説明

疎水性モノマー、疎水的に誘導体化された支持体、並びにその製造及び使用方法

下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
(式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、該アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、該アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。)を有する疎水性モノマーを含む組成物を開示する。特定の実施形態では、疎水性モノマーは、疎水性指数が25以下であるアミン又はアルコール(HXR)から誘導される。前記疎水性モノマーを含み、場合により架橋モノマー及び/又は非架橋モノマーを含みうる重合性組成物も開示する。この重合性混合物を使用して、疎水的に誘導体化された支持体を形成することが可能であり、このような疎水的に誘導体化された支持体を疎水性相互作用クロマトグラフィーのような用途において使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的に疎水性モノマー、及び例えば疎水的に誘導体化された支持体におけるその使用に関する。本開示は、このような疎水的に誘導体化された支持体を製造し、疎水性相互作用クロマトグラフィーなどの用途において使用するための方法にも一般的に関する。
【背景技術】
【0002】
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)は、分子の疎水性に基づいて分子を分離することに基づくクロマトグラフィー技術である。一般的に試料分子は高塩緩衝液中でHICカラムに導入される。緩衝液中の塩が水分子と相互作用して溶液中の試料分子の溶媒和効果を低減することにより試料分子中の疎水性領域が露出し、その結果、試料分子がHICカラムの固定相によって吸収される。分子の疎水性が高いほど、結合を促進するために必要とされる塩は少なくて済む。通常、低下する塩勾配を用いて疎水性が高くなる順にカラムから試料を溶出する。試料の溶出は、弱い有機修飾剤(例えば溶媒)又は洗剤を溶出緩衝液に加えるか、pHを変化させるか、あるいはカオトロピック剤を加えることによっても行うことができる。
【0003】
HICの固定相は通常、アガロース、シリカ、又は有機ポリマー樹脂を含み、これらは疎水性配位子によって修飾されてもよい。このようなHIC固定相の1つは、求核物質を含む疎水性配位子を、アズラクトン部分を有する粒子(例えばビーズ)と反応させることによって調製される。例えば、米国特許第5,993,935号(ラスムッセン(Rasmussen)ら)は、直接的相互作用(すなわち、中間の活性化工程を必要としない)による粒子の表面上のアズラクトン部分と、求核配位子との共有結合について述べている。
【0004】
米国特許第5,561,097号(Gleasonら)は、支持体(例えば粒子)の表面上のアズラクトン部分に共有結合した低分子量配位子の密度を制御する方法について述べている。この密度は、クエンチャーの存在下で共有結合反応を行うことによって制御される。アズラクトンで官能化された支持体は、支持体にアズラクトンモノマー又は前駆体を重合させ、次いでアズラクトンに環化させることによって調製される。次いでアズラクトン官能化された支持体を配位子(ベンジルアミン)と反応させて誘導体化された支持体を生成する。この誘導体化反応の過程では加水分解のような副反応は極めて低いレベルでしか起きないものの、実際、アズラクトンの加水分解が生じる場合があり、これによりカルボン酸基を生ずる。最終生成物がイオン交換樹脂である場合にはこのような少量の副反応は問題とならない。しかしながら、HIC固定相のような特定の用途においては、イオン性官能基の存在はたとえ微量であっても例えば動的結合能及び/又は分離能における性能の変化に結びつきうる。
【0005】
HIC固定相は、疎水性の(メタ)アクリレートエステル及び/又は(メタ)アクリルアミドモノマーから誘導される場合には、塩基性条件下に曝される場合にやはり加水分解しやすい。例えば、各使用の間のクロマトグラフィーカラムの洗浄には1モルの水酸化ナトリウムがしばしば用いられるが、このような塩基性条件によって(メタ)アクリレートエステル及び/又は(メタ)アクリルアミドポリマーが加水分解されうる。このような加水分解によって支持体上にカルボン酸官能基が形成され、ひいてはクロマトグラフィー性能の低下につながる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本開示は下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
[式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、前記アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。]を有する疎水性モノマーを含む組成物であって、該疎水性モノマーが、親水性指数が25以下であるアミン又はアルコール(HXR)から誘導される組成物を提供する。
【0007】
別の態様では、本開示は下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
[式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、前記アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。]を有する疎水性モノマーを含む重合性混合物を提供する。
【0008】
一実施形態では、前記重合性混合物は、架橋モノマー及び/又は非架橋モノマーを更に含む。
【0009】
更なる別の態様では、疎水性モノマー並びに場合により架橋モノマー及び/又は非架橋ポリマーの反応生成物を含む物品が提供される。
【0010】
一実施形態では、前記物品は疎水的に誘導体化された支持体である。
【0011】
別の態様では、タンパク質、抗体、融合タンパク質、ワクチン、ペプチド、酵素、DNA、RNA、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つを精製するために前記組成物相互作用クロマトグラフィー粒子を使用する方法が提供される。
【0012】
更に別の態様では、疎水的に誘導体化された支持体を製造するための方法であって、
(a)混合物を提供する工程であって、該混合物が、
(ii)下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
[式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、前記アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。]を有する疎水性モノマーと、
(ii)架橋モノマーと、
(iii)場合により、非架橋モノマーと、を含む工程と、
(b)前記混合物を重合する工程と、を含む方法が提供される。
【0013】
別の態様では、疎水的に誘導体化された支持体を製造するための方法であって、
(a)下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
[式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、前記アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。]を有する疎水性モノマーと、
(b)基材を与える工程と、
(c)前記疎水性モノマーを前記基材と接触させる工程と、
(d)前記疎水性モノマーを重合する工程と、を含む方法が提供される。
【0014】
用語「含む」及びその変化形は、これらの用語が説明文及び特許請求の範囲において現れる場合、限定的な意味を有するものではない。
【0015】
「好ましい」及び「好ましくは」なる語は、特定の状況下で、特定の効果をもたらしうる本開示の実施形態のことを指す。しかしながら、同じ、又は他の状況下において他の実施形態が好ましい場合もある。更に、1以上の好ましい実施形態の説明は、他の実施形態が有用ではないことを示唆するものではなく、本開示の範囲から他の実施形態を除外することを目的としたものではない。
【0016】
「a」、「an」、及び「the」なる用語は、述べられる要素の1以上を意味するうえで「少なくとも1つの」と互換可能に用いられる。
【0017】
「及び/又は」なる用語は、列挙される要素の1つ若しくはすべて、又は列挙される要素のうちの任意の2以上の組み合わせを意味する。
【0018】
「アルキル」なる用語は、飽和炭化水素であるアルカンのラジカルである1価の基のことを指す。アルキルは、直鎖状、分枝状、環状、又はこれらの組み合わせでありえ、通常は1〜30個の炭素原子を有する。特定の実施形態では、アルキル基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、10、15、20、又は25個の炭素原子、最大で30、28、26、25、20、15、10、8、6、5、4、又は3個の炭素原子を有する。アルキル基の例としては、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、及びエチルヘキシルが挙げられる。
【0019】
「アルキレン」なる用語は、アルカンのラジカルである2価の基のことを指す。アルキレンは、直鎖状、分枝状、環状、又はこれらの組み合わせでありえる。アルキレンは、多くの場合、1〜30個の炭素原子を有する。特定の実施形態では、アルキレン基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、10、15、20、又は25個の炭素原子、最大で30、28、26、25、20、15、10、8、6、5、4、又は3個の炭素原子を有する。アルキレンのラジカル中心は、同一炭素原子上(即ち、アルキリデン)、又は異なる炭素原子上に存在しうる。
【0020】
「アリール」なる用語は、芳香族である、炭素環式又は複素環式の1価の基のことを指す。アリールは、芳香環と結合又は縮合した1〜5個の環を有しうる。他の環構造は、芳香族、非芳香族、又はこれらの組み合わせでありえ、通常は1〜30個の炭素原子を有する。特定の実施形態では、アリール基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、10、15、20、又は25個の炭素原子、最大で30、28、26、25、20、15、10、8、6、5、4、又は3個の炭素原子を有する。アリール基の例としては、これらに限定されるものではないが、フェニル、ビフェニル、テルフェニル、アンスリル、ナフチル、アセナフチル、アントラキノニル、フェナンスリル、アントラセニル、ピレニル、ペリレニル、及びフルオレニルが挙げられる。
【0021】
「アルキルアリール」なる用語は、アルキル基とアリール基との組み合わせである1価の基のことを指す。アルキルアリールはアラルキル、すなわちアリールによって置換されたアルキル、又はアルカリール、すなわちアルキルによって置換されたアリールでありうる。アルキルアリールは芳香環と結合又は縮合された1〜5個の環を有してよく、直鎖状、分枝状、若しくは環状部分、又はこれらの組み合わせを有しうる。アルキルアリール基は通常、1〜30個の炭素原子を有する。特定の実施形態では、アルキルアリール基は、少なくとも1、2、3、4、5、6、8、10、15、20、又は25個の炭素原子、最大で30、28、26、25、20、15、10、8、6、5、4、又は3個の炭素原子を有する。
【0022】
「(メタ)アクリルアミド」なる用語は、アクリルアミド若しくはメタクリルアミド構造又はこれらの組み合わせを有する化合物のことを指す。同様に、「(メタ)アクリレート」なる用語は、アクリレート若しくはメタクリレート構造又はこれらの組み合わせを有する化合物のことを指す。
【0023】
「ポリマー」及び「ポリマー材料」なる用語は、ホモポリマーのような1種類のモノマーから調製される材料、又は、コポリマー、ターポリマーなどの2種類以上のモノマーから調製される材料の両方を指す。同様に、「重合させる」なる用語は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどでありうるポリマー材料を製造するプロセスのことを指す。「コポリマー」及び「コポリマー材料」なる用語は、少なくとも2種類のモノマーから調製されるポリマー材料のことを指し、ターポリマー、クアドポリマーなどを含む。
【0024】
「室温」及び「周囲温度」なる用語は、20℃〜25℃の範囲の温度を意味するうえで互換可能に用いられる。
【0025】
本開示の上記の「課題を解決するための手段」は本開示の開示される各実施形態又はすべての実施を説明しようとするものではない。以下の説明文は、実例となる実施形態をより詳細に例示するものである。本出願の全体を通じて複数の箇所において、様々な組み合わせとして使用することが可能な例の羅列による指標が与えられる。それぞれの場合において記載される一覧はあくまで代表的な群として与えられるものであって、排他的な羅列として解釈されるべきものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例17及び実施例18について疎水性相互作用のクロマトグラム(溶出体積に対する吸光度)を示す図。
【図2】実施例19及び実施例20並びに比較例B及び比較例Cについて動的結合能のクロマトグラム(溶出体積に対する吸光度)を示す図。
【図3】実施例21及び実施例22について疎水性相互作用のクロマトグラム(溶出体積に対する吸光度)を示す図。
【図4】実施例24及び比較例Dについて疎水性相互作用のクロマトグラム(溶出体積に対する吸光度)の選択されたピークを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
容易に合成及び単離される疎水性のフリーラジカル重合可能な(メタ)アクリルアミドモノマーを合成することが求められている。更に、イオン性が低く、疎水性を有するポリマー支持体を製造することが求められている。高い動的結合能及び良好なタンパク質分離特性の両方を兼ね備えたHIC固定相として例えば使用することが可能な疎水性支持体を製造することが求められている。
【0028】
本開示は、疎水性のフリーラジカル重合可能な(メタ)アクリルアミドモノマーを提供するものである。特定の実施形態では、これらの疎水性のフリーラジカル重合可能な(メタ)アクリルアミドモノマーを他のモノマーと重合させて疎水性基材を生成することができる。特定の実施形態では、これらの疎水性支持体を使用して生物学的試料と非生物学的試料とを分離することができる。
【0029】
本開示に基づく疎水性モノマーは、下記式(I)に基づく構造を有する。
【0030】
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR (I)
式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり;Rは、H又はCHであり、XはO又はNHである。
【0031】
一実施形態では、疎水性モノマーは、疎水性指数が25以下であるアミン又はアルコール(HXR)から誘導される。
【0032】
一実施形態では、Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、前記アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子、9個以下の炭素原子、8個以下の炭素原子、7個以下の炭素原子、6個以下の炭素原子、5個以下の炭素原子、4個以下の炭素原子、又は更には3個以下の炭素原子を有する。Rの例としては、水素原子、メチル基、エチル基、及びフェニル基が挙げられる。
【0033】
一実施形態では、Rは、水素原子、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから独立して選択される疎水性基であり、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは、全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有する。特定の実施形態では、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは少なくとも4、5、6、8、10、12、15、又は20個の炭素原子、最大で30、28、26、24、20、15、12、10、8、又は6個の炭素原子を有する。Rの例としては、ベンジル基、フェネチル基、フェノキシエチル基、フェニルプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、オクタデシル基、及びフェニルブチル基が挙げられる。
【0034】
本開示の疎水性モノマーは、室温でアルケニルアズラクトンと一級アミン又はアルコール配位子との間の求核反応によって合成される。アルケニルアズラクトンには、下記式(II)及び(III)に開示されるもののような、アルケニル置換基を有する5員及び6員のアズラクトンが含まれる(式中、R及びRは、上記で定義したものと同じである。)
【0035】
【化1】

【0036】
例示的なアルケニルアズラクトンとしては、4,4−ジメチル−2−ビニル−4H−オキサゾール−5−オン(ビニルジメチルアズラクトン)、2−イソプロペニル−4H−オキサゾール−5−オン、2−ビニル−4,5−ジヒドロ−[1,3]オキサジン−6−オン、4,4−ジメチル−2−ビニル−4,5−ジヒドロ−[1,3]オキサジン−6−オン、4,5−ジメチル−2−ビニル−4,5−ジヒドロ−[1,3]オキサジン−6−オン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0037】
疎水性モノマーの合成時には、一級アミン又はアルコールがアルケニルアズラクトンのカルボニルと反応し、アズラクトン環を開環して付加物を生成する。反応溶媒は、有機(アルコール、エーテル、炭化水素、エステル、ハロゲン化溶媒、又はこれらの組み合わせなど)、水性、又は混合溶媒であってよいが、アルケニルアズラクトン及び一級アミン又はアルコール配位子を溶解又は少なくとも部分的に溶解することができるものでなければならない。アズラクトン部分は加水分解に対して極めて安定であるが、水による開環反応がわずかに副反応として起きることが知られている。この加水分解によってカルボキシル基が形成され、このカルボキシル基によってイオン性が付与されうる。したがって、一実施形態においては、アルケニルアズラクトンの加水分解がほとんどあるいはまったく生じないようにアルケニルアズラクトンと一級アミン又はアルコールリガンドとの共有結合を有機溶媒中で行う。
【0038】
アズラクトン部分は配位子の一級アミン又はアルコールと速やかに反応して、直接的な共有結合を形成し、副生成物分子の置換が生じない。このため、生じた疎水性モノマーの精製は最小限に抑えられる。一般的に、疎水性モノマーは反応溶媒から極めて純粋な形態で沈殿し(例えば90%よりも高い純度、又は更には99%よりも高い純度)、単純な濾過及び乾燥によって単離することができる。場合により、疎水性モノマーは再結晶させることによってその純度を更に高めることができるが、これは一般的に必要なものではない。
【0039】
本開示の目的においては、疎水性モノマーの合成に用いられる一級アミン及びアルコール配位子の選択によって、得られる疎水性モノマーの疎水性が決定される。一級アミン及びアルコール配位子は、水素原子、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから独立して選択される疎水性基を有し、これらのアルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは、全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有する。特定の実施形態では、前記アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは少なくとも4、5、6、8、10、12、15、又は20個の炭素原子、最大で30、28、26、24、20、15、12、10、8、又は6個の炭素原子を有する。
【0040】
一実施形態では、疎水性モノマーは、計算上の疎水性指数(HI)が25以下、20以下、15以下又は更には10以下である。HIは、参照により本明細書に援用する米国特許第4,451,619号(ヘイルマン(Heilmann)ら)に詳細に述べられる経験的な概念である。一般的にこの概念は、付加される一級アミン又はアルコール配位子が最終生成物(すなわち疎水性モノマー、重合性混合物、又は疎水的に誘導体化された支持体)の親水性又は疎水性に及ぼす影響を決定することを可能にするものである。本開示の目的では、HIは、Rの一級アミン又はアルコール配位子(すなわちHXR)に基づいて計算される。本開示に基づく疎水性モノマーのHIは、
【0041】
【数1】

【0042】
親水性基は一般的に、水と水素結合を形成することが機能的に可能なものである。親水性基の例としては、−N−、−NH−、−NH、−OH、−O−、C=O、−COH、−CO(ただしMはアルカリ又はアルカリ土類金属イオン)、−SOH、−SO、−CONH2、−SH、−NR(ただしR=C1〜4アルキルであり、Xは通常はハロゲン化物である)、−NHCONH−などが挙げられる。
【0043】
最終生成物に親水性を付与する傾向を有する一級アミン又はアルコール配位子は、通常、30よりも高いHIを有するのに対して、最終生成物に疎水性を付与する一級アミン又はアルコール配位子は、通常、20よりも低いHIを有する。20〜30の間のHIを有する一級アミン又はアルコール配位子は、通常、「中性」又は「ボーダーライン」として分類される。
【0044】
表1は、本開示の目的において有用なことが示されている多数の一級アミン又はアルコール配位子のHIを示す。「ボーダーライン」のHIを有するある種の配位子(例えばブチルアミン及びフェノキシエチルアミン)をタンパク質精製などの用途で使用することができる点は興味深い。
【0045】
【表1】

【0046】
一級アミン配位子から誘導される疎水性モノマーは2個のアミド官能基が存在するために加水分解されにくいことから、特定の用途ではアルコールから誘導される疎水性モノマーよりも好ましい。
【0047】
例示的な疎水性モノマーとしては、
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)O(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHOC
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH11CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH17CH;又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0048】
本開示の疎水性モノマーは、溶液中で自己会合する、あるいは、他のモノマー又はポリマーの存在下では他のモノマー又はポリマーと会合する傾向を有しうる。この会合は、2つの別々の相互作用の結果でありうる。第1に、疎水性モノマーの疎水性基同士が、特に水性媒質中において互いに、又は他のモノマー若しくはポリマーと会合しうる点である。第2に、疎水性モノマーのアミド官能基間、又は疎水性モノマーと他のモノマー若しくはポリマーとの間で水素結合相互作用が生じうる点である。水素結合相互作用は、2個のアミド基が存在する、アミン配位子から誘導される疎水性モノマーにおいて特に見られる。疎水性モノマーの会合する傾向は、例えば重合条件を操作することによってポリマーの微小構造(例えば重合した支持体内部における疎水性基の分布など)及び/又は最終生成物の性質(例えば疎水性及び/又は粘性)を制御することが可能になるために有利となりうる。
【0049】
疎水性相互作用に関与しうる疎水性部分以外に、疎水性モノマーは、アルケニルアズラクトンのアルケニル置換基から誘導される不飽和部位(例えば二重結合)を更に有している。本開示の一態様においては、このような不飽和部位のために疎水性モノマーがフリーラジカル重合スキームに関与することが可能である。このため、これらの疎水性モノマーを重合性混合物に加え、次いでこの混合物を疎水的に誘導体化された支持体を製造するために用いることができる。
【0050】
一態様では、重合性混合物は疎水性モノマーを含む。
【0051】
一実施形態では、重合性混合物は架橋モノマーを更に含む。架橋モノマーは、重合反応においてポリマー主鎖の鎖長を伸長し、硬化反応においてポリマー主鎖同士を物理的に結合(又は架橋)する複数の重合可能な基を有している。架橋は、得られる物品の機械的安定性に寄与する。
【0052】
架橋モノマーとしては例えば、N,N’−アルキレンビス(メタ)アクリルアミド、アルキレンビス(メタ)アクリレート、ジビニル芳香族化合物、ポリアリルエステル、又はこれらの組み合わせが挙げられる。例示的な架橋モノマーとしては、エチレンジアクリレート、エチレンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート及びトリメタクリレートなどのエチレン性不飽和エステル;並びに、メチレンビス(アクリルアミド)、メチレンビス(メタクリルアミド)、N,N’−ジアクリロイルピペラジン、N,N’−ジアクリロイル−1,2−ジアミノエタン、及びN,N’−ジメタクリロイル−1,2−ジアミノエタンなどのα−及びβ−不飽和アミド、又はこれらの組み合わせが挙げられる。HICタイプの用途のような特定の用途では、N,N’−アルキレンビス(メタ)アクリルアミドが高い親水性及び高い加水分解安定性のために好ましい。
【0053】
一実施形態では、重合性混合物は非架橋モノマーを更に含む。非架橋モノマーは、ポリマー主鎖を伸長する(すなわち鎖長を伸ばす)ために用いられるがポリマー主鎖同士の物理的な結合には一般に関与しない。あるいは非架橋モノマーは疎水性モノマーを可溶化するために用いることができる。一実施形態では、非架橋モノマーは疎水的に誘導体化された支持体の全体にわたって均一に分配され、疎水的に誘導体化された支持体中における疎水性モノマーの均一な分配を助ける。
【0054】
非架橋モノマーとしては、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミドモノマー、又はこれらのく見合わせが挙げられる。例示的な非架橋モノマーとしては、ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせが挙げられる。これらの非架橋モノマーの使用により、疎水的に誘導体化された支持体の性質を大幅に向上させることができる。例えば、理論に束縛されることを望むものではないが、非架橋モノマーの濃度及び種類は、疎水的に誘導体化された支持体の多孔度及び/又は疎水性モノマーの分布に影響を及ぼすものと考えられる。
【0055】
一実施形態では、式(I)の疎水性モノマー及び非架橋モノマーを、水性流体のレオロジー又は流動性改質剤として有用な、疎水的に会合したポリマーの調製において使用することができる。一実施形態では、これらの疎水的に会合したポリマーを、例えば汚水処理及び汚泥の脱水用、並びに石油の二次及び三次回収におけるレオロジー制御用の凝集助剤として使用することができる。別の実施形態では、これらの疎水的に会合したポリマーを、DNA又はRNAの配列決定及び分離におけるキャピラリー電気泳動用の分離媒質として使用することもできる。
【0056】
疎水性モノマー、架橋モノマー、及び/又は非架橋モノマーの量は、重合した混合物及び得られる疎水的に誘導体化された支持体の性質において重要となりうる。一般的に、添加される疎水性モノマーの量によって、得られる疎水的に誘導体化された支持体の疎水性が制御される。疎水性モノマーは、全モノマーの量に対して0.1〜30重量%で加えることができる。特定の実施形態では、疎水性モノマーは、全モノマーの量に対して少なくとも0.1、0.2、0.5、1、1.5、3、5、10、15、20、又は25重量%、最大で30、25、20、15、10、5、3、1.5、1、0.5重量%である。一般的に、添加される架橋モノマーの量によって、粒子の剛性及び膨潤能が制御される。架橋モノマーは、全モノマーの量に対して0〜99.9重量%で加えることができる。特定の実施形態では、架橋モノマーは、全モノマーの量に対して少なくとも0、0.1、0.5、1、1.5、3、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、又は98重量%、最大で99.9、99.5、99、98、95、90、80、75、70、60、50、40、30、20、10、5、3、1、又は0.5重量%である。一般的に非架橋モノマーの量は、最終的な用途に応じて親水性、溶解度、多孔度、架橋密度などの最終的なコポリマーの性質の決定を助ける。非架橋モノマーは全モノマーの量に対して0〜99.9重量%で加えることができる。特定の実施形態では、非架橋モノマーは、全モノマーの量に対して少なくとも0、0.1、0.5、1、1.5、3、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、又は98重量%、最大で99.9、99.5、99、98、95、90、80、75、70、60、50、40、30、20、10、5、3、1、又は0.5重量%である。
【0057】
一実施形態では、架橋モノマーの量は非架橋モノマーの量よりも大きい。一実施形態では、非架橋モノマーの量は疎水性モノマーの量よりも大きい。更に別の実施形態では、架橋モノマーの量は非架橋モノマーの量よりも大きく、非架橋モノマーの量は疎水性モノマーの量よりも大きい。例えば、HICの用途では、架橋モノマーの量を全モノマーの量に対して60重量%以上とすることによって、疎水的に誘導体化された支持体の剛性を許容圧力に耐えうるものとすることが可能であり、疎水性モノマーの量を全モノマーの量に対して10重量%以下とすることによってHICの固定相から検体が確実に放出されるようにすることができる。
【0058】
別の実施形態では、重合性混合物はポロゲン(porogen)を含みうる。ポロゲンを重合性混合物に加えることによって、特に疎水的に誘導体化された支持体が粒子又はコーティングである場合に、疎水的に誘導体化された支持体の孔構造を制御することができる。
【0059】
ポリマー材料中の孔形成及び多孔度については、Sherrington,Chem.Commun.,2275〜2286(1998)に詳細に述べられている。特定の材料、特にゲルタイプの材料では、多孔性は、ポリマー鎖の絡み合い及び/又は架橋の結果として重合又は硬化反応において形成される。ポリマーの網目が溶媒によって高度に膨潤されないかぎり、通常はこのような多孔性は極めて低いかあるいは存在しない。また、ポロゲンを組成物に加えることによって永久的な小孔を形成することもできる。添加したポロゲンは通常、形成されるポリマーの網目がモノマー相混合物の残りの部分から相分離するタイミングに影響する。ポロゲンの例としては、水、アルコール(例えばメタノール、エタノール、及びイソプロパノールなど)、エチレングリコール、プロピレングリコール、少なくとも3個の水酸基を有するポリオール(例えばグリセロール、イノシトール、グルコース、スクロース、マルトース、デキストラン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、及びトリペンタエリスリトールなど)、並びにポリマーポロゲン(例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリル酸、多糖類など)、分散有機凝集体(例えばエトキシル化炭化水素)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0060】
例えば、コモノマー組成物間の相互作用及びポロゲンの選択、非架橋モノマーと架橋モノマーとの質量比、非架橋モノマーの化学構造、又はこれらの組み合わせといった他の因子も疎水的に誘導体化された支持体の孔構造を制御するうえで重要である。
【0061】
上記に述べたように、重合性混合物を使用して疎水的に誘導体化された支持体を形成することができる。このような疎水的に誘導体化された支持体は、重合性混合物を基材上にグラフト重合させる、重合性混合物を基材上にコーティングし、基材の表面上で重合性混合物を重合させる、又は、重合性混合物を重合及び架橋して粒子を形成する(この粒子はそれ自体で支持体として使用するか、又は他の多孔質基材に加えることができる)、の少なくとも1つによって得ることができる。
【0062】
疎水的に誘導体化された支持体の疎水性度は、疎水性配位子の性質、支持体表面上に存在する疎水性配位子の量、及び/又は支持体表面上の疎水性基の分布(疎水的に誘導体化された粒子の場合では、主として粒子の孔構造及び膨潤体積によって制御される)によって制御される。
【0063】
一実施形態では、米国特許第5,344,701号(ガグノン(Gagnon)ら)に開示されるように、既存の支持体の表面を高エネルギー放射線に曝露することによって表面上にフリーラジカル反応部位を生成する。既存の支持体の重合可能な混合物への曝露は、既存の支持体の照射と同時又はその後で起こりうる。放射線の種類及び他の反応条件に応じて、重合性混合物は、既存の支持体の表面にグラフトされるか、あるいは既存の支持体上にコーティングとして形成されるか、あるいは支持体の空隙内に取り込まれた粒子となりうる。前者の場合には、疎水性モノマーは既存の支持体上に共有結合させられる。既存の支持体は、プラズマ、コロナ、β線、γ線、電子線、X線、紫外線、及び当該技術分野において知られる他の電磁放射線によって処理することができる。放射は、酸素などの他の化合物又は光開始剤の存在下で行ってもよい。最終的な用途に応じて、既存の支持体は、多孔質又は非孔質、連続的又は非連続的、及び可撓性又は非可撓性であってよい。既存の支持体の例としては、織布、不織布、繊維ウェブ、微多孔性膜、繊維、中空繊維、チューブ、微多孔性フィルム、非孔質フィルム、又はこれらの組み合わせが挙げられる。既存の支持体は、セラミック、ガラス、金属性、ポリマー材料、又はこれらの組み合わせなどの各種の材料で形成することができる。好適なポリマー材料の例としては、ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリアルキレン;ポリ塩化ビニル及びポリフッ化ビニリデンなどのハロゲン化ポリマー;ナイロンなどのポリアミド;ポリスチレン;ポリ(エチレン酢酸ビニル);ポリメチルメタクリレートなどのポリアクリレート;ポリカーボネート;酢酸酪酸セルロースなどのセルロース誘導体;ポリ(エチレンテレフタレート)などのポリエステル;ポリイミジン;ポリウレタン;又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0064】
別の実施形態では、重合性混合物は既存の支持体の表面上にコーティングされる。通常、疎水性モノマーのアルケニル部分は既存の支持体の表面に共有結合されないため、重合性混合物も既存の支持体上に重合性混合物を架橋するためにやはり架橋モノマー及び場合により非架橋モノマーを含んでよい。既存の支持体は上記に述べたものと同様である。重合反応及びその結果生ずる架橋反応は、例えば酸化還元化学反応、熱開始反応、紫外線照射若しくは電離放射線(例えば電子線及びγ線など)などの化学的及び/又は物理的手段、又は当該技術分野では周知の他の手段によって開始することができる。
【0065】
一実施形態では、疎水性モノマーを重合することにより疎水的に誘導体化された粒子を生成する。疎水性モノマー、架橋モノマー、及び場合により非架橋モノマーを互いに混合し、逆懸濁液として重合させる。当業者には明らかであるように、反応開始システム、懸濁媒質、攪拌速度及び懸濁剤は、いずれも基本的には、重合反応における独立した重要な変量である。一実施形態では、各モノマーを水/アルコール溶液に溶解し、この溶液を有機の非混和性媒質に液滴として懸濁し、過硫酸ナトリウム及びテトラメチルエチレンジアミンを用いて重合を開始させる。同等の材料によって異なる成分を置換することが可能であることは確かであり、このような置換は本開示の趣旨及び範囲から外れるものではない。
【0066】
本開示の疎水的に誘導体化された粒子は、球状の形状、規則的な形状、又は不規則な形状を有しうる。アズラクトンから誘導される官能化粒子の粒径は、本開示の範囲内で大きく異なりうる。一般的に、アズラクトンから誘導される官能化粒子の粒径は、平均直径で0.1μmから5mmの範囲である。
【0067】
一実施形態では、疎水的に誘導体化された粒子は拘束される。例えば疎水的に誘導体化された粒子を容器(試験管など)に入れ、容器の少なくとも一端をフリットで塞いでクロマトグラフィーカラムを作製することができる。好適なカラムは当該技術分野では周知のものであり、ガラス、ポリマー材料、ステンレス鋼、チタン及びその合金、又はニッケル及びその合金などの材料で形成することができる。カラムに粒子を効果的に充填するためのカラム充填法は、当該技術分野では周知のものである。クロマトグラフィーカラムを疎水的に誘導体化された粒子で充填してHICの用途において使用することができる。
【0068】
クロマトグラフィーにおける平均粒径は最大で2000μmでありうるが、平均粒径は通常は500μm以下である。平均粒径が約500μmよりも大きい場合には、特にクロマトグラフィー粒子の小孔中への拡散速度がしばしば低いタンパク質などの巨大生体高分子の精製又は分離において、クロマトグラフィープロセスの効率が低くなる場合がある。
【0069】
別の実施形態では、疎水的に誘導体化された粒子は連続的な多孔質の媒質中に分散させられる。連続的な多孔質の媒質は、通常、織繊維又は不織繊維ウェブ、多孔質繊維、多孔質膜、多孔質フィルム、中空の繊維、フィルム、又はチューブの少なくとも1つである。好適な連続多孔質媒質については、米国特許第5,993,935号(ラスムッセン(Rasmussen)ら)に更に述べられている。
【0070】
更に別の実施形態では、疎水的に誘導体化された粒子は濾過媒質の表面上に配される。フィルタ要素をハウジング内に配置することによってフィルターカートリッジを与えることができる。好適な濾過媒質及びフィルターカートリッジを有するシステムについては、例えば米国特許第5,468,847号(ヘイルマン(Heilmann)ら)に更に述べられている。このようなフィルターカートリッジは、例えば生体分子の精製又は分離に使用することができる。フィルタカートリッジシステムに固有の小さい圧力低下のため、フィルターカートリッジの内部ではクロマトグラフィーカラムの内部と比較してより少ない剛体粒子又はより小さい多孔質粒子を通常は用いることができる。
【0071】
本開示の一態様では、疎水的に誘導体化された支持体がその表面に有するイオン性基の量は少ない。理論によって束縛されることを望むものではないが、疎水的に誘導体化された支持体は、当該技術分野において現在知られている方法よりも更にイオン性官能基の少ないものを調製することが可能であると考えられる。支持体表面上にイオン性官能基がより少ないことは、疎水性モノマーが水と接触の前に調製及び生成され(すなわち、疎水性モノマーの合成を加水分解が起きないように有機溶媒中で行う)、重合反応が加水分解を受けないモノマーと行われることの結果であると考えられる。
【0072】
アズラクトンは水による攻撃を受けやすいことが知られており、これによりカルボキシル基が形成され、このカルボキシル基によって表面の選択性が変化して支持体の表面にイオン交換特性及び親水性の両方が付与されうる。本開示では、支持体の表面におけるイオン性基の生成を制限しうる非水性条件下においてアズラクトン環を開環し、疎水性配位子と共有結合させることができる。競合する副反応がより少ないことにより、より純度の高い疎水性支持体を生成することが可能である(すなわち疎水的に誘導体化された支持体のイオン交換特性がより低い)。したがって、本開示の疎水的に誘導体化された支持体は疎水性相互作用をより受けやすく、他の官能基の相互作用(例えばイオン性相互作用)による影響を受けない。これにより、疎水性相互作用のみに基づいたより特異的な分離が与えられる。
【0073】
更に、本開示の疎水的に誘導体化された支持体は従来の材料と同等の疎水性を示すが、疎水性配位子の密度は大幅に低くなっている。このことを検討する目的で、「配位子密度」とは、充填された支持材料1mL当たりの配位子のμmol数である。理論によって束縛されることを望むものではないが、本開示の疎水的に誘導体化された支持体は、支持体の表面上における疎水性配位子の分布がよりランダムかつ均一であるために、対象とする検体(例えばタンパク質)との相互作用に疎水性配位子がより効率的に利用されるものと考えられる。
【0074】
一実施形態では、重合性混合物及び疎水的に誘導体化された支持体のいずれもクエンチャーを含まない。疎水性モノマーがアズラクトンに共有結合させられた疎水性配位子を有しているため、疎水的に誘導体化された支持体を形成する際に例えば米国特許第5,561,097号(グリーソン(Gleason)ら)に述べられるようなクエンチャーは必要とされない。
【0075】
疎水的に誘導体化された支持体の疎水性のため、疎水的に誘導体化された支持体を、HICなどの用途において例えばタンパク質、抗体、融合タンパク質、ワクチン、ペプチド、酵素、DNA、RNA、又はこれらの組み合わせなどの生体物質、及び疎水性を有する非生体分子の精製に使用することができる。
【0076】
本開示の疎水的に誘導体化された支持体は、従来のHIC支持体と比較して利点を有しうる。本開示では、アルケニルアズラクトンを例えばアミンなどの求核物質を含む疎水性配位子と反応させることによって疎水性モノマー(すなわち付加物)を形成する。既にアズラクトン基が付加された支持体(例えば米国特許第5,993,935号及び同第5,561,097号に開示される)に疎水性配位子を付加する代わりに、重合工程において疎水性モノマーの一部として疎水性配位子を用いることにより、本開示の疎水的に誘導体化された支持体では、支持体の表面上の疎水性配位子の均一性を高め、支持体の表面に存在するイオン性部位の数を減らすことができる。これらの特性は一部のHIC用途では極めて重要である場合がある。本開示の疎水的に誘導体化された支持体は、2個のカルボニル基の間に挟まれた−C(R)基によって与えられる立体障害のために、疎水性の(メタ)アクリレートエステル及び/又は(メタ)アクリルアミドモノマーを重合することによって調製されたHIC支持体よりも加水分解を受けにくいと考えられる。
【実施例】
【0077】
以下の実施例は、あくまで説明を目的としたものであって、付属の特許請求の範囲をいかなる意味においても限定することを目的とするものではない。実施例における部、百分率、比等は全て、特に記載しない限り、重量基準である。特に断るか、明らかなものでないかぎり、すべての原材料は市販のものか、あるいは当業者には周知のものである。すべての新規な疎水性モノマーの構造は、H核磁気共鳴及び赤外分光法によって確認した。
【0078】
材料
【0079】
【表2】

【0080】
疎水性モノマーの調製
実施例1:以下の手順を用いて4−フェニルブチルアミン/VDM付加物を調製した。メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE、100mL)を、凝縮器、400回転/分(rpm)のオーバーヘッド混合パドル、及び窒素取り入れ口を備えた3つ口フラスコに氷浴中で加えた。ビニルジメチルアズラクトン(VDM、10.44g)をフラスコに加えた。4−フェニルブチルアミン(10g)を添加漏斗に加えた。4−フェニルブチルアミンが保管されたボトルを、添加漏斗に加える前に少量ずつのMTBE(全体で10mL)ですすいだ。ボトルをすすぐのに用いたMTBEを添加漏斗に加えた。4−フェニルブチルアミンをVDMが入ったフラスコに10分間かけて滴下した。VDMへの4−フェニルブチルアミンの添加の完了後、添加漏斗を10mLのMTBEですすいだ。白色の沈殿物(生成物)がほぼすぐに形成された。この後、窒素下で混合しながら0℃で60分間、反応を進行させた。
【0081】
フラスコ及び少なくとも300mLのMTBEを約−20℃に設定したフリーザーに移した。白色の沈殿物(生成物)を1〜2時間、結晶化させた。この固体生成物を、冷やしたMTBEの100mL洗浄液を3回用いてフリット漏斗上で濾過した。生成物を一晩、60℃、真空度約25インチHg(84.7kPa)の真空オーブン中で乾燥した。収率は約90%であった。純度をMTBEを移動相として用いたシリカ薄層クロマトグラフィー(TCL)によって確認した。反応物は、生成物と比較して両方ともMTBEによく溶けた。生成物、すなわち付加物の融点は89〜91℃であった。
【0082】
実施例2:以下の手順を用いてベンジルアミン/VDM付加物を調製した。49.3gのベンジルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、69.9gのVDM、及び393mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は約84%であった。
【0083】
実施例3:以下の手順を用いてフェネチルアミン/VDM付加物を調製した。43.8gのフェネチルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、36.3gのVDM、及び300mLのMTBEを使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は約94%であった。
【0084】
実施例4:以下の手順を用いてフェノキシエチルアミン/VDM付加物を調製した。10gのフェノキシエチルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、10.6gのVDM、及び150mLのMTBEを使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は約92%であった。
【0085】
実施例5:以下の手順を用いて3−フェニルプロピルアミン/VDM付加物を調製した。24.7gの3−フェニルプロピルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、24.4gのVDM、及び150mLのMTBEを使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は約77%であった。
【0086】
実施例6:以下の手順を用いてブチルアミン/VDM付加物を調製した。43.9gのブチルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、83.4gのVDM、及び500mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は85%よりも高かった。
【0087】
実施例7:以下の手順を用いてオクチルアミン/VDM付加物を調製した。77.6gのオクチルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、83.4gのVDM、及び650mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は85%よりも高かった。
【0088】
実施例8:以下の手順を用いてドデシルアミン/VDM付加物を調製した。26.9gのドデシルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、13.9gのVDM、及び250mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は85%よりも高かった。
【0089】
実施例9:以下の手順を用いてオクタデシルアミン/VDM付加物を調製した。26.95gのオクタデシルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、13.9gのVDM、及び250mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。ジエチルエーテル溶媒を蒸発させることにより生成物を単離したところ、収率は95%よりも高かった。
【0090】
実施例10:以下の手順を用いてヘキシルアミン/VDM付加物を調製した。60.7gのヘキシルアミン(4−フェニルブチルアミンに代えて)、83.4gのVDM、及び675mLのジエチルエーテル(MTBEに代えて)を使用した以外は、上記実施例1について述べたのと同様の手順に従った。収率は85%よりも高かった。
【0091】
実施例11:以下の手順を用いて4−フェニル−1−ブタノール/VDM付加物を調製した。ヘプタン(50mL)を、凝縮器及びマグネチックスターラーバーを備えた250mLの丸底フラスコに氷浴中で加えた。4−フェニルブタノール(5.00g)をフラスコに加えた後、触媒としてジアザビシクロウンデセン(DBU)を5滴加えた。VDM(5.00g)をヘプタン(25mL)ととともに添加漏斗に加えた。添加漏斗の内容物を5分間かけてフラスコに滴下した。添加の完了後、混合物を45分間攪拌してから氷浴を外した。無色の油状物(生成物)が形成された。混合しながら更に2時間反応を進行させた。ヘプタン上清を捨て、更なるヘプタン(50mL)を加え、混合物を更に15分間攪拌した後、攪拌せずに10分間静置した。ヘプタン上清を再び捨て、残留油状物をロータリーエバポレーター上で35℃に加熱して溶媒を除去することにより、9.28gの無色油状物(収率96.5%)を得た。油状物は室温で結晶化した。
【0092】
粒子の調製
実施例12:ヘプタン(174mL)及び1.4mLのポリマー安定剤溶液(トルエン1mL当たり(イソオクチルアクリレート:VDM(アンモニアによって開環したもの)の比=92.5:7.5からなるポリマー0.1g)を含むもの)を、オーバーヘッドスターラー、熱電対、環流凝縮器、及び窒素ガス取り入れ口を備えた1Lのモートン型丸底フラスコに加えた。オーバーヘッドスターラーを約300rpmの攪拌速度に調節し、反応フラスコを徐々に窒素ガスでパージしながら35℃に加熱した。メチレンビスアクリルアミド(MBA、11.31g)、2.09gのアクリルアミド(AAm)、及び0.60gの4−フェニルブチルアミン/VDM付加物(PhBVDM、上記実施例1に従って調製したもの)を、スターラーバーを備えた250mLの三角フラスコに加えた。イソプロピルアルコール(62.5mL)及び42mLの水を加えて固体を溶解した。次いでPEG 2,000の50%水溶液を10g加えた。固体がすべて溶解した時点で、過硫酸ナトリウムを攪拌した溶液に加えた(6mLの水に0.56gを加えたもの)。水相を有機相に加え、反応混合物が35℃に達するまで混合した。テトラメチルエチレンジアミン(0.55mL)を加えて重合を開始させた。粒子が形成されつつある間に重合反応液を2時間攪拌した。
【0093】
粒子を粗濾過し、アセトンで2回(各250mL)、メタノールで2回(各250mL)、更にアセトンで2回(各250mL)で洗った。得られた粒子を500mLの三角フラスコに移した。アセトン(300mL)を加えて粒子を懸濁した。懸濁した粒子を約15分間、超音波処理した後、濾過した。得られた粒子を一連の積層したシーブを使用して約60μmの平均粒径に分級した。
【0094】
実施例13:PEG 2,000の代わりにPEG 6,000をポロゲン添加剤として加えた以外は、実施例12において述べたのと同様の手順に従った。
【0095】
実施例14:ヘプタン(348mL)及び2.8mLのポリマー安定剤溶液を、オーバーヘッドスターラー、熱電対、環流凝縮器、及び窒素ガス取り入れ口を備えた1Lのモートン型丸底フラスコに加えた。オーバーヘッドスターラーを約300rpmの攪拌速度に調節し、反応フラスコを徐々に窒素ガスでパージしながら35℃に加熱した。MBA(21.36g)、5.50gのジメチルアクリルアミド(DMA)及び1.14gのPhBVDMを、スターラーバーを備えた250mLの三角フラスコに加えた。125mLのイソプロピルアルコール及び84mLの水を用いて固体を溶解した。次いでPEG 6,000の50%水溶液を20g加えた。固体がすべて溶解した時点で、過硫酸ナトリウムを攪拌した溶液に加えた(3mLの水に1.10gを加えたもの)。水相を有機相に加え、反応が35℃に達するまで混合した。テトラメチルエチレンジアミン(1.10mL)を加えて反応を開始させた。重合反応液を粒子が形成されるまで2時間、攪拌した。
【0096】
粒子を粗濾過し、アセトンで2回(各250mL)、メタノールで2回(各250mL)、更にアセトンで2回(各250mL)で洗った。得られた粒子を500mLの三角フラスコに移した。アセトン(300mL)を加えて粒子を懸濁した。懸濁した粒子を約15分間、超音波処理した後、濾過した。得られた粒子を一連の積層したシーブを使用して約60μmの平均粒径に分級した。
【0097】
実施例15:PEG 6,000の代わりにPEG 10,000をポロゲン添加剤として加えた以外は、実施例14において述べたのと同様の手順に従った。
【0098】
実施例16:ヘプタン(348mL)、トルエン(188mL)及び1.4mLのポリマー安定剤溶液を、オーバーヘッドスターラー、熱電対、環流凝縮器、及び窒素ガス取り入れ口を備えた1Lのモートン型丸底フラスコに加えた。オーバーヘッドスターラーを約360rpmの攪拌速度に調節し、反応フラスコを徐々に窒素ガスでパージしながら35℃に加熱した。MBA(12.89g)及び1.11gのベンジルアミン/VDM付加物(上記実施例2に従って調製したもの)を、スターラーバーを備えた250mLの三角フラスコに加えた。イソプロピルアルコール(65mL)及び47mLの水を加えて固体を溶解した。次いでエチレングリコール(25mL)を加えた。固体がすべて溶解した時点で、過硫酸ナトリウムを攪拌した溶液に加えた(3mLの水に0.55gを加えたもの)。水相を有機相に加え、反応が35℃に達するまで混合した。テトラメチルエチレンジアミン(0.55mL)を加えて反応を開始させた。ビーズが形成されるまで重合反応液を2時間攪拌した。
【0099】
粒子を粗濾過し、アセトンで2回(各250mL)、メタノールで2回(各250mL)、更にアセトンで2回(各250mL)で洗った。得られた粒子を500mLの三角フラスコに移した。アセトン(300mL)を加えて粒子を懸濁した。懸濁した粒子を約15分間、超音波処理した後、濾過した。得られた粒子を一連の積層したシーブを使用して約65μmの平均粒径に分級した。
【0100】
比較例A:ヘプタン(348mL)、トルエン(188mL)及び1.4mLのポリマー安定剤溶液を、オーバーヘッドスターラー、熱電対、環流凝縮器、及び窒素ガス取り入れ口を備えた1Lのモートン型丸底フラスコに加えた。オーバーヘッドスターラーを約360rpmの攪拌速度に調節し、反応フラスコを徐々に窒素ガスでパージしながら35℃に加熱した。MBA(13.3g)及びN−アクリロイルメチルアラニン(AMA、0.7g)をスターラーバーを備えた250mLの三角フラスコに加えた。イソプロピルアルコール(65mL)及び47mLの水を加えて固体を溶解した。次いでエチレングリコール(25mL)を加えた。固体がすべて溶解した時点で、過硫酸ナトリウムを攪拌した溶液に加えた(3mLの水に0.55gを加えたもの)。水相を有機相に加え、反応が35℃に達するまで混合した。テトラメチルエチレンジアミン(0.55mL)を加えて反応を開始させた。粒子が形成されるまで重合反応液を2時間攪拌した。
【0101】
粒子を粗濾過し、アセトンで2回(各250mL)、メタノールで2回(各250mL)、更にアセトンで2回(各250mL)で洗った。得られた粒子を500mLの三角フラスコに移した。アセトン(300mL)を加えて粒子を懸濁した。懸濁した粒子を約15分間、超音波処理した後、濾過した。得られた粒子を一連の積層したシーブを使用して約65μmの平均粒径に分級した。
【0102】
調製後、得られた粒子をアセトンでよく洗い、500mLの乾燥したジメチルスルフォキシド中に懸濁した。このスラリーに無水酢酸(25mL)及びトリエチルアミン(2mL)を加えた。粒子を揺動により1時間攪拌し、濾過した後、アセトン及びMTBEで徹底的に洗った。得られたアズラクトン官能性反応性ビーズをベンジルアミンの1M水溶液に懸濁し、1時間反応させた。次いでビーズを濾過し、蒸留水で徹底的に洗った。
【0103】
実験方法
クロマトグラフィーカラムの調製:クロマトグラフィーカラムは、例示的な粒子をオミフィット社(Omifit)(英国、ケンブリッジ、CB1 3HD)によって供給される3.0mm×150mmのガラスチューブにスラリー充填することによって調製した。多孔質テフロン(登録商標)フリット(25μmの平均孔径、スモールパーツ社(Small Parts, Inc.)(フロリダ州マイアミレイクス))をチューブの両端に入れて、クロマトグラフィーカラムを形成した。
【0104】
クロマトグラフィーシステムの調製:上記のクロマトグラフィーカラムを、FPLC(「AKTA FPLC」の商品名でジー・イー・ヘルスケア社(GE Healthcare)(ウプサラ、スウェーデン)より得られる、紫外線検出器および導電性検出器を備えた高速タンパク質液体クロマトグラフ)に組み込んだ。
【0105】
タンパク質分析:クロマトグラフィーシステム内のクロマトグラフィーカラムを1.0Mのクエン酸ナトリウムを含む50mMのリン酸ナトリウム(pH 7)の移動相により、0.088mL/分の流速で平衡化した。1.0Mのクエン酸ナトリウムを含む50mMのリン酸ナトリウム(pH 7)中に0.30mg/mLのミオグロビン(シグマ・アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical)ウィスコンシン州ミルウォーキー)、0.24mg/mLのβ−ラクトグロブリン(ユー・エス・ビー社(USB Corporation)オハイオ州クリーブランド)、0.11mg/mLのライソザイム(シグマ・アルドリッチ・ケミカル社)、及び0.14mg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)(シグマ・アルドリッチ・ケミカル社)を含む200μLの溶液をクロマトグラフィーカラムに注入した。初期の緩衝液条件(高塩濃度)から50mMのリン酸ナトリウム(pH 7)(低塩濃度)に至る勾配溶出(カラム40個分の体積)を行った。紫外線検出を用いて溶出液を280nmの波長でモニターした。
【0106】
動的結合能分析:クロマトグラフィーシステム内のクロマトグラフィーカラムを0.6Mのクエン酸ナトリウム(pH 6.0)の移動相で平衡化した。2.3mg/mLのヒトIgG(イクイテック社(Equitech)(テキサス州カービル)より販売されるhIgG)を0.6Mのクエン酸ナトリウム(pH 6.0)に加えた溶液をクロマトグラフィーカラムを通じて170cm/時の流速で圧送した。紫外検出を使用し、溶出液を280nmの波長で監視した。280nmにおける吸光度はIgG濃度と相関していた。IgGの漏出(最大タンパク質濃度の10%がカラムから溶出)を監視することによって動的結合能(DBC)を調べた。
【0107】
粒子を使用した分析
実施例17:上記で述べた方法を用いて実施例12で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記に述べたようなタンパク質分析法を用いて分析を行った。図1にクロマトグラムを示す。
【0108】
実施例18:上記で述べた方法を用いて実施例13で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べたタンパク質分析法を用いて分析を行った。図1にクロマトグラムを示す。
【0109】
図1には、実施例17(実施例12で調製した粒子を用いたもの)及び実施例18(実施例13で調製した粒子を用いたもの)からのクロマトグラムが重ねて示されている。実施例12及び13で調製した粒子は、同じモノマー組成物及び反応条件を使用して調製したものであるが、PEG添加剤は粒子の全体の疎水性に対して一定の影響を及ぼした。図1に示されるように、PEG 2,000を含む実施例12で調製した粒子は、PEG 6,000を含む実施例13で調製した粒子よりも高い疎水性を示した(タンパク質の溶出により低い塩濃度の緩衝液を必要とした)。BSAの分離能は実施例17及び18で同等であったが、最大の溶出ピーク(β−ラクトグロブリンとライソザイムの共溶出)は実施例17(PEG 2,000を加えて調製した粒子)においてよりシャープであった。
【0110】
実施例19:上記で述べた方法を用いて実施例12で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べた動的結合能の方法を用いて分析を行った。図2に漏出曲線を示す。
【0111】
実施例20:上記で述べた方法を用いて実施例13で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べた動的結合能の方法を用いて分析を行った。図2に漏出曲線を示す。
【0112】
比較例B:「PHENYL SEPHAROSE 6 FAST FLOW(LOW SUB)」の商品名でジー・イー・ヘルスケア社(GE Healthcare)(英国、チャルフォントセントガイルス)より市販される、エーテル結合を介してフェニル基によって誘導体化された高度架橋された90μmアガロースビーズの芳香族HIC媒質を上記で述べた方法を用いてチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べた動的結合能の方法を用いて分析を行った。図2に漏出曲線を示す。
【0113】
比較例C:「PHENYL SEPHAROSE 6 FAST FLOW(HIGH SUB)」の商品名でジー・イー・ヘルスケア社(GE Healthcare)(英国、チャルフォントセントガイルス)より市販される、エーテル結合を介してフェニル基によって誘導体化された高度架橋された90μmアガロースビーズの芳香族HIC媒質を上記で述べた方法を用いてチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べた動的結合能の方法を用いて分析を行った。図2に漏出曲線を示す。
【0114】
図2は、実施例19及び20、並びに比較例B及びCの漏出曲線を重ねて示したものである。図2に示される漏出曲線より、漏出点は以下のように計算された。実施例19=58mg/mL、実施例20=49mg/mL、比較例B=38mg/mL、及び比較例C=54mg/mL計算された漏出点は、実施例19の粒子がIgGの吸着度が最も高く、次いで比較例C、実施例20、及び比較例Bが続くことを示している。図2には、各実施例の漏出のプロファイルが更に示されており、IgGが粒子/ビーズによってどのように吸着されるかを示している。実施例19及び20は、比較例Cよりも急な漏出曲線(指数的増加の勾配)を示した。比較例Bは、10%漏出点において最も低いDBCを有したばかりでなく、平坦なベースラインも示さなかったが、このことは、IgGのビーズに対する結合が一貫していないことを示す。図2に示される、粒子/ビーズ1mL当たりのフェニル基の量は以下のとおりである。実施例19=14μmolのフェニル/mL粒子(粒子の調製に用いられたフェニルモノマーの量及び粒子の膨潤体積に基づいて計算)、実施例20=13μmolのフェニル/mL粒子(粒子の調製に用いられたフェニルモノマーの量及び粒子の膨潤体積に基づいて計算)、比較例B=25μmolのフェニル/mL粒子(製品の文献より引用)、及び比較例C=50μmolのフェニル/mL粒子(製品の文献より引用)。図2に示されるデータに基づけば、本開示に基づく粒子は比較例Cと同等か、あるいは比較例Cよりも良好なDBCを有するが、粒子1mL当たりのフェニル基の量は大幅に少ない。
【0115】
実施例21:上記で述べた方法を用いて実施例14で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記に述べたようなタンパク質分析法を用いて分析を行った。図3にクロマトグラムを示す。
【0116】
実施例22:上記で述べた方法を用いて実施例15で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記に述べたようなタンパク質分析法を用いて分析を行った。図3にクロマトグラムを示す。
【0117】
図3には、実施例21(実施例14で調製した粒子を用いたもの)及び実施例22(実施例15で調製した粒子を用いたもの)からのクロマトグラムが重ねて示されている。実施例14及び15で調製した粒子は、同じモノマー組成物及び反応条件を使用して調製したものであるが、PEG添加剤は粒子の全体の疎水性に対して一定の影響を及ぼした。図3に示されるように、PEG 6,000を含む実施例14で調製した粒子は、PEG 10,000を含む実施例15で調製した粒子よりも高い疎水性を示した。しかしながら、PEG 10,000を含む実施例15で調製した粒子がβ−ラクトグロブリン及びライソザイムからBSAを分離することが可能であったのに対して、PEG 6,000を含む実施例14で調製した粒子は、BSAの分離ピークは示さなかった。
【0118】
実施例23:上記で述べた方法を用いて実施例15で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記で述べた動的結合能の方法を用いて分析を行った。粒子の計算されたDBCは34mg/mLであった。この値は、コモノマーとしてAAmを用いて調製した粒子のDBC値(上記実施例19及び20に示される)よりも低い値である。
【0119】
実施例24:上記で述べた方法を用いて実施例16で調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記に述べたようなタンパク質分析法を用いて分析を行った。図4に、IgGピークを有するクロマトグラムの拡大図を示す。
【0120】
比較例D:上記で述べた方法を用いて比較例Aで調製した粒子をチューブに充填してクロマトグラフィーカラムを形成し、上記に述べたようなタンパク質分析法を用いて分析を行った。図4に、IgGピークを有するクロマトグラムの拡大図を示す。
【0121】
図4には、実施例24及び比較例DからのIgGピークが重ねて示されている。実施例24及び比較例Dで使用した粒子は同じ粒子の組成を有している。すなわち、アズラクトン結合によってベンジルアミン疎水性基を有するアクリルアミド粒子が共有結合している。したがってこれらは同じ保持時間を有することが予想される。図4に示されるように、実施例24におけるIgGピークは比較例Dにおけるよりも保持時間が短い。理論によって束縛されることを望むものではないが、比較例Dにおける保持時間の増大は、ベンジルアミンとの反応の際にアズラクトンの加水分解によって生じた少量の負電荷の存在によるものと考えられる。更に、図4に示されるように、比較例DにおけるIgGピークは実施例24におけるIgGピークよりも幅が広く、このこともやはり、IgGと固定相との混合相互作用(例えば疎水性相互作用及びイオン交換相互作用)を示しているものと考えられる。
【0122】
本開示の範囲及び趣旨を逸脱することなく本開示に対する様々な改変及び変更が可能であることは当業者には明らかであろう。本開示は本明細書に記載される説明的実施形態及び実施例によって不要に限定されるものではない点、更にこうした実施例及び実施形態はあくまで一例として示されるものであって本開示の範囲は以下の「特許請求の範囲」によってのみ限定されるものである点は理解されるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性モノマーを含む組成物であって、
下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
(式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、該アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、該アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。)
を有し、
前記疎水性モノマーは、親水性指数が25以下であるアミン又はアルコール(HXR)から誘導される組成物。
【請求項2】
が、メチル、エチル、フェニル、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから独立して選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
が、ベンジル、フェネチル、フェノキシエチル、フェニルプロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、ドデシル、オクタデシル、フェニルブチル、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから選択される、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記疎水性モノマーが、
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)O(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHOC
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CHCH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH11CH
CH=CHC(O)NHC(CH)(CH)C(O)NH(CH17CH;又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから選択される構造を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の疎水性モノマーを含む重合性混合物。
【請求項6】
架橋モノマーを更に含む、請求項5に記載の重合性混合物。
【請求項7】
前記架橋モノマーが、N,N’−アルキレンビス(メタ)アクリルアミド、アルキレンビス(メタ)アクリレート、ジビニル芳香族化合物、ポリアリルエステル、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから選択される、請求項6に記載の重合性混合物。
【請求項8】
非架橋モノマーを更に含む、請求項5〜7のいずれか一項に記載の重合性混合物。
【請求項9】
前記非架橋モノマーが、ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから選択される、請求項8に記載の重合性混合物。
【請求項10】
前記架橋モノマーの量が前記非架橋モノマーの量よりも大きい、請求項8又は9に記載の重合性混合物。
【請求項11】
前記非架橋モノマーの量が前記疎水性モノマーの量よりも大きい、請求項8〜10のいずれか一項に記載の重合性混合物。
【請求項12】
ポロゲンを更に含む、請求項5〜11のいずれか一項に記載の重合性混合物。
【請求項13】
前記ポロゲンが、アルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、分散有機凝集体、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、多糖類、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つから選択される、請求項12に記載の重合性混合物。
【請求項14】
請求項5〜13のいずれか一項に記載の重合性混合物の反応生成物を含む物品。
【請求項15】
疎水的に誘導体化された支持体である、請求項14に記載の物品。
【請求項16】
前記疎水性モノマーが前記物品の全体にわたって均一に分配されている、請求項14又は15に記載の物品。
【請求項17】
前記物品が、タンパク質、抗体、融合タンパク質、ワクチン、ペプチド、酵素、DNA、RNA、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つを精製するために使用される、請求項14〜16のいずれか一項に記載の物品の使用方法。
【請求項18】
疎水的に誘導体化された支持体を製造するための方法であって、
(a)混合物であって、
(i)下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
(式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、該アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、該アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。)
を有する疎水性モノマーと、
(ii)架橋モノマーと、
(iii)場合により、非架橋モノマーと、
を含む混合物を提供する工程と、
(b)前記混合物を重合する工程と、
を含む方法。
【請求項19】
前記架橋モノマーの量が前記非架橋モノマーの量よりも大きい、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記非架橋モノマーの量が前記疎水性モノマーの量よりも大きい、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記重合性混合物が粒子である、請求項18〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記重合性混合物が、織布、不織布、微多孔性繊維、微多孔性膜、フィルム、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つにコーティング又はグラフトされる、請求項18〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
疎水的に誘導体化された支持体を製造するための方法であって、
(a)疎水性モノマーであって、
下記構造:
CH=CRC(O)NHC(R)(C(R))C(O)XR
(式中、nは0又は1の整数であり;Rは、水素原子、アルキル、アリール、及びアルキルアリールの少なくとも1つから独立して選択され、該アルキル、アリール、及びアルキルアリールは全体で10個以下の炭素原子を有し;Rは、アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルの少なくとも1つから選択される疎水性基であり、該アルキル、アリール、アルキルアリール及びエーテルは全体で4〜30個の範囲の炭素原子を有し;Rは、H又はCHであり;XはO又はNHである。)
を有する疎水性モノマーを与える工程と、
(b)基材を与える工程と、
(c)前記疎水性モノマーを前記基材と接触させる工程と、
(d)前記疎水性モノマーを重合する工程と、
を含む方法。
【請求項24】
前記重合する工程によって、前記基材上にコーティングが形成される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記重合する工程によって、前記基材からのグラフトが形成される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記基材が、多孔性膜、フィルム、不織布、又はこれらの組み合わせの少なくとも1つである、請求項23〜25のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−522112(P2012−522112A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503481(P2012−503481)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/027978
【国際公開番号】WO2010/117598
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】