説明

疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システム

【課題】目視点検のなかで行う疲労亀裂の点検について点検品質を上げる疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムを提供すること。
【解決手段】被検査対象物Wに存在する亀裂想定箇所に対して接着剤によって固定される検知線11と、検知線11に通電する電源15と、予め設定されている識別情報を記憶部22に記憶し、送受信部24を介して行う識別情報の無線送信を制御部21によって制御するICタグ13とを有し、ICタグ13は、その制御部21が検知線11の通電遮断によって得られる断線情報を記憶部22に記憶し、断線情報と識別情報とを無線送信するようにした疲労亀裂検出装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などの構造物について行う目視点検の精度を向上させる疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁などの構造物は、長期に渡り繰り返し振動を受け金属疲労による亀裂が発生することがあるため、安全管理の観点から早期発見と対策が必要である。しかし、目視による検査では細かい亀裂の見逃しが生じてしまうため、下記特許文献1には亀裂の発生とその場所を早期に発見する疲労亀裂検出システムが提案されている。
【0003】
図7は、従来の疲労亀裂検出システムが適用された橋の全体図である。疲労亀裂検出システム100は、被検出物である橋梁101の亀裂を検出するためのシステムであって、橋梁200の表面に沿って並べられた2本の亀裂センサとしての破断検知線(以下、単に「検知線」とい)110と、亀裂場所特定装置120とを備えている。検知線110は、並行に並べられた2本が橋梁200の亀裂想定箇所を通って一筆書状に配線され、橋梁200の表面に接着される。
【0004】
例えば、鉄道車両300が橋梁200を何度も通過することで亀裂が発生すると、その亀裂部分に接着されている検知線110も断線する。そこで、疲労亀裂検査では、検知線10に接続された亀裂場所特定装置120からマイクロパルスが間欠的に発信される。検知線110が断線している箇所ではマイクロパルスが反射するため、再び検知線110を伝わるマイクロパルスを受信し、測定対象物までの往復時間を計測することで、発信点から断線位置までの距離を計測して亀裂発生箇所が特定される。
【特許文献1】特開2005−156552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、橋梁など構造物に対する検査は、前述した疲労亀裂が特に重要ではあるが、検査項目はそれだけではなく、ペンキの剥がれ、床板や橋台のクラックなどについても確認する必要がある。こうした検査項目は、前記特許文献1で示すようなシステムが構築されていないため、目視による検査が行われている。従って、疲労亀裂検出システムが設置されることの効果は大きいものの、橋梁など構造物について定期的に行う目視点検を無くすことはできなかった。
【0006】
一方で、疲労亀裂検出システムを使用せず、点検作業者が目視によって疲労亀裂を確認するとしたならば、作業者の熟練度や人手不足などの人的要因によって点検ミスが起こりやすくなることが考えられる。また、疲労亀裂の発生箇所が、容易に目視点検できるような箇所にないような場合もある。そして、見逃しによって疲労亀裂の発見が遅れると、復旧のための工事を早急に行わなければならず、通行止めが必要になって交通への影響が大きい。
更に、社会資本の老朽化に伴い、安全確認の観点から、橋梁のような構造物の維持管理の重要性が高まっている。こうした中で、少子高齢化により、点検に従事する作業者の高齢化や減少がますます進むものと思われる。また、点検精度の向上とともに、点検作業を効率化し、維持管理費の低減が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、目視点検のなかで行う疲労亀裂の点検について点検品質を上げる疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る疲労亀裂検出装置は、被検査対象物に存在する亀裂想定箇所に対して接着剤によって固定される検知線と、前記検知線に通電する電源と、予め設定されている識別情報を記憶部に記憶し、送受信部を介して行う前記識別情報の無線送信を制御部によって制御するICタグとを有し、前記ICタグは、その制御部が前記検知線の通電遮断によって得られる断線情報を記憶部に記憶し、前記断線情報と識別情報とを無線送信するようにしたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る疲労亀裂検出装置は、前記ICタグが、前記検知線が切断された場合に、切断信号を自己保持する回路を有し、疲労亀裂を判別するものであることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る疲労亀裂検出装置は、前記制御部が、前記検知線の通電遮断を検出した後に、通電遮断状態で保持した前記自己保持回路を解除し、通電の有無を前記断線情報として前記記憶部に記憶するようにしたものであることが好ましい。
また、本発明に係る疲労亀裂検出装置は、前記断線情報を、断線と電気的ノイズに判別する判別回路を有するものであることが好ましい。
また、本発明に係る疲労亀裂検出装置は、前記電源が、前記被検査対象物を移動体が通過する際に衝撃を受ける箇所に配置された圧電素子と、衝撃を受けた前記圧電素子から発生した電力を充電する充電器とを有するものであることが好ましい。
また、本発明に係る疲労亀裂検出装置は、前記検知線の断線時に前記制御部によって発光で断線情報を示す表示部を有するものであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る疲労亀裂検出システムは、被検査対象物に存在する複数の亀裂想定箇所に対し、それぞれの亀裂想定箇所ごとに前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する前記疲労亀裂検出装置が設置され、前記識別情報を入力することにより、複数存在する前記疲労亀裂検出装置の一と無線送信を可能とし、その疲労亀裂検出装置から受信した前記断線情報を記憶部に記憶するようにした可搬式情報収集装置を有するものであることを特徴とする。
また、本発明に係る疲労亀裂検出システムは、前記可搬式情報収集装置と接続して前記断線情報を記憶部に格納し、その断線情報に基づいて管理表を作成する演算処理装置を有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ICタグにより、検知線の通電遮断によって得られる断線情報を記憶部に記憶し、PDAなどの情報収集装置により断線情報を識別情報とともに無線送信することができるので、手間をかけることなく疲労亀裂に関する断線情報を収集することができ、この情報収集作業を従来から行われている目視点検作業の一部に組み込むことが可能である。そのため、目視による疲労亀裂の見落としを無くし、点検品質を上げることができる。また、点検の向上とともに点検作業を効率化し、維持管理費の低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明に係る疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムの一実施形態について図面を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施形態の疲労亀裂検出システムについて概念的に示した図である。特に、橋梁1について複数の疲労亀裂検出装置10(10a〜10d)を設置した状態を示している。本実施形態の疲労亀裂検出システムでは、従来例のように検知線を橋梁側面に長い距離に渡って張り巡らせるようにしたものではなく、橋梁1の複数の亀裂想定箇所にそれぞれ独立した疲労亀裂検出装置10a〜10dを設置するようにして構成したものである。橋梁1などの構造物では、亀裂が発生する箇所が想定できるため、その亀裂想定箇所に疲労亀裂検出装置10a〜10dが取り付けられる。
【0013】
次に、図2は、疲労亀裂検出装置10の具体的な設置状態を示した図である。橋梁1は、幅方向に複数並べられた主桁2が長手方向に配置され、隣り合う主桁2同士が横桁3によって連結されている。図2は、そうした主桁2のウェブ(腹板)201に対して横桁3が直交方向から突き当てられるようにして接続された箇所を示している。主桁2は、ウェブ201と、上下のフランジ202とによって形成され、横桁3も同様に中板301の上下にフランジ302が形成されている。そして、その横桁3の端部が図示するように、主桁2のウェブ201に突き当てられ、その突き当て部が溶接接続されている。
【0014】
こうした構造の橋梁1では、その上を車両が通過することによって繰り返し荷重が加わり、亀裂が生じる可能性があるのがこの接続箇所である。すなわち、主桁1のウェブ201は、横桁3の下フランジ302先端部分に応力が集中しやすく、亀裂が生じる可能性がある。そこで、下フランジ302の先端部分から発生する亀裂を確認できるように、疲労亀裂検出装置10が取り付けられている。なお、主桁1のウェブ201に対する横桁3の接続箇所は、橋梁1において複数箇所存在するため、それぞれの箇所において図2に示すような疲労亀裂検出装置10の設置が行われる。
【0015】
疲労亀裂検出装置10は、亀裂センサとしての破断検知線(以下、単に「検知線」という)11が、横桁3の下フランジ302に沿うようにして配置され、主桁1のウェブ201に対して接着剤19で固めるようにして貼り付けられている。そして、検知線11には、下フランジ302の下面に固定された検出装置本体12が接続されている。検出装置本体12内には、電源の他、検知線11の断線を検出して情報を伝達するための構成が設けられている。本実施形態では、橋梁1に対する各項目の目視点検に際し、この疲労亀裂検出装置10を介して断線情報を収集できるように構成されている。なお、疲労亀裂検出装置10に電気的ノイズが影響を与える場合が考えられるが、この影響には内部プログラムの工夫によって対応している。
【0016】
次に、図3は、疲労亀裂検出システムの一部を示したブロック図である。本実施形態の疲労亀裂検出装置10は、後述するように非接触型のICタグを使用したものであり、そのICタグとの送受信によって断線情報を収集できるように構成されている。
疲労亀裂検出装置10は、橋梁1などの被検査対象物Wに対し、亀裂Rの発生が予測される亀裂想定箇所に検知線11が固定される。図示するように、検知線11の往路と復路が平行になるようにして配線される。なお、図2に示す橋梁1の場合には、こうした検知線11が検出装置本体12から左右の2方向に別れ、コの字になるようにして配線されている。そして、検知線11は、接着剤によって被検査対象物Wに固めるようにして取り付けられるため、図3に示すようにその被検査対象物Wに亀裂Rが入ると、それが接着部分にも達して検知線11が断線してしまうこととなる。
【0017】
検出装置本体12には、検知線11の状態情報を記憶し、情報収集装置30との間で情報の送受信を行うICタグ13が設けられている。そのICタグ13は、情報の記憶や送受信などを制御するCPUからなる制御部21、断線情報を記憶するメモリ22、検知線11の断線による通電遮断状態を保持する自己保持回路23、そして無線送信するための送受信回路やアンテナからなる送受信部24を備え、それらが集積されたICチップによって形成されている。疲労亀裂検出装置10は、この制御部21を介して電源15から検知線11に対して電流が流され、その通電の遮断によって亀裂Rの発生と共に生じる検知線11の断線を検出するよう構成されている。
【0018】
疲労亀裂の初期段階では亀裂Rが極めて小さいため、橋梁1に車両による荷重のかかっていない状態では亀裂Rが閉じてしまい、検知線11の断線部分が接触して通電状態が復活してしまう。従って、荷重を受ければ亀裂部分が広がって通電遮断状態になるが、瞬間的にまた通電状態に戻るため、亀裂発生の確認が困難になる。従って、本実施形態では、一旦検知線11が断線したならば、その通電遮断状態を保持する自己保持回路23が設けられている。ただし、自己保持回路23がなくても初期段階の疲労亀裂が検出できるのであれば、自己保持回路23は必須の構成要件ではない。例えば、永久亀裂の発生の有無だけをを検出すればよい場合などである。
【0019】
また、検知線11は、ごみ等の衝突やその他の不具合で断線する場合があり得る。そのため、自己保持回路23を設けると、通電遮断状態が疲労亀裂によるものなのか、或いは不具合による断線なのかが判別できない。そこで、本実施形態では、断線検出プログラムを有し、断線が初期段階の疲労亀裂か、それ以外の不具合による単なる断線なのかを判別するようにした。単なる断線であれば、疲労亀裂が発生した場合と比べて急を要するものではないからである。判別は、自己保持回路23を一定時間間隔で切り換え、その通電状態をメモリ22に記憶することで、検出履歴を点検作業者が確認できるようにしている。情報収集装置30を使用した断線情報の収集については後述する。
【0020】
ところで装置本体12には、更に制御部21からの断線信号に従って断線情報を出力する表示部16が設けられているため、無線の不確実性を補完し、目視で断線情報を確認できる。この表示部16は、緑色と赤色の2色のLEDが設けられ、状況に応じて各LEDの点灯と消灯が制御部21によって切り替えられるように構成されている。すなわち、通常時には緑色LEDが電源15に接続されて点灯し、検知線11が断線した状態では赤色LEDが電源15に接続されて点灯するようになっている。一方、故障などによって電源15からの通電が遮断された場合には両方のLEDが消灯するようになっている。
【0021】
疲労亀裂検出装置10は、図2に示すように、検知線11は下フランジ7に沿って接着固定され、検出装置本体12が下フランジ7の下面に取り付けられる。このとき、疲労亀裂検出装置10は、表示部16のLEDによって亀裂が確認できるように構成されたものであるため、管理者が橋梁1の下から見てLEDの点滅が確認できるように検出装置本体12が取り付けられている。また、表示部16を検出装置本体12から分離した構成とし、表示部16だけを点検作業者にとって見やすい位置に設置するようにしてもよい。
【0022】
疲労亀裂検出装置10は、検知線11に電流を流し、表示部16のLEDを点灯させる電源15を備えている。この疲労亀裂検出装置10は、消費電力が少なく長期の使用が可能であるため、電源15としては乾電池やソーラーバッテリ、或いは小型風車などの使用が可能である。更に、乾電池やソーラーバッテリなどの他にも、圧電素子に衝撃を加えて起電力を得る発電装置を電源15として利用することも有効である。図4は、圧電素子を利用した発電装置を設置した橋梁の一部を示した斜視図である。
橋梁1は、前述したように、幅方向に複数並べられた主桁2が長手方向に配置され、隣り合う主桁2同士が不図示の横桁によって連結されている。そして、こうした桁上にはコンクリート版などのスラブ5が設けられている。
【0023】
主桁2は、橋脚6に対し、橋全体の重さが局部的にかからないように、荷重を分散させる目的で沓7が設けられている。橋脚6上に配置された複数の沓7には、薄板状の圧電素子部材が挟み込まれるようにして設置され、その圧電素子部材に対し充電器17を介して断線信号検出装置13などが接続される。従って、橋梁1の上を自動車が通過することによって振動が生じ、その振動が圧電素子部材に伝わり、圧電効果によって発生した電力が充電器17に蓄積される。そして、この充電器17に蓄積された電力が、前述した疲労亀裂検出に利用される。一般に、圧電素子による発電は非常に効率が悪いが、橋梁のような規模の大きな構造物で非常に大きな衝撃が作用する条件下では、常用電源となる発電装置として適当である。
【0024】
また、圧電素子を利用した発電装置は、沓7に構成する他、伸縮装置8やスラブ5に設けるようなものであってもよい。図示するような橋桁は、その前後の橋桁同士が温度によって伸び縮みするため遊間を設け、乗り心地や床版の保護のため伸縮装置8が設けられている。従って、この伸縮装置8に薄板状の圧電素子部材を設置し、車両の通過による衝撃によって発生する電力を充電器17に蓄積させるようにしてもよい。また、スラブ5には、そのコンクリート舗装に際して薄板状の圧電素子版9を内蔵するようにし、やはり車両の通過による衝撃によって発生する電力を充電器17に蓄積させるようにしてもよい。このように疲労亀裂検出システムに電源として圧電素子を利用した発電装置を設けることにより、電池交換の必要なく、永久的に稼働させることが可能になる。
【0025】
次に、本実施形態の疲労亀裂検出システムでは、複数の疲労亀裂検出装置10a〜10dについて断線情報の収集を行うための情報収集装置30が使用される。情報収集装置30は、モバイルPCや携帯情報端末(PDA)であり、図3に示すように、制御部31、ICタグ送受信部32、メモリ33、表示部34および操作部35が備えられている。制御部31は、CPUで構成されており、ICタグ送受信部32などの各部と接続され、疲労亀裂検出装置10からの情報収集の実行を制御する。
【0026】
ICタグ送受信部32は、疲労亀裂検出装置10の識別番号に対応したICタグ13の情報を受信し、それぞれの断線情報を取得するようにしたものである。操作部35は、情報収集装置30を操作するためのテンキーなどを備え、本実施形態では、疲労亀裂検出装置10の識別番号を入力することで、特定の疲労亀裂検出装置10の情報を表示するようにしている。表示部34は、液晶ディスプレイなどの表示装置であり、情報収集装置30の動作状態や、点検作業者へ操作入力画面、更にICタグ13から取得した情報などが表示される。なお、受信可能範囲であれば複数のICタグ13を一括して受信することも可能であり、その場合にはID番号によって識別が可能であり、点検確認作業の効率化が図られる。
【0027】
本実施形態の疲労亀裂検出システムでは、情報収集装置30によって収集した情報を管理所のパーソナルコンピュータ(管理PC)で一括管理ができるように構成されている。
情報収集装置30と管理PC40とは、図5に示すように、RS232 やUSBなどの伝送路41を介して接続され、情報通信が可能である。管理PC40は、CPUやROM及びRAMなどからなる制御部の他、ハードディスクやディスプレイ、或いはキーボードなどからなる通常のPCである。そして、特にこの管理PC40には、ROMに情報管理プログラムが格納されており、情報収集装置30によって収集した情報から管理ファイルを作成し、記憶部へ格納するように構成されている。
【0028】
続いて、疲労亀裂検出システムを使用した点検作業について説明する。図1に示すように、橋梁に対して設置された複数の疲労亀裂検出装置10a〜10dは、電源15から制御部21を介して検知線11に電流が常時流されている。そして、疲労亀裂検出装置10a〜10dのいずれかの箇所で疲労亀裂Rが発生すると、その部分に接着剤によって固着された検知線11も断線してしまう。疲労亀裂の初期段階では、断線した検知線11が接触して通電状態を復活させてしまうが、自己保持回路23が作動して通電遮断状態が維持される。
【0029】
ここで、図6は、疲労亀裂検出装置10で実行される断線検出プログラムのフローチャートを示した図である。検知線11には前述したように常時通電が行われ(S101)、断線が生じたか否かが確認されている(S102)。そして、断線がない場合には(S102:NO)、表示部16の緑色LEDへの通電によって点灯が行われる(S103)。一方、検知線11に断線が生じた場合には(S102:YES)、電気的ノイズの判別(S104)と、一定時間後に自己保持回路23を解除して通電状態に戻っているか否かの確認が行われる(S105)。疲労亀裂ではない電気的ノイズや不具合による単なる断線との違いを確認するためである。
【0030】
疲労亀裂検出装置10では、瞬間断線を検知するが、電気的ノイズとの判別が必要である。電気的ノイズは、非常に短い時間に発生することが実験的に分かっている。本実施形態では、断線検知後5ms後に通電を確認し(S104)、電気的ノイズを判別して除去することとしている。通電があった場合には(S104:YES)、電気的ノイズであって疲労亀裂ではないと判断し、表示部16の緑色LEDへの通電によって点灯が行われる(S103)。一方、通電がなかった場合には(S104:NO)、疲労亀裂あるいは不具合による断線が生じているものとして次のステップに進む。なお、具体的なノイズ発生源としては、強電磁石(磁粉探傷試験用)や高圧電線、パンタグラフ、スパークプラグなどが考えられる。
【0031】
ところで、疲労亀裂が生じた場合、橋梁1を列車や自動車などの車両が通過すると、荷重がかかって検知線11の断線部分が開いて判定できない。そこで、列車や自動車の通過時間を考慮した時間間隔Tを設定し、自己保持回路23での通電と遮断とを繰り返す。そこで、自己保持回路23を一定時間Tだけ解除しても通電状態に戻らなかった場合には(S105:NO)、不具合による単なる断線と判断され、その後の断線処理が行われる(S106)。すなわち、表示部16の緑色LED側の通電が遮断され、赤色LEDが通電状態に切り替えられる。そして、ICタグ13のメモリ22には、ID番号と時間Tの間の断線情報が記憶される。
【0032】
一方、自己保持回路23を解除することによって通電状態に戻った場合には(S105:YES)、疲労亀裂の初期段階であると考えられるため、通電状態の確認が複数回繰り返される。本実施形態では3回行われるため、回数が3回目であるか否かの確認が行われる(S107)。そこで、3回目でない場合には(S107:NO)、ステップS101,S102,S105,S107が繰り返される。
【0033】
断線が疲労亀裂によるものであれば、時間Tの間に通電状態が生じるため(S105:YES)、同じ処理が繰り返される。そして、断線後に3回目の通電が確認された場合には(S107:YES)、疲労亀裂であると判断され、その後の断線処理が行われる(S108)。すなわち、表示部16の緑色LED側の通電が遮断され、赤色LEDが通電状態に切り替えられる。そして、ICタグ13のメモリ22には、ID番号と断線と通電とを繰り返した断線情報が記憶される。なお、繰り返し回数や測定間隔(時間)に関しては、検出精度を向上すべく適用する構造物の荷重条件により適当に設定することができる。
【0034】
疲労亀裂検出装置10では、常時こうした疲労亀裂の確認が行われ、判断が生じた場合には、その状態を判断した情報がICタグ13に格納されている。そうした疲労亀裂検出装置10a〜10dが設置された橋梁1は、点検作業者によって定期的(例えば1日1回)に目視点検が行われている。作業点検者は、橋梁1のペンキの剥がれや床板や橋台のクラックなどの目視点検を行い、更に疲労亀裂については表示部16を確認する。例えば、赤色LEDが点灯していることを確認することで、断線が生じていることが分かる。
【0035】
その際、点検作業者は、目視点検とともに情報収集装置30を使用した断線情報の収集を行う。点検作業者は、検査対象物である橋梁1の桁下や橋の上に立ち、通信距離内にある疲労亀裂検出装置10a〜10dのICタグ13からメモリに記憶された断線情報を順次収集していく。このとき、点検作業者は、情報収集装置30の操作部35から識別番号を入力することで対象となる疲労亀裂検出装置10を特定し、その状態を画面に表示して確認できる。なお、複数のICタグ13との受信が可能な場合には、断線情報の一括収集が行われる。
【0036】
すなわち、疲労亀裂検出装置10から情報収集装置30へ情報が送られる。疲労亀裂検出装置10には、そのメモリ22に、自己(ICタグ13)を一意に識別するためのID(識別番号)と、前述したように検知線11に対する単なる断線か、疲労亀裂による断線であるかを示す断線情報が記憶されている。そのため、情報収集装置30は、疲労亀裂検出装置10の検知線11が断線していた場合には、そのID番号と断線情報が一緒に送信される。そして、ICタグ13では、こうした送信処理によってメモリ22内では当該データがリセットされる。
【0037】
更に、点検作業者は、次の疲労亀裂検出装置10におけるICタグ13と通信可能な位置に移動し、情報収集装置30の操作部35からID番号を入力してICタグ13の情報を確認していく。点検作業者による情報収集は、全ての疲労亀裂検出装置10に対して行われ、各ID番号と検知線11の断線情報が情報収集装置30のメモリ33に記憶される。情報収集時には、疲労亀裂検出装置10から送信された識別番号と断線情報は情報収集装置30の表示部34に表示されるため、点検作業者は、その表示部34の表示と橋梁に設置された表示部16のLEDの点灯から状況を把握することができる。
【0038】
点検作業者は、検査対象となっている他の橋梁についても全て回り、それぞれについて同じように決められた項目の目視点検と、情報収集装置30を使用した情報収集を行う。そして、管理所に戻った後は、情報収集装置30が管理PC40に接続され、メモリ22に格納された情報が吸い上げられ、管理PC40のメモリに格納される。そして、管理PC40では、情報管理プログラムによって収集した情報から管理表が作成され、それが管理ファイルとして格納される。将来的に、ICタグ13が発信する電波や疲労亀裂検出装置10の性能が向上すれば、点検作業員は車や列車に乗車したままICタグ13の状態を受信することができる。
【0039】
情報管理プログラムで作成する管理表には、橋梁名、当該橋梁内における疲労亀裂検出装置10の設置位置、その位置における検知線11の断線情報が表示される。断線情報は、検知線11が断線していなければ何のコメントも表示されないが、断線が生じている場合には、図6のステップS105で行った通電操作から得られた断線記録が表示され、単なる断線と疲労亀裂による断線との違いが分かるようになっている。点検結果情報としては、橋梁名、測定ポイント(ID)、断線情報の他に、測定時間、気温、測定者などの情報も同時に管理することが可能である。そして、点検結果の記録及び整理の効率化とともに、点検履歴から、アセットマネージメントにつながる効率的な維持管理計画の策定も可能になる。
【0040】
こうして、本実施形態の疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムでは、情報収集装置30を使用し、手間をかけることなく疲労亀裂に関する断線情報を収集することができるため、この情報収集作業を従来から行われている目視点検作業の一部に組み込むことができる。そして、複数の亀裂想定箇所に設置する疲労亀裂検出装置10および疲労亀裂検出システムは、数百メートルにも渡って検知線110を接着固定する従来のものに比べ、コストを大幅に抑えることができるようになった。特に、疲労亀裂検出装置10をICタグ13で構成することによってシステム全体を安価にしている。
【0041】
また、情報収集装置30によって収集した断線情報を管理PC40に移し、そこで作成した管理表を管理ファイルとして保存するようにしたので、情報管理を容易かつ確実に行うことができるようになり、そうした情報から目視だけではない疲労亀裂に対する客観的な判断ができるようになった。従って、例えば、経験の浅い点検員でも一定の精度で判定でき、また疲労亀裂の早期発見にもつながり、点検に対する品質の向上を図ることができた。その他、疲労亀裂に対する点検時間が短縮され、その点でもコストを低減できる。
【0042】
以上、本発明に係る疲労亀裂検出装置および疲労亀裂検出システムの一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
また、ICタグ13は、一定時間間隔で単方向発信するが、発信間隔を広げれば消費電力の節約ができる。そのため、疲労亀裂検出装置10の電源15に乾電池を使用するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、橋梁に生じる疲労亀裂の点検を例に挙げて説明したが、鉄塔やジェットコースターなどの構造物であってもよい。
【0043】
複数の送信型ICタグ(アクティブ型)による無線通信ネットワークを構築し、管理所からの一括監視が可能なシステム構築も可能になる。
また、本システムでは、ICタグは単方向型以外にも、情報収集装置がアクセスしたときだけ返信する双方向型のものであっても、適用する設備や環境条件に合わせて採用が可能である。
更に、亀裂の有無を確認するための表示は、LEDの他に、温度により変色する不可逆性のサーモペイントや、目印となるバーがICタグケースから突起するなど機械的な方法であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本実施形態の疲労亀裂検出システムについて概念的に示した図である。
【図2】疲労亀裂検出装置の具体的な設置状態を示した図である。
【図3】疲労亀裂検出システムの一部を示したブロック図である。
【図4】圧電素子を利用した発電装置を設置した橋梁の一部を示した斜視図である。
【図5】情報収集装置と管理PCとを示した図である。
【図6】疲労亀裂検出装置で実行される断線検出プログラムのフローチャートを示した図である。
【図7】従来の疲労亀裂検出システムが適用された橋の全体図である。
【符号の説明】
【0045】
1 橋梁
10 疲労亀裂検出装置
11 検知線
13 ICタグ
15 電源
16 表示部
21 制御部
22 メモリ
23 自己保持回路
24 送受信部
30 情報収集装置
40 管理PC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査対象物に存在する亀裂想定箇所に対して接着剤によって固定される検知線と、
前記検知線に通電する電源と、
予め設定されている識別情報を記憶部に記憶し、送受信部を介して行う前記識別情報の無線送信を制御部によって制御するICタグとを有し、
前記ICタグは、その制御部が前記検知線の通電遮断によって得られる断線情報を記憶部に記憶し、前記断線情報と識別情報とを無線送信するようにしたものであることを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載する疲労亀裂検出装置において、
前記ICタグは、前記検知線が切断された場合に、切断信号を自己保持する回路を有し、疲労亀裂を判別することを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載する疲労亀裂検出装置において、
前記制御部は、前記検知線の通電遮断を検出した後に、通電遮断状態で保持した前記自己保持回路を解除し、通電の有無を前記断線情報として前記記憶部に記憶するようにしたものであることを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載する疲労亀裂検出装置において、
前記断線情報を、断線と電気的ノイズに判別する判別回路を有することを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載する疲労亀裂検出装置において、
前記電源は、前記被検査対象物を移動体が通過する際に衝撃を受ける箇所に配置された圧電素子と、衝撃を受けた前記圧電素子から発生した電力を充電する充電器とを有するものであることを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する亀裂検出システムにおいて、
前記検知線の断線時に前記制御部によって発光で断線情報を示す表示部を有するものであることを特徴とする疲労亀裂検出装置。
【請求項7】
被検査対象物に存在する複数の亀裂想定箇所に対し、それぞれの亀裂想定箇所ごとに前記請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する前記疲労亀裂検出装置が設置され、
前記識別情報を入力することにより、複数存在する前記疲労亀裂検出装置の一と無線送信を可能とし、その疲労亀裂検出装置から受信した前記断線情報を記憶部に記憶するようにした可搬式情報収集装置を有するものであることを特徴とする疲労亀裂検出システム。
【請求項8】
請求項7に記載する疲労亀裂検出システムにおいて、
前記可搬式情報収集装置と接続して前記断線情報を記憶部に格納し、その断線情報に基づいて管理表を作成する演算処理装置を有するものであることを特徴とする疲労亀裂検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−103631(P2009−103631A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277192(P2007−277192)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004617)日本車輌製造株式会社 (722)
【Fターム(参考)】