説明

異色混繊捲縮糸およびその製造方法ならびに無地調カーペット

【課題】染色性の異なる2種もしくは3種類の捲縮糸が混繊されてなる異色混繊捲縮糸の沸騰水処理後の分繊後の各々の捲縮糸が、特定の伸長率差と糸長差を満足することで、深みのある同色感の色合いを有する無地調カーペットによく見られる柄流れが無く、色調が均一でボリューム感のある異色混繊捲縮糸および無地調カーペットを提供する。
【解決手段】染色性能および/または色調の異なる2種類もしくは3種類の捲縮糸が混繊された、沸騰水処理後の捲縮伸長率が18〜35%の異色混繊捲縮糸であって、分繊後のそれぞれの捲縮糸の沸騰水処理後の伸長率差が4%以下であり、かつ糸長差が3%以下であることを特徴とする異色混繊捲縮糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタフテッドカーペットなどに使用した場合に、タテ筋の原因となる柄流れの発生がなく、均一で深みのある同色感の色合いを有する無地調柄を作り出すことが可能な異色混繊捲縮糸、およびその製造方法、ならびにその異色混繊捲縮糸を使用した柄流れがなく均一で深みのある同色感の無地調柄を有するカーペットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、オフィスビルへの需要を中心にタイルカーペットが急成長してきた。なかでもナイロンBCF(Bulked Continuos Filament)を素材とする異色混繊捲縮糸を用いたタイルカーペットは、均一でメリハリのある柄とコントラストの強い多色杢調カーペットが求められてきた。
【0003】
しかし、近年、ビルの多様化および個性化などが進むにつれて、タイルカーペットにおいては、その高級感の他、インテリア空間の演出性に優れること、特に均一で落ち着きのある雰囲気のカーペットが要求されてきた。そのため、より深みのある同色感の色合いを有する無地調のタイルカーペットが求められるようになり、特に同色使いの異色混繊捲縮糸の場合は、構成される染色性能および/または色調の異なる2種類もしくは3種類の捲縮糸(以下 分繊捲縮糸と表現)の僅かな捲縮特性の差がタテ筋に視認されやすいという欠点があった。
【0004】
そして、上記タテ筋の発生原因としては、主に、ループパイルを形成する異色混繊捲縮糸の染色後の分繊捲縮糸それぞれの伸長率差ならびに糸長差が要因と考えられる。すなわち、染色後の分繊捲縮糸それぞれの伸長率レベルならびに糸長レベルが大きく異なった場合に、ループパイル表面を占有する色が、カーペットを構成するパイルによって異なり、無地調カーペットでの僅かな色差がタテ筋に見える現象である。
【0005】
従来から、タイルカーペット用に使用される捲縮糸は、2種以上の異染性を示す捲縮糸を交絡により混繊させ、カーペットの柄を作り出している。
【0006】
特許文献1では、染色性が異なる3種類の捲縮糸の中から伸長率差が5〜15%である任意の2種類の捲縮糸を引き揃えて交絡または撚糸してなる数種類の2杢糸の中から選択された、任意の2種類の2杢糸を交互にタフトすることにより3杢調の柄とする技術が開示されている。特許文献1に記載の技術では、従来の2杢あるいは3杢調の柄を有するカーペットよりも柄が大きな3色感を作り出すことを目的としており、同色感の色合いを有する無地調カーペットにおけるタテ筋を低減するものではなかった。
【0007】
特許文献2では混繊するそれぞれの原糸を個別に捲縮付与装置にて捲縮付与するに際し、原糸の交絡を10個以下という低交絡にすることにより捲縮付与時の高捲縮化と交絡数を適度な範囲とすることによりメリハリのあるコントラストとカーペットのバルキー性やボリューム感を向上する技術が提案されている。また特許文献2では交絡数を43個/mより多くした場合に柄が密になると記載されている。しかしながら交絡数を単純に多くすると混繊も進むが、過度に集束するため、熱処理での捲縮発現がされなくなりボリューム感が乏しくなる問題が発生する。
【0008】
さらに特許文献3では、延伸糸をそれぞれ別々に捲縮付与した後に引き揃え交絡を付与する際のストレッチ率について記載されている。ストレッチ率が高い場合にはコントラストが弱くなることがあると記載されているものの、特許文献3においてもコントラストを強くするための混繊捲縮糸の交絡数の適正な範囲を規定し捲縮処理方法を記載しているのみであり、無地調カーペットに使用するための異色混繊捲縮糸については何ら開示されていない。
【0009】
以上のように、柄流れが無く均一でボリューム感があり、さらに単独捲縮糸では表現できない色合いを有する異色混繊捲縮糸からなる無地調カーペットおよびその製造方法について十分なものは得られていなかった。
【特許文献1】特開平11−113722号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献2】特開平11−61585号公報(特許請求の範囲、実施例)
【特許文献3】特開平7−189067号公報(特許請求の範囲、実施例)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した従来技術における問題の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、深みのある同色感の色合いを有する無地調カーペットにおいて、柄流れの発生を抑え嵩高な異色混繊捲縮糸およびそれを用いてなるボリューム感のある無地調カーペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために本発明の異色混繊捲縮糸およびその製造方法ならびに無地調カーペットは、以下の構成を有する。
(1)染色性能および/または色調の異なる2種類もしくは3種類の捲縮糸が混繊された、沸騰水処理後の捲縮伸長率が18〜35%の異色混繊捲縮糸であって、分繊後のそれぞれの捲縮糸の沸騰水処理後の伸長率差が4%以下であり、かつ糸長差が3%以下であることを特徴とする異色混繊捲縮糸。
(2)交絡数が28〜43個/mであることを特徴とする上記(1)に記載の異色混繊捲縮糸。
(3)異色混繊捲縮糸を構成するポリマーがポリアミドであることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の異色混繊捲縮糸。
(4)染色性の異なる2種類もしくは3種類のマルチフィラメントを別々に捲縮付与し0.10〜0.37g/dtexの張力でストレッチして引き揃え、0.5〜1MPaの圧空で交絡処理することを特徴とする異色混繊捲縮糸の製造方法。
(5)前記染色性の異なる2種類もしくは3種類のマルチフィラメントの捲縮付与前の水上交絡数が 10個/m以下であることを特徴とする上記(4)に記載の異色混繊捲縮糸の製造方法。
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の異色混繊捲縮糸を構成するそれぞれの捲縮糸のL値差が5〜15であることを特徴とする無地調カーペット。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、深みのある同色感の色合いを有する無地調カーペットにおいて、柄流れがなく均一でボリューム感のある異色混繊捲縮糸およびその製造方法ならびに無地調カーペットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における異色混繊捲縮糸とは、染色性能および/または色調の異なる2種類もしくは3種類の捲縮糸が混繊された、沸騰水処理後の捲縮伸長率が18〜35%の異色混繊捲縮糸であって、分繊後のそれぞれの捲縮糸の沸騰水処理後の伸長率差が4%以下であり、かつ糸長差が3%以下であることを特徴とする異色混繊捲縮糸である。
【0015】
すなわち、沸騰水処理後の捲縮伸長率が18%以上であり、23%以上であることが好ましい。18%未満であるとカーペットにしたときに染色やバッキング工程での捲縮の発現が不十分となり、バルキー性やボリューム感が不満足となり、さらには目地隙の防止効果も不十分である。一方、沸騰水処理後の捲縮伸長率が35%を越えると、染色・バッキングを経てカーペットに仕上がった際に、捲縮の発現が大きいことから、パイルが小さく縮こまってしまい、バルキー性がかえって低下してしまう。
【0016】
さらに、沸騰水処理後の分繊後の2種もしくは3種類の捲縮糸が、それぞれ0%以上4%以下の伸長率差を有しており、またそれぞれの捲縮糸の糸長差が0%以上3%以下であることに特徴がある。すなわち、沸騰水処理後の分繊捲縮糸の特性が、前記特定の伸長率レベルと糸長レベルを有することにより、カーペットを構成するループパイル表面の色が均一に表現され、同色感の色合いを有する無地調カーペットを得ることができる。
【0017】
ここにおいて、沸騰水処理後の分繊捲縮糸の伸長率差が、3%以下であることが好ましい。また糸長差は2%以下であることが好ましい。伸長率差が4%を超える場合、さらに糸長差が3%を超える場合は、伸長率が低く、また糸長が長い分繊捲縮糸のみがループパイル表面を占有し単一色となるため、隣接ループパイル糸条間での僅かな色差がタテ筋の原因となるため好ましくない。
【0018】
また、本発明の異色混繊捲縮糸においては、1m当たりの交絡数が28個以上43個以下であることが好ましい。28個未満であると、カーペットとしたときの柄が粗く、異色性ポリマー糸を混繊して作り出す杢調の模様が雑になり、同色感の色合いを有する無地調カーペットにおいては、深みのある色感が得られない。また、43個を超えるとカーペットにしたときの柄が密となり過ぎ、メリハリのない色感になるとともに、交絡の節の部分が多過ぎるために、捲縮糸が本来持っている捲縮特性が染色やバッキング工程での熱処理によって十分に発現され得なくなる。そのため、バルキー性やボリューム感が不足するものとなり易い。
【0019】
本発明の異色混繊捲縮糸は、同色感の色合いを有する無地調カーペットを作るために、染色性能および/または色調の異なる捲縮糸を2種以上から構成されることが必要である。より深みのある柄を出し、高級感を付与するためには、3種の捲縮糸から構成されることが好ましい。
【0020】
本発明の異色混繊捲縮糸を構成する染色性能の異なる捲縮糸としては、例えばポリアミド繊維を例に取るならば通常のポリアミド、酸性染料と結合するアミノ末端基(−NH2)量を増加させたポリアミド、塩基性染料と結合するスルホ末端基(−SO3)を導入したポリアミド等があげられる。本発明のポリアミドは、従来からカ−ペット用捲縮糸として好適な素材であるポリカプラミド、ポリヘキサメチレンアジパミド等が挙げられる。製糸性改善や最終製品の品質改善のために、共重合成分を含むコポリマーであってもよい。好ましい共重合ポリマーの例としては、カプロラクタム:99〜80重量部とヘキサメチレンアジパミド、トリメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド等を1〜20重量部共重合したポリアミドである。その他のアミド結合を有するポリマーやその共重合体、ブレンドを使用しても差し支えない。
【0021】
ポリマー中には必要に応じて艶消し剤、例えば酸化チタン、着色用顔料および染料、耐候剤、耐熱剤、酸化防止剤等を併用させてもよい。
【0022】
本発明における異色性ポリマーとしては、同浴で染色した場合に多色感を容易に発現できる点や、色調の多様さ、また紡糸工程の容易さ、捲縮付与工程の容易さなどの点からポリアミドを用いることがより好ましい。
【0023】
本発明においてパイル糸として用いる異色混繊捲縮糸の繊度は2200〜4200デニールであることが好ましい。この範囲の繊度であるとバルキー性やボリューム感を伴い、かつ杢調としての好ましい柄が容易に作り出せるとともに、製造に際しての安定性も優れている。カーペットのバルキー性やボリューム感をコントロールする場合には一般に目付を高くする手段が併用されるが、2200デニール未満であると、所定の目付けとするためにゲージやステッチを高くする必要があるので、タフトが困難となり易い。即ち、タフト時の単糸切れやパイル抜けなどが多発し、工程安定性に欠けるものとなり易い。一方、繊度が4200デニールを越えるものであると、太過ぎてタフトが困難であり、さらに、全体として交絡の抜けが発生した場合にその抜けが目立ちやすくなる。
【0024】
さらに、異色混繊捲縮糸を構成する染色性能の異なる捲縮糸(分繊捲縮糸)は、互いの総繊度が実質的に同一であることが好ましい。実質的に同一とは、分繊後の捲縮糸の総繊度の差が5%以内、より好ましくは2%以内であることを指す。分繊捲縮糸の総繊度の差が5%を越えて異なる場合、各単糸間の混繊度合いがバラツキ、タテ筋低減効果が発現しない。また、総繊度の高い捲縮糸の特徴がカーペット表面において支配的となり、カーペットとした際に単調とした色感となってしまう。
【0025】
本発明における異色混繊捲縮糸の単糸断面形状は特に制限はないが、バルキー性の点や防汚性の点から、田型中空、Y型断面、Y型中空などの変形断面を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
【0026】
本発明において、カーペットとして総合的により高い品質のものを得るためには、上記した本発明の異色混繊捲縮糸に、その効果を損ねない範囲で他のフィラメントをパイルの一部として組み合わせて使用することも何等差し支えない。例えば、カーペットの摩擦帯電圧を下げるために、制電性を有する繊維を混繊したりすることは何等差し支えない。
【0027】
以下、本発明における異色混繊捲縮糸の製造方法について説明する。本発明において、沸騰水処理後に特定の範囲の伸長率レベルと糸長レベルを有する無地調カーペット用異色混繊捲縮糸を作製するためには、最終的に互いに異色性を示すポリマーからなる捲縮糸を同時にあるいは別々に作製し、それらを合糸して交絡を付与する手法をとる。ここにおいて、捲縮糸の製造には、個別に溶融紡糸・紡糸油剤・延伸された糸条を一度巻き取り、それら複数種の延伸糸を解舒して別々のノズルで捲縮付与を同時に行った後に引き揃えて、混繊・交絡処理を行う通常公知の方法を採用し得る。
【0028】
本発明で用いる溶融紡糸装置は、エクストルーダー型紡糸機およびプレッシャー型紡糸機のどちらも使用可能であるが、製品の均一性および製糸工程における収率の点から前者が好ましい。
【0029】
溶融紡糸された糸条は、冷却、給油の後、必要に応じて延伸、熱固定が施される。延伸に際しては、補助的に延伸点を固定するなどの目的でスチーム処理装置等を併用してもよい。ポリアミドの場合、後の工程で高い捲縮を付与するためには、ある程度の配向と結晶化が必要であるので、通常2倍から4倍の延伸を行うことが好ましい。
【0030】
次いで染色性能および/または色調の異なる延伸糸を一旦巻き取り、それらを解舒し捲縮付与装置によって個別に捲縮を付与する。捲縮は通常の加熱流体加工処理により付与すればよく、例えば、ジェットノズルタイプ、ジェットスタッファタイプ、さらにはギヤ方式など各種の捲縮付与方法が採用されうるが、特開2004−84080号公報のごとく糸条の仮撚りを防止し、品質の安定した高い捲縮付与とその顕在化を達成するためにはジェットノズル方式が好ましい。さらには、捲縮を固定する目的から特開平5-321058号公報のごとく冷却装置、さらにはロータリーフィルタを組み合わせてもよい。
【0031】
これに対し、異色性ポリマー糸条を合糸した後に一括して捲縮ノズルに導いて捲縮付与する方法を採用すると、高い捲縮性を得ることが難しく、本発明の特徴である分繊捲縮糸の特定の範囲での伸長率レベルと糸長レベルが得られない。
【0032】
さらに、染色性の異なる2〜3種のマルチフィラメントを別々に捲縮付与した後、0.10〜0.37g/dtexの張力でストレッチして引き揃える。
【0033】
0.10g/dtex未満であると十分なストレッチが施されず、単糸間の糸長バラツキが大きくなる。また、0.37g/dtexを超える場合には、嵩高合成繊維束が伸びきってしまい開繊され、後述の圧空交絡処理により染着性の異なる各単糸の混繊も進行してコントラストが弱くなり、バルキー性やボリューム感も不満足となり好ましくない。
【0034】
また、捲縮ノズルに導入する糸条速度は2800m/min 以下とすることが好ましく、500〜2500m/min とすることがより好ましい。速過ぎる場合はノズル通過後の捲縮の固定や安定な走行が難しいので、所望の捲縮特性を得ることが困難である。また、遅過ぎる場合は生産効率が悪いので好ましくない。
【0035】
異色混繊捲縮糸を製造する場合、その工程通過性や捲縮特性をコントロールする目的のためには、捲縮ノズルに導入する糸条に予め交絡を付与しておく事が好ましいが、本発明の目的とする高い捲縮性を付与するためには、捲縮ノズルに供する糸条にはほとんど交絡が付与されていないことが好ましい。具体的には、捲縮付与前の糸条を水上に浮遊させて測定した1mあたりの集束部の数(水上交絡数)が10個/m以下、より好ましくは3個/m以下であることが好ましい。
【0036】
交絡は、圧空を用いた交絡ノズルを使用して付与すればよい。捲縮性の高い捲縮糸に高い交絡を付与するためには、交絡時の糸条走行速度、交絡付与時の走行糸条張力と、圧空の圧力を所定水準にすることが重要である。すなわち、交絡時の走行糸条速度が速過ぎると単糸の開繊が起こり難くなって交絡がかかりにくくなるので、1500m/min 以下、好ましくは1200m/min 以下で走行させる。また、走行糸条張力が高すぎると単糸が開繊せず高い交絡が付与できないので、0.1g/d 以下、好ましくは0.08g/d 以下の張力とする。その際、交絡ノズルに導入する異色性ポリマー糸条毎の個別の張力をなるべく同等にし、その変動を少なくするためには、事前にガイドや、コンペンセーター等で張力調節することが好ましい。また、圧空の圧力は、所望水準の高い交絡を付与しかつ交絡の結節点が堅くなりすぎないために0.5〜1MPaとするが、糸条の繊度や張力との兼ね合いで、所定の交絡数になるように適宜設定すればよい。
【0037】
上記のようにして異色性ポリマーからなる捲縮糸2種以上を合糸し交絡した後、ワインダーによってチーズ形状に巻取る。ここにおける巻取り張力が高過ぎると巻取り状態での保管時に捲縮性が悪化し易いので、所望の高い捲縮を得るためには巻取り張力は高過ぎないこと、例えば0.3g/d以下が好ましい。
【0038】
このようにして得られたカーペット用混繊捲縮糸は顕在化した高い捲縮性能をも有するので、沸騰水処理した後に測定した捲縮伸長率が18〜35%と高い混繊捲縮糸となる。
【0039】
この無地調カーペット用異色混繊捲縮糸は、公知の方法により、タフティング・染色・バッキングが施される。染色方法は、連続染色、ウインス染色、さらにはロープ染色などが特に制限なく使用可能である。
【0040】
本発明の異色混繊捲縮糸を用いたカーペットは特にループパイルのタイルカーペットとした場合に、パイル糸を構成する2種もしくは3種類の捲縮糸のL値差が5以上15以下の範囲を満たす場合にタテ筋の目立ち難い無地調カーペットを得ることができる。L値差が5以上であると単調な色調になりにくくなる。一方、L値差が15以下であれば、コントラストが強くなり過ぎず、深みのある同色感使いの色合いを表現することができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。上述の説明中、および以下に述べる実施例における各物性値は、具体的には下記の方法で測定した値である。
【0042】
[硫酸相対粘度]
ポリマ試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。
【0043】
[総繊度]
JIS L 1013(1999) 8.3.1正量繊度 b)B法に従って、初荷重として0.882mN/dtex、公定水分率をポリアミド4.5%を用いて、JIS L 0105 3.1(1)絶乾混用率から算出する場合を使用して測定した。
【0044】
[沸騰水処理後の捲縮伸長率(異色混繊捲縮糸]
かせ状態にした糸条を、室温20℃、湿度65%の室内において3時間放縮させる。次いで沸騰水中に20分間浸して沸騰水処理を施す。次に沸騰水処理したかせ状態の糸条を12時間前述の室内で放置乾燥させる。この試料糸に0.0176mN/dtexの初荷重をかけ30秒経過した後に試料長50cm(L1)にマーキングする。次いで同試料に0.882mN/dtexの定荷重をかけて30秒経過後に伸びた試料長(L2)を測定する。下記式により沸騰水処理後の捲縮伸長率G[%]を求めた。
G={(L2−L1)/L1}×100
【0045】
[沸騰水処理後の捲縮伸長率、伸長率差(分繊糸)]
かせ状態にした糸条を、室温20℃、湿度65%の室内において3時間放縮させる。次いでアントラキノン系酸性染料を含んだ沸騰水中に20分間浸して沸騰水処理を施す。次に沸騰水処理したかせ状態の糸条を12時間前述の室内で放置乾燥させる。この試料糸に0.0176mN/dtexの初荷重をかけ30秒経過した後に試料長50cmにマーキングする。次いで、過剰張力を掛けずに混繊交絡部を解除して、通常のポリアミド捲縮糸(レギュラー:Reg)、酸性染料と結合するアミノ末端基量を増加させたポリアミド捲縮糸(ディープ:Deep)、塩基性染料と結合するスルホ末端基を導入したポリアミド捲縮糸(カチオン:Cation)を識別する。それぞれの試料糸に0.0176mN/dtexの初荷重をかけ30秒経過した後に前記マーキングした箇所を測定し、レギュラー、ディープ、カチオンをそれぞれL’1(Reg)、L’1(D)、L’1(C)とした。次いで、それぞれの同試料に0.882mN/dtexの定荷重をかけて30秒経過後に伸びた試料長を測定し、それぞれL’2(Reg)、L’2(D)、L’2(C)とした。下記式により、それぞれの分繊捲縮糸について沸騰水処理後の分繊捲縮伸長率G’[%]を求めた。
G’={(L’2−L’1)/L’1}×100
【0046】
また、それぞれの沸騰水処理後の分繊糸の捲縮伸長率差は、下記式によって得られた値の絶対値の大きい方を採用した。
ΔG’(Reg−C)=G’(Reg)−G’(C)
または、ΔG’(D−C)=G’(D)−G’(C)
【0047】
[沸騰水処理後の糸長糸長差(分繊糸)]
前述記載の沸騰水処理後の分繊糸の捲縮伸長率で測定したL’2(Reg)、L’2(D)、L’2(C)において、下記式により、L’2(C)を100%基準とした場合のL’2(Reg)、L’2(D)について糸長H[%]を求めた。
H(Reg)=L’2(Reg)×100/L’2(C)
H(D)=L’2(D)×100/L’2(C)
また、それぞれの沸騰水処理後の分繊糸の糸長差は、下記式によって得られた値の絶対値の大きい方を採用した。
ΔH’(Reg−C)=H’(Reg)−100
または、ΔH’(D−C)=H’(D)−100
【0048】
[水上交絡数]
50cm長の浴槽に水を満たし、その水面に測定しようとする試料糸を張力がかからないようにして直線上に浮かべる。50cmあたりの水面での結節点の数をn=10で数え、1mあたりに換算して水上交絡数とする。
【0049】
[異色混繊捲縮糸の交絡特性]
LAWSON−HEMPHILL,Inc.製のEIB−E(Electronic Inspection Board for Entanglement:電子的糸検査ボード装置)を使用し、下記方法によりCV値、交絡数および交絡抜数を測定した。
【0050】
A.1m当たりの交絡数のCV値
100mの糸条を1m毎に分けて考えて、後述の方法で決定した交絡点の数をそれぞれ求める。つまり1mあたりの交絡数が100点得られる。この100点の1mあたりの交絡数の標準偏差をσ[個/m]、100点の1mあたりの交絡数の平均値をX[個/m]とした場合、CV=100σ/Xとして得られる数値CVをCV値[%]とする。これは測定値のばらつきの程度を示す値である。
【0051】
交絡点測定方法は、糸条に1/10[mN/dtex]の張力を与えた状態で、糸条の直径を5mm間隔で長手方向に連続して100m測定する。こうして得られた20001点の糸条直径の平均値から、まず平均直径Y[mm]を求める。次に平均直径Yを求めるのに用いた100mの糸条に対して改めて1/10[mN/dtex]の張力を与えた状態で、糸条の直径を連続して測定し、直径が0.7Y[mm]以下の節部分を交絡点とする。ここで節とはフィラメント単繊維同士が絡み合い収束し、その前後よりも直径が小さい部分である。
【0052】
B.1m当たりの交絡数の平均値
先述した100点の1mあたりの交絡数の平均値X[個/m]として求められる。
【0053】
C.70mm以上の交絡抜数
100mの測定長において、ある交絡点から次の交絡点までの距離が70mm以上に及ぶ部分の個数[個/100m]として求められる。
【0054】
[L値]
パイル糸を分繊し、それぞれの分繊捲縮糸をプレート巻きにして、スガ試験機(株)製分光測色機SM−Pを用いてL値を測定した。測定は、プレート巻きの異なる部分をn=5で測定し、その平均値とした。
【0055】
[カーペットのタテ筋]
得られた無地調カーペット(幅1m長さ10m)を30Wの蛍光灯の下に静置し、約3m離れたところからパイルのタフト方向に沿ってカーペットの表面を観察し、タテ筋の発生状況を相対的に下記のように評価した。
○:柄流れなし。
△:明確な柄流れはないが、筋っぽく見える。
×:柄流れあり。
【0056】
[カーペットの色調]
上記の場合と同様にして、色の濃淡差が階調で深みのある同色感、表面均一性について観察し、相対的に下記のように評価した。
○:深みのある同色感を有し、表面が均一である。
△:やや色の深み、表面均一性に劣る。
×:パイル毎に濃淡斑があり、表面均一性に劣る。
【0057】
[カーペットのボリューム感]
上記で得られた無地調カーペットを10名のモニターに触れてもらい、下記のように評価した。
○:反発性が良好。
△:やや反発性が劣る。
×:反発性が不良。
【0058】
[酸性染料可染ポリアミド延伸糸の製造(A−1〜3、B−1〜3)]
硫酸相対粘度2.8、アミノ末端基(−NH2)量4.5×10−5mol/gを有するレギュラータイプのナイロン6チップをエクストルーダー型紡糸機で溶融し、紡糸温度265℃で田型中空口金を用いて紡糸した。紡糸された糸条はユニフロー型チムニーによって冷却・固化された後、給油ロールによって油剤を付与し、総合延伸倍率2.5倍で延伸した後、交絡ノズルに供給した空気圧力で5個/mの水上交絡数を付与することで890dtex−54フィラメントの延伸糸を得た(A−1)。
【0059】
ここで、交絡ノズルに供給した空気圧力を変更することで水上交絡数を10個/mとした以外はA−1と同様にして作製した(A−2)。同様に、交絡ノズルに供給した空気圧力を変更することで水上交絡数を15個/mとした以外はA−1と同様にして作製した(A−3)。
【0060】
また、アミノ末端基(−NH2)量4.5×10−5mol/gをアミノ末端基(−NH2)量7.2×10−5mol/gを有するディープタイプにした以外はA−1と同様にして作製した(B−1)。
【0061】
ここで、交絡ノズルに供給した空気圧力を変更することで水上交絡数を10個/mとした以外はB−1と同様にして作製した(B−2)。同様に、交絡ノズルに供給した空気圧力を変更することで水上交絡数を15個/mとした以外はB−1と同様にして作製した(B−3)。
【0062】
[塩基性染料可染ポリアミド捲縮糸(C−1)の製造]
硫酸相対粘度2.8、スルホ末端基(−SO3)量4.6×10−5mol/gを有するカチオンタイプのナイロン6チップをエクストルーダー型紡糸機で溶融し、紡糸温度250℃で田型中空口金を用いて紡糸した。紡糸された糸条はユニフロー型チムニーによって冷却・固化された後、給油ロールによって油剤を付与して延伸され、引き続いて一旦巻き取ることなく通常の捲縮ノズルによって蒸気圧力0.9MPa、ノズル温度230℃で捲縮が付与され、冷却固定の後に交絡ノズルによって交絡が付与されて巻き取られた。こうして890dtex−54フィラメントの捲縮糸を得た。
【0063】
[実施例1]
得られた2種類の酸性染料可染ポリアミド延伸糸(A−1、B−1)をそれぞれパッケージから解舒して引き揃えて、特開2004−84080号公報に記載のジェットノズル(JN)を用いて、蒸気圧力0.5MPaおよび捲縮ノズル温度を制御し個別に捲縮処理を施し、次いで0.25g/dtexの張力を付与した後、塩基性染料可染ポリアミド捲縮糸(C−1)を供給し、3種類の捲縮糸を引き揃えて0.6MPaの空気圧力で交絡を付与し3杢用の異色混染捲縮糸を得た(2670dtex−162フィラメント)。得られた異色混繊捲縮糸をパイル糸に用い、1/10ゲージ、目付600g/m、パイル高さ3.5mmでタフトしてカーペットを製造した後、異色混繊捲縮糸を構成する3種類のL値差が、5以上15以下の範囲を満たす酸性染料と塩基性染料の両者の共存する浴中で、常法に従い染色して無地調カーペットを得た。その結果は表1に示すとおり、カーペットとしたときのタテ筋の原因となる柄流れがなく、深みのある同色感を有し、良好なボリューム感があった。
【0064】
[実施例2、3]
実施例2は、実施例1と同じ3種類の異色性ポリマーを用い、0.25g/dtexの捲縮付与後張力を0.1g/dtexとした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。同様に、実施例3は捲縮付与後張力を0.35g/dtexとした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表1に示すとおり、実施例2は、捲縮付与後張力が低いために、酸性染料可染捲縮糸(B−1)とカチオン可染捲縮糸(C−1)の沸騰水処理後の伸長率差が4%、糸長差が2.5%となり、ディープ糸が表面をやや占有する傾向にあり、若干の表面均一性に劣っていたが、柄流れのない、良好なボリューム感があった。実施例3は、捲縮付与後張力が高いために、交絡処理による混繊が進行し、やや色調およびボリューム感に劣っていたが、柄流れは見られず、無地調カーペット特性としては十分であった。
【0065】
[実施例4]
実施例4は、実施例1に用いた酸性染料可染ポリアミド延伸糸の(A−1、B−1)を(A−2、B−2)とした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表1に示すとおり、原糸の交絡数がやや多いために、若干の色調およびボリューム感に劣っていたが、柄流れは見られず、無地調カーペット特性としては十分であった。
【0066】
[実施例5]
実施例5は、実施例1と同じ3種類の異色性ポリマーを用い、それぞれの捲縮糸を引き揃えて0.6MPaの空気圧力を1.0MPaとした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表1に示すとおり、異色混繊交絡処理時の空気圧力がやや高いため、混繊が進行し、若干の深みのある同色感に劣り、またボリューム感もやや劣っていたが、柄流れは見られず、無地調カーペット特性としては十分であった。
【0067】
【表1】

【0068】
[比較例1、2]
比較例1は、実施例1に用いた酸性染料可染ポリアミド延伸糸の(A−1、B−1)の代わりに(A−3、B−3)を用い、0.25g/dtexの捲縮付与後張力を0.06g/dtexとした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。同様に、比較例2は酸性染料可染ポリアミド延伸糸(A−3、B−3)を用い、捲縮付与後張力を0.4g/dtexとした以外は実施例1と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表2に示すとおり、比較例1は、捲縮付与後張力が低いために、酸性染料可染捲縮糸(B−3)とカチオン可染捲縮糸(C−1)の沸騰水処理後の伸長率差が6%、糸長差が4%と大きく、柄流れがあった。比較例2は、捲縮付与張力が高いために、捲縮性が伸び、ボリューム感は不十分であった。また、酸性染料可染捲縮糸(A−3、B−3)のそれぞれの沸騰水処理後伸長率ならびに糸長がカチオン可染捲縮糸(C−1)よりも小さくなるため、カチオン可染捲縮糸が表面を占有する傾向にあり、表面均一性に欠け、柄流れがあった。また、比較例1、2のいずれも原糸の交絡数が多いため、個別捲縮処理が不十分となりやすく、異色混繊捲縮糸の交絡形成も不均一となり、色調およびボリューム感が不十分であった。
【0069】
[比較例3、4]
比較例3は、比較例1と同じ3種類の異色性ポリマーを用い、それぞれの捲縮糸を引き揃えて0.6MPaの空気圧力を1.1MPaとした以外は比較例1と同様にして無地調カーペットを得た。同様に、比較例4は空気圧力を0.4MPaとした以外は比較例1と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表2に示すとおり、比較例3は、異色混繊交絡処理時の空気圧力が高いため、交絡数が多くなり、ボリューム感に劣っていた。比較例4は、異色混繊交絡処理時の空気圧力が低いため、交絡数が少なく、表面均一性がなく、深みのある色調に欠けていた。また、比較例3、4のいずれも原糸の交絡数が多いため、個別捲縮処理が不十分となりやすく、異色混繊捲縮糸の交絡形成も不均一となり、色調およびボリューム感が不十分であった。
【0070】
[比較例5]
比較例5は、比較例3と同じ3種類の異色性ポリマーを用い、異色混繊捲縮糸を構成する3種類のL値差11を25とした以外は比較例3と同様にして無地調カーペットを得た。その結果は表2に示すとおり、比較例5は、酸性染料可染捲縮糸(B−3)とカチオン可染捲縮糸(C−1)の沸騰水処理後の伸長率差が6%、糸長差が4%であったが、タテ筋の原因となる柄流れは見られなかった。しかし、従来のコントラストの強い杢調柄が得られ、深みのある同色感の色合いを有する無地調カーペットを得ることはできなかった。
【0071】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色性能および/または色調の異なる2種類もしくは3種類の捲縮糸が混繊された、沸騰水処理後の捲縮伸長率が18〜35%の異色混繊捲縮糸であって、分繊後のそれぞれの捲縮糸の沸騰水処理後の伸長率差が4%以下であり、かつ糸長差が3%以下であることを特徴とする異色混繊捲縮糸。
【請求項2】
1m当たりの交絡数の平均値が28〜43個/mであることを特徴とする請求項1に記載の異色混繊捲縮糸。
【請求項3】
異色混繊捲縮糸を構成するポリマーがポリアミドであることを特徴とする請求項1または2に記載の異色混繊捲縮糸。
【請求項4】
染色性の異なる2種類もしくは3種類のマルチフィラメントを別々に捲縮付与し0.10〜0.37g/dtexの張力でストレッチして引き揃え、0.5〜1MPaの圧空で交絡処理することを特徴とする異色混繊捲縮糸の製造方法。
【請求項5】
前記染色性の異なる2種類もしくは3種類のマルチフィラメントの捲縮付与前の水上交絡数が 10個/m以下であることを特徴とする請求項4に記載の異色混繊捲縮糸の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の異色混繊捲縮糸で構成された無地調カーペットであって、それぞれの捲縮糸のL値差が5〜15であることを特徴とする無地調カーペット。

【公開番号】特開2009−235619(P2009−235619A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83785(P2008−83785)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】