説明

疎水性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物の抽出および濃縮の方法

疎水性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物、生物的物質または粒子の抽出および濃縮方法を開示する。収率を向上せしめるために、抽出剤を含む捕捉溶液を用いて抽出を行う。かかる抽出は、疎水性液体中の夾雑物の検出および定量に好適である。好ましい抽出剤は、両性リン脂質またはアニオン性リン脂質(例えばレシチン)およびアニオン性界面活性剤、さらにこれらの混合物であり、任意に非イオン性界面活性剤も含有し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物、生物的物質または粒子の抽出および濃縮として、該夾雑物の検出および/または定量を目的とするものに関する。本発明は、該化合物の回収を改善せしめる捕捉溶液にも関する。
【0002】
発明の背景
少量の親水性化合物(ATP、NAD、NADP、NADH、NADPH、酵素、遊離脂肪酸、保存料、殺生物剤、塩等) は、微生物または例えば粒子と同様に、原油、植物油、石油およびケロセンのような疎水性液体マトリクス中に拡散または分散しがちである。このような化合物または粒子は、夾雑物または不純物となっている場合もあれば、また、特定の濃度であることが要求される添加物や保存料出る場合もある。したがって、このような化合物を検出することおよび/またはその定量を行うことによって、個々の製品が安全であり、かつ個々の用途に対して適切なものであるかを確認することが望ましい。上記したような親水性化合物を、本明細書においては親水性化合物と総称する。
【0003】
水性抽出を行うことによって、親水性化合物を疎水性マトリクスから分離することができ、そして検出/定量を水性抽出物について行うことができる。抽出における回収率を高くするためには、水性抽出剤を疎水性液体マトリクス全体にわたって十分に拡散させることが重要である。検出限界を低くするためには、抽出剤のマトリクスに対する割合を小さくすることが重要である。速やかに回収するためには、抽出工程に続く相分離を迅速に行うことが重要である。本発明の抽出剤を用いることによって、親水性化合物の回収が顕著に改善される。
【0004】
本発明の説明
本発明は、疎水性/非極性/非イオン性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物の抽出方法に関する。本発明は、捕捉溶液にも関する。
本発明が対象とするのは、疎水性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物の抽出および濃縮の方法であって、以下の工程を含むものである。
a)疎水性液体のサンプルの提供
b)水性の捕捉溶液として少なくとも1種の抽出剤を含有するものの、該サンプルへの添加
c)該サンプルと該捕捉溶液の完全な混合
d)水相のサンプル相からの分離
e)前記水相における前記化合物の測定。
【0005】
本発明の他の対象は、少なくとも1種の抽出剤を有効な濃度で含有する捕捉溶液であって、該抽出剤は、疎水性液体マトリクスから抽出された親水性化合物の収量を向上せしめる界面活性剤である。好ましい抽出剤は、両性リン脂質またはアニオン性リン脂質(例えばレシチン、ホスファチジルイノシトール)およびアニオン性界面活性剤(例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸、またはソルビン酸カリウム)からなる群からなされる。とくに好ましい態様においては、両性リン脂質はレシチンである。最も好ましい態様においては、捕捉溶液は水溶性染料を含有し、水相の可視性を向上せしめる。
【0006】
本発明の他の対象は、親水性化合物を疎水性液体マトリクスから抽出し、該親水性化合物を検出するための反応キットであって、本発明の捕捉溶液を含むものである。
図1は、本発明の手順を示している。詳細は例に示した。示されている工程は、(1)1リットルのサンプルを回収する;(2)捕捉溶液を添加する;(3)混合物を10秒間激しく振る;(4)そして混合物を5分間直立させる;(5)捕捉溶液を回収する;(6)捕捉溶液をHY−LiTE(登録商標)ペンチューブに添加する;(7)捕捉溶液をHY−LiTE(登録商標)ペンを用いてテストする;(8)HY−LiTE(登録商標)ペンを読む;HY−LiTE(登録商標)照度計を用いて放出された光を測定する。
【0007】
図2には、ケロセンの抽出物における、本発明の抽出方法を用いたバイオマスの測定の比較を示す。生存細胞数(X軸)を照度計の値によって決定したATP(Y軸)と比較する。実験の詳細は例3に示した。
本発明において用いられる捕捉溶液は、抽出剤の水性溶液である。この捕捉溶液は、任意に酸、塩基または緩衝材を添加剤として用いて、所定のpHを維持しても、および/または中性塩を添加してイオン強度を維持してもよいし、本発明は保存料を添加して夾雑した微生物が捕捉溶液中において増殖するのを防いでもよい。これらの添加剤の性質は、マトリクス、分析物および分析方法に依存するが、下記を例示することができる;
・次亜塩素酸ナトリウム−使用前の無菌性の維持:
・塩化ナトリウム−溶液の等浸透圧維持:
・リン酸バッファ−溶液のpH維持;
・水酸化ナトリウム−溶液の滴定可能なアルカリ性の維持。
他の例は当業者に自明である。
【0008】
水溶性染料を添加して、水相の可視性を高めることができる。本明細書においては、水溶性染料の語によって、染料および蛍光性化合物の両方を意味するものとするが、他の意味を有するものとして記載する場合もある。メチレンブルー、パテントブルーVまたはフルオレセインが、水溶性染料の例である。水溶性染料の濃度を選択することによって、水相の可視性が向上する。
【0009】
抽出剤の選択は、テンシド(tensid)、界面活性剤、または乳化剤の群から行う。膨大な範囲の化合物が当技術分野において知られていて、それらは天然物、天然物由来または合成物であり、例を下表に示す:
【表1】

【0010】
上記の分類以外に、界面活性剤および乳化剤のカテゴリーとしては、親水性−親油性バランス(HLB値)、もしくは臨界ミセル濃度(CMC)、または水溶解度によるものもある。
当技術分野において、界面活性剤および乳化剤は水中油型分散剤または油中水型分散剤の製造および安定化に用いられている。また、これらの物質は、疎水性物質を水性溶液に溶解するためにも用いられている。これらの物質の他の用い方としては、生体膜の破壊がある。
【0011】
本発明においては、界面活性剤または乳化剤から選択されたものを抽出剤として用い、親水性物質の疎水性マトリクスから水性溶液への抽出を改善せしめる。中性またはアニオン性リン脂質(例えばレシチン、ホスファチジルイノシトール)またはアニオン性界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、水酸化コール酸ナトリウムまたはソルビン酸カリウム)が抽出剤として有用である。したがって、前記アニオン性界面活性剤の添加を当技術分野における遊離酸または適切な塩(例えばナトリウム塩)として行うことができる。とくに好ましい態様においては、抽出剤はレシチンである。
【0012】
本発明の捕捉溶液は任意に1種または2種以上の抽出剤として上記群からのものを含有することができる。混合物として有用なものは、中性の界面活性剤であるポリソルベート(例えばTween(R)80)を中性またはアニオン性のリン脂質またはアニオン性界面活性剤とは別に添加してもよい。最も好ましい抽出剤(レシチン)の捕捉溶液における有効な濃度は、好ましくは0.1%(w/v)〜1%(w/v)である。他の界面活性剤を抽出剤として用いた場合には、好ましい範囲はHLB値および臨界ミセル濃度、さらに水溶解度に依存する。このような他の界面活性剤の場合、有効な濃度の限界値は例2および5から導くことができる。
【0013】
捕捉溶液の界面活性剤の成分の選択は、サンプルマトリクスおよび夾雑物の検出に用いられる反応のタイプに依存する。例えば、SDSのような界面活性剤は細胞を溶解させやすいため、夾雑している細菌を生存細胞数として増殖によって検出する場合には好適とはいえない。ある場合には、SDSのように化学的な構成が画定されているものの方が、レシチンのように混合物の画定がより不明確なものより有効かもしれない。相分離は、迅速に行った方が、振動や遠心分離のような方法をさらに行うより効果が高い。
本発明の捕捉溶液を用いることによって、親水性化合物の回収率は50%より高くなり、好ましくは80%より高くなる。
【0014】
好ましい態様の具体例の1つは以下のとおりである:
大豆レシチン: 0.50〜10.00g
メチレンブルー: 0.01〜0.20g
次亜塩素酸ナトリウム: 0.01〜0.05g
水: 1000.00mlとする
この捕捉溶液は、燃料、例えばディーゼルオイル、ケロセン中の夾雑物の検出にとくに有用である。
【0015】
抽出剤を含有している水性捕捉溶液を低い割合(1:10以下;好ましくは1:100以下;最も好ましくは1:1000以下)で被検サンプルに添加する。抽出剤の体積比の下限値はサンプル中における水の溶解度によって与えられる。すなわち、体積比は、水相が疎水性サンプルからほぼ分離されるように大きくしなければならない。捕捉溶液およびサンプルは混合して捕捉溶液をサンプル全体に分散させる。
生成した混合物はある時間静置して相分離させる。必要に応じて、相分離を促進するために、さらに少量のイオン性化合物(典型的には塩、酸または塩基)を追加して添加してエマルションを破壊するか、または物理的な処理(変温、振動、遠心分離)を行ってもよい。
【0016】
相分離の後、水相を回収し、化合物、生物由来の物質または粒子の検出を、所望に応じて単離した水相に対して行うことができる。これを行うための方法は当技術分野において知られている。例としては以下のものがある、ルシフェラーゼを用いた発光量によるATPの測定、環化反応によるNADおよび/またはNADPの測定、微生物の細胞数の計数として、一定の体積を適切な固体増殖培地であって計数対象である微生物の増殖に好適なものへのプレーティングによるもの。WO 02/22854には、NADおよび/またはNADPの測定のための環化反応のスキームが開示されている。酵素活性の決定としては、分光学的測定法が知られている。毒素、抗生物質、または生育阻害剤の決定は、生物的試験である、感受性の高い細菌を試験生物として用いた放射状拡散試験によって行うことができる。
【0017】
分離時間は変動し得るが、滑らかであり、疎水性/非極性/非イオン性の内壁を有する容器を用いることによって短縮できる。底が円錐状になっている容器を用いれば、下部に位置する水相をより簡便に回収することが可能となる。
本発明の抽出剤の製造は、成分を蒸留水に溶解することによって行う。
さらに説明を加えなくても、本技術分野の当業者であれば、前記記載を用いることによって、本発明を最大限に用いることができる。したがって、好ましい特定の態様および例は、単に説明のためのものであり、開示を如何なる意味においても限定するものではないと解されるべきである。
上記および下記の全ての特許出願、特許および刊行物ならびに対応出願であり、2003年8月20に出願されたEP 03018908.8の開示の全体を、参照によって本明細書に組み入れる。
【0018】
参考文献:
Institute of Petroleum. Standard IP 385/99: Determination of the viable aerobic microbial content of fuels and fuel components boiling below 390°C - Filtration and culture method
IATA: Guidance Material on Microbiological Contamination in Aircraft Fuel Tanks. 1st Edition, Effective 1 December 2002
【0019】

以下の例は、本発明の実際の適用を示すものである。
例1:捕捉溶液を用いた抽出効率の改善(ATPの抽出)
本発明の使用法として、遊離化合物の疎水性液体サンプルからの抽出の改善を表1aに示した。選択されたサンプルはディーゼルオイルであり、遊離化合物のマーカーはATPである。10mlのディーゼル燃料を2つの瓶のそれぞれに移す。1μlの1.0x10−4MのATP溶液を各瓶に添加し、ボルテックスミキサーによって60秒間混合する。一方の瓶に1mlの水のみを入れ、他方の瓶に1mlの捕捉溶液(0.1%(w/vのレシチン)を入れる。いずれの瓶も、ボルテックスミキサーによって10秒間混合する。瓶を30分間放置し、安定状態となった水および捕捉液を除去する。回収した水および捕捉溶液に含まれる遊離ATP量の測定をMerck KGaAのバイオ発光試薬を用いてアッセイして行う。100%回収された場合として、1μlの1.0x10−4MのATP溶液を1mlの水および1mlの捕捉溶液に直接添加して遊離ATP量を測定する。
%回収率の計算は、下式によって行う。
【数1】

水または捕捉溶液において測定された遊離ATP量
【0020】
【表2】

上記実験を2種の異なる捕捉溶液(0.1%(w/v)のレシチンまたは0.1%(w/v)のSDS)を用いて行う。手順は若干改変する。すなわち、水相を除去する前に、瓶の放置を(30分間でなく)60分間行う。
【0021】
【表3】

これらの結果は、本発明の捕捉溶液は、水単独より、ディーゼルオイルからのATPの抽出およびATPの濃縮についてはるかに良好であることを示している。
【0022】
例2: 捕捉溶液を用いた抽出効率の改善(ATPを用いた細菌の抽出)
本発明の使用法として、遊離化合物の疎水性液体サンプルからの抽出の改善を表2aに示した。選択されたサンプルは航空機燃料であり、バイオマスの決定のマーカーはアデノシン三リン酸(ATP)である。
【0023】
500mlの新しい航空機燃料を2つの瓶のそれぞれに計り入れる。25μlの細菌懸濁液(Pseudomonas fluorescens)を各瓶に添加する。両方の瓶を手で振ることによって混合し、細菌を分散させ、さらにローラーミキサーによって60分間混合し、最後に30分間放置した後試験を行う。一方の瓶に0.5mlの水のみを入れ、他方の瓶に0.5mlの捕捉溶液(0.1%(w/v)のレシチン)を入れる。いずれの瓶も、振って10秒間混合する。瓶を5分間放置し、安定状態となった水および捕捉液をパスツールピペットを用いて除去し、試験に供する。回収した水および捕捉溶液に含まれる全ATP量の測定をMerck KGaAのバイオ発光試薬を用いてアッセイして行う。100%回収された場合を測定するために、25μlの上記と同一の細菌懸濁液を0.5mlの水および0.5mlの捕捉溶液に直接添加して全ATP量を測定する。
【0024】
%回収率の計算は、下式によって行う。
【数2】

100%の回収において測定された全ATP量
【0025】
【表4】

上記実験を2種の異なる捕捉溶液(0.1%(w/v)レシチンまたは0.05%(w/v)のSDS)を用いて行う。手順は若干改変する:700mlの新しい航空機燃料を2つの瓶のそれぞれに計り入れる。25μlの細菌懸濁液(Pseudomonas fluorescens)を各瓶に添加する。全ての瓶を手で振ることによって混合する。一方の瓶に1.0mlの水のみを入れ、他方の瓶に1.0mlの捕捉溶液(0.1%(w/v)のレシチンまたは0.05%(w/v)のSDS)を入れる。全ての瓶を振って10秒間混合する。瓶を5分間放置し、安定状態となった水および捕捉液をパスツールピペットを用いて除去し、試験に供する。回収した水および捕捉溶液に含まれる全ATP量の測定をMerck KGaAのバイオ発光試薬を用いてアッセイして行う。100%回収された場合を測定するために、25μlの上記と同一の細菌懸濁液を1.0mlの水および1.0mlの捕捉溶液に直接添加して全ATP量を測定する。
【0026】
%回収率の計算は、下式によって行う。
【数3】

【0027】
【表5】

これらの結果は、本発明の捕捉溶液は、水単独より、航空機燃料からの全ATPの抽出および濃縮について良好であることを示している。
【0028】
例3: 生存細胞数およびATPの決定の比較による、本発明による細胞の抽出とバイオマスの決定
本発明の使用法として、遊離化合物およびバイオマス成分の疎水性液体サンプルにおける捕捉およびそれに続く測定を表3に示した。
選択されたサンプルは航空機燃料であり、遊離化合物およびバイオマス成分の決定のマーカーはアデノシン三リン酸(ATP)である。ATPの決定のレベルによって、航空機燃料における微生物の夾雑のレベルが示される。航空機燃料として、航空機の翼部タンクから集めたものをサンプルとして用いてATPのレベルおよびTVC(全生存細胞数)を測定する。燃料のサンプルには下記のとおりの処理を行い、水性捕捉液の試験をATPのレベルおよびTVCについて行えるようにした。
【0029】
1.0mlの捕捉溶液(0.1%(w/v)のレシチン)を、約1.0mlの燃料サンプルに入れ、燃料と捕捉溶液を手で振ることによって10秒間混合し、サンプルを5分間放置し、安定状態となった捕捉液を使い捨てのパスツールピペットを用いて除去し、捕捉溶液の試験をATPおよびTVCについて行う(図1にATP測定のプロトコールを示した)。
遊離ATP(細胞外ATP)および全ATP(バイオマスATP+細胞外ATP)のレベルの測定は、Merck KGaA, Germany製のHY−LiTE(登録商標)ATP発光アッセイによって行った。遊離ATPの測定は、28μlの捕捉溶液をHY−LiTE(登録商標)ペン(反応キャップを介して)にピペットし、発光量(RLUとして表される−相対発光量)をHY−LiTE(登録商標)発光メータによって測定することによって行う。TVCの決定は、未希釈、10−2および10−4に希釈した100μlの捕捉溶液をトリプトン大豆寒天プレートにプレーティングすることによって行った。プレートを2日間、20℃にてインキュベートし、コロニー数を数えた。コロニー形成単位(cfu/ml)としてmlあたりのものを計算した。
cfu/ml = コロニー数x希釈率x10
【0030】
【表6】

データは、疎水相から捕捉溶液への遊離ATPおよび全ATPの抽出および濃縮が、アッセイバックグランドより有意に異なるレベルで行い得ることを示している。バイオマスATPとTVCとを比較すると、微生物の抽出が生きた細胞として、再現性を有して行われたことが示されていることが理解される。相関性のデータは以下のとおりである:
r = 0.8872 y = 0.0049293 x + 676,7
このデータは図2に示した。
【0031】
例 4:捕捉溶液を用いた抽出効率の改善(硝酸塩の抽出)
本発明の使用法として、遊離化合物の疎水性液体サンプルからの抽出の改善を表4に示した。選択されたサンプルは航空機燃料であり、遊離化合物のマーカーは硝酸塩である。100mlの新しい航空機燃料を3つの瓶のそれぞれに移す。9μlの32.4g/リットルの硝酸カリウム溶液を各瓶に添加し、手で振ることによって10秒間混合し、5分間放置する。1つの瓶に1mlの水のみを入れ、他の瓶に1mlの捕捉溶液(0.1%(w/v)のレシチンまたは0.05%(w/v)のSDS)を入れる。全ての瓶を手で振ることによって10秒間混合する。瓶を5分間放置し、安定状態となった水および捕捉液を除去する。回収した水および捕捉溶液に含まれる硝酸塩量の測定をMerck KGaAの硝酸塩アッセイを用いて行う。100%回収された場合を測定するために、9μlの1.0x10−4Mの32.4g/リットルの硝酸カリウム溶液を1mlの水または1mlの捕捉溶液に直接添加して遊離硝酸塩量を測定する。
%回収率の計算は、下式によって行う。
【数4】

【0032】
【表7】

この結果は、捕捉溶液は、水単独より、航空機燃料からの硝酸塩の抽出および硝酸塩の濃縮についてより良好であることを示している。
【0033】
例5: 種々の抽出剤を用いた、疎水性液体からのATPの抽出
種々の抽出剤による、遊離化合物の疎水性液体サンプルからの抽出の改善を表5および6に示した。選択されたサンプルはディーゼルオイルであり、抽出対象化合物はATPである。10mlのディーゼル燃料を数多くの瓶のそれぞれに移す。1μlの1.0x10−4MのATP溶液(実験A;表5)または5μlの1.0x10−4MのATP溶液(実験B;表6)を、多くの瓶の各瓶に添加し、ボルテックスミキサーによって60秒間混合する。1つの瓶に1mlの水のみを入れ、他の1つの瓶に1mlの試験化合物溶液または試験対象である化合物の混合物を入れる。全ての瓶をボルテックスミキサーによって10秒間混合する。瓶を5分間放置し、安定状態となった水および捕捉液を除去する。回収した水および捕捉溶液に含まれる遊離ATP量の測定をMerck KGaAのバイオ発光試薬を用いてアッセイして行う。100%回収された場合を測定するために、1μlの1.0x10−4MのATP溶液(実験A)または5μlの1.0x10−4MのATP溶液(実験B)を1mlの水および1mlの捕捉溶液に直接添加して遊離ATP量を測定する。
%回収率の計算は、下式によって行う。
【数5】

【0034】
【表8】

【0035】
【表9】

これらの結果は、リン脂質、アニオン性界面活性剤およびこれら同士の混合物または非イオン性界面活性剤との混合物を用いることによって、優れた抽出効率が得られることを示している。
【0036】
例6: 種々の他の界面活性剤を用いた、疎水性液体からのATPの抽出
例5の実験を、本発明の抽出剤とは異なる界面活性剤および抽出作業において通常用いられる他の化合物を用いて繰り返す。実験Cにおいては、1μlの1.0x10−4MのATP溶液を瓶および100%コントロールに入れ、実験Dにおいては、5μlの1.0x10−4MのATP溶液を瓶および100%コントロールに入れる。結果を下記表7および8にまとめた。
【0037】
【表10】

【0038】
【表11】

これらの結果は、本発明の抽出剤と異なる界面活性剤は、親水性化合物の疎水性マトリクスからの抽出について、はるかに不適であることを示している。
リン脂質、アニオン性界面活性剤およびこれら同士の混合物または非イオン性界面活性剤との混合物を用いることによって、優れた抽出効率が得られることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の手順を示している。
【図2】ケロセンの抽出物における、本発明の抽出方法を用いたバイオマスの測定の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性液体マトリクス中に拡散または分散した親水性化合物の抽出および濃縮の方法であって、以下の工程を含むもの。
a)疎水性液体のサンプルの提供;
b)水性の捕捉溶液として少なくとも1種の抽出剤を含有するものの、該サンプルへの添加;
c)該サンプルと該捕捉溶液の完全な混合;
d)水相のサンプル相からの分離;
e)前記水相における前記化合物の測定。
【請求項2】
少なくとも1種の抽出剤を含有する水性の捕捉溶液であって、該捕捉溶液中の該抽出剤は、疎水性液体マトリクスから抽出された親水性化合物の収量を向上せしめる、前記捕捉溶液。
【請求項3】
抽出剤の選択が、両性リン脂質またはアニオン性リン脂質およびアニオン性界面活性剤からなる群からなされる、請求項2に記載の捕捉溶液。
【請求項4】
抽出剤がレシチンである、請求項3に記載の捕捉溶液。
【請求項5】
2種以上の抽出剤を含有する、請求項2〜4のいずれかに記載の捕捉溶液。
【請求項6】
抽出剤と非イオン性界面活性剤とを含有する、請求項2〜5のいずれかに記載の捕捉溶液。
【請求項7】
水相の可視性を良好にする量の水溶性染料を含有する、請求項2〜6のいずれかに記載の捕捉溶液。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の捕捉溶液を含む、親水性化合物を疎水性液体マトリクスから抽出し、該親水性化合物を検出するための反応キット。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−502967(P2007−502967A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523537(P2006−523537)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007290
【国際公開番号】WO2005/018773
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフトング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】