説明

異種金属の接合方法及び接合構造

【課題】抵抗溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を容易に除去することができ、新生面同士の強固な接合が可能であると共に、必要に応じて異種金属接触による腐食を防止することができ、強度と耐食性の両立が可能な異材継手を安価に得ることができる異種金属の接合方法と、このような方法によって得られる異種金属の接合構造を提供する。
【解決手段】異種金属材料、例えば亜鉛めっき鋼材1とアルミニウム合金材2とを重ね合わせ、亜鉛めっき鋼材1のめっき層1a中の亜鉛とアルミニウムとの共晶溶融を生じさせて抵抗スポットあるいはシーム溶接するに際して、両異種金属材料1と2の間に、間隙Gを設け、必要に応じてシール材Sを介在させた状態で接合部を加圧し、通電することによって両異種金属材料1,2を接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼材とアルミニウム合金材など、異種金属の抵抗溶接による接合技術に係わり、特に被接合材である両金属材料の間に介在させた第3の金属材料と被接合材との間に生じる共晶反応を利用した異種金属の接合方法と、当該接合方法による接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車車体に従来から広く使われている鋼に加えて、車体の軽量化を目的として、アルミニウム合金等の軽金属で形成された車体部材(例えばアルミニウム合金製ルーフパネル等)の車体への適用が行われている。
【0003】
一般に異種金属を接合する場合、同種材同士の溶接のように双方の被接合材料を溶融させてしまうと、脆弱な金属間化合物が生成し、十分な継手強度が得られないことがある。
例えば、アルミニウム合金と鋼材とを溶接する場合、高硬度で脆弱なFeAlやFeAlなどの金属間化合物が生成するため、継手強度を確保するためには、これら金属間化合物の制御が必要となる。
【0004】
しかし、アルミニウム合金表面には、緻密で強固な酸化皮膜が形成されており、それを除去するためには接合時に大きな熱量を投与することが必要となる。その結果、厚い金属間化合物層が成長し、接合部の強度が低くなってしまうという問題があった。
【0005】
そこで、このような異種金属材料を組み合わせて使用する場合には、従来、ボルトやリベットなどによる機械的締結によってこれら材料を接合するようにしていたが、この場合には重量やコストが増加する点に問題がある。
【0006】
また、このような異種金属の接合には、摩擦圧接が実用化されているが、このような摩擦圧接方法は、対称性のよい回転体同士の接合など、その対象が限られている。
さらに、爆着や熱間圧延なども知られているが、設備面や能率面での問題が多く、一般の異種金属接合に広く適用することはできないという問題がある。
【0007】
このような異種金属接合の問題点の改善例としては、異種金属材料の間に、当該異種金属と同じ2種の材料から成るクラッド材をそれぞれ同種の材料同士が接するように介在させた状態で、10ms以下の通電時間で抵抗溶接を行うようにする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0008】
また、アルミニウムと鋼の抵抗溶接において、アルミニウム材と接する鋼表面に、Al量が20wt%以上のアルミニウム合金又は純アルミニウムを2μm以上の厚さとなるようにめっきし、このめっき面をアルミニウム材に重ねて通電し、めっき層を優先的に溶融させ、鋼材側をほとんど溶融させないようにして、これら材料を接合する方法が開示されている(特許文献2参照)。
【0009】
一方、各種部材の接合部位に異種金属を組み合わせて用いると、異種金属が互いに接触して電気的に導通するために腐食が促進されることが知られている。
このような異種金属の接触による腐食は、金属のイオン化傾向の違いによって、金属間に電位差が生じ腐食電流が流れることによって発生するとされており、異種金属接触による腐食を防止するための対策としては、例えば、スチール製の第1の部材と、例えばアルミニウムやその合金から成る第2の部材を両部材の間にシール材を介在させた状態で、例えばリベットや補強部材などの接合手段によって接合するようにした車体部材の接合構造が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
また、鉄系材料とアルミニウム又はアルミニウム合金材料が接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬して、接合部近傍に緻密かつ強固で密着性が高く、しかもアルミニウムと鉄との中間的なイオン化傾向を有する金属亜鉛を析出させ、もって接合部における異種金属接触耐食性を向上させることが知られている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平4−127973号公報
【特許文献2】特開平6−39558号公報
【特許文献3】特開2000−272541号公報
【特許文献4】特開2005−154844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、クラッド材を用いるようにしているため、本来2枚の板を接合すべきところ、3枚の接合ということになり、実際の施工を考えた場合には、クラッド材の挿入と共に、固定の工程が必要となって、現状の溶接ラインに新たな設備を組み入れなければならなくなり、コストアップ要因となる。また、例えばアルミニウムと鋼を接合する場合、アルミニウムクラッド鋼自体も異種材同士を接合することにより製造されるため、製造条件が厳しく、性能の安定した安価なクラッド材を入手すること自体が困難であるという問題点がある。
【0012】
また、鋼表面にアルミニウムめっきを施した状態で抵抗溶接する特許文献2に記載の方法においては、アルミニウムめっき面とアルミニウム材を接合する際、アルミニウム表面に存在する強固な酸化皮膜を破壊するために大入熱を投入することが必要となって、アルミニウムめっきと鋼の界面に脆弱な金属間化合物が生成され、これから破壊が生じる可能性がある。
【0013】
一方、特許文献3に記載の技術においては、両材料の融点や線膨張係数が異なることから、リベットやボルトなどの機械的締結を採用しているため、先に述べたように接合された部材の重量やコストが増加するという問題点がある。
さらに、特許文献4に記載の技術においては、接合された部材をフルオロ錯イオン及び亜鉛イオンを含有する溶液中に浸漬するようにしているが、接合材表面に析出した亜鉛だけでは、自動車部品に求められるような耐食性能を十分に満足させることができないばかりでなく、自動車の生産工程の過程において、車体部品をこのような溶液中に浸漬する工程を組み込むことは、浸漬タンク等の新たな設備投資を必要とし、コストが増加することが問題となる。
【0014】
本発明は、従来の異種金属の接合方法における上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、抵抗溶接により異種金属を接合するに際して、接合過程における金属間化合物の生成を抑制しながら、接合界面における酸化被膜を容易に除去することができ、新生面同士の強固な接合が可能であると共に、必要に応じて異種金属接触による腐食を防止することができ、耐食性にも優れた異材継手を安価に得ることができる異種金属の接合方法と、このような方法によって得られる異種金属の接合構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、接合しようとする異種金属材料の間に第3の金属材料を介在させ、第3の金属との間に共晶溶融を生じさせることによって、金属間化合物を生成させることなく、母材異種金属の融点より低い温度で酸化被膜を除去することができ、このとき両異種金属間に間隙を設けておくことによって、酸化皮膜や共晶金属など接合過程における反応生成物、さらにはシール材などの排出が円滑に行なわれるようになって、新生面同士の強固な接合が可能となることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0016】
本発明はこのような知見に基づくものであって、本発明の異種金属の接合方法においては、互いに異なる金属材料同士を重ね合わせた被接合材の間にこれら金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、これら被接合材の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗溶接するに際して、被接合材間に間隙を形成した状態で接合部を加圧し、通電することを特徴としている。
【0017】
また、本発明の異種金属の接合構造は、上記接合方法によって抵抗溶接されたものであって、被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、接合部の周囲の被接合材間に間隙が形成され、この間隙内に被接合材、第3の材料、酸化皮膜、接合過程で生成される反応物及びシール材から成る群より選ばれる少なくとも1種が流入していることを特徴とする。
【0018】
そして、本発明の被接合材アセンブリは、異種金属から成る被接合材を抵抗溶接によって接合すべく組み立てられた、接合前の状態のものであって、互いに異なる金属材料同士がこれら金属材料の少なくとも一方と共晶溶融を生じる第3の材料を介して重ね合わせてあり、接合部近傍の両金属材料間に間隙が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、互いに異なる異種金属材料の間に第3の材料を介在させて重ね合わせ、第3の材料とこれら金属材料の少なくとも一方との間に共晶溶融を生じさせて、異種金属材料同士を抵抗溶接するに際して、両金属材料間に間隙を設けた状態で加圧し、通電するようにしたため、共晶溶融によって比較的低温状態で酸化皮膜を除去することができることから、金属間化合物の生成が防止されると共に、接合過程で生じる共晶金属や、被接合材表面の酸化被膜、反応生成物など、さらに金属材料間にシール材を介在させた場合にはシール材をも含む排出物の接合部からの排出が円滑なものとなって、被接合材の新生面同士が直接、強固に接合されることから、接合界面にこれらが残存することによる強度低下を防止することができ、強度、耐食性に優れた異材接合継手が得られることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、抵抗溶接による本発明の異種金属の接合方法について、さらに詳細かつ具体的に説明する。
【0021】
本発明は、共晶溶融を利用することによって、低温での接合を可能にし、もって金属間化合物の生成を防止しようとするものであるが、共晶反応としては、例えばAl−Zn系合金において、Alの融点933Kよりもはるかに低い655Kで共晶反応を生じることが知られている。
したがって、これを利用してAlとZnの共晶溶融を作り出し、アルミニウム材の接合時における酸化皮膜除去や相互拡散などの接合作用に利用することによって、低温接合が実施できるため、FeAlやFeAlなどの金属間化合物の接合界面における成長を極めて効果的に抑制することができる。
【0022】
ここで、共晶溶融とは共晶反応を利用した溶融であって、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えば、上記したアルミニウムと亜鉛の場合には、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであり、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0023】
一方、アルミニウム材の表面には強固な酸化皮膜が存在するが、これは抵抗溶接時の通電と加圧によってアルミニウム材に塑性変形が生じることにより物理的に破壊されることになる。
すなわち、加圧によって材料表面の微視的な凸部同士が擦れ合うことから、一部の酸化皮膜の局所的な破壊によってアルミニウムと亜鉛が接触した部分から共晶溶融が生じ、この液相の生成によって近傍の酸化皮膜が破砕、分解されてさらに共晶溶融が全面に拡がる反応の拡大によって、酸化皮膜破壊の促進と液相を介した接合が達成される。
【0024】
共晶組成は相互拡散によって自発的達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0025】
本発明における被接合材の具体的な組み合せとしては、上記のように鋼材とアルミニウム合金材の組み合せを挙げることができ、このとき両材料の間に介在させる第3の金属材料としては、アルミニウム合金と低融点共晶を形成する材料でさえあれば、特に限定されることはなく、例えば、上記した亜鉛(Zn)の他には、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを用いることができる。
すなわち、これら金属とAlとの共晶金属は、母材であるアルミニウム合金材の融点以下の温度で溶融するため、脆弱な金属間化合物が生成し易い鋼材とアルミニウム合金材の接合においても、低温で酸化皮膜を除去することができ、接合過程での接合界面における金属間化合物の生成が抑制でき、強固な接合が可能になる。
【0026】
また、本発明を自動車ボディの組み立てに適用することを考えた場合、被接合材は鋼材とアルミニウムとの組み合せがほとんどであるが、鋼材とマグネシウム、あるいはアルミニウムとマグネシウムとの組み合せなども考えられる。
鋼材とマグネシウムとの接合に際しては、鋼材側にめっきした亜鉛とマグネシウムの間に共晶反応を生じさせて接合することが可能である。さらに、アルミニウムとマグネシウムを接合する場合においても、亜鉛や銀を第3の金属材料として利用することが可能である。
【0027】
なお、本発明においては、第3の金属材料として、上記したような純金属に限定される必要はなく、共晶金属は2元合金も3元合金も存在するため、これらの少なくとも1種の金属を含む合金であってもよい。
【0028】
本発明において、上記第3の金属材料を被接合材の間に介在させるための具体的手段としては、被接合材である異種金属材料の間に、第3の金属材料から成るインサート材を挿入することもできるが、被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料をめっきなどによってあらかじめ被覆しておくことが望ましく、これによって第3の材料をインサート材として被接合材間に挟み込む工程を省略でき、作業効率が向上すると共に、共晶反応によって溶融されためっき層が表面の不純物と共に接合部の周囲に排出された後に、めっき層の下から極めて清浄な新生面が現れることになり、より強固な接合が可能となる。
【0029】
そして、例えば、上記したアルミニウム合金材やマグネシウム合金材と鋼材との異材接合に際しては、鋼材として、アルミニウムやマグネシウムと低融点共晶を形成する第3の金属材料である亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができ、この場合には、特別な準備を要することもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に、異種金属の強固な接合が可能になる。
【0030】
本発明の異種金属接合方法においては、抵抗溶接に際して、被接合材間に予め間隙を形成しておき、この状態で接合部を加圧し、通電するようにしており、電極に押圧された被接合材の一方又は両方が湾曲しながら接近し、接合部が曲面となって互いに当接することから、接合界面に存在する共晶金属や酸化被膜、接合過程で生じる応生成物などや、被接合材間にシール材が介在している場合にはこれをも含めた種々の夾雑物が接合界面から円滑に周囲に排出されることになり、これらを界面に残存させることなく、被接合材の新生面同士が直接接合されることになり、異材接合継手の強度を向上させることができると共に、シール材を介在させた場合には、電食に対する耐食性をも向上させることができる。
【0031】
このとき、被接合材間に形成される間隙の大きさとしては、異種金属材料のうち、融点が低い方の材料の板厚をtとするとき、その板厚の0.3倍から2.5倍、言い換えると0.3t〜2.5tの範囲内であることが望ましい。すなわち、低融点側材料の板厚tの0.3倍に満たない場合は、排出物の排出状態が隙間を設けない時と実質的に変わらず、強度向上の効果がほとんど得られない。また、2.5倍を超えた場合には、間隙が大きすぎて有効な接合面積が得られなかったり、板厚減少が大きくなったりして、接合強度が急激に低下する傾向があることによる。
【0032】
また、被接合材間に上記のような間隙を形成する手段としては、目的の寸法の隙間を容易かつ確実に形成し、保持する観点から、例えば突起形あるいは凹形をなす間隙保持手段を少なくとも一方の被接合材の接合面に設けることが望ましく、具体的には、複数の凸状部を接合部を囲むように、その両側あるいは周囲に形成したり、接合部を含む領域に凹状部を形成したりすることができる。なお、このような凸状部や凹状部は、例えばプレス加工などによって、被接合材の一方、又は両方に予め形成しておくことができる。
【0033】
以下に、このような間隙保持手段と、これによって被接合材の間に所定の間隙が形成されるように組み立てられた被接合材アセンブリの接合過程について、亜鉛めっき鋼板とアルミニウム合金板材の抵抗溶接による接合について、図面に基づいて具体的に説明する。
【0034】
図2(a)〜(c)は、図1に示したような交流タイプの抵抗スポット溶接装置を用いた本発明による異種金属の接合過程を示す概略図であって、図2(a)は接合後の状態を示す平面図、図2(b)は接合前の被接合材アセンブリの構造を示す断面図である。
図に示すように、表面に亜鉛めっき層1aを備えた亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金板材2とを、界面にシール材Sを塗布した状態で重ね合わせ、図1に示した溶接装置の電極E1及びE2により挟持し、接合部を加圧しながら両異種金属材料1及び2の間に通電することができるようになっている。
【0035】
このとき、両金属材料の少なくとも一方、この例では、低融点側の材料であるアルミニウム合金板材2の接合部Jの両側に平行に、間隙保持手段としての2本の凸ビードP1(凸状部)が接合面に突出した状態に形成されており、これによって被接合材である亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2の間に間隙Gが所定寸法に保持されるようになっている。
なお、このようにシール材Sを塗布した場合の間隙Gは、実際にはシール材の介在によって若干増加することになるが、本発明における間隙Gとしては、このようなシール材による増加分を含めないものとする。
【0036】
図2(b)に示した状態において、電極E1及びE2によって亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2を上下から挟持し、少なくとも加圧を行うと、被接合材1,2の間には間隙Gが形成されているため、亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2には、電極E1,E2に押圧されることによって、それぞれ湾曲部1b、2b(図2(c)参照)が形成されるため、シール材Sがこれら湾曲部によって図中の左右方向に押し分けられることになって、接合部中央から円滑に排出される。
そして、加圧、通電により抵抗スポット溶接を行うと、アルミニウム合金板材2の表面に形成されている酸化皮膜2aの破壊と、その接合部からの除去を共晶溶融を利用することによって促進することができる。
【0037】
すなわち、アルミニウム合金板材2の酸化皮膜2aは、接合相手の鋼板1との微視的な接触部で局部的に破壊され、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が生じ、そのときの温度状態に応じて、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、図2(c)に示すように、共晶溶融金属と共に酸化皮膜2aや接合界面の不純物、シール材Sなどが接合部の外側に排出され、所定の接合面積が確保され。
このとき、特に凸ビードP1を低融点側であり、しかも大気雰囲気下で表面に強固な酸化皮膜2aを形成するアルミニウム合金板材2の側に形成したことから、通電加熱による軟化によって、アルミニウム合金板材2の側の湾曲部2bの形成及び変形が大きなものとなって、酸化皮膜2aの破壊と除去が進行すると共に、接合過程の共晶反応により生じた反応生成物やシール材Sの排出スペースが間隙Gによって確保されるため、これらの接合界面からの排出がより容易なものとなり、被接合材であるアルミニウム合金板材2と鋼板1の新生面同士が、不純物などが介在することなく、強固に接合されると共に、接合部の周囲を排出物や排出シール材Sに囲われ、耐食性の高い異種金属の接合構造を得ることができる。
【0038】
図3は、このようにして得られた接合構造の中心部を示す拡大図であって、上記したように、加圧、通電によって機械的あるいは熱的な衝撃などを負荷することにより、局部的に酸化皮膜2aの破壊が生じると、亜鉛めっき層1aの亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が起こり、接触部が亜鉛とアルミニウムの共昌点温度以上に保持されることによって、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、共晶溶融物と共に、酸化皮膜2aや接合界面の不純物(図示せず)が接合部周囲に排出物Dとなって排出されながら、さらにシール材Sも排出される。このとき、被接合材間には予め間隙Gが形成されているため、排出物Dやシール材Sの排出がより円滑なものとなり、上記排出物Dやシール材Sを巻き込むことなく、鋼板1とアルミニウム合金板材2との新生面同士が直接接合された接合部Jが形成され、両異種金属1,2を強固に接合することができる。
さらに、接合部Jは、排出物Dと、さらにはシール材Sによって、その周囲を囲われた構造となっているため、腐食環境から完全に遮断され、異種金属の接触腐食に対する優れた耐食性が得られ、強度と耐食性を両立することができる。
【0039】
なお、間隙保持手段としての凸ビードP1は、アルミニウム合金板材2の側のみならず、例えばアルミニウム合金材の板厚が厚い時や、押し出し材を使用した時などのように、アルミニウム合金板材2に凸ビードP1を形成するのに手間がかかるような場合には、亜鉛めっき鋼板1の側に設けることもできる。また、被接合材の双方に設けても同様の効果を得ることができる。
【0040】
また、使用環境が極めて良好な場合は、接合界面にシール材を適用することなく接合することもあるが、この場合でも、被接合材間にあらかじめ形成された間隙Gは、共晶溶融物、酸化皮膜2a、接合界面の不純物などの排出物Dを周囲に排出させるのに有効に機能して接合強度を向上させることができ、同様の効果を得ることができる。
【0041】
なお、本発明において、シール材Sとしては、例えば、エポキシ樹脂系、合成ゴム系、合成ゴム/PVC系材料などを用いることができ、このような材料を溶液状、ペースト状にして被接合材の接合面に塗布したり、シート状にしたものを被接合材の間に挟んだりすることができる。
また、接合界面に介在する共晶溶融物や酸化皮膜、シール材などの夾雑物をより円滑に排出する観点から、図示したように、先端面Cを曲面形状とした電極E1、E2を用いることが望ましい。なお、このような曲面電極は、上下電極の一方、又は両方に用いることが望ましいが、電極径が極端に大きくなく、加圧によって被接合材の接合面に湾曲部が形成されながら接合が進行する限り、必ずしもこれに限定されることはない。
【0042】
本発明において、被接合材間に間隙を形成するための間隙保持手段としては、上記のような連続した凸状部である凸ビードP1の他には、図4(a)及び(b)に示すように、円形の微少突起P2や楕円形の長円ビードP3をそれぞれ複数個を接合部Jの周囲に配置することもできる。
このような間隙保持手段としての凸状部についても、プレス加工等によって容易に形成することができ、このような凸状部を予め被接合材に形成しておくことによって、被接合材間に間隙Gを確保することができ、シール材や反応生成物などの排出が容易になり、上記同様の効果を得ることができる。
【0043】
さらに、被接合材間に間隙を形成するための間隙保持手段としては、上記したのような凸状部に加えて、接合面に対して凹形状となる凹状部を接合部を含む領域に形成することもできる。
【0044】
すなわち、図5(a)〜(c)は、このような凹状部をアルミニウム合金板材2の側に形成した場合の被接合材アセンブリの構造と接合過程を示す概略図であって、図5(a)に示すように、円形状の丸凹エンボスH1が接合部Jを含むその周囲に形成され、これによって被接合材である亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2の間には間隙Gが設けられた状態で保持される用になっている。なお、この丸凹エンボスH1には、必要に応じてその一部に深さをさらに深くしたシール材溜りHsを形成することもできる。
【0045】
この場合にも、図5(b)及び(c)に示すように、電極E1,E2による押圧によって、同様に湾曲部1b、2bが形成されることから、酸化皮膜2aの破壊や、これによる共晶溶融物の生成、酸化皮膜2aや接合界面の不純物などの排出物D、シール材などの排出が円滑に進行するが、この例ではシール材溜りHsを設けたことによって、これらの排出がより一層促進されることになる。
なお、円形状の丸凹エンボスH1に替えて、図5(d)に示すような矩形状の角凹エンボスH2を形成するようにしてもよく、このような凹状部の形状は部材の形状や板厚によって適宜決定することができる。
【0046】
本発明は、上記のような抵抗スポット溶接装置を用いた断続的な接合に適用することができ、このような点状接合は、例えば自動車用の車体のように、3次元形状を有する構造物に広く適用することができるが、図6に示すように、ローラ状電極E3及びE4備えた抵抗シーム溶接装置を使用し、表面に亜鉛めっき層を備えた亜鉛めっき鋼板1と、酸化皮膜を有するアルミニウム合金板材2とが、シール材Sを介して重ね合わせた状態で、ローラ電極E3,E4により挟持し、接合部を加圧しながら被接合材1,2の間に通電すると共に、ローラ電極E3,E4を回転させることによって、異種金属を連続的な線状に接合することもでき、強度や合成、水密性を要する部位の接合に適用することができる。
【0047】
図7(a)〜(c)は、抵抗シーム溶接による異種金属の接合過程を示す概略図であって、図7(a)は接合後の状態を示す平面図、図7(b)は接合前の被接合材アセンブリの断面図である。
抵抗シーム溶接装置のローラ電極E3及びE4については、少なくとも一方の先端断面形状が曲率を有していることが望ましく、ここでは図中上側のローラ電極E3の先端が曲面Cを有している一方、下方側のローラ電極E4の先端は平面Fとなっており、ローラ電極E3を低融点側であるアルミニウム合金板材2に接するように配することが望ましい。
【0048】
さらに亜鉛めっき鋼板1の接合面には、シール材Sが塗布されると共に、アルミニウム合金板材2には、線状の接合部Jの両側には、間隙保持手段として、図4(a)と同様の円形微少突起P2が複数形成されており、これによって被接合材である亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2を重ね合わせた時、両者の間に間隙Gが形成された状態で保持されるようになっている。
【0049】
接合が開始され、ローラ電極E3,E4による加圧、通電、電極回転が行われると、上記した点状接合の場合と同様に、主としてアルミニウム合金板材2に湾曲部2bが形成され、さらに変形しながら、酸化皮膜の破壊と共晶溶融が進行し、これらと共に接合過程の共晶反応により生じた反応生成物等の接合部周囲への排出と、それによるシール材Sの排出がより容易に行われ、同様に、これら排出物やシール材などが介在することのない新生面同士の強固な連続した接合部Jが形成され、耐食性の高い接合構造を得ることができる。
【0050】
なお、間隙形成手段としては、図7(d)に示すように、上記円形微小突起P2に代えて、長手方向に連続した形状の1対の凸ビードP1を接合線Jと平行に形成することもでき、同様の効果が得られる。
また、先端に丸みを備えたローラ電極は、上記のようにアルミニウム合金板材2の側に配設することが望ましいが、鋼板1の側、あるいは両側に用いてもよい。しかし、電極の加圧によって被接合材の接合面に湾曲部1b、2bが形成される限り、このような形状の電極のみに限定されないことは言うまでもなく、先に述べたスポット接合の場合と何ら変わらない。
【0051】
図8(a)〜(c)は、図6に示した抵抗シーム溶接装置を使用した連続接合に際して、間隙保持手段の凹状部として、図5(d)と同様に、矩形状の角凹エンボスH2を線状の接合部Jを含む領域に形成することによって被接合材間に間隙Gを保持した例を示すものであるが、基本的に構造や接合の進行などについて変わるところはないので、同様の符号を付した図面を示すことによって説明に替える。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
図1に示したような交流電源タイプの抵抗スポット溶接装置を用いて、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1と板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2との接合を行った。なお、亜鉛めっき鋼板1の亜鉛めっき厚さについては、一般的な約20μmのめっき厚のものを使用した。
【0054】
このとき、図2に示したように、アルミニウム合金板材2の側には、間隙保持手段として、種々の高さの凸ビードP1が接合部位を挟んで平行にプレス加工してあり、これによって被接合材1,2間に間隙Gを形成すると共に、両者の間にシール材Sとして、熱硬化性構造用接着剤を介在させるようにした。
そして、3kNの加圧力を加えながら、24000Aの交流電流を0.2秒間通電することによって抵抗スポット溶接を行い、上記アルミニウム合金板材2と亜鉛めっき鋼板1とを接合した。
【0055】
図9は、得られた異種金属継手の接合強度として、JIS Z3136に規定される試験方法に従って板幅20mmにて求めたせん断強度を間隙G(低融点側材料であるアルミニウム合金板材の板厚tに対する比で表示)で整理した結果を示したグラフであって、この図から明らかなように、被接合材1,2間の間隙Gが増すにしたがって、強度が上昇するが、隙間Gが板厚の2倍を超えると低下傾向が認められ、0.3t〜2.5tの範囲で良好な強度が得られることが確認された。これは間隙Gが増すに従って接合界面からのシール材や反応生成物の排出性が向上し、その結果有効なナゲット径が拡大し、せん断強度が向上したものであり、JIS Z3139に規定される断面マクロ試験を実施することによってナゲット径の拡大が確認できた。
【0056】
(実施例2)
図6に示した抵抗シーム溶接装置を使用し、上記実施例1と同様の亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金材2とを連続的な線状にシーム接合した。
このとき、図7に示したように、アルミニウム合金板材2の側には、プレス加工によって複数の円形微小突起P2を線状接合部位の両側に形成しておき、シール材Sとしての熱硬化性構造用接着剤を介して亜鉛めっき鋼板1に重ねることによって、両板材間に間隙Gを形成させた。
【0057】
そして、加圧力を4kNの一定とし、3200Aの交流電流を通電しながら、1.8m/分の速度で抵抗シーム溶接を行い、上記アルミニウム合金板材2と亜鉛めっき鋼板1とを線状に接合した。さらに、JIS Z3141のシーム溶接の試験方法に示す断面マクロ試験により、ナゲット径を評価した。
【0058】
その結果、前実施例と同様、被接合材間の間隙Gが増すにしたがって、シール材の排出性が向上するため、接合部断面のナゲット径が拡大するが、間隙Gが板厚の2倍を超えると低下傾向が認められ、0.3t〜2.5tの範囲で良好なナゲット径拡大効果が認められ、継手強度が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に用いる抵抗スポット溶接装置の全体的な構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態として抵抗スポット溶接による異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図3】本発明によって接合された異種金属の接合部の拡大断面図である。
【図4】本発明における間隙保持手段としての凸状部の他の形態例を示す平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態として抵抗スポット溶接による異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図6】本発明に用いる抵抗シーム溶接装置の全体的な構成を示す概略図である。
【図7】本発明の他の実施形態として抵抗シーム溶接による異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図8】本発明のさらに他の実施形態として抵抗シーム溶接による異種金属の接合要領を示す概略図である。
【図9】本発明により得られた異種金属継手の接合強度に及ぼす被接合材の間隙の影響を示すグラフである。
【符号の説明】
【0060】
1 亜鉛めっき鋼板
1a 亜鉛めっき層(第3の材料)
2 アルミニウム合金板材
G 間隙
S シール材
P1、P2、P3 凸状部(隙間保持手段)
H1、H2 凹状部(隙間保持手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる金属材料同士を重ね合わせた被接合材の間にこれら金属材料とは異なる金属から成る第3の材料を介在させ、上記被接合材の少なくとも一方の材料と第3の材料との間で共晶溶融を生じさせて抵抗溶接するに際し、被接合材間に間隙を形成した状態で接合部を加圧し、通電することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
上記被接合材の少なくとも一方の材料に第3の材料が被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の異種金属の接合方法。
【請求項3】
上記被接合材の一方の材料が亜鉛めっき鋼板であって、当該亜鉛めっき鋼板にめっきされている亜鉛を第3の材料として利用することを特徴とする請求項2に記載の異種金属の接合方法。
【請求項4】
上記金属材料同士をシール材を介して重ね合わせたのち、接合部の少なくとも中央部に介在するシール材を接合界面から排出し、両材料を直接接触させて接合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項5】
上記異種金属材料のうち低融点側材料の板厚をtとするとき、被接合材間に形成された間隙が0.3t〜2.5tであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項6】
上記間隙が被接合材の少なくとも一方に形成された間隙保持手段によって形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項7】
上記間隙保持手段が接合面に形成された複数の凸状部であって、接合部の両側又は周囲に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の異種金属の接合方法。
【請求項8】
上記間隙形成手段が接合面に形成された凹状部であって、接合部を含む領域に形成されていることを特徴とする請求項6に記載の異種金属の接合方法。
【請求項9】
上記被接合材をスポット溶接によって断続的に接合することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項10】
上記被接合材をシーム溶接によって連続的に接合することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の異種金属の接合方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の接合方法によって得られる接合構造であって、上記被接合材の新生面同士が直接接合されていると共に、当該接合部の周囲の被接合材間に間隙が形成され、当該間隙内に被接合材、第3の材料、酸化皮膜、接合過程で生成される反応物及びシール材から成る群より選ばれる少なくとも1種が流入していることを特徴とする異種金属の接合構造。
【請求項12】
上記金属材料のうち低融点側材料の板厚をtとするとき、両金属材料間に形成された間隙が0.3t〜2.5tであることを特徴とする請求項11に記載の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−264822(P2008−264822A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110619(P2007−110619)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】