説明

疎水性化合物の反応装置及び反応方法

【課題】生体触媒を用いた幅広い種類の反応で疎水性化合物の反応効率を十分に高くでき、反応に要する費用を低減できる疎水性化合物の反応装置及び反応方法を提案すること。
【解決手段】本発明は、生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させる疎水性化合物の反応装置であって、疎水性化合物を含む疎水性液状物質を流通させる第1チャネル1、生体触媒を含む水性液状物質を流通させる第2チャネル2、及び第1チャネル1及び第2チャネル2に接続され、疎水性液状物質および水性液状物質を流通させる第3チャネル3を有するマイクロチャネルチップ10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体触媒を用いた疎水性化合物の反応装置及び反応方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞または酵素等の生体触媒により常温常圧下で化学反応を行う過程は、種々の発酵食品製造、抗生物質をはじめとする各種医薬品の生産等、広範囲に使用されている。また、化成品の生産においても、燃料用エタノール、アクリルアミド生産等について、生体触媒の利用が進展している。
【0003】
しかしながら、これらの反応の対象は全て水溶性化合物であり、化学工業的に重要な疎水性化合物について生体触媒を利用する場合には、親水性の生体触媒の存在下における疎水性化合物の反応効率の低さから進展が遅れている。現在これらの対策としては、比較的疎水性の高いリパーゼ等の加水分解酵素を利用するか(例えば下記特許文献1参照)、疎水性化合物を水溶液中に分散添加するための界面活性剤の添加等が試みられている(例えば下記特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平06−296499号公報
【特許文献2】特表2002−527073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した特許文献1,2に記載の疎水性化合物の反応方法は、以下に示す課題を有していた。
【0005】
即ち、リパーゼは加水分解のような比較的単純な反応でのみ触媒として機能し、酸化還元反応、転移反応、置換反応、脱離反応等の有機化学的に重要な反応では触媒として十分な成果を得るに至っていない。
【0006】
また界面活性剤の添加は、反応にかかる費用が高い上に、発泡等、反応効率を高める上で好ましくない現象を喚起する。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、幅広い種類の反応で疎水性化合物の反応効率を十分に高くでき、反応に要する費用を低減できる疎水性化合物の反応装置及び反応方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、上記のように疎水性化合物の反応効率が十分でないのは以下の理由によるものではないかと考えた。即ち一般には上記のように生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させれば、疎水性化合物と生体触媒とが十分に接触し、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応が十分に進むものと考えられている。しかし、実際には反応は十分には進んでおらず、その理由も明らかにはなっていない。本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、上記のような疎水性化合物の反応効率の低さが、フラスコ等の反応容器で行われることに起因するのではないかと考えた。即ち本発明者らは、上記のような反応容器では疎水性化合物と生体触媒との接触面積が不十分であることにより反応効率が低くなっているのではないかと考えた。そして、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の発明により上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させる疎水性化合物の反応装置であって、疎水性化合物を含む疎水性液状物質を流通させる第1チャネル、生体触媒を含む水性液状物質を流通させる第2チャネル、及び第1チャネル及び第2チャネルに接続され、疎水性液状物質および水性液状物質を流通させる第3チャネルを有するマイクロチャネルチップを備えることを特徴とする。
【0010】
この疎水性化合物の反応装置によれば、疎水性化合物を含む疎水性液状物質と生体触媒を含む水性液状物質とがマイクロチャネルチップ内において第1チャネル及び第2チャネルから第3チャネルに流通されるため、流通した疎水性液状物質と水性液状物質とが第3チャネル内で接触することとなる。そうすると、疎水性液状物質と水性液状物質との界面の表面積が増加するため、疎水性化合物と生体触媒との接触効率を大幅に向上させることができる。このため、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応効率を高めることができ、ひいては数十倍の反応速度で反応させることも可能となる。また相溶性に劣る疎水性流体と水性流体とを迅速かつ効率的に反応させることができるため、様々なバリエーションの疎水性化合物と生体触媒とに適用することができる。更に、余分な界面活性剤等の添加も不要であることから、低コストで疎水性化合物の反応を行わせることができ、反応生成物も高純度で得ることができる。
【0011】
また、チャネルのチャネル幅が1mm以下であることが好ましい。チャネル幅が1mm以下であると、拡散律速を低減する効果を得ることができ、且つ疎水性流体及び生体触媒の界面の表面積を増大させることができるため、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応を飛躍的に促進させることができる。
【0012】
また、本発明の反応方法は、生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させる疎水性化合物の反応方法であって、疎水性化合物を含む疎水性液状物質と、生体触媒を含む水性液状物質とを、1mm以下のチャネル幅を有するチャネル内で接触させることを特徴とする。
【0013】
この反応方法によれば、疎水性化合物を含む疎水性液状物質と生体触媒を含む水性液状物質とが1mm以下のチャネル幅のチャネル内に流通されるため、流通した疎水性液状物質と水性液状物質とが接触すると、それぞれの界面での表面積が更に増加する。このため、疎水性化合物と生体触媒との接触効率を大幅に向上させることができる。また、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応効率を高めることができ、ひいては数十倍の反応速度で反応させることも可能となる。更に、相溶性に劣る疎水性流体と水性流体とを迅速かつ効率的に反応させることができるため、様々なバリエーションの疎水性化合物と生体触媒とに適用することができる。更に、余分な界面活性剤等の添加も不要であることから、低コストで疎水性化合物の反応を行わせることができ、反応生成物も高純度で得ることができる。
【0014】
また第3チャネル内で疎水性液状物質及び水性液状物質を流通させ、疎水性液状物質及び水性液状物質の相が互いに分離した状態で接触させることが好ましい。このように疎水性液状物質及び水性液状物質を接触させると接触効率を大幅に向上させることができる。
【0015】
さらに第3チャネル内で疎水性液状物質の液滴と、水性液状物質の液滴とをそれぞれ形成し、交互に流通させて接触させることが好ましい。このように疎水性液状物質及び水性液状物質を接触させると接触効率を大幅に向上させることができる。
【0016】
さらにまた第3チャネル内で疎水性液状物質及び水性液状物質からなるエマルジョンを形成させて、疎水性液状物質と水性液状物質とを接触させることが好ましい。このように疎水性液状物質及び水性液状物質を接触させると接触効率を大幅に向上させることができる。
【0017】
生体触媒が、疎水性化合物を細胞内に取り込む能力を有する微生物であることが好ましい。疎水性化合物を細胞内に取り込む能力を有する微生物は、疎水性液状物質と水性液状物質の接触界面で、疎水性物質を有効に細胞内に取り込み、微生物内の酵素との接触効率を高め、反応を促進する。
【0018】
また、この微生物は、ピチア属酵母、キャンディダ属酵母、シュードモナス属細菌、ロドコッカス属細菌、又はマイコバクテリウム属細菌であることが好ましい。これらの微生物は種々の疎水性物質を体内に取り込む能力が高いため、さらに反応が促進される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の疎水性化合物の反応装置及び反応方法によれば、生体触媒の存在下、幅広い種類の反応で疎水性化合物の反応効率を十分に高くすることができる。従って、本発明の疎水性化合物の反応装置及び反応方法によれば、有機化学的に重要な加水分解反応、酸化還元反応、転移反応、置換反応、脱離反応、縮合反応、付加反応、異性化反応、不斉合成反応等への応用が可能であり、今後の疎水性化合物の生体触媒反応の分野について進展が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明による疎水性化合物の反応装置の本実施形態に係るマイクロチャネルチップを示す平面図である。図1に示すように、マイクロチャネルチップ10は、不活性材料からなる基板5を有しており、基板5の一面5aには、疎水性液状物質を流通させるための第1チャネル1と、水性液状物質を流通させるための第2チャネル2が形成されている。一方、基板5の一面5a上には、疎水性液状物質及び水性液状物質を流通させるための第3チャネル3が形成され、第3チャネル3は、基板5の一面5a上に蛇行して形成されている。第3チャネル3の一端は第1チャネル1及び第2チャネル2に接続され、第3チャネル3の他端は一面5aの縁部まで延びている。
【0022】
このため、第1チャネル1に流通された疎水性液状物質と第2チャネル2に流通された水性液状物質とは、第3チャネル3内で接触することとなる。第3チャネル3の他端は、第3チューブ6を介して受器4に接続されている。なお、第3チャネル3には分岐チャネル3aが接続されており、分岐チャネル3aは、第4チューブ8を介して受器7に接続されている。この場合、反応生成物が別々の受器4、7に収容されることとなり、それぞれにおいて化合物の特定のために必要な複数の分析を同時に行うことができる。あるいは受器4において、必要に応じて反応生成物を外部に取り出したり、反応生成物を検出する装置等を接続することができる。
【0023】
図2は、基板5の厚さ方向に沿った部分断面図である。図2において、第3チャネル3の断面形状は四角形であり、第3チャネル3のチャネル幅dは好ましくは1mm以下である。チャネル幅dが上記の範囲であるため、この第3チャネル3内で疎水性液状物質及び水性液状物質が接触した場合には、界面における接触面積が増加するため、反応をより十分に促進することができる。同時に、分子の拡散時間の短縮効果、すなわち、拡散律速を最小にする効果を利用し迅速に反応させることができる。一方、チャネル幅dが1mmを超えると、チャネル幅dが1mm以下である場合に比べて、単位体積当たりの界面表面積の増大効果と、拡散律速を最小にする効果とを充分に得ることができなくなる傾向がある。チャネル幅dは更に好ましくは0.1〜500μmである。
【0024】
第3チャネル3の長さは装置や反応等の都合にあわせて任意に定めることができる。また「チャネル幅」とは、基板の厚さ方向に対して垂直の方向の長さをいう。第3チャネル3の断面形状が四角形の場合は横の長さをいい、台形や三角形の場合は前記方向に対して最も長い長さをいう。また、円形や半円形の場合は直径の長さ、楕円形の場合は前記方向に対して最も長い径の長さをいう。
【0025】
なお、図示しないが、第1チャネル1及び第2チャネル2の断面形状も第3チャネル3と同様であり、チャネル幅dも第3チャネル3と同様である。
【0026】
また第1チャネル1は第1チューブ11を介して第1シリンジ21に接続され、第2チャネル2は第2チューブ12を介して第2シリンジ22に接続されている。
【0027】
従って、疎水性液状物質を第1シリンジ21に収容し、更に水性液状物質を第2シリンジ22に収容することにより、疎水性液状物質は第1チューブ11を経て第1チャネル1に注入することが可能となり、水性液状物質は第2チューブ12を経て第2チャネル2に注入することが可能である。よって疎水性液状物質と水性液状物質は第3チャネル3内で接触し、本発明の目的である反応が行われる。
【0028】
上記反応装置によれば、第1シリンジ21を作動させると、疎水性化合物を含む疎水性液状物質は第1シリンジ21から第1チューブ11を経て第1チャネル1に注入される。一方、第2シリンジ22を作動させると、生体触媒を含む水性液状物質が第2シリンジ22から第2チューブ12を経て第2チャネル2に注入される。そして、疎水性液状物質は第1チャネル1から第3チャネル3に流通され、水性液状物質は第2チャネル2から第3チャネル3に流通され、第3チャネル3内で疎水性液状物質と水性液状物質とが接触する。このとき、第3チャネル3は、マイクロチャネルチップ10内におけるチャネルであるため、流通した疎水性液状物質と水性液状物質とが接触すると、それぞれの表面積が増加し、疎水性化合物と生体触媒との接触効率を大幅に向上させることができる。このため、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応効率を十分に高めることができ、ひいては数十倍の反応速度で反応させることも可能となる。また、上記のように疎水性化合物の反応効率が十分に高くすることができるため、生体触媒の存在下、疎水性化合物について、有機化学的に重要な、加水分解反応、酸化還元反応、転移反応、置換反応、脱離反応、縮合反応、付加反応、異性化反応、不斉合成反応等をも行うことができる。更に、上記のように界面活性剤を使用することなく疎水性化合物の反応効率を十分に高めることができるため、低コストで疎水性化合物を反応させることができる。
【0029】
更にまた上記反応装置によれば、疎水性液状物質と水性液状物質とは、第1チャネル1と第2チャネル2とで別々に流通するため、疎水性液状物質と水性液状物質とを所望の速度にして第3チャネル3に流通させることができる。即ち第1チャネル1を流通する疎水性化合物の量、及び第2チャネル2を流通する生体触媒の量を必要に応じて自由にコントロールすることができる。従って、未反応の疎水性化合物が生じるのを十分に抑制することができる。
【0030】
疎水性液状物質及び水性液状物質は、以下の方法によって接触させると、接触効率が向上するため好ましい。例えば、(A)第3チャネル内でそれぞれ相を形成して流通し、各相が分離した状態で接触させる方法、(B)第3チャネル内でそれぞれ液滴を形成し、各液滴が交互に流通する状態で接触させる方法、(C)第3チャネル内でエマルジョンを形成して接触させる方法が挙げられる。
【0031】
これらの方法(A)及び(B)は第3チャネル3の形状、第3チャネル3の材質に対する疎水性液状物質及び水性液状物質それぞれの接触角、粘性、流通する液体の量及び流通のスピード等を制御することによってそれぞれ実現することができる。また方法(C)は例えば後述する他の実施形態とすることにより実現することができる。
【0032】
また、上記疎水性反応物の反応に用いた生体触媒は、再利用することが可能である。すなわち、第2シリンジ2から注入し、第2チューブ12及び第3チャネル3を経て受器4に到達した後に、受器4から生体触媒を取り出し、これを第2シリンジ2に再注入しても良い。本反応は生体触媒反応であるため,触媒が失活するまでは何度でも繰り返し用いることができる。
【0033】
上記疎水性化合物は、固体であっても液体であってもよく、揮発性の化合物であってもよい。ただし、固体である場合は何らかの疎水性溶媒に溶解させるか、若しくは分散させる必要がある。例えば、疎水性化合物としては、トルエン、ナフタレン、フェノール、ベンズアルデヒド、アニソール、カテコール、ヒドロキシ安息香酸等の芳香族化合物又はその誘導体、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、フラン、イミダゾール、チアゾール、ピリジン、ピラジン、インドール等のヘテロ環状化合物又はその誘導体、ペンタン、ヘキサン、ペンタデカン、オクタデカン、アラキドン酸、リノール酸等のC5〜C20の脂肪族炭化水素又はその誘導体、α−ピネン、リモネン、メントール等のテルペン類、ケトン類、ジケトン類、ポリケトン類、エポキサイド類、エステル類、ラクトン類、アミノ酸類等が挙げられる。また疎水性溶媒としては、トルエン等の芳香族系溶媒、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、n−テトラデカン、イソオクタン等の脂肪族系溶媒;ジメチルエーテル、テトラヒドロキシフラン、t−ブチルメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。
【0034】
また上記生体触媒としては、例えば、リパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ、イソメラーゼ、デヒドロゲナーゼ、リアーゼ、トランスフェラーゼ、キナーゼ、アルドラーゼ、リガーゼ等の酵素、又はシゾサッカロマイセス属酵母、ピチア属酵母、キャンディダ属酵母、シュードモナス属細菌、スフィンゴモナス属細菌、アルカリゲネス属細菌、ブルクホルデリア属細菌、アシネトバクター属細菌、コリネバクテリウム属細菌、バチルス属細菌、ブレビバチルス属細菌、ノカルディア属細菌、ロドコッカス属細菌、ゴルドニア属細菌、又はマイコバクテリウム属細菌等の微生物が挙げられる。これらを水等に溶解又は分散して用いることができる。
【0035】
図3(a)及び(b)は、第3チャネル3の第2〜第3の態様を示す断面図である。図3(a)に示す第2の態様のチャネル21aは、二つの基材を積層して形成されるチャネルである。すなわち、一方の基材23aの下部と、他方の基材23bの上部とにそれぞれ溝を設け、貼り合わせることによってチャネル21aが形成される。図3(b)に示す、第3の態様のチャネル21bは、三つの基材を積層して形成されたものである。すなわち、中間層である基材24bに貫通溝を設け、その上部と下部に、基材24bを挟持するように基材24a及び24cを積層してチャネル21bが形成される。なお、チャネル21a及びチャネル21bは第3チャネル3に相当するものである。
【0036】
これらの基材23a,23b,24a〜24cは任意に定めることができ、石英ガラス又はパイレックス(登録商標)ガラス等のガラス、PDMS、ポリカーボネート又はポリイミド等のポリマー、鉄、ステンレス、アルミニウム、ニッケル又は銅等のメタル、又はシリコン等を使用することができ、積層する場合のそれぞれの基材は、同一の種類であっても異なった種類であってもよい。
【0037】
図4は、本発明による疎水性化合物の反応装置の他の実施形態に係るマイクロチャネルチップを示す部分平面図である。図4に示すように、本実施形態のマイクロチャネルチップ200は、第1チャネル1の先端部1aが、分散部31を介して第3チャネル3の端部と対向していること以外は第1実施形態のマイクロチャネルチップ10と同様の構成を有する。
【0038】
ここで、分散部31は、例えば板状となっており、図5に示すように複数の貫通孔32を有している。したがって、第1チャネル1は分散部31の貫通孔32を介して第3チャネル3に接続されている。なお、図5は、第1チャネル1の先端部1aから第3チャネル3の端部に向かう方向から見た分散部31を示す部分正面図である。
【0039】
このマイクロチャネルチップ200によれば、第1チャネル1に疎水性液状物質を流通させ、第2チャネル2に水性液状物質を流通させると、第1チャネル1を流通する疎水性液状物質は、第1チャネル1の先端部1aに到達する。一方、第2チャネル2を流通する水性液状物質は、第3チャネル3に流入される。そして、第1チャネル1の先端部1aに到達した疎水性液状物質は、分散部31の貫通孔32を通って第3チャネル3に流入され、疎水性液状物質と水性液状物質とが混合される。このとき、疎水性液状物質は、マイクロスフィア(微小カプセル)形状となる。このため、疎水性液状物質と水性液状物質とが混合されることによりエマルジョンが形成され、疎水性液状物質と水性液状物質とが接触する。こうして疎水性液状物質と水性液状物質とが接触すると、接触効率を大幅に向上させることが可能となる。
【0040】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、疎水性液状物質および水性液状物質を流通するためにシリンジ21,22を用いているが、シリンジ21,22に代えて、ダイヤフラム式ポンプ等を用いてもよい。
【0041】
また、上記実施形態において、第1チャネル1,第2チャネル2,第3チャネル3内には逆止弁を設けることも有用である。逆止弁が設けられると、流体の逆流を防ぐことができ、逆流によるトラブルを未然に防ぐことができる。
【0042】
更に、上記実施形態で用いたマイクロチャネルチップ10には加熱装置や冷却装置を設けることも有用である。本発明の反応装置を用いて反応させる場合、化学反応には発熱反応や吸熱反応があるため、温度を調節できる装置が設けられていると、より確実に反応を促進することができる。また、化学反応により温度変化が生じると、流体が膨張することにより、不要な気泡が生じるおそれがあり、この気泡はチャネルの目詰まりを生じさせる原因となりうる。このため、斯かる点からも温度を調節できる装置が設けられることは有用である。
【0043】
更にまた、上記実施形態においては、第3チャネル3の他端側では分岐チャネル3aが枝分かれして第4チューブ8に接続されているが、分岐チャネル3aは必ずしも必要ではない。あるいは逆に、分岐チャネル3aが2つ以上になってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下に挙げる実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
まず、ノカルディオフォーム型細菌Rhodococcus sp.を培養し、この菌を用いて、菌体濃度がOD660=10となるように水性液体である菌体懸濁液を調製した。一方、n−テトラデカン中にジベンゾチオフェンを0.02wt%(1mM)の割合で溶解させた疎水性液体を用意した。なお、ジベンゾチオフェンは、ノカルディオフォーム型細菌Rhodococcus sp.の存在下、2−ヒドロキシビフェニルへ酸化して、硫酸イオンを水溶液中に放出する性質を有するものである。
【0046】
次に、図1に示す反応装置を用意した。そして、上記菌体懸濁液を第2シリンジ22(開口径φ4.5mm)に注入し、上記疎水性液体を第2シリンジ22と同じ開口径の第1シリンジ21に注入した。そして、第1シリンジ21から第1チューブ21を経て第1チャネル1に疎水性液体を流通させると共に、第2シリンジ22から第2チューブ12を経て第2チャネル2に菌体懸濁液を流通させた。そして、チャネル幅100μmの第3チャネル内で疎水性液体と菌体懸濁液とを接触させ、ジベンゾチオフェンの反応を行った。このとき、疎水性液体と菌体懸濁液との比が体積比で1:1となるように流通させた。そして、反応時間を30秒とし、このときの反応生成物である2−ヒドロキシビフェニルの濃度を測定した。この測定値を1分あたりに換算した結果を図6に示す。なお、図6において、本実施例の結果は「反応A」で示してある。
【0047】
(実施例2)
反応時間を1分としたこと以外は実施例1と同様にして反応生成物である2−ヒドロキシビフェニルの濃度を測定した。1分あたりの換算結果を図6に示す。なお、図6において、本実施例の結果は「反応B」で示してある。
【0048】
(実施例3)
反応時間を3分としたこと以外は実施例1と同様にして反応生成物である2−ヒドロキシビフェニルの濃度を測定した。1分あたりの換算結果を図6に示す。なお、図6において、本実施例の結果は「反応C」で示してある。
【0049】
(比較例1)
マイクロチャネルチップを用いずに100ml容三角フラスコを用い、反応時間を1時間としたこと以外は実施例1と同様にして反応生成物である2−ヒドロキシビフェニルの濃度を測定した。1分あたりの換算結果を図6に示す。なお、図6において、本比較例の結果は「control」で示してある。
【0050】
以上の実施例1〜3及び比較例1の結果より、本発明による疎水性化合物の反応方法によれば、反応効率が大幅に向上することが分かった。このことから、本発明による疎水性化合物の反応方法によれば、反応効率を十分に高くできることが確認された。また、このように反応効率を十分に高くできるため、幅広い種類の反応で、生体触媒の存在下、疎水性化合物の反応を行うことができるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は本発明による疎水性化合物の反応装置の本実施形態に係るマイクロチャネルチップを示す平面図である。
【図2】図1のマイクロチャネルチップを構成する本体部の厚さ方向に沿った部分断面図である。
【図3】図3(a)及び(b)は、第1チャネル、第2チャネル及び第3チャネルの第1及び第2の態様を示す断面図である。
【図4】図4は本発明による疎水性化合物の反応装置の他の実施形態に係るマイクロチャネルチップを示す部分平面図である。
【図5】図5は第1チャネル1の先端部1aから第3チャネル3の端部に向かう方向から見た分散部31を示す部分正面図である。
【図6】実施例1〜3及び比較例1による反応速度測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0052】
1…第1チャネル、2…第2チャネル、3…第3チャネル、4,7…受器、5…基板、6…第3チューブ、8・・・第4チューブ、10…マイクロチャネルチップ、11…第1チューブ、12…第2チューブ、21…第1シリンジ、22…第2シリンジ、31・・・分散部、32・・・貫通孔、d…チャネル幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させる疎水性化合物の反応装置であって、
疎水性化合物を含む疎水性液状物質を流通させる第1チャネル、
生体触媒を含む水性液状物質を流通させる第2チャネル、及び
前記第1チャネル及び前記第2チャネルに接続され、前記疎水性液状物質および前記水性液状物質を流通させる第3チャネルを有するマイクロチャネルチップを備えることを特徴とする疎水性化合物の反応装置。
【請求項2】
前記第3チャネルのチャネル幅が1mm以下であることを特徴とする請求項1記載の疎水性化合物の反応装置。
【請求項3】
生体触媒を用いて疎水性化合物を反応させる疎水性化合物の反応方法であって、
疎水性化合物を含む疎水性液状物質と、生体触媒を含む水性液状物質とを、1mm以下のチャネル幅を有するチャネル内で接触させることを特徴とする疎水性化合物の反応方法。
【請求項4】
前記第3チャネル内で前記疎水性液状物質及び前記水性液状物質を流通させ、前記疎水性液状物質及び前記水性液状物質の相が互いに分離した状態で接触させることを特徴とする請求項3記載の疎水性化合物の反応方法。
【請求項5】
前記第3チャネル内で前記疎水性液状物質の液滴と、前記水性液状物質の液滴とをそれぞれ形成し、交互に流通させて接触させることを特徴とする請求項3記載の疎水性化合物の反応方法。
【請求項6】
前記第3チャネル内で前記疎水性液状物質及び前記水性液状物質からなるエマルジョンを形成させて、前記疎水性液状物質と前記水性液状物質とを接触させることを特徴とする請求項3記載の疎水性化合物の反応方法。
【請求項7】
前記生体触媒が、前記疎水性化合物を細胞内に取り込む能力を有する微生物であることを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載の疎水性化合物の反応方法。
【請求項8】
前記微生物が、ピチア属酵母、キャンディダ属酵母、シュードモナス属細菌、ロドコッカス属細菌、又はマイコバクテリウム属細菌であることを特徴とする請求項7記載の疎水性化合物の反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−275689(P2007−275689A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−194633(P2004−194633)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】