説明

疎水性基材及びその製造方法

【課題】汎用のオルガノシロキサンを用い、減圧を必要としない簡便な製造工程で、疎水性基材を製造する方法を提供する。
【解決手段】紫外線の光源と、被照射物を配置するための閉鎖可能な照射室を有する紫外線照射装置を用い、紫外線照射装置の閉鎖可能な照射室内に、被照射物として、基材と、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基が珪素原子に直接結合したシロキサン骨格を有するオルガノシロキサンが入っている任意の容器を配置し、被照射物に対して紫外線を照射することにより基材に疎水性を付与する、疎水性基材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖可能な照射室を有する紫外線照射装置を用い、基材とオルガノシロキサンに対して紫外線を照射する疎水性基材の製造方法と、その製造方法で製造された疎水性基材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオルガノシロキサンは表面張力が20〜22mN/mと低く、各種基材に疎水性を付与するための処理剤として使用されている。
ポリオルガノシロキサンを用いて各種基材に疎水性を付与する方法として、オルガノシロキサンをプラズマ重合して、基材表面に疎水性皮膜を製造する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1で提案されている方法では、揮発性の高いオルガノシロキサンしか使用できず、且つプラズマ重合を行なうために10Torr程度の減圧が必要であるという課題を有する。
【特許文献1】特開平8−127865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、汎用のオルガノシロキサンを用い、減圧を必要としない簡便な製造工程で、疎水性基材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、紫外線の光源と、被照射物を配置するための閉鎖可能な照射室を有する紫外線照射装置を用い、紫外線照射装置の閉鎖可能な照射室内に、被照射物として、基材と、下記一般式(1)で表されるシロキサン骨格を有するオルガノシロキサンが入っている任意の容器を配置し、被照射物に対して紫外線を照射することにより基材に疎水性を付与する、疎水性基材の製造方法である。
【化1】

(一般式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
オルガノシロキサンは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン及びトリメチルシクロトリシロキサンから選ばれる1種以上であることが好ましい。
また、本発明は、上記の製造方法で製造された疎水性基材である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の製造方法によれば、汎用のオルガノシロキサンを用い、減圧を必要としない簡便な製造工程で、疎水性基材を製造することができる。
本発明の疎水性基材は、疎水性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明で用いる紫外線照射装置は、紫外線の光源と、被照射物を配置するための閉鎖可能な照射室を有する。
紫外線の光源としては、空気中でオルガノシロキサンを分解できる波長の紫外線を発生させる光源であればよく、具体的には、185nmや254nmの波長の紫外線を発生させる光源であればよい。このような紫外線を発生させる光源としては、例えば、低圧水銀ランプが挙げられる。
【0007】
閉鎖可能な照射室は、紫外線の被照射物を配置できればよく、照射室の容量は任意に設定することができる。
本発明の疎水性基材の製造方法では、オルガノシロキサンに対して紫外線を照射することによって発生するオルガノシロキサンの分解物を、基材表面に堆積させることによって、基材に疎水性を付与する。
開放型の照射室を用いた場合には、オルガノシロキサンの分解物が、照射室の外部に拡散するため、基材に疎水性を付与することが困難となる。このため、被照射物を配置するための照射室は、閉鎖可能な構造であることが必要である。また、紫外線の照射時には、照射室内の換気等を行なわないことが好ましい。
【0008】
本発明で用いる基材としては、例えば、ガラス、シリカガラス、石英、シリコンウェハー、金属酸化物、セラミックス、無機質基材、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー、ポリエチレン、ポリプロプレンが挙げられる。基材の形状は、平板状、曲板面状、ブロック状等種々であり、特に限定されない。
基材は、予め、プラズマ処理や紫外線オゾン処理を施したものを用いてもよい。
【0009】
本発明でいう疎水性基材とは、水との接触角が60°以上である基材をいう。ここで、水との接触角とは、接触角測定装置を使用し、蒸留水を用いて25℃で測定した数値をいう。
【0010】
本発明で用いるオルガノシロキサンは、下記一般式(1)で表されるシロキサン骨格を有する。
【化2】

(一般式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
炭素数が1〜3のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
水素原子及び炭素数1〜3のアルキル基は、エーテル結合等を介さずに、珪素原子に直接結合する。
【0011】
本発明で用いるオルガノシロキサンは、環状であっても直鎖状であってもよい。オルガノシロキサンとしては、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルテトラシロキサン、ポリジメチルシロキサンが挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
これらの中では、紫外線の照射によって発生する分解物の揮発性が高いことから、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサンが好ましい。
【0012】
本発明の疎水性基材の製造方法は、紫外線照射装置の閉鎖可能な照射室内に、被照射物として、基材と、オルガノシロキサンが入っている任意の容器を配置する。
オルガノシロキサンを入れるための任意の容器としては、紫外線の照射によって劣化し難い材質で形成され、オルガノシロキサンの分解物の揮発が抑制されない構造であればよく、例えば、アルミカップが挙げられる。
オルガノシロキサンは基材に直接塗布して用いてもよいが、工程が簡便であること、及び、疎水性付与の制御が容易であることから、アルミカップ等の容器に入れて、基材と共に照射室内に配置することが好ましい。
【0013】
照射室内での、紫外線の光源と基材との位置は、基材の疎水性が充分に発現するよう任意に設定することができる。
また、照射室内での、紫外線の光源と、オルガノシロキサンが入っている任意の容器との位置は、基材の疎水性が充分に発現するよう任意に設定することができる。
【0014】
照射室内での、基材と、オルガノシロキサンが入っている任意の容器との位置は、基材の疎水性が充分に発現するよう任意に設定することができ、紫外線の影ができない範囲で近接させることが好ましい。
【0015】
次いで、本発明の疎水性基材の製造方法は、照射室内に配置した被照射物に対して、紫外線を照射する。
紫外線の照射時間は10〜4000秒の範囲が好ましい。紫外線の照射時間が10秒以上であれば、基材に対する疎水性の付与が充分となり、4000秒以下であれば、オルガノシロキサンが有するアルキル基がオゾンによって酸化分解されることがなく、基材の疎水性が低下しない。紫外線の照射時間は50〜2400秒の範囲がより好ましい。
【0016】
紫外線の照射強度、及び、被照射物が受ける紫外線の積算光量については、基材の疎水性が充分に発現するよう任意に設定することができる。
【0017】
本発明の疎水性基材の製造方法は、プラズマ重合や化学気相法と異なり、減圧を必要としない簡便な製造工程による。また、用いるオルガノシロキサンは、紫外線照射によって発生する分解物の揮発性が高ければよく、オルガノシロキサン自体は揮発性が低くてもよいことから、汎用のオルガノシロキサンを用いることができる。
【0018】
本発明の疎水性基材は、疎水性を有することから、各種の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
各実施例での物性の測定は、(1)の方法による。
また、基材表面の親水化処理は、(2)の方法による。
【0020】
(1)水との接触角
接触角測定装置(Kruss社製)を使用し、蒸留水を用いて25℃で測定した。
【0021】
(2)親水化処理
76mm×26mm×1mmのガラス基材(スライドガラス、松浪硝子工業(株)製)を、UVオゾンクリーナー(UV253H、フィルジェン(株)製)(以下、「UV253H」という。)にセットし、照射時間600秒、照射開始温度27℃の条件で処理した。親水化処理後のガラス基材の、水との接触角は10°以下であった。
【0022】
(実施例1)
紫外線照射装置として、UV253Hを用いた。
UV253Hが有する紫外線の光源は、185nm及び254nmの波長の紫外線を発生させ、紫外線の照射強度は28mW/cmである。
UV253Hが有する照射室の内寸は、W;208mm×D;205mm×H;168mmであり、照射室は扉を有し、閉鎖できる構造である。
【0023】
オルガノシロキサンとして、オクタメチルシクロテトラシロキサン(以下、「OMCTS」という。)を用いた。
OMCTS 0.025gを入れたアルミカップと、親水化処理したガラス基材を、UV253Hの照射室内に近接して配置し、紫外線の照射時間20秒、紫外線照射開始時の温度28℃の条件で処理を行なった。
処理終了後、15分かけて系内からオゾンを排出した後、ガラス基材を取り出した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0024】
(実施例2)
紫外線の照射時間を40秒としたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0025】
(実施例3)
紫外線の照射時間を60秒としたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0026】
(実施例4)
紫外線の照射時間を240秒としたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0027】
(実施例5)
紫外線の照射時間を1200秒としたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0028】
(実施例6)
紫外線の照射時間を3600秒としたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0029】
(実施例7)
OMCTS 0.025gを、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(以下、「HMCTS」という。)0.025gとしたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0030】
(実施例8)
OMCTS 0.025gを、テトラメチルシクロテトラシロキサン(以下、「TMCTS」という。)0.025gとしたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0031】
(比較例1)
オルガノシロキサンを用いなかったこと以外は、実施例1と同様に処理をした。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0032】
(比較例2)
紫外線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様に操作を行なった。操作後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0033】
(比較例3)
OMCTS 0.025gを、オクタフェニルシクロテトラシロキサン(以下、「OPCTS」という。)0.025gとしたこと以外は、実施例1と同様に処理した。処理後のガラス基材の、水との接触角を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、本発明の製造方法で得られた疎水性基材は、水との接触角が高く、疎水性に優れるものであった。
本発明の範囲外のオルガノシロキサン(OPCTS)を用いた比較例3は、処理後のガラス基材の、水との接触角が低く、疎水性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の製造方法によれば、減圧を必要としない簡便な製造工程で、疎水性基材を製造することができる。得られた疎水性基材は、各種の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線の光源と、被照射物を配置するための閉鎖可能な照射室を有する紫外線照射装置を用い、
紫外線照射装置の閉鎖可能な照射室内に、被照射物として、基材と、下記一般式(1)で表されるシロキサン骨格を有するオルガノシロキサンが入っている任意の容器を配置し、
被照射物に対して紫外線を照射することにより基材に疎水性を付与する、疎水性基材の製造方法。
【化1】

(一般式(1)において、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜3のアルキル基を示す。)
【請求項2】
オルガノシロキサンが、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン及びトリメチルシクロトリシロキサンから選ばれる1種以上である、請求項1に記載の疎水性基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された疎水性基材。

【公開番号】特開2010−138014(P2010−138014A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314672(P2008−314672)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】