説明

異色染め芯鞘糸及びその製造方法並びに織物

【課題】「経時異色発現効果」を奏する織物を得ること。
【解決手段】合成繊維からなる芯糸となるべき部分と、天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸となるべき部分とを、少なくとも一方は染色していない状態で芯鞘構造にした後、前記芯糸と鞘糸とを異なる色に染色してなる異色染め芯鞘糸を、織物の経糸又は緯糸の少なくとも一方に用いること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異色染め芯鞘糸及びその製造方法並びに織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、デニム地を用いたジーンズにおいて、洗いざらし感あるいは着古し感がファッションとして特に好まれるため、そのような洗いざらし感あるいは着古し感を強調するための技術が、いくつか提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、あらかじめ青色に着色した合繊スフとセルロース系繊維とを混紡した紡績糸をインジゴ染色してなる混紡糸と、その混紡糸を用いたデニム用織編物が開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル系複合繊維と綿繊維を含有し、それぞれ異なる染料で染色されてなるデニムが開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された織編物は、青色合繊スフとセルロース系繊維とがともにインジゴ染色されるため、織編物全体の色目が自然な色落ちによって濃紺から青、さらには空色へと移るものの、結局は従来の「インジゴブルー」の色目を有する通常の範疇にあるデニム以外の何ものでもない。また、特許文献2に開示されたデニムは、経糸の綿繊維を従来どおり藍やインジゴで染色し、緯糸のポリエステル系複合繊維を「ブラウンまたはベージュなどの色」にあらかじめ染色することにより、自然な色落ちによる場合よりも、ことさらに「着古し感を強調」するものにすぎない。すなわち、特許文献1に記載された織編物も、特許文献2に記載されたデニムも、経糸または緯糸それ自身の色目が経時とともに変化する「色変わり」を意図したものではない。
【0005】
【特許文献1】特開平11−335935号公報
【特許文献2】特開2003−301350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来のデニムに特有な「インジゴブルー」の自然な色あせや、「ブラウンまたはベージュなどの色」にあらかじめ染色しておくことによる着古し感の強調とは異なる、それ自身が経時により「色変わり」する意匠糸としての斬新さを発揮する「異色染め」芯鞘糸及びその製造方法、並びにこの芯鞘糸を経糸または緯糸の少なくとも一方に用いた新規な「色変わり」織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の異色染め芯鞘糸は、合成繊維からなる芯糸と天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸とからなり、前記芯糸と鞘糸がそれぞれ異なる色に染色されてなることを特徴とするものである。
【0008】
また、本発明の織物は、前記異色染め芯鞘糸を経糸又は緯糸の少なくとも一方に用いたことを特徴とするものである。
【0009】
さらにまた、本発明の異色染め芯鞘糸の製造方法は、合成繊維からなる芯糸となるべき部分と、天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸となるべき部分とを、少なくとも一方を染色していない状態で芯鞘構造にした後、前記芯糸と鞘糸を異なる色に染色することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の織物は、合成繊維からなる芯糸と天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸とからなる異色染め芯鞘糸を、経糸又は緯糸の少なくとも一方に用いているため、くり返し着用や洗濯などによる擦り切れによる鞘糸のほつれによって、芯糸の色を外側に露出させることができる。その結果、その織物を着用している者やそれを見る者に、「意外感」を与えることができる。これは、従来の織物からは得られることのなかった「経時異色発現効果」である。例えば、デニムに用いた場合、鞘糸を濃紺や黒に染色し、芯糸を赤やピンク、黄などの目立つ色に染色した場合には、従来のデニムに特有なインジゴブルーの自然な色あせやブラウン・ベージュなどの地味な着古した色ではなく、経時とともに予想外の「鮮やかな」色が表面に発現することになるので、従来の織物にはないファッション性が発揮されることになる。しかも、その芯糸の露出箇所はあらかじめ決められておらず、その露出の程度も均一ではないため、それだけ一層、織物の色合いに予想外の変化が生じ得るので、「意外感」が大きい。あるいは、本発明の織物を着用する人の「個人設計」により、着用当初から故意に、叩いたり摩擦させたりして鞘糸をほつれさせることにより、芯糸の露出箇所と程度を自由に変えることができるので、それぞれ着用者独自のジーンズに「デザインする」こともできる。
【0011】
また、本発明の異色染め芯鞘糸の製造方法を用いれば、芯鞘構造にした状態としては従来実現されていなかった「異色染め」を、実現することができる。すなわち、芯糸と鞘糸をそれぞれ別々の色に先に染めた後、芯鞘糸にするのではなく(この場合には、工程数が増えて生産性が落ちるので、好ましくない)、少なくとも一方は染色していない状態で、それぞれ異なる色に染めることができる。したがって、あらかじめそれぞれの色に染めた多種の芯糸を在庫として持つ必要なく、顧客の注文に迅速に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における芯鞘糸は、上記「経時異色発現効果」を発揮するために、芯と鞘とがそれぞれ異なる色に染色されていることが必要である。その芯鞘異色関係は、鞘のほうが芯よりも濃色系になる場合と、その逆の場合があるが、用途に応じて、いずれの場合も対応可能である。例えば、デニムの場合には、もともと濃紺や黒などの濃色系に染められることが一般的なので、鞘のほうが芯よりも濃い色になることのほうが好適である。
【0013】
本発明の異色染め芯鞘糸において、芯糸には合成繊維を用い、鞘糸には天然繊維又は再生繊維を用いることが必要である。芯糸と鞘糸とが同じ素材の場合には、原理的に「異色染め」が困難であり、本発明の意図するファッション性、すなわち「経時異色発現効果」を発揮できなくなるからである。芯糸に合成繊維を用いる理由は、くり返し着用や洗濯により、被覆の鞘糸がほつれて芯糸が外側に露出したとき、芯糸自身はほつれずにその芯の色を保持できるように、鞘糸よりも大きな耐摩耗性が必要であるからである。具体的には、ポリエステル、アクリル又はナイロンを用いることができ、中でもポリエステル及びアクリルが好ましい。素材は単体のほうが、染色条件が容易になるので好ましいが、必要に応じて混繊してもよい。鞘糸に天然繊維又は再生繊維を用いる理由は、本発明の「経時異色発現効果」を発揮するためには、被覆している鞘糸のほうが、芯糸よりも早く、擦り切れることが必要であるからである。天然繊維としては綿、麻、絹又は羊毛を用いることができるが、芯糸よりも早く擦り切れるという本発明の要請からは、特に綿及び麻が好ましい。再生繊維としてはレーヨンなどを用いることができる。これらを混紡してもよいが、綿なら綿、麻なら麻単独のほうが、色目がそれだけ鮮やかになるので好ましい。
【0014】
本発明における芯鞘糸は、公知の方法を用いて、芯鞘構造にすることができる。例えば、カバリングやコア方式(スライバの間にフィラメントを入れて撚る方式)などである。要は、芯となるべき糸(コアヤーン)の周囲が、鞘となるべき糸によって被覆されている状態になっていれば、本発明の効果を達成することができる。中では、カバリングが、種々の太さの芯糸に対応できるという点で好ましい。
【0015】
本発明における織物は、すでに説明した「経時異色発現効果」を奏するように、上記異色染め芯鞘糸を、経糸又は緯糸の少なくとも一方に用いることが必要である。特に、デニムに用いる場合には、本発明の異色染め芯鞘糸を経糸に用い、経糸・緯糸を織物の表面比で2:1〜4:1にすることが好適である。
【0016】
本発明の異色染め芯鞘糸の製造方法において、生産性を上げるため、少なくとも一方は染色していない状態で芯鞘構造にした後、染色することが必要である。あらかじめそれぞれの色に染めた多種の芯糸の在庫を持つことなく、顧客の注文に迅速に対応するためには、芯糸と鞘糸のいずれも染色していない状態で芯鞘構造にすることが、最も好ましい。ただし、芯鞘加工した状態のまま、芯糸を先に染色すると、鞘糸も同時に染色されてしまう。しかし、用途によって、鞘糸が芯糸よりも濃い色に染まることが差し支えない場合(特に、デニムの場合など)には、芯糸染め時の鞘糸の染色汚染(染色混合)は、さほど問題にならない。その後、鞘糸を染色するときには、鞘糸の被覆によって芯糸が保護されるので、芯糸の染色汚染度は、鞘糸のそれよりも相対的に小さくて済む。逆にいえば、被覆の鞘糸は、特にデニムなどの場合には、もともと濃紺や黒などの濃色系に染められることが一般的なので、鞘糸の染色汚染度は、芯糸ほど厳しくは要求されない。すなわち、本発明においては、「経時異色発現効果」を実現するため、くり返し着用や洗濯による被覆鞘糸の擦り切れを前提としているので、被覆鞘糸の染色汚染は実質的に問題にならない。
【0017】
なお、前処理として、芯糸と鞘糸の少なくとも一方を、あらかじめベージュやブラウンなどの色に染めておいた上で、本発明の異色染めを施すようにすることも可能であるが、この場合には、余分な工程が増えるため、生産性が低下し、顧客の注文に迅速対応しにくい。
【0018】
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
【実施例1】
【0019】
芯糸として、約140デニールの太さのポリエステルヤーンを用いた。その芯糸の回りに、カバリングによって綿糸を被覆させ、芯鞘構造にした。この芯鞘糸を、まずアルカリ性漂白剤「マルチノールC210」(商品名)2g/L、及び酸性漂白剤として過酸化水素5g/Lを用いて、100度Cで30分間、被覆の綿を下晒しした。その結果、褐色がかった綿糸が漂白された。この漂白により、後の染色による綿糸の色を、それだけ鮮やかにすることができた。アルカリ性中和剤として酢酸2g/L、酸性中和剤として「クロークスNT」(商品名)を1g/L用いて、60度Cで30分間、漂白剤を中和処理した。その後、芯糸のポリエステルを「ダイアニックス」(商品名)を用いて、110度Cで45分間、赤色に染色した。このとき、助剤として、均染剤「ビスパモールAN」(商品名)を0.5g/L、染着剤として酢酸を1g/L、及びPH安定剤として硫安を2g/L、それぞれ用いた。ここで、被覆の綿糸が染色汚染されているため、ソーピング剤「ソルジンM8」(商品名)を3g/L用いて、70度Cで20分間、ソーピングを行った。その結果、被覆綿糸の染色汚染度が緩和された。次に、被覆の綿糸を「シバクロン」(商品名)を用いて60度Cで1時間、紺に染色した。このとき、前半30分間は染着剤として芒硝を60g/L用い、後半30分間は吸収剤として「コントロンGS」(商品名)を用いた。その後、還元剤として「RN2000」(商品名)を用いて、90度Cで20分間、ソーピングした。そして最後に、「ネオフィックスR250」(商品名)を用いて、50度Cで20分間、フィックス処理をして堅牢度を向上させた後、柔軟剤として「ブリアンTW290」(商品名)を2%、平滑剤として「ブリアンTW360」(商品名)を4%加えて、40度Cで20分間、オイリングをして、本発明の異色染め芯鞘糸を得た。
【実施例2】
【0020】
芯糸として、150デニールの太さのアクリルヤーンを用いた。その芯糸の回りに、カバリングによって綿糸を被覆させ、芯鞘構造にした。この芯鞘糸を、まずアルカリ性漂白剤「マルチノールC210」(商品名)2g/L、及び酸性漂白剤として過酸化水素5g/Lを用いて、100度Cで30分間、被覆の綿を下晒しした。その結果、褐色がかった綿糸が漂白された。この漂白により、後の染色による綿糸の色を、それだけ鮮やかにすることができた。アルカリ性中和剤として酢酸2g/L、酸性中和剤として「クロークスNT」(商品名)を1g/L用いて、60度Cで30分間、漂白剤を中和処理した。さらに、その芯鞘糸を「ソルジンSKF」(商品名)0.5g/Lを用いて、60度Cで20分間、アクリルヤーンを前洗いした。その後、芯糸のアクリルヤーンを「ニチロンゴールデンイエローGL」(商品名)を用いて、100度Cで30分間、黄色に染色した。このとき、助剤として均染剤「ニチロンソルトC64」(商品名)を0.5%、染着剤として酢酸を3.5%、それぞれ用いた。ここで、被覆の綿糸が染色汚染されているため、ソーピング剤「ソルジンSD」(商品名)を3g/L用いて、80度Cで20分間、ソーピングを行った。その結果、被覆綿糸の染色汚染度が緩和された。次に、被覆の綿糸を「シバクロン」(商品名)を用いて60度Cで1時間、紺に染色した。このとき、前半30分間は染着剤として芒硝を60g/L用い、後半30分間は吸収剤として「コントロンGS」(商品名)を用いた。その後、還元剤として「RN2000」(商品名)を用いて、90度Cで20分間、ソーピングした。そして最後に、「ネオフィックスR250」(商品名)を用いて、50度Cで20分間、フィックス処理をして堅牢度を向上させた後、柔軟剤として「ブリアンTW290」(商品名)を2%、平滑剤として「ブリアンTW360」(商品名)を4%加えて、40度Cで20分間、オイリングをして、本発明の異色染め芯鞘糸を得た
【実施例3】
【0021】
実施例1で得られた異色染め芯鞘糸を経糸に用い、緯糸に無染色の綿糸を用いて、経糸・緯糸を織物の表面比で3:1のデニムに織った織物を得た。経時による「異色発現効果」を早めさせるため、この織物を故意に叩いて、経糸の被覆の綿糸をほつれさせ、芯糸をランダムな位置に露出させた。その結果、芯糸の赤色がランダムな位置にさまざまな程度・長さに発現し、意匠糸としての斬新な効果が発揮された。すなわち、芯糸の赤色と被覆の濃紺地とのコントラストにより、独特の色合いによる模様が織物に現れた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で得られた本発明の異色染め芯鞘糸の先端部の鞘糸をほつれさせ、芯糸を露出させた状態の顕微鏡写真(50倍)。
【図2】実施例1で得られた本発明の異色染め芯鞘糸の先端部の鞘糸をほつれさせ、芯糸を露出させた状態の顕微鏡写真(100倍)。
【図3】実施例1で得られた本発明の異色染め芯鞘糸の先端部の鞘糸をほつれさせ、芯糸を露出させた状態の顕微鏡写真(150倍)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなる芯糸と天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸とからなる芯鞘糸であって、前記芯糸と鞘糸がそれぞれ異なる色に染色されてなることを特徴とする異色染め芯鞘糸。
【請求項2】
前記合成繊維が、ポリエステル、アクリル及びナイロンの少なくとも一つからなる請求項1に記載の異色染め芯鞘糸。
【請求項3】
前記天然繊維が、綿、麻、絹及び羊毛の少なくとも一つからなる請求項1又は2に記載の異色染め芯鞘糸。
【請求項4】
請求項1に記載の異色染め芯鞘糸を、経糸又は緯糸の少なくとも一方に用いたことを特徴とする織物。
【請求項5】
鞘糸がほつれたとき、芯糸の色が外側に露出することを特徴とする請求項4に記載の織物。
【請求項6】
合成繊維からなる芯糸となるべき部分と、天然繊維又は再生繊維からなる鞘糸となるべき部分とを、少なくとも一方は染色していない状態で芯鞘構造にした後、前記芯糸と鞘糸とを異なる色に染色することを特徴とする異色染め芯鞘糸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−322112(P2006−322112A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−147652(P2005−147652)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】