説明

異種金属の接合方法

【課題】鋼に代表される鉄系合金板材とアルミニウム合金板材の重ね接合において、アルミニウム合金側からの高エネルギービーム照射によって高強度の接合が可能な異種金属の接合方法を提供する。
【解決手段】鉄系合金から成る第1の板材1とアルミニウム系合金から成る第2の板材2とを金属間化合物層4を介して重ね接合するに際して、第2の板材2の端からデフォーカスさせた高エネルギービームBの照射中心までの距離をWとし、高エネルギービームBのデフォーカス径をDとするとき、照射位置Wをデフォーカス径の2分の1以上(W≧D/2)とすると共に、接合界面温度が第2の板材(アルミニウム系合金)2の融点を超えないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼材などの鉄系合金材料とアルミニウム合金材料から成る異種金属同士の接合技術に係わり、さらに詳しくは、電子ビームやレーザビームのような高エネルギービームをアルミニウム合金材料の側に照射しながら、接合界面にFeとAlの金属間化合物を生成させて重ね接合する接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子ビームやレーザビームなどのような高エネルギービームを用いた異種材料の重ね接合においては、従来、脆い金属間化合物の生成を抑制するために、高融点材料にデフォーカスさせた高エネルギービームを照射し、高融点材料側からの伝熱により接合界面の低融点材料側を溶融させて接合する方法がとられていた。
【0003】
このような場合、溶接条件をコントロールし、接合界面において、低融点材料のみを溶融させ、材料の拡散を利用して接合することで、金属間化合物層の成長を抑制し、その厚さを薄くすることによって、両方の材料を溶融させて接合した場合よりも、接合部の単位面積当りの強度を高くすることができると考えられており、例えば、非特許文献1には、アルミニウム合金の上に鋼板を重ね、鋼板の上方からレーザビームを照射することによって、界面を固相/液相状態として異種材の接合を行なう方法が記載されている。
【0004】
しかし、この方法では鋼板側からの伝熱によって接合界面のアルミニウム合金を溶融させるため、アルミニウム合金の上に鋼板を重ねて、鋼板側の外側方向からレーザビームを照射しなければならないという、接合継手の構造設計上の制約がある。
【0005】
一方、自動車の製造においては、車両の軽量化による燃費向上や運動性能向上を目的として、車体パネルにアルミニウム合金などの軽合金を用いた車体構造が求められているが、例えば、低重心化による性能向上効果の大きいルーフパネルにアルミニウム合金を用いた場合、鋼製部材から成る車体骨格構造の上から、アルミニウム合金製のルーフパネルが重ねられるため、レーザヘッドの近接性から、車体骨格構造の外側、つまりルーフパネル側であるアルミニウム合金側からレーザビームを照射しなければならない接合構造となる。
また、ルーフパネルに限らず、他の車体外板パネルにアルミニウム合金を用いた場合についても、鋼製の車体骨格構造の上にアルミニウム合金製の車体パネルを重ねる構造となることから、上記したような鋼板側からレーザビームを照射するという方法が適用できないことが多いという問題点がある。
【0006】
このため実用上は、アルミニウム合金側からリベットなどを打ち込んで、機械的締結によってアルミニウム合金製パネルを鋼製の車体骨格構造に接合する方法(非特許文献2参照)が採用されることになる。
また、鋼板側にアルミニウム又は亜鉛めっきを施した状態で、アルミニウム合金側からレーザビームを照射して接合する異材接合方法が知られている(特許文献1又は2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「溶接学会全国大会講演概要」、社団法人日本溶接学会、2003年4月、第72集、p.152
【非特許文献2】三菱自動車 テクニカルレビュー 2004,No.16 P.82
【0008】
【特許文献1】特開2006−88175号公報
【特許文献2】特開2006−116600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記非特許文献2に記載された機械的締結による方法では、外観デザイン自由度に制約が生じる場合があるという問題点がある。
また、アルミニウム合金側からレーザビームを照射する上記特許文献1及び2に記載の方法では、アルミニウム合金が溶融していることから、接合界面に金属間化合物が厚く生成するため、継手強度が十分に得られないという問題がある。
【0010】
本発明は、高エネルギービームを用いた異種金属の接合、特に、鋼に代表される鉄系合金とアルミニウム合金の接合における上記課題に鑑みてなされたものであって、アルミニウム合金側からの高エネルギービーム照射によって接合することができ、しかも高い接合強度を安定して得ることができる異種金属の接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、高エネルギービームを被接合材の重ね合わせ部に照射しながら照射部位を加圧し、接合界面に所定厚さの金属間化合物を生成させて両板材を接合するようになすことによって、接合強度を確保することができ、しかも高エネルギービームを鋼材側に照射するよりも、むしろアルミニウム合金側に照射した方が上記金属間化合物の厚さ制御が容易であることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち、本発明の異種金属の接合方法においては、鉄系合金から成る第1の板材とアルミニウム系合金から成る第2の板材を重ね合わせ、デフォーカスさせた高エネルギービームを第2の板材の重ね合わせ部に照射しつつ、重ね合わせ部を相対的に加圧し、接合界面に生成される金属間化合物層を介して両板材を重ね接合するに際して、デフォーカスさせた高エネルギービームの中心が第1の板材に重ねた第2の板材の端縁からデフォーカス径の2分の1以上離れた位置となるように照射し、接合界面を第2の板材の融点未満に加熱するようにしている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉄系合金から成る第1の板材とアルミニウム系合金から成る第2の板材とを金属間化合物層を介して重ね接合するに際して、デフォーカスさせた高エネルギービームの中心が第1の板材に重ねた第2の板材の端縁からデフォーカス径の2分の1以上離れた位置に照射して、接合界面を第2の板材の融点未満に加熱しながら、加圧するようにしている。したがって、接合界面に金属間化合物層が好適な厚さ二生成され、例えば自動車の製造において、車体骨格構造の外側からの高エネルギービーム照射によって、接合強度の高い異種金属の重ね接合継手を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による異種金属の接合要領を説明する側面図(a)及び正面図(b)である。
【図2】鋼板とアルミニウム合金板材の接合において、接合界面に生成される金属間化合物層の厚さと接合強度の関係を示すグラフである。
【図3】本発明の異種金属の接合方法におけるレーザビームの照射位置を示す概略図である。
【図4】本発明の異種金属の接合方法における板材端部の強制冷却要領を説明する概略図である。
【図5】Al−Zn系2元状態図における共晶点を示すグラフである。
【図6】(a)〜(e)は共晶溶融を利用した本発明の異種金属の接合過程を概略的に示す工程図である。
【図7】本発明の異種金属接合方法の一実施形態として、鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルの接合構造例を示す斜視図(a)及び断面図(b)である。
【図8】本発明の異種金属接合方法により得られた接合部の横断面マクロ写真の代表例である。
【図9】鋼製車体部材とアルミニウム製ルーフパネルのリベットによる接合構造例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の異種金属の接合方法について、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【0016】
図1(a)及び(b)は、本発明における異種金属の接合要領を示す概略図であって、図1(a)は、接合の進行方向と直交する方向から見た側面図であり、図1(b)は接合進行方向から見た正面図である。
図示するように、第1の板材である鋼板1の上に第2の板材としてのアルミニウム合金板材2が重ねられ、図中上方側からアルミニウム合金板材2の表面にデフォーカスさせたレーザビームBを移動させながら照射することによって、当該アルミニウム合金板材2が加熱される。
【0017】
続いて、加圧手段であるローラ3によって、レーザ照射の直後位置を押圧し、アルミニウム合金板材2を鋼板1に押し付ける方向に加圧すると、レーザビームBの照射によって加熱されたアルミニウム合金板材2からの伝熱によって、接合界面が加熱されると共に、加圧ローラ3による加圧によって、接合界面に金属間化合物層4が所定の厚さに形成され、上記鋼板1とアルミニウム合金板材2が金属間化合物層4を介して接合される。
なお、レーザビームBと加圧ローラ3は、被接合材1,2に対して、相対的に移動可能に構成されている。
【0018】
図2は、上記した要領(但し、レーザビームを鋼板側に照射した場合のデータも一部含まれる)によって、種々の条件のもとに接合した鋼板とアルミニウム合金板材から成る異材重ね継手の強度(せん断引張り強さ)を接合界面に形成された金属間化合物層4の厚さで整理した結果を示すグラフであって、図に示すように、重ね継手強度は、被接合材の板厚、レーザビームの照射条件や照射方向、照射位置、加圧力などにはほとんど関わりなく、接合界面に形成される金属間化合物層4の厚さによって大きく影響されることが判明した。
【0019】
すなわち、レーザビームによる入熱量が不足して、接合界面が十分に加熱されることなく金属間化合物層が形成されない場合には、接合が不可能である一方、金属間化合物層4の厚さが5μmを超えると接合強度が急激に低下する傾向が認められ、金属間化合物層4の厚さを0.8μm〜5μmの範囲に制御することによって極めて優れた接合強度が得られることが判明した。
また、上記範囲内の厚さを有する金属間化合物層4を形成することは、レーザビーム照射を鋼板1の側に行うことによっても不可能ではないが、アルミニウム合金板材2の側に照射する場合に較べてその条件範囲がかなり狭く、特に、薄い厚さの金属間化合物層4をより安定に生成させるためには、鋼板側照射よりもアルミニウム合金板材の側に照射する方が良いことが確認された。
【0020】
本発明の異種金属の接合方法においては、第1の板材(鉄系合金)と第2の板材(アルミニウム系合金)との重ね合わせ部における第2の板材の表面にデフォーカスした高エネルギービームを照射し、その照射位置直後を加圧して、接合界面に生成する金属感化合物層を介して両板材を重ね接合する。
このとき、高エネルギービームの照射位置としては、図3に示すように、第1の板材(鉄系合金)に重ねた第2の板材(アルミニウム系合金)の端からデフォーカスさせた高エネルギービームの照射中心までの距離をWとし、高エネルギービームのデフォーカス径をDとするとき、照射位置Wをデフォーカス径の2分の1以上(W≧D/2)とする。また、接合界面温度が第2の板材、すなわちアルミニウム系合金板材の融点を超えないようにする必要がある。
【0021】
これによって高エネルギビームが第2の板材の端部から近い位置に照射されるのを防止し、熱容量が小さく溶融しやすい第2の板材(アルミニウム系合金)の重ね合わせ端部における溶融を抑制し、接合界面の過熱を防止して、金属間化合物の過剰な生成を阻止することができる。
したがって、金属間化合物層の厚さを上記した好適範囲に制御することができ、接合界面での強度低下を防止して、継手強度の向上を図ることができる。
【0022】
さらに、熱容量が小さく溶融しやすい第2の板材端部の溶融を抑制して、接合界面における金属間化合物の過剰な生成を防止する観点から、例えば、図4(a)〜(c)に示すような方法によって、第2の板材2の端部を強制冷却することも望ましい。
【0023】
すなわち、図4(a)に示すように、加圧ローラ3に近傍に配設したノズル5から冷却用のガスを板材2の端部に向けて噴射したり、図4(b)に示すように、加圧ローラ3の端部に抜熱用フランジ3aを設け、第2の板材2の端部に当接させて、板材2の端部から加圧ローラ3への伝熱を生じさせたりすることによって、端部を冷却して温度上昇を抑え、金属間化合物の過剰な成長を阻止することができるようになる。
また、図4(c)に示すように、アルミニウム系合金から成る第2の板材2として、鋳造パネルを使用した場合、その端部に断面積を大きくした厚肉部2aを設けておくことによって、当該板材2の端部の熱容量が増大し、端部の溶融を防止することが可能となる。
【0024】
上記したように、本発明によれば、低融点材料であるアルミニウム系合金側から高エネルギービームを照射した場合でも、接合界面における金属間化合物の過剰な生成を抑制することができ、接合界面での強度低下を防止して、高い継手強度を得ることができ、結果として接合構造自由度が高い接合構造が得られる。また、必ずしも接合部が材料端部でなくてもよいので、継手自由度がさらに向上することになる。
【0025】
さらに、本発明においては、第1の板材に、第2の板材の成分であるアルミニウムと共晶反応を生じる金属によるめっきを施しておくことが望ましく、共晶溶融を利用することによって、アルミニウム系合金から成る第2の板材の表面に生成している強固な酸化皮膜を比較的低温で除去することができるようになり、金属間化合物の過剰な成長を抑えることができるようになる。
【0026】
アルミニウムと共晶を形成する金属としては、例えば、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、錫(Sn)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)などを挙げることができ、純金属のみならず、これら金属を含む合金を用いることもできる。
そして、本発明においては、鉄系合金から成る第1の板材として、アルミニウムと低融点共晶を形成する亜鉛がその表面にあらかじめめっきされている、いわゆる亜鉛めっき鋼板を用いることができる。この場合には、新たにめっきを施したり、特別な準備を要したりすることもなく、防錆目的で亜鉛めっきを施した通常の市販鋼材をそのまま使用することができ、極めて簡便かつ安価に異種金属の接合に適用することができる。
【0027】
図5は、Al−Zn系2元状態図を示すものであって、図に示すようにAl−Zn系における共晶点(P)は、655Kであり、Alの融点933Kよりもはるかに低い温度で共晶反応が生じる。
【0028】
本発明において、共晶溶融とは、共晶反応を利用した溶融を意味し、2つの金属(又は合金)が相互拡散して生じた相互拡散域の組成が共晶組成となった場合に、保持温度が共晶温度以上であれば共晶反応により液相が形成される。例えばアルミニウムと亜鉛の場合、アルミニウムの融点は933K、亜鉛の融点は692.5Kであるのに対して、この共晶金属はそれぞれの融点より低い655Kにて溶融する。
したがって、両金属の清浄面を接触させ、655K以上に加熱保持すると反応が生じる。これを共晶溶融といい、Al−95%Znが共晶組成となるが、共晶反応自体は合金成分に無関係な一定の変化であり、合金組成は共晶反応の量を増減するに過ぎない。
【0029】
共晶組成は相互拡散によって自発的に達成されるため、組成のコントロールは必要ない。必須条件は2種の金属あるいは合金の間に、低融点の共晶反応が存在することであり、アルミニウムと亜鉛の共晶溶融の場合、亜鉛に代えてZn−Al合金を用いる場合には、少なくとも亜鉛が95%以上の組成でなければならない。
【0030】
図6(a)〜(e)は、本発明による異種金属の接合プロセスとして、亜鉛めっき鋼板(第1の板材)とアルミニウム合金板材(第2の板材)との接合例を示す概略図である。
【0031】
まず、図6(a)に示すように、少なくとも接合界面側の表面に、Alと共晶を形成する亜鉛めっき層1pが施された亜鉛めっき鋼板1と、アルミニウム合金板材2を用意し、図6(b)に示すように、これら亜鉛めっき鋼板1とアルミニウム合金板材2を亜鉛めっき層1pが内側になるように重ねる。なお、アルミニウム合金板材2の表面には酸化皮膜2cが生成している。
【0032】
次に、アルミニウム合金板材2の表面に高エネルギービームとしてレーザビームを照射し、接合界面が所定の温度範囲となったところで、加圧し、接合面を相対的に押圧すると、押圧による塑性変形や熱的衝撃などによって、図6(c)に示すように材料表面の微視的な接触部Cにおいて、局部的に酸化皮膜2cが破壊される。
【0033】
これによって、亜鉛とアルミニウムの局部的な接触が生じ、そのときの温度状態に応じて、図6(d)に示すように、亜鉛とアルミニウムの共晶溶融が生じ、共晶溶融金属Meと共に酸化皮膜2cや接合界面の不純物などから成る排出物が接合部の外側(矢印方向)に排出されることにより、所定の接合面積が確保され、その結果、図6(e)に示すように、アルミニウム合金板材2と鋼材1の新生面同士が極めて薄い反応層、すなわち金属間化合物層4によって接合され、鋼とアルミニウム合金の強固な金属接合を得ることができる。
なお、アルミニウム合金と鋼の反応層4の一部には、めっき仕様や接合条件によっては亜鉛の薄い反応層が生じる場合もあるが、接合強度への影響は少なく問題はない。
【0034】
図7(a)及び(b)は、本発明の一実施形態として、鋼製の車体部材と軽合金製のルールパネルの接合に本発明を適用した例を示すものであって、図において、全て鋼製のレールインナ21、レールアウタ22及びサイドアウタ23を溶接により組み立てて成る車体部材20の上方から、アルミニウム合金製のルーフパネル25が重ねられ、車体部材20のサイドアウタ23には接合面23aが設けてあり、アルミニウム合金製ルーフパネル25に形成された接合フランジ25aがこれに重ねられている。
なお、接合面23aを有する上記サイドアウタ23については、表面に亜鉛がめっきされた亜鉛めっき鋼板が使用されている。当然ながら、他の鋼製パネルについても亜鉛めっき鋼板を使用することができる。
【0035】
図7(b)は、図7(a)の要部拡大断面図であって、接合にあたっては、ルーフパネル25の接合フランジ25aに沿って、接合フランジ25aの側から、デフォーカスさせたレーザビームBが照射されると、加圧ローラ3がルーフパネル25の接合フランジ25aを車体部材20に押し付ける方向に加圧する。
【0036】
ここで、レーザビームBを照射する照射ヘッド(図示せず)と加圧ローラ3は、車体部材20に対して、相対的に移動可能に設置されており、レーザビームBをルーフパネル25の接合フランジ25aに沿って移動させながら、接合フランジ25aに照射し、加熱する。
このとき、接合フランジ25aの端部の溶融を防止するために、接合フランジ25aの端部には、レーザビームBが照射されない部分ができるようにレーザビームBの照射位置を調整する。
【0037】
そして、加圧ローラ3による加圧によって、ルーフパネル25の接合フランジ25aが車体部材20の接合面23aに押し付けられて密着し、接合フランジ25aからの伝熱によって、接合フランジ25aとの接合面23aの界面が加熱され、接合界面が共晶反応の発現する温度に保持され、かつ加圧ローラ3による加圧力が加えられることにより、ルーフパネル25の接合フランジ25aと車体部材20の接合面23aとが金属間化合物層を介して接合される。
【0038】
一方、図9は、リベット締結による異種金属パネルの接合構造例を示すものであって、鋼製のレールインナ51と鋼製のレールアウタ52が溶接によって組み立てられた車体部材50の上方から、軽合金製のルーフパネル53が重ねられ、車体部材50の接合フランジ部55にルーフパネル側から複数のリベットRを打ち込むことによって、点状に接合して組み立てられている。
そのため、このようなリベット締結構造では、リベットRを打ち込む際には、車室内からの押え(図中の矢印T方向)が必要となるため、接合フランジ55の設定位置の設計自由度が低くなると共に、フランジ幅W0がリベットRの直径以上に広くなり、外観デザインが劣ることになる。
【0039】
これに対し、図7に示した本発明による接合構造においては、アルミニウム合金製のルーフパネル25の接合フランジ25aの剛性に比較して、鋼製の構造部材である車体部材20の剛性が十分に高いため、加圧ローラ3による加圧に対して車室内側からの押さえが必要なくなり、ルーフパネル25と車体部材20の接合位置や構造が比較的自由に設定できるため、設計自由度が高く、しかも接合フランジ幅(W1)もより狭くできるため、車体としての外観品質が向上する。
また、本接合方法では、構造上車体の外側となるルーフパネル25の側からのレーザビーム照射によって、接合が可能であるため、接合構造が単純であり、継手自由度が高い。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0041】
(試験1)
図3に示すように、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1(第1の板材、亜鉛めっき厚さ:約20μm)の上に、板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2(第2の板材)を重ね、アルミニウム合金板材2の側から、Nd:YAGレーザを照射した。
【0042】
照射条件としては、最大出力3kWのYAGレーザ発振器と、焦点距離150mmのレンズを用い、アルミニウム合金板材2の表面上において4mm×5.5mmのデフォーカスビームとなるよう焦点を調整し、レーザ出力を1.0kWとすると共に、レーザ照射中はレーザと同軸のノズルからアルゴンガスを25L/minの流量で流すことによって接合部位をシールドした。
このとき、レーザビームBは、図1に示しているように進行方向前方から斜めに照射している関係上、デフォーカスビームの形状は上記のような楕円形となるが、ビーム径Dとしては、図3に示す幅方向の径を意味することから、D=4mmということになる。
【0043】
そして、レーザ照射ヘッドを移動させながら、これに追随する加圧ローラ3によって、レーザビームBの照射中心位置から20mm後方の位置を加圧し、移動速度やビーム照射位置W(図3参照)などを変化させて、両板材を連続的に線状接合した。
【0044】
得られた重ね継手から、接合部を接合線と直角方向の断面で切断した断面マクロ試験片を切り出し、接合界面に形成されている金属間化合物層4の平均厚さを計測すると共に、板幅20mmの試験片を切り出し、これを用いたせん断引張り試験によって、接合強度を調査した。
図8は、上記によって得られた接合部の代表例として試験No.3の断面マクロ写真を示すものであって、金属間化合物層の平均厚さについては、写真中に示すように、接合部の中央部(B部)一箇所と、接合部の左右端部(A及びC部)2箇所の計3箇所について、SEM写真撮影を行い、SEM写真上の代表的な位置で5点の厚さを計測して、そのSEM写真観察範囲での金属間化合物層厚さの平均値を計算後、さらに各SEM写真3点の平均を採ることによって求めた。
【0045】
【表1】

【0046】
表1の結果から明らかなように、レーザビームBの移動速度が遅くて、入熱量が過剰であったり、レーザビームBの照射位置がアルミニウム合金板材2の端縁に近くて、端部を溶融させてしまったりした場合には、金属間化合物層が過剰に成長してその平均厚さが5μmを超える結果、接合界面破断となって十分な接合強度が得られないことが確認された。
なお、接合時における界面の最高到達温度については、ビームBの移動委速度が1.2m/minの場合(例えば、No.3)には、約400℃であったが、これ以外の場合についても、接合界面においてアルミニウム合金板材の溶融は認められず、いずれもアルミニウム合金の融点には達していないことが確認された。
【0047】
(試験2)
板厚1.0mmの6000系アルミニウム合金板材2(第2の板材)の上に、板厚0.55mmの亜鉛めっき鋼板1(第1の板材、亜鉛めっき厚さ:約20μm)を重ね、鋼板1の側から、種々の条件でレーザビームBを照射することによって、上記試験1と同様の異材重ね接合を行った。その結果を接合条件と共に表2に示す。
なお、レーザビームBを鋼板側から照射した場合には、移動速度を遅くしたこともあって、接合界面の最高到達温度が高くなる傾向が認められたが、この場合も接合界面におけるアルミニウム合金板材の溶融はなく、いずれもアルミニウム合金の融点には達していないことが確認された。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、鋼板1の側からレーザビームBを照射した場合でも、金属間化合物層の厚さを0.8〜5μmの厚さに形成すること、言い換えると本発明の接合構造を得ることが不可能ではないものの、表1に記載したアルミニウム合金板材2の側から照射する場合に較べて、金属間化合物層厚さを上記範囲に制御するための接合条件が狭く、接合方法としては、アルミニウム合金板材2の側からのレーザ照射が好適であることが確認された。
【符号の説明】
【0050】
1 鋼板(第1の材料)
1p 亜鉛めっき層
2 アルミニウム合金板材(第2の材料)
4 金属間化合物層
B レーザビーム(高エネルギービーム)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系合金から成る第1の板材とアルミニウム系合金から成る第2の板材を重ね合わせ、デフォーカスさせた高エネルギービームを第2の板材の重ね合わせ部に照射しつつ、重ね合わせ部を相対的に加圧し、接合界面に生成される金属間化合物層を介して両板材を重ね接合するに際して、
デフォーカスさせた高エネルギービームの中心が第1の板材に重ねた第2の板材の端縁からデフォーカス径の2分の1以上離れた位置となるように照射して、接合界面を第2の板材の融点未満に加熱することを特徴とする異種金属の接合方法。
【請求項2】
第1の板材に重ねた第2の板材の端部を冷却しながら高エネルギービームを照射することを特徴とする請求項1に記載の異種材料の接合方法。
【請求項3】
第1の板材がアルミニウムと共晶反応を生じる金属から成るめっき層を備え、接合界面に共晶溶融を生じさせて接合することを特徴とする請求項1又は2に記載の異種材料の接合方法。
【請求項4】
第1の板材が亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする請求項3に記載の異種材料の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−254484(P2012−254484A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−222361(P2012−222361)
【出願日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【分割の表示】特願2007−110569(P2007−110569)の分割
【原出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】