説明

異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法、および異種強度コンクリート梁・床構造

【課題】異種強度コンクリート梁・床構造において、上述した異種強度コンクリートの打継面に起因する問題のいくつかを解消する。
【解決手段】
異種強度コンクリート梁・床構造1は、高強度コンクリートC1を床下面レベルAよりも下のレベルに達するまで打設し、そして当該高強度コンクリートC1が硬化する前に、普通強度コンクリートC2を打設する。次いで振動発生手段により高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合し、両者の間に混合層Mを形成する。従って断面幅の急変部に損傷が集中することを防止でき、また高強度コンクリートC1の硬化を待つ必要がなく工程の長期化を回避でき、また梁2の高強度コンクリートC1領域に普通強度コンクリートC2が侵入することも防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物における梁・床構造であって、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法に関する。また本発明は、上記異種強度コンクリート梁・床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物における梁・床構造には、特許文献1に示すように、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを用いるものがある。特許文献1記載の梁・床構造は、梁の下部が高強度コンクリートによってハーフプレキャスト梁として形成された上で、その上に普通強度コンクリートを現場打ちして成る。
【0003】
ここで、梁の下部に、上記の様にハーフプレキャスト梁を用いる方法のほか、高強度コンクリートと普通強度コンクリートの双方を現場打設する方法も考えられる。特許文献2はその様な方法の一例を示すものであり、梁の上部に普通強度コンクリートを用いるものではないが、梁とスラブとの境界部分に異種強度コンクリートの打ち分け用型枠を設置して、梁部分に打設する先打ちコンクリート(高強度コンクリート)とスラブ部分に打設する後打ちコンクリート(普通強度コンクリート)とを仕切るようになっている。そして、先打ちコンクリートを打設し、先打ちコンクリートの硬化後に上記打ち分け用型枠を取り除き、その後に後打ちコンクリートを打設する。
【0004】
しかしながら上記特許文献2記載の方法では、先打ちコンクリートの硬化を待ってから後打ちコンクリートを打設するので、作業の長期化を招くという欠点がある。また、コンクリートの打ち継ぎ部に欠陥が生じる場合もある。
【0005】
この様な課題を解決する為の手段の一例として、特許文献3には、強度の異なる複数種のコンクリートを打設するに際し、先に打設したコンクリートが硬化する前に、強度の異なる次のコンクリートを打設し、それらの打継部に双方のコンクリートが混合する混合部を生じさせる方法が開示されている。この方法によれば、先打ちコンクリートの硬化を待つことに伴う作業の長期化を防止することができるとともに、打ち継ぎ欠陥などを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−305443号公報
【特許文献2】特開平10−46814号公報
【特許文献3】特開平11−6296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように梁・床構造において異種強度コンクリートを用いる点、および異種強度コンクリートの打ち継ぎに関するいくつかの技術は既に知られていたものの、以下の点については考慮されていなかった。即ち、梁・床構造は梁の長手方向と直交する面で切断した際にT字形状を成すことから、床の下面レベルは断面幅が急変する部位となり、梁にせん断力が加わった際に損傷が集中し易く、このような位置に異種強度コンクリートの打継面が存在すると上記の損傷がより一層生じ易くなる。
【0008】
加えて、当然ながら梁・床構造において所望の強度を得る為には、配筋された鉄筋へのコンクリート付着強度が確保される必要がある。しかし、配筋された鉄筋の周囲に異種強度コンクリートの打ち継ぎ部が存在すると、鉄筋に対するコンクリート付着性状が安定せず、目的とする付着強度を確保できない場合が生じる虞があるとともに、このような問題を工程管理で防ごうとすると、工程管理が難しくなってしまうといった問題が生じる。
【0009】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、異種強度コンクリート梁・床構造において、上述した異種強度コンクリートの打継面に起因する問題のいくつかを解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する為の本発明の第1の態様は、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法であって、梁の下部を形成する為の先打ちコンクリートを、その上面レベルが前記床部分の下面レベルよりも下のレベルに達するまで打設し、次いで前記先打ちコンクリートより相対的に強度の低い、梁の上部及び床部分を形成する為の後打ちコンクリートを、前記先打ちコンクリートが硬化する前に打設し、次いで混合手段により前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの境界面を混合し、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの間に両者の混合層を形成することを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法において、梁の下部を形成する為の先打ちコンクリートを、その上面レベルが前記床部分の下面レベルよりも下のレベルに達するまで打設し、次いで前記先打ちコンクリートより強度の低い、梁の上部及び床部分を形成する為の後打ちコンクリートを打設する。即ち、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の打継部が、床の下面レベルではなく、それよりも下に位置することとなる。
【0012】
従ってこれにより、断面形状がT字形状を成す梁・床構造において断面幅が急変する部位に先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面が存在する構成に比して、梁にせん断力が加わった際に上記断面幅の急変部に損傷が集中することを防止できる。
【0013】
また、後打ちコンクリートを、先打ちコンクリートが硬化する前に打設し、次いで混合手段により先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの境界面を混合し、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間に両者の混合層を形成するので、先打ちコンクリートの硬化を待つ必要がなく、工程の長期化を回避することができる。
【0014】
加えて、仮に先打ちコンクリートの上面レベルを床の下面レベルと同じにした場合には、床部分に打設した後打ちコンクリートが梁の下部領域に入り込み易く、即ち梁領域に想定外のコンクリートが侵入して、梁の設計強度を確保できない場合が生じるので、これを防止するために工程管理が難しくなる。しかし本態様においては、先打ちコンクリートの上面レベルは床の下面レベルより下であるので、床部分に打設した後打ちコンクリートが梁領域に入り込み難く、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の境界面を混合するに際して工程管理が容易となる。
【0015】
更に加えて、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間に両者の混合層が形成されることから(即ち、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間に明確な境界面が存在しない)、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の境界面における付着強度が問題とならず、例えば梁にせん断力が加わった際に上記境界面で滑りが生じて破壊を招くということもない。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記混合層は、梁せいの1/2より下に前記後打ちコンクリートが混在しない様に形成されることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の混合層は、梁せいの1/2より下に後打ちコンクリート(即ち、先打ちコンクリートより相対的に強度が低いコンクリート)が混在しない様に形成されるので、梁全体の強度低下を最小限に抑えることができる。
【0018】
本発明の第3の態様は、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造であって、梁の下部を形成する為の先打ちコンクリートの上面レベルが、前記床部分の下面レベルよりも下にあり、前記先打ちコンクリートより相対的に強度の低い後打ちコンクリートにより、梁の上部及び床部分が形成され、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの間には、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとが混合された混合層が形成されていることを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造は、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の打継部が、床の下面レベルではなく、それよりも下に位置することとなる。従って上記第1の態様と同様に、断面形状がT字形状を成す梁・床構造において断面幅が急変する部位に先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面が存在する構成に比して、梁にせん断力が加わった際に上記断面幅の急変部に損傷が集中することを防止できる。
【0020】
また、第1の態様と同様に、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間に両者の混合層を形成するので、先打ちコンクリートの硬化を待つ必要がなく、工程の長期化を回避することができるとともに、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の境界面における付着強度が問題とならず、梁にせん断力が加わった際に上記境界面で滑りが生じて破壊を招くということもない。
【0021】
また更に、第1の態様と同様に、先打ちコンクリートの上面レベルは床の下面レベルより下であるので、先打ちコンクリートが床部分に入り込み難く、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の境界面を混合するに際して工程管理が容易となる。
【0022】
本発明の第4の態様は、第3の態様において、前記混合層は、梁せいの1/2より下に前記後打ちコンクリートが混在しない様に形成されていることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、上記第2の態様と同様に、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの間の混合層は、梁せいの1/2より下に後打ちコンクリート(即ち、先打ちコンクリートより相対的に強度が低いコンクリート)が混在しない様に形成されるので、梁全体の強度低下を最小限に抑えることができる。
【0024】
本発明の第5の態様は、第3のまたは第4の態様において、梁の上端筋が、前記混合層より上方に配置されていることを特徴とする。
先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの打継面が梁上端筋に掛かると、当該梁上端筋に対するコンクリートの付着性状に問題が生じ易いとともに、付着強度のばらつきを招き易く、また設計強度の確保が難しくなる。しかし本態様によれば、梁の上端筋が、前記混合層より上方に配置されているので、上記の様な問題を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態に係る異種強度コンクリート梁・床構造の断面図。
【図2】(A)〜(C)は本発明の第1実施形態に係る異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法を示す説明図。
【図3】本発明の第2実施形態に係る異種強度コンクリート梁・床構造の断面図。
【図4】本発明の第3実施形態に係る異種強度コンクリート梁・床構造の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、各図において共通する構成には同一の符号を付し、重複する説明は避けることとする。また、各図において示すx−y−z座標系において、z方向は重力方向を、y方向は梁の長さ方向を、x方向は梁の長さ方向と直交する方向を、それぞれ示している。
【0027】
先ず、図1及び図2を参照しながら本発明の第1実施形態について説明する。図1において符号1は異種強度コンクリート梁・床構造(床(スラブ)付きコンクリート梁とも言う)を示している。異種強度コンクリート梁・床構造1は、梁2と床3とが一体的に形成されて断面略T字形状を成しており、梁2は更に梁上部2Aと梁下部2Bとから構成され、矩形の形状を成している。尚、後述するように梁上部2Aと床3とは同一種のコンクリートにより連続的に形成されており、両者の間に明確な境界面は無いが、強度設計上梁2は矩形の形状として扱われる。また、梁上部2Aは梁2において混合層M(後述)より上の領域を指し、梁下部2Bは混合層Mより下の領域を指している。
【0028】
符号5は梁型枠を示しており、後述する先打ちコンクリートはこの梁型枠5の内側に打設され、また後述する後打ちコンクリートの一部が梁型枠5の内側に打設される。符号4はハーフプレキャスト(Pca)スラブ板を示しており、後打ちコンクリートはこのハーフPcaスラブ板4の上部に打設される。尚、床3の形成に際して本実施形態ではハーフPcaスラブ板4を用い、床下部の形成と床型枠とを兼用する様にしているが、これに限られないことは言うまでもない。
【0029】
符号6A、6Bは、梁上部2Aに配筋される、梁の長手方向(y方向)に延びる梁上端主筋を示している。この梁上端主筋6Aは、図示するように梁の幅方向に適宜の間隔を空けて複数配筋され、また梁上端主筋6Bは、複数配筋された梁上端主筋6Aのうち両端部に相当する位置に、梁上端主筋6Aのやや下方に配筋され、梁上端主筋6Aとともに二段筋を構成する。
【0030】
また、符号6Cは梁下部2Bに配筋される、梁の長手方向(y方向)に延びる梁下端主筋を示している。この梁下端主筋6Cは、梁上端主筋6Aと同様に梁の幅方向に適宜の間隔を開けて複数配筋される。尚、床3には当該床3の強度を確保する為の鉄筋が配筋されるが、この鉄筋は図示を省略している。
【0031】
但し、本実施形態においては特開平7−305443号公報に示されるような、スラブ面方向にせん断力を伝達するための、梁上端主筋と床鉄筋との間に掛け渡される「せん断力伝達筋」は配筋されない。但し、本発明はこの様な「せん断力伝達筋」の配置を排除するものではなく、必要に応じて強度確保の為にこの様な「せん断力伝達筋」を設けても構わない。
【0032】
また、符号8は梁上端主筋6A、6Bと梁下端主筋6Cとの間に係回されるせん断補強筋(フープ筋)を示している。このせん断補強筋8は、梁2の長手方向(y方向)に適宜の間隔を空けて多数配筋される。
【0033】
次に図1において符号Mは、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとの境界面(未硬化状態における境界面)を混合して形成された、先打ちコンクリートと後打ちコンクリートとが混合された混合層であり、符号tはこの混合層の厚みを示している。
【0034】
また符号Dは梁せい(梁の高さ)を示しており、更に符号AはハーフPcaスラブ板4の下面、即ち床3の下面のレベル(以下「床下面レベルA」と言う)を示しており、また更に符号xは、床下面レベルAから混合層Mの上面までの距離を示している。
【0035】
図示するように本発明に係る異種強度コンクリート梁・床構造1においては、先打ちコンクリートは後打ちコンクリートより相対的に強度の高いコンクリートであり、以下では便宜的に先打ちコンクリートを高強度コンクリートとも呼び、また後打ちコンクリートを普通強度コンクリートとも呼ぶ。そして本発明において混合層Mは、床下面レベルAより下に設定され、所定の距離xが確保される。また本実施形態では、混合層Mは、梁せいDの1/2より下に位置しないように形成され、より具体的には梁せいDの1/2より下に普通強度コンクリートが混在しない様に形成される。
【0036】
図1に示す異種強度コンクリート梁・床構造1は、大略的に図2(A)〜(C)に示すように形成される。図2(A)に示すように、梁型枠5及びハーフPcaスラブ板4によって異種強度コンクリート梁・床構造1の型枠を形成し、梁上端主筋6A〜6Cを配筋した状態で、先打ちコンクリートとしての高強度コンクリートC1を打設する。この高強度コンクリートC1は、その上面レベルSaが、床下面レベルAよりも下のレベルに達するまで打設される。次いで、高強度コンクリートC1より相対的に強度の低い、後打ちコンクリートとしての普通強度コンクリートC2を、高強度コンクリートC1が硬化する前に打設する。
【0037】
そして、普通強度コンクリートC2及び高強度コンクリートC1が完全に硬化する前に、図2(B)に示すように混合手段としてのバイブレータ棒11を高強度コンクリートC1の上面レベルSa(つまり、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面)よりやや下に到達するまで挿入し、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合して、両者の混合層Mを形成する(図2(C))。尚このとき、本実施形態においては、梁せいDの1/2より下にバイブレータ棒11の先端が到達しないように管理する。この作業により、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面が混合されるだけでなく、普通強度コンクリートC2の締め固めも同時に行うことができる。
【0038】
ここで、バイブレータ棒11を用いて高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合し、混合層Mを形成する場合には、この混合層Mは必ずしも図示するような明瞭な(綺麗な)層になるとは限らず、バイブレータ棒11を挿入した部分及びその周囲が混合され、それを除く領域は必ずしも十分に混合されるとは限らない。また、バイブレータ棒11を引き抜く際には、バイブレータ棒11に付着した高強度コンクリートC1が、梁上部2Aの上部、即ち普通強度コンクリートC2内に若干混入することも考えられる。
【0039】
従って本発明において混合層Mは、必ずしも図示するような明瞭な(綺麗な)層を形成することを目的として形成するものではなく、少なくとも高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合することで、両者の間に明確な境界面を形成しないことを目的として形成される。また、混合層Mにおけるコンクリートの配合は、上方に向かって高強度コンクリートC1の割合が減少するように、その割合分布がグラデーション状に成されることが好ましいが、これに限られず、少なくとも高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間に明確な境界面が形成されなければ良い。
【0040】
尚、本実施形態では混合手段としてバイブレータ棒11を使用しているが、これに限られないことは言うまでもなく、バイブレータ棒11以外の振動発生手段、例えば梁型枠5の外側に振動発生手段を設置し、梁型枠全体に振動を付与することで高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合するようにしても良い。また、振動発生手段に限らず、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合可能な手段であればどの様なものであっても良い。
【0041】
以上説明したように、本発明に係る異種強度コンクリート梁・床構造1およびそれに対するコンクリート打設方法によれば、先打ちコンクリート(高強度コンクリートC1)と後打ちコンクリート(普通強度コンクリートC2)との間の打継部(混合層M)が、床下面レベルAではなく、それよりも下に位置することとなる。
【0042】
従ってこれにより、断面形状がT字形状を成す梁・床構造において断面幅が急変する部位に高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との打継面が明瞭に存在する構成に比して、梁2にせん断力が加わった際に上記断面幅の急変部に損傷が集中することを防止できる。
【0043】
また、普通強度コンクリートC2を、高強度コンクリートC1が硬化する前に打設し、次いで混合手段により高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との境界面を混合し、両者の間に両者の一部が混合された混合層を形成するので、高強度コンクリートC1の硬化を待つ必要がなく、工程の長期化を回避することができる。
【0044】
加えて、仮に高強度コンクリートC1の上面レベルを床下面レベルAと同じにした場合には、床3に打設した普通強度コンクリートC2が梁下部2Bの領域に入り込み易く、即ち梁下部2Bの高強度コンクリートC1に想定外のコンクリート(普通強度コンクリートC2)が侵入して、梁2の設計強度を確保できない場合が生じるので、これを防止するために工程管理が難しくなる。しかし本発明においては、高強度コンクリートC1の上面レベルSaは床下面レベルAより下となるので、床3に打設した普通強度コンクリートC2が梁下部2Bの高強度コンクリートC1に入り込み難く、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間の境界面を混合するに際して工程管理が容易となる。
【0045】
更に加えて、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間に両者の混合層が形成されることから(即ち、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間に明確な境界面が存在しない)、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間の境界面における付着強度が問題とならず、例えば梁2にせん断力が加わった際に上記境界面で滑りが生じて破壊を招くということもない。また、両者の間の打継部に関する設計も不要となり、設計業務が簡素化される。
【0046】
また、高強度コンクリートC1の上面レベルSaが床下面レベルAより下であることは、高強度コンクリートC1の使用量も減り、低コスト化と、作業時間の短縮化にも寄与することができる。また、1回目のコンクリート(先打ちコンクリート)使用量を少なくすることで、梁型枠5に掛かる側圧を低減することができ、梁型枠5の崩壊の危険を低減することができる。また、1回目のコンクリートの打設量を少なくすることで、1回目と2回目(後打ち)のコンクリート打設間隔を短くでき、コンクリートの締め固めを容易に行うことができる。
【0047】
加えて、本実施形態においては、梁上端主筋6Bが、混合層Mより上方に配置されている。即ち、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との打継面が梁上端主筋6Bに掛かると、当該梁上端主筋6Bに対するコンクリートの付着性状に問題が生じ易いとともに、付着強度のばらつきを招き易く、また設計強度の確保が難しくなるが、本実施形態では上述の通り梁上端主筋6Bが、混合層Mより上方に配置されているので、上記の様な問題を招くことがない。
【0048】
また本実施形態では、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間の混合層Mは、梁せいの1/2より下に普通強度コンクリートC2が混在しない様に形成されるので、梁2全体の強度低下を最小限に抑えることができる。
【0049】
<<他の実施形態>>
図3に示す異種強度コンクリート梁・床構造1’は、浴室等のバリアフリーの為に、床3’が段差部Bを備えている形態である。この様な形態にも、本発明を適用することができる。即ち、先打ちコンクリート(高強度コンクリートC1)と後打ちコンクリート(普通強度コンクリートC2)との間の打継部を、床下面レベルA(本実施形態ではより低いほうの床下面レベル)ではなく、それよりも下に配置し、そして両者の間に混合層Mを形成する。これにより、既に説明した実施形態と同様な作用効果を得ることができる。
【0050】
また図4に示す異種強度コンクリート梁・床構造1”は、梁上部2Aに配筋された梁上端主筋6Aから、梁下部2Bに所定量入り込む差し筋9が設けられている。差し筋9は、梁2の長手方向に所定の間隔を空けて配置されており、異種強度コンクリート梁・床構造1”は図1に示す断面形状と図4に示す断面形状が梁長手方向に交互に表れるような形態となっている。
【0051】
本発明は、高強度コンクリートC1と普通強度コンクリートC2との間に明確な打継面を形成せず、両者を混合した混合層Mを形成することで、両者の付着強度を確保するものであり、差し筋9の使用を不要にできるものであるが、必要に応じて差し筋9を設けても構わない。但し、差し筋9を省略することができれば、配筋が容易になることは言うまでもない。
また、以上説明した各実施形態は一例であり、種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0052】
1 異種強度コンクリート梁・床構造
2 梁
2A 梁上部
2B 梁下部
3 床(スラブ)
4 ハーフPCaスラブ板
5 梁型枠
6A、6B 梁上端主筋
6C 梁下端主筋
8 せん断補強筋
9 差し筋
11 バイブレータ(振動発生手段)
A 床下面レベル
C1 先打ちコンクリート(高強度コンクリート)
C2 後打ちコンクリート(普通強度コンクリート)
D 梁せい
M 混合層
x 床下面レベルAから混合層Mの上面までの距離
t 混合層の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造に対するコンクリート打設方法であって、
梁の下部を形成する為の先打ちコンクリートを、その上面レベルが前記床部分の下面レベルよりも下のレベルに達するまで打設し、
次いで前記先打ちコンクリートより相対的に強度の低い、梁の上部及び床部分を形成する為の後打ちコンクリートを、前記先打ちコンクリートが硬化する前に打設し、
次いで混合手段により前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの境界面を混合し、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの間に両者の混合層を形成する、
ことを特徴とする梁・床構造に対するコンクリート打設方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート打設方法において、前記混合層は、梁せいの1/2より下に前記後打ちコンクリートが混在しない様に形成される、
ことを特徴とする梁・床構造に対するコンクリート打設方法。
【請求項3】
梁の上部及び床部分と、梁の下部とで強度の異なるコンクリートを打ち分けて成る異種強度コンクリート梁・床構造であって、
梁の下部を形成する為の先打ちコンクリートの上面レベルが、前記床部分の下面レベルよりも下にあり、
前記先打ちコンクリートより相対的に強度の低い後打ちコンクリートにより、梁の上部及び床部分が形成され、
前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとの間には、前記先打ちコンクリートと前記後打ちコンクリートとが混合された混合層が形成されている、
ことを特徴とする異種強度コンクリート梁・床構造。
【請求項4】
請求項3に記載の異種強度コンクリート梁・床構造において、前記混合層は、梁せいの1/2より下に前記後打ちコンクリートが混在しない様に形成されている、
ことを特徴とする異種強度コンクリート梁・床構造。
【請求項5】
請求項3または4に記載のコンクリート梁・床構造において、梁の上端筋が、前記混合層より上方に配置されている、
ことを特徴とする異種強度コンクリート梁・床構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−112195(P2012−112195A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263188(P2010−263188)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(591028108)安藤建設株式会社 (46)
【出願人】(390036515)株式会社鴻池組 (41)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000207872)大末建設株式会社 (3)
【出願人】(000207621)大日本土木株式会社 (13)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPO (130)
【出願人】(303057365)株式会社間組 (138)
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【出願人】(000174943)三井住友建設株式会社 (346)
【Fターム(参考)】