説明

異音発生防止材

【課題】磨耗粉が発生したとしても効果的に異音の発生を抑制することができ、しかも粘着剤を粘着固定できる異音発生防止材を提供する。
【解決手段】前記異音発生防止材は、フッ素系樹脂含有樹脂によって部分的に被覆された不織布からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は異音発生防止材に関し、例えば、自動車などの車両内における、パーツ間に配置してパーツ同士の擦れに起因する異音の発生を防止することができる。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車走行時の振動を受けた際に、パーツ同士の擦れによって、異音が発生しやすい。近年の車内空間の静粛化に伴って、異音をより認識しやすい環境となっており、異音の発生は搭乗者を不快にさせる。
このような異音の発生を防止するために、パーツ間に不織布を介在させることが一般的に行われているが、しばしば異音発生防止性能の更なる向上のため、フッ素系樹脂などの摩擦抵抗の低い樹脂を不織布に含浸又はコーティングする方法、不織布構成繊維としてフッ素系繊維を含ませる方法(特許文献1など)により摺動性を向上させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−150724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素系樹脂をコーティングした不織布及びフッ素系繊維を含ませた不織布は摺動性に優れるものであったが、繰り返し擦れることによって自動車等のパーツ表面又は不織布自らから磨耗粉が発生してしまい、この磨耗粉によって異音が発生しやすいという問題が発生した。
また、パーツ間に不織布を介在させる場合、一般的に粘着剤によって粘着固定するが、フッ素系樹脂を含浸した不織布に粘着剤を粘着しようとしても、粘着剤を前記不織布に粘着固定することができず、実際に使用できないものであった。
そこで、本発明は磨耗粉が発生したとしても効果的に異音の発生を抑制することができ、しかも粘着剤を粘着固定できる異音発生防止材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明による、フッ素系樹脂含有樹脂によって部分的に被覆された不織布からなる異音発生防止材により解決することができる。
【0006】
本発明の異音発生防止材の好ましい態様によれば、フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆された部分の総面積が、不織布全体の面積の9〜25%である。
本発明の異音発生防止材の別の好ましい態様によれば、フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆された部分が不連続であり、更に好ましい態様によれば、不連続に配置された各被覆部分の1個あたりの面積が0.02mm〜1.5mmである。
【発明の効果】
【0007】
フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆された部分は摩擦抵抗が低いため摺動性に優れ、異音の発生を抑制する。また、不織布構成繊維がフッ素系樹脂含有樹脂により被覆、場合により結合されていることによって、不織布構成繊維及び自動車パーツ表面が磨耗しにくく、磨耗粉自体が発生しにくい。
また、フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆されていない非被覆部分は不織布の多孔性を有するため、磨耗粉が発生したとしても、非被覆部分によって捕捉でき、不織布内部へと除去できるため、磨耗粉に起因する異音の発生を抑制できる。
更に、異音発生防止材に粘着剤を粘着固定しようとした場合、フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆されていない部分で粘着固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】不織布へのフッ素系樹脂含有樹脂の部分的塗布に使用することができ、複数の円形開孔がランダムに配置された塗工用シリンダーの部分構造を、拡大して示す、図面に代わる写真である。
【図2】図1に示す塗工用シリンダーを用いて製造した、本発明の異音発生防止材の一態様の部分構造を、拡大して示す、図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明で用いるフッ素系樹脂含有樹脂に含有させることのできるフッ素系樹脂として、例えば、四フッ化エチレン樹脂(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン−プロピレン系共重合体、テトラフルオロエチレン−プロピオン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−プロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン共重合体、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)−テトラフルオロエチレン系共重合体フッ化ビニル系重合体、フッ化ビニリデン系重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系共重合体樹脂などを挙げることができる。これらのフッ素系樹脂は、1種類を単独で、あるいは、2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
本発明で用いるフッ素系樹脂含有樹脂は、フッ素系樹脂以外の樹脂を含んでいることができる。このフッ素系樹脂以外の樹脂としては、例えば、酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル、ウレタンなどを挙げることができる。これらの樹脂のように、フッ素系樹脂以外の樹脂が繊維同士を結合可能な樹脂である場合、この樹脂によって不織布構成繊維同士が結合されるため、磨耗粉自体が発生しにくい。
【0011】
フッ素系樹脂以外の樹脂を含んでいる場合、フッ素系樹脂とフッ素系樹脂以外の樹脂の固形分質量比率は30:70〜70:30であるのが好ましい。フッ素系樹脂の固形分比率が30%未満であると、摩擦抵抗が高く、摺動性が悪くなり、異音を発生しやすくなる傾向があるためで、フッ素系樹脂の固形分比率が70%を超えると、不織布構成繊維の結合力が弱くなり、磨耗粉を発生しやすくなる傾向があるためである。より好ましい固形分質量比率は40:60〜60:40である。
【0012】
本発明の異音発生防止材では、不織布がフッ素系樹脂含有樹脂によって部分的に被覆されている。1個あたりの被覆面積は0.02mm〜1.5mmであるのが好ましく、0.05mm〜0.8mmであるのがより好ましい。
また、被覆総面積が不織布全体の面積(不織布表面が平滑であると見なした時の面積)の9〜25%であるのが好ましく、10〜20%であるのがより好ましく、10〜15%であるのが更に好ましい。
1個あたりの被覆面積が0.02mm未満、又は被覆総面積が9%未満であると、摺動性が悪く、異音を発生しやすい傾向があり、また、磨耗粉を発生しやすい傾向があるためである。
他方、1個あたりの被覆面積が1.5mmを超える、又は被覆総面積が25%を超えると、非被覆部分である不織布の多孔性部分が少なく、発生した磨耗粉の除去作用に劣り、異音が発生しやすい傾向があるためである。また、フッ素系樹脂含有樹脂で被覆した面に対して粘着剤を付与する場合には、粘着剤の粘着固定作用が低下する傾向がある。
【0013】
被覆部分は連続していても不連続であっても良い。連続している場合、被覆部分は直線及び/又は曲線であり、被覆部分は互いに平行でも良いし、所定の角度で交差していても良い。
不連続である場合の被覆部分の形状は特に限定するものではないが、例えば、円形、楕円、長円、多角形(例えば、四角形、六角形など)であることができる。また、不連続である場合の被覆部分の配置は、千鳥状、格子の交点に規則正しく、又はランダムに配置することができる。
【0014】
フッ素系樹脂含有樹脂による被覆は、不織布の表面及びその近傍にのみ付与されるように塗布することもできるし、あるいは、不織布の内部まで到達するよう塗布することもできる。また、フッ素系樹脂含有樹脂による被覆は不織布の片面のみであっても良いし、両面であっても良い。片面であると、フッ素系樹脂含有樹脂を被覆していない面に対して、粘着剤を強固に粘着固定できるため好適である。
【0015】
本発明で用いることのできる不織布構成繊維としては、例えば、レーヨン繊維などの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリウレタン繊維、ポリクラール繊維、フッ素繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、綿などの植物繊維、羊毛などの動物繊維などを単独で、又は組み合わせることができる。
不織布としては、例えば、乾式ウエブ、湿式ウエブ、メルトブローウエブ、スパンボンドウエブなどを、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法、或いはこれらを併用する方法で結合した不織布を挙げることができる。
【0016】
本発明の異音発生防止材は、例えば、フッ素系樹脂を含む樹脂バインダー溶液を、不織布に対して部分的に付与(被覆)し、乾燥して得ることができる。
なお、異音発生防止材の片面に粘着剤を粘着固定することによって、パーツに粘着固定して使用できる異音発生防止材とすることができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
<実施例1>
繊度1.3デニール、繊維長38mmのポリエステル繊維をカード機により開繊し、目付40g/mの繊維ウエブを形成した。
この繊維ウエブを100メッシュの平織ネット上に載置し、ノズル径0.13mm、ピッチ0.6mmのノズルプレートから水流を噴出(水圧:約10MPa)し、繊維ウエブを裏返し、同様のノズルプレートから水流を噴出(水圧:約10MPa)し、更に、繊維ウエブを裏返し、同様のノズルプレートから水流を噴出(水圧:約10MPa)して、水流絡合不織布(目付:40g/m、厚さ:0.3mm)を形成した。
他方、水分散型フッ素系ポリマー(ダイキン工業(株)製、ユニダイン(登録商標)TG−581)と水系増粘剤(アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸共重合体)を、固形分質量比率が1:1となるように混合し、粘度がおよそ18000[Pa/s]になるよう粘度を調整したバインダーを調合した。
次に、上記水流絡合不織布の上に、図1の写真のような、円形の開孔がランダムに配置したシリンダーを密着させ、シリンダーの裏面から前記バインダーを押し出し、不織布に塗布(コーティング)し、送風機付き乾燥機にて温度150℃で5分間乾燥させ、水流絡合不織布を部分的に被覆して異音発生防止材(1個の被覆面積:約0.7mm、被覆部の形状:円形、被覆部の配置:ランダム、被覆比率:約12%、目付:43g/m、厚さ:0.35mm)を製造した。製造した異音発生防止材の拡大図を図2に示す。
【0019】
<実施例2>
繊度1.7デニール、繊維長40mmのナイロン繊維をカード機により開繊し、目付40g/mの繊維ウエブを形成した。
この繊維ウエブを100メッシュの平織ネット上に載置し、ノズル径0.13mm、ピッチ0.6mmのノズルプレートから水流を噴出(水圧:約10MPa)し、繊維ウエブを裏返し、同様のノズルプレートから水流を噴出(水圧:約10MPa)して、水流絡合不織布(目付:40g/m、厚さ:0.3mm)を形成した。
この水流絡合不織布を使用したこと以外は実施例1と同様にして、水流絡合不織布を部分的に被覆して異音発生防止材(1個の被覆面積:約0.7mm、被覆部の形状:円形、被覆部の配置:ランダム、被覆比率:約12%、目付:43g/m、厚さ:0.35mm)を製造した。
【0020】
<比較例1>
実施例1の水流絡合不織布(目付:40g/m、厚さ:0.3mm)を異音発生防止材とした。
【0021】
<比較例2>
水分散型フッ素系ポリマーを配合せず、水系増粘剤(アクリル酸アルキルエステル・メタクリル酸共重合体)のみからなるバインダーを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、異音発生防止材(1個の被覆面積:約0.7mm、被覆部の形状:円形、被覆部の配置:ランダム、被覆比率:約12%、目付:43g/m、厚さ:0.35mm)を製造した。
【0022】
<比較例3>
水分散型フッ素系ポリマー(ダイキン工業(株)製、ユニダイン(登録商標)TG−581)バインダー浴中に、実施例2と同様に形成した水流絡合不織布を浸漬し、ロールで絞った後に乾燥させ、異音発生防止材(目付:40g/m、厚さ:0.3mm)を製造した。
【0023】
<比較例4>
水分散型フッ素系ポリマー(ダイキン工業(株)製、ユニダイン(登録商標)TG−581)と水系アクリル樹脂エマルジョン(DIC(株)製、AN−1190S)を、固形分質量比率が1:1となるように混合し、バインダーを調合した。
次いで、実施例1と同様に形成した水流絡合不織布に対してスプレーにより全面に塗布した後、乾燥させ、異音発生防止材(目付:44g/m、厚さ:0.35mm)を製造した。
【0024】
<異音の評価方法>
(1)異音防止耐久性試験1
23℃、50%RH環境下において、次のようにして行った。
複合強化ポリプロピレン樹脂(株式会社プライムポリマー製、「LA880」)を射出成形し、たて70mm×よこ110mm、厚さ2mmに切り出した樹脂平板とし、平板の供試する面は射出成形時の表面を維持させたものとした。なお、この平板は自動車、その他産業製品のパーツに汎用される材質と製品面を模擬したものである。
試験機としてZINS Ziegler-Instruments GmbHのStick-Slip test stand SSP-01を使用し、ステージ(Carriage)側に上記樹脂平板を固定し、板バネ(Spring)側には先鋭型サンプルホルダ先端に、たて50mm×よこ25mmに切り出した各異音発生防止材をTESA tape社製両面テープ「4980」を用いて貼り付け、固定した。
樹脂平板と各異音発生防止材の接触時押付力を40Nに保ち、10mm/秒の一定スピード下で振幅20mmの距離を左右に100往復させ、擦らせた。なお、この条件はドイツ自動車技術協会規格であるVDA 230-260に一部準拠したものである。
このとき、100往復以内で試験機装置前の試験者の耳に聞こえた擦れ音に対し、次の基準で判定評価した。
◎:可聴域の異音発生なし。
○:スティックスリップ現象による小さな擦れ異音を感知。
×:スティックスリップ現象による大きな擦れ異音を感知。
【0025】
(2)異音防止耐久性試験2
23℃、50%RH環境下において、次のようにして行った。
異音防止耐久性試験1と同時に、試験機により出力される異音発生のリスク指数を記録し、異音防止性能の初期評価として10往復後を、耐久性評価として100往復後のリスク指数を評価した。このリスク指数は摩擦により発生する振動を、次の1〜10段階で意味付け、等級評価するものである。
1〜3:スティックスリップによる不快異音の危険性は予期できない。
4〜5:スティックスリップによる不快異音の危険性は排除できない。
6〜10:スティクスリップによる不快異音の発生が予期される。
【0026】
<粘着剤加工品の評価方法>
粘着剤加工性試験は(1)異音防止耐久性試験1と同時に、次の基準により判定評価した。
◎:粘着剤からの異音発生防止材の浮き、剥れなし。
○:粘着剤から異音発生防止材の評価接触部以外の部分的な浮き、剥れ発生。
異音防止耐久性試験は継続可能。
×:粘着剤から異音発生防止材の評価接触部での浮き、剥れ発生。
異音防止耐久性試験の継続不可能。
【0027】
<評価結果>
【表1】

#1:途中で剥れてしまい、測定不可能
#2:40往復で異音発生
#3:50往復で異音発生
#4:加速度リミッターによる試験中断によりデータ無し
【0028】
<考察>
フッ素系樹脂含有樹脂によって部分的に被覆した不織布からなる本発明の異音発生防止材は、異音の発生し難いものであることが分かった。評価後に異音発生防止材を観察したところ、磨耗粉の発生が確認されたため、磨耗粉が非被覆部分によって捕捉され、不織布内部へと除去されているためであると推測できた。
また、本発明の異音発生防止材は粘着剤を粘着固定できるため、パーツに粘着固定できる、実用的なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の異音発生防止材は、例えば、自動車などの車両内における、パーツ間に配置してパーツ同士の擦れに起因する異音の発生防止の用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂含有樹脂によって部分的に被覆された不織布からなる異音発生防止材。
【請求項2】
フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆された部分の総面積が、不織布全体の面積の9〜25%である、請求項1に記載の異音発生防止材。
【請求項3】
フッ素系樹脂含有樹脂によって被覆された部分が不連続である、請求項1又は2に記載の異音発生防止材。
【請求項4】
不連続に配置された各被覆部分の1個あたりの面積が0.02mm〜1.5mmである、請求項3に記載の異音発生防止材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132617(P2011−132617A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290688(P2009−290688)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】