疎水性物質内包型粒子、及び医薬用組成物
【課題】疎水性物質の放出量を簡便に調整可能な疎水性物質内包型粒子を提供する。
【解決手段】本発明に係る疎水性物質内包型粒子1は、疎水性物質6と、疎水性物質6を内包する会合型粒子2とを備え、会合型粒子2は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー10及び両親媒性無端状ポリマー20を主成分とした会合体3を形成し、会合体3は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体3が複数集合した凝集体4を形成するものである。
【解決手段】本発明に係る疎水性物質内包型粒子1は、疎水性物質6と、疎水性物質6を内包する会合型粒子2とを備え、会合型粒子2は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー10及び両親媒性無端状ポリマー20を主成分とした会合体3を形成し、会合体3は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体3が複数集合した凝集体4を形成するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性物質内包型粒子、及び医薬用組成物に関する。より詳細には、疎水性物質を放出可能な疎水性物質内包型粒子及び医薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性高分子、及び疎水性高分子とから成るブロック共重合体は、水系媒体中でミセルやベシクルなどの会合体を形成することが知られている。このような会合体は、水系媒体中で疎水部が内側に配置されるように自己会合し、コアシェル構造を形成する。そして、コアシェル構造の内部の疎水性領域に、抗ガン剤、眼疾患の治療薬、ポリペプチド系薬物などの様々な疎水性薬物を安定かつ効率的に内包し、薬物運搬体として機能する(例えば、特許文献1〜5、非特許文献1)。特許文献5においては、pH値の変化により薬物放出制御が可能な両親媒性ブロック共重合体が開示されている。なお、非特許文献2については、後述する実施形態において引用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199590号公報
【特許文献2】特開2005−8614号公報
【特許文献3】特開2005−336402号公報
【特許文献4】特開平6−107565号公報
【特許文献5】特開2006−188699号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Otsuka, et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 2003, 55巻, 403頁
【非特許文献2】Y. Tezuka, et al., Macromolecules, 2008, 41, 7898-7903頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、DDS(Drug Delivery System)分野においては、生活の質(QOL)の向上や薬の副作用を低減させる観点から、薬物放出量を制御する技術が求められている。しかしながら、上述のブロック共重合体を用いる場合の最適な薬物放出量は、薬物の種類、治療部位、若しくは治療目的に応じて変動し得る。従って、簡便な方法で薬物放出量を調整できる技術が求められていた。
【0006】
薬物放出量を調整する方法として、薬物を内包させる疎水性ユニットの分子組成を変更する方法が考えられる。この方法によれば、薬物と疎水性ユニットとの相性、薬物の封入率を検討し直したり、毒性試験や安全性試験などの臨床応用に向けた各種試験も新たに実施したりする必要がある。このため、現実的な手法とは言い難かった。
【0007】
薬物放出量を調整する別の方法として、分子量を変更する方法も考えられる。しかしながら、分子量が大きすぎると高分子ミセルのサイズも大きくなり、肝臓や腎臓に分布する細網内皮系に捕捉されてしまい、血中を長時間循環することができない。一方、分子量が小さすぎると安定性が低くなり薬物を高分子ミセル内に長時間担持することができなくなるほか、腎臓から排出されてしまうため、やはり血中を長時間循環することができなくなってしまう。このため、分子量を調整する方法も、有効な手法とは言えなかった。
【0008】
薬物放出量を調整する別の方法として、硫酸アンモニウムや塩化ナトリウムなどの添加塩の濃度を制御したり、水溶液中における濃度を制御したりする方法も考えられる。しかしながら、現実には生体内で薬物運搬体の濃度や添加塩濃度を一定に保つことは難しく、有効な方法とは言えなかった。
【0009】
なお、上記においては、高分子ミセルをDDSに用いる場合の課題について述べたが、薬物等を内包させ、放出量を制御したい粒子全般において同様の課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、疎水性物質の放出量を簡便に調整可能な疎水性物質内包型粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に基づいて鋭意検討を重ねた結果、以下の態様で上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、疎水性物質と、前記疎水性物質を内包する会合型粒子とを備え、前記会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性鎖状ポリマーと、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性無端状ポリマーとを主成分とし、前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーが混在した会合体を形成し、前記会合体は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体が複数集合した凝集体を形成するものである。
【0012】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子によれば、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とする会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、疎水性物質の放出量を調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、会合体から凝集体に形成する温度を調整することができるためである。
【0013】
本発明に係る医用組成物は、前記疎水性物質が薬物であり、上記態様の疎水性物質内包型粒子を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、疎水性物質の放出量を簡便に調整可能な疎水性物質内包型粒子を提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明に係る両親媒性鎖状ポリマーの一例を示す模式図。
【図1B】本発明に係る両親媒性無端状ポリマーの一例を示す模式図。
【図2】本発明に係る会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図3】本発明に係る疎水性物質内包型粒子の疎水性物質の放出の一例を示す説明図。
【図4A】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4B】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4C】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4D】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4E】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4F】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4G】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4H】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図5A】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5B】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5C】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5D】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5E】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5F】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5G】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図6】両親媒性鎖状ポリマーの会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図7】両親媒性無端状ポリマーの会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図8】会合型粒子A〜Eについて、温度に対して透過率をプロットした図。
【図9A】L1ポリマーの濃度を変更した場合の、温度に対する透過率を示す図。
【図9B】C1ポリマーの濃度を変更した場合の、温度に対する透過率を示す図。
【図10】会合型粒子A,B、Dについて、塩濃度に対する透過率をプロットした図。
【図11A】疎水性物質内包型粒子AのAFM像。
【図11B】疎水性物質内包型粒子BのAFM像。
【図11C】疎水性物質内包型粒子CのAFM像。
【図12】疎水性物質内包型粒子A、B、Cについて、ピレン放出率の時間依存性をプロットした図。
【図13】疎水性物質内包型粒子Dについて、20℃、37℃、40℃の各温度に対するピレン放出率の時間依存性をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した発明の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の発明も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各要素のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。
【0017】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、疎水性物質と、疎水性物質を内包する会合型粒子とを備えるものである。会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とするものである。換言すると、会合型粒子は、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーがそれぞれ単独で会合型粒子を形成しているものではなく、両者が混在した構成となっている。この会合型粒子は、水系媒体中、所定の温度を境に低温側で会合体を形成し、高温側で会合体が複数集合した凝集体を形成する。
【0018】
水系媒体は、ゲル状のものを用いてもよいし、粘性の低いものを用いてもよい。水系媒体には、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの他、保存剤、pH調整剤などが溶解、若しくは分散していてもよい。
【0019】
図1Aに、本発明に係る両親媒性鎖状ポリマーの一例の模式図を、図1Bに、本発明に係る両親媒性無端状ポリマーの一例の模式図を示す。両親媒性鎖状ポリマー10は、線状の親水性ユニット11の両末端に線状の疎水性ユニット12を有するトリブロック構造となっている。両親媒性無端状ポリマー20は、単環状構造となっており、親水性ユニット21と疎水性ユニット22のジブロック構造からなる。
【0020】
親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とする会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、疎水性物質の放出量を調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、会合体から凝集体に形成する温度を調整することができるためである。
【0021】
図2は、本発明に係る会合型粒子2の会合体3と凝集体4の一例を示した模式図である。同図においては、説明の便宜上、会合体3及び凝集体4それぞれについて1つ図示する。会合体3は、図2の上図に示すような、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20により構成されたミセル構造となっている。なお、図2の会合体3においてはポリマーが6個集合したものを示しているが、一例であって、集合するポリマーの数は限定されない。会合体3を形成するポリマーの数は、数個程度でもよいし、数千個程度であってもよい。会合体としては、ミセルの他、ベシクルなどでもよい。会合体3は、水系媒体中で溶解又は分散している。会合体3は、図2の上図に示すように疎水性ユニットをコアの中心側に、親水性ユニットを外側に向けた配置となっている。
【0022】
凝集体4は、図2の下図に示すような会合体3が複数凝集した粒子となっている。会合型粒子2は、図2に示すように、所定の温度を境に会合体3と凝集体4が可逆的に変化する。なお、会合体3から凝集体4に変化する温度と、凝集体4から会合体3に変化する温度は、必ずしも一致していなくてもよい。
【0023】
会合体3は、高温になるにつれて高分子鎖の運動性を増し、両親媒性鎖状ポリマー10の疎水性ユニット12の相互作用が変化することによって、複数の会合体3同士で凝集体4を形成する。
【0024】
会合体3は、内部に空隙5が形成されている。この空隙5に、薬物等の疎水性物質が内包される。図3は、本発明に係る疎水性物質内包型粒子の疎水性物質の放出の一例を示す模式図である。疎水性物質内包型粒子1は、図3の上図に示すように、会合体3の空隙5内に疎水性物質6が内包されている。図3の下図に示すように、会合体3が複数集合して凝集体4を形成する。会合体3から凝集体4への形状変換が、内包されていた疎水性物質6の放出を促進する。
【0025】
換言すると、会合体3から凝集体4への変換に伴う形状変換を、疎水性物質の放出量調整に利用することができる。この会合体3から凝集体4への変換温度は、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を変えることにより調整することができる。従って、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を変えることにより内包する疎水性物質6の放出量を調整することができる。
【0026】
会合体3、凝集体4を形成する両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20の組み合わせは、特に制限されないが、これらのポリマーにおいて、疎水性ユニット又は/及び親水性ユニットが同一であることが好ましい。ここで「疎水性ユニットが同一」若しくは「親水性ユニットが同一」とは、会合状態に影響を与えないような構造上の細部の相違しているものも含むものとする。例えば、分子量の差異や置換基の違いのような構造上の相違であって、会合状態に影響を与えないものは、疎水性ユニットが同一、若しくは親水性ユニットが同一であるものとする。
【0027】
会合体3の形成にあたって、より会合形成に大きな影響を及ぼす疎水性ユニットが同一であることがより好ましく、疎水性ユニット及び親水性ユニットの両者が、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20において、共通していることがさらに好ましい。
【0028】
特に好ましくは、両親媒性鎖状ポリマー10を両親媒性無端状ポリマー20の前駆体とすることである。このようにすることにより、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20の混合性を容易に高めることが可能となる。
【0029】
両親媒性鎖状ポリマー10の好ましい例としては、親水性ユニットがポリエチレンオキシドを含む下記一般式 (1)
【化1】
(式中、nは10〜500の整数を表す。)で示されるポリエチレンオキシドの繰り返し単位からなる親水性連鎖と、下記一般式 (2)
【化2】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表し、mは1〜500の整数を表す。)で示される繰り返し単位からなる疎水性連鎖とからなる鎖状高分子化合物を挙げることができる。
【0030】
両親媒性無端状ポリマー20の好ましい例としては、下記一般式(3)
【化3】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基、もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表す。mは1〜500の整数、nは10〜500の整数を表す。R3、R4は同一もしくは異なって、直鎖状、分岐状、または環状の低分子鎖を表す。)で表される各繰り返し単位を含む環状高分子化合物を挙げることができる。
【0031】
また、両親媒性無端状ポリマー20の別の好ましい例としては、
下記一般式(4)
【化4】
(式中、R1、R2は同一もしくは異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Z1、Z2は同一もしくは異なって、水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表す。p、qは同一もしくは異なって、1〜500の整数を表し、nは10〜500の整数を表す。R3、R4、R5は同一もしくは異なって、直鎖状、分岐状、または環状の低分子鎖を表す。)で表される各繰り返し単位を含む環状高分子化合物を挙げることができる。
【0032】
両親媒性鎖状ポリマー10は、親水性高分子と疎水性高分子をブロック共重合することにより容易に得ることができる。例えば、ブロック共重合体の原料となる1種類若しくは2種類以上の単量体と重合開始剤とを混合し、加熱等の条件下、重合反応を進行させることにより得ることができる。1種類の単量体を用いて重合反応を行った場合には、別のモノマーを新たに添加することによりブロック共重合体を合成することもできる。重合反応は、重合溶媒中で行うことも可能である。重合開始剤としては、公知の開始剤を制限なく用いることができる。さらに重合開始剤として、高分子開始剤を用いることもできる。高分子開始剤を用いる場合には、1種類の単量体のみを重合するだけでブロック共重合体を得ることができる。
【0033】
両親媒性無端状ポリマーは、ブロック共重合体中の分子内の2点に共有結合を生成する官能基を導入し、これらの官能基を結合せしめることにより行う方法が簡便である。例えば、両親媒性無端状ポリマー20の原料となる両親媒性鎖状ポリマー10の分子鎖の両端にアリル基を導入した例では、溶媒中、希釈条件及びグラブス触媒存在下、両端の共有結合固定がなされ、効率的に環状高分子構造を有する高分子化合物が生成可能である。その他、環状高分子を得る公知の方法を制限なく適用することができる。
【0034】
両親媒性鎖状ポリマーは、少なくともポリマー末端が鎖状となっており、親水性ユニットと疎水性ユニットを備え、上述した両親媒性無端状ポリマーとの組み合わせ条件を満足するものであれば特に限定されない。好適な例として、図1Aの構成の他、図4A〜図4Hの構成が挙げられる。図4Aの両親媒性鎖状ポリマー10aは、線状の親水性ユニット11aの一端部に線状の疎水性ユニット12aを有する構造である。図4Bの両親媒性鎖状ポリマー10bは、3本の鎖状ポリマーからなるものであり、1本の線状の親水性ユニット11bの一端部から2本の疎水性ユニット12bが分岐する構造となっている。
【0035】
図4Cの両親媒性鎖状ポリマー10cは、概ね中心位置から、複数の親水性ユニット11cと複数の疎水性ユニット12cが分岐した星型高分子構造を有するものである。図4Dの両親媒性鎖状ポリマー10dは、1本の親水性ユニット11dの両末端から、それぞれ2本の疎水性ユニット12dが分岐した構造となっている。図4Eの両親媒性鎖状ポリマー10eは、1本の親水性ユニット11eから、複数の疎水性ユニット12eが分岐した構造となっている。図4Fの両親媒性鎖状ポリマー10fは、コア部に分岐した親水性ユニット11fを具備し、末端部に分岐した疎水性ユニット12fが設けられた構造となっている。
【0036】
図4Gの両親媒性鎖状ポリマー10gは、1本の疎水性ユニット13gから、複数の側鎖状の疎水性ユニット12g、及び前述の1本の疎水性ユニット13gから、ランダムな位置に側鎖状に形成された複数の親水性ユニット有する構造となっている。図4Hの両親媒性鎖状ポリマー10hは、1本の疎水性ユニット13hの特定のブロックから、側鎖状に形成された複数の疎水性ユニット12h、及び1本の疎水性ユニット13hの前記ブロックとは異なるブロックにおいて、側鎖状に形成された複数の親水性ユニット11hを有する構造となっている。なお、図4A〜図4Hは、一例であって、種々の変形が可能であることは言うまでもない。例えば、両親媒性鎖状ポリマーは、少なくとも末端に疎水性ユニットが形成されていれば、他の部分に環状構造等の鎖状構造以外の要素が含まれていてもよい。
【0037】
両親媒性無端状ポリマーは、無端状のポリマーであり、親水性ユニットと疎水性ユニットを備え、上述した両親媒性鎖状ポリマーとの組み合わせ条件を満足するものであれば特に限定されない。好適な例として、図1Bの構成の他、図5A〜図5Gの構造が挙げられる。
【0038】
図5Aの両親媒性無端状ポリマー20aは、親水性ユニット21aの環構造と疎水性ユニット22aの環構造が結合した2環状構造となっている。図5Bの両親媒性無端状ポリマー20bは、親水性ユニット21bと疎水性ユニット22bからなる環構造が2つ結合した2環構造となっている。図5Cの両親媒性無端状ポリマー20cは、直線状の疎水性ユニット22cの両末端に環構造の親水性ユニット21cが結合した構造となっている。図5Dの両親媒性無端状ポリマー20dは、図5Cの構造にさらに、直線状の疎水性ユニットと環状の親水性ユニットが追加された構造となっている。すなわち、2つの直線状の疎水性ユニット22dが、3つの環構造の親水性ユニット21dの間に配設された構造となっている。
【0039】
図5Eの両親媒性無端状ポリマー20eは、3つの環構造の親水性ユニット21eと、この環構造の親水性ユニット21eから延在され、一端部を互いに結合させた線状の疎水性ユニット22eを有する構造となっている。さらに、図5Fの両親媒性無端状ポリマー20fのように、環状部と鎖部からなる親水性ユニット21fと環状構造の疎水性ユニット22fの構造であってもよい。また、図5Gの両親媒性無端状ポリマー20gのように、鎖状の親水性ユニット21gの末端に結合された複数の環構造の疎水性ユニット22gを備える構成であってもよい。なお、図5A〜図5Gは、一例であって、種々の変形が可能であることは言うまでもない。例えば、カテナン状の構造の環構造であってもよい。また、架橋構造などを備えていてもよい。
【0040】
なお、上記一般式(1)〜(4)の構造は、図1A、図1Bの構造に限定されず、図4A〜図4G,図5A〜図5G等を含めた種々の構造に対しても好適に適用可能である。
【0041】
両親媒性鎖状ポリマーとして、図1Aに示すようなトリブロック構造を用いることにより、同一セグメント長さの図4Aのジブロック構造の疎水性ユニットのものよりも、ミセル等の会合型粒子の分子交換の速さが遅い。これは、一方の疎水性ユニットがミセル等の会合型粒子のコアから出て、さらにもう一方の疎水性ユニットもコアから出るプロセスが必要なためである。従って、トリブロック構造はジブロック構造に比して会合型粒子の安定性が高いという優位点がある。このため、本発明に係る疎水性物質内包型粒子に適用する両親媒性鎖状ポリマーの特に好ましい形状として、図1Aに示すような、線状の親水性ユニットと、親水性ユニットの両末端に結合された線状の疎水性ユニットからなるトリブロック構造を挙げることができる。
【0042】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子をDDS等の生体内利用を目的とする場合には、毒性による有害事象回避の観点から、会合型粒子2が生体適合性材料により構成されることが好ましい。少なくとも、両親媒性鎖状ポリマー、両親媒性無端状ポリマーの表層部が生体適合性材料となるように設計することが好ましい。両親媒性鎖状ポリマー、両親媒性無端状ポリマーの親水性ユニットをいずれも生体適合性材料にすることにより、容易に会合体3の生体適合性を付与することができる。
【0043】
会合型粒子2の粒径は、特に限定されないが、DDS等の製剤用途に用いる場合には、10nm以上、100nm以下とすることが好ましい。会合型粒子2の平均粒子径を10nm以上とすることにより、腎臓からの排出を回避することができる。また、100nm以下とすることにより、肝臓や腎臓に分布する細網内皮系による捕捉を回避することができる。
【0044】
疎水性物質6は、特に限定されないが、DDSをはじめとする各種製剤として適用する場合には、薬物である。薬物は、広義の治療、診断、予防等の目的に適用される物質全般を含み、特に限定されない。薬物の一例としては、抗ガン剤、眼疾患の治療薬、ポリペプチド系薬物、遺伝子治療薬等の狭義の治療薬の他、造影剤等の診断薬が挙げられる。また、疎水性物質6は、化粧等の医薬部外品、食料品用の保存料や着色剤、塗料等の各種材料などでもよい。疎水性物質6には、目的物質の他、保存剤、安定剤や媒体等が含まれていてもよい。また、会合型粒子2内に取り込みが可能であれば、疎水性を示さない物質が含まれていてもよい。
【0045】
上記のように構成された会合型粒子2は、薬物などを内包させ、生体内などの治療や診断に適用することができる。薬物を内包させた疎水性物質内包型粒子1を含む薬を注射により血液中に注入して患部に集積させた後に、必要に応じて患部を、会合体3から凝集体4に変換する変換温度T以上に温めて、薬物である疎水性物質6の放出を促進させてもよい。これにより、病巣部である患部に、効率的に薬物を送達することができる。このため、治療の効果の飛躍的向上が期待できる。また、患部領域を温める方式を採用することにより、治療部以外で薬物が放出される恐れを最小限に留めることができる。従って、毒性が強く、副作用により薬物の投与を制限せざるを得なかった治療などに有用である。
【0046】
DDSに用いる場合の生物種、標的細胞の種類、標的とする臓器等は、特に限定されない。患部の加温方法は、ハイパーサーミアなどの公知の方法を制限なく利用することができる。
【0047】
次に、本発明に係る疎水性物質内包型粒子が、会合体3から凝集体4へ変換する変換温度Tを簡便に調整可能である理由について説明する。
【0048】
図6は、両親媒性鎖状ポリマー10のみからなる会合体、及び凝集体の一例を示した模式図である。会合体103は、図6の上図に示すような両親媒性鎖状ポリマー10により構成されたミセル構造となっている。凝集体104は、図6の下図に示すような両親媒性鎖状ポリマー10からなる会合体が凝集した粒子となっている。会合型粒子102は、図6に示すように、変換温度T(L)を境に会合体103と凝集体104が可逆的に変化する。
【0049】
図7は、両親媒性無端状ポリマー20のみからなる会合体、及び凝集体の一例を示した模式図である。会合体203は、図7の上図に示すような、両親媒性無端状ポリマー20により構成されたミセル構造となっている。凝集体204は、図7の下図に示すような両親媒性無端状ポリマー20が凝集した粒子となっている。会合型粒子202は、図7に示すように、変換温度T(C)を境に会合体203と凝集体204が可逆的に変化する。
【0050】
変換温度T(L)に適合する場合には、図6に示す会合型粒子102を用いればよい。また、薬物放出量が変換温度T(C)に適合する場合には、図7に示す会合型粒子202を用いればよい。また、この変換温度T(L)、T(C)は、水系媒体中の濃度を変更したり、塩濃度等の添加剤を変更したりすることにより調整することができるが、これらの方法による変換温度の調整は限定される。すなわち、従来、変換温度T(L)、T(C)の間の温度範囲において、自在に温度調整することができなかった。
【0051】
一方、本発明によれば、変換温度の異なる両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーを混合させ、かつこれらが混在した会合型粒子を用いることにより、広い温度範囲で変換温度Tを調整することが可能となる。換言すると、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーという形状の違いに起因して、これら2つの変換温度を大きく異ならせることが容易となる。そして、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマー単独の変換温度T(L)と、両親媒性無端状ポリマー単独の変換温度T(C)の間で、その混合割合に応じて容易に変換温度Tを調整することができる。無論、濃度変更や塩濃度等の添加剤などを併用して温度調整することも可能である。
【0052】
例えば、図6に示す会合型粒子102の変換温度、図7に示す会合型粒子202の変換温度Tが、T(L)<T(C)の場合、この温度範囲内において、変換温度Tを両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて変更することができる。
【0053】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、塩析する濃度を自在に制御可能であるという特徴を有する。通常、高分子ミセル溶液に塩を添加することにより、変換温度Tが低下する。これは、塩は、コロイドを凝集(塩析)作用により沈殿しやすくなるためである。このため、塩濃度を制御することにより、変換温度Tを微調整することが可能となる。
【0054】
塩析温度は、分子構造によってほぼ決定するが、両親媒性無端状ポリマーと両親媒性鎖状ポリマーを混合させることにより、塩による塩析濃度C1濃度を、両親媒性鎖状ポリマーの塩析濃度C2、両親媒性無端状ポリマーの塩析濃度C3の範囲内でチューニングすることが可能となる。
【0055】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、両親媒性無端状ポリマーを用いることにより、塩に対する安定性が極めて向上することを突き止めた。従って、本発明に係る疎水性物質内包型粒子1の塩に対する安定性を、両親媒性鎖状ポリマーからなる疎水性物質内包型粒子を用いる場合に比して向上させることが可能となる。これにより、塩濃度が変動し得る用途、例えば、DDSなどの生体内で適用する場合に、塩濃度に起因する凝集体への変換を阻止することが可能となるという優れた効果を有する。
【0056】
次に、疎水性物質内包型粒子の製造方法の一例について説明する。まず、会合型粒子2を製造する。製造方法は、両親媒性鎖状ポリマー10、両親媒性無端状ポリマー20をそれぞれ合成し、これらを所望の変換温度Tに応じて、所定の割合、水系媒体中に溶解、又は分散させることにより得ることができる。
【0057】
次いで、会合体3内に疎水性物質6を内包させる。この工程は、公知の技術を制限なく用いることができる。例えば、会合体3が溶解した水系媒体に、揮発性溶媒中に溶解させた疎水性物質を混合させ、揮発性溶媒を留去することにより容易に調製することができる。
【0058】
本発明によれば、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子2を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量を、両親媒性鎖状ポリマーのみからなる会合型粒子を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量と、両親媒性無端状ポリマーのみからなる会合型粒子を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量の間に調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子の会合体と凝集体との変換温度Tを、両親媒性鎖状ポリマーのみからなる疎水性物質内包型粒子の変換温度T(L)と、両親媒性無端状ポリマーのみからなる疎水性物質内包型粒子の変換温度T(C)の間に調整することができるためである。すなわち、会合体から凝集体に変換する温度を調整することによって、疎水性物質6の放出量を調整することが可能となる。その結果、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を調整することによって、薬物放出量を容易に調整することが可能となる。
【0059】
両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子の放出量は、温度に応じて放出量を制御できる。従って、ハイパーサーミアなどの加温システムなどと併用することによって、患部において薬物放出量を高めたりすることが可能となる。本発明は、例えば、細胞培養や微生物の培養などにおいて、温度に対して薬物放出量をコントロールしたい用途などにも好適である。
【0060】
なお、上記疎水性物質内包型粒子は、水系媒体と、両親媒性鎖状ポリマーと、両親媒性無端状ポリマーを主成分とすることを説明したが、保存剤、金属微粒子等の添加剤を適宜添加することが可能である。
【0061】
以上説明した本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。医用分野にとどまらず、電子材料分野、触媒化学分野、材料化学分野等において広範に適用することができる。
【0062】
≪実施例≫
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。本実施例に係るポリマーは、例えば、非特許文献2に開示された方法により容易に合成することができる。
【0063】
(両親媒性鎖状ポリマーの合成)
両末端に2−ブロモイソブチリル基を持つポリエチレンオキシド(400mg)、ブチルアクリレート(3mL)、臭化銅(I)(20mg)、及び4,4'−ジノニル−2,2'−ビピリジル(160mg)を混合し、90℃で3時間、原子移動ラジカル重合を行った。その後、アリルトリブチルスズ(1.2mL)を添加し、さらに90℃で16時間攪拌することにより、直鎖状高分子構造を有するポリ(ブチルアクリレート−b−エチレンオキシド−b−ブチルアクリレート)(以降、「L1ポリマー」とも称する)を235mg得た。
【0064】
(両親媒性環状ポリマーの合成)
上記L1ポリマー(100mg)、グラブス触媒第一世代(20mg)を200mLの塩化メチレンに溶解し、48時間の加熱還流を行うことにより、環状高分子構造を有するポリ(ブチルアクリレート−b−エチレンオキシド)(以降、「C1ポリマー」とも称する)を64mg得た。
【0065】
次いで、テトラヒドロフランにL1ポリマーを溶解し、これに水を加えることで自己組織化を行い、その後、テトラヒドロフランを減圧留去によって除去することにより、0.5mg/mL水溶液を調製し、会合型粒子Aを得た。また、テトラヒドロフランにC1ポリマーを溶解し、これに水を加えることで自己組織化を行い、その後、テトラヒドロフランを減圧留去によって除去することにより、0.5mg/mL水溶液を調製し、会合型粒子Bを得た。
【0066】
会合型粒子A(L1ポリマーの0.5mg/mL水溶液)と、会合型粒子B(C1ポリマーの0.5mg/mL水溶液)とを、3:1の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子C」と称す)を調製した。
【0067】
会合型粒子Aと、会合型粒子Bとを1:1の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子D」と称す)を調製した。
【0068】
会合型粒子Aと、会合型粒子Bとを1:3の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子E」と称す)を調製した。
【0069】
会合型粒子A〜会合型粒子Eについて、分光光度計を用いて温度に対する可視光透過率を600nmで観察した。その結果を図8に示す。会合体から凝集体への変換は、透過率変化を追跡することにより確認することができる。
【0070】
ここでは、600nmにおいて、透過率が5%低下する量を会合体から凝集体に変換する変換温度Tと定義する。会合型粒子A(L1ポリマー)の変換温度Tは24℃、会合型粒子B(C1ポリマー)の変換温度Tは74℃であった(図8参照)。また、会合型粒子Cの変換温度Tは、38℃であり、会合型粒子Dの変換温度Tは、48℃であった。また、会合型粒子Eの変換温度Tは63℃であった。
【0071】
会合型粒子Aの変換温度T(L)24℃に対し、会合型粒子Bの変換温度Tが74℃となった理由は、分子鎖の末端の運動性が、L1ポリマーの方がC1ポリマーに比して高いことに起因するものと考えられる。
【0072】
L1ポリマーとC1ポリマーを混合した会合型粒子C〜Eにおいては、いずれも変換温度Tが1つ観測された。仮に、L1ポリマーのミセルとC1ポリマーのミセルがそれぞれ独立に形成されるならば、それぞれの変換温度Tが観測されるはずである。しかしながら、実際には、図8に示すように、変換温度Tが1つのみ観測された。これは、会合型粒子D〜Eの会合型粒子において、L1ポリマーとC1ポリマーを主成分とする会合体が形成されていることを強く支持するものである。
【0073】
また、会合型粒子C〜Eにおいて、C1ポリマーとL1ポリマーの混合割合に応じて変換温度Tを、L1ポリマーの変換温度T(L)、C1ポリマーの変換温度T(C)の範囲内において、容易に設計することが可能であることがわかる。
【0074】
図9Aに、L1ポリマーの溶液濃度を変えた時の温度に対する可視光透過率を600nmで観測した結果を、図9BにC1ポリマーの溶液濃度を変えた時の温度に対する可視光透過率を600nmで観測した結果を示す。図9A,図9Bに示すように、L1ポリマー単独、C1ポリマー単独でも、溶液濃度を変更することにより、変換温度Tを調整できることがわかる。しかしながら、その調整範囲は、僅かである。これに対し、図8に示すように、会合型粒子C〜Eによれば、大きな範囲で変換温度Tを調整することが可能である。溶液濃度を調整することにより、さらに変換温度Tを微調整可能である。
【0075】
図10に、会合型粒子A、会合型粒子B,及び会合型粒子Dについて、塩化ナトリウムNaClを添加していった際の可視光透過率を600nmで観測した結果を示す。会合型粒子Aの塩析濃度が5mg/mLであったのに対し、会合型粒子Bの塩析濃度は300mg/mLであり、およそ60倍の塩濃度安定性を示すことがわかる。また、会合型粒子Dの塩析濃度は200mg/mLであり、塩濃度安定性は、会合型粒子Aの塩濃度安定性より高くなることがわかる。
【0076】
(疎水性物質内包型粒子の調製)
L1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,5mL)を十分に乾燥させた。次いで、これにピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。その後、減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次いで、蒸留水を加え溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子A」と称する)を調製した。疎水性物質内包型粒子Aのピレンの封入率は26%であった。
【0077】
C1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,5mL)を十分に乾燥させた。次いで、これにピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。その後、減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次いで、蒸留水を加えて溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子B」と称する)を作製した。疎水性物質内包型粒子Bのピレンの封入率は51%であった。
【0078】
L1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,2.5mL)とC1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,2.5mL)とを混合した後に十分に乾燥した。ピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。全て加え終わったところで減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次に、蒸留水を加え溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子C」と称する)を作製した。疎水性物質内包型粒子Cのピレンの封入率は10%であった。
【0079】
(疎水性物質内包型粒子A〜Cの構造評価)
図11Aに、疎水性物質内包型粒子AのAFM像を、図11Bに疎水性物質内包型粒子BのAFM像を、図11Cに疎水性物質内包型粒子CのAFM像を示す。サンプルは、疎水性物質内包型粒子A(0.5mg/mL),疎水性物質内包型粒子B(0.5mg/mL)及び疎水性物質内包型粒子C(0.5mg/mL)をシリコン基板上に滴下し、スピンコーティングすることにより作製した。図11A〜図11Cより、それぞれ100nm程度の構造体が確認され、ミセルを形成していることがわかる。
【0080】
(疎水性物質内包型粒子A〜Cのピレン放出率の評価)
純水で洗浄処理したヴィスキングチューブ(分画分子量12000〜14000)にメンブレンフィルターを通じて濾過した疎水性物質内包型粒子A〜C(5mL)を加えた。40℃で透析を行い、UVにより放出率の算出を行った。
【0081】
図12は、疎水性物質内包型粒子A〜Cについて、40℃で透析を行った際のピレンの放出率を時間に対してプロットしたものである。例えば、300分後におけるピレン放出率は、疎水性物質内包型粒子Aにおいては81%、疎水性物質内包型粒子Bにおいては56%、疎水性物質内包型粒子Cにおいては73%という結果が得られた。換言すると、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子は、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合比率を変えることにより、疎水性物質内包型粒子Aと疎水性物質内包型粒子Bの放出率の差である、概ね25%の幅で放出量を制御できることがわかる。
【0082】
図13は、疎水性物質内包型粒子Cについて、20℃、37℃、40℃で透析を行った際のピレンの放出率を時間に対してプロットしたものである。例えば、300分後におけるピレンの放出率は、20℃の場合においては24%、37℃の場合においては51%、40℃の場合においては73%という結果が得られた。換言すると、40℃においては、20℃の場合の概ね3倍の放出率を実現できることがわかる。また、37℃に対しては、概ね2倍の放出率を実現できることがわかる。
【0083】
すなわち、L1ポリマーとC1ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子Cの放出量は、温度に応じて放出量を制御できることがわかる。従って、ハイパーサーミアなどの加温システムなどと併用することによって、患部において薬物放出量を高めたりすることが可能となる。また、細胞培養、微生物の培養地などにおいて、温度に対して薬物放出量をコントロールしたい用途などに好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 疎水性物質内包型粒子
2 会合型粒子
3 会合体
4 凝集体
5 空隙
6 疎水性物質
10 両親媒性鎖状ポリマー
11 親水性ユニット
12 疎水性ユニット
20 両親媒性無端状ポリマー
21 親水性ユニット
22 疎水性ユニット
102 会合型粒子
103 会合体
104 凝集体
202 会合型粒子
203 会合体
204 凝集体
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性物質内包型粒子、及び医薬用組成物に関する。より詳細には、疎水性物質を放出可能な疎水性物質内包型粒子及び医薬用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
親水性高分子、及び疎水性高分子とから成るブロック共重合体は、水系媒体中でミセルやベシクルなどの会合体を形成することが知られている。このような会合体は、水系媒体中で疎水部が内側に配置されるように自己会合し、コアシェル構造を形成する。そして、コアシェル構造の内部の疎水性領域に、抗ガン剤、眼疾患の治療薬、ポリペプチド系薬物などの様々な疎水性薬物を安定かつ効率的に内包し、薬物運搬体として機能する(例えば、特許文献1〜5、非特許文献1)。特許文献5においては、pH値の変化により薬物放出制御が可能な両親媒性ブロック共重合体が開示されている。なお、非特許文献2については、後述する実施形態において引用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−199590号公報
【特許文献2】特開2005−8614号公報
【特許文献3】特開2005−336402号公報
【特許文献4】特開平6−107565号公報
【特許文献5】特開2006−188699号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】H.Otsuka, et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 2003, 55巻, 403頁
【非特許文献2】Y. Tezuka, et al., Macromolecules, 2008, 41, 7898-7903頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、DDS(Drug Delivery System)分野においては、生活の質(QOL)の向上や薬の副作用を低減させる観点から、薬物放出量を制御する技術が求められている。しかしながら、上述のブロック共重合体を用いる場合の最適な薬物放出量は、薬物の種類、治療部位、若しくは治療目的に応じて変動し得る。従って、簡便な方法で薬物放出量を調整できる技術が求められていた。
【0006】
薬物放出量を調整する方法として、薬物を内包させる疎水性ユニットの分子組成を変更する方法が考えられる。この方法によれば、薬物と疎水性ユニットとの相性、薬物の封入率を検討し直したり、毒性試験や安全性試験などの臨床応用に向けた各種試験も新たに実施したりする必要がある。このため、現実的な手法とは言い難かった。
【0007】
薬物放出量を調整する別の方法として、分子量を変更する方法も考えられる。しかしながら、分子量が大きすぎると高分子ミセルのサイズも大きくなり、肝臓や腎臓に分布する細網内皮系に捕捉されてしまい、血中を長時間循環することができない。一方、分子量が小さすぎると安定性が低くなり薬物を高分子ミセル内に長時間担持することができなくなるほか、腎臓から排出されてしまうため、やはり血中を長時間循環することができなくなってしまう。このため、分子量を調整する方法も、有効な手法とは言えなかった。
【0008】
薬物放出量を調整する別の方法として、硫酸アンモニウムや塩化ナトリウムなどの添加塩の濃度を制御したり、水溶液中における濃度を制御したりする方法も考えられる。しかしながら、現実には生体内で薬物運搬体の濃度や添加塩濃度を一定に保つことは難しく、有効な方法とは言えなかった。
【0009】
なお、上記においては、高分子ミセルをDDSに用いる場合の課題について述べたが、薬物等を内包させ、放出量を制御したい粒子全般において同様の課題が生じ得る。
【0010】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、疎水性物質の放出量を簡便に調整可能な疎水性物質内包型粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に基づいて鋭意検討を重ねた結果、以下の態様で上記課題を解決可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、疎水性物質と、前記疎水性物質を内包する会合型粒子とを備え、前記会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性鎖状ポリマーと、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性無端状ポリマーとを主成分とし、前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーが混在した会合体を形成し、前記会合体は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体が複数集合した凝集体を形成するものである。
【0012】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子によれば、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とする会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、疎水性物質の放出量を調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、会合体から凝集体に形成する温度を調整することができるためである。
【0013】
本発明に係る医用組成物は、前記疎水性物質が薬物であり、上記態様の疎水性物質内包型粒子を含むものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、疎水性物質の放出量を簡便に調整可能な疎水性物質内包型粒子を提供することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】本発明に係る両親媒性鎖状ポリマーの一例を示す模式図。
【図1B】本発明に係る両親媒性無端状ポリマーの一例を示す模式図。
【図2】本発明に係る会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図3】本発明に係る疎水性物質内包型粒子の疎水性物質の放出の一例を示す説明図。
【図4A】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4B】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4C】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4D】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4E】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4F】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4G】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図4H】変形例に係る両親媒性鎖状ポリマーの模式図。
【図5A】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5B】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5C】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5D】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5E】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5F】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図5G】変形例に係る両親媒性無端状ポリマーの模式図。
【図6】両親媒性鎖状ポリマーの会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図7】両親媒性無端状ポリマーの会合型粒子の会合体、及び凝集体の一例を示す模式図。
【図8】会合型粒子A〜Eについて、温度に対して透過率をプロットした図。
【図9A】L1ポリマーの濃度を変更した場合の、温度に対する透過率を示す図。
【図9B】C1ポリマーの濃度を変更した場合の、温度に対する透過率を示す図。
【図10】会合型粒子A,B、Dについて、塩濃度に対する透過率をプロットした図。
【図11A】疎水性物質内包型粒子AのAFM像。
【図11B】疎水性物質内包型粒子BのAFM像。
【図11C】疎水性物質内包型粒子CのAFM像。
【図12】疎水性物質内包型粒子A、B、Cについて、ピレン放出率の時間依存性をプロットした図。
【図13】疎水性物質内包型粒子Dについて、20℃、37℃、40℃の各温度に対するピレン放出率の時間依存性をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した発明の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の発明も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。また、以降の図における各要素のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なる。
【0017】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、疎水性物質と、疎水性物質を内包する会合型粒子とを備えるものである。会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とするものである。換言すると、会合型粒子は、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーがそれぞれ単独で会合型粒子を形成しているものではなく、両者が混在した構成となっている。この会合型粒子は、水系媒体中、所定の温度を境に低温側で会合体を形成し、高温側で会合体が複数集合した凝集体を形成する。
【0018】
水系媒体は、ゲル状のものを用いてもよいし、粘性の低いものを用いてもよい。水系媒体には、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの他、保存剤、pH調整剤などが溶解、若しくは分散していてもよい。
【0019】
図1Aに、本発明に係る両親媒性鎖状ポリマーの一例の模式図を、図1Bに、本発明に係る両親媒性無端状ポリマーの一例の模式図を示す。両親媒性鎖状ポリマー10は、線状の親水性ユニット11の両末端に線状の疎水性ユニット12を有するトリブロック構造となっている。両親媒性無端状ポリマー20は、単環状構造となっており、親水性ユニット21と疎水性ユニット22のジブロック構造からなる。
【0020】
親水性ユニットと疎水性ユニットを含む両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーを主成分とする会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、疎水性物質の放出量を調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマー及び両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて、会合体から凝集体に形成する温度を調整することができるためである。
【0021】
図2は、本発明に係る会合型粒子2の会合体3と凝集体4の一例を示した模式図である。同図においては、説明の便宜上、会合体3及び凝集体4それぞれについて1つ図示する。会合体3は、図2の上図に示すような、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20により構成されたミセル構造となっている。なお、図2の会合体3においてはポリマーが6個集合したものを示しているが、一例であって、集合するポリマーの数は限定されない。会合体3を形成するポリマーの数は、数個程度でもよいし、数千個程度であってもよい。会合体としては、ミセルの他、ベシクルなどでもよい。会合体3は、水系媒体中で溶解又は分散している。会合体3は、図2の上図に示すように疎水性ユニットをコアの中心側に、親水性ユニットを外側に向けた配置となっている。
【0022】
凝集体4は、図2の下図に示すような会合体3が複数凝集した粒子となっている。会合型粒子2は、図2に示すように、所定の温度を境に会合体3と凝集体4が可逆的に変化する。なお、会合体3から凝集体4に変化する温度と、凝集体4から会合体3に変化する温度は、必ずしも一致していなくてもよい。
【0023】
会合体3は、高温になるにつれて高分子鎖の運動性を増し、両親媒性鎖状ポリマー10の疎水性ユニット12の相互作用が変化することによって、複数の会合体3同士で凝集体4を形成する。
【0024】
会合体3は、内部に空隙5が形成されている。この空隙5に、薬物等の疎水性物質が内包される。図3は、本発明に係る疎水性物質内包型粒子の疎水性物質の放出の一例を示す模式図である。疎水性物質内包型粒子1は、図3の上図に示すように、会合体3の空隙5内に疎水性物質6が内包されている。図3の下図に示すように、会合体3が複数集合して凝集体4を形成する。会合体3から凝集体4への形状変換が、内包されていた疎水性物質6の放出を促進する。
【0025】
換言すると、会合体3から凝集体4への変換に伴う形状変換を、疎水性物質の放出量調整に利用することができる。この会合体3から凝集体4への変換温度は、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を変えることにより調整することができる。従って、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を変えることにより内包する疎水性物質6の放出量を調整することができる。
【0026】
会合体3、凝集体4を形成する両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20の組み合わせは、特に制限されないが、これらのポリマーにおいて、疎水性ユニット又は/及び親水性ユニットが同一であることが好ましい。ここで「疎水性ユニットが同一」若しくは「親水性ユニットが同一」とは、会合状態に影響を与えないような構造上の細部の相違しているものも含むものとする。例えば、分子量の差異や置換基の違いのような構造上の相違であって、会合状態に影響を与えないものは、疎水性ユニットが同一、若しくは親水性ユニットが同一であるものとする。
【0027】
会合体3の形成にあたって、より会合形成に大きな影響を及ぼす疎水性ユニットが同一であることがより好ましく、疎水性ユニット及び親水性ユニットの両者が、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20において、共通していることがさらに好ましい。
【0028】
特に好ましくは、両親媒性鎖状ポリマー10を両親媒性無端状ポリマー20の前駆体とすることである。このようにすることにより、両親媒性鎖状ポリマー10と両親媒性無端状ポリマー20の混合性を容易に高めることが可能となる。
【0029】
両親媒性鎖状ポリマー10の好ましい例としては、親水性ユニットがポリエチレンオキシドを含む下記一般式 (1)
【化1】
(式中、nは10〜500の整数を表す。)で示されるポリエチレンオキシドの繰り返し単位からなる親水性連鎖と、下記一般式 (2)
【化2】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表し、mは1〜500の整数を表す。)で示される繰り返し単位からなる疎水性連鎖とからなる鎖状高分子化合物を挙げることができる。
【0030】
両親媒性無端状ポリマー20の好ましい例としては、下記一般式(3)
【化3】
(式中、R1は水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Zは水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基、もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表す。mは1〜500の整数、nは10〜500の整数を表す。R3、R4は同一もしくは異なって、直鎖状、分岐状、または環状の低分子鎖を表す。)で表される各繰り返し単位を含む環状高分子化合物を挙げることができる。
【0031】
また、両親媒性無端状ポリマー20の別の好ましい例としては、
下記一般式(4)
【化4】
(式中、R1、R2は同一もしくは異なって、水素原子、ハロゲン原子または低級アルキル基を表し、Z1、Z2は同一もしくは異なって、水素原子もしくは低級アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルキルオキシ基もしくはハロゲン原子で置換されているフェニル基、低級アルキル基、アルキルオキシ基、シアノ基又は−COOYで表される基(但し、Yは水素原子又は炭化水素基を表す。)を表す。p、qは同一もしくは異なって、1〜500の整数を表し、nは10〜500の整数を表す。R3、R4、R5は同一もしくは異なって、直鎖状、分岐状、または環状の低分子鎖を表す。)で表される各繰り返し単位を含む環状高分子化合物を挙げることができる。
【0032】
両親媒性鎖状ポリマー10は、親水性高分子と疎水性高分子をブロック共重合することにより容易に得ることができる。例えば、ブロック共重合体の原料となる1種類若しくは2種類以上の単量体と重合開始剤とを混合し、加熱等の条件下、重合反応を進行させることにより得ることができる。1種類の単量体を用いて重合反応を行った場合には、別のモノマーを新たに添加することによりブロック共重合体を合成することもできる。重合反応は、重合溶媒中で行うことも可能である。重合開始剤としては、公知の開始剤を制限なく用いることができる。さらに重合開始剤として、高分子開始剤を用いることもできる。高分子開始剤を用いる場合には、1種類の単量体のみを重合するだけでブロック共重合体を得ることができる。
【0033】
両親媒性無端状ポリマーは、ブロック共重合体中の分子内の2点に共有結合を生成する官能基を導入し、これらの官能基を結合せしめることにより行う方法が簡便である。例えば、両親媒性無端状ポリマー20の原料となる両親媒性鎖状ポリマー10の分子鎖の両端にアリル基を導入した例では、溶媒中、希釈条件及びグラブス触媒存在下、両端の共有結合固定がなされ、効率的に環状高分子構造を有する高分子化合物が生成可能である。その他、環状高分子を得る公知の方法を制限なく適用することができる。
【0034】
両親媒性鎖状ポリマーは、少なくともポリマー末端が鎖状となっており、親水性ユニットと疎水性ユニットを備え、上述した両親媒性無端状ポリマーとの組み合わせ条件を満足するものであれば特に限定されない。好適な例として、図1Aの構成の他、図4A〜図4Hの構成が挙げられる。図4Aの両親媒性鎖状ポリマー10aは、線状の親水性ユニット11aの一端部に線状の疎水性ユニット12aを有する構造である。図4Bの両親媒性鎖状ポリマー10bは、3本の鎖状ポリマーからなるものであり、1本の線状の親水性ユニット11bの一端部から2本の疎水性ユニット12bが分岐する構造となっている。
【0035】
図4Cの両親媒性鎖状ポリマー10cは、概ね中心位置から、複数の親水性ユニット11cと複数の疎水性ユニット12cが分岐した星型高分子構造を有するものである。図4Dの両親媒性鎖状ポリマー10dは、1本の親水性ユニット11dの両末端から、それぞれ2本の疎水性ユニット12dが分岐した構造となっている。図4Eの両親媒性鎖状ポリマー10eは、1本の親水性ユニット11eから、複数の疎水性ユニット12eが分岐した構造となっている。図4Fの両親媒性鎖状ポリマー10fは、コア部に分岐した親水性ユニット11fを具備し、末端部に分岐した疎水性ユニット12fが設けられた構造となっている。
【0036】
図4Gの両親媒性鎖状ポリマー10gは、1本の疎水性ユニット13gから、複数の側鎖状の疎水性ユニット12g、及び前述の1本の疎水性ユニット13gから、ランダムな位置に側鎖状に形成された複数の親水性ユニット有する構造となっている。図4Hの両親媒性鎖状ポリマー10hは、1本の疎水性ユニット13hの特定のブロックから、側鎖状に形成された複数の疎水性ユニット12h、及び1本の疎水性ユニット13hの前記ブロックとは異なるブロックにおいて、側鎖状に形成された複数の親水性ユニット11hを有する構造となっている。なお、図4A〜図4Hは、一例であって、種々の変形が可能であることは言うまでもない。例えば、両親媒性鎖状ポリマーは、少なくとも末端に疎水性ユニットが形成されていれば、他の部分に環状構造等の鎖状構造以外の要素が含まれていてもよい。
【0037】
両親媒性無端状ポリマーは、無端状のポリマーであり、親水性ユニットと疎水性ユニットを備え、上述した両親媒性鎖状ポリマーとの組み合わせ条件を満足するものであれば特に限定されない。好適な例として、図1Bの構成の他、図5A〜図5Gの構造が挙げられる。
【0038】
図5Aの両親媒性無端状ポリマー20aは、親水性ユニット21aの環構造と疎水性ユニット22aの環構造が結合した2環状構造となっている。図5Bの両親媒性無端状ポリマー20bは、親水性ユニット21bと疎水性ユニット22bからなる環構造が2つ結合した2環構造となっている。図5Cの両親媒性無端状ポリマー20cは、直線状の疎水性ユニット22cの両末端に環構造の親水性ユニット21cが結合した構造となっている。図5Dの両親媒性無端状ポリマー20dは、図5Cの構造にさらに、直線状の疎水性ユニットと環状の親水性ユニットが追加された構造となっている。すなわち、2つの直線状の疎水性ユニット22dが、3つの環構造の親水性ユニット21dの間に配設された構造となっている。
【0039】
図5Eの両親媒性無端状ポリマー20eは、3つの環構造の親水性ユニット21eと、この環構造の親水性ユニット21eから延在され、一端部を互いに結合させた線状の疎水性ユニット22eを有する構造となっている。さらに、図5Fの両親媒性無端状ポリマー20fのように、環状部と鎖部からなる親水性ユニット21fと環状構造の疎水性ユニット22fの構造であってもよい。また、図5Gの両親媒性無端状ポリマー20gのように、鎖状の親水性ユニット21gの末端に結合された複数の環構造の疎水性ユニット22gを備える構成であってもよい。なお、図5A〜図5Gは、一例であって、種々の変形が可能であることは言うまでもない。例えば、カテナン状の構造の環構造であってもよい。また、架橋構造などを備えていてもよい。
【0040】
なお、上記一般式(1)〜(4)の構造は、図1A、図1Bの構造に限定されず、図4A〜図4G,図5A〜図5G等を含めた種々の構造に対しても好適に適用可能である。
【0041】
両親媒性鎖状ポリマーとして、図1Aに示すようなトリブロック構造を用いることにより、同一セグメント長さの図4Aのジブロック構造の疎水性ユニットのものよりも、ミセル等の会合型粒子の分子交換の速さが遅い。これは、一方の疎水性ユニットがミセル等の会合型粒子のコアから出て、さらにもう一方の疎水性ユニットもコアから出るプロセスが必要なためである。従って、トリブロック構造はジブロック構造に比して会合型粒子の安定性が高いという優位点がある。このため、本発明に係る疎水性物質内包型粒子に適用する両親媒性鎖状ポリマーの特に好ましい形状として、図1Aに示すような、線状の親水性ユニットと、親水性ユニットの両末端に結合された線状の疎水性ユニットからなるトリブロック構造を挙げることができる。
【0042】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子をDDS等の生体内利用を目的とする場合には、毒性による有害事象回避の観点から、会合型粒子2が生体適合性材料により構成されることが好ましい。少なくとも、両親媒性鎖状ポリマー、両親媒性無端状ポリマーの表層部が生体適合性材料となるように設計することが好ましい。両親媒性鎖状ポリマー、両親媒性無端状ポリマーの親水性ユニットをいずれも生体適合性材料にすることにより、容易に会合体3の生体適合性を付与することができる。
【0043】
会合型粒子2の粒径は、特に限定されないが、DDS等の製剤用途に用いる場合には、10nm以上、100nm以下とすることが好ましい。会合型粒子2の平均粒子径を10nm以上とすることにより、腎臓からの排出を回避することができる。また、100nm以下とすることにより、肝臓や腎臓に分布する細網内皮系による捕捉を回避することができる。
【0044】
疎水性物質6は、特に限定されないが、DDSをはじめとする各種製剤として適用する場合には、薬物である。薬物は、広義の治療、診断、予防等の目的に適用される物質全般を含み、特に限定されない。薬物の一例としては、抗ガン剤、眼疾患の治療薬、ポリペプチド系薬物、遺伝子治療薬等の狭義の治療薬の他、造影剤等の診断薬が挙げられる。また、疎水性物質6は、化粧等の医薬部外品、食料品用の保存料や着色剤、塗料等の各種材料などでもよい。疎水性物質6には、目的物質の他、保存剤、安定剤や媒体等が含まれていてもよい。また、会合型粒子2内に取り込みが可能であれば、疎水性を示さない物質が含まれていてもよい。
【0045】
上記のように構成された会合型粒子2は、薬物などを内包させ、生体内などの治療や診断に適用することができる。薬物を内包させた疎水性物質内包型粒子1を含む薬を注射により血液中に注入して患部に集積させた後に、必要に応じて患部を、会合体3から凝集体4に変換する変換温度T以上に温めて、薬物である疎水性物質6の放出を促進させてもよい。これにより、病巣部である患部に、効率的に薬物を送達することができる。このため、治療の効果の飛躍的向上が期待できる。また、患部領域を温める方式を採用することにより、治療部以外で薬物が放出される恐れを最小限に留めることができる。従って、毒性が強く、副作用により薬物の投与を制限せざるを得なかった治療などに有用である。
【0046】
DDSに用いる場合の生物種、標的細胞の種類、標的とする臓器等は、特に限定されない。患部の加温方法は、ハイパーサーミアなどの公知の方法を制限なく利用することができる。
【0047】
次に、本発明に係る疎水性物質内包型粒子が、会合体3から凝集体4へ変換する変換温度Tを簡便に調整可能である理由について説明する。
【0048】
図6は、両親媒性鎖状ポリマー10のみからなる会合体、及び凝集体の一例を示した模式図である。会合体103は、図6の上図に示すような両親媒性鎖状ポリマー10により構成されたミセル構造となっている。凝集体104は、図6の下図に示すような両親媒性鎖状ポリマー10からなる会合体が凝集した粒子となっている。会合型粒子102は、図6に示すように、変換温度T(L)を境に会合体103と凝集体104が可逆的に変化する。
【0049】
図7は、両親媒性無端状ポリマー20のみからなる会合体、及び凝集体の一例を示した模式図である。会合体203は、図7の上図に示すような、両親媒性無端状ポリマー20により構成されたミセル構造となっている。凝集体204は、図7の下図に示すような両親媒性無端状ポリマー20が凝集した粒子となっている。会合型粒子202は、図7に示すように、変換温度T(C)を境に会合体203と凝集体204が可逆的に変化する。
【0050】
変換温度T(L)に適合する場合には、図6に示す会合型粒子102を用いればよい。また、薬物放出量が変換温度T(C)に適合する場合には、図7に示す会合型粒子202を用いればよい。また、この変換温度T(L)、T(C)は、水系媒体中の濃度を変更したり、塩濃度等の添加剤を変更したりすることにより調整することができるが、これらの方法による変換温度の調整は限定される。すなわち、従来、変換温度T(L)、T(C)の間の温度範囲において、自在に温度調整することができなかった。
【0051】
一方、本発明によれば、変換温度の異なる両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーを混合させ、かつこれらが混在した会合型粒子を用いることにより、広い温度範囲で変換温度Tを調整することが可能となる。換言すると、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーという形状の違いに起因して、これら2つの変換温度を大きく異ならせることが容易となる。そして、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子を用いることにより、両親媒性鎖状ポリマー単独の変換温度T(L)と、両親媒性無端状ポリマー単独の変換温度T(C)の間で、その混合割合に応じて容易に変換温度Tを調整することができる。無論、濃度変更や塩濃度等の添加剤などを併用して温度調整することも可能である。
【0052】
例えば、図6に示す会合型粒子102の変換温度、図7に示す会合型粒子202の変換温度Tが、T(L)<T(C)の場合、この温度範囲内において、変換温度Tを両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合に応じて変更することができる。
【0053】
本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、塩析する濃度を自在に制御可能であるという特徴を有する。通常、高分子ミセル溶液に塩を添加することにより、変換温度Tが低下する。これは、塩は、コロイドを凝集(塩析)作用により沈殿しやすくなるためである。このため、塩濃度を制御することにより、変換温度Tを微調整することが可能となる。
【0054】
塩析温度は、分子構造によってほぼ決定するが、両親媒性無端状ポリマーと両親媒性鎖状ポリマーを混合させることにより、塩による塩析濃度C1濃度を、両親媒性鎖状ポリマーの塩析濃度C2、両親媒性無端状ポリマーの塩析濃度C3の範囲内でチューニングすることが可能となる。
【0055】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、両親媒性無端状ポリマーを用いることにより、塩に対する安定性が極めて向上することを突き止めた。従って、本発明に係る疎水性物質内包型粒子1の塩に対する安定性を、両親媒性鎖状ポリマーからなる疎水性物質内包型粒子を用いる場合に比して向上させることが可能となる。これにより、塩濃度が変動し得る用途、例えば、DDSなどの生体内で適用する場合に、塩濃度に起因する凝集体への変換を阻止することが可能となるという優れた効果を有する。
【0056】
次に、疎水性物質内包型粒子の製造方法の一例について説明する。まず、会合型粒子2を製造する。製造方法は、両親媒性鎖状ポリマー10、両親媒性無端状ポリマー20をそれぞれ合成し、これらを所望の変換温度Tに応じて、所定の割合、水系媒体中に溶解、又は分散させることにより得ることができる。
【0057】
次いで、会合体3内に疎水性物質6を内包させる。この工程は、公知の技術を制限なく用いることができる。例えば、会合体3が溶解した水系媒体に、揮発性溶媒中に溶解させた疎水性物質を混合させ、揮発性溶媒を留去することにより容易に調製することができる。
【0058】
本発明によれば、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子2を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量を、両親媒性鎖状ポリマーのみからなる会合型粒子を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量と、両親媒性無端状ポリマーのみからなる会合型粒子を用いた疎水性物質内包型粒子の放出量の間に調整することができる。これは、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子の会合体と凝集体との変換温度Tを、両親媒性鎖状ポリマーのみからなる疎水性物質内包型粒子の変換温度T(L)と、両親媒性無端状ポリマーのみからなる疎水性物質内包型粒子の変換温度T(C)の間に調整することができるためである。すなわち、会合体から凝集体に変換する温度を調整することによって、疎水性物質6の放出量を調整することが可能となる。その結果、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合割合を調整することによって、薬物放出量を容易に調整することが可能となる。
【0059】
両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子の放出量は、温度に応じて放出量を制御できる。従って、ハイパーサーミアなどの加温システムなどと併用することによって、患部において薬物放出量を高めたりすることが可能となる。本発明は、例えば、細胞培養や微生物の培養などにおいて、温度に対して薬物放出量をコントロールしたい用途などにも好適である。
【0060】
なお、上記疎水性物質内包型粒子は、水系媒体と、両親媒性鎖状ポリマーと、両親媒性無端状ポリマーを主成分とすることを説明したが、保存剤、金属微粒子等の添加剤を適宜添加することが可能である。
【0061】
以上説明した本発明に係る疎水性物質内包型粒子は、一例であって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。医用分野にとどまらず、電子材料分野、触媒化学分野、材料化学分野等において広範に適用することができる。
【0062】
≪実施例≫
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。本実施例に係るポリマーは、例えば、非特許文献2に開示された方法により容易に合成することができる。
【0063】
(両親媒性鎖状ポリマーの合成)
両末端に2−ブロモイソブチリル基を持つポリエチレンオキシド(400mg)、ブチルアクリレート(3mL)、臭化銅(I)(20mg)、及び4,4'−ジノニル−2,2'−ビピリジル(160mg)を混合し、90℃で3時間、原子移動ラジカル重合を行った。その後、アリルトリブチルスズ(1.2mL)を添加し、さらに90℃で16時間攪拌することにより、直鎖状高分子構造を有するポリ(ブチルアクリレート−b−エチレンオキシド−b−ブチルアクリレート)(以降、「L1ポリマー」とも称する)を235mg得た。
【0064】
(両親媒性環状ポリマーの合成)
上記L1ポリマー(100mg)、グラブス触媒第一世代(20mg)を200mLの塩化メチレンに溶解し、48時間の加熱還流を行うことにより、環状高分子構造を有するポリ(ブチルアクリレート−b−エチレンオキシド)(以降、「C1ポリマー」とも称する)を64mg得た。
【0065】
次いで、テトラヒドロフランにL1ポリマーを溶解し、これに水を加えることで自己組織化を行い、その後、テトラヒドロフランを減圧留去によって除去することにより、0.5mg/mL水溶液を調製し、会合型粒子Aを得た。また、テトラヒドロフランにC1ポリマーを溶解し、これに水を加えることで自己組織化を行い、その後、テトラヒドロフランを減圧留去によって除去することにより、0.5mg/mL水溶液を調製し、会合型粒子Bを得た。
【0066】
会合型粒子A(L1ポリマーの0.5mg/mL水溶液)と、会合型粒子B(C1ポリマーの0.5mg/mL水溶液)とを、3:1の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子C」と称す)を調製した。
【0067】
会合型粒子Aと、会合型粒子Bとを1:1の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子D」と称す)を調製した。
【0068】
会合型粒子Aと、会合型粒子Bとを1:3の比率で混合することにより会合型粒子(以降、「会合型粒子E」と称す)を調製した。
【0069】
会合型粒子A〜会合型粒子Eについて、分光光度計を用いて温度に対する可視光透過率を600nmで観察した。その結果を図8に示す。会合体から凝集体への変換は、透過率変化を追跡することにより確認することができる。
【0070】
ここでは、600nmにおいて、透過率が5%低下する量を会合体から凝集体に変換する変換温度Tと定義する。会合型粒子A(L1ポリマー)の変換温度Tは24℃、会合型粒子B(C1ポリマー)の変換温度Tは74℃であった(図8参照)。また、会合型粒子Cの変換温度Tは、38℃であり、会合型粒子Dの変換温度Tは、48℃であった。また、会合型粒子Eの変換温度Tは63℃であった。
【0071】
会合型粒子Aの変換温度T(L)24℃に対し、会合型粒子Bの変換温度Tが74℃となった理由は、分子鎖の末端の運動性が、L1ポリマーの方がC1ポリマーに比して高いことに起因するものと考えられる。
【0072】
L1ポリマーとC1ポリマーを混合した会合型粒子C〜Eにおいては、いずれも変換温度Tが1つ観測された。仮に、L1ポリマーのミセルとC1ポリマーのミセルがそれぞれ独立に形成されるならば、それぞれの変換温度Tが観測されるはずである。しかしながら、実際には、図8に示すように、変換温度Tが1つのみ観測された。これは、会合型粒子D〜Eの会合型粒子において、L1ポリマーとC1ポリマーを主成分とする会合体が形成されていることを強く支持するものである。
【0073】
また、会合型粒子C〜Eにおいて、C1ポリマーとL1ポリマーの混合割合に応じて変換温度Tを、L1ポリマーの変換温度T(L)、C1ポリマーの変換温度T(C)の範囲内において、容易に設計することが可能であることがわかる。
【0074】
図9Aに、L1ポリマーの溶液濃度を変えた時の温度に対する可視光透過率を600nmで観測した結果を、図9BにC1ポリマーの溶液濃度を変えた時の温度に対する可視光透過率を600nmで観測した結果を示す。図9A,図9Bに示すように、L1ポリマー単独、C1ポリマー単独でも、溶液濃度を変更することにより、変換温度Tを調整できることがわかる。しかしながら、その調整範囲は、僅かである。これに対し、図8に示すように、会合型粒子C〜Eによれば、大きな範囲で変換温度Tを調整することが可能である。溶液濃度を調整することにより、さらに変換温度Tを微調整可能である。
【0075】
図10に、会合型粒子A、会合型粒子B,及び会合型粒子Dについて、塩化ナトリウムNaClを添加していった際の可視光透過率を600nmで観測した結果を示す。会合型粒子Aの塩析濃度が5mg/mLであったのに対し、会合型粒子Bの塩析濃度は300mg/mLであり、およそ60倍の塩濃度安定性を示すことがわかる。また、会合型粒子Dの塩析濃度は200mg/mLであり、塩濃度安定性は、会合型粒子Aの塩濃度安定性より高くなることがわかる。
【0076】
(疎水性物質内包型粒子の調製)
L1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,5mL)を十分に乾燥させた。次いで、これにピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。その後、減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次いで、蒸留水を加え溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子A」と称する)を調製した。疎水性物質内包型粒子Aのピレンの封入率は26%であった。
【0077】
C1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,5mL)を十分に乾燥させた。次いで、これにピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。その後、減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次いで、蒸留水を加えて溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子B」と称する)を作製した。疎水性物質内包型粒子Bのピレンの封入率は51%であった。
【0078】
L1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,2.5mL)とC1ポリマーのミセル溶液(0.5mg/mL,2.5mL)とを混合した後に十分に乾燥した。ピレンのTHF溶液(1mg/mL,0.1mL,ブロック共重合体の重量に対して4%)及びTHF2mLを加え、激しく撹拌しながら蒸留水5mLを加えた。全て加え終わったところで減圧留去を2時間行い、溶存しているTHFを除去した。次に、蒸留水を加え溶液の総量を5mLとし、室温(20℃)で1日静置させることにより、ピレンの封入されたミセル溶液(以降、「疎水性物質内包型粒子C」と称する)を作製した。疎水性物質内包型粒子Cのピレンの封入率は10%であった。
【0079】
(疎水性物質内包型粒子A〜Cの構造評価)
図11Aに、疎水性物質内包型粒子AのAFM像を、図11Bに疎水性物質内包型粒子BのAFM像を、図11Cに疎水性物質内包型粒子CのAFM像を示す。サンプルは、疎水性物質内包型粒子A(0.5mg/mL),疎水性物質内包型粒子B(0.5mg/mL)及び疎水性物質内包型粒子C(0.5mg/mL)をシリコン基板上に滴下し、スピンコーティングすることにより作製した。図11A〜図11Cより、それぞれ100nm程度の構造体が確認され、ミセルを形成していることがわかる。
【0080】
(疎水性物質内包型粒子A〜Cのピレン放出率の評価)
純水で洗浄処理したヴィスキングチューブ(分画分子量12000〜14000)にメンブレンフィルターを通じて濾過した疎水性物質内包型粒子A〜C(5mL)を加えた。40℃で透析を行い、UVにより放出率の算出を行った。
【0081】
図12は、疎水性物質内包型粒子A〜Cについて、40℃で透析を行った際のピレンの放出率を時間に対してプロットしたものである。例えば、300分後におけるピレン放出率は、疎水性物質内包型粒子Aにおいては81%、疎水性物質内包型粒子Bにおいては56%、疎水性物質内包型粒子Cにおいては73%という結果が得られた。換言すると、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子は、両親媒性鎖状ポリマーと両親媒性無端状ポリマーの混合比率を変えることにより、疎水性物質内包型粒子Aと疎水性物質内包型粒子Bの放出率の差である、概ね25%の幅で放出量を制御できることがわかる。
【0082】
図13は、疎水性物質内包型粒子Cについて、20℃、37℃、40℃で透析を行った際のピレンの放出率を時間に対してプロットしたものである。例えば、300分後におけるピレンの放出率は、20℃の場合においては24%、37℃の場合においては51%、40℃の場合においては73%という結果が得られた。換言すると、40℃においては、20℃の場合の概ね3倍の放出率を実現できることがわかる。また、37℃に対しては、概ね2倍の放出率を実現できることがわかる。
【0083】
すなわち、L1ポリマーとC1ポリマーが混在した会合型粒子からなる疎水性物質内包型粒子Cの放出量は、温度に応じて放出量を制御できることがわかる。従って、ハイパーサーミアなどの加温システムなどと併用することによって、患部において薬物放出量を高めたりすることが可能となる。また、細胞培養、微生物の培養地などにおいて、温度に対して薬物放出量をコントロールしたい用途などに好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 疎水性物質内包型粒子
2 会合型粒子
3 会合体
4 凝集体
5 空隙
6 疎水性物質
10 両親媒性鎖状ポリマー
11 親水性ユニット
12 疎水性ユニット
20 両親媒性無端状ポリマー
21 親水性ユニット
22 疎水性ユニット
102 会合型粒子
103 会合体
104 凝集体
202 会合型粒子
203 会合体
204 凝集体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性物質と、
前記疎水性物質を内包する会合型粒子とを備え、
前記会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性鎖状ポリマーと、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性無端状ポリマーとを主成分とし、前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーが混在した会合体を形成し、
前記会合体は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体が複数集合した凝集体を形成する疎水性物質内包型粒子。
【請求項2】
前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーは、親水性ユニット、又は/及び疎水性ユニットが同一であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項3】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、単鎖状ポリマーであり、前記両親媒性無端状ポリマーは、単環状ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項4】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、線状の親水性ユニットと、前記親水性ユニットの両末端に結合された線状の疎水性ユニットからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項5】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、前記両親媒性無端状ポリマーの前駆体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項6】
前記疎水性物質が薬物であり、請求項1〜5のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子を含む医薬用組成物。
【請求項1】
疎水性物質と、
前記疎水性物質を内包する会合型粒子とを備え、
前記会合型粒子は、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性鎖状ポリマーと、親水性ユニットと疎水性ユニットを含み、温度によって会合体と凝集体に形状が変化する両親媒性無端状ポリマーとを主成分とし、前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーが混在した会合体を形成し、
前記会合体は、水系媒体中、所定の温度以上で、当該会合体が複数集合した凝集体を形成する疎水性物質内包型粒子。
【請求項2】
前記両親媒性鎖状ポリマーと前記両親媒性無端状ポリマーは、親水性ユニット、又は/及び疎水性ユニットが同一であることを特徴とする請求項1に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項3】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、単鎖状ポリマーであり、前記両親媒性無端状ポリマーは、単環状ポリマーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項4】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、線状の親水性ユニットと、前記親水性ユニットの両末端に結合された線状の疎水性ユニットからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項5】
前記両親媒性鎖状ポリマーは、前記両親媒性無端状ポリマーの前駆体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子。
【請求項6】
前記疎水性物質が薬物であり、請求項1〜5のいずれか1項に記載の疎水性物質内包型粒子を含む医薬用組成物。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図5F】
【図5G】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−12349(P2012−12349A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151653(P2010−151653)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]