説明

疑似血管ユニット

【課題】形状やサイズ等の特徴を所望の特徴に変えることが可能な疑似血管ユニット及び疑似血管ユニットの製造方法を提供することである。
【解決手段】疑似血管ユニットは、第1の樹脂部及び第2の樹脂部を備える。第1の樹脂部は、疑似血管の一部を構成し、前記疑似血管の走行方向における面を形成する。第2の樹脂部は、前記疑似血管の走行方向における面と貼り合わされることによって前記疑似血管の他の部分を構成する。また、疑似血管ユニットの製造方法は疑似血管の内腔に対応する部分を除いて第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを溶着する工程と、溶着された又は溶着中の前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間における前記内腔に対応する部分に流体を注入することによって前記内腔を形成する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疑似血管ユニット及び疑似血管ユニットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医師や看護師が採血や注射などの刺針技術を習得するために疑似腕部が利用されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照)。従来の疑似腕部は、溝状の間隙を設けた人の硬質の腕型モデルにチューブ状の疑似血管をはめ込み、ゴム製の疑似皮膚層で覆うことによって構成される。或いは、従来の疑似腕部は、人の腕に装着可能な支持層に肉組織を模擬した複数の分割片を設け、分割片の間に疑似血管を配置することによって構成される。
【0003】
そして、刺針技術の練習者は、疑似腕部の溝又は分割片の形状に沿って取り付けられた血管チューブを目標に皮膚層の上から注射針を穿刺し、血管チューブ内の疑似血液を採取するという練習を実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−195447号公報
【特許文献2】特開2006−317635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の疑似腕部では、血管チューブを取り付けるための溝の位置や分割片の形状を任意に変更することができない。このため、血管パターンや血管の直径等の血管の特徴を所望の特徴に変えることができない。加えて、分岐する血管を模擬することが困難である。
【0006】
従って、実際には多用な特徴を有する血管を適切に模擬することができず、十分な練習や適切な注射技能の評価を行うことができない場合がある。更に、練習の度に注射跡が血管チューブを覆う疑似皮膚層に増えていくこととなる。このため、適切な練習を行うことが困難となる恐れもある。
【0007】
そこで、本発明は、形状やサイズ等の特徴を所望の特徴に変えることが可能な疑似血管ユニット及び疑似血管ユニットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態に係る疑似血管ユニットは、第1の樹脂部及び第2の樹脂部を備える。第1の樹脂部は、疑似血管の一部を構成し、前記疑似血管の走行方向における面を形成する。第2の樹脂部は、前記疑似血管の走行方向における面と貼り合わされることによって前記疑似血管の他の部分を構成する。
【0009】
また、本発明の実施形態に係る疑似血管ユニットの製造方法は、疑似血管の内腔に対応する部分を除いて第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを溶着する工程と、溶着された又は溶着中の前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間における前記内腔に対応する部分に流体を注入することによって前記内腔を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態に係る疑似血管ユニット及び疑似血管ユニットの製造方法によれば、形状やサイズ等の特徴を所望の特徴に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る疑似血管ユニットを人の腕に装着した状態を示す図。
【図2】図1に示す疑似血管ユニットの腕型部の横断面図。
【図3】図2に示す疑似血管壁シートの製造方法を説明する図。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る疑似血管ユニットの構成要素となる腕型部の縦断面図。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る疑似血管ユニットを構成する疑似血管壁シート及び疑似血液供給系の構造を示す上面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る疑似血管ユニット及び疑似血管ユニットの製造方法について添付図面を参照して説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る疑似血管ユニットを人の腕に装着した状態を示す図であり、図2は図1に示す疑似血管ユニット1の腕型部2の横断面図である。
【0014】
疑似血管ユニット1は、腕型部2及び疑似血液供給系3を備えている。腕型部2は、プロテクタ4、疑似肉組織層5、疑似血管壁シート6、疑似血液注入用パイプ7及び疑似皮膚シート8を有する。疑似血液供給系3は、疑似血液9、疑似血液供給チューブ10及び疑似血液供給タンク11を有する。
【0015】
腕型部2のプロテクタ4は、外表面が滑らかで、人の腕Aに装着することが可能な構造を有する。プロテクタ4は、注射針を腕型部2に穿刺した場合に、人の腕Aを保護する役割を果たす腕型部2の構成要素である。従って、プロテクタ4は、硬質プラスチック等の注射針を貫通させない程度の強度を有する任意の材料で構成することができる。
【0016】
例えば図2に示すように、人の腕Aの太さに合わせたC字状の断面を有するプロテクタ本体4Aの両端にバンド4Bを設けてプロテクタ4を構成することができる。一対のバンド4Bは、面ファスナ等により着脱可能に貼り合わせることができる。尚、円筒状のプロテクタやバンド4Bを省略したプロテクタなど、様々なタイプのプロテクタ4を腕型部2の構成要素とすることができる。
【0017】
プロテクタ4の外表面側には、疑似肉組織層5が設けられる。疑似肉組織層5は、人の皮下脂肪や肉組織を模擬するための腕型部2の構成要素である。従って、疑似肉組織層5には、ウレタン等の軟質の樹脂やその他の柔らかい材料をシート状にしたものを用いることができる。
【0018】
疑似肉組織層5の外表面側には、疑似血管壁シート6が設けられる。疑似血管壁シート6は、2枚の樹脂シートを互いに貼り合せ、樹脂シート間に血管内腔を模擬した空隙6Aを設けた構成である。従って、疑似血管壁シート6自体は、血管壁を模擬する腕型部2の構成要素である。
【0019】
血管壁の柔らかさを模擬するためには熱可塑性の樹脂が適している。従って、疑似血管壁シート6は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等の熱可塑性の樹脂を用いて構成することができる。但し、疑似血管ユニット1の用途によっては、熱硬化性の樹脂を用いてもよい。また、疑似血管壁シート6を構成する各樹脂シートを、材質が同一又は異なる複数のサブ樹脂シートをラミネートしたものとし、各材質の特性を有効活用するようにしてもよい。
【0020】
特に、疑似血管壁シート6をエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA: Ethylence-Vinyl Acetate)やポリエチレン等の熱可塑性樹脂の発泡体で構成すると、血管内腔を模擬した空隙6Aに疑似血液9を注入して注射針を穿刺した場合に、注射痕からの模擬血液の漏れを抑止する効果が得られる。逆に、疑似血管壁シート6をフィルム状の樹脂シートで構成すると、注射針が疑似血管壁シート6に不自然に引っかかることによる違和感を低減させることができる。
【0021】
疑似血管壁シート6の端部には、疑似血液注入用パイプ7が設けられる。疑似血液注入用パイプ7は、疑似血管壁シート6間における血管内腔を模擬した空隙6Aと連通する位置に設けられる。そして、疑似血液注入用パイプ7を介して疑似血管壁シート6間の空隙6Aに疑似血液9を注入することができる。疑似血液注入用パイプ7は、疑似血液9として用いられる液体を注入することが可能であれば、ゴムチューブや樹脂チューブ等の任意の材料を用いて構成することができる。
【0022】
疑似血管壁シート6の外表面側には、疑似皮膚シート8が設けられる。疑似皮膚シート8は、皮膚を模擬した腕型部2の構成要素である。従って、疑似皮膚シート8は、例えば厚さ3×10-3[m]程度のエラストマやポリエチレンテレフタレート(PET: Polyethylene terephthalate)等の皮膚に近い触感や弾力を有する材料で構成することができる。
【0023】
疑似皮膚シート8で疑似血管壁シート6を覆うことによって、外部からは疑似血管壁シート6の血管壁の部分の位置を疑似皮膚シート8の起伏又は触覚によって把握せざるを得ない状況となる。但し、疑似血管ユニット1の用途によっては、疑似血管壁シート6及び疑似皮膚シート8の一方又は双方を透明にし、疑似血管壁シート6の起伏や疑似血液9を視認できるようにしてもよい。
【0024】
また、必要に応じて疑似皮膚シート8の外表面側には表面皺を設けたり、マーキング12を付すことができる。図1には、A及びBという文字を疑似皮膚シート8にマーキングした例を示している。
【0025】
上述した腕型部2の疑似肉組織層5、疑似血管壁シート6及び疑似皮膚シート8は、疑似血管ユニット1の用途に応じて任意の方法で互いに貼り合せることができる。例えば、面ファスナ、ボタン、ホック等の着脱手段によって疑似肉組織層5、疑似血管壁シート6及び疑似皮膚シート8の一部又は全部を貼り合せれば、交換することが可能となる。逆に、接着剤や縫い合わせ等の貼合せ手段によって剥離しないように疑似肉組織層5、疑似血管壁シート6及び疑似皮膚シート8の全部又は一部をプロテクタ4に貼合わせてもよい。
【0026】
また、疑似血管ユニット1の用途によっては、プロテクタ4、疑似肉組織層5、疑似血液注入用パイプ7及び疑似皮膚シート8の一部又は全部を省略してもよい。疑似血管ユニット1の構成要素を交換用の部品として流通させる場合も同様である。
【0027】
疑似血液供給系3の疑似血液供給タンク11は、腕型部2に供給するための疑似血液9を貯留する容器である。疑似血液供給タンク11には、点滴用のタンクと同様なタンクを用いることができる。また、疑似血液9としては、赤インク等の任意の液体を用いることができる。
【0028】
疑似血液供給チューブ10は、疑似血液供給タンク11から供給される疑似血液9を疑似血管壁シート6内の空隙6Aに供給するための供給管である。従って、疑似血液供給チューブ10によって疑似血液供給系3の疑似血液供給タンク11と腕型部2の疑似血液注入用パイプ7とが接続される。
【0029】
次に、疑似血管壁シート6の製造方法について説明する。ここでは、一例として熱可塑性を有する第1及び第2の2枚の樹脂シートを熱溶着(ヒートシール)法により溶着させて疑似血管壁シート6を製造する場合について説明する。
【0030】
熱可塑性を有する第1及び第2の樹脂シートを接着する場合には、主として加熱装置による加熱工程及びプレス装置による冷間プレス工程によって疑似血管壁シート6を製造することができる。すなわち、加熱工程により2枚の樹脂シートを加熱して軟化させ、軟化させた2枚の樹脂シートをプレス装置によって冷間でプレスすることによって疑似血管壁シート6を製造することができる。換言すれば、第1の樹脂シート及び第2の樹脂シートの溶着前に第1の樹脂シート及び第2の樹脂シートを加熱する工程が必要である。
【0031】
図3は、図2に示す疑似血管壁シート6の製造方法を説明する図である。
【0032】
図3(A)は予め軟化させた第1及び第2の2枚の樹脂シート21A、21Bをプレス装置20の上型20Aと下型20Bとの間に配置した状態を示している。すなわち、成形用の1対の平面型の間に予め所定のサイズにカットし、かつ軟化させた第1及び第2の樹脂シート21A、21Bがセットされる。尚、材質が同一又は異なる複数のサブ樹脂シートを予めラミネートして第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bを構成しても良い。
【0033】
一方、プレス装置20の上型20A及び下型20Bのプレス面には、予め血管の太さ、位置及び形状に合わせた溝20Cが設けられる。すなわち、静脈や動脈等の血管パターンを模擬した溝20Cが上型20A及び下型20Bの一方又は双方のプレス面に設けられる。従って、溝20Cの深さは必ずしも一様でなく、分岐する溝が上型20A及び下型20Bの一方又は双方のプレス面に設けられる場合もある。
【0034】
尚、上型20Aと下型20Bが合わさる部分における上型20A側における溝20Cの深さと下型20B側における溝20Cの深さを調整することによって、疑似血管壁シート6の管腔となる空隙6Aを3次元的に形成することが可能となる。すなわち、プレス装置20のプレス方向における管腔の位置を変えることができる。
【0035】
加えて、上型20A及び下型20Bのプレス面には、皺やA、B等のマーキング用の文字や記号を設けることができる。すなわち、皺の深さやマーキング用の文字や記号に合わせた溝や凹凸を上型20A及び下型20Bのプレス面に設けることができる。
【0036】
プレス装置20の上型20A及び下型20Bを構成する平面型は、任意の方法で製作することができる。例えば、血管パターンの写真を画像処理して取得した血管の輪郭をアルミ板に描画し、アルミ板を電導糸鋸等の工具で血管の輪郭に沿って削ることによって平面型を製造することができる。
【0037】
また、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bの間に空気注入用パイプ22の一端が挟まるようにセットされる。空気注入用パイプ22は、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bをプレス装置20によって圧着した後に、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bの間に空気を送り込むための管である。従って、空気注入用パイプ22の一端は、上型20A及び下型20Bの一方又は双方に形成された溝20Cの間に配置される。空気注入用パイプ22は、空気を送り込むことが可能であればよく、アルミニウム等の任意の素材で構成することができる。
【0038】
そして図3(A)に示す状態で、上型20Aをプレス方向に移動させ、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bが上型20Aと下型20Bとによってプレスされる。このとき、上型20Aと下型20Bの溝20Cのない部分では樹脂シート21A、21Bが互いに接触した状態で冷やされる。このため、溝20Cのない部分では2枚の樹脂シート21A、21Bが硬化して互いに接着される。一方、溝20Cのある部分では樹脂シート21A、21Bが十分に冷やされず、樹脂シート21A、21Bは接着されない。
【0039】
また、上型20A及び下型20Bのプレス面に皺やマーキング用の凹凸が設けられている場合には、凹凸が樹脂シート21A、21Bの非接着面に転写される。尚、疑似血管壁シート6に貼り合わされる疑似皮膚シート8についても同様に皺を模擬した凹凸を有する型を用いたプレス加工によって製造することができる。
【0040】
次に、空気注入用パイプ22から第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bの間に空気が注入される。このため、注入された空気によって接着されていない部分の樹脂シート21A、21Bが膨らむ。そして、空気は、上型20A及び下型20Bの溝20Cに沿って2枚の樹脂シート21A、21Bの間を進行する。この結果、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bの間には上型20A及び下型20Bの溝20Cに沿う空隙6Aが形成される。上型20A及び下型20Bの溝20Cは、血管パターンに応じた深さ及び形状を有するため、第1及び第2の各樹脂シート21A、21Bの間に形成された空隙6Aは、血管壁によって囲まれた血管内腔を模した形状となる。
【0041】
そして、上型20Aを下型20Bから引き離すと図3(B)に示すように、血管壁を模擬した疑似血管壁シート6の原形を製造することができる。尚、空気注入用パイプ22をプレス装置20によるプレス後の2枚の樹脂シート21A、21Bの間に差し込むようにしてもよい。但し、プレス前に空気注入用パイプ22をセットすれば、空気注入用パイプ22のセットが容易となる。
【0042】
図3(B)に示すように、空気が注入された空隙6Aの他端が閉塞している場合には、空気の逃げがないため、血管内腔を模擬した空隙6Aに疑似血液9を注入することが困難である。そこで、プレス工程に続いて切断工程を設けることができる。切断工程は、疑似血管壁シート6の端部を切断することによって空隙6Aを貫通させる製造工程である。従って、疑似血管壁シート6の端部を切断することが可能な公知の切断装置を切断工程用に用いることができる。
【0043】
尚、疑似血管壁シート6の空隙6Aが貫通するようにプレス装置20のプレス面に溝20Cを設けることもできる。この場合、疑似血管壁シート6の切断工程を省略することができる。一方、疑似血管壁シート6の空隙6Aがめくら孔となるようにプレス装置20のプレス面に溝20Cを設ければ、疑似血管壁シート6の空隙6A内に注入される空気の圧力を高くすることができる。このため、血管内腔を模擬した空隙6Aを十分に膨らませることができる。
【0044】
更に、疑似血管壁シート6に疑似血管の内腔として形成される空隙6Aの一端が閉塞するようにプレス面に溝20Cを設け、空気の代わりに疑似血液9を直接注入することによって一端が閉塞する空隙6Aを形成するようにしてもよい。
【0045】
このように製造された疑似血管壁シート6は、図1に示すように疑似肉組織層5とともにプロテクタ4に貼り付け、疑似血液9を注入して注射の穿刺訓練等の所望の目的のために使用することができる。
【0046】
ところで、熱溶着は溶着法の一種であるが、他の溶着法として超音波溶着及び高周波溶着が知られている。超音波溶着は、超音波溶着機(超音波ウェルダ)により振動を付加しながら加圧することによって熱可塑性の2つの被加熱物を摩擦熱で瞬時に溶着させる溶着法である。また、高周波溶着は、高周波溶着機(高周波ウェルダ)により高周波の電磁波を被加熱物に照射し、原子及び分子を振動させることによって誘電体で構成される被加熱物を溶着させる溶着法である。
【0047】
疑似血管壁シート6は、これら超音波溶着又は高周波溶着によって樹脂シート21A、21Bを接着することによっても製造することができる。すなわち、血管の内腔を模擬する線状の部分が溶着されないように2枚の樹脂シート21A、21Bを超音波溶着又は高周波溶着することによって疑似血管壁シート6を製造することができる。換言すれば、血管の内腔を模擬する線状の部分を除いて2枚の樹脂シート21A、21Bを超音波溶着又は高周波溶着することによって疑似血管壁シート6を製造することができる。具体的には、超音波溶着機又は高周波溶着機用の金型の形状を疑似血管の形状に合わせて製作し、疑似血管の内腔に相当する部分のみが溶着されないようにすれば良い。
【0048】
また、疑似血管壁シート6を熱硬化性の樹脂シートで構成し、硬い血管壁を模擬する場合には、プレス機のプレス面を加熱する熱間成形によって2枚の樹脂シート同士を貼り合せることができる。
【0049】
つまり、疑似血管壁シート6は、少なくとも疑似血管の内腔に対応する部分を除いて第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとを熱溶着、超音波溶着又は高周波溶着する工程及び溶着された又は溶着中の第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとの間における疑似血管の内腔に対応する部分に空気や疑似血液9等の流体を注入することによって疑似血管の内腔を形成する工程によって製造することができる。
【0050】
特に熱溶着によって疑似血管壁シート6を製造する場合には、少なくとも疑似血管の形状に対応する溝20Cを設けた型を用いて第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとを熱溶着する溶着工程と、熱溶着された又は熱溶着中の第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとの間に空気や疑似血液9等の流体を注入することによって溝20Cに沿う空隙6Aを疑似血管の内腔として形成する工程によって疑似血管壁シート6を製造することができる。そして、溶着された又は溶着中の第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとの間に空気を注入することによって一端が閉塞する空隙6Aを形成した場合には、空隙6Aを形成した後に第1の樹脂シート21A及び第2の樹脂シート21Bを切断することによって空隙6Aを貫通させる工程を更に設ければよい。
【0051】
また、樹脂シート21A、21B間の溶着に限らず、所望の材質のシート材間における接着又は溶着によっても疑似血管壁シート6を製造することができる。換言すれば、疑似血管壁シート6は、血管の内腔を模擬する空隙6Aを形成させて溶着又は接着することが可能な任意の2枚のシートを、シートの材質に応じた接着法で互いに貼り合せることによって製造することができる。
【0052】
尚、疑似血管壁シート6を製造した後に、空隙6Aを形成する疑似血管壁に沿って疑似血管壁以外のシート状の部分を除去するトリム工程を設けてもよい。この場合には、トリム工程によって疑似血管壁シート6から筒状の疑似血管壁が切り出される。このため、疑似血管壁シート6に代えて、疑似血管壁を疑似血管ユニット1の構成要素とすることができる。更に、疑似血管壁シート6の一部のみをトリム工程によって除去すれば、シート状の疑似血管壁とシート状でない疑似血管壁とが複合した疑似血管壁を製造することもできる。
【0053】
トリム工程を経て切り出された疑似血管壁は、疑似血管の一部を構成する第1の樹脂部と、疑似血管の他の部分を構成する第2の樹脂部とを疑似血管の走行方向における疑似血管壁の断面で互いに貼り合わせた構造となる。そして、疑似血管壁の一部を構成する第1の樹脂部と疑似血管壁の他の一部を構成する第2の樹脂部との間における空隙6Aが疑似血管の内腔として利用される。
【0054】
一方、トリム工程を経ずに製造される疑似血管壁シート6は、疑似血管の一部を構成するシート状の第1の樹脂部と、疑似血管の他の部分を構成するシート状の第2の樹脂部とを、疑似血管の走行方向となるシート面で互いに貼り合わせた構造となる。そして、互いに貼り合わされた第1の樹脂部を構成する第1の樹脂シート21Aと、第2の樹脂部を構成する第2の樹脂シート21Bとの間に形成される空隙6Aが疑似血管の内腔として利用される。
【0055】
そして、トリム工程の有無に関わらず、太さが一様でなく、かつ分岐構造を有する疑似血管壁シート6又は疑似血管壁を製造することができる。更に、図1及び図2に示すように、皴を模擬した凹凸を有する疑似皮膚シート8、肉組織を模擬した疑似肉組織層5及び人の腕Aに装着して注射針から保護するためのプロテクタ4の少なくとも1つを疑似血管壁シート6又は疑似血管壁と貼り合わせることによって疑似血管ユニット1を構成することができる。
【0056】
つまり以上のような、疑似血管ユニット1は、2つの樹脂シート21A、21Bを互いに貼り合わせ、貼り合わせた樹脂シート21A、21B間に疑似血管の内腔を模擬した空隙6Aを形成することによって血管を模擬したものである。
【0057】
このため、疑似血管ユニット1によれば、疑似血管のパターン、太さ、走行方向および形状等の特徴を所望の特徴にすることができる。特に、従来は困難であった分岐する血管や太さが不均一の血管を模擬することができる。このため、多様な血管を模擬することができる。
【0058】
また、疑似血管ユニット1の疑似血管壁シート6又は疑似血管壁を交換することによって、疑似血管の特徴を簡易かつ自在に変更することができる。このため、異なる患者を想定した注射の訓練等に疑似血管壁シート6を利用することができる。また、注射の訓練用に疑似血管ユニット1を用いる場合には、注射痕のない疑似血管壁シート6又は疑似血管壁に交換することができる。このため、疑似血管ユニット1の劣化を防止することができる。
【0059】
更に、疑似皮膚シート8や疑似肉組織層5の厚さの調整によって年齢に応じた皮膚や皮下脂肪の厚さを模擬することができる。これにより、血管の視認の困難性を調整することができる。また、疑似皮膚シート8に設けられる皺の深さや量の調整によって、注射針の穿刺の困難性を調整することもできる。
【0060】
加えて、マーキング12を付すことによって枝分かれした疑似血管を識別して穿刺等の訓練に用いることができる。この場合、疑似血管が疑似血管壁シート6と一体であることからマーキング12の誤表示を回避することができる。
【0061】
このため、疑似血管ユニット1は、注射の訓練や技能評価のための注射シミュレータとしてのみならず、点滴の穿刺、カテーテルの挿入、ステントの設置、カプセル型内視鏡の遠隔操作等の血管を対象とする様々なシミュレータとして利用することができる。また、人に限らず、動物の血管のシミュレータとして利用することもできる。
【0062】
尚、上述の例では、プロテクタ4を介して疑似血管ユニット1を人の腕に装着できるように構成したが、もちろん卓上型等の人の腕に装着せずに使用される疑似血管ユニット1を構成してもよい。
【0063】
更に、人の腕を模擬した腕型モデルを疑似血管ユニット1の構成要素とし、腕型の疑似血管ユニット1を構成してもよい。この場合、例えば肉組織を模擬した熱可塑性の樹脂などで構成した腕型モデルに直接又は中間層を挟んで間接的に疑似血管壁シート6又は疑似血管壁を貼り合せることができる。また、腕型に限らず、人や動物の所望の部分を模ったモデルを構成要素として疑似血管ユニット1を構成することもできる。
【0064】
(第2の実施形態)
図4は本発明の第2の実施形態に係る疑似血管ユニットの構成要素となる腕型部の縦断面図である。
【0065】
図4に示された第2の実施形態における疑似血管ユニット1Aは、腕型部の疑似血管壁シート6と疑似肉組織層5とを一体化するとともにフィルム状の接着剤を用いた点が図1及び図2に示す第1の実施形態における疑似血管ユニット1と相違する。他の構成および作用については図1及び図2に示す疑似血管ユニット1と実質的に異ならないため腕型部の拡大断面図のみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0066】
疑似血管ユニット1Aの腕型部2Aは、プロテクタ4、第1の疑似血管シート30A、第1の接着層31A、第2の接着層31B、第2の疑似血管シート30B及び疑似皮膚シート8を有する。第1の疑似血管シート30Aはプロテクタ4に、第2の疑似血管シート30Bは第1の疑似血管シート30Aに、疑似皮膚シート8は第2の疑似血管シート30Bに、それぞれ貼り付けられる。
【0067】
第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bは、肉組織層を模擬し、かつ疑似血管壁を形成するための腕型部2Aの構成要素である。従って、第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bは、模擬対象となる肉組織に応じた厚さを有するウレタン等の軟質の樹脂シートでそれぞれ構成することができる。
【0068】
第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bは、フィルム状の接着剤を介して互いに貼り合わされる。接着剤としては、例えばEVA/PE(Polyethylene)樹脂等の熱可塑性の樹脂を用いることができる。従って、第1の疑似血管シート30Aと第2の疑似血管シート30Bとの間には、第1の接着層31A及び第2の接着層31Bが形成される。より具体的には、第1の接着層31Aが第1の疑似血管シート30Aの第2の疑似血管シート30B側に形成される。一方、第2の接着層31Bが第2の疑似血管シート30Bの第1の疑似血管シート30A側に形成される。
【0069】
更に、第1の疑似血管シート30Aと第2の疑似血管シート30Bとの間に、疑似血管の疑似内腔32として空隙6Aが設けられる。第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bの疑似内腔32側には第1の接着層31A及び第2の接着層31Bが形成されているが、疑似内腔32の形状は第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bの強度により保たれている。従って、疑似血管及び疑似内腔32を実質的に形成しているのは、肉組織層を模擬している第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bである。
【0070】
すなわち、疑似血管ユニット1Aでは、第1の疑似血管シート30Aが疑似血管の一部を構成し、第2の疑似血管シート30Bが疑似血管の他の部分を構成している。また、疑似血管の走行方向となる第1の疑似血管シート30Aのシート面と第2の疑似血管シート30Bのシート面とが互いに貼り合わされている。換言すれば、第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bが、血管及び肉組織層の双方を模擬している。
【0071】
このような構造を有する疑似血管ユニット1Aの腕型部2Aは、図1に示す疑似血管ユニット1の腕型部2と同様に、図3に示すような熱溶着又は他の溶着法によって製造することができる。例えば、溶着側の面が第1の接着層31Aで覆われた第1の疑似血管シート30Aと、溶着側の面が第2の接着層31Bで覆われる一方、他方の面がPET等の材料で構成された疑似皮膚シート8で覆われた第2の疑似血管シート30Bとを、疑似血管の形状に対応する溝20Cを設けた型を用いて溶着することによって腕型部2Aのプロテクタ4以外の部分を製造することができる。
【0072】
疑似内腔32部分についても空気注入用パイプ22により第1の疑似血管シート30Aと第2の疑似血管シート30Bとの間に必要な圧力の空気を注入することによって形成することができる。尚、プレス加工時における型の温度を適切に制御すれば、溶融点の違いにより、第1の疑似血管シート30A及び第2の疑似血管シート30Bが軟化している状態でフィルム状の接着剤を硬化させることができる。
【0073】
このため、第2の実施形態における疑似血管ユニット1Aによれば、1回のプレスによってプロテクタ4に着脱可能な疑似肉組織部分を備えた疑似血管を製造することができる。また、図1に示す第1の実施形態における疑似血管ユニット1と同様な効果を得ることができる。
【0074】
尚、図1に示す第1の実施形態における疑似血管ユニット1においても、疑似血管壁シート6を構成するために、第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとをフィルム状の接着剤を介して溶着することができる。この場合には、第1の実施形態においても疑似血管壁シート6又は疑似血管壁に第1の接着層31A及び第2の接着層31Bが形成される。
【0075】
(第3の実施形態)
図5は本発明の第3の実施形態に係る疑似血管ユニットを構成する疑似血管壁シート及び疑似血液供給系の構造を示す上面図である。
【0076】
図5に示された第3の実施形態における疑似血管ユニット1Bは、疑似血管壁シート6と疑似血液供給系3とを一体化した点が図1及び図2に示す第1の実施形態における疑似血管ユニット1と相違する。他の構成および作用については図1及び図2に示す疑似血管ユニット1と実質的に異ならないため、疑似血管壁シート6及び疑似血液供給系3のみ図示し、同一の構成については同符号を付して説明を省略する。
【0077】
疑似血管ユニット1Bでは、疑似血管壁シート6を構成する第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとの間に疑似血管の内腔を模擬する空隙6Aのみならず、疑似血液9を貯留するための空隙6Bが疑似血液供給部40として設けられる。すなわち、疑似血管の内腔を模擬する空隙6Aが疑似血液9を貯留するための空隙6Bと連通した状態で第1の樹脂シート21Aと第2の樹脂シート21Bとの間に形成される。更に換言すれば、疑似血管ユニット1Bの疑似血管壁シート6には、疑似血液供給タンク11が内蔵される。
【0078】
このような構造を有する疑似血管ユニット1Bの疑似血管壁シート6も、疑似血管の形状に対応する溝20C及び疑似血液供給部40に対応する凹部を設けた型を用いた第1の樹脂シート21A及び第2の樹脂シート21Bの溶着によって製造することができる。
【0079】
尚、空気の代わりに直接疑似血液9を注入することによって疑似血管壁シート6を簡易に製造することができる。この場合、疑似血管の内腔を模擬した空隙6Aの端部が閉塞されていても第1の樹脂シート21A及び第2の樹脂シート21Bの端部を切断する工程が不要である。
【0080】
また、疑似血管壁シート6に開閉可能なファスナを設けてもよい。この場合、疑似血管壁シート6の製造後において疑似血液供給部40に疑似血液9を注入することができる。また、疑似血液9の量が減った場合には、疑似血液供給部40に疑似血液9を補充することができる。
【0081】
このため第3の実施形態における疑似血管ユニット1Bによれば、第1の実施形態における疑似血管ユニット1と同様な効果を得ることができる。加えて、疑似血管ユニット1Bをコンパクトにすることができる。また、疑似血液9を注入した状態で疑似血管壁シート6を流通させたり、疑似血液9を注入した状態の疑似血管壁シート6をプロテクタ4に取付けることができる。
【0082】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【符号の説明】
【0083】
1、1A、1B 疑似血管ユニット
2、2A 腕型部
3 疑似血液供給系
4 プロテクタ
4Aプロテクタ本体
4B バンド
5 疑似肉組織層
6 疑似血管壁シート
6A、6B 空隙
7 疑似血液注入用パイプ
8 疑似皮膚シート
9 疑似血液
10 疑似血液供給チューブ
11 疑似血液供給タンク
12 マーキング
20 プレス装置
20A 上型
20B 下型
20C 溝
21A 第1の樹脂シート
21B 第2の樹脂シート
22 空気注入用パイプ
30A 第1の疑似血管シート
30B 第2の疑似血管シート
31A 第1の接着層
31B 第2の接着層
32 疑似内腔
40 疑似血液供給部
A 腕

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疑似血管の一部を構成し、前記疑似血管の走行方向における面を形成する第1の樹脂部と、
前記疑似血管の走行方向における面と貼り合わされることによって前記疑似血管の他の部分を構成する第2の樹脂部と、
を備える疑似血管ユニット。
【請求項2】
前記第1の樹脂部を第1の樹脂シートで構成する一方、前記第2の樹脂部を第2の樹脂シートで構成し、互いに貼り合わされた前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間に形成される空隙を前記疑似血管の内腔とする請求項1記載の疑似血管ユニット。
【請求項3】
前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間に疑似血液を貯留する供給部を設けた請求項2記載の疑似血管ユニット。
【請求項4】
前記第1の樹脂部及び前記第2の樹脂部を熱可塑性樹脂の発泡体で構成した請求項1乃至3のいずれか1項に記載の疑似血管ユニット。
【請求項5】
皴を模擬した凹凸を有する疑似皮膚シート、肉組織を模擬した疑似肉組織層、人の腕に装着して注射針から保護するためのプロテクタ及び肉組織を模擬した腕型モデルの少なくとも1つを前記疑似血管と貼り合わせた請求項1ないし4のいずれか1項に記載の疑似血管ユニット。
【請求項6】
疑似血管の内腔に対応する部分を除いて第1の樹脂シートと第2の樹脂シートとを溶着する工程と、
溶着された又は溶着中の前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間における前記内腔に対応する部分に流体を注入することによって前記内腔を形成する工程と、
を有する疑似血管ユニットの製造方法。
【請求項7】
前記疑似血管の形状に対応する溝を設けた型を用いて前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとを熱溶着し、前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間に前記流体を注入することによって前記溝に沿う空隙を前記内腔として形成する請求項6記載の疑似血管ユニットの製造方法。
【請求項8】
前記溶着された又は溶着中の前記第1の樹脂シートと前記第2の樹脂シートとの間に一端が閉塞する空隙を形成し、
前記空隙を形成した後に前記第1の樹脂シート及び前記第2の樹脂シートを切断することによって前記空隙を貫通させる工程を更に有する請求項6又は7記載の疑似血管ユニットの製造方法。
【請求項9】
前記第1の樹脂シート及び前記第2の樹脂シートをそれぞれ熱可塑性の樹脂シートとし、
溶着前の前記第1の樹脂シート及び前記第2の樹脂シートを加熱する工程を更に有する請求項7又は8記載の疑似血管ユニットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−68712(P2013−68712A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205885(P2011−205885)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【出願人】(395002102)株式会社シンデン (4)
【Fターム(参考)】