぞれ正常とする値を示しているかを算出する。
【0046】
371、372、373、374は、試料質量スペクトル・標準質量スペクトルの始点から終点までスペクトル全域に亘り、質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者(質量スペクトル34と標準質量スペクトル35)を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較して求めた形状相関値による判定結果を示している。形状相関値があらかじめ設定してある閾値を下回った場合、下回った箇所は異常と判定され、相関異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーは表示されない。
【0047】
ここで、371と372は同じ質量電荷比区分幅で区切ってあり、373と374は同じ質量電荷比区分幅で区切ってある。また、371と373の質量電荷比区分幅は異なっている。372は371の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものであり、374は373の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものである。
【0048】
異なる質量電荷比区分幅(371、373)を得るために区分幅を変えて2度以上算定する。起点をずらした質量電荷比区分幅(372、374)も得るために区分位置を変えて2度以上算定する。これにより、形状相関値による判定検査をスペクトル全域に亘り洩れなくすることができる。
【0049】
分析検査する試料や分析検査精度に応じて区分幅を適宜に変えてもさしつかえない。
【0050】
38はスペクトルの始点から終点までの、ピーク高さによる判定結果を示している。ピーク高さがあらかじめ設定してある閾値を上回った場合、上回った箇所は異常と判定され、ピーク異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーは表示されない。
【0051】
比較33を見ると、質量スペクトル34は標準質量スペクトル35と比べて全体的に信号強度が弱い。これは測定した試料の量が少なかった場合などにおこる。
【0052】
しかし、371、372、373、374の4つの判定結果で、全ての範囲で質量スペクトルの形状相関値が予め設定してある閾値を満たし、正常範囲内に入っているため、判定結果は異常がないと判断される。
【0053】
また、38で示すピーク高さの判定結果も各範囲で設定されるピーク高さの閾値以下であるため、ピーク高さは異常がないと判断される。共に正常とする範囲内に入っているため、異物探知ソフト8はこの2つの質量スペクトルは一致すると判断する。
【0054】
従って異物検査装置1はディスプレイ9によって検査試料31に異物は探知されなかったことを検査者に告げる。
【0055】
続いて、検査試料41を、試料導入部2に挿入する。図4は検査試料41から取得する質量スペクトル42と、PC7に記録されてある標準質量スペクトル27及びそれらの比較スペクトル43を表したものである。
【0056】
異物探知装置1は検査試料41から質量スペクトル42を取得する。質量スペクトル42はPC7に送られ、異物探知ソフト8によってあらかじめ登録しておいた標準質量スペクトル27と比較される。質量スペクトル42は横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としている。また、比較43も同様に横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としているが、比較のためにスペクトルを、倍率をかえずに縦方向にずらしている。
【0057】
比較スペクトル43は、質量スペクトル42と標準質量スペクトル27を比較したものである。44は質量スペクトル42、45は標準質量スペクトル27を示している。
【0058】
異物探知ソフト8は質量スペクトル44と標準質量スペクトル45の形状相関値及びピーク高さがそれぞれ正常とする値を示しているかを算出する。
【0059】
471、472、473、474は、試料質量スペクトル・標準質量スペクトルの始点から終点まで、スペクトル全域に亘り、質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者(質量スペクトル44と標準質量スペクトル45)を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較して求めた形状相関値による判定結果を示している。形状相関値があらかじめ設定してある閾値を下回った場合、下回った箇所は異常と判定され、相関異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーが表示されない。
【0060】
ここで、471と472は同じ質量電荷比区分幅で区切ってあり、473と474は同じ質量電荷比区分幅で区切ってある。また、471と473の質量電荷比区分幅は異なっている。472は471の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものであり、474は473の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものである。
【0061】
48はスペクトルの始点から終点までの、ピーク高さによる判定結果を示している。ピーク高さがあらかじめ設定してある閾値を上回った場合、上回った箇所は異常と判定され、ピーク異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーが表示されない。
【0062】
範囲46で質量スペクトル44と標準質量スペクトル45の形状が異なっている箇所があり、その箇所は形状相関値の判定結果471、472、473、474、ピーク高さの判定結果48で、算出された値が正常とする範囲から外れている。471、472、473、474で正常範囲外とされた箇所は、相関異常マーカー491、48で正常範囲外とされた箇所は、ピーク異常マーカー492で示される。
【0063】
全ての判定結果に異常があり、その箇所が質量スペクトル上でほぼ同一の位置を示しているため、異物探知ソフト8はこの2つの質量スペクトルは一致しないと判断する。従って異物検査装置1はディスプレイ9によって検査試料41に異物混入の疑いがあることを検査者に告げる。
【0064】
質量スペクトル等の途中経過は表示せず、検査者には異物混入の疑いありの結果だけを告げてもよい。
【0065】
続いて、検査試料51を、試料導入部2に挿入する。図5は検査試料51から取得する質量スペクトル52と、PC7に記録されてある標準質量スペクトル27及びそれらの比較スペクトル53を表したものである。
【0066】
異物探知装置1は検査試料51から質量スペクトル52を取得する。質量スペクトル52はPC7に送られ、異物探知ソフト8によってあらかじめ登録しておいた標準質量スペクトル27と比較される。質量スペクトル52は横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としている。また、比較53も同様に横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としているが、比較のためにスペクトルを、倍率をかえずに縦方向にずらしている。
【0067】
比較スペクトル53は、質量スペクトル52と標準質量スペクトル27を比較したものである。54は質量スペクトル52、55は標準質量スペクトル27を示している。
【0068】
異物探知ソフト8は質量スペクトル54と標準質量スペクトル55の形状相関値及びピーク高さがそれぞれ正常とする値を示しているかを算出する。
【0069】
571、572、573、574は、試料質量スペクトル・標準質量スペクトルの始点から終点まで、スペクトル全域に亘り、質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者(質量スペクトル54と標準質量スペクトル55)を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較して求めた形状相関値による判定結果を示している。形状相関値があらかじめ設定してある閾値を下回った場合、下回った箇所は異常と判定され、相関異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーが表示されない。
【0070】
ここで、571と572は同じ質量電荷比区分幅で区切ってあり、573と574は同じ質量電荷比区分幅で区切ってある。また、571と573の質量電荷比区分幅は異なっている。572は571の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものであり、574は573の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものである。
【0071】
58はスペクトルの始点から終点までの、ピーク高さによる判定結果を示している。ピーク高さがあらかじめ設定してある閾値を上回った場合、上回った箇所は異常と判定され、ピーク異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーが表示されない。
【0072】
範囲56では質量スペクトル54と標準質量スペクトル55は違う形状をしているが、54の信号強度が弱いためピーク高さの判定結果58は設定した閾値以下であり、正常範囲内であると算出される。また、形状相関値の判定結果572は判定する質量電荷比区分幅の起点が質量スペクトル54、標準質量スペクトル55の不一致箇所と重なり、形状の違いを十分に認識できず、異常があると確認されない。しかし、形状相関値の判定結果571、573、574は、判定する質量電荷比区分幅の起点が質量スペクトル54、標準質量スペクトル55の不一致箇所と重なっていないため、形状の違いを十分に認識し、形状相関値は正常範囲外であるとし、対応する箇所に相関異常マーカー591を示す。
【0073】
ピーク高さの判定では異常があるとは示さなかったが、形状相関値の判定結果では4つ中3つがほぼ同一の位置で異常を示しているため、異物探知ソフト8はこの2つの質量スペクトルは一致しないと判断する。従って、異物検査装置1はディスプレイ9によって検査試料51に異物混入の疑いがあることを検査者に告げる。
【0074】
続いて、検査試料61を、試料導入部2に挿入する。図6は検査試料61から取得する質量スペクトル62と、PC7に記録されてある標準質量スペクトル27及びそれらの比較スペクトル64を表したものである。
【0075】
異物探知装置1は検査試料61から質量スペクトル62を取得する。質量スペクトル62はPC7に送られ、異物探知ソフト8によってあらかじめ登録しておいた標準質量スペクトル27と比較される。質量スペクトル62は横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としている。また、比較63も同様に横軸を質量電荷比(m/z)、縦軸を信号強度としているが、比較のためにスペクトルを、倍率をかえずに縦方向にずらしている。
【0076】
比較スペクトル63は、質量スペクトル62と標準質量スペクトル27を比較したものである。64は質量スペクトル62、65は標準質量スペクトル27を示している。
【0077】
異物探知ソフト8は質量スペクトル64と標準質量スペクトル65の形状相関値及びピーク高さがそれぞれ正常とする値を示しているかを算出する。
【0078】
671、672、673、674は、試料質量スペクトル・標準質量スペクトルの始点から終点まで、スペクトル全域に亘り、質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者(質量スペクトル64と標準質量スペクトル65)を区分し、区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較して求めた形状相関値による判定結果を示している。形状相関値があらかじめ設定してある閾値を下回った場合、下回った箇所は異常と判定され、相関異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーは表示されない。
【0079】
ここで、671と672は同じ質量電荷比区分幅で区切ってあり、673と674は同じ質量電荷比区分幅で区切ってある。また、671と673の質量電荷比区分幅は異なっている。672は671の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものであり、674は673の質量電荷比区分幅の起点をずらしたものである。
【0080】
68はスペクトルの始点から終点までの、ピーク高さによる判定結果を示している。ピーク高さがあらかじめ設定してある閾値を上回った場合、上回った箇所は異常と判定され、ピーク異常マーカーを表示する。異常と判定されない箇所はマーカーは表示されない。
【0081】
範囲66では質量スペクトル64と標準質量スペクトル65の形状が似ている。形状が似ている場合、形状相関値は高い値を示しやすく、今回の671、672、673、674のいずれも形状相関値は高い値を示し、形状相関値による判定結果からは異常があるとは認識されない。
【0082】
しかし、範囲66の質量スペクトル64は標準質量スペクトル65に比べてピーク高さが高く、68はピーク高さが正常範囲外であると算出し、ピーク異常マーカー692を範囲66に示す。形状相関値の判定では4つ共異常があるとは示さなかったが、ピーク高さの判定結果では異常を示しているため、異物探知ソフト8はこの2つの質量スペクトルは一致しないと判断する。従って、異物検査装置1はディスプレイ9によって検査試料61に異物混入の疑いがあることを検査者に告げる。
【符号の説明】
【0083】
1…異物探知装置
2…試料導入部
3…加熱部
4…加熱配管
5…イオン源
6…分析部
7…PC
8…異物探知ソフト
9…ディスプレイ
21…マスター用試料
22…マスター用試料
23…マスター用試料
24…21の質量スペクトル
25…22の質量スペクトル
26…23の質量スペクトル
27…24,25,26を演算した標準質量スペクトル
31…検査試料
32…31の質量スペクトル
33…32と27の比較スペクトル
34…32と同一
35…27と同一
371…比較33の形状相関値の判定1
372…比較33の形状相関値の判定2
373…比較33の形状相関値の判定3
374…比較33の形状相関値の判定4
38…比較33のピーク高さの判定
41…検査試料
42…41の質量スペクトル
43…42と27の比較スペクトル
44…42と同一
45…27と同一
46…42と27の不一致範囲
471…比較43の形状相関値の判定1
472…比較43の形状相関値の判定2
473…比較43の形状相関値の判定3
474…比較43の形状相関値の判定4
48…比較43のピーク高さの判定
491…相関異常マーカー
492…ピーク異常マーカー
51…検査試料
52…51の質量スペクトル
53…52と27の比較スペクトル
54…52と同一
55…27と同一
56…52と27の不一致範囲
571…比較53の形状相関値の判定1
572…比較53の形状相関値の判定2
573…比較53の形状相関値の判定3
574…比較53の形状相関値の判定4
58…比較53のピーク高さの判定
591…相関異常マーカー
61…検査試料
62…61の質量スペクトル
63…62と27の比較スペクトル
64…62と同一
65…27と同一
66…62と27の不一致範囲
671…比較63の形状相関値の判定1
672…比較63の形状相関値の判定2
673…比較63の形状相関値の判定3
674…比較63の形状相関値の判定4
68…比較63のピーク高さの判定
692…ピーク異常マーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査試料から取得した試料質量スペクトルと標準質量スペクトルより検査試料の異物を求める異物探知方法であって、
前記試料質量スペクトルと前記標準質量スペクトルを質量電荷比軸の始端から終端までスペクトル全域に亘り質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者を区分し、
区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較することを特徴とする異物探知方法。
【請求項2】
請求項1記載の異物探知方法にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルを比較して二つの電荷比区分幅スペクトル形状が類似するか否かを判別することを特徴とする異物探知方法。
【請求項3】
請求項2記載の異物探知方法にあって、
前記電荷比区分幅スペクトル形状は傾き、凹凸を含むことを特徴とする異物探知方法。
【請求項4】
請求項1記載の異物探知方法にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルを比較して二つの電荷比区分幅スペクトル形状が類似するか否かを見分ける形状相関値を求めることを特徴とする異物探知方法。
【請求項5】
請求項4記載の異物探知方法にあって、
前記形状相関値を相関値用閾値と比べることを特徴とする異物探知方法。
【請求項6】
請求項1記載の異物探知方法にあって、
前記区分は前記区分位置を変えて2度以上することを特徴とする異物探知方法。
【請求項7】
請求項1記載の異物探知方法にあって、
前記電荷比区分幅は前記スペクトル全域に亘り同じ幅であることを特徴とする異物探知方法。
【請求項8】
請求項1記載の異物探知方法にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルの信号強度を比べることを特徴とする異物探知方法。
【請求項9】
請求項8記載の異物探知方法にあって、
前記信号強度のピーク高さに上限閾値を設け、前記上限閾値と前記信号強度のピーク高さを比べることを特徴とする異物探知方法。
【請求項10】
検査試料から取得した試料質量スペクトルと標準質量スペクトルより検査試料の異物を求める異物探知装置にあって、
前記試料質量スペクトルと前記標準質量スペクトルを質量電荷比軸の始端から終端までスペクトル全域に亘り質量電荷比軸方向の区分位置および電荷比区分幅を揃えて両者を区分する区分機能と、
区分した試料質量電荷比区分幅スペクトルと標準質量電荷比区分幅スペクトルを対応する区分位置毎に比較する機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項11】
請求項10記載の異物探知装置にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルを比較して二つの電荷比区分幅スペクトル形状が類似するか否かを判別する機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項12】
請求項11記載の異物探知装置にあって、
前記電荷比区分幅スペクトル形状は傾き、凹凸を含むことを特徴とする異物探知装置。
【請求項13】
請求項10記載の異物探知装置にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルを比較して二つの電荷比区分幅スペクトル形状が類似するか否かを見分ける形状相関値を求める機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項14】
請求項13記載の異物探知装置にあって、
前記形状相関値を相関値用閾値と比べる機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項15】
請求項10記載の異物探知装置にあって、
前記区分は前記区分位置を変えて2度以上する機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項16】
請求項10記載の異物探知装置にあって、
前記電荷比区分幅は前記スペクトル全域に亘り同じ幅であることを特徴とする異物探知装置。
【請求項17】
請求項10記載の異物探知装置にあって、
前記試料質量電荷比区分幅スペクトルと前記標準質量電荷比区分幅スペクトルの信号強度を比べる機能を備えることを特徴とする異物探知装置。
【請求項18】
請求項17記載の異物探知装置にあって、
前記信号強度のピーク高さに上限閾値を設け、前記上限閾値と前記信号強度のピーク高さを比べる機能を備えることを特徴とする異物探知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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