説明

疎水性表面テクスチャを有するピペット先端部

【課題】ピペット先端部、およびピペット先端面に疎水性テクスチャを付ける工程を改善する。
【解決手段】ピペット先端部10が、所定のピーク粗さを有するピペット先端部10の外側30上の外側疎水性領域32、および、ピペット先端部10の内側28上の内側疎水性領域26を含み、外側疎水性領域32の軸方向の延長範囲と内側疎水性領域26の軸方向の延長範囲が互いに異なる。実際に必要な領域だけに疎水性にテクスチャを付けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペット操作する流体を吸引し分注するためのピペット先端部であって、ピペット先端部の長手方向軸に沿って延在し、ピペット操作する長手方向端部領域としてのピペット先端部の第1の軸長手方向端部領域がピペット開口部を含み、ピペット開口部を通ってピペット操作する流体が操作中に流れることができ、ピペット操作する長手方向端部領域に軸方向に対向する結合長手方向端部領域としてのピペット先端部の第2の軸長手方向端部領域が、ピペット装置の結合反対形状に結合し、好ましくは解放可能に結合するための結合形状を含み、ピペット先端部が、それぞれ、100nm〜1000nm、好ましくは150nm〜750nm、特に好ましくは200nm〜500nmの2次粗さ(quadratic roughness)を有し、800nm〜5500nm、好ましくは1750nm〜4500nm、特に好ましくは2500nm〜3700nmのピークピーク粗さ(peak-to-peak roughness)を有するピペット先端部の外側上の外側疎水性領域およびピペット先端部の内側上の内側疎水性領域を含むピペット先端部に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のピペット先端部は、たとえば、特許文献1から周知である。上記の粗さの範囲は、ロータスの花でも観察される「ロータス効果」として周知の効果を利用することによって、表面の疎水性テクスチャを与えるものである。
【0003】
これに関連して、上記の粗さを有する表面が同じ材料の比較的平滑な表面よりも液体で湿潤され難いことが知られている。
【0004】
ピペット先端部の表面の疎水性テクスチャは、ピペット先端部を完全に空にしやすくし、従って、分注される液体の量の正確さを向上させるものである。さらに、ピペット先端面の疎水性テクスチャは、ピペット先端部を複数回使用する場合に、ピペット操作する流体の望ましくない汚染の危険性を低減するものでもある。この問題は文字通り「相互汚染」とも呼ばれる。これは、前のピペット操作工程から湿潤滴としてピペット先端面に付着し続ける最初のピペット操作する流体の残留物に起因し、従って、その後にピペット操作される第2のピペット操作する流体になる恐れがある。
【0005】
ピペット先端部の疎水性テクスチャ付けについて、特許文献1には、ピペット先端部に最初にポリマー表面を設ける方法が開示されている。これは、ピペット先端部を適切なポリマーで作製し、またはピペット先端部を適切なポリマーメルトに浸すことにより被覆することで実現される。
【0006】
その後、ポリマー表面が不溶存粒子を含む溶媒でエッチングされ、溶媒を除去した後に、粒子の少なくとも一部がポリマー表面にしっかり結合される。そのため、工程の開始時に粒子は溶媒中に分散または懸濁された形で存在する。
【0007】
この工程は明らかに複雑であり、その結果、信頼性が限られている。なぜなら、溶媒中に分散または懸濁された粒子のピペット先端部のエッチングされたポリマー表面上への結合は限られた程度でしかないことが予想可能であるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第03/013731号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/220386号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、従来技術から周知のピペット先端部、および従来技術から周知のピペット先端面に疎水性テクスチャを付ける方法を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、製品、すなわちピペット先端部について、外側疎水性領域の軸方向の延長範囲と内側疎水性領域の軸方向の延長範囲が互いに異なる、最初に記載したタイプのピペット先端部によって達成される。
【0011】
換言すれば、ピペット先端部の長手方向軸に対して、ピペット先端部の外側の疎水性にテクスチャを付けた表面領域の軸長手方向の範囲が、ピペット先端部の内側の疎水性にテクスチャを付けた表面領域の軸方向の範囲と異なる。
【0012】
従って、先端部のこの種のテクスチャ付けが実際に必要な領域だけに疎水性にテクスチャを付けることができ、そうする必要がある。
【0013】
本出願では、ピペット先端部の内側は、表面が想像のピペット先端部の長手方向軸に向かう延長成分を有する法線ベクトルを有する側である。従って、外側は、表面がピペット先端部の長手方向軸から離れる延長成分を有する法線ベクトルを有する側である。
【0014】
法線ベクトル開始点がピペット先端面とピペット先端部の長手方向軸を含む平面との交差線に沿って移動されると、法線ベクトルがピペット先端部の長手方向軸に向かう延長成分を有するものからピペット先端部の長手方向軸から離れる延長成分を有するものに変わる領域が、ピペット先端部の内側と外側の間の境界を形成する。この種の境界は、ピペット開口部の縁部を全般的に形成する。
【0015】
最初に述べたように、ピペット先端面の疎水性テクスチャは、分注中にピペット先端部を完全に空にすることを促進するため、それぞれ外側疎水性領域と内側疎水性領域がピペット開口部の縁部から軸方向に続く異なる距離だけ延在することが有利である。こうすると、ピペット操作する流体が分注中に通過するピペット開口部の縁部に疎水性テクスチャが確実に与えられる。
【0016】
大抵の場合、吸引中にピペット先端部がピペット操作する流体のレザバーに浸される深さは、ピペット流体がピペット先端部の内側によって画定されるピペット先端部のピペット流体保持空間内に吸い込まれる高さよりも小さく、場合によってはかなり小さい。これは、ピペット開口部から軸方向にさらに離れるように位置付けられた内側疎水性領域の端部が、ピペット開口部からさらに軸方向に離れるように位置付けられた外側疎水性領域の端部よりもさらにピペット開口部から離れるように位置付けられることによって考慮することができる。従って、ピペット流体で濡れるピペット先端面に確実に疎水性にテクスチャを付けるには、大抵のピペット操作の場合、単に、疎水性テクスチャ付けを、ピペット先端部の外側の表面に、ピペット開口部の縁部から続く軸方向の延長部の長さがこのピペット先端部の内側よりも短くなるように行うことで十分である。
【0017】
外側疎水性領域と内側疎水性領域を互いに別個に設けることができることを除外すべきではないが、やはり、分注中にピペット先端部をできるだけ完全に空にすることを促進するには、ピペット開口部の縁部に疎水性にテクスチャを付けることが好ましい。ピペット先端面を濡らすピペット操作する流体の液滴は、湿潤特性によってピペット先端面上に比較的大きい、または小さい濡れ斑点状に拡大するため、ピペット先端部をできるだけ完全に空にすることを促進するには、外側疎水性領域および内側疎水性領域がピペット開口部の縁部上にピペット先端部の外側と内側の間の境界を画定する連続した疎水性領域を形成するようにすることが特に好ましい。
【0018】
本発明による疎水性テクスチャ付けは、最初に記載したように、適切な表面領域の粗さの提供に基づくため、所望の表面粗さを、表面領域を作製する成形空洞表面の対応する粗さにより射出成形によって製造されるピペット先端部に与えることができる。
【0019】
別法として、本発明の発展形態によれば、ピペット先端部は、内側疎水性領域および外側疎水性領域のうちの少なくとも1つの疎水性領域に非被覆ピペット先端部の材料よりも強い疎水性の被覆を含むことができる。
【0020】
この種の比較的強い疎水性被覆の提供を、本発明の方法の態様に関連して以下でさらに説明する。しかし、被覆は表面の所望の粗さをもたらすものである。
【0021】
本発明の実施には必ずしも必要ではないが、大抵のピペット先端部はピペット装置に解放可能に結合されるように形成される。
【0022】
ピペット装置は、ピペット操作する流体をピペット先端部の中に吸引し、その外に分注するのに必要とされる負および/または正の圧力を生成し、かつ/または与えるピペット管を備える。
【0023】
ピペット装置のピペット管の望ましくないエーロゾル汚染を防ぐため、ピペット先端部にフィルタを設けることは周知である。この種の解決法は、たとえば特許文献2から周知である。
【0024】
エーロゾル汚染は、ピペット操作する流体からそれぞれ結合されたピペット管内に吸引されるピペット先端部内に吸引される液体の蒸発または霧化した部分に起因する。
【0025】
後続のピペット操作工程中、蒸発または霧化したピペット操作液体は、次いで、望ましいことではないが、ピペット管からピペット先端部のピペット流体保持空間内に戻り、そこに保持されたピペット流体を汚染する。これは、上記の汚染機構の結果として起こり、使い捨てのピペット先端部が一度だけでも同一のピペット装置に使用された場合、ピペット先端部から分離されるピペット装置に影響を与える。
【0026】
ピペット先端部の内側領域内にフィルタを設置することによって、ピペット先端部のピペット流体保持空間の体積を不当に縮小しないように、フィルタはピペット先端部のピペット操作する長手方向端部領域よりも、結合長手方向端部領域に近接するように設けられることが好ましい。
【0027】
フィルタは、好ましくは、焼結プラスチック材料、またはもつれた繊維、あるいはこの種の材料の組み合わせなど、多孔性、気体透過性の材料から製造される。
【0028】
従来のフィルタは、乾燥した場合に気体透過性であるフィルタの孔が、水分が通過するときに、水分に誘発されてフィルタ材料が膨張することによって、または孔に沈殿する液滴によって、シールされ、従って、フィルタが気体不透過性になるように動作する。実際、フィルタの動作機構に関して、この種のフィルタは、気体の湿度によって気体透過性または気体不透過性になる気体流弁としてより良く表現される。
【0029】
この背景で、驚くことには、気体透過性フィルタは、乾燥した場合に、フィルタの多孔性表面上に少なくとも部分的に疎水性にテクスチャ付けされた場合に、望ましくない水分の通過をかなりより有効に阻止することが判明した。製造が単純なため、フィルタの少なくとも一部にフィルタの非被覆材料よりも強い疎水性の被覆を設けることによって、これを特に有利に実行することができる。
【0030】
比較的強い疎水性材料で被覆されたフィルタの向上された機能はおそらく以下の効果によるものである。
【0031】
表面粗さをかなり増加させることによって、フィルタ材料、従って被覆領域のフィルタの多孔性壁の湿潤性も低減され、それが、フィルタ材料とフィルタ材料に付着する液滴の間で測定することができる濡れ角の増加につながる。一定の液体量では、フィルタ材料の疎水性被覆が増加するに従って、流路を収縮することによってフィルタを実際に気体不透過性にするのに十分な液体量が少なくなるように、濡れ角が増加するに従って、フィルタ材料に付着する同一の液滴がフィルタ材料からさらに突き出る。
【0032】
出願者は、少なくとも部分的に、具体的には、フィルタを保持するピペット先端部の領域の疎水性テクスチャ付けとは独立して被覆された、疎水性にテクスチャ付けされたフィルタの態様の別の保護を求める権利も保有する。
【0033】
従って、少なくとも部分的に疎水性にテクスチャ付けされたこの種のフィルタを、疎水性にテクスチャ付けされていない、または内側だけ、あるいは外側だけ、もしくは上記のように疎水性にテクスチャ付けされたピペット先端部に設けることもできる。
【0034】
気体透過性をできるだけ迅速に阻止するため、フィルタをピペット先端部内に設置する場合に、非被覆フィルタの材料よりも強い疎水性の被覆を有するフィルタを少なくともピペット開口部に面する端部領域に設けることが好ましい。
【0035】
しかし、フィルタの効果を向上させるには、フィルタ全体に、具体的には上記の疎水性被覆で疎水性にテクスチャを付けることが特に好ましい。
【0036】
構成に関しては、上記のピペット先端部を、非被覆ピペット先端部が少なくともその外側および/または内側にプラスチック材料を含むように好ましく製造することができる。できるだけ単純かつ費用効率の高いピペット先端部の製造には、好ましくは、ピペット先端部がピペット先端部全体の厚さ上に均一のプラスチック材料を含み、好ましくはプラスチック材料で形成される。
【0037】
判明しているように、ポリプロピレン、および/またはポリエチレンなど、ポリマーまたはコポリマーが、ポリアミドと同様にプラスチック材料として適切である。こうした材料は、これらの材料特性によりすでに表面が撥液性である。こうしたプラスチック材料の混合物を使用することもできる。
【0038】
取り扱いを容易にするため、疎水性被覆は、ピペット先端部に容易に連結させるため、好ましくはピペット先端部のプラスチック材料と適合性のあるプラスチック材料からなる。特に好ましくは、ピペット先端部と疎水性被覆は同じプラスチック材料からなる。
【0039】
試験操作では、被覆されない場合のピペット先端部は、少なくとも疎水性被覆が意図されたピペット先端部の領域にポリプロピレンを含み、好ましくはポリプロピレンで形成され、その中で疎水性被覆がポリプロピレン−ポリエチレンコポリマーを含むことが特に有利であることが判明した。
【0040】
本発明の方法の態様によれば、最初に述べた目的はまた、ピペット先端部の少なくとも外側および内側の領域を湿潤溶液で湿潤させるステップを含む、ピペット先端部を疎水性に被覆する方法によって解決される。
【0041】
より正確には、本発明による方法は、ピペット先端部を可変の流体圧力を有する流体圧力源に結合するステップを含む。これは、ピペット流体が引き込まれ、排出されるようにする流体圧力、すなわちピペット操作する流体以外の作用流体、一般に気体、具体的には空気の圧力を指す。
【0042】
本発明による方法は、さらに、結合されたピペット先端部を湿潤溶液に浸し、簡単な手段による浸漬深さの関数としてピペット先端部の外側を湿潤させることができるようにするステップを含む。
【0043】
本発明による方法は、さらに、湿潤溶液をピペット先端部内に吸引し、それによってピペット先端部の内側を湿潤溶液で湿潤させ、従って疎水性被覆を設けるステップを含む。この工程の完了後、湿潤溶液で湿潤されたピペット先端部の領域がピペット先端部の疎水性に被覆された領域を形成する。
【0044】
本発明による方法は、さらに、ピペット先端部を湿潤後に再びフリーにすることができるように、吸引された湿潤溶液を分注するステップを含む。
【0045】
最後に、本発明による方法は、さらに、湿潤溶液中に含まれる溶媒を蒸発させて、湿潤溶液で湿潤されたピペット先端部の領域が乾燥されて、疎水性被覆が形成されるステップを含む。
【0046】
湿潤溶液中に含まれた溶媒が完全に蒸発した後、疎水性被覆が設けられたピペット先端部の被覆が全般的に完了する。
【0047】
この本発明による方法の利点は、完全に従来のピペット操作にも適用可能なことであり、すなわち、必要に応じて、顧客がそのために特別の技術的装置を必要とすることなく、顧客が送られたピペット先端部の被覆を完了するのに使用することもできることである。
【0048】
最初に述べたように、外側疎水性領域がピペット先端部のピペット開口部から軸方向に内側疎水性領域と同じだけ延在しない場合、本発明による方法の発展形態によれば、ピペット先端部内に吸引された湿潤溶液柱の高さは湿潤溶液中に浸されたピペット先端部の深さと異なり、好ましくはそれを超えるようになされる。
【0049】
本発明の第2の方法の態様では、最初に述べた目的はまた、少なくともピペット先端部の内側の領域を湿潤溶液で湿潤するステップを含む、ピペット先端部を疎水性に被覆する方法によって解決される。より正確には、その場合、この方法は、
ピペット先端部の他に保持空洞、好ましくは管部材、特に好ましくはガラス管部材をピペット装置に設けるステップと、
保持空洞を湿潤溶液に浸すステップと、
湿潤溶液を保持空洞内に吸引するステップと、
ピペット先端部を保持空洞に連結するステップと、
吸引した湿潤溶液を保持空洞からピペット先端部を通して分注し、従ってピペット先端部の内側のピペット流体保持室部分を洗浄するステップと
湿潤溶液中に含まれた溶媒を蒸発させるステップと、を含む。
【0050】
その場合、好ましくは、この種の保持空洞をピペット装置に結合することによって、保持空洞を設けることができる。管部材、具体的には少なくとも結合長手方向端部領域に比較的近接したピペット先端部の部分よりも小さい径を有するガラス管部材が保持空洞として好ましく使用され、保持空洞をピペット先端部内にその結合長手方向端部から導入することができるようになされる。
【0051】
保持空洞を湿潤溶液中に浸すことによって、ピペット先端部の外側が湿潤溶液で湿潤されるのが阻止される。従って、外側疎水性領域はこの場合ゼロの軸方向延長部を有することができる。
【0052】
ピペット先端部を任意の所望の方法で保持空洞に連結して、好ましくは、ピペット先端部が、その長手方向端部から結合側で保持空洞を取り囲むように、湿潤溶液が保持空洞から分注される場合に、ピペット先端部の内側領域が湿潤溶液で洗浄されるようにすることができる。
【0053】
たとえば、ピペット先端部を保持空洞に取り付けることによって、ピペット先端部を保持空洞に直接連結することができる。
【0054】
同様に、ピペット先端部と保持空洞が同じ流体圧力源に連結されるように、共通のピペット装置によってピペット先端部を保持空洞に間接的に連結することもできる。
【0055】
ピペット装置および用意された湿潤溶液のレザバーはこの方法にも十分である。ピペット装置は、保持空洞に結合されるように僅かに修正する必要がある可能性があるが、これは、現時点で記載した本発明を使用するためには必ずしも必要ではない。
【0056】
たとえば、蒸発ステップが、ピペット先端部を加熱し、かつ/または流体、好ましくは気体、特に好ましくは空気、具体的には乾燥空気をピペット先端部を通過させるステップを含む点で、有利には、溶媒を熱的かつ/また対流式に蒸発させることができる。
【0057】
試験では、方法が、温度65°C〜85°C、好ましくは70°C〜80°C、特に好ましくは約75°Cの湿潤溶液を用意するステップを含む場合に、被覆が特に良好であった。湿潤溶液は、好ましくは、ポリマーまたはコポリマー、特に好ましくはポリプロピレン‐ポリエチレンコポリマー、およびその中に含まれるポリマーまたはコポリマーを溶解する溶媒を含む。具体的には、キシレンベースの溶媒が溶媒として有利であることが判明した。この方法で得られた被覆は上記の範囲の表面粗さを生成する。
【0058】
保持空洞を使用するこの関連の第2の方法の態様では、湿潤溶液がピペット先端部を通して、流量0.3ml/s〜0.7ml/s、好ましくは0.4ml/s〜0.6ml/sで分注され、かつ/または、湿潤溶液がピペット先端部を通して、温度20°C〜30°C、好ましくは21°C〜25°C、特に好ましくは22°C〜25°Cで分注される場合に、特に良好な被覆が得られた。
【0059】
本発明を添付の図面により以下にかなり詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明によるピペット先端部の第1の実施形態を示す部分縦断面図である。
【図2】ピペット開口部に近いピペット先端部の内側の一部の疎水性被覆の直前のピペット先端部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0061】
図1では、本発明によるピペット先端部が全般的に10で示されている。
【0062】
ピペット先端部10は、ピペット先端部の長手方向軸Lに沿ってピペット開口部12から結合長手方向端部14まで延在する。従って、ピペット先端部10は、ピペット開口部12を含む第1のピペット操作する長手方向端部領域16を備え、さらに結合長手方向端部14を含む第2の結合長手方向端部領域18を備える。
【0063】
結合長手方向端部領域18には、周知の方法で、ピペット装置(図2を参照)の結合反対形状との解放可能な確実な係合のための内側結合形状20が設けられる。そのため、内側結合形状20は溝22を含むことができ、溝22はピペット先端部の長手方向軸Lの周囲に延在し、その中にエラストマーリング(図2を参照)が軸方向に圧縮され、従って半径方向に拡張し、ピペット先端部10が結合された場合に、確実に係合することができる。
【0064】
ピペット流体を、ピペット開口部12を通してその中に吸引し、ピペット流体を同じ経路で再び外に分注することができるピペット流体保持空間24が、内側結合形状20からピペット開口部12まで続くように有利に設けられる。
【0065】
図1の例で示したピペット先端部10は、ポリプロピレンから射出成形されることが好ましい。なぜなら、この材料は、他の材料よりも水で濡れ難く、それによってピペット操作する流体、一般にピペット操作する液体が分注される場合に、所望の方法でピペット先端部10を完全に空にしやすいからである。
【0066】
前のピペット操作工程からピペット先端部10に付着するピペット流体残留物がピペット操作する流体を汚染するのを防ぐことができるようにするため、またはこの種の汚染の危険性を少なくとも低減することができるようにするため、ピペット先端部10の表面の一部に、使用されるのが好ましいポリプロピレンの疎水性の基本的な材料特性に加えて、疎水性にテクスチャが付けられる。
【0067】
より正確には、ピペット先端部10の内側28のピペット先端面の一部に内側疎水性領域26として疎水性にテクスチャが付けられ、さらにピペット先端部10の外側30の表面の一部に外側疎水性領域32として疎水性にテクスチャが付けられる。
【0068】
好ましくは、内側疎水性領域26および外側疎水性領域32がピペット開口部12の縁部34上で隣接し、ピペット開口部12の一体の連続した疎水性テクスチャが付けられた表面領域を形成する。これは、ピペット流体で特に頻繁に濡れるピペット開口部12の縁部34に疎水性にテクスチャが付けられて、ピペット流体の液滴のピペット開口部12への望ましくない付着の危険性が少なくとも低減される利点がある。
【0069】
ピペット先端部10の表面領域の疎水性テクスチャ付けは、規定の粗さを与えることによって、たとえば、2次粗さ220〜300nmを有し、ピークピーク粗さ3000〜3300nmを有する表面を設けることによって行うことができる。
【0070】
そのため、ピペット先端部10の外側疎水性領域32は、キシレンベースの溶媒に溶解されたポリプロピレン−ポリエチレンコポリマーを含む湿潤溶液に、外側疎水性領域32全体が前記湿潤溶液で湿潤されるように、最初に有利に浸された。
【0071】
この状態で、内側疎水性領域26の領域内の内側28の表面も湿潤溶液で湿潤されるまで、湿潤溶液がピペット流体保持空間24内に吸引された。
【0072】
その後、浸漬および吸引工程のためにピペット装置に結合されたピペット先端部10が湿潤溶液から取り出され、吸引された湿潤溶液が分注された。
【0073】
分注工程の完了後、湿潤溶液の残留フィルムで湿潤されたピペット先端部10が気体流の対流によって乾燥された。
【0074】
有利には、この種の被覆工程を任意の所望のピペット装置に、すなわちすでに研究室に存在するピペット装置上でも容易に実行することができる。
【0075】
ピペット先端部10の外側30および内側28上にピペット開口部12の縁部34から軸方向に続く、異なる高さの被覆は、与えられた湿潤溶液を有効に使用できるようにするものである。なぜなら、前記溶液は、後続のピペット操作で実際に必要とされるピペット先端部10だけに塗布されるからである。
【0076】
図1で示した例では、内側疎水性領域26の軸方向の延長部は外側疎水性領域32の軸方向の延長部の約4倍である。しかし、必ずしもそうでなくてもよい。内側疎水性領域は外側疎水性領域の軸方向の延長部の2、3、または5倍でもよく、またはその非整数倍でもよい。
【0077】
図1で示した例で見ることができるように、ピペット先端部10は、好ましくは、結合長手方向端部領域18に近接するように位置付けられたピペット先端部の領域上にフィルタ36を備えることができる。フィルタ36は、前記フィルタと結合長手方向端部14の間のピペット先端部10内の軸方向の空間のエーロゾル汚染、従って、具体的にはピペット先端部10に結合されるピペット装置のエーロゾル汚染の危険性を低減する。
【0078】
フィルタ36は、たとえば、焼結プラスチック材料、具体的には、焼結ポリプロピレン、および/またはポリエチレン、および/またはもつれた繊維など、乾燥した場合に気体透過性の多孔性材料で形成することができる。
【0079】
その効果を向上させるため、図1で示したように、フィルタ36に少なくとも部分的に疎水性にテクスチャを付けることもできる。その場合、フィルタ36の軸方向の長さの約半分を超えて上記の湿潤溶液で湿潤させることによってテクスチャを付けることができる。
【0080】
疎水性被覆のため、フィルタ36は、被覆されない場合よりも有利に少なく湿潤されて、フィルタ材料上に沈殿するピペット操作流体の液滴が、フィルタ材料が被覆されない場合よりも、沈殿した状態でフィルタ材料からさらに突き出るようにさせ、それが望ましくないピペット操作流体の液滴になり、フィルタ材料上に沈殿して、孔をシールし、それによって、被覆されないフィルタ材料の場合よりも迅速にフィルタ材料の気体透過性がもたらされ、ピペット操作する流体がピペット流体保持空間24からピペット先端部10の結合長手方向端部14に向かって通過するのが有利に阻止される。
【0081】
従って、より正確には、フィルタ36は、乾燥した場合は気体が通過できるようにし、湿性の場合は気体の通過を阻止する自己調整式水分依存弁と呼ばれる。
【0082】
ピペット先端部10をピペット装置から結合解除する工程を容易にするため、環状溝22の表面に疎水性にテクスチャを付けることもさらに考えられる。
【0083】
ピペット先端部10が結合された場合に環状溝22内に係合されるピペット装置側のエラストマーリングを環状溝22からより簡単に解放することができる。たとえば、環状溝22とエラストマーリングの間に液体が存在する場合は、付着工程があまり大きな役割を果たさないためである。
【0084】
図2は、ピペット先端部の内面の領域を被覆する直前の状況を示している。
【0085】
図2の実施形態では、図1と同じである、または同じ機能を有する構成要素、または構成要素の部分には同じ参照番号であるが100増加したものが与えられている。
【0086】
図2の実施形態は、図1の実施形態と異なる場合だけ以下に記載される。そうでない場合は特に図1の説明を参照されたい。
【0087】
図2のピペット先端部110は、ピペット先端部110が疎水性被覆を持たず、フィルタが設けられていない以外は、構成において図1のピペット先端部10と正確に一致する。
【0088】
ピペット先端部110がピペット管140に結合されたところが示されている。
【0089】
ピペット先端部110の内側結合形状120に対応する円錐形結合部分142をピペット先端部110内に結合長手方向端部114から軸方向に導入することができる。結合部分142に対して軸方向に可動の圧縮シリンダ144を当業者に周知の方法で結合部分142に軸方向に向けて配置して、結合部分142と圧縮シリンダ144の間に位置付けられたエラストマーリングを軸方向に圧縮し、従って半径方向に拡張させることができる。こうすると、エラストマーリング146が圧縮された場合に環状溝122としっかり係合した状態になることができる。
【0090】
図で示した例では、湿潤溶液150がピペット管140を通してその中に吸引されるガラス管の形態の保持空洞148は、ピペット管140上に収容される。
【0091】
ピペット先端部110は、保持空洞148がピペット先端部110のピペット流体保持空間124内に少なくとも部分的に収容されるように、保持空洞148を取り囲む。
【0092】
後続の工程では、湿潤溶液150がピペット管140内の過剰圧力によって保持空洞148から分注されて、ピペット開口部112に近いピペット先端部110の少なくとも内側128の領域が洗浄されるようにする。さらに、湿潤溶液150がピペット開口部112を通してピペット先端部110の外に排出され、ピペット先端部110内の内側疎水性部分が湿潤されることになる。内側疎水性部分は、所望の粗さを有し、ピペット開口部112の縁部134から軸方向にピペット流体保持空間124内に特定の距離だけ延在し、完全に乾燥された後に完成する。
【0093】
後の時点でピペット先端部110の外側130に少なくとも部分的に疎水性にテクスチャを付ける場合、これは、単にピペット先端部を適切な湿潤溶液に浸し、その後、こうして湿潤されたピペット先端部110の表面部分を乾燥させることによって行うことができる。
【0094】
図1で示したフィルタ36に、好ましくは、フィルタ36全体を適切な湿潤溶液で湿潤させることによって、部分的だけではなく、フィルタ36全体に疎水性にテクスチャを付けることができることを留意されたい。
【符号の説明】
【0095】
10、110 ピペット先端部
12、112 ピペット開口部
14、114 結合長手方向端部
16、116 第1の長手方向端部領域
18、118 結合長手方向端部領域
20、120 内側結合形状
22、122 溝
24、124 ピペット流体保持空間
26 内側疎水性領域
28、128 内側
30、130 外側
32 外側疎水性領域
34、134 縁部
36、136 フィルタ
140 ピペット管
142 結合部分
144 圧縮シリンダ
146 エラストマーリング
148 保持空洞
150 湿潤溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペット操作する流体を吸引し分注するためのピペット先端部(10、110)であって、ピペット先端部の長手方向軸(L)に沿って延在し、ピペット操作する長手方向端部領域(16、116)としての前記ピペット先端部(10、110)の第1の軸長手方向端部領域(16、116)がピペット開口部(12、112)を含み、前記ピペット開口部(12、112)を通ってピペット操作する流体が操作中に流れることができ、前記ピペット操作する長手方向端部領域(16、116)に前記軸方向に対向する結合長手方向端部領域(18、118)としての前記ピペット先端部(10、110)の第2の軸長手方向端部領域(18、118)が、ピペット装置(140)の結合反対形状に結合し、好ましくは解放可能に結合するための結合形状(20、120)を含み、前記ピペット先端部(10、110)が、それぞれ、100nm〜1000nm、好ましくは150nm〜750nm、特に好ましくは200nm〜500nmの2次粗さを有し、800nm〜5500nm、好ましくは1750nm〜4500nm、特に好ましくは2500nm〜3700nmのピークピーク粗さを有する前記ピペット先端部(10、110)の外側(30、130)上の外側疎水性領域(32)および前記ピペット先端部(10、110)の内側(28、128)上の内側疎水性領域(26)を含むピペット先端部(10、110)において、前記外側疎水性領域(32)の軸方向の延長範囲と前記内側疎水性領域(26)の軸方向の延長範囲が互いに異なることを特徴とするピペット先端部。
【請求項2】
前記外側疎水性領域(32)と前記内側疎水性領域(26)とが、それぞれ前記ピペット開口部(12、112)の縁部(34、134)から前記軸方向に続く異なる距離だけ延在することを特徴とする、請求項1に記載のピペット先端部。
【請求項3】
前記ピペット開口部(12、112)から軸方向にさらに離れるように位置付けられた前記内側疎水性領域(26)の端部が、前記ピペット開口部(12、112)から軸方向にさらに離れるように位置付けられた前記外側疎水性領域(32)の端部よりもさらに前記ピペット開口部(12、112)から離れるように位置付けられることを特徴とする、請求項1または2に記載のピペット先端部。
【請求項4】
前記外側疎水性領域(32)と前記内側疎水性領域(26)とが、前記ピペット先端部(10、110)の前記外側(30、130)と前記内側(28、128)の間の境界を画定する前記ピペット開口部(12、112)の縁部(34、134)を覆う連続した疎水性領域(26、32)を形成することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のピペット先端部。
【請求項5】
前記ピペット先端部が、少なくとも1つの疎水性領域(26、32)に非被覆ピペット先端部(10、110)の材料よりも強い疎水性の被覆を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のピペット先端部。
【請求項6】
前記ピペット先端部が、前記ピペット先端部の前記内側領域に、好ましくは前記結合長手方向端部領域(18、118)により近接するように位置付けられた部分にフィルタ(36、136)を備え、前記フィルタ(36、136)が少なくとも部分的に、たとえば前記ピペット開口部(12、112)に面する部分に、好ましくはフィルタ全体に、非被覆フィルタ(36、136)の材料よりも強い疎水性の被覆を含むことを特徴とする、請求項5に記載のピペット先端部。
【請求項7】
前記非被覆ピペット先端部(10、110)が、前記非被覆ピペット先端部(10、110)の前記外側(30、130)および/または内側(28、128)上に、特に好ましくは前記非被覆ピペット先端部(10、110)の全体の厚さ上に、プラスチック材料、好ましくはポリマーまたはコポリマー、特に好ましくはポリプロピレン、ポリエチレン、またはポリアミド、あるいはその混合物を含み、前記疎水性被覆が前記ピペットのプラスチック材料に適合性がある、好ましくは前記ピペットのプラスチック材料と同じプラスチック材料の被覆を含むことを特徴とする、請求項5または6に記載のピペット先端部。
【請求項8】
前記非被覆ピペット先端部(10、110)が、前記非被覆ピペット先端部(10、110)の少なくとも疎水性被覆が意図された領域にポリプロピレンを含み、好ましくはポリプロピレンで形成され、前記疎水性被覆がポリプロピレン−ポリエチレンコポリマーを含むことを特徴とする、請求項5〜7のいずれか一項に記載のピペット先端部。
【請求項9】
ピペット先端部(10、110)を疎水性に被覆する方法であって、少なくとも前記ピペット先端部(10、110)の外側(30、130)および内側(28、128)の領域を湿潤溶液で湿潤させるステップを含み、より正確には、
前記ピペット先端部(10、110)を可変の流体圧力を有する流体圧力源に結合するステップと、
前記結合されたピペット先端部(10、110)を前記湿潤溶液に浸すステップと、
湿潤溶液を前記ピペット先端部(10、110)内に吸引するステップと、
前記吸引した湿潤溶液を分注するステップと、
前記湿潤溶液中に含まれる溶剤を蒸発させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
前記ピペット先端部(10、110)内に前記吸引された湿潤溶液柱の高さが、前記湿潤溶液内に浸された前記ピペット先端部(10、110)の深さと異なり、好ましくはそれを超えることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ピペット先端部(10、110)を疎水性に被覆する方法であって、少なくとも前記ピペット先端部(10、110)の内側(28、128)の領域を湿潤溶液で湿潤させるステップを含み、より正確には、
前記ピペット先端部(110)の他に保持空洞(148)、好ましくは管部材、特に好ましくはガラス管部材をピペット装置(140)に設けるステップと、
前記保持空洞(148)を湿潤溶液に浸すステップと、
湿潤溶液を前記保持空洞(148)内に吸引するステップと、
前記ピペット先端部(110)を前記保持空洞(148)に連結するステップと、
前記吸引した湿潤溶液を前記保持空洞(148)から前記ピペット先端部(110)を通して分注し、従って前記ピペット先端部(110)の内側のピペット流体保持室部分を洗浄するステップと、
前記湿潤溶液中に含まれた溶媒を蒸発させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記蒸発させるステップが、前記ピペット先端部(10、110)を加熱し、かつ/または前記ピペット先端部(10、110)を通して流体、好ましくは気体、特に好ましくは空気、具体的には乾燥空気を通過させるステップを含むことを特徴とする、請求項9〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記湿潤溶液を温度65°C〜85°C、好ましくは70°C〜80°C、特に好ましくは約75°Cで供給するステップを含むことを特徴とする、請求項9〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記湿潤溶液が、ポリマーまたはコポリマー、好ましくはポリプロピレン‐ポリエチレンコポリマー、および好ましくはポリプロピレン‐ポリエチレンコポリマーを溶解するキシレンベースの溶媒を含むことを特徴とする、請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記湿潤溶液が、流量0.3ml/s〜0.7ml/s、好ましくは0.4ml/s〜0.6ml/sで前記ピペット先端部(10、110)を通して分注され、かつ/または、前記湿潤溶液が温度20°C〜30°C、好ましくは21°C〜25°C、特に好ましくは22°C〜25°Cで前記ピペット先端部(10、110)を通して分注されることを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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