説明

疲労亀裂進展抑制・防止方法

【課題】亀裂の進展抑制・防止のための作業労力及びコストを低減する事が出来る様な疲労亀裂進展抑制・防止方法の提供。
【解決手段】板状部材(1)に生じた疲労亀裂(2)の先端(21、22)を囲む様にストップホール(3)を穿孔する工程と、ストップホール(3)の近傍に円孔(付加円孔4)を穿孔する工程とを有し、該円孔(付加円孔4)はストップホール(3)と相互に干渉しあって応力低減効果をもたらす様な位置に穿孔されることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疲労亀裂が進展することを抑制・防止する技術に関する。より詳細には、本発明は、疲労亀裂が発生した場合に、亀裂の先端を囲むようにストップホールを穿孔して、亀裂の進展を抑制・防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼製橋梁(鋼橋)として、図9で示すような断面I形の鋼桁(例えば主桁11、横桁12等)を用いたタイプの橋梁が、非常に多く見受けられる。
係る鋼製橋梁は、工場で溶接により製造された部材を現場で組み立てて築造される。但し、一部では、施工現場で溶接が実施される。
ここで、疲労亀裂の殆どが、溶接された箇所から発生することが知られている。
【0003】
図10、図11は、板状部材1に板状の溶接部材9を溶接した状態を示している。
図10において、溶接部5から発生した疲労亀裂の先端部に、ストップホール3が穿孔されている。
疲労亀裂2は、溶接部5の止端部から発生しており、概略、板状部材1の幅方向(図10では左右方向)に、延在している。溶接部5の止端部は、図11において符号10で示されている。
係る疲労亀裂2の進展を抑制・防止するため、従来技術では、例えば図10で示すように、疲労亀裂2の先端21、22を囲むようにストップホール3を穿孔している。
【0004】
しかし、ストップホール3の形成は、応急措置であり、亀裂の進展量が大きい場合や一次応力(引張り応力)の影響を受ける場合には、従来から公知の他の手法と組み合わせなければならなかった。そして、他の手法と組み合わせる事により、亀裂の進展抑制・防止のための作業の労力やコストが嵩むという問題が存在する。
また、亀裂先端を完全に除去するために、ストップホールの穿孔位置を高精度に決定することが要求されるという問題も有している。
【0005】
その他の従来技術として、例えば、ストップホールに高力ボルトを挿入して、板材に締め付け固定する技術が提案されている(特許文献1参照)。
しかし、係る従来技術によれば、ストップホールの穿孔と高力ボルトの挿通、締め付けという作業が必要となり、亀裂の進展抑制・防止のための作業労力及びコストを低減する事が出来ない。
【特許文献1】特開2004−176254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、ストップホールを穿孔する疲労亀裂進展抑制・防止方法であって、亀裂の進展抑制・防止のための作業労力及びコストを低減する事が出来る様な疲労亀裂進展抑制・防止方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の疲労亀裂進展抑制・防止方法は、板状部材(1)に生じた疲労亀裂(2)の先端(21、22)を囲む様にストップホール(3)を穿孔する工程と、ストップホール(3)の近傍に円孔(付加円孔4)を穿孔する工程とを有し、該円孔(付加円孔4)はストップホール(3)と相互に干渉しあって応力低減効果をもたらす位置に穿孔されることを特徴としている(請求項1)。
【0008】
本発明において、疲労亀裂(2)は板状部材(1)の幅方向へ延在しており、ストップホール(3)を穿孔する工程では疲労亀裂(2)の両端(21、22)にストップホール(3)を穿孔して眼鏡形切欠き(30)を形成しており、(ストップホールの近傍に)円孔(付加円孔4)を穿孔するに際して円孔(付加円孔4)の内径寸法(M)がストップホール(3)の内径寸法(M)と等しいのが好ましい(請求項2)。
【0009】
ここで本発明において、板状部材(1)の幅寸法をW、眼鏡形切欠き(30)の幅方向寸法をC、ストップホール(3)の内径寸法をM、リガメント長さ(板状部材の切欠きが形成されていない領域の幅方向寸法:ここで言う「切欠き」は、ストップホール3及び付加円孔4を含む)をB(B=W−C)として、眼鏡形切欠き(30)の中心を原点(0,0)とすると、前記円孔(4)の中心位置の幅方向軸(X軸)における座標X0は、(X0を絶対値で表示した場合に)
0≦X0≦(C−M)/2
なる不等式で示され、幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0は、(Y0を絶対値で表示した場合に)
M≦Y0
なる不等式で示されるのが好ましい(請求項3)。
【0010】
そして本発明において、板状部材(1)の幅寸法をW、眼鏡形切欠き(30)の幅方向寸法をC、ストップホール(3)の内径寸法をM、リガメント長さをB(B=W−C)として、眼鏡形切欠き(30)の中心を原点(0,0)とすると、前記円孔(4)の中心位置の幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0が(絶対値で表示した場合に)Y0≧1.23Mの場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は(X0を絶対値で表示した場合に)
X0=(C−M)/2
なる式で示され、幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0が(絶対値で表示した場合に)M≦Y0<1.23Mの場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は(X0を絶対値で表示した場合に)
X0/M=0.8655Y−1.5517Y+2.099
但し、Y=Y0/M
なる式で示されるのが好ましい(請求項4)。
【0011】
或いは本発明において、板状部材(1)の幅寸法をW、眼鏡形切欠き(30)の幅方向寸法をC、ストップホール(3)の内径寸法をM、リガメント長さをB(B=W−C)として、眼鏡形切欠き(30)の中心を原点(0,0)とすると、前記円孔(4)の中心位置の幅方向軸(X軸)における座標X0は(X0を絶対値で表示した場合に)
X0=(C−M)/2
なる式で示され、幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0は
Y0=1.10M
なる式で示されるのが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
上述する構成を具備する本発明によれば、疲労亀裂(2)の先端(21、22)にストップホール(3)を形成する際に、円孔(付加円孔4)を穿孔するのみで、ストップホール(3)における応力を軽減して、疲労亀裂(2)の進展を抑制・防止する事が出来る。
そのため、施工性が良好であり、作業労力やコストを抑える事が可能である。
【0013】
また、(請求項2〜5に係る)本発明によれば、板状部材(1)の幅寸法(W)、眼鏡形切欠き(30)の幅方向寸法(C)、ストップホール(3)及び円孔(付加円孔4)の内径寸法(M)を適宜設定することにより、応力低減率が高く、引張り荷重に対する悪影響を及ぼさない位置を特定する事が可能である。
そのため、工事全体のコストを低く抑えると共に、疲労亀裂(2)の弊害を確実に抑制・防止することが出来る。
【0014】
さらに本発明によれば、鋼製橋梁(鋼橋)のみならず、種々の建材に疲労亀裂が発生した場合についても、本発明の疲労亀裂進展抑制・防止方法を適用する事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は板状部材1に疲労亀裂2が発生した状態(図10参照)を示している。
図1において、疲労亀裂2は、板状部材1の幅方向(矢印WD方向:図1では左右方向)に、延在している。図示の簡略化のため、図1では、疲労亀裂2は板状部材1の幅方向WDに直線的に延在する切欠きとして表示されている。
【0016】
板状部材1には、疲労亀裂2の先端21、22を囲む様に、ストップホール3が穿孔されている。図1では、ストップホール3は疲労亀裂2の両端(21、22)に穿孔されている。
それと共に、ストップホール3の近傍には、付加円孔4が合計4箇所に穿孔されている。
詳細は後述するが、付加円孔4は、その近傍のストップホール3と相互に干渉しあって、応力低減効果をもたらす様な位置に穿孔されている。そのため、ストップホール3における応力集中は緩和され、ストップホールから新たな疲労亀裂の発生・進展が抑制・防止される。
図1において、符号Pは、板状部材1に作用する荷重(引張り荷重)を示している。
【0017】
図1において、板状部材1の幅方向WDへ延在している疲労亀裂2と、その両端(21、22)に穿孔されたストップホール3、3は、全体的に眼鏡の様な形状をしている。
そのため、本明細書及び特許請求の範囲では、疲労亀裂2及び両端のストップホール3、3を、「眼鏡形切欠き(30)」と総称している。
図示の実施形態において、ストップホール3の内径寸法(符号Mで示す:図3参照)と、その近傍に穿孔された付加円孔4の内径寸法(M)とは等しい。ストップホール3の内径寸法(M)と付加円孔4の内径寸法(M)とを等しくすれば、ストップホール3の穿孔用工具と、付加円孔4の穿孔用工具とを共通化することが出来るので、作業の効率化が図られる。
【0018】
図1及び図2を参照して、付加円孔4の位置に関する一つの条件について、説明する。
図1において、ストップホール3の左右方向(中心軸Ch方向)外側の接線が、符号K1(図1の左側の接線)、K2(図1の右側の接線)で示されている。そして、左右の付加円孔4も、その左右方向外縁部4eが、各々、接線K1、K2の何れかと接している。
付加円孔4の位置に関する一つの条件は、ストップホール3よりも、図1の左右方向外側の領域には穿孔されない、ということである。換言すれば、付加円孔4は、ストップホール3の左右方向外側の接線K1、K2よりも、図1の左右方向内方の領域(接線K1、K2間の領域)に穿孔或いは形成される、ということである。
係る条件について、図2をも参照して、説明する。
【0019】
図2は、付加円孔4が、ストップホール3よりも、左右方向(中心軸Ch方向)外側の領域に形成された状態が示されている。
図2では、付加円孔4の左右方向外側の接線が、符号L1(左側の接線)、L2(右側の接線)で示されている。そして、ストップホール3は、接線L1、L2よりも左右方向内側に穿孔され、相対的には、付加円孔4はストップホール3よりも左右方向外側に形成されている。
【0020】
図1において、(板状部材1における)切欠き(眼鏡形切欠き:付加円孔4も含む)30が形成されていない領域の幅方向寸法の合計(リガメント長さ)が、符号Bで示されている。図1の場合、リガメント長さBは、板状部材1の幅寸法Wと、眼鏡形切欠き30の幅方向寸法Cとの差である(B=W−C)。
そして、板状部材1における図示しない板厚寸法(図1の紙面に垂直な方向の寸法)と、リガメント長さBとの積が、板状部材1に作用する引張り荷重Pが作用する断面積である。
【0021】
図2で示すように、付加円孔4をストップホール3よりも左右方向外側に形成すると、リガメント長さbは、付加円孔4がストップホール3よりも左右方向外側に存在する分だけ、図1におけるリガメント長さBよりも短くなる。
図1と図2において、図示しない板状部材1の板厚寸法が同一であれば、図2のリガメント長さbが(図1のリガメント長さBよりも)短い分だけ、(図2において)引張り荷重Pが作用する断面積も減少し、引張り応力が増加する。その結果、板状部材1が支持出来る引張り荷重が小さくなってしまう。もちろん、繰り返し荷重に対する耐力(疲労強度)も減少してしまう。
すなわち、リガメント長さB(引張り荷重Pが作用する断面積)を減少させないために、付加円孔4は、ストップホール3よりも、左右方向(中心軸Ch方向)内側の領域に形成されるのである。
【0022】
図1において、垂直方向中心軸Cvの右側の領域で、且つ、水平方向中心軸Chの上側の領域が、図3において拡大して示されている。換言すれば、図3は図1で示す眼鏡形切欠きの1/4を包含する領域のみを示している。
【0023】
付加円孔4を穿孔する位置を定義するのに際して、発明者は、BEM(境界要素法:或いは境界積分方程式法)により、解析を行った。
図1で示すように、疲労亀裂2及びストップホール3から成る眼鏡形切欠き30は、垂直方向中心軸Cv及び水平方向中心軸Chについて対象であり、係る対象性を考慮して、図1で示す眼鏡形切欠きの1/4を包含する領域について、BEMによる解析を行った。
なお、発明者が別途検証した結果(当該検証結果について、本明細書及び図面では示していない)、BEMによる数値解析の結果と理論解との誤差は3%程度であり、BEMによる解析は実用上十分な精度を有している事が判明している。
【0024】
次に、図1及び図3を参照して、付加円孔4の位置に関する条件を詳細に説明する。
図1、図2において、付加円孔4は、ストップホール3よりも、左右方向(中心軸Ch方向)内側の領域に形成される旨を説明した。係る条件を、図1及び図3を参照して、各種数値を用いて説明する。
【0025】
図3において、ストップホール3及び付加円孔4の内径寸法が、符号Mで示されている。
図3では、亀裂2とストップホール3から成る眼鏡形切欠き30の中心が原点O(0、0)となっており、原点O(0、0)は、垂直方向中心軸Cvと水平方向中心軸Chとの交点である。
付加円孔4の中心位置は、その水平方向中心軸Ch(X軸)における座標が符号X0、垂直方向中心軸Cv(Y軸)における座標がY0で示されている。
【0026】
付加円孔4が、ストップホール3よりも、左右方向(中心軸Ch方向)内側の領域に形成されるということは、付加円孔4が左右方向で最も外方の位置に形成されるのは、図1及び図3で示すように、ストップホール3と付加円孔4とが共通の接線K1、K2(図3であればK2)に接しているという事である。
その様な場合において、付加円孔4の中心軸Ch(左右方向:X軸)の座標X0は、接線K2の中心軸Ch(左右方向:X軸)の座標がC/2(Cは眼鏡形切欠きの中心軸Ch向寸法)であり、座標X0は接線K2よりも内径Mの1/2だけ原点(0、0)側の位置であるので、
X0=C/2−M/2=(C−M)/2
となる。
【0027】
図3において、座標X0は正の値であり、0≦X0である。そして、上述した様に、X0=(C−M)/2は座標X0が最も外側、すなわち最大値の場合であるため、座標X0は 0≦X0≦(C−M)/2 なる不等式で示される。
【0028】
ここで、図3では、図1における垂直方向中心軸Cvの右側の領域を示しており、垂直方向中心軸Cvの左側の領域については示されていない。
図1から明らかな様に、垂直方向中心軸Cvの左側の領域においてもストップホール3及び付加円孔4が形成されている。
垂直方向中心軸Cvの左側の領域は、(垂直方向中心軸Cvに対して)図3で示すのとは対称(線対称)となる。
但し、垂直方向中心軸Cvの左側の領域において、水平方向中心軸Ch(X軸)における座標X0は、絶対値が同一であるが、負号が付く。そのため、図1で示すように、左右両側の付加円孔4を考えた場合には、垂直方向中心軸Cvの左側の領域では、座標X0の数値は絶対値で考えなければならない。
【0029】
図3を参照して、付加円孔4の垂直方向中心軸Cv(Y軸)における座標Y0について、説明する。
図3において、付加円孔4の中心の座標Y0が小さいと、付加円孔4は水平方向中心軸Chに近づくため、付加円孔4とストップホール3とが部分的に重複(或いは干渉)してしまう。
そして、付加円孔4とストップホール3とが部分的に重複した場合には、切欠きを形成する領域の形状が複雑となるとともに、干渉効果が低減し、ストップホール3の先端における応力集中の低減或いは緩和の効果が減少する。
【0030】
付加円孔4とストップホール3とが部分的に重複しないようにするためには、付加円孔4の中心の座標Y0が、水平方向中心軸Chよりも、内径寸法M(ストップホール3の半径寸法M/2と、付加円孔4の半径寸法M/2との和)だけ離れていれば良い。
すなわち、亀裂2の左右両側について考慮する場合、付加円孔4の中心の座標Y0が M≦Y0 であれば良い。
【0031】
ここで、図3では、図1における水平方向中心軸Chの上側の領域を示しており、水平方向中心軸Chの下側の領域については示されていない。
図1から明らかな様に、垂直方向中心軸Cvの下側の領域においても付加円孔4が形成されている。
垂直方向中心軸Cvの下側の領域も、図3で示す状態に対して、水平方向中心軸Chについて対称(線対称)となる。但し、垂直方向中心軸Cvの下側の領域において、垂直方向中心軸Cv(Y軸)の座標Y0は、絶対値が同一であるが、負号が付く。そのため、図1で示すように、亀裂2の上下両側の付加円孔4について考える場合には、座標Y0の数値は、絶対値で考えなければならない。
【0032】
係る内容をまとめると、付加円孔4の中心点の水平方向中心軸Ch(X軸)の座標X0と、垂直方向中心軸Cv(Y軸)の座標Y0は、絶対値では、請求項3で示すように、
0≦X0≦(C−M)/2
M≦Y0
という2つの条件を満たす必要がある。係る2つの条件を、以下、「条件1」と記載する。
【0033】
ここで、付加円孔4の中心座標(X0,Y0)を特定するに際しては、以下の内容を考慮するべきである。
水平方向軸Ch(X軸)の座標X0が小さ過ぎると、付加円孔4を形成した場合における応力低減率が大幅に減少する。
座標X0が大き過ぎると、図1及び図2を参照して説明したのと同様に、リガメント長さB(引張り荷重Pが作用する断面積)が減少し、引張り荷重や繰り返し荷重に対する強度が低下する。
垂直方向軸Cv(Y軸)の座標Y0が小さ過ぎると、図3を参照して上述したように、付加円孔4とストップホール3とが部分的に重複し、応力集中を低減或いは緩和する効果が小さくなる。
座標Y0が大き過ぎると、付加円孔4を形成した場合における応力低減率が大幅に減少する。
【0034】
発明者は、幅寸法(W)が40mmの板状部材について、M=5mm、C=20mmという条件下で、図3で示す付加円孔4の中心(X0、Y0)において、X0=5.0mm、5.5mm、6.0mm、6.5mm、7.0mm、7.5mm、8.0mmの7ケース、Y0=6.0mm、6.5mm、7.0mmの3ケースについて、解析を行った。
解析の結果を図4〜図6で示す。図4〜図6で、横軸はX0座標を示している。
【0035】
図4〜図6において、「●」(黒い円形)で示すプロットは、付加円孔4を形成しない場合におけるストップホール3の壁面の応力(簡便化のため、切欠き先端から1mm離れた位置の応力)σと、付加円孔4を形成した場合におけるストップホール3の壁面の応力との比を、応力低減率として表現している。
また、「■」(黒い正方形)で示すプロットは、付加円孔4の壁面の応力をσで除し、見掛け上、応力低減率の形で整理したものである。
図4〜図6において、応力低減が最適となるのは、「●」(黒い円形)で示すプロットの特性曲線と、「■」(黒い正方形)で示すプロットの特性曲線とが交差する箇所である。
【0036】
図4〜図6に示す事例に、Y0=5.5mm、7.5mmの事例を加え、「●」(黒い円形)で示すデータと、「■」(黒い正方形)で示すデータをそれぞれ最小二乗近似した近似曲線の交点を整理して、応力低減が最適となる座標X0の軌跡を示すのが、図7である。
同様に、応力低減率rに関して整理して、座標Y0と、(応力低減が最適となる座標X0における)応力低減率との関係を示すのが図8である。
【0037】
条件1を考慮すれば、 0mm≦X0≦7.5mm 5.0mm(M)≦Y0 となる。
図7を参照すれば、X0=7.5mmとなるY0の値は、Y0=6.152mm(=1.23M)となる。
図8で示すように、Y0≦6.152mmであれば、応力低減率は0.2以上である。一方、Y0>6.152mmであれば、応力低減率は0.2以下となる。
図7及び図8を参照すれば、X0の数値の変動に対して、応力低減率の変化は非常に緩やかである事が理解される。
【0038】
ストップホール3は、ボルト孔の径と対応させる場合が多く、一般には、M22ボルトの径(24.5mm)や、M24ボルトの径(26.5mm)とする事例が多い。
係る事例に対して、図4〜図8で結果を示す解析では、ストップホール3(及び付加円孔4)の内径寸法(M)の5mmは、小さ過ぎる様にも思える。
【0039】
しかし、応力集中係数や応力低減率については、部材(板状部材1)の長さ方向や幅方向の影響が小さい。そして、図4〜図6で示す解析を行うにあたっては、切欠きに対して十分に長い部材を取り扱っている。
また、有限幅の影響を加味した取扱いを行うことにより、切欠き比が同じであれば、長さ×幅については、寸法が異なっていても、同じ結論が得られることが知られている。
従って、ストップホール3及び付加円孔4の内径寸法を5mmと設定した解析結果(図4〜図6)は、M=24.5mm、26.5mmの場合についても、適用可能である。
【0040】
板厚については、ストップホールの効果に関する過去の研究結果から、ストップホール厚さ方向の中心部における代表値を用いる事により、板厚が相違しても、解析結果については、影響をあまり受けない事が確認されている。
【0041】
図4〜図6に示す事例に、Y0=5.5mm、7.5mmの事例を加え、「●」(黒い円形)で示すデータと、「■」(黒い正方形)で示すデータをそれぞれ最小二乗近似した近似曲線の交点を整理すれば、Y0≧1.23Mの場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は X0=(C−M)/2 となる。図7、図8を参照して前述した数値では、Y0=6.152mm以上であれば、X0=7.5mmとなる。
座標Y0が M≦Y0<1.23M (図7、図8を参照して前述した数値では、5mm≦Y0<6.152mm) の場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は
X0/M=0.8655Y−1.5517Y+2.099
但し、Y=Y0/M
なる式で示される。
【0042】
図4〜図8を参照して説明した上述の内容をまとめると、条件1を充足しているという前提では、請求項4で示すように、Y0≧1.23Mの場合には、X0=(C−M)/2 となる。
一方、M≦Y0<1.23Mの場合には、X0/M=0.8655Y−1.5517Y+2.099(但し、Y=Y0/M)となる。
係る条件を、以下、「条件2」と記載する。
【0043】
図4〜図6に示す事例に、Y0=5.5mm、7.5mmの事例を加え、「●」(黒い円形)で示すデータと、「■」(黒い正方形)で示すデータをそれぞれ最小二乗近似した近似曲線の交点を整理すると、付加円孔4を形成した場合における応力低減率rは、
r=−0.265Y+0.555Y−0.0782(但し、Y=Y0/M)
となる。
【0044】
上述した通り、図7及び図8を参照すれば、X0の数値の変動に対して、応力低減率の変化は非常に緩やかである事が理解される。
そして、X0の範囲は、X0=(C−M)/2を大きく外れるものではない。
そのため、実用に際しては、X0=(C−M)/2とみなしても差し支えないと考えられる。
【0045】
Y0については、上述した応力低減率rの式では、Y=1.05(Y0=1.05M)において、応力低減率rは最大値r=0.212となる。
ここで、上述した通り、応力低減率rの変化は非常に緩やかであり、Y=1.10として上述した応力低減率rの式で計算すれば、応力低減率r=0.212となる。そして、付加円孔4を板状部材1に穿孔する際の作業性の観点からは、Y0の値は大きいことが好ましい。
【0046】
これ等の事項を考慮すれば、請求項5で示すように、付加円孔4の中心座標(X0,Y0)は、 X0=(C−M)/2 Y0=1.10M なる式で決定する事が好ましい。
係る条件を、以下、「条件3」と表示する。
【0047】
実際の施工に際しては、板状部材1である鋼桁の幅寸法W、疲労亀裂2を含む切欠きの幅方向寸法C、ストップホール3の内径寸法Mを決定し、上述した条件1から条件3において、付加円孔4の穿孔に最も適した条件を選択し、選択された条件に従って、付加円孔4の中心座標を決定し、決定された位置に付加円孔4を穿孔する。
【0048】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではない旨を付記する。
例えば、図1、図3において、付加円孔4は疲労亀裂2両端のストップホール3における上下両側に設けられているが、上下の何れか一方に設けても良い。
また、ストップホール3は、疲労亀裂2の位置によっては、一端側にのみ設けても良い。その場合には、付加円孔4もストップホール3を形成した側にのみ穿孔される。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施形態を示す施工状態図。
【図2】最良の条件ではない施工を示す施工状態図。
【図3】図1の部分拡大図。
【図4】付加円孔のY座標を6.0mmとした場合におけるX座標と応力低減率の関係を示す図。
【図5】付加円孔のY座標を6.5mmとした場合におけるX座標と応力低減率の関係を示す図。
【図6】付加円孔のY座標を7.0mmとした場合におけるX座標と応力低減率の関係を示す図。
【図7】応力低減率を最大にする付加円孔の座標の軌跡を示す図。
【図8】応力低減率が最適となるX座標におけるY座標と応力低減率との関係を示す図。
【図9】橋梁の斜視図。
【図10】疲労亀裂進展抑制・防止工事の施工箇所の拡大図。
【図11】図10を横方向から見た拡大側面図。
【符号の説明】
【0050】
1・・・板状部材
2・・・疲労亀裂
3・・・ストップホール
4・・・円孔/付加円孔
30・・・眼鏡形切欠き
B・・・リガメント長さ
C・・・眼鏡形切欠きの幅方向寸法
Ch・・・水平方向中心軸
Cv・・・垂直方向中心軸
M・・・ストップホール及び付加円孔の内径寸法
K1、K2・・・ストップホールの左右方向外側の接線
L1、L2・・・付加円孔の左右方向外側の接線
X0・・・水平方向中心軸における座標
Y0・・・垂直方向中心軸における座標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材に生じた疲労亀裂の先端を囲む様にストップホールを穿孔する工程と、ストップホールの近傍に円孔を穿孔する工程とを有し、該円孔はストップホールと相互に干渉しあって応力低減効果をもたらす位置に穿孔されることを特徴とする疲労亀裂進展抑制・防止方法。
【請求項2】
疲労亀裂は板状部材の幅方向へ延在しており、ストップホールを穿孔する工程では疲労亀裂の両端にストップホールを穿孔して眼鏡形切欠きを形成しており、円孔を穿孔するに際して円孔の内径寸法がストップホールの内径寸法と等しい請求項1の疲労亀裂進展抑制・防止方法。
【請求項3】
板状部材の幅寸法をW、眼鏡形切欠きの幅方向寸法をC、ストップホールの内径寸法をM、リガメント長さをBとして、切欠きの中心を原点とすると、前記円孔の中心位置の幅方向軸における座標X0は
0≦X0≦(C−M)/2
なる不等式で示され、幅方向軸と直交する軸における座標Y0は、
M≦Y0
なる不等式で示される請求項2の疲労亀裂進展抑制・防止方法。
【請求項4】
板状部材の幅寸法をW、眼鏡形切欠きの幅方向寸法をC、ストップホールの内径寸法をM、リガメント長さをBとして、切欠きの中心を原点とすると、前記円孔の中心位置の幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0がY0≧1.23Mの場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は
X0=(C−M)/2
なる式で示され、幅方向軸(X軸)と直交する軸(Y軸)における座標Y0がM≦Y0<1.23Mの場合には、幅方向軸(X軸)における座標X0は
X0/M=0.8655Y−1.5517Y+2.099
但し、Y=Y0/M
なる式で示される請求項2の疲労亀裂進展抑制・防止方法。
【請求項5】
板状部材の幅寸法をW、眼鏡形切欠きの幅方向寸法をC、ストップホールの内径寸法をM、リガメント長さをBとして、眼鏡形切欠きの中心を原点とすると、前記円孔の中心位置の幅方向軸(X軸)における座標X0は
X0=(C−M)/2
なる式で示され、幅方向軸と直交する軸における座標Y0は
Y0=1.10M
なる式で示される請求項2の疲労亀裂進展抑制・防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−102961(P2009−102961A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−278276(P2007−278276)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年9月1日 社団法人 土木学会発行の「第62回年次学術講演会講演概要集(CD−ROM)」に発表
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【Fターム(参考)】