説明

異臭抑制性の樹脂積層体とそれを用いた異臭抑制方法

【課題】エポキシ樹脂等の樹脂とハロゲンとの接触を回避し、これによって各種ハロゲン化フェノールの生成を抑制し、ハロゲン化フェノールやそれから生成するハロゲン化アニソールによる異臭を低減させる手段を提供する。また、既にそれらハロゲン化化合物が当該樹脂中に生成している場合において、それらのハロゲン化化合物の樹脂からのブリードおよび/または樹脂表面から大気中への揮散を抑制する手段を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂等の樹脂を含む層上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む樹脂層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂等の樹脂と残留塩素との接触による異臭物質の生成を抑制する、および/または既に異臭物質が存在する樹脂からの異臭物質のブリードおよび/または揮散を抑制する異臭抑制性樹脂積層体、および該異臭抑制性樹脂積層体を用いた異臭の抑制方法等に関する。また、本発明は、当該積層体を形成するための樹脂被膜形成用組成物にも関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品に関し、クロロフェノール類を原因物質とする異味異臭のトラブルが報告されている。例えば、野菜の栽培時に散布された農薬が残留、分解して、薬品様臭を呈するジクロロフェノールが生成することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。また、水中に含まれていたフェノールと残留塩素が反応し、ジクロロフェノール(DCP)及びトリクロロフェノール(TCP)を生成し、食品を汚染するトラブルが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
その他にも、殺菌や漂白を目的として木製品に散布された次亜塩素酸ナトリウムなどに由来する残留塩素と木材中のリグニン及びその分解物とが反応して、ジクロロフェノール及びトリクロロフェノールが生成することも報告されている(例えば、非特許文献3参照)。また、生成したトリクロロフェノールが変換菌によって非常に官能閾値が低いトリクロロアニソール(TCA)に変換され、トリクロロアニソールによって食品の香味が損なわれることが知られている。さらに、防黴剤として木製品に散布されたトリクロロフェノールが変換菌によってトリクロロアニソールに変換され、生成したトリクロロアニソールの臭気により食品が汚染され、食品の回収等の大きな問題を引き起こすことが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0004】
一般に、エポキシ樹脂は、光沢があり、強度などの機械的特性に優れていること、薬品に対して優秀な耐性を有すること、硬化中に放出される揮発性分が少ないこと、接着性が良好であることなどから、床材などの土木建築用途、塗料、接着剤などに広く使用されている。特に、清潔さが求められる食品製造場や食品加工場、病院などの床材として、エポキシ樹脂が多用されている。
【0005】
しかしながら、エポキシ樹脂系建築材に由来する臭気については、従来あまり検討されておらず、溶剤臭の低減が検討される程度であった。例えば、特開2005−48118号には、原料の溶解や施工性の向上のために使用される溶媒をより低臭気の溶媒に変更することによって、建築作業の環境改善を図ることが記載されている。このように、従来、エポキシ樹脂については、施工時や施工直後の溶剤臭を低減するための検討はなされていたものの、硬化後のエポキシ樹脂に由来して発生する臭気については十分な検討がなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−48118号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「横浜市衛生研究所における食品の苦情対応事例−薬品臭等に関する苦情−」、平成20年2月28日掲載、横浜市ホームページ(http://www.city.yokohama.jp/me/kenkou/eiken/)
【非特許文献2】荻原勉ほか、「クロロフェノール類を異臭の原因物質とした甘納豆の苦情事例」、東京都健康安全研究センター年報、54,227−230(2003)
【非特許文献3】Die Weinwirtschaft Technik, 13,9,276−279(1985)
【非特許文献4】日本包装学会誌,Vol.3,No.1,35(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の中、本発明者は、床材などの建築材として使用されるエポキシ樹脂の硬化促進剤として添加されるフェノール系化合物やエポキシ樹脂中に不純物として存在するフェノール系化合物が塩素などのハロゲンと接触するとジクロロフェノールやトリクロロフェノールを始めとする各種ハロゲン化フェノールが生成し、異臭の原因となることを見出した。さらに本発明者は、生成したジクロロフェノールやトリクロロフェノールが、極めて官能閾値が低く、カビ臭の原因となるトリクロロアニソールに微生物によって変換され、異臭の原因となることを突き止めた。
【0009】
特に、清潔さが求められる製造現場、病院などでは、洗浄、除菌などを目的として塩素を含む薬剤が使用され、床材などの建築材が薬剤中の塩素と接触する機会が比較的多い。例えば、食品製造後、塩素を含む薬剤やその水溶液を用いて製造ラインの洗浄が行われることがあるが、その廃液がエポキシ樹脂組成物からなる床材などに接触することがある。また、殺菌や除菌を目的として、エポキシ樹脂系の建築材に塩素を含む薬剤やその水溶液が直接散布されることもある。
【0010】
したがって、エポキシ樹脂系の建築材が残留塩素に接触すると、ジクロロフェノール(DCP)、トリクロロフェノール(TCP)を始めとする各種塩素化フェノールが生成し、さらに、微生物によってトリクロロアニソール(TCA)が生成して、異臭トラブルが発生するおそれがある。例えば、これらの異臭物質が環境中に揮散して異臭を呈したり、また、異臭物質が食品製造工程において生じると食品を汚染し食品の香味を損なうことになる。
【0011】
さらに、近年、塩素系殺菌剤に代えて臭素系殺菌剤の使用が拡大しているが、塩素系薬剤の場合と同様に、フェノール系化合物と臭素系薬剤との接触によりジブロモフェノール、トリブロモフェノールを始めとする各種臭素化フェノールが生成し、さらに、微生物によってトリブロモアニソール(TBA)が発生し、異臭トラブルが発生するおそれもある。
【0012】
また、エポキシ樹脂系の建築材はビスフェノール骨格を有する化合物からなるものが一般的である。ビスフェノール骨格を有する化合物の1つであるビスフェノールAは残留塩素10ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で塩素化フェノールを生成することが報告されている(Takashi Ymamoto, et.,Chemosphere,46,1215−1223(2002))。したがって、エポキシ樹脂系の建築材が塩素を含む薬剤と接触すると、エポキシ樹脂に硬化促進剤として添加されるフェノール系化合物および/または不純物としてエポキシ樹脂中に存在するフェノール系化合物と残留塩素との反応以外にも、エポキシ樹脂中のビスフェノールAと残留塩素による塩素化フェノールの生成反応が起こることも考えられる。
【0013】
さらに、一旦エポキシ樹脂中に上記のようなハロゲン化フェノールやハロゲン化アニソールなどが生成すると、樹脂表面の洗浄などによって当該ハロゲン化化合物に由来する異臭を低減することは困難である。
【0014】
本発明者はこのような問題点に着目し、建築材などに用いられるエポキシ樹脂(例えば床材)と塩素などのハロゲンとの接触を回避し、これによって各種ハロゲン化フェノールの生成を抑制し、ハロゲン化フェノールやハロゲン化アニソールによる異臭を低減させることを検討した。また、既に各種ハロゲン化フェノールやハロゲン化アニソールなどがエポキシ樹脂中に生成している場合において、樹脂からのそれらのハロゲン化化合物のブリードおよび/または樹脂表面から大気中への揮散を抑制し、それらのハロゲン化化合物に由来する異臭を低減させることを検討した。さらに、そのような技術の、他の樹脂への適用可能性についても検討した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂(例えば床材)の表面に、特定の樹脂を用いて被膜を形成することによって、残留塩素とエポキシ樹脂との接触を効果的に回避できることを見出した。また、ハロゲン化フェノールやハロゲン化アニソールなどの異臭物質が生成したエポキシ樹脂の表面に、特定の樹脂を含む被膜を形成することにより、樹脂からの当該異臭物質のブリードおよび/または大気中への揮散を効果的に抑制できることを見出した。さらに、この技術は、エポキシ樹脂だけでなく、ビスフェノール骨格を有する他の樹脂、例えば、エポキシアクリレート系樹脂にも適用できることを見出した。これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、以下のものに関する。
1.硬化エポキシ樹脂又は硬化エポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面又は両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層が形成されてなる、異臭抑制性樹脂積層体。
2.第一の樹脂層が、硬化ビスフェノール系エポキシ樹脂又は硬化ビスフェノール系エポキシアクリレート樹脂を含む、1に記載の積層体。
3.前記異臭がハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭である、1記載の積層体。
4.硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面または両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層を形成することを含む、異臭抑制方法。
5.前記異臭がハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭である、4記載の異臭抑制方法。
6.硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面または両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層を形成することを含む、施工方法。
7.ハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭を抑制するために行なわれる、6記載の施工方法。
8.硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む層の片面又は両面上を被膜するための、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂の材料を含む、1液型又は2液以上の用時混合型の樹脂被膜形成用組成物。
9.ハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭を抑制するための、8に記載の組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の樹脂積層体は、それ自体が塩素などのハロゲンと接触しても、エポキシ樹脂やエポキシアクリレート樹脂とハロゲンとの接触を回避することができると共に、エポキシ樹脂やエポキシアクリレート樹脂中に生成したハロゲン化フェノールやハロゲン化アニソールの樹脂からのブリードおよび/または大気中への揮散を抑制し、それらハロゲン化化合物に由来する異臭が低減される。
【0018】
したがって、当該樹脂積層体を、従来から汎用されてきたエポキシ樹脂等に代えて、床材などの建築材料として用いることが有用である。特に、当該樹脂積層体は、異臭の発生を防止することが求められる製造現場、例えば、食品加工現場や食品製造現場、あるいは、薬品との接触が比較的多い病院や研究施設などの建築材料として極めて好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明においては、硬化した又は硬化中のエポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面または両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層を形成させる。第一の樹脂層上に、第二の樹脂層の材料を適用してから硬化させてもよいし、予め硬化させた第二の樹脂層を適用してもよい。このようにして、硬化した第一の樹脂層の片面又は両面上に第二の樹脂層が形成された樹脂積層体が得られる。
また、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を生成するための材料を含む樹脂組成物は、第二の樹脂層のための樹脂被膜形成用組成物として、それ自体有用性を有する。
【0020】
(第一の樹脂層)
第一の樹脂層は、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を用いて形成する。当該樹脂は、例えば、硬化前に床や壁面に塗布して層を形成してから硬化させてもよいし、予め形成された硬化樹脂の層を床や壁面に適用してもよい。また、第一の樹脂層は、新たに形成してもよいが、既に建築材等として一定期間使用されたものであってもよい。例えば、床材として既に使用され、ハロゲンによる消毒を受けたものは、ジクロロフェノール(DCP)、トリクロロフェノール(TCP)およびトリクロロアニソール(TCA)などを生成している可能性があるが、このようなものも、本願発明の第一の樹脂層となりうる。
【0021】
第一の樹脂層においては、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を単独で用いても、それらを組み合わせて用いてもよい。また、第一の樹脂層は、これらの樹脂に加えて他の樹脂、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルメタクリレート樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂を含んでいてもよい。第一の樹脂層中のエポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂の含有量は、限定されないが、典型的には、各々20〜60重量%程度である。
【0022】
(エポキシ樹脂)
本明細書における「エポキシ樹脂」との用語は、当該技術分野における通常の意味を有し、典型的には、高分子内にエポキシ基を有し、グラフト重合により硬化する熱硬化性樹脂及びその硬化物をいう。本明細書において、単に「エポキシ樹脂」という場合、硬化前のプレポリマーまたは硬化後のポリマーを意味する。
【0023】
本発明で使用できるエポキシ樹脂としては、その構造を特に限定されるものではなく、種々のエポキシ樹脂を使用できる。例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂であるビスフェノールA型エポキシ樹脂や、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格やナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ樹脂など種々のエポキシ樹脂を使用でき、これらを単独でも2種類以上の混合物として使用しても良い。本発明における特に好ましいエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むビスフェノール型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
プレポリマーとしてのビスフェノール型エポキシ樹脂としては、市販品を使用することができ、例えば、エピコート825、エピコート827、エピコート828(ジャパンエポキシレジン社製)、D.E.R.331(ダウケミカル社製)、エピクロン830、エピクロン840、エピクロン850(大日本インキ化学社製)、アデカレジンEP−4000、アデカレジンEP−4100、アデカレジンEP−4100G、アデカレジンEP−4901(旭電化社製)、エポミックR110、エポミックR140(三井化学社製)等を挙げることができる。
【0025】
また、本発明で使用するプレポリマーのエポキシ樹脂の分子量は、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは350〜1000、特に好ましくは350〜500である。これらの分子量のエポキシ樹脂を使用すると建築材として好適な物性が得られる。プレポリマー樹脂の性状も特に制限されず、液体状や固体状のものを使用しうるが、常温で硬化するものが好ましい。
【0026】
プレポリマーエポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤は特に限定されず、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤等のいずれの硬化剤を用いてもよい。しかしながら、本発明においては、硬化させたエポキシ樹脂に含まれるフェノール類を少なくすることにより異臭物質の発生を抑制することができるため、フェノール類を含まない、種々の脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ポリアミン、ポリアミドアミン、エポキシアダクト変性ポリアミン等のアミン系硬化剤が好ましい。なかでも、仕上がり性、硬化性が良好で、残留するフェノール化合物が少なく異臭物質の生成が効果的に抑制されるため、エポキシアダクト変性ポリアミンが望ましい。また、本発明において、硬化剤は、単独でも2種以上を混合して使用してもよく、さらに水を含有してもよい。
【0027】
硬化前のエポキシ樹脂と硬化剤との配合割合は特に限定されず、エポキシ樹脂の用途や作業性に応じて適宜調整すればよい。
エポキシ樹脂に関しては、プレポリマーと硬化剤とを含む樹脂被膜形成用組成物が市販されており、それらを用いて第一の樹脂層を形成してもよい。そのような市販の組成物の例としては、ケミクリートE((株)エービーシー商会製)やケミクリートE・NP((株)エービーシー商会製)が挙げられる。
【0028】
(エポキシアクリレート樹脂)
本明細書における「エポキシアクリレート樹脂」との用語は、当該技術分野で知られている通常の意味を有し、典型的には、エポキシ樹脂のエポキシ基部分にアクリル酸又はメタクリル酸を付加した樹脂をスチレン、またはメチルメタクリレートモノマー、またはメチルメタクリートのプレポリマー等で希釈したものであって、エポキシアクリレート樹脂の含有量が20〜60%程度であり、金属触媒やアミン系触媒と過酸化物を用いて、ラジカル反応により重合して硬化する樹脂、及びその硬化物を意味する。本明細書において、単に「エポキシアクリレート樹脂」という場合、硬化前のプレポリマーまたは硬化後のポリマーを意味する。
【0029】
本発明においては、エポキシアクリレート樹脂はその構造が特に限定されるものではなく、種々のものを使用できるが、好ましくは、ビスフェノール骨格を有するエポキシアクリレート樹脂、例えば、ビスフェノール系ビニルエステル樹脂、ビスフェノール系不飽和ポリエステル樹脂、ノボラック型ビニルエステル樹脂であり、これらを単独で、又は2種類以上の混合物として使用することができる。
【0030】
プレポリマーとしてのビスフェノール型エポキシアクリレート樹脂としては、市販品を使用することができ、例えば、リポキシR−804(昭和高分子社製)、ディックライトUE−5210(DIC社製)等を挙げることができる。
【0031】
プレポリマーとしてのエポキシアクリレート樹脂を硬化させるため、金属触媒またはアミン系触媒と有機過酸化物とを併用して用いるが、それは特に限定されず、知られているいずれの触媒と有機過酸化物を用いてもよい。典型的な金属触媒としては、ナフテン酸コバルト、オクテン酸コバルト等が、アミン系触媒としては、ジメチルアニリン、トリメチルアニリン等をミネラルスピリット等で希釈されたものが挙げられる。また有機過酸化物としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメン酸パーオキサイド等をフタル酸ジオクチル、フタル酸ジメチル等で希釈したものが挙げられる。
【0032】
硬化前のエポキシアクリレート樹脂と触媒と有機過酸化物との配合割合は特に限定されず、当該樹脂の用途や作業性に応じて適宜調整すればよい。
本発明においては、樹脂層の生成の際に希釈剤を使用することができる。希釈剤を使用することにより、原料となる樹脂及び硬化剤等を適正な粘度に調整できたり、施工面の仕上がり性を良好にできる。希釈剤は特に限定されるものではなく、公知の希釈剤を1種類または2種類以上を併用できる。希釈剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、プロピルメトキシアセテートなどのグリコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤やトルエン、キシレン、エチルベンゼン、水などが使用できる。
【0033】
また、本発明においては樹脂に顔料を使用することが出来る。顔料としては、目的に応じて着色顔料、体質顔料、機能性顔料などを配合できる。顔料は、有機顔料、無機顔料、有機・無機複合顔料のいずれであっても良く、1種類または2種類以上を併用できる。例えば、シリカ、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、酸化鉄、シアニングリーン、シアニンブルー、カーボンなどを使用できる。
【0034】
本発明においては、樹脂に添加剤を使用することもできる。添加剤としては目的に応じて一般に知られている添加剤が使用できる。例えば、消砲剤、分散剤、湿潤剤、レベリング剤、色別れ防止剤、沈降防止剤、艶消し剤、スリップ剤、乳化剤、防腐剤、防かび剤、紫外線吸収剤などが使用できる。
希釈剤、顔料、添加剤の含有量は、目的に応じて当業者が、適宜設定することができる。
【0035】
(第二の樹脂層及びそのための樹脂皮膜形成用組成物)
本発明における第二の樹脂層に用いる樹脂は、それ自体が異臭を生成せず、且つ異臭物質を大気中に揮散しないものが好ましく、さらに耐次亜塩素酸性に優れるものが好ましい。本発明においては、そのような樹脂として、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を用いる。
【0036】
第二の樹脂層においては、これらを単独で用いても、組み合わせて用いてもよい。さらに、第二の樹脂層は、これらに加えて、他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステルポリオール樹脂、ポリエーテルポリオール樹脂を含んでいてもよい。第二の樹脂層中のアクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂の含有量は限定されないが、その耐次亜塩素酸性や異臭物質の揮散防止の効果を効果的に発揮させるためには、これらの樹脂が第二の樹脂層の主成分であることが好ましく、典型的には、その含有量は、各々、好ましくは10〜80重量%程度、より好ましくは10〜40重量%程度である。また、第二の樹脂層の適用量は、好ましくは0.05〜0.5Kg/m程度、より好ましくは0.1〜0.3Kg/m程度である。
【0037】
第二の樹脂層としては、所望の硬化した樹脂を第一の樹脂層上に適用してもよいし、又はその原材料を含む被膜用組成物を第一の樹脂層上に適用して硬化させて当該樹脂層を形成してもよい。
【0038】
(アクリルウレタン樹脂)
本発明で使用できるアクリルウレタン樹脂は、その構造を特に限定されるものではなく、種々のアクリルウレタン樹脂を使用できる。例えば、活性水素含有基を2個以上有するアクリルポリオールと2以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物とを反応させて被膜を形成させるアクリルウレタン樹脂が好適に使用できる。したがって、本発明がアクリル樹脂被膜形成用組成物である場合には、当該組成物は、当該アクリルポリオールとイソシアネート化合物とを含む1液型の組成物であるか、又は両者を別々に含む2液以上の用時混合型の組成物である。ここで、用時混合型の組成物とは、別々の2以上の液(例えば、3液であってもよい)を含み、それらの液が被膜形成用に使用される際に混合される、キットのようなものを意味する。以下においても同様である。
【0039】
アクリルポリオールは、典型的には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロオキシブチルアクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、カプロラクトン変成(メタ)アクリレート等の水酸基含有アクリル系モノマーの内の1種以上を他のモノマーと共重合させて得られるものである。水酸基含有アクリル系モノマーと組み合わせる他のモノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系ビニルモノマー、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、iso−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、iso−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、トリブロモフェニル(メタ)アクリレートまたはアルコキシアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類、マレイン酸、フマル酸もしくはイタコン酸等の不飽和ジカルボン酸と1価アルコールとのジエステル類、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、バーサティック酸ビニルエステル等のビニルエステル類やビニルエーテル類が挙げられる。
【0040】
また、イソシアネート化合物は、アクリルポリオールの水酸基と反応して架橋硬化させることが可能なものであればよく、たとえば、2価以上の脂肪族ないし芳香族イソシアネートを使用できる。具体的には、トリレジンイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、あるいはこれらイソシアネートをポリオールに付加したポリイソシアネートなどが使用できる。
【0041】
上記のアクリルポリオールとイソシアネート化合物とを含むアクリルウレタン樹脂被膜形成用組成物としては市販品を使用できる。例えば、キープコートAU((株)エービーシー商会製)、キープコートAU水性VOC((株)エービーシー商会製)、カラートップFトップ((株)エービーシー商会製)、ウォールコートAU軟質仕上げ材DX((株)エービーシー商会製)、ユカクリートAU(大同塗料(株)製)、ハイアート(イサム塗料(株)製)などが挙げられる。
【0042】
(シリコーン樹脂)
本発明で使用できるシリコーン樹脂は、その構造を特に限定されるものではなく、種々のものを使用できる。例えば、樹脂自体にシリコーン特性を付与したもの、シリコーン自体などが挙げられる。
【0043】
樹脂自体にシリコーン特性を付与したものとしては、アクリルシリコーン、ポリエステルシリコーンなどが挙げられ、例えば、アクリルシリコーン樹脂は、シリコーン基をアクリルポリオールに導入し得られた、活性水素含有基を2個以上有するシリコーン変性アクリルポリオールとイソシアネート基を2個以上有するイソシアネート化合物を反応させて被膜を得るものと、シリコーン変性樹脂を分散させた分散液を揮発させて被膜を得るものなどが挙げられる。変性に用いるモノマーとしては、ビニルエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのシリコーン系モノマー類が使用できる。また、ここで使用できるイソシアネートとしては、前述記載のイソシアネート同様にアクリルポリオールの水酸基と反応して架橋硬化させることが可能なものであればよく、たとえば、2価以上の脂肪族ないし芳香族イソシアネートを使用できる。具体的には、トリレジンイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、あるいはこれらイソシアネートをポリオールに付加したポリイソシアネートなどが使用できる。
【0044】
また、シリコーン自体としては、パーヒドロシラザン基やシラノール基を有するアルコキシシランやポリシラザン、例えばメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ヘキサメチルシラザンなどが挙げられ、これらをコロイダルシリカなどと混合することにより、反応基となるパーヒドロシラザン基やシラノール基の加水分解、重縮合反応が起こり、それらのシリコーン樹脂の被膜を形成させる。
【0045】
本発明が、シリコーン樹脂被膜形成用組成物である場合には、当該組成物は、シリコーン樹脂被膜形成のための上記の材料を含む1液型又は2液以上の(例えば、3液であってもよい)用時混合型の組成物である。例えば、樹脂被膜形成用組成物として、市販品のアクリルシリコーン樹脂被膜形成用組成物であるプロテクリートSU((株)エービーシー商会製)、ウォールコートシリコーントップ軟質((株)エービーシー商会製)などが挙げられる。
【0046】
上記の第二の樹脂層の生成の際には、希釈剤を使用することができ、そのような希釈剤は、その樹脂層のための樹脂被膜形成用組成物中に含ませることができる。使用する希釈剤は、第一の樹脂層に関して上記したものと同様である。また、本発明においては第二の樹脂層の樹脂に顔料や添加剤も使用することが出来る。例えば、これらは、上記の第二の樹脂層のための樹脂被膜形成用組成物中に含ませることができる。そのような顔料や添加剤は、第一の樹脂層に関して上記したものと同様である。また、そのような添加剤としては、可塑剤(例えば、フタル酸系及びアジピン酸系、セバシン酸系等の可塑剤)も使用することができる。希釈剤、顔料、添加剤の含有量は、目的に応じて当業者が、適宜設定することができる。
【0047】
(適用)
上記に説明した樹脂によって形成される樹脂積層体は、施工現場で製造したものでもよく、あらかじめ製造したものでもよい。具体的には、本発明の樹脂積層体を施工現場で製造する場合、その材料を塗床材などとして建築現場などで施工する態様が好ましく、樹脂積層体をあらかじめ製造する場合には、シート状や板状の建築材をあらかじめ製造し、施工現場に適用する態様が好ましい。例えば、好ましい態様において、本発明における樹脂積層体は、床材、防水材、防食材、ライニング材などの建築材として好適に用いることができる。コンクリ―トの被覆材、橋梁などの構造物の補強材などとして用いることもできる。さらに、本発明の樹脂積層体は、屋外のみならず、屋内においても好適に用いることができる。
【0048】
また、本発明は、二つの樹脂層を新たに製造することだけでなく、製造されて使用された第一の樹脂層上に、第二の樹脂層を形成することも予定している。例えば、第一の樹脂層が、建築材としてある程度の期間使用された場合には、その第一の樹脂層は、度重なるハロゲンによる消毒を受け、ジクロロフェノール(DCP)、トリクロロフェノール(TCP)およびトリクロロアニソール(TCA)などを生成している可能性がある。このような建築材を新たなものと交換することは、費用の面でかなりの負担となるが、本発明によれば、当該第一の樹脂層上に樹脂被膜形成用組成物を適用して、第二の層を形成すれば、ジクロロフェノール(DCP)、トリクロロフェノール(TCP)およびトリクロロアニソール(TCA)などによる異臭を抑制することができ、費用の面で有利なだけでなく、省資源にもつながる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書においては、特に断らない限り、配合量その他は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0050】
実施例1
エポキシ樹脂(下塗り材、第一の樹脂層)の表面に、本発明の被膜形成用樹脂組成物を用いて被膜(第二の樹脂層)を形成し、塩素化フェノールの生成抑制効果及び被膜の変色性を確認した。使用した材料、試験方法は以下のとおりである。
【0051】
(材料)
材料1(下塗り材及び被膜形成用組成物として用いられる)
・材料A(下塗り材)
ケミクリートE((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤A及び硬化剤Aからなる2液硬化型無溶剤系エポキシ樹脂である。基剤A及び硬化剤Aを重量比5:1で混合し、アルミ板上又は第一の樹脂層上に塗布して硬化エポキシ樹脂を生成させる。
[基剤A]「ケミクリートE基剤」((株)エービーシー商会製):分子量約370のビスフェノールA型エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂系塗り床材基剤。
[硬化剤A]「ケミクリートE硬化剤」((株)エービーシー商会製):変性脂肪族ポリアミンを主成分とする硬化剤。
【0052】
・材料B(下塗り材)
ケミクリートE・NP((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤B及び硬化剤Bからなる2液硬化型無溶剤系エポキシ樹脂である。基剤B及び硬化剤Bを重量比6:1で混合し、アルミ板上又は第一の樹脂層上に塗布して硬化エポキシ樹脂を生成させる。
【0053】
[基剤B]「ケミクリートE・NP基剤」((株)エービーシー商会製):主成分として分子量約370のビスフェノールA型エポキシ樹脂35〜40重量部を含み、非フェノール系希釈剤5〜15重量部、充填剤(シリカ、硫酸バリウム)40〜50重量部、水酸化カルシウム5重量部、着色顔料1〜5重量部からなる低臭気エポキシ樹脂系塗り床材基剤。
[硬化剤B] 「ケミクリートE・NP」硬化剤((株)エービーシー商会製):エポキシアダクト変性アミン系硬化剤を主成分とする硬化剤。
【0054】
材料2(被膜形成用樹脂組成物)
・材料C(アクリルウレタン樹脂)
キープコートAU((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤C及び硬化剤Cからなる2液硬化型溶剤系汎用アクリルウレタン樹脂組成物である。基剤C及び硬化剤Cを重量比4:1で混合して、この混合物100重量部に対してトルエンを主成分とする専用希釈液を20〜40重量%加えて希釈し、第一の樹脂層上に塗布し、アクリルウレタン樹脂を生成させる。
【0055】
[基剤C] 硬質ウレタン変性アクリルポリオール30〜40重量部、溶剤30〜40重量部、無機質粉体及び顔料20〜30重量部からなる汎用アクリルウレタン樹脂組成物基剤。
[硬化剤C] へキサメチレンジイソシアネート系NCO末端プレポリマー30〜40重量部、有機溶剤60〜70重量部からなる汎用アクリルウレタン樹脂組成物硬化剤。
【0056】
・材料D(アクリルウレタン樹脂)
ウォールコートAU軟質仕上げ材DX((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤D及び硬化剤Dからなる、2液硬化型溶剤系弾性アクリルウレタン樹脂組成物である。基剤D及び硬化剤Dを重量比7:1で混合し、この混合物100重量部に対して、キシレンを主成分とした専用希釈液を20〜30重量%加えて希釈し、第一の樹脂層上に塗布して、アクリルウレタン樹脂を生成させる。
【0057】
[基剤D] 軟質ウレタン変性アクリルポリオール30〜40重量部、溶剤40〜50重量部、無機質粉体及び顔料20〜30重量部からなる弾性アクリルウレタン樹脂組成物基剤。
[硬化剤D] へキサメチレンジイソシアネート系NCO末端プレポリマー30〜40重量部、溶剤60〜70重量部からなる弾性アクリルウレタン樹脂組成物硬化剤。
【0058】
・材料E(ポリウレタン樹脂)
カラートップU((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤E及び着色剤Eからなる、湿気硬化型溶剤系ポリウレタン樹脂組成物である。基剤E及び着色剤Eを重量比1:1で混合して、第一の樹脂層上に塗布して、ポリウレタン樹脂を生成させる。
【0059】
[基剤E] トリレンジイソシアネート系ウレタンプレポリマー40〜50重量部、トリレンジイソシアネート1〜10重量部、溶剤50〜60重量部からなるウレタン樹脂組成物基剤。
[着色剤E] アクリル樹脂10〜20重量部、溶剤15〜25重量部、無機質粉体及び顔料60〜70重量部からなる着色剤。
【0060】
・材料F(シリコーン樹脂)
プロテクリートSU((株)エービーシー商会製):これは、以下の基剤F及び硬化剤Fからなる、2液硬化型溶剤系シリコーン樹脂組成物である。基剤F及び硬化剤Fを重量比9:1で混合し、この混合物100重量部に対しキシレンを10重量%加えて希釈した後、第一の樹脂層上に塗布して、アクリルシリコーン樹脂を生成させる。
[基剤F] シリコーン変性アクリルポリオール20〜30重量部、溶剤40〜50重量部、無機質粉体及び顔料30〜40重量部からなるシリコーン樹脂組成物基剤。
[硬化剤F]ヘキサメチレンジイソシアネート(三井化学(株)製「タケネートD170N」)100重量部からなるシリコーン樹脂組成物硬化剤。
【0061】
・材料G(アクリル樹脂)
カラートップH((株)エービーシー商会製):これは、ラッカー型アクリル樹脂組成物である。アクリル樹脂20〜30重量部、溶剤40〜50重量部、無機質粉体及び顔料20〜30重量部からなるアクリル樹脂組成物である。キシレンを主成分とした専用希釈液を25重量%加えて希釈した後、第一の樹脂層上に塗布し、ラッカー型アクリル樹脂を生成させる。
【0062】
(試験方法)
下塗り材として材料A又はBを用いた。それらの基剤及び硬化剤を混合攪拌し、アルミ板に約1Kg/mとなるよう均一に塗付した。硬化を確認後、材料C〜Gの各種の被膜形成用樹脂組成物の各成分を所定の割合で混合攪拌し、エポキシ樹脂硬化塗膜上に1回塗付あたり約0.1Kg/mとなるよう均一に2回塗付した。このようにして、床材を作成した。各種被膜形成用樹脂組成物の希釈は標準仕様の最大希釈量で行った。
【0063】
作製した床材25cmを約φ9cmのシャーレに入れ、床材が十分浸る程度に次亜塩素酸水溶液(有効塩素濃度2000ppmまたは5000ppm)に浸漬させ、35℃にて、24時間または72時間静置した。その後、浸漬液を水蒸気蒸留装置にてヘキサンに抽出した。ヘキサン抽出液をロータリーエバポレーターで1mlに濃縮後、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメーターで分析し、2,4,6−トリクロロフェノール(2,4,6−TCP)の生成量を測定した。
【0064】
なお、本試験方法による2,4,6−トリクロロフェノール(2,4,6−TCP)の検出限界は0.1μg/mである。
(被膜の変色性)
上記の床材について、次亜塩素酸ナトリウム水溶液に24時間または72時間浸漬させた時の変色度合いを3段階で評価した。評価基準は以下の通りである。
1:変色なし(良好)、2:やや変色している、3:大きく変色している
【0065】
表1に結果を示す。この結果が示すように、エポキシ樹脂を用いた床材の表面にアクリルウレタン樹脂(C、D)、シリコーン樹脂(F)、またはアクリル樹脂(G)を用いた被膜を形成することにより、床材と残留塩素とが接触した際のTCP生成量が顕著に低減された。アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはアクリル樹脂を用いた被膜により、エポキシ樹脂を用いた床材と残留塩素との接触が回避され、エポキシ樹脂と残留塩素の反応が抑制されたことにより、塩素化フェノール化合物の生成が抑制されたといえる。しかし、アクリル樹脂を用いた被膜は残留塩素との接触によって、大きな変色が認められた。したがって、アクリルウレタン樹脂またはシリコーン樹脂を用いた被膜が特に有効であると言える。
【0066】
【表1】



【0067】
実施例2
あらかじめ2,6−ジクロロフェノール(2,6−DCP)、2,4,6−トリクロロフェノール(2,4,6−TCP)及び2,4,6−トリクロロアニソール(2,4,6−TCA)を添加したエポキシ樹脂(下塗り材)の被膜(第一の樹脂層)を形成し、その表面に、別の被膜(第二の樹脂層)を形成し、それらの塩素化化合物の揮散抑制効果を確認した。使用した材料、試験方法は以下のとおりである。
【0068】
(エポキシ樹脂中の塩素化化合物の移行量の定量)
実施例1で用いた下塗り剤Aに2,6-ジクロロフェノール(2,6−DCP)、2,4,6−トリクロロフェノール(2,4,6−TCP)及び2,4,6−トリクロロアニソール(2,4,6−TCA)を各々1ppmとなるように添加し、実施例1と同様にして、アルミ板上に第一の樹脂層を形成した。次に、実施例1と同様にして、第一の樹脂層上に、材料C〜Gを用いて第二の樹脂層を形成し、床材を作成した。
【0069】
浸漬液を変えて実施例1と同様にして実験を行なった。床材が十分浸る程度の蒸留水に浸漬させ、35℃にて、24時間、または72時間静置した。その後、浸漬液を水蒸気蒸留装置にてヘキサンに抽出した。ヘキサン抽出液をロータリーエバポレーターで1mlに濃縮後、ガスクロマトグラフィー−マススペクトロメーターで分析し、塩素化化合物の生成量を測定した。
【0070】
なお、本試験方法による2,6−ジクロロフェノール(2,6−DCP)2,4,6−トリクロロフェノール(2,4,6−(TCP)、及び2,4,6−トリクロロアニソール(2,4,6−TCA)量の検出限界は0.1μg/mである。
【0071】
表2に結果を示す。この結果が示すように、エポキシ樹脂を用いた床材の表面にアクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはアクリル樹脂を用いた被膜を形成することにより、エポキシ樹脂中の塩素化化合物は系外へ移行しなかった。アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、またはアクリル樹脂を用いた被膜により、塩素化化合物の樹脂からのブリードおよび/または大気中への揮散を抑制できたといえる。しかし、実施例1において、アクリル樹脂を用いた被膜は残留塩素との接触によって大きな変色が認められたことを考慮すると、塩素化化合物の樹脂からのブリードおよび/または大気中への揮散の抑制には、特にアクリルウレタン樹脂またはシリコーン樹脂を用いた被膜が有効であると言える。
【0072】
【表2】



【0073】
このように、本発明の異臭抑制性樹脂であるアクリルウレタン樹脂及びシリコーン樹脂は、エポキシ樹脂などのビスフェノール骨格を有する樹脂と残留塩素との接触による塩素化フェノール化合物の生成を抑制することができる。また、本発明においては、そのような異臭抑制性樹脂が、樹脂中に既に存在する塩素化化合物の樹脂からのブリードおよび/または大気中への揮散を抑制するため、既に異臭物質が生成している床材などの樹脂に対して施工しても異臭を抑制することができる。したがって、本発明の異臭抑制性樹脂を用いて被膜を形成することにより、エポキシ樹脂などを用いた床材に起因する異臭発生トラブルを回避、抑制することが可能であり、製造工程や環境中への床材由来の汚染物質の揮散を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化エポキシ樹脂又は硬化エポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面又は両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層が形成されてなる、異臭抑制性樹脂積層体。
【請求項2】
第一の樹脂層が、硬化ビスフェノール系エポキシ樹脂又は硬化ビスフェノール系エポキシアクリレート樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記異臭がハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭である、請求項1記載の積層体。
【請求項4】
硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面または両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層を形成することを含む、異臭抑制方法。
【請求項5】
前記異臭がハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭である、請求項4記載の異臭抑制方法。
【請求項6】
硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む第一の樹脂層の片面または両面上に、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂を含む第二の樹脂層を形成することを含む、施工方法。
【請求項7】
ハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭を抑制するために行なわれる、請求項6記載の施工方法。
【請求項8】
硬化した又は硬化中の、エポキシ樹脂又はエポキシアクリレート樹脂を含む層の片面又は両面上を被膜するための、アクリルウレタン樹脂又はシリコーン樹脂の材料を含む、1液型又は2液以上の用時混合型の樹脂被膜形成用組成物。
【請求項9】
ハロゲン化フェノール又はハロゲン化アニソールを原因とする異臭を抑制するための、請求項8に記載の組成物。

【公開番号】特開2011−121245(P2011−121245A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279936(P2009−279936)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【出願人】(598108412)株式会社エービーシー建材研究所 (13)
【出願人】(000127639)株式会社エービーシー商会 (28)
【Fターム(参考)】