説明

疎水性シリカ

【課題】一般塗料における光老化防止性能の向上や耐水性・耐油性向上、船底塗料における汚れ(貝殻)付着防止性能の向上、ゴムや樹脂の表面滑り性改善や耐磨耗性向上および機械的強度の補強性向上、静電複写機におけるトナーの流動性向上、消泡剤の消泡性能向上、成紙のブロッキング性能向上を得るための高い疎水性を有する疎水性シリカを提供することにある。
【解決手段】親水性シリカを(A)エポキシアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)(a)カルボン酸化合物、(b)アルコール、(c)アルキルケテンダイマーから選ばれた1種以上を含む疎水化剤で処理して得られることを特徴とする疎水性シリカ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、ゴム、樹脂、農薬、紙などに用いられる疎水性シリカに関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性シリカはその疎水性を生かして、従来から一般塗料用の艶消剤、光老化防止剤、耐水化剤、耐油化剤、耐薬品化剤および充填剤、船底塗料の汚れ(貝殻)付着防止添加剤、ゴムや樹脂の表面滑り性改善剤や耐磨耗性向上剤および機械的強度補強剤、静電複写機用トナーなどの微細粉体の流動化剤、農薬の疎水性成分の担体、消泡剤成分、紙用の撥水剤、撥油化剤、ブロッキング剤などに使用されている。
【0003】
疎水性シリカの製造は、主に親水性シリカを疎水化剤で処理して製造され、従来より種々の方法が提案されてきた。例えば、親水性シリカとメチルクロロシランやシランカップリグ剤を反応させて疎水性シリカを得る方法、親水性シリカと高分子量オルガノポリシロキサンで疎水化する方法、親水性シリカをヘキサメチルジシラザン(HMDS)とオルガノポリシロキサンで疎水化する方法(例えば特許文献1参照)等がある。
【0004】
しかし、これらの方法によって容易に疎水性シリカを得ることができるが、その疎水性シリカの修飾疎水度(特許文献2参照)は70%前後を限度としている。さらに、親水性シリカとシランカップリグ剤および/又はオルガノポリシロキサンの多くは単にシリカの表面に付着しているだけで、表面と反応しているシランカップリグ剤および/又はオルガノポリシロキサンの比率が少ないために、使用環境によって親水性シリカとのシランカップリグ剤および/又はオルガノポリシロキサンとの分離が生じる欠点がある。近年、一般塗料における光老化防止性能の向上や耐水性・耐油性向上の要求、船底塗料においては従来の有機鉛化合物や有機錫化合物を使用することなく、より環境に適した汚れ(貝殻)付着防止性能の要求、ゴムや樹脂の表面滑り性改善や耐磨耗性向上および機械的強度の補強の要求、静電複写機におけるトナーの流動性向上、消泡剤の性能向上、成紙のブロッキング性能向上が要望され、その方法としてより高い疎水性シリカが求められている。
【0005】
そこで、高い疎水性シリカを得る改善方法として、塗料用艶出剤に親水性シリカをポリエチレンワックスで表面処理する方法(例えば特許文献3参照)、親水性シリカを水蒸気、アンモニアやアミン等の塩基性ガスの存在下でヘキサメチルジシラザン(HMDS)と反応させる方法(例えば特許文献4参照)等が提案されてきた。しかし、依然満足する高い疎水性を得るには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特開平5−97423号公報
【特許文献2】特開平8−259216号公報
【特許文献3】特開平7−166091号公報
【特許文献4】特開平8−259216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、一般塗料における光老化防止性能の向上や耐水性・耐油性向上、船底塗料における汚れ(貝殻)付着防止性能の向上、ゴムや樹脂の表面滑り性改善や耐磨耗性向上および機械的強度の補強性向上、静電複写機におけるトナーの流動性向上、消泡剤の消泡性能向上、成紙のブロッキング性能向上を得るための高い疎水性を有する疎水性シリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、親水性シリカの疎水化について鋭意検討を重ねた結果、特定のエポキシアルキルシラン化合物と、エポキシ基と反応する疎水化剤を使用して親水性シリカの表面を疎水化することによって高い疎水性を有する疎水性シリカが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、請求項1に係る発明は、親水性シリカを(A)エポキシアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)(a)炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和あるいは不飽和の1価のカルボン酸化合物、(b)炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和あるいは不飽和の1価のアルコール、(c)一般式(1)(式中、R、Rは共に炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルケニル基、炭素数7〜28の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基を持つアルキルフェニル基である。)で表されるアルキルケテンダイマーから選ばれた1種以上を含む疎水化剤で処理して得られることを特徴とする疎水性シリカである。
【0010】
【化1】

【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の疎水性シリカであり、(A)エポキシアルキルシラン化合物が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランの1種以上であることを特徴としている。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2記載の疎水性シリカであり、疎水化剤がデカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、デカノール、ウンデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、硬化牛脂アルキル(炭素数14〜18)ケテンダイマー、ステアリルケテンダイマー、ベヘニルケテンダイマーの1種以上であることを特徴としている。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の疎水性シリカであり、疎水化剤に含まれるカルボン酸化合物、アルコール及びアルキルケテンダイマーとの合計モル数と、親水性シリカのエポキシアルキルシラン化合物処理に用いたエポキシアルキルシラン化合物中の反応性エポキシ基のモル数の比率が1:1〜2:1であることを特徴としている。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の疎水性シリカであり、フッ素系界面活性剤の存在下で(A)エポキシアルキルシラン化合物と反応させた親水性シリカを(B)疎水化剤と反応させて疎水化させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の疎水性シリカは、従来の方法で製造された疎水性シリカに比べて高い疎水度を得ることができ、一般塗料における光老化防止性能の向上や耐水性・耐油性向上、船底塗料における汚れ(貝殻)付着防止性能の向上、ゴムや樹脂の表面滑り性改善や耐磨耗性向上および機械的強度の補強性向上、静電複写機におけるトナーの流動性向上、消泡剤の消泡性能向上、成紙のブロッキング性能向上に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、親水性シリカを(A)エポキシアルキルシラン化合物と反応させて、親水性シリカ表面に反応性のエポキシ基を有するエポキシアルキルシリル基を導入した後、該エポキシ基と反応する官能基を持った(B)疎水化剤と反応させて得られる、疎水性の高い疎水性シリカである。
【0017】
本発明で使用する親水性シリカは、特に限定されるものではなく、湿式沈殿法シリカ、湿式ゲル化法シリカ、乾式シリカ(クロロシランの火炎熱分解によって製造されるフュームドシリカを含む)等のいずれのシリカを単独あるいは複数組合せて用いても良い。
【0018】
本発明で使用する(A)エポキシアルキルシラン化合物(以下「エポキシアルキルシラン化合物」とする)は、エポキシ基を有するアルキルシラン化合物であり、当該エポキシアルキルシラン化合物が加水分解して親水性シリカと反応し結合した後、本発明で用いる(B)疎水化剤と反応するエポキシ基を有するアルキルシラン化合物である。具体的なアルキルシラン化合物としては、3−グリシドキシエチルトリメチルシラン、3−グリシドキシエチルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシエチルトリエチルシラン、3−グリシドキシエチルジエチルエトキシシラン、3−グリシドキシエチルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメチルシラン、3−グリシドキシプロピルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエチルシラン、3−グリシドキシプロピルジエチルエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシブチルトリメチルシラン、3−グリシドキシブチルジメチルメトキシシラン、3−グリシドキシブチルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシブチルトリエチルシラン、3−グリシドキシブチルジエチルエトキシシラン、3−グリシドキシブチルエチルジエトキシシラン、3−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがあり、好ましくは3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランである。これらの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。
【0019】
エポキシアルキルシラン化合物による親水性シリカとの反応は、エポキシアルキルシラン化合物のアルコキシシラン結合が加水分解によりシラノール基(Si−OH)を形成した後、外側に反応性のエポキシ基を含むアルキル基を向けて、親水性シリカ表面上のOHと反応して−O−Si結合を形成する。
【0020】
親水性シリカとエポキシアルキルシラン化合物との反応は、特に限定されるものではなく、通常のシラン化合物によるシリカの表面処理の反応に準じて行われる。エポキシアルキルシラン化合物の使用量は下式に従い目安を算出することができる。
a=(b×c)/d
a:エポキシアルキルシラン化合物使用量(g)
b:親水性シリカ(g)
c:シリカ比表面積(m/g)
d:エポキシアルキルシラン化合物の最小被覆面積(m/g)
ここで、最小被覆面積はStuart-Brieglebの分子モデルから計算される。エポキシアルキルシラン化合物の使用量は、目的とする疎水性シリカの用途、疎水化の要求度によって適宜選択されるものであり、通常、親水性シリカに対して2〜20wt%、好ましくは4〜10wt%である。エポキシアルキルシラン化合物の使用量がシリカの2wt%以下である場合には、親水性シリカの疎水性が低くなる場合があり、生成した疎水性シリカの疎水化が十分ではない場合がある。エポキシアルキルシラン化合物の使用量が親水性シリカの20wt%以上になると、使用するエポキシアルキルシラン化合物のコストが高くて不経済であり、さらに生成した疎水性シリカが凝集し易くなり、乾燥、分散し難くなる場合がある。
【0021】
エポキシアルキルシラン化合物の使用方法には、エポキシアルキルシラン化合物をそのまま使用する方法、0.5〜2wt%濃度の希薄水溶液を調製して使用する方法、水溶性有機溶剤に溶解して使用する方法、有機溶剤に溶解して使用する方法等があり、いずれの方法を用いても良い。水溶性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、メチルセルソルブ、ジオキサンなどがある。非水溶性有機溶剤としてはトルエン、キシレンがある。
【0022】
エポキシアルキルシラン化合物の添加方法は、特に限定されるのもではなく、通常、ミキサーやブレンダーの中に親水性シリカを入れ、撹拌しながらエポキシアルキルシラン化合物を直接入れる方法、あるいはエポキシアルキルシラン化合物の水溶液又は水溶性有機溶剤若しくは有機溶媒希釈液をスプレー塗布する方法などがあり、いずれを用いても良い。中でもスプレー塗布方法は従来のスラリー方法に比べて、エポキシアルキルシラン化合物と親水性シリカとの反応後の親水性シリカ、疎水性シリカとエポキシアルキルシラン化合物のろ過、ろ別や遠心分離等の処理が低減・解消され、好ましい。
【0023】
親水性シリカとエポキシアルキルシラン化合物との反応は速やかに進むために、通常、常温〜60℃の温度で行われる。また、親水性シリカとエポキシアルキルシラン化合物との反応時間は、目的とする疎水性シリカの用途、疎水性の要求度によって適宜選択され一律に決定できないが、通常、5〜100分間、好ましく20〜60分間で、ほぼ完全に反応は進み、エポキシアルキルシラン化合物は外に反応性エポキシ基を向けて親水性シリカ表面のヒドロキシル基(OH基)と反応して結合する。また、エポキシアルキルシラン化合物の加水分解は、一般にpHを3.5〜5.5の範囲とすることが好ましく、また、シラノール基の安定性にも好ましいことが知られている。これを維持するために少量の酢酸、リン酸を添加する場合がある。
【0024】
本発明で用いられる(B)疎水化剤(以下「疎水化剤」とする)は、親水性シリカと結合したエポキシアルキルシラン化合物のエポキシ基と反応してシリカをより高い疎水性にするための疎水化剤であり、(a)カルボン酸化合物、(b)アルコール、(c)アルキルケテンダイマーである。
【0025】
本発明で用いられる(a)カルボン酸化合物は、炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖の飽和又は不飽和の1価のカルボン酸、その塩及びそのハロゲン化物である。具体的にはプロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、イソミリスチン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニル酸及びこれらのカルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩さらにはこれらのカルボン酸に対応する酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ素化物がある。炭素数が3未満のカルボン酸、カルボン酸塩及びそのハロゲン化物では、得られる疎水化の程度が十分でない場合があり、炭素数が22を越えるカルボン酸、カルボン酸塩及びそのハロゲン化物は工業的に入手が困難な場合がある。
【0026】
本発明で用いられる(b)アルコールは、炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和あるいは不飽和の1価のアルコールで、具体的にはプロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコ−ル、12―ヒドロキシステアリルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどがある。炭素数が3未満では得られる疎水化の程度が十分でない場合があり、炭素数が22を越えるものは工業的に入手が困難な場合がある。
【0027】
本発明で用いられる(c)アルキルケテンダイマーは、一般式(1)で表されるアルキルケテンダイマーである。一般式中、R、Rは共に炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルケニル基、炭素数7〜28の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基を持つアルキルフェニル基である。具体的には、プロピルケテンダイマー、ブチルケテンダイマー、オクチルケテンダイマー、2−エチルヘキシルケテンダイマー、デシルケテンダイマー、ドデシルケテンダイマー、ヤシアルキル(炭素数10〜12)ケテンダイマー、テトラデシルケテンダイマー、ヘキサデシルケテンダイマー、ステアリルケテンダイマー、イソステアリルケテンダイマー、ベヘニルケテンダイマー、硬化牛脂(炭素数14〜18)ケテンダイマー、牛脂(炭素数14〜18)ケテンダイマー、オレイルケテンダイマー、ブチルフェニルケテンダイマー、オクチルフェニルケテンダイマー、ノニルフェニルケテンダイマー、ドデシルフェニルケテンダイマー、製紙サイズ剤として用いられている製紙用アルキル(炭素数8〜18)ケテンダイマー(AKD)などがある。これらの単独あるいは2種以上を組合せて用いられる。炭素数がこの範囲未満では得られる疎水化の程度が十分でない場合があり、炭素数がこの範囲を越えるものは工業的に入手が困難な場合がある。また、疎水化剤として、これらの単独あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
【0028】
本発明の効果を妨げない範囲内で従来から使用されてきた疎水化剤、例えばジメチルポリシロキサン、末端反応性ヒドロキシル基を持ったジメチルポリシロキサン、ハイドロジエンメチルポリシロキサン、トリメチルクロロシラン等のシランカップリング剤を併用しても良い。
【0029】
疎水化剤の調製は、(a)カルボン酸化合物及び/又は(b)アルキルケテンダイマーを1〜40wt%濃度の有機溶剤に溶解して使用する方法、1〜40wt%濃度の水溶性有機溶剤に溶解して使用する方法、O/W型エマルションとして使用する方法などがあり、何れの方法を用いても良い。有機溶剤としてはトルエン、キシレンなどがあり、水溶性有機溶剤としてはアセトン、メチルエチルケトン、ブチルセルソルブ、ジオキサン、エタノール、エチレングリコール、エチレンカーボネートなどがある。
【0030】
本発明の疎水性シリカ(以下「疎水性シリカ」とする)は、疎水化剤と、エポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカを反応させて得られる。両者の混合比率は、疎水化剤に含まれるカルボン酸化合物、アルコール及びアルキルケテンダイマーとの合計モル数と、親水性シリカのエポキシアルキルシラン化合物処理に用いたエポキシアルキルシラン化合物中の反応性エポキシ基のモル数の比率として1:1〜2:1、好ましくは1.1:1〜1.5:1である。エポキシアルキルシラン化合物中の反応性エポキシ基のモル数比率が、当該比率の範囲よりも大きいと反応で残存する親水性のエポキシ基のために十分な疎水性が得られない。また、疎水化剤の合計モル数が当該比率の範囲を超えて混合しても、増加に見合うだけの疎水性の向上が得られなく、経済的メリットが得られない。
【0031】
疎水化剤の添加方法は、特に限定されるのもではなく、通常、ミキサーやブレンダーの中にエポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカを入れ、撹拌しながら疎水化剤を直接入れる方法、あるいは疎水化剤の溶媒希釈液をスプレー塗布する方法などがあり、いずれを用いても良い。
【0032】
また、疎水化剤をO/W型エマルション疎水化剤として使用する方法では、エポキシアルキルシラン化合物とO/W型エマルション疎水化剤を加えることにより、エポキシアルキルシラン化合物の加水分解がO/W型エマルション疎水化剤の表面に吸着され、高濃度のエポキシアルキルシラン化合物加水分解物と疎水化剤の混合O/W型エマルションが形成される。その結果、エポキシアルキルシラン化合物加水分解物の自己重合が抑制されるとともに、濃度の高い該混合O/W型エマルションを親水性シリカと混合する、特にスプレー塗布し、加熱することで親水性シリカとエポキシアルキルシランの結合、さらに疎水化剤による疎水化が同時に進み、疎水性のより高い疎水性シリカが得られる。
【0033】
疎水化剤とエポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカとの反応温度は、使用する疎水化剤とエポキシアルキルシラン化合物の種類により適宜決定すればよいが、通常、常温〜100℃である。また、疎水化剤とエポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカとの反応時間は、目的とする疎水性シリカの用途、疎水性の要求度によって適宜選択され一律に決定できないが、通常、20〜120分間、好ましく30〜90分間である。
【0034】
本発明の疎水化シリカの製造において、疎水性シリカの微粒子を製造してから使用するまでに長時間保管する場合があり、この間に疎水性シリカの粉体の凝集が生じる場合がある。これを防止するために疎水化剤と、エポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカとの疎水化反応時にフッ素系界面活性剤の添加により、分散性に優れた疎水性シリカが得られる。フッ素系界面活性剤としては、一般式(2)〜(4)で表されるフッ素系化合物がある。ここで、一般式(2)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオロアルキル基;XはCOOM(カルボン酸残基)、SOM(スルフォン酸残基);Mはナトリウム原子、カリウム原子、リチウム原子である。また、一般式(3)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオロアルキル基;Yは水素原子、−OPO(OH)(燐酸残基);pは1〜15の整数である。さらに一般式(4)において、Rは炭素数5〜18のパーフルオアルキル基;Zは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、硫酸残基、燐酸残基、炭素数1〜6のカルボン酸残基である。
【0035】
【化2】

【0036】
【化3】

【0037】
【化4】

【0038】
一般式(2)〜(4)で表されるフッ素系界面活性剤の添加量は、疎水性シリカ粉体の凝集防止の要求程度に応じて適宜その添加量を決定すれば良いが、通常、親水性シリカに対して0.01〜2wt%であり、好ましくは0.05〜1.5wt%である。0.01wt%未満では、凝集防止効果が十分に得られない場合がある。フッ素系界面活性剤の添加量が2wt%を超えても本発明の効果は得られるが、添加量の割りに得られる効果の向上度合いが小さい場合がある。
【0039】
本発明の効果を妨げない範囲内でフッ素化合物に変わりにシリコーンオイルおよび変性シリコーンやポリアルキレングリコール系の非イオン性界面活性剤、ナフタレンスルフォン酸塩系、リグニンスルフォン酸塩系やマレイン酸共重合体系等の高分子系アニオン性界面活性剤やシリコーンオイル等を併用しても良い。シリコーンオイルとしては、通常、直鎖状シロキサン構造を持っている非反応性シリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンおよび脂肪酸エステル変性シリコーンオイルなどが挙げられ、その動粘度は通常、1〜10万mm/sである。界面活性剤およびシリコーンオイルの添加量は、通常、エポキシアルキルシラン化合物で処理した親水性シリカに対して通常、0.2〜5wt%である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0041】
(エポキシアルキルシラン化合物)
A−1:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6040」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−2:3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6044」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−3:3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6041」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
A−4:2−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン〔「トーレシリコーンZ−6043」(商品名)、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
【0042】
(親水性シリカ)
B−1:親水性シリカ(湿式沈殿シリカ)〔「ZEOSIL200」(商品名)、J.M.Huber(株)製〕
B−2:親水性シリカ(乾式シリカ)〔「AEROSIL130」(商品名)、日本アエロジル(株)製]〕
【0043】
(疎水化剤)
C−1:ステアリン酸エマルション(ステアリン酸:20wt%濃度)〔伯東(株)製〕
C−2:高級アルコールエマルション(セチルアルコール20wt%、ステアリルアルコール80wt%、ベヘニルアルコール10wt%の高級アルコール混合物:20wt%濃度)〔伯東(株)製〕
C−3:アルキルケテンダイマーエマルション(AKD:20wt%濃度)〔伯東(株)製〕
【0044】
(その他1)
D−1:パーフルオロオクチルスルフォン酸ナトリウム(C17SONa)エマルション(10wt%濃度)〔伯東(株)製〕
D−2:ジメチルポリシロキサン〔「SH200」(商品名)、動粘度1000mm/s、東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製〕
D−3:ヘキサメチルジシラザン(HMDS)(試薬)
【0045】
(疎水性シリカ1)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に脱イオン水200mL、エポキシアルキルシラン化合物(A−1)2gを添加し、撹拌下、親水性シリカ(B−1)20gをゆっくり添加し、室温で30分間、疎水化反応を行った。次にステアリン酸エマルション(C−1)20g、水100mLを添加して1時間、撹拌、混合し、遠心分離によってエポキシアルキルシラン−ステアリン酸エマルション処理したシリカを分離した。分離したシリカを130℃で4時間、加熱し、水分を除去して疎水性シリカ1を得た。
【0046】
(疎水性シリカ2〜4)
実施例1において、エポキシアルキルシラン化合物(A−1)をエポキシアルキルシラン化合物(A−2)〜(A−4)に代え、同様にして疎水性シリカ2〜4を調製した。
【0047】
(疎水性シリカ5)
実施例1において、ステアリン酸エマルション(C−1)20gを高級アルコールエマルション(C−2)20gに代え、同様にして疎水性シリカ5を調製した。
【0048】
(疎水性シリカ6)
実施例1において、ステアリン酸エマルション(C−1)20gをAKDエマルション(C−3)20gに代え、同様にして疎水性シリカ6を調製した。
【0049】
(疎水性シリカ7)
実施例1において、親水性シリカ(B−1)20gを親水性シリカ(B−2)20gに代え、同様にして疎水性シリカ7を調製した。
【0050】
(疎水性シリカ8)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に脱イオン水200mL、エポキシアルキルシラン化合物(A−1)2g、高級アルコールエマルション(C−2)20g、少量のリン酸を入れてpHを約5として、30℃で20分間撹拌し、エポキシアルキルシラン化合物(A−1)の加水分解と高級アルコールエマルション(C−2)表面への吸着物を調製し、エポキシアルキルシラン化合物−高級アルコールエマルション疎水化剤とした。別途、撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に親水性シリカ(B−2)20gを入れ、撹拌しながら均一にエポキシアルキルシラン化合物−高級アルコールエマルション疎水化剤をスプレー塗布し、60分、30℃で撹拌した。次いで100〜130℃に加熱して水分を除去し、冷却して疎水性シリカ8を得た。
【0051】
(疎水性シリカ9)
実施例1において、親水性シリカ(B−1)20gの添加と共にパーフルオロオクチルスルフォン酸ナトリウムエマルション(D−1)4mLを添加し、同様にして疎水性シリカ9を調製した。
【0052】
(疎水性シリカ10)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に脱イオン水200mL、エポキシアルキルシラン化合物(A−1)2gを添加し、撹拌下、親水性シリカ(B−1)20gをゆっくり添加し、室温で30分間、疎水化反応を行った。さらに110℃で1時間、加熱し、水分を除去して疎水性シリカ10を得た。
【0053】
(疎水性シリカ11)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に撹拌下、親水性シリカ(B−1)20gを入れ、ゆっくりと撹拌しながら、ジメチルポリシロキサン(D−2)2g及び触媒量のトリエチレンテトラミンを加え、均一に撹拌、混合した。窒素気流下で130〜150℃に加熱し、2時間維持して水分を除去し、冷却して疎水性シリカ11を得た。
【0054】
(疎水性シリカ12)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に撹拌下、親水性シリカ(B−1)20gを入れ、ゆっくりと撹拌しながら、ステアリン酸エマルション(C−1)20gを加え、均一に撹拌、混合した。窒素気流下で130〜150℃に加熱し、2時間維持して水分を除去し、冷却して疎水性シリカ12を得た。
【0055】
(疎水性シリカ13)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に撹拌下、親水性シリカ(B−1)20gを入れ、ゆっくりと撹拌しながら、高級アルコールエマルション(C−2)20gを加え、均一に撹拌、混合した。窒素気流下で130〜150℃に加熱し、2時間維持して水分を除去し、冷却して疎水性シリカ13を得た。
【0056】
(疎水性シリカ14)
撹拌機、温度計およびコンデンサーを付けた1000mL反応容器に親水性シリカ(B−1)20gを入れ、ゆっくりと撹拌しながらヘキサメチルジシラザン(D−3)1g、ジメチルポリシロキサン(D−2)1gを入れ、均一に撹拌、混合した。窒素気流下で130〜150℃に加熱し、2時間維持して水分を除去し、冷却して疎水性シリカ14を得た。
【0057】
(疎水化度の評価)
特開平5−97423号公報に記載される透過率法を用いて疎水性シリカの疎水化度を測定した。疎水性シリカ1g、水100gを200mL分液ロートに入れ、5分間しんとうした後、1分間静置した。分液ロートの下部水相から懸濁した水10mLを取り、吸光光度計にて波長550nmの透過率を測定した。採取した懸濁液の透過率(%)を求め、次式により疎水性シリカの疎水化度(%)を算出した。疎水化度(%)が高いほど、疎水性が高いことを示す。
(疎水化度)(%)=(α/β)×100
α:疎水性シリカにより懸濁した水の透過率(%)
β:純水の透過率(%)
結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【0059】
本発明の疎水性シリカは、従来の疎水性シリカの比較例2及び比較例5と比較して、優れた疎水性を示すことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性シリカを(A)エポキシアルキルシラン化合物で処理し、さらに(B)(a)炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和あるいは不飽和の1価のカルボン酸化合物、(b)炭素数3〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和あるいは不飽和の1価のアルコール、(c)一般式(1)(式中、R、Rは共に炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基、炭素数3〜22の直鎖あるいは分岐鎖のアルケニル基、炭素数7〜28の直鎖あるいは分岐鎖のアルキル基を持つアルキルフェニル基である。)で表されるアルキルケテンダイマーから選ばれた1種以上を含む疎水化剤で処理して得られることを特徴とする疎水性シリカ。
【化1】

【請求項2】
(A)エポキシアルキルシラン化合物が3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランの1種以上である請求項1記載の疎水性シリカ。
【請求項3】
疎水化剤がデカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、デカノール、ウンデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、硬化牛脂アルキル(炭素数14〜18)ケテンダイマー、ステアリルケテンダイマー、ベヘニルケテンダイマーの1種以上である請求項1又は請求項2記載の疎水性シリカ。
【請求項4】
疎水化剤に含まれるカルボン酸化合物、アルコール及びアルキルケテンダイマーとの合計モル数と、親水性シリカのエポキシアルキルシラン化合物処理に用いたエポキシアルキルシラン化合物中の反応性エポキシ基のモル数の比率が1:1〜2:1である請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の疎水性シリカ。
【請求項5】
フッ素系界面活性剤の存在下で(A)エポキシアルキルシラン化合物と反応させた親水性シリカを(B)疎水化剤と反応させて疎水化させる請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の疎水性シリカ。

【公開番号】特開2008−105918(P2008−105918A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292901(P2006−292901)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】