説明

異種亜型インフルエンザT細胞応答を誘発するためのペプチド

本発明は、抗インフルエンザ免疫応答を引き起こすための組成物および方法を提供する。特に、インフルエンザウイルスのマトリックスタンパク質および核タンパク質成分中の保存されたT細胞エピトープを同定し、更にHLA IおよびII分子のいずれかまたは両方を結合する構造をスクリーニングした。インフルエンザ感染症の治療または予防のために、このようなペプチドの製剤を用いて対象にワクチン接種をする方法も記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年9月30日に提出された米国仮出願第61/247,038号に対して優先権の利益を主張し、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.発明の分野
本発明は、一般的に、ウイルス学および免疫療法の分野に関連する。より具体的に、本発明は、インフルエンザの治療および予防のための免疫刺激ペプチドの同定およびペプチドワクチンの開発に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
一般的に流感と呼ばれるインフルエンザは、鳥類および哺乳類に影響を及ぼすオルトミクソウイルス科のRNAウイルス(インフルエンザウイルス)により引き起こされる伝染病である。この病の最も一般的な症状は、悪寒、発熱、咽頭炎、筋肉痛、激しい頭痛、咳、脱力感、および全身違和感である。発熱および咳は、最も高頻度の症状である。更に重篤な症例において、インフルエンザは、特に若年者および高齢者には致命的であり得る肺炎を引き起こす。インフルエンザは、風邪と混同されやすいが、風邪よりも一段と重い病であり、異なる種類のウイルスによるものである。インフルエンザは、特に小児において吐き気や嘔吐を引き起こすが、これらの症状はこれとは無関係な病気である「胃インフルエンザ(stomach flu)」や「24時間インフルエンザ(24-hour flu)」と呼ばれることのある胃腸炎において、より頻繁に見られる。
【0004】
典型的には、インフルエンザは、感染した哺乳類から、ウイルスを含むエアロゾルを作り出す咳またはくしゃみにより空気を介して伝染し、また感染した鳥類からその糞を介して伝染する。インフルエンザは唾液、鼻からの分泌物、糞便、および血液により伝染されることもあり得る。これらの体液またはこれらに汚染された表面と接触することによっても感染が起こる。インフルエンザウイルスはヒトの体温において約一週間感染性を維持することができ、0℃(32°F)では30日以上、そして非常に低い温度では更に長期間感染性を維持することができる。インフルエンザウイルスは、殺菌剤および洗剤により不活性化することができる。石鹸によりウイルスを不活性化できるため、頻繁な手洗いは感染の危険を減らす。
【0005】
インフルエンザは、季節的な流行により世界中に広がり、年間数十万人の死者を出し、パンデミックとなる年には数百万人の死者を出す。インフルエンザのパンデミックは20世紀に三回起こり、数千万人の死者を出した。これらのパンデミックはそれぞれ、ヒトにおける新型のウイルス株の登場により引き起こされた。これらの新型株は、しばしば既存のインフルエンザウイルスが他の動物種からヒトへと伝染することによりもたらされる。最近、H5N1と呼ばれるトリインフルエンザ株は、最初に1990年代にアジアでヒトを死亡させたため、新型インフルエンザのパンデミックを引き起こす危険性が最も高いことが示された。
【0006】
インフルエンザに対するワクチン接種は通常、先進国の人々および飼育されている鳥類に行われる。最も一般的なヒト用ワクチンは、三種のウイルス株より精製され不活性化された材料を含む、インフルエンザの3価ワクチン(TIV)である。典型的にこのワクチンは、二種類のA型インフルエンザウイルスの亜型および1種類のB型インフルエンザウイルス株由来の材料を含む。TIVは病気を伝染させる危険性が無く、非常に低い反応性を有する。インフルエンザウイルスは急速に進化し、異なる株が最も勢力のある株となるため、或る年のために製剤化されたワクチンは、翌年には効果が無いこともあり得る。インフルエンザ治療には抗ウイルス剤を使用することもでき、ノイラミニダーゼ阻害剤が特に効果的である。
【0007】
ヒトインフルエンザの症状は2400年近く前に最初に記述された。それ以来、このウイルスは数々のパンデミックを引き起こしてきた。その症状は、ジフテリア、肺ペスト、腸チフス、デング熱、またはチフス等、他の疾患のものと同様であり得るため、インフルエンザに関する歴史的データの解釈は難しい。インフルエンザのパンデミックの記録として信ぴょう性がある最初の記述は、1580年の大流行であり、これはロシアで始まり、アフリカを経由してヨーロッパに広がった。ローマでは8000人を上回る人々が死亡し、いくつかのスペインの都市は、ほぼ全滅した。17世紀、18世紀にわたってパンデミックは弧発的に発生し続け、1830〜1833年のパンデミックが特に広範にわたった。これは曝された人々の約四分の一が感染した。最も有名で致死的な大流行が、いわゆるスペイン風邪のパンデミック(A型インフルエンザ、H1N1亜型)であり1918年から1919年まで続いた。死亡者数は正確には知られていないが、2千万人から1億人の範囲と推定されている。その後のインフルエンザのパンデミックは、それほど壊滅的ではなかった。それらは、1957年のアジア風邪(A型、H2N2株)および1968年の香港風邪(A型、H3N2株)を含むが、このような小規模な流行であっても何百万人もの人々が死亡した。その後のパンデミックにおいては、抗生物質の存在が二次感染を制御できるようになり、1918年のスペイン風邪の場合と比較すると、これが致死率の減少に貢献していると考えられる。
【0008】
2009年4月には、ヒト、ブタ、およびトリインフルエンザの遺伝子が組み合わさった、当初「ブタインフルエンザ」と呼ばれた新型H1N1インフルエンザ株がメキシコ、米国、および他の数カ国において発生した。4月下旬にはH1N1ブタインフルエンザはメキシコで150人を越える死者を出したと疑われ、新たなパンデミックが差し迫っているとの懸念が高まった。古今を通じて最大の医療災害と考えられる1918年のスペイン風邪との構造的類似性から、一般的にはインフルエンザウイルス、特にH1N1亜型の継続的な脅威が強調されている。従って、この病気の予防および治療のための方法および組成物の需要は高いままである。
【発明の概要】
【0009】
従って、本発明に従い、配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドが提供される。ペプチドは、その長さが9、10、11、12、および13残基を含む約9〜15残基、約9〜13残基、または約9〜11残基であってよい。ペプチドは、もう一つのアミノ酸配列に融合していてもよい。また、ペプチドは、薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤、または賦形剤中で製剤化されてもよく、または凍結乾燥され、更に任意にアジュバントと共に製剤化されてもよい。
【0010】
別の態様においては、対象において免疫応答を誘発する方法であって、一つ以上の、配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを対象へ投与する工程を含む方法が提供される。一つ以上のペプチドは、その長さが9、10、11、12、および13残基を含む約9〜15残基、約9〜13残基、または約9〜11残基であってよい。一つ以上のペプチドは、もう一つのアミノ酸配列に融合していてもよい。
【0011】
該方法は、対象に少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、または全51個のペプチドを投与する工程を含んでいてもよい。また、該方法は、対象に少なくとも一つの、クラスI HLAと結合するペプチド、および少なくとも一つの、クラスII HLAと結合するペプチドを投与する工程を含んでいてもよい。該方法は、少なくとも一つの、マトリックスタンパク質由来ペプチド、および少なくとも一つの核タンパク質由来ペプチド、または、少なくとも一つの、マトリックス1タンパク質由来ペプチド、少なくとも一つの、マトリックス2タンパク質由来ペプチド、および少なくとも一つの、核タンパク質由来ペプチドを投与する工程を含んでいてもよい。更に、該方法は、集団において100%のHLAハプロタイプを標的とするのに十分な数のペプチドを対象に投与する工程を含んでいてもよい。
【0012】
投与は、皮下注射または筋肉内注射等の注射を含んでいてもよい。投与は、経鼻エアロゾルまたは経鼻噴霧剤を投与する工程などの吸入を含んでいてもよい。一つ以上のペプチドは、スクアレンアジュバント、サイトカインアジュバント、脂質アジュバント、またはTLRリガンド等のアジュバントと共に投与されてもよい。ペプチドの総投与量は、50μg/kg〜1mg/kgであってもよい。一つ以上のペプチドは、少なくとも二度投与されてもよく、少なくとも一つの、初回に投与された一つ以上のペプチドと異なるペプチドを対象に投与する、二度目の投与を含んでいてもよい。該方法は、更に、対象への弱毒生ワクチンまたは死菌ワクチンの投与を含んでいてもよい。対象はヒト対象または非ヒト動物対象であってもよい。該方法は、更に、投与後に上記対象におけるCD4+、CD8+、および/またはγδT細胞応答を測定する工程を含んでいてもよい。
【0013】
また別の態様においては、一つ以上の、配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを含むワクチン製剤が提供される。一つ以上のペプチドは、長さ9〜15残基のペプチドであってもよい。一つ以上のペプチドは、もう一つのアミノ酸配列に融合していてもよい。該製剤はアジュバントを含んでいてもよい。該製剤は、注射用製剤または吸入用製剤であってもよい。該製剤は、50μg/kg〜1mg/kgの単位用量で提供されてもよい。該製剤は、凍結乾燥されていても、薬学的に許容される緩衝剤、担体、または希釈剤中などの液体であってもく、更にアジュバントを含んでいてもよい。
【0014】
該製剤は、少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、または全51個のペプチドを含んでいてもよい。該製剤は、少なくとも一つの、クラスI HLAと結合するペプチド、および少なくとも一つの、クラスII HLAと結合するペプチドを含んでいてもよい。該製剤は、少なくとも一つの、マトリックスタンパク質由来ペプチド、および少なくとも一つの、核タンパク質由来ペプチド、または、少なくとも一つの、マトリックス1タンパク質由来ペプチド、少なくとも一つの、マトリックス2タンパク質由来ペプチド、および少なくとも一つの、核タンパク質由来ペプチドを投与する工程を含んでいてもよい。また、該製剤は、100%のHLAハプロタイプを標的とするのに十分な数の異なるペプチドを含んでいてもよい。
【0015】
本明細書に記載した任意の方法または組成物は、本明細書に記載した他の任意の方法または組成物に対して組み込むことができるものと想定している。
【0016】
特許請求の範囲および/または明細書での「含む(comprising)」という用語とともに「a」または「an」という単語を使用する場合、「1つ」を意味することもあるが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」の意味にもなる。
【0017】
本発明の他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明確である。しかし、この詳細な説明および具体的な実施例は、本発明の特定の態様を示しつつも、例示するのみのためのものであることが理解される。なぜならば、本発明の精神および範囲の内にある種々の変更および改変が、上記の詳細な説明から、当業者にとっては明らかであるからである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
以下の図は、本明細書の一部を形成し、そして本発明の特定の局面を更に示すことを含む。本発明は、本明細書中に示される特定の態様の詳細な説明との組み合わせにおいて、これらの図の1つ以上を参照することによって、より理解され得る。
【図1】総合的なCFSE結果。n=10〜13/群。
【図2】ONペプチドプールIFN-γELISPOTアッセイ。*、Mann-Whitney U検定でp<0.05(n=10/群)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
例示的な態様の説明
上記のとおり、インフルエンザウイルスは、いかなる年齢の人においても重篤な呼吸器疾患の原因となり、幼い子供や高齢者において重篤な病や死をもたらすことも可能な主なウイルスである。幾つかの特に致死的株は健康な若年成人にとっても致命的であり得る。これら全ての患者群は、インフルエンザウイルス、特に1918年および2009年のインフルエンザの大流行の原因であるH1N1亜型に対する、より効果的な抗ウイルス治療の選択肢により利益を得るであろう。
【0020】
本発明は、現在認可されているワクチンと同様に提供することが可能な新規のワクチン組成物を提供する。特定されたペプチド成分は、防御性T細胞応答を刺激する可能性が高い保存されたエピトープを標的とし、マルチペプチド製剤と共に使用した場合には、集団全体において保存されたエピトープを標的とすることができる。本発明のこれらの局面ならびにその他の局面を以下に詳しく説明する。
【0021】
I.定義
用語「単離された」または「生物学的に純粋な」は、その天然状態で見出されるような、通常それに付随する成分を実質的または本質的に含まない材料をいう。従って、本発明に基づく単離されたペプチドは、好ましくは、通常ペプチドがそれらのインサイチュー環境において会合している材料を含まない。
【0022】
抗原決定基としても知られる「エピトープ」は、免疫系、特に抗体、B細胞、またはT細胞により認識されるマクロ分子の部分である。
【0023】
「主要組織適合抗原複合体」または「MHC」は、生理的免疫応答の原因となる細胞相互作用の制御において役割を果たす遺伝子の集団である。ヒトにおいて、MHC複合体は、HLA複合体としても知られている。MHCおよびHLA複合体の詳細な説明に関しては、Paul, 1993を参照のこと。
【0024】
「ヒト白血球抗原」または「HLA」は、ヒトクラスIまたはクラスII主要組織適合抗原複合体(MHC)タンパク質である(例えば、Stites, 1994を参照のこと)。
【0025】
本明細書で使用する「HLAスーパータイプまたはファミリー」は、共有するペプチド結合特異性に基づいて分類される複数のHLA分子セットを示す。特定のアミノ酸モチーフを有するペプチドに対して同様の結合親和性を共有するHLAクラスI分子は、HLAスーパータイプに分類される。HLAスーパーファミリー、HLAスーパータイプファミリー、HLAファミリー、およびHLAxx様スーパータイプ分子(xxは具体的なHLAタイプを示す)という用語は同義語である。
【0026】
「モチーフ」という用語は、規定の長さのペプチド、通常、クラスI HLAモチーフでは約8から約13アミノ酸およびクラスII HLAモチーフでは約6から約25アミノ酸のペプチド中の残基パターンを指し、これは特定のHLA分子によって認識される。ペプチドモチーフは、典型的には、各ヒトHLA対立遺伝子がコードする各タンパク質で異なり、一次および二次アンカー残基のパターンが異なる。
【0027】
「スーパーモチーフ」は、2つ以上のHLA対立遺伝子によりコードされるHLA分子が共有するペプチド結合特異性である。従って、2つ以上のHLA抗原によって(本明細書で定義される)高親和性または中程度の親和性で認識されることが好ましい。
【0028】
「交差反応性結合」とは、2個以上のHLA分子がペプチドに結合することを示し、同義語は「縮重結合」である。
【0029】
「保護免疫応答」は、感染病原体から誘導される抗原に対するT細胞応答であり、これは疾患症状または感染症を防止または少なくとも部分的に抑止することを意味する。免疫応答には、ヘルパーT細胞の刺激によって促進される抗体応答も含めることができる。
【0030】
II.インフルエンザウイルス
A.概要
インフルエンザの病原学的原因であるオルトミクソウイルス科のウイルスは、1931年にRichard Shopeによりブタで最初に発見された。この発見後直ぐ、1933年に、英国医学研究審議会(Medical Research Council of the United Kingdom)のPatrick Laidlawをリーダーとするグループにより、ヒトからこのウイルスが単離された。しかしながら、Wendel Stanleyが1935年に最初にタバコモザイクウイルスを結晶化するまで、ウイルスの非細胞特性は認識されていなかった。
【0031】
インフルエンザを予防するための重要な第一歩は、1944年のThomas Francis, Jr.によるインフルエンザ用の死滅ウイルスワクチンの開発である。これは、ニワトリの受精卵中でウイルスを培養すると病原性が失われることを示したオーストラリア人のFrank Macfarlane Burnetによる研究から築き上げられた。Francisによるこの発見の応用により、ミシガン大学の彼の研究室の研究者らは、米国陸軍の援助を得て、最初のインフルエンザワクチン開発を達成した。第一次世界大戦中にインフルエンザを経験し、数ヶ月の内に何千もの部隊がウイルスにより殺されたため、陸軍はこの研究に深く関わっていた。
【0032】
1976年にはニュージャージー州で(ブタインフルエンザによる)、1977年には世界中で(ロシアインフルエンザによる)、そして1997年には香港およびその他のアジア諸国において(H5N1トリインフルエンザによる)恐慌が起こったものの、1968年の香港風邪以降、大規模なパンデミックは起きていない。過去のパンデミックインフルエンザ株に対する免疫およびワクチン接種がウイルスの拡散を制限した可能性があり、更なるパンデミックを防ぐのに貢献したと考えられる。
【0033】
インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルスA、インフルエンザウイルスB、インフルエンザウイルスC、イサウイルス、およびソゴトウイルスの5つの属を含むオルトミクソウイルス科のRNAウイルスである。インフルエンザウイルスA属は、A型インフルエンザウイルスの1種を有する。野生の水鳥は多種多様のA型インフルエンザの自然宿主である。時々ウイルスが他の種に移り、それにより家禽における壊滅的な大流行や、ヒトインフルエンザパンデミックが引き起こされる場合がある。インフルエンザの三つの型の内、A型ウイルスは、最も病原性のあるヒト病原体であり、最も重い疾患をもたらす。A型インフルエンザウイルスは、これらのウイルスに対する抗体反応に基づいて異なる血清型に細分化することができる。確認された人へのパンデミックによる死亡者数に基づいて、ヒトにおいて確認されている血清型を順番に示す:
・H1N1は、1918年にスペイン風邪を引き起こし、2009年にメキシコから始まったブタインフルエンザの大流行を引き起こした血清型として確認された
・H2N2は、1957年のアジア風邪を引き起こした
・H3N2は、1968年の香港風邪を引き起こした
・H5N1は、2007年〜2008年のインフルエンザの流行期にパンデミックの脅威となった
・H7N7は、普通ではない動物由来感染症を起こす可能性がある
・H1N2は、ヒトおよびブタに固有である
・H9N2
・H7N2
・H7N3
・H10N7
【0034】
インフルエンザウイルスは、上皮細胞、特に哺乳類の鼻、喉、および肺の中、ならびに鳥類の腸内の上皮細胞表面に存在するシアル酸糖鎖を介して細胞に結合する。細胞は、エンドサイトーシスによってウイルスを取り込む。酸性のエンドソームにおいては、ウイルスの赤血球凝集素タンパク質の一部がウイルス外被と空胞の膜を融合させることにより、ウイルスRNA(vRNA)分子、アクセサリータンパク質、およびRNA依存性RNAポリメラーゼが細胞質内に放出される。これらのタンパク質とvRNAは複合体を形成し、これが細胞核に輸送され、そこでRNA依存性RNAポリメラーゼが相補的なプラスセンスvRNAの転写を開始する。vRNAは細胞質に排出されて転写されるか、または核内に留まる。新たに合成されたウイルスタンパク質は、ゴルジ体を経て細胞表面に分泌されるか、または核の中に送り返され、vRNAを結合し、新たなウイルスゲノム粒子を形成する。その他のウイルスタンパク質は、細胞性mRNAを分解する段階、放出されたヌクレオチドをvRNA合成に使用する段階、並びに、宿主細胞mRNAの翻訳を阻害する段階等、宿主細胞内で複数の作用を有する。
【0035】
未来のウイルスのゲノムを形成するマイナスセンスvRNA、RNA依存性RNAポリメラーゼ、およびその他のウイルスタンパク質はウイルス粒子として組み立てられる。赤血球凝集素およびノイラミニダーゼ分子はクラスターを形成して、細胞膜内で隆起部分となる。vRNAおよびウイルスコアタンパク質は、核を離れてこの膜突出部分に入る。成熟ウイルスは宿主リン脂質膜の球体として細胞から出芽して、この膜外皮によって血液凝集素およびノイラミニダーゼを獲得する。上記と同様に、ウイルスは血液凝集素を介して細胞に接着して、そのノイラミニダーゼが宿主細胞からのシアル酸残基を切断すると、成熟ウイルスは脱離する。新しいインフルエンザウイルスの放出後、宿主細胞は死滅する。
【0036】
RNAプルーフリーディング酵素が存在しないために、RNA依存的RNAポリメラーゼは、インフルエンザvRNAのおよそ全長であるほぼ10000ヌクレオチド毎に1ヌクレオチドの挿入エラーを起こす。よって、新たに作られたインフルエンザウイルスの大部分が変異体であり、「抗原ドリフト」を引き起こす。ゲノムを8個の個別のvRNAセグメントに分離することによって、2つ以上のウイルス株が1つの細胞に感染した場合にvRNAの混合または再集合が可能となる。もたらされたウイルス遺伝子の急激な変化は、抗原シフトを生じて、ウイルスが新しい宿主種に感染することを可能とし、保護免疫の急速な克服を可能とする。
【0037】
B.1918年のスペイン風邪
一般的にスペイン風邪と呼ばれる1918年のインフルエンザパンデミックは、世界のほぼ全地域に拡散したインフルエンザパンデミックであった。これは、異常な病原性および致死的性質を有するA型インフルエンザウイルス株のH1N1亜型により引き起こされた。歴史的データおよび疫学的データは、ウイルスの地理的起源を特定するには不十分であった。大多数の犠牲者は、健康な若年成人であり、主に若年者、高齢者、それ以外には衰弱した患者に影響を及ぼす多くのインフルエンザの大流行と対照的であった。パンデミックは1918年3月から1920年6月まで続き、北極圏や遠く離れた太平洋諸島にまで蔓延した。世界中で二千万から一億の間の人々が死亡したと推定されており、これはヨーロッパの人口の約三分の一に相当し、第一次世界大戦で死亡した人数の倍以上である。この桁外れの犠牲者は、最高50%に達する非常に高い罹病率および極めて重篤な症状の結果であり、サイトカインストーム(サイトカイン急増)によるものと推測される。このパンデミックは最高10億人に影響を及ぼしたと推測されており、これは当時の世界人口の半分である。
【0038】
科学者らは、凍結された犠牲者から得られた組織サンプルを使用することにより、研究に用いるウイルスを繁殖させた。この研究の結論には、ウイルスが体の免疫系の過剰反応であるサイトカインストームを介して死をもたらすという結論があり、これはその異常に重症となる性質や犠牲者の年齢のプロファイルが集中していることを説明するものである。若年成人の強力な免疫系が身体を破壊し、一方で小児や中年成人の比較的に弱い免疫系はより少ない死をもたらす結果となった。
【0039】
1918/1919年のパンデミックによる全世界における死亡率は明らかでないが、感染した2.5〜5%の人が死亡したと推測される。これは人口の2.5〜5%が死亡したことを意味するのではない。世界人口の20%以上がある程度この病を患ったことから、この大きさの致死率は全人口の約0.5〜1%(約5千万人)が死亡したことを意味する。インフルエンザは、最初の25週で二千五百万もの人々を死亡させたと考えられる。古い推定によると4千万〜5千万人が死亡したとされているが、近年の推定によると世界中で5千万〜1億人が死亡したとされている。このパンデミックは、「史上最大の医学的大惨事」と説明されており、黒死病よりも多くの人を死亡させたと考えられる。
【0040】
インドでは1700万人もの人が死亡し、これは当時のインドの人口の約5%に相当する。日本では、2300万人が病に冒され、390,000人が死亡した。米国では、人口の約28%が病に苦しみ、500,000〜675,000人が死亡した。イギリスでは、250,000もの人々が死亡し、フランスでは400,000人を越える人々が死亡した。カナダでは約50,000人が死亡した。アラスカやアフリカの南部では、村全体が消滅した。首都アディスアベバにおける致死率の推定は、5,000〜10,000人であり、一部の専門家の見解では更に高い数字であったと言われ、一方で、英領ソマリランドでは、ある役人が7%の先住民がインフルエンザにより死亡したと推測した。オーストラリアでは、推定で12,000人が死亡し、フィジー諸島ではほんの2週間で人口の14%が死亡し、西サモアでは22%が死亡した。
【0041】
膨大な死亡者数は、最高50%にものぼる極めて高い感染率およびサイトカインストームによると疑われる極めて重篤な症状によってもたらされた。実際に、1918年の症状はあまりにも通常とは違ったため、初期にはインフルエンザがデング熱、コレラ、または腸チフスとして誤診されていた。ある観察者の記述は次のとおりである:「最も著しい合併症の一つは、特に鼻、胃、および腸からの粘膜からの出血である。耳からの出血および皮膚における点状出血も起こった。」大多数の死は、インフルエンザによって引き起こされた二次感染である細菌性肺炎によるものであったが、ウイルスは肺における大量の出血および浮腫を引き起こすことにより直接的にも人々を死亡させた。
【0042】
この異常に重い疾患は、感染者の2〜20%を死亡させ、通常のものに近いインフルエンザの流行による致死率の0.1%と対照的である。このパンデミックのもう一つの異常な特徴は、主に若年成人を死亡させたことであり、99%のパンデミックインフルエンザによる死が65歳以下の人で起こり、半数以上が20〜40歳の若年成人で起こったことである。インフルエンザは、通常、幼い子供たち(2歳以下)および高齢者(70歳を越える者)に対して最も致命的であるため通常のものとは違い、この結果は、それ以前の1889年のロシア・インフルエンザ・パンデミックに曝されていることによりもたらされた部分的保護によるものと考えられる。もう一つの奇妙な性質は、このインフルエンザの大流行が(北半球において)夏と秋に蔓延したということである。典型的にはインフルエンザは冬場に悪化する。
【0043】
無症状の人は、突然と症状に襲われ、数時間の内に歩くことができないほど弱ってしまい、多くは翌日に死亡した。症状は、青ざめた顔および肺の重度の閉塞による喀血を含んだ。幾つかの症例において、ウイルスは肺を満たす制御不能の出血を引き起こし、患者は自分の体液で溺死した(肺炎)。他の例では、インフルエンザは、頻繁な腸制御の喪失を引き起こし、犠牲者は、重要な腸の内層を失うことや失血により死亡する。
【0044】
進行の早い例では、死因は主に、ウイルスに誘発された圧密による肺炎であった。進行の遅い例では、二次感染である細菌性肺炎が特徴であり、数例においては、精神疾患に至る神経関与があったと考えられる。圧倒された地域では、幾つかの死亡例は、栄養不良状態、更には動物からの攻撃によりもたらされた。
【0045】
ある説によると、ウイルス株は、食料のために駐屯地で飼育されていた鳥類および豚のウイルスにおいて二つの遺伝機構―遺伝的浮動および抗原変化―によりカンザス州Fort Rileyから始まり、次に兵隊がFort Rileyから世界各地に送られ、送られた先で疾患を蔓延させた。しかしながら、最近行われたウイルスの再構築からの証拠から、これはブタを経由することなく、トリから直接ヒトへと跳んだことが示唆された。
【0046】
1918年のインフルエンザ株(トリインフルエンザ株H1N1亜型)を再構築する試みは、軍病理学研究所(Armed Forces Institute of Pathology)、サウスウエスト家禽研究所(Southeast Poultry Research Laboratory)、およびニューヨークのマウントサイナイ医科大学(Mount Sinai School of Medicine)の共同研究により行われた。この試みの結果、研究班はウイルスの遺伝子配列を決定することに成功したと(2005年10月5日に)発表した。 アラスカの永久凍土層に埋まっていた女性のインフルエンザ犠牲者から、病理学者であるJohan Hultinが回収した歴史的組織サンプル、およびアメリカ人兵士由来の保存されたサンプルが使用された。
【0047】
Kobasaら(2007)は、再構築した株を感染させたサル(Macaca fascicularis)が1918年のパンデミックの典型的な症状を示し、免疫系の過剰反応であるサイトカインストームにより死亡したことを報告した。これは、1918年のインフルエンザが、より若くて健康な人に対して驚くべき影響があった理由を説明し得、より強力な免疫系を持つ人のほうが潜在的により強力な過剰反応を起こすということである。2008年12月にウィスコンシン大学のYoshihiro Kawaokaによる研究は、三つの特定の遺伝子(名前はPA、PB1、およびPB2)の存在と1918年のインフルエンザサンプルに由来するヌクレオプロテインを、インフルエンザウイルスの肺を攻撃して肺炎を引き起こす能力と関連付けた。この組み合わせは、動物試験で同様の症状を誘発した。
【0048】
C.2009年のブタインフルエンザ
2009年のブタインフルエンザの発生は、新種のインフルエンザウイルス株により2009年4月に始まった伝染病である。この新種は一般的にブタインフルエンザと呼ばれているが、その名前に反対する人々も存在し、メキシコインフルエンザ、ブタ由来インフルエンザ、北アメリカインフルエンザ、および2009年H1N1インフルエンザとも呼ばれている。2009年4月30日に世界保健機関はインフルエンザA(H1N1)という呼称を用いた。大流行は2009年3月に始まったとされている。インフルエンザ様疾患の地域的な発生は、先ずメキシコ国内の三箇所で認められたが、原因となるウイルスは2009年4月24日まで新種として臨床的に特定されていなかった。特定された後、その存在は、メキシコの様々な州およびメキシコシティにおいて直ぐに確認された。数日の内に、孤立した症例(および疑われる症例)がメキシコの他の場所、米国、および幾つかの他の北半球諸国でも確認された。
【0049】
2009年4月28日までには、新種がスペイン、英国、ニュージーランド、およびイスラエルにまで広がったことが確認され、多くの他の諸国でウイルスの存在が疑われ、これは合計3000件以上の候補となる症例にのぼり、これにより世界保健機関(WHO)がパンデミック警戒レベルを「広範囲にわたる人への感染」を意味する「フェーズ5」に変更することが促された。警戒の規模にもかかわらず、WHOは2009年4月29日に、ウイルスに感染した大多数の人々が医学的な治療や抗ウイルス剤を必要とせず完治したと述べた。WHOによると、一般的なヒトH1N1インフルエンザウイルスは、毎年数百万人に影響を及ぼし、世界中で毎年250,000人および500,000人の死者を出す。先進工業国ではこれらの死の大多数は65歳以上に起こる。
【0050】
2009年の3月および4月には、メキシコおよび米国の南西部で、3000件以上のヒトにおけるブタインフルエンザと疑われる症例が確認された。この疾患は、最初の発見から数週間の内に複数の大陸の数カ国で検出された。この株は、メキシコでは異常に致死的であると見られるが、他の国々ではそうではなかった。San Luis Potosi州、Hidalgo州、Queretaro州、およびメキシコ州においても症例が報告された。メキシコにおける死亡者は主に若年成人である25歳〜45歳にみられ、これはパンデミックインフルエンザに共通する特徴である。
【0051】
CDCは、米国の症例が、「異常に雑種化した遺伝子配列の混合物である」4種の異なるインフルエンザウイルス―北米ブタインフルエンザ、北米トリインフルエンザ、ヒトインフルエンザ、および一般的にはアジアおよびヨーロッパに見られるブタインフルエンザ―からの遺伝的要素からなると見られることを確認した。ブタは潜在的な「混合容器」の機能を果たすことが示されており、ここでは複数の種のインフルエンザウイルスの間で再集合が起こる可能性がある。この新種は、二種のブタインフルエンザウイルスの再集合の結果と見られ、またそれらも過去に起きたブタにおける混ぜ合わせからの系統を引いている。インフルエンザウイルスは、そのゲノムが8個のRNAに分散されているため、容易に再集合を起こす(オルトミクソウイルス科を参照のこと)。従って、このウイルスは、アマンタジンおよびリマンタジンには耐性を示すが、オセルタミビル(タミフル(登録商標))およびザナミビル(リレンザ(登録商標))の影響を受けやすい。
【0052】
各ウイルス遺伝子の遺伝子配列は、トリインフルエンザ情報共有の国際推進機構(GISAID)より入手可能である。予備的な遺伝学的特性化から、赤血球凝集素(HA)遺伝子が1999年以来米国のブタに存在するブタインフルエンザウイルスのそれと同様であることが示された一方で、ノイラミニダーゼ(NA)およびマトリックスタンパク質(M)遺伝子はヨーロッパのブタインフルエンザから単離されたものに存在するバージョンに似ていた。アメリカブタインフルエンザの6つの遺伝子は、それそのものもブタインフルエンザ、トリインフルエンザ、およびヒトインフルエンザウイルスの混合物である。この遺伝子構造を有するウイルスは、過去にヒトやブタに流れていると見られなかったが、米国にはブタにおいてどのウイルスが循環しているのかを確認する正式な国家的監視システムが存在しない。季節性インフルエンザ株H1N1ワクチンが保護を与える見込みはないと考えられる。
【0053】
CDCは、何故米国での例が主として軽度の疾患であったのに対し、メキシコでの例が複数の死亡者に至ったのかを、十分に説明していない。しかしながら、過去のパンデミック株に関する研究から、死亡率は異国間で大きく異なり、死亡者が発展途上世界に集中ることが示唆されている。ウイルスまたは同時感染の差もあり得る原因と考えられている。CDCにより検査されたメキシコからの最初の14個のサンプルの内、7個はアメリカの系統と一致した。おそらく、ウイルスは幾つかの感染サイクルを経るが、テキサスとカルフォルニアの患者間に知られた関連性は無く、ウイルスを封じ込めた「可能性は高くない」。
【0054】
D.診断
インフルエンザの症状は、感染の一日か二日後に全く突然に始まる。通常、最初の症状は悪寒または寒気であるが、発熱も感染の初期においては一般的であり、体温は38〜39℃(約100〜103°F)にわたる。多くの人はあまりにも体調が悪く、数日間寝たきりの状態となり、身体のあちこちが痛み、背中や脚の痛みが特にひどくなる。インフルエンザの症状には以下が含まれる。
・体の痛み、特に関節および喉の痛み
・極度の冷感および発熱
・疲労
・頭痛
・チカチカ痛む涙目
・赤くなった目、皮膚(特に顔)、口、喉、および鼻
・腹痛(B型インフルエンザに感染した小児)
【0055】
風邪とインフルエンザを区別することは、これらの感染症の初期段階においては難しい場合があるが、インフルエンザは急な高熱および極度の疲労感により特定することができる。下痢は、通常大人におけるインフルエンザの症状ではないが、H5N1「トリインフルエンザ」の人における幾つかの例では見られており、小児における症状であり得る。
【0056】
抗ウイルス剤は、早期に投与されればインフルエンザの治療に効果的であるため、症例は早期に特定することが重要であり得る。上記の症状の内、熱と咳、喉の痛み、および/または鼻づまりの組み合わせは、診断精度を向上させることができる。二つの決定分析の研究によると、インフルエンザの局地的な流行の最中、罹患率は70%を越えることとなり、従って任意のこれらの症状の組み合わせを示す患者は、試験することなくノイラミダーゼ阻害剤で治療されてもよいことが示唆される。局地的な流行が無い場合でも、インフルエンザの季節には罹患率が15%を越えていれば高齢者に対する治療は正当化され得る。
【0057】
利用可能なインフルエンザ用臨床検査情報は改良され続けている。米国疾病対策予防センター(CDC)は、利用可能な臨床検査情報を最新の状態でまとめたものを保持している。CDCによると、迅速な診断検査は、ウイルス培養と比較すると、70〜75%の感度と90〜95%の特異性を有する。これらの検査はインフルエンザの季節(罹患率=25%)でありながら局地的な流行が無い、あるいはインフルエンザの季節に近い時期(罹患率=10%)には特に有用であり得る。
【0058】
インフルエンザの影響は、風邪の場合よりもずっと深刻であり長く続く。大多数の人は、1〜2週間で回復するが、その他の人は、生命を危うくするような合併症(例えば肺炎)を発症する。一方でインフルエンザは、特に衰弱した人、高齢者、または慢性疾患患者にとっては致命的である。インフルエンザは慢性的な健康問題を悪化させる可能性がある。インフルエンザに罹っている最中、肺気腫、慢性気管支炎、または喘息を患っている人は息切れを経験する可能性があり、またインフルエンザは、冠動脈心疾患またはうっ血性心不全の悪化を引き起こす可能性がある。喫煙も、インフルエンザによる死亡率の増加と更なる重病に関係するもう一つの危険因子である。
【0059】
インフルエンザの一般的な症状である発熱、頭痛、および疲労感は、インフルエンザに感染した細胞から生産される大量の炎症性サイトカインおよびケモカイン(例えば、インターフェロンまたは腫瘍壊死因子)によるものである。風邪を引き起こすライノウイルスと対照的に、インフルエンザは組織傷害を引き起こさないため、症状は全て炎症反応によるものではない。この大量の免疫応答は、生命を脅かすサイトカインストームを発生させる可能性がある。この影響が、H5N1トリインフルエンザならびに1918年のパンデミック系統の異常な致死性の原因であると提唱されている(上記を参照のこと)。
【0060】
ある場合において、インフルエンザ感染症に対する自己免疫応答は、ギラン・バレー症候群の発生に寄与し得る。しかしながら、多くの他の感染症がこの病気の危険性を高める可能性があるため、インフルエンザは流行の最中に重要な原因となるだけであり得る。この症候群は、インフルエンザワクチンの稀な副作用である可能性もあり、発生率がワクチン接種百万回に約1回である。
【0061】
インフルエンザに罹っている人は、十分な休息をとり、十分に水分を摂取し、アルコールおよびタバコの使用を避け、必要に応じてパラセタモール(アセトアミノフェン)等の薬物を摂取することによりインフルエンザに伴う発熱および筋肉痛を緩和することが勧められる。インフルエンザの症状(特に発熱)のある幼児や10代の者は、インフルエンザ感染症(特にB型インフルエンザ)の最中はアスピリンの摂取を避けるべきである。これは、稀であるものの潜在的に致命的な肝臓疾患であるライ症候群に至る可能性があるからである。インフルエンザはウイルスによって引き起こされるため、抗生物質は感染症に対して効果を示さない。細菌性肺炎などの二次感染のために処方される以外は、これは耐性菌の発生につながる。抗ウイルス薬剤は効果的であり得るが、インフルエンザの幾つかの系統は一般的な抗ウイルス剤には耐性を示す可能性がある(下記を参照のこと)。
【0062】
III.インフルエンザペプチド
A.インフルエンザウイルスの構造タンパク質
上述のとおり、三つの主要なインフルエンザウイルス属は、インフルエンザウイルスA、BおよびCである。インフルエンザウイルスAは、A型インフルエンザウイルスの1種を有する。野生の水鳥は多種多様のA型インフルエンザの自然宿主である。時々ウイルスが他の種に移り、それにより家禽における壊滅的な大流行や、ヒトインフルエンザパンデミックが引き起こされる場合がある。インフルエンザの三つの型の内、A型ウイルスは、最も病原性のあるヒト病原体であり、最も重い疾患をもたらす。A型インフルエンザウイルスは、これらのウイルスに対する抗体反応に基づき異なる血清型に細分化することができる。
【0063】
インフルエンザウイルスBは、B型インフルエンザウイルスの1種を有する。B型インフルエンザは、ほぼ例外なくヒトに感染し、A型インフルエンザほど一般的ではない。B型インフルエンザ感染症を起こしやすいとして知られる他の動物はアシカとフェレットのみである。この種類のインフルエンザは、A型よりも2〜3倍低い速度で変異を起こすため、結果的に遺伝子的に多様性が低く、B型インフルエンザの血清型は一つのみである。抗原の多様性が欠如している結果、B型インフルエンザに対するある程度の免疫は、通常、若年時に取得される。しかしながら、B型インフルエンザは持続免疫が不可能な程度に変異する。この抗原が変化する速度の減少と、その限定された宿主の範囲(異種間の抗原シフトの抑制)との組み合わせは、B型インフルエンザのパンデミックが起こらないことを保証する。
【0064】
インフルエンザウイルスCは、ヒト、イヌ、ブタに感染するC型インフルエンザウイルスの1種を有し、時によって重症疾患と局地的な流行の両方を引き起こす。しかしながら、C型インフルエンザは、他の種類のものよりも稀であり、通常、子供において軽い病気を引き起こすのみである。
【0065】
インフルエンザウイルスA、B、およびCは、全体の構造が酷似している。ウイルス粒子の直径は80〜120ナノメートルで、通常おおよそ球状であるが、糸状の形態も起こり得る。これら糸状の形態は、C型インフルエンザにおいてより一般的であり、長さが最大500マイクロメートルのコードの様な構造を感染した細胞の表面に形成することが可能である。しかしながら、この様な多様な形であっても、全てのインフルエンザウイルスのウイルス粒子は構成が似ている。これらは、中心コアに巻きつけられた二つの主要な種類の糖タンパク質を含むウイルス外被から作られている。この中心コアはウイルスRNAゲノムおよびこのRNAをパッケージして保護する他のウイルス性タンパク質を含む。
【0066】
ウイルスとしては珍しく、そのゲノムは単体の核酸ではなく、7〜8個の分節されたマイナスセンスRNAを含み、それぞれのRNA断片は一つまたは二つの遺伝子を含む。例えば、インフルエンザAゲノムは、8個のRNA断片に11個の遺伝子を含み、それらは11個のタンパク質をコードする:赤血球凝集素(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)、核タンパク質(NP)、M1、M2、NS1、NS2(NEP)、PA、PB1、PB1-F2、およびPB2。
【0067】
赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)が、ウイルス粒子の外側に位置する二つの大きな糖タンパク質である。HAは、ウイルスの標的細胞への結合および標的細胞内へのウイルス遺伝子の移行を媒介するレクチンである。一方NAは、成熟したウイルス粒子と結合する糖を切断することによる、感染細胞からの後代ウイルスの放出に関与している。従って、これらのタンパク質は抗ウイルス剤の標的である。更にこれらは、これらに対する抗体を生産することが可能な抗原である。A型インフルエンザウイルスは、HAおよびNAに対する抗体の応答に基づき亜型に分類される。これらの異なる種類のHAおよびNAは、例えばH5N1におけるHやNの区別の基準となる。16種類のH亜型および9種類のN亜型が知られているが、H1、H2、およびH3、ならびにN1およびN2が通常ヒトにおいて発見されている。
【0068】
B.ペプチド組成物
本明細書における使用では、「抗原組成物」はインフルエンザウイルスペプチド抗原を含む。ここで特に興味深いものは、M1、M2、およびNP分子からのペプチドおよびその中の保存されたエピトープである。特定の態様において、抗原組成物は、下記の配列番号に示す配列を一つ以上含む一つ以上のペプチドをコードする或いは含む:配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、配列番号:4、配列番号:5、配列番号:6、配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9、配列番号:10、配列番号:11、配列番号:12、配列番号:13、配列番号:14、配列番号:15、配列番号:16、配列番号:17、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22、配列番号:23、配列番号:24、配列番号:25、配列番号:26、配列番号:27、配列番号:28、配列番号:29、配列番号:30、配列番号:31、配列番号:32、配列番号:33、配列番号:34、配列番号:35、配列番号:36、配列番号:37、配列番号:38、配列番号:39、配列番号:40、配列番号:41、配列番号:42、配列番号:43、配列番号:44、配列番号:45、配列番号:46、配列番号:47、配列番号:48、配列番号:50、および配列番号:51、あるいはそれと免疫学的機能が同等のもの。これらの配列を下記の表1〜2に表形式で示す。
【0069】
(表1)M1、M2、およびNP由来の保存されたHLAクラスI結合エピトープ*

*‐このプール中のペプチドの総数は35である(13種のペプチドは複数のHLA亜型に結合すると予測される)。
【0070】
(表2)M1、M2、およびNPタンパク質由来の保存されたHLAクラスII結合エピトープ*

*‐このプール中のペプチドの総数は16である(3種のペプチドは複数のHLA亜型に結合すると予測される)。
【0071】
本明細書において用いられる場合、「アミノ酸」または「アミノ酸残基」は、任意の天然アミノ酸、改変されたアミノ酸もしくは珍しいアミノ酸を含む、当技術分野で知られている任意のアミノ酸誘導体または任意のアミノ酸模倣物を意味する。特定の態様において、ペプチドの天然の残基は連続的であり、天然アミノ酸残基の配列が任意の非アミノ酸により途切れることが無い。他の態様において、この配列は、一つ以上の非天然アミノ酸部分を含んでいてもよい。
【0072】
本発明のペプチドは、従来の手法に従って、溶液中または固体担体上で合成することが可能である。様々な自動合成機が市販されており、公知の手順に従って利用可能である。例えば、StewartおよびYoung(1984)、Tamら(1983)、Merrifield(1986)、ならびにBaranyおよびMerrifield(1979)、Houghtenら(1985)を参照のこと。ある態様において、例えばApplied Biosystems(カルフォルニア州、Foster City)より入手可能な自動ペプチド合成機を利用したペプチド合成が熟慮されている。本発明のペプチドは、単離され、望まれない低分子量の分子を除去するために充分に透析され、および/または望ましい媒体に更に手早く製剤化できるよう凍結乾燥されてもよい。
【0073】
本明細書において、一連の残基を示すために、「ペプチド」という用語は、「オリゴペプチド」と互換的に用いられており、典型的には、隣接したアミノ酸のα‐アミノ基とカルボキシル基が典型的にはペプチド結合で次々と結合されたL‐アミノ酸を示す。本発明の、特定のT細胞を誘発するオリゴペプチドは、長さが15残基以下であり、通常約8から約13残基からなり、具体的には9〜11残基からなる。具体的な長さとしては、9、10、11、12、13、14および15残基が考慮される。
【0074】
「免疫原性ペプチド」または「ペプチドエピトープ」は、ペプチドがHLA分子と結合し、T細胞応答を誘発するような、対立遺伝子特異的なモチーフまたはスーパーモチーフを含むペプチドである。従って、本発明の免疫原性ペプチドは、適切なHLA分子に結合する能力があり、その後、免疫原性ペプチドが由来する抗原に対してT細胞応答を誘発できる。
【0075】
改変されたアミノ酸または珍しいアミノ酸としては以下の表3に示すものが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
(表3)改変されたアミノ酸および珍しいアミノ酸

【0077】
本明細書において使用される場合「生体適合性」とは、本明細書に記載の方法および量に従って特定の生物に適用または投与した場合に、有意な望ましくない作用を発生しない物質を意味する。このような望ましくない作用または望ましくない作用は、有意な毒性または有害な免疫学的反応などである。特定の態様において、生体適合性タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを含有する組成物は、一般的に哺乳類のタンパク質もしくはペプチド、または合成タンパク質もしくはペプチドであって、それぞれ本質的に毒素、病原菌、および有害な免疫原を含まない。
【0078】
C.変異体
本発明は更に、表1および2に記載のペプチドの修飾を考慮する。このようなペプチド「変異体」は、生物活性の維持を含む上記の基準を満たす配列である限り、追加のN-もしくはC-末端アミノ酸、または改変/置換/修飾されたアミノ酸などの追加の残基を含みつつ、本明細書に開示されている配列の一つを含んでいてもよい。
【0079】
下記は、変異ペプチドを作成するためにペプチドのアミノ酸を変化させることに基づく考察である。そのような変化を作出する場合、アミノ酸のハイドロパシー指数を考慮してもよい。タンパク質に相互作用する生物学的作用を付与する際、アミノ酸のハイドロパシー指標の重要性は、一般的に当技術分野において理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的なハイドロパシー特性が、得られたタンパク質の二次構造に寄与し、これがタンパク質と、例えば酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原などの他の分子との間の相互作用を規定することは容認されている。
【0080】
同様のアミノ酸の置換は、親水性に基づいて効果的に行うことができることも当技術分野において理解される。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号は、その隣接するアミノ酸の親水性によって支配されるタンパク質の最大局所平均親水性が、タンパク質の生物学的特性と相関すると述べている。米国特許第4,554,101号において詳述されるように、以下の親水性値がアミノ酸残基に割付されている:塩基性アミノ酸としてはアルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、ヒスチジン(-0.5);酸性アミノ酸としてはアスパルテート(+3.0±1)、グルタメート(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2);親水性非イオン性アミノ酸としてはセリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびトレオニン(-0.4);硫黄含有アミノ酸としてはシステイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3);疎水性非芳香族性アミノ酸としてはバリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)およびグリシン(0);疎水性芳香族性アミノ酸としてはトリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)およびチロシン(-2.3)。
【0081】
1つのアミノ酸を、同様の親水性を有する別のアミノ酸に置換することができ、それでもなお生物学的もしくは免疫学的に改変されたタンパク質を作り出すことができると理解されている。そのような変化において、その疎水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内であるアミノ酸の置換が特に好ましく、および±0.5以内であるアミノ酸置換がさらに特に好ましい。
【0082】
先に概要を示したように、アミノ酸の置換は一般的に、アミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、たとえばその疎水性、親水性、電荷、大きさ等に基づく。前述の様々な特徴を考慮に入れた例示的置換は当業者に周知であり、これには:アルギニンおよびリジン;グルタメートおよびアスパルテート;セリンおよびトレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシンが含まれる。
【0083】
融合タンパク質は、特殊化された種類の挿入変異体である。この分子は一般的に、当初の分子の全てまたは実質的な部分を有し、NまたはC末端で第二のペプチドまたはポリペプチドの全てまたは一部に連結している。具体的には、ポリエピトープ分子、即ちエピトープの多量体を作製するために、複数の本発明のペプチド(配列番号:1〜51)を「ヘッドトゥーテール(head-to-tail)」の形態で結合する態様である。ペプチドはペプチド結合を介して、それぞれ直接連結していても、またペプチド「スペーサー」により隔てられていても、また非ペプチドもしくはペプトイド「リンカー」により付着していてもよく、これらは当技術分野において周知である。更に、融合接合部もしくはリンカーの位置またはその近傍に切断部位を含めると、その他のペプチド配列の除去もしくは放出が容易となる。他の有用な融合には、ヒドロラーゼなどの酵素からの活性部位、グリコシル化ドメイン、細胞ターゲティングシグナルまたは膜貫通領域などの機能的ドメインの連結が含まれる。
【0084】
D.ペプチドの精製
特定の態様において、本発明のペプチドは精製されてもよい。本明細書において用いられる「精製ペプチド」という用語は、他の成分から単離可能な組成物を指すと意図され、タンパク質またはペプチドはその自然に得ることができる状態に対して任意の程度まで精製される。従って、精製タンパク質またはペプチドは、それが天然に存在する可能性がある環境を含まないタンパク質またはペプチドを指す。
【0085】
一般的に、「精製された」とは、様々な他の成分を除去するために分画に供されていて、その発現された生物活性を実質的に保持するペプチド組成物を指す。「実質的に精製された」という用語を用いる場合、この名称は、タンパク質またはペプチドが、組成物におけるタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成するなどの、組成物の主成分を形成する組成物を指す。
【0086】
タンパク質/ペプチド精製技術は、当業者に周知である。これらの技術は、1つのレベルで、細胞環境をポリペプチドおよび非ポリペプチド分画に粗分画することを伴う。ポリペプチドを他のタンパク質から分離した後、部分的または完全な精製(または均一になるまでの精製)を達成するために、関心対象ポリペプチドを、クロマトグラフィーおよび電気泳動技術を用いてさらに精製してもよい。純粋なペプチドの調製に特に適した分析法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。その他のタンパク質精製方法としては、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体等による沈殿、または熱変性の後に遠心分離を行う方法;ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティクロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー;並びにこれらおよび他の技術の組み合わせが含まれる。
【0087】
本発明の腫瘍関連HLA制限ペプチドの精製では、原核生物または真核生物の発現系でポリペプチドを発現させ、変性条件を使用してタンパク質を抽出することが望ましいと考えられる。ポリペプチドを、ポリペプチドのタグ化部分に結合するアフィニティカラムを使用して他の細胞成分から精製することができる。この調製物は不活性形態で精製されるが、変性物質を依然として細胞に形質導入することができる。一旦標的細胞または組織内に入ると、一般に、ポリペプチドは全生物活性を回復することが認められている。
【0088】
当技術分野において一般に公知であるように、種々の精製工程の実施順序を変更するか、特定の工程を省略して、依然として実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製に適切な方法を得ることができると信じられている。
【0089】
本開示に照らして、タンパク質またはペプチドの精製度の種々の定量方法が当業者に公知である。これらには、例えば、活性画分の比活性の決定、またはSDS/PAGE分析による画分内のポリペプチド量の評価が含まれる。画分の純度の別の評価方法は、画分の比活性を計算し、これを最初の抽出物の比活性と比較し、それにより本明細書において「-倍精製数」によって評価される純度を計算することである。活性量を示すために使用される実際の単位は、勿論、精製を追跡するために選択された特定のアッセイ技術および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すかどうかに依存する。
【0090】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGE条件が異なれば時折有意に変化し得ることが公知である(Capaldi et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件下では、精製または部分精製された発現産物の見かけ上の分子量が変化し得ることが認識される。
【0091】
IV.ワクチンプロトコールおよび製剤
本発明の態様において、ペプチドまたはペプチド組成物の送達によるインフルエンザの治療および予防の方法が考慮される。ワクチン組成物の有効量は、一般的に、疾患、またはその状態あるいは症状の度合いを検出可能に、そして繰返し回復、減少、最小化、または制限するのに充分な量と定義される。疾患の除去、根絶、または治癒を含む、より厳密な定義が適用されてもよい。
【0092】
A.投与
本発明のペプチドは、インフルエンザウイルスに対する免疫応答を発生させ、従って治療用ワクチンおよび予防ワクチンを構成させるために生体内で使用してもよい。従って、ペプチドは、例えば、皮内、静脈内、筋肉内、皮下、または腹腔内経路を介した注射のための製剤化など、非経口投与のために製剤化されてもよい。皮内および筋肉内経路による投与が特に考慮される。ワクチンは、例えば、点鼻薬もしくはミスト、吸入、または噴霧器により局所的な経路により直接粘膜に投与することもできる。
【0093】
治療を受ける対象の年齢および医学的状態、ならびに選択された経路に応じて投与量および投与計画がいくらか変動するのは必然的に起こる。投与を行うべき者は、いずれの場合も、各対象に適した用量を決定する。多くの場合において、ワクチンの複数回投与が望ましいであろう。従って、本発明の組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれ以上の回数投与されてもよい。投与は、通常は1〜12週間間隔で、普通は1〜6週間間隔で行われる。定期的な再投与は望ましく、病原体に繰返し曝すこととなる。
【0094】
投与には様々な「単位用量」を使用してもよい。単位用量は、予め定められた量の治療的な組成物を含む用量、と定義される。投与される量、特定の経路および製剤は、臨床技術者の技能の範囲内である。
【0095】
B.免疫応答の測定
当業者は、ペプチドに対する免疫応答が発生したかどうかを判断する、様々なアッセイを知っているはずである。「免疫応答」という言葉は、細胞性免疫応答および体液性免疫応答の両方を含む。様々なBリンパ球およびTリンパ球アッセイが周知であり、その例としては、ELISA、クロム遊離アッセイなどの細胞障害性Tリンパ球(CTL)アッセイ、末梢血リンパ球(PBL)を用いた増殖アッセイ、四量体アッセイ、サイトカイン産生アッセイが挙げられる。参照により本明細書に組み入れられるBenjiamini et al. (1991)を参照のこと。
【0096】
C.注射可能な製剤
本発明の製剤の1つの送達方法は注射によるものである。しかしながら、あるいは、米国特許第5,543,158号;同第5,641,515号、および同第5,399,363号(それぞれ特に参照によりその全体が本明細書に組み入れられる)に記載のように、本明細書中において開示の薬学的組成物を、静脈内、皮内、筋肉内、またはさらに腹腔内に投与することができる。
【0097】
薬剤が注射に必要な針の特定のゲージを通過することができる限り、シリンジまたは溶液の注射のために使用される任意の他の方法によって注射を行うことができる。溶液保持のためのアンプルチャンバーを画定するノズルおよび溶液をノズルから送達部位に押し出すためのエネルギーデバイスを有する新規の無針注射システムが記載されている(米国特許第5,846,233号)。
【0098】
遊離塩基または薬学的に許容される塩としての活性化合物の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水中に調製することができる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物ならびにオイル中に分散液を調製することもできる。通常の保存および使用条件下で、これらの調製物は、微生物の成長を防ぐための防腐剤を含む。注射用に適切な薬学的形態には、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌粉末が含まれる(米国特許第5,466,468号;特にその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。全ての場合において、形態は、無菌であるべきであり、シリンジでの使用が容易な範囲までの流動物でなければならない。製造および保存条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物、および/または植物油を含む溶媒または分散媒であり得る。例えば、レシチンなどのコーティングの使用、分散液の場合には必要な粒子サイズの維持、および界面活性剤の使用によって適切な流動性を維持することができる。
【0099】
種々の抗菌薬および抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、およびチロメサールなど、によって微生物作用を予防することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウム、を含めることが好ましい。吸収遅延剤組成物(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン)の使用によって注射用組成物を長期間吸収することができる。使用することができる滅菌水溶液媒体は、本開示に照らして当業者に公知である。例えば、1投薬量を1mlの等張NaCl溶液に溶解し、1000mlの皮下注入液に添加するか提案された注入部位に注射することができる(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」15版, ページ 1035-1038および1570-1580を参照されたい)。治療を受ける対象の病状に応じて、いくつかの投与量の変動が必然的に起こる。投与を行う者は、任意の事象で、それぞれの対象に適切な用量を決定する。さらに、ヒトへの投与のために、調製物は、FDA Office of Biologics standardsによって要求されている無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度の基準を満たすべきである。
【0100】
必要に応じて、上に列挙した種々の他の成分と共に適切な溶媒中に必要量の活性化合物を組み込み、その後濾過滅菌を行うことによって滅菌注射液を調製する。一般に、基剤となる分散媒および上に列挙した成分由来の必要な他の成分を含む滅菌賦形剤への種々の滅菌有効成分の組み込みによって分散液を調製する。滅菌注射液調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は、有効成分の粉末、その上に予め濾過滅菌したその溶液由来の任意の更なる所望の成分が得られる真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0101】
本明細書において開示の組成物を、中性または塩形態で処方することができる。薬学的に許容される塩には、酸添加塩(タンパク質の遊離アミノ基で形成)および塩酸やリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸で形成された酸添加塩が含まれる。遊離のカルボキシル基で形成された塩はまた、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリエチルアミン、ヒスチジン、およびプロカインなどの有機塩基に由来してもよい。処方の際、溶液を、投薬処方物に適合する様式および治療有効量などで投与する。処方物を、注射液および薬物放出カプセルなどの種々の投薬形態で容易に投与する。
【0102】
本明細書中で使用される、「キャリア」には、任意かつ全ての溶媒、分散媒、媒体、希釈剤、抗菌薬および抗真菌薬、等張剤および吸収遅延剤、緩衝液、キャリア溶液、懸濁液、ならびにコロイドが含まれる。薬学的活性物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野において周知である。また、補助的有効成分を、組成物に組み込むこともできる。
【0103】
「薬学的に許容される」または「薬理学的に許容される」という表現は、ヒトに投与した場合にアレルギー反応または類似の望ましくない反応を起こさない分子構成要素および組成物をいう。有効成分としてタンパク質を含む注射可能な水性組成物の調製は、当技術分野において十分に理解されている。
【0104】
D.吸入可能な製剤またはエアロゾル製剤
本発明のペプチド用に発明者により熟慮された特定の投与様式は、吸入および/または鼻粘膜への投与を介するもの、即ち経鼻投与である。種々の市販のワクチン(インフルエンザおよび麻疹)は、現在、鼻ミスト製剤を利用して投与される。本発明の方法は、BD AccuSpray(登録商標)システム(Becton Dickinson)を採用するFlu-Mist(登録商標)製品で使用されているものと同様の送達を利用して実施することができる。噴霧器もこの経路に有用であり、ジェット噴霧器および超音波噴霧器などが挙げられる。
【0105】
E.追加のワクチン成分
本発明の他の態様において、抗原性組成物は、さらなる免疫刺激剤を含み得る。免疫刺激剤には、さらなる抗原、免疫調節薬、抗原提示細胞、またはアジュバントが含まれるが、これらに限定されない。他の態様において、一つまたは複数のさらなる薬剤を、任意の組み合わせで抗原または免疫刺激剤に共有結合させる。
【0106】
i.アジュバント
当技術分野において周知であるように、特定の免疫原組成物の免疫原性を、アジュバントとして知られる免疫応答の非特異的刺激薬の使用によって増強することができる。未知の抗原に対する免疫の全身的増加を促進するためにアジュバントが試験的に使用されている(例えば、米国特許第4,877,611号)。免疫化プロトコールは、応答を刺激するために長年アジュバントを使用しており、そのようなものとしてアジュバントは当業者に周知である。いくつかのアジュバントは、抗原が提示される方法に影響を及ぼす。例えば、タンパク質抗原をミョウバンによって沈殿させた場合に、免疫応答が増加する。更に、抗原の乳化により、抗原提示の持続時間が延長される。適切な分子アジュバントには、サイトカイン、毒素、または合成組成物などの全ての許容される免疫刺激性化合物が含まれる。
【0107】
例えば、しばしば好ましいアジュバントには、フロイント完全アジュバント(死滅した結核菌を含む免疫応答の非特異的刺激薬)、フロイント不完全アジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。使用することもできる他のアジュバントには、IL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、BCG、水酸化アルミニウム、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP(MTP-PE)、脂質A、モノホスホリル脂質A(MPL)が含まれる。2%スクアレン/Tween 80乳濁液中に細菌から抽出した3つの成分であるMPL、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)を含むRIBIも意図する。MHC抗原も使用することができる。
【0108】
1つの局面において、アジュバント効果は、リン酸緩衝食塩水中に約0.05%〜約0.1%で使用したミョウバンなどの薬剤の使用によって達成される。または、抗原を、約0.25%溶液として使用した糖類の合成ポリマー(Carbopol(登録商標))との混合物として作製する。約70℃〜約101℃の範囲の温度で30秒間〜2分間それぞれの熱処理によるワクチン中の抗原の凝集によってアジュバント効果を得ることもできる。アルブミンに対するペプシン処理(Fab)抗体、C.パルバムなどの細菌細胞との混合物、グラム陰性細菌の内毒素もしくはリポ多糖成分、モノオレイン酸マンニド(mannide)(Aracel A)などの生理学的に許容されるオイル賦形剤中の乳濁液、または遮断代替物(block substitute)として使用されるペルフルオロカーボン(Fluosol-DA(登録商標))の20%溶液を含む乳濁液での再活性化による凝集も使用することができる。
【0109】
いくつかのアジュバント(例えば、細菌から得た一定の有機分子)は、抗原よりもむしろ宿主に対して作用する。例は、ムラミルジペプチド(N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン(MDP))(細菌ペプチドグリカン)である。ほとんどのアジュバントと同様に、MDPの効果も完全に理解されていない。MDPはマクロファージを刺激するが、B細胞を直接刺激するようでもある。したがって、アジュバントの効果は抗原特異的ではない。しかしながら、アジュバントを精製抗原と共に投与した場合、アジュバントを使用して抗原に対する応答を選択的に促進することができる。
【0110】
特定の態様において、ヘモシアニンおよびヘモエリトリンを本発明で使用することもできる。キーホールリンペット由来のヘモシアニン(KLH)の使用が一定の態様で好ましいが、他の軟体動物および節足動物のヘモシアニンおよびヘモエリトリンを使用することができる。
【0111】
種々の多糖アジュバントも使用することができる。例えば、マウスの抗体応答における種々の肺炎球菌多糖アジュバントの使用が記載されている(Yin et al., 1989)。表示の至適応答が得られるか、抑制されない用量を使用すべきである(Yin et al., 1989)。脱アセチル化キチンを含む、キチンおよびキトサンなどの多糖のポリアミン変種が特に好ましい。
【0112】
別のアジュバント群は、細菌ペプチドグリカンのムラミルジペプチド(MDP、N-アセチルムラミル-L-アラニル-D-イソグルタミン)群である。アミノ酸誘導体であるトレオニル-MDPなどムラミルジペプチドの誘導体および脂肪酸誘導体であるMTPPEも意図される。
【0113】
米国特許第4,950,645号は、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルグリセロールから形成された人工リポソームにおける使用について記載したムラミルジペプチドの親油性二糖類-トリペプチド誘導体を記載している。これはヒト単球の活性化および腫瘍細胞の破壊で有効であるが、一般に高用量で非毒性である。細胞キャリアおよび本発明の他の態様と共に使用するための米国特許第4,950,645号およびPCT特許出願 WO 91/16347の化合物が意図される。
【0114】
BCG(マイコバクテリウムの弱毒化株であるカルメット-ゲラン菌)およびBCG-細胞壁骨格(CWS)も、トレハロースジミコレートを使用するかまたは使用せず、アジュバントとして使用することもできる。トレハロースジミコレート自体を使用することができる。トレハロースジミコレート投与は、マウスにおいてインフルエンザウイルス感染に対する耐性の増加に相関することが示されている(Azuma et al., 1988)。トレハロースジミコレートを、米国特許第4,579,945号に記載のように調製することができる。BCGは、その免疫刺激特性のために重要な臨床ツールである。BCGは、細網内皮系を刺激し、ナチュラルキラー細胞を活性化し、造血幹細胞の増殖を増加させるように作用する。BCGの細胞壁抽出物は、優れた免疫アジュバント活性を有することが証明されている。マイコバクテリウムのための分子遺伝学的ツールおよび方法により、BCGへの外来遺伝子の移入手段が提供されている(Jacobs et al., 1987;Snapper et al., 1988;Husson et al., 1990;Martin et al., 1990)。生BCGは、結核を予防するための世界的に使用されている有効かつ安全なワクチンである。BCGおよび他のマイコバクテリウムは非常に有効なアジュバントであり、マイコバクテリウムに対する免疫応答が広く研究されている。ほぼ20億回の免疫化により、BCGは、ヒトにおける安全な使用歴が長い(Luelmo, 1982; Lotte et al., 1984)。これは出生時に投与することができる数少ないワクチンの1つであり、たった1回の投与で寿命の長い免疫応答が得られ、BCGワクチン接種の経験が蓄積した世界規模で普及したネットワークが存在する。例示的なBCGワクチンは、TICE BCG (Organon Inc., West Orange, NJ)として販売されている。
【0115】
両親媒性界面活性剤、例えばサポニン、およびQS21 (Cambridge Biotech)などの誘導体は、本発明の免疫原と共に使用するためのさらに別のアジュバント群を形成する。非イオン性遮断コポリマー界面活性剤(Rabinovich et al., 1994)も使用することができる。オリゴヌクレオチドは、別の有用なアジュバント群である(Yamamoto et al., 1988)。Quil Aおよびレンチネン(lentinen)は、本発明の特定の態様で使用することができる他のアジュバントである。
【0116】
別のアジュバント群は、米国特許第4,866,034号の精製解毒内毒素などの解毒内毒素である。これらの精製解毒内毒素は、哺乳動物におけるアジュバント応答の発生に有効である。勿論、多アジュバント組み込み細胞を調製するために、解毒内毒素を他のアジュバントと組み合わせることができる。例えば、米国特許第4,435,386号に記載のように、解毒内毒素とトレハロースジミコレートとの組み合わせが特に意図される。米国特許第4,436,727号、同第4,436,728号、および同第4,505,900号に記載のように、解毒内毒素と細胞壁骨格(CWS)すなわちCWSおよびトレハロースジミコレートとの組み合わせなどの、解毒内毒素とトレハロースジミコレートおよび内毒素糖脂質との組み合わせも意図される(米国特許第4,505,899号)。米国特許第4,520,019号に記載のように、解毒内毒素を使用しないCWSとトレハロースジミコレートのみの組み合わせも有用であると予測される。
【0117】
当業者は、本発明の細胞ワクチンに抱合することができる異なる種のアジュバントを理解しており、これらのアジュバントには、特に、アルキルリゾリン脂質(ALP);BCG;およびビオチン(ビオチン化誘導体が含まれる)が含まれる。使用が特に意図される特定のアジュバントは、グラム細胞由来のテイコ酸である。これらには、リポテイコ酸(LTA)、リビトールテイコ酸(RTA)、およびグリセロールテイコ酸(GTA)が含まれる。その合成対応物の活性形態を、本発明に関連して使用することもできる(Takada et al., 1995)。
【0118】
例えば、抗体を産生するかその後活性化T細胞を得ることを所望する場合、ヒトで一般に使用されてないとしても、種々のアジュバントを、依然として動物に使用することができる。アジュバントまたは細胞のいずれかに起因し得る毒性または他の副作用は、例えば、非照射腫瘍細胞を使用して起こり得るため、このような環境下では無関係である。
【0119】
アジュバントを、核酸(例えば、DNAまたはRNA)によってコードすることができる。このようなアジュバントを、抗原をコードする核酸(例えば、発現ベクター)、個別のベクター、または他の構築物中でコードすることもできることが意図される。アジュバントをコードする核酸を、例えば、脂質またはリポソームなどを使用して直接送達させることができる。
【0120】
ii.生物学的応答調節物質
アジュバントに加えて、T細胞免疫を上方制御するかサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている生物学的応答調節物質(BRM)を同時投与することが望ましいかもしれない。このようなBRMには、シメチジン(CIM;1200mg/d)(Smith/Kline, PA);低用量シクロホスファミド(CYP; 300mg/m2)(Johnson/Mead, NJ)、γ-インターフェロン、IL-2、またはIL-12などのサイトカイン、または免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子(B-7など)が含まれるが、これらに限定されない。
【0121】
iii.ケモカイン
ケモカイン、ケモカインをコードする核酸、および/またはケモカインを発現する細胞もワクチン成分として使用することができる。ケモカインは、一般に、免疫エフェクター細胞をケモカイン発現部位に補充するための化学誘引物質として作用する。他の免疫系成分の治療部位への補充を増強するための、例えば、サイトカインをコードする配列と組み合わせた特定のケモカインコード配列を発現することが有利であり得る。このようなケモカインには、例えば、RANTES、MCAF、MIP1-α、MIP1-β、IP-10、およびこれらの組み合わせが含まれる。当業者は、特定のサイトカイン(例えば、IFN)も化学誘引物質効果を有することが公知であり、用語「ケモカイン」に分類することもできることを認識する。
【0122】
iv.免疫原性キャリアタンパク質
抗体の生産またはワクチン投与のためのペプチドの使用には、B型肝炎表面抗原、キーホールリンペットヘモシアニン、またはウシ血清アルブミンなどの免疫原性キャリアタンパク質にペプチドが抱合することが必要とされ得る。免疫原性キャリアタンパク質へのポリペプチドまたはペプチドの抱合手段は当技術分野において周知であり、例えば、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス-ジアゾ化ベンジジンが含まれる。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,980,912号に記載されているキトサンを含む多糖類など、他の免疫強化化合物も本発明の組成物と共に使用されることが意図される。更に、複数(2つ以上の)ペプチドが互いに架橋(例えば、重合)していてもよい。
【0123】
F.併用療法
特定の態様において、本発明のワクチンは抗ウイルス治療と組み合わせて使用することが有用であることが分かるであろう。周知の2つのクラスの抗ウイルス剤はノイラミニダーゼ阻害剤とM2阻害剤(アダマンタン誘導体)である。ノイラミニダーゼ阻害剤は現在、インフルエンザウイルス感染症にとって好ましい。CDCは、2005〜06年のインフルエンザシーズンにおいてM2阻害剤を用いることに反対する勧告をおこなった。
【0124】
オセルタミビル(Tamiflu(登録商標))およびザナミビル(Relenza(登録商標))などの抗ウイルス剤は、体内におけるウイルスの拡散を停止させるように設計されたノイラミニダーゼ阻害剤である。これらの薬剤はインフルエンザAおよびBの双方に対してしばしば有効であり、近年出現した2009年の「ブタ」インフルエンザに対して効果的であることが示された。コクラン共同計画は、これらの薬剤を精査して、それらが症状および合併症を低減させると結論した。異なるインフルエンザウイルス株は、これらの抗ウイルス剤に対して異なる程度の耐性を有し、将来のパンデミック株がどの程度の耐性を有するかを予測することは不可能である。
【0125】
抗ウイルス剤アマンタジンおよびリマンタジンは、ウイルスのイオンチャンネル(M2タンパク質)を遮断して、ウイルスが細胞に感染することを防止するように設計されている。これらの薬剤は、感染の初期に投与された場合にインフルエンザAに対して有効である場合があるが、インフルエンザBに対しては常に無効である。H3N2のアメリカ人単離体においてアマンタジンおよびリマンタジンに対して測定された耐性は、2005年に91%に増加した。ノイラミニダーゼ阻害剤と対照的に、アマンタジンとリマンタジンは2009年の「ブタ」インフルエンザに対して有効であることが証明されていない。
【実施例】
【0126】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を証明するために含まれる。以下の実施例に開示の技術は本発明の実施において十分に機能することが本発明者によって発見された技術を示すため、その実施のための好ましい形態を構成すると見なすことができると当業者に認識されるべきである。しかしながら、当業者は、本開示を考慮して、開示の特定の態様の多くの変更形態を得ることができ、本発明の精神および範囲を逸脱することなく依然として同様または類似の結果が得られることを認識する。
【0127】
実施例1:結果
生物情報学のアプローチを利用して、本発明者らは、インフルエンザウイルスのマトリックス1タンパク質、マトリックス2タンパク質、および核タンパク質よりHLAクラスIを結合する35個のペプチドを同定し、HLAクラスIIを結合する16個のペプチドを同定した。これらのペプチドは、三段階の選別プロセスを用いて同定した。先ず、1918年のスペイン風邪ウイルス、一般的なワクチン株、H5トリインフルエンザ株、および現在のH1N1ブタインフルエンザウイルスにおいて「共有」されているエピトープを同定した。次にT細胞エピトープ予測アルゴリズムを用いて、これらのペプチドを更に選別した。最終的に、共通のHLAハプロタイプにおいて提示されると考えられているペプチドの組を特定し、集団を200%カバーすることを確実にするのに充分なHLAクラスIおよびクラスIIペプチドの組を作り出した。
【0128】
次に、セントルイス大学のVTEUで実施されたNIHによる「混合組合せ(Mix & Match)」インフルエンザ研究(三価不活化ワクチン(TIV)および弱毒生ワクチン(LAIV)の両方を使用)の対象から得られた末梢血サンプルにおいてT細胞応答を刺激する能力に関してこれらのペプチドをスクリーニングした。結果は図1〜2に示されている。要約すると、TIVではなくLAIVが乳児インフルエンザ特異的なCD4+T細胞を誘発し、TIVではなくLAIVが乳児インフルエンザ特異的なCD8+T細胞を誘発し、TIVではなくLAIVが乳児インフルエンザ特異的なδγT細胞を誘発した。更に、TIVではなくLAIVが保存されたエピトープに対する細胞性免疫を誘発した。
【0129】
実施例2:今後の研究
研究対象.末梢血サンプルは、セントルイス大学のVTEUで実施中であるNIH支援の「混合組合せ」インフルエンザ研究の対象より採取される。発明者は、以下を投与される6歳〜35ヶ月の60人(1群あたり15人)の小児を採用する:
A群:2回のTIV(三価不活化ワクチン)投与
B群:2回のLAIV(感染性の弱毒生ワクチン)投与
C群:1回のTIV投与の後に1回のLAIV投与
D群:1回のLAIV投与の後に1回のTIV投与
全ての追加免疫ワクチン接種は初回ワクチン接種の30日後に行われる。血液試料は、0日目、30日目、および60日目に採取される。
【0130】
抗原‐生ウイルス.下記の低温に適応したインフルエンザワクチン株は、インビトロ刺激アッセイのためにMedImmuneより入手される:
1)A/New Caledonia/20/99
2)A/Wyoming/03/03
3)B/Jilin/20/2003
【0131】
抗原‐ペプチド抗原.CD4+およびCD8+ T細胞応答を刺激するためのインビトロアッセイにおいてインフルエンザペプチドプールが用いられる:
A.インフルエンザのM1/M2およびNPタンパク質は、インフルエンザの亜型において約90%保存されているため、これらに焦点を合わせる。
B.インフルエンザAワクチン株および潜在的なH5N1パンデミック株により発現されるNP/M1/M2タンパク質において保存されている配列を特定するために生物情報学を用いる。
C.NP/M1/M2タンパク質の保存された領域内のMHC結合エピトープを同定するための予測アルゴリズム。
D.保存されたペプチド配列は、下記の条件を満たせば、二つのプールの内の一つに選択されて含まれる:
1.流行性のHLA型を結合すると予測された場合(即ち、集団の10%よりも多くにおいて発現されているHLA亜型;例えば、HLA-A2および通常のDR型);
2.最も高いHLA結合スコアを有するペプチド;
3.過去に免疫原性と報告された場合。
E.インビトロ刺激アッセイのために調製された二つのペプチドプール:
1.ペプチドプールIは、流行性のHLA-クラスI分子に結合することが予測される、インフルエンザのM1、M2、およびNPタンパク質から得られた35個のペプチド配列を含む(表1);
2.ペプチドプールIIは、流行性のHLA-クラスII分子に結合することが予測される、インフルエンザのM1、M2、およびNPタンパク質から得られた16個のペプチド配列を含む(表2)
【0132】
インビトロT細胞のCFSEに基づくフローサイトメトリーアッセイ.発明者らは、応答するCD4+、CD8+、およびγδTCR+T細胞の部分集団におけるリンパ球増殖およびIFN-γの産生を研究する。ワクチン接種前、ワクチン接種後30日目および60日目に回収したCFSE標識された末梢血リンパ球は、予め定められた最適な用量および期間、生ウイルス、ペプチドプール、および対照抗原の存在下で培養される。増殖後、T細胞は回収され、T細胞表面マーカーおよび細胞内のサイトカインの染色が行われる。染色された細胞は、次にFACSにより分析されることにより、増殖し(希CFSE)サイトカイン(例えばIFN-γ)を産生した、抗原に特異的なCD4+、CD8+、およびγδTCR+T細胞が同定される。
***************
【0133】
本明細書中に開示され、かつ特許請求の範囲に記載されている全ての組成物および/または方法を、本開示を考慮して過度に実験することなく実施および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい実施形態に関して記載しているが、本発明の概念、精神、および範囲を逸脱することなく、本明細書中に記載の組成物および/または方法ならびに工程または工程の順序を変更することができることが当業者に明らかである。より詳細には、化学的および生理学的に関連する特定の薬剤に本明細書中に記載の薬剤を置換することができる一方で、同一または類似の結果が達成されることが明らかである。当業者に明らかであるこのような類似の置換物および修飾物の全ては、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なす。
【0134】
VI.引用文献
以下の引用文献は、引用文献が本明細書を補足する例示的手順または他の詳細を提供する範囲で、特に参照により本明細書に組み入れられる。
【0135】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド。
【請求項2】
長さが9〜15残基である、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
もう一つのアミノ酸配列に融合している、請求項1記載のペプチド。
【請求項4】
薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤、または賦形剤中に製剤化されている、請求項1記載のペプチド。
【請求項5】
凍結乾燥されている、請求項1記載のペプチド。
【請求項6】
対象において免疫応答を誘発する方法であって、配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む一つまたは複数のペプチドを対象へ投与する工程を含む、方法。
【請求項7】
前記一つまたは複数のペプチドが、長さ9〜15残基のペプチドである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記一つまたは複数のペプチドが、もう一つのアミノ酸配列に融合している、請求項6記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、または全51個のペプチドが対象に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項10】
クラスI HLAと結合する少なくとも一つのペプチドおよびクラスII HLAと結合する少なくとも一つのペプチドが対象に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項11】
マトリックスタンパク質由来の少なくとも一つのペプチドおよび核タンパク質由来の少なくとも一つのペプチドが対象に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項12】
マトリックス1タンパク質由来の少なくとも一つのペプチド、マトリックス2タンパク質由来の少なくとも一つのペプチド、および核タンパク質由来の少なくとも一つのペプチドが、対象に投与される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
HLAハプロタイプの100%を標的とするのに十分な数のペプチドが対象に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項14】
投与が注射を含む、請求項6記載の方法。
【請求項15】
注射が皮下注射または筋肉内注射を含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
投与が吸入を含む、請求項6記載の方法。
【請求項17】
吸入が、経鼻エアロゾルまたは経鼻噴霧剤を吸入する工程を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記一つまたは複数のペプチドがアジュバントと共に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項19】
アジュバントが、スクアレンアジュバント、サイトカインアジュバント、脂質アジュバント、またはTLRリガンドである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ペプチドの総投与量が50μg/kg〜1mg/kgである、請求項6記載の方法。
【請求項21】
前記一つまたは複数のペプチドが少なくとも二回目に投与される、請求項6記載の方法。
【請求項22】
初回に投与された前記一つまたは複数のペプチドと異なる少なくとも一つのペプチドの、対象に対する第二の投与をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項23】
対象への弱毒生ワクチンまたは死菌ワクチンの投与をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項24】
対象がヒト対象である、請求項6記載の方法。
【請求項25】
投与に続いて、対象におけるCD4+、CD8+、および/またはγδT細胞応答を測定する工程をさらに含む、請求項6記載の方法。
【請求項26】
配列番号:1〜51からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む一つまたは複数のペプチドを含む、ワクチン製剤。
【請求項27】
前記一つまたは複数のペプチドが、長さ9〜15残基のペプチドである、請求項26記載の製剤。
【請求項28】
前記一つまたは複数のペプチドが、もう一つのアミノ酸配列に融合している、請求項26記載の製剤。
【請求項29】
少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個、49個、50個、または全51個のペプチドを含む、請求項26記載の製剤。
【請求項30】
クラスI HLAと結合する少なくとも一つのペプチドおよびクラスII HLAと結合する少なくとも一つのペプチドを含む、請求項26記載の製剤。
【請求項31】
マトリックスタンパク質由来の少なくとも一つのペプチドおよび核タンパク質由来の少なくとも一つのペプチドを含む、請求項26記載の製剤。
【請求項32】
マトリックス1タンパク質由来の少なくとも一つのペプチド、マトリックス2タンパク質由来の少なくとも一つのペプチド、および核タンパク質由来の少なくとも一つのペプチドを含む、請求項31記載の製剤。
【請求項33】
HLAハプロタイプの100%を標的とするのに十分な数の異なるペプチドを含む、請求項26記載の製剤。
【請求項34】
アジュバントを含む、請求項26記載の製剤。
【請求項35】
注射用製剤である、請求項26記載の製剤。
【請求項36】
吸入用製剤である、請求項26記載の製剤。
【請求項37】
50μg/kg〜1mg/kgの単位用量で提供される、請求項26記載の製剤。
【請求項38】
凍結乾燥されている、請求項26記載の製剤。
【請求項39】
液体である、請求項26記載の製剤。
【請求項40】
前記液体製剤が、薬学的に許容される緩衝剤、担体、または希釈剤中に製剤化されている、請求項39記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−506682(P2013−506682A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532299(P2012−532299)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/050836
【国際公開番号】WO2011/041490
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(512081993)セント ルイス ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】